説明

ダストカバー

【課題】熱可塑性エラストマーを用いて成形されたダストカバーであって、補強部材として樹脂を用いた場合にあっても熱可塑性エラストマーおよび補強部材とが有効に接着されたものを提供する。
【解決手段】ポリアミド樹脂と架橋アクリルゴムよりなるアクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマーを用いて成形されたダストカバー。アクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマーとしては、アクリルゴムを動的架橋することによってゴムをポリアミド樹脂中に分散させたもの、好ましくはポリアミド樹脂とアクリルゴムとが共有結合性架橋したものが用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダストカバーに関する。さらに詳しくは、熱可塑性エラストマーを用いて成形されたダストカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に用いられているダストカバーを、図1を用いて説明する。ダストカバー1は柔軟材料および補強部材とで構成され、柔軟材料は膜部4にて屈曲機能を、また動的シール部となる嵌合部3および静的シール部となる嵌合部5にてシール機能を発現する。嵌合部3は補強部材2を内包しており、また嵌合部5は外径部から金属環によりカシメられている。この断面図に示されるような内部に補強部材を有するダストカバーにあっては、シール性を維持しつつ耐久性を向上させるため、補強部材と周囲の柔軟材料とを強固に接合させるためにこれらを接着する必要がある。
【0003】
ここで柔軟材料としては、加硫ゴムあるいは熱可塑性エラストマー(TPE)などが使用され、補強部材には金属あるいは高強度の樹脂などが使用されるが、近年の自動車部品のリサイクル率をさらに向上させるために、柔軟材料として加硫ゴムから熱可塑性エラストマーへの代替、また補強部材として金属から樹脂への変換が図られている。
【0004】
しかるに、樹脂を補強部材とする場合には、TPEをインサート成形または2色成形する必要があるものの、成形時に樹脂とTPEとを接着するのは非常に困難であり、TPEを用いたダストカバーを商品化するに当っての障害となっていた。
【特許文献1】特公平6−45743号公報
【特許文献2】特開平8−28547号公報
【特許文献3】特開平10−205524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、熱可塑性エラストマーを用いて成形されたダストカバーであって、補強部材として樹脂を用いた場合にあっても熱可塑性エラストマーおよび補強部材とが有効に接着されたものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる本発明の目的は、ポリアミド樹脂と架橋アクリルゴムよりなるアクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマーを用いて成形されたダストカバーによって達成される。アクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマーとしては、アクリルゴムを動的架橋することによってゴムをポリアミド樹脂中に分散させたもの、好ましくはポリアミド樹脂とアクリルゴムとが共有結合性架橋したものが用いられる。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るダストカバーは、補強部材として樹脂を用いた場合にあっても熱可塑性エラストマーおよび補強部材とが有効に接着されるため、その成形を容易に行うことができるといったすぐれた効果を奏する。かかるダストカバーは、熱可塑性エラストマーの材料特性により、良好な低温および高温耐久性、耐グリース性、耐油性、成形加工性、耐屈曲性、耐亀裂成長性、耐圧縮永久歪特性、耐候性、耐オゾン性等の点でも満足される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いられる架橋アクリルゴムを分散させたポリアミド系熱可塑性エラストマー(アクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマー)としては、好ましくは架橋剤によってアクリルゴムを動的架橋することによって、ポリアミド樹脂中にゴムが分散されたもの、より好ましくはポリアミド樹脂とアクリルゴムとが共有結合性架橋したものが用いられる。
【0009】
ポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂と架橋アクリルゴムとの総量中20〜60重量%、好ましくは20〜55重量%の割合で用いられる。ポリアミド樹脂がこれより多い割合で用いられると、硬度が高くなりエラストマー性が失われるようになり、一方これより少ない割合で用いられると、熱可塑性が失われるようになる。
【0010】
ポリアミド樹脂としては、ナイロン樹脂、例えばナイロン3、ナイロン4、ナイロン6、ナイロン7、ナイロン8、ナイロン4 2、ナイロン4 6、ナイロン6 6、ナイロン6 9、ナイロン6 10、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6 66(カプロラクタム-ヘキサメチレンアジパアミド共重合体)等の軟化点もしくは融点が160℃〜280℃の樹脂の単独、混合物または共重合体を使用することができる。
【0011】
共有結合性架橋されるアクリルゴムとしては、前記特許文献2〜3に記載される如く、ポリアミド樹脂との共有結合性架橋が約100〜350℃、好ましくは約150〜300℃、より好ましくは約180〜280℃の加熱条件下での動的架橋によって行われるため、耐熱性にすぐれたα-オレフィン-アルキル(メタ)アクリレート共重合体ゴムが好んで用いられる。また、耐油性を重視してアルキル(メタ)アクリレートやアルコキシアルキル(メタ)アクリレートの単独重合体または共重合体、これらとα-オレフィンとの共重合体、さらにはこれらの各種重合体のポリマーブレンド物等も適宜用いられる。
【0012】
α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン-1、イソブチレン、ペンテン、ヘプテン、オクテン、デセン、ドデセン等のC2〜C12のα-オレフィンが用いられ、好ましくはC2〜C4のα-オレフィンが用いられる。また、アルキル(メタ)アクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、第3ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート等のC1〜C12のアルキル基、好ましくはC1〜C4のアルキル基を有するアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、第3ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等のC1〜C12のアルキル基、好ましくはC1〜C4のアルキル基を有するメタクリレートが用いられる。アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、メトキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、メトキシブチルアクリレート、エトキシブチルアクリレート、メトキシエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、メトキシブチルメタクリレート、エトキシブチルメタクリレート等のC1〜C2のアルコキシル基とC2〜C4のアルキル基を有するアルコキシアルキル(メタ)アクリレートが用いられる。
【0013】
これらの共重合体中には、さらにカルボキシル基、水酸基、塩素基、エポキシ基、ジエン基、イソシアネート基、アミン基、アミド基、オキサゾリン基等を有する架橋性基含有(メタ)アクリレートを共重合させることが好ましく、かかる架橋性基含有(メタ)アクリレートとしては、一般的にアルキル(メタ)アクリレート(およびアルコキシアルキル(メタ)アクリレート)を主成分とするアクリルゴムに用いられているものがそのまま用いられる。
【0014】
このような架橋性基含有(メタ)アクリレートをさらに共重合させたα-オレフィン-アルキル(メタ)アクリレート共重合体ゴムの場合には、α-オレフィンを10〜69.9モル%、アルキル(メタ)アクリレートを29.6〜89.5モル%、また架橋性基含有(メタ)アクリレートを0.5〜10モル%共重合させた組成を有するものが用いられ、かかる共重合体は本質的に非結晶性で、ガラス転移温度Tgが室温以下である。また、このようなアクリルゴム共重合体の例は、下記非特許文献1にも記載されている。また、アルコキシアルキル(メタ)アクリレート共重合体に関しては、架橋性基含有(メタ)アクリレートが0.5〜10モル%で、残りがアルキル(メタ)アクリレートとアルコキシアルキル(メタ)アクリレートの任意の共重合組成を有するものが用いられる。さらに、エチレン-マレイン酸モノアルキルエステル共重合体等を用いることもできる。
【非特許文献1】Rubber World Blue Book 第393〜4頁(1987)
【0015】
ポリアミド樹脂とアクリルゴム共重合体との共有結合性架橋は、アクリルゴム共重合体中の架橋性基の種類に応じた架橋剤、例えばポリオール、ポリアミン、ポリイソシアネート、エポキシ基含有化合物等の存在下に、前記温度でポリアミド樹脂とアクリルゴム共重合体を溶融混合する動的架橋方法、一般には二軸混練機で素練りしながら架橋剤を添加する方法によって行われる。このような動的加硫以外の架橋方法としては、例えばポリアミド樹脂を加えないで、アクリルゴムを動的または静的のいずれかの方法で十分加硫した後粉砕し、次いでポリアミド樹脂の融点または軟化点以上の温度で、ポリアミド樹脂と混合する方法などが挙げられる。
【0016】
このようにして得られたアクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、例えばこれのプレスフィルム(厚さ約0.2mm)をジクロロメタン、トルエン、テトラヒドロフラン等の有機溶媒中に48時間浸漬したとき、それの50%以上、好ましくは30%以上が抽出されない程度の架橋密度を有している。また、このアクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマー中には、フタル酸エステル、リン酸エステルあるいはカーボンブラック、シリカ等の一般に用いられている可塑剤または充填剤を添加して用いることもできる。
【0017】
かかるアクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマーは、前述の方法により製造することが可能である。また、同一の系でアクリルゴムとポリアミドとの共有結合性架橋のみがなされていないタイプのものは、市販品、例えばZEON CHEMICALS社製品Zeothermシリーズ等をそのまま使用することができる。
【0018】
本発明の組成物には、各種の添加剤、例えば酸化防止剤、安定剤、粘着付与剤、離型剤、顔料、難燃化剤等を添加することができる。更に、強度、剛性の向上のため、微粒子状の補強成分や短繊維等を添加することもできる。
【0019】
アクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマー組成物の調製は、公知の混合方法、例えば二軸押出機、ブレンダ、ヘンシェルミキサ、単軸押出機、ロール、バンバリーミキサ、ニーダ等を用いて混合することによって行われる。
【0020】
一方、補強部材に用いられる樹脂としては、好ましくはポリアミド樹脂、具体的には熱可塑性エラストマーで例示したものと同様の各種ナイロン樹脂が用いられる。
【0021】
ポリアミド製補強部材およびアクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマーのダストカバーへの成形は、インサート成形により行われる。インサート成形は、通常の樹脂同士のインサート成形と同様に行うことができ、補強部材用のポリアミド製リングを射出成形等の方法により成形した後、ダストカバー成形用金型内に設置し、アクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマーが同金型内にて射出成形などの方法により成形される。いずれも、射出成形は230〜280℃、1〜10分間程度加熱し、材料を可塑化した状態で適宜行われる。このとき、ポリアミド製リングの成形およびアクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマーの成形を連続的に行うことにより、2色成形も可能である。
【実施例】
【0022】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0023】
実施例1
ナイロン6(宇部興産製品ウベナイロン1013B)の材料ペレットを100℃、5時間乾燥させた後、射出成形機を用いて260℃、約3分間加熱して可塑化し、断面3×3mm、内径25mmのダストカバー内に内包される補強部材としての補強用リングを作製した。
【0024】
次いでアクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマー(Zeotherm 100-90B ペレット)を100℃で5時間乾燥させた後、射出成型機を用いて260℃、3分間加熱して可塑化し、補強用リングをダストカバー成形用金型にセットした後、射出成形して図1に示される補強部材を内包したダストカバー(高さ35mm)を作製した。
【0025】
得られたダストカバー成形品を用い、接着性、高温耐久性および耐グリース性について、機能評価を行った。
接着性:ダストカバー成形品を切断し、ペンチを用いてポリアミド製リングからTPEを引き剥がしたときのポリアミド製リング表面に残留したTPEの有無を目視にて確認し、TPEを引き剥がした後、TPEが破断してポリアミド製リングの全面にTPEが残った場合を接着、接着部分と剥離部分が混在した場合を一部接着、TPEが全く残留せずにすべて剥離した場合を非接着と評価
高温耐久性:ダストカバー内に所定量のグリースを封入したボールジョイントを揺動耐久試験機にセットし、120℃の環境下で動的シール部となる嵌合部3(小径部)よりグリース漏れが発生するまでの時間を評価
耐グリース性:高温耐久性試験後の膜部の径の変化率を測定
なお、耐グリース性が低いTPEは、膨潤して膜部の径が大きくなる。
【0026】
実施例2〜3
実施例1において、アクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマーとして、押出成形グレードの6-ナイロンとn-ブチルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレートを主成分とする耐寒グレードのアクリルゴムとを共有結合性架橋するように二軸押出機で動的架橋させるという方法によって製造されたものが用いられた。実施例2と3とでは、6-ナイロンとアクリルゴムとの配合比率(重量比35〜45:65〜55)が異なり、実施例3の方がアクリルゴムのゴム比率を高くして用いられている。
【0027】
比較例1
実施例1において、アクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマーの代りに、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(DMS社製品アーニテルPB582-H)が用いられた。
【0028】
比較例2
実施例1において、アクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマーの代りに、ポリエステル系熱可塑性エラストマー(東レ・デュポン製品ハイトレル4767B)が用いられた。
【0029】
比較例3
実施例1において、アクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマーの代りに、ポリアミド系熱可塑性エラストマー(エムス昭和電工製品グリロンELX50HNZ)が用いられた。
【0030】
以上の各実施例および比較例で得られた結果は、次の表に示される。

実施例 比較例
機能評価
接着性 接着 接着 接着 非接着 非接着 一部接着
高温耐久性 (時間) 550 800 950 150 200 300
耐グリース性 (△%) +0 +0 +0 +5 +5 +6
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のダストカバーは、自動車または一般産業機械などにおけるボールジョイントに装着使用される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】補強部材を内包するダストカバーの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ダストカバー
2 補強部材
3 嵌合部(動的シール部)
4 膜部
5 嵌合部(静的シール部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド樹脂と架橋アクリルゴムよりなるアクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマーを用いて成形されたダストカバー。
【請求項2】
アクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマーが、アクリルゴムを動的架橋することによってゴムをポリアミド樹脂中に分散させたものである請求項1記載のダストカバー。
【請求項3】
アクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマーが、ポリアミド樹脂とアクリルゴムとが共有結合性架橋したものである請求項1記載のダストカバー。
【請求項4】
アクリルゴムがα-オレフィン-アルキル(メタ)アクリレート-架橋性基含有(メタ)アクリレート共重合体ゴムである請求項2または3記載のダストカバー。
【請求項5】
補強部材としてのポリアミド製リングとアクリルゴム/ポリアミド系熱可塑性エラストマーとが、接着剤を介することなく接着された請求項1乃至4のいずれかに記載のダストカバー。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2007−292236(P2007−292236A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−122243(P2006−122243)
【出願日】平成18年4月26日(2006.4.26)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】