説明

ダストカバー

【課題】 実用的なダストカバーを提供する
【解決手段】 ダストカバー30は、ディスクロータ16と向かい合う面に、それの周方向に間隔を設けて複数の突起36を有する。それら突起の各々を、ディスクロータの径方向に対して傾斜して延びて中心側の縁38から外周側の縁40に至る形状、または、それぞれが、ディスクロータの径方向に対してディスクロータの回転方向における前方側に傾斜し、ダストカバーの中心側の縁と外周側の縁との間の位置から延び、中心側の縁に至る中心側延出部および外周側の縁に至る外周側延出部を有する形状とする。ディスクロータの回転により気流が発生すると、突起によって、空気がディスクロータの縁から外部へ排出され、また、突起の下流側では、空気が攪拌され、負圧状態となるため外気が導入される。したがって、ディスクロータ全体を効率的に冷却することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車輪に設けられるディスクブレーキ装置用のダストカバーに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、車両に搭載されるブレーキ装置には、ディスクブレーキ装置が広く採用されている。そのディスクブレーキ装置には、一般的に、ブレーキパッドやディスクロータを埃や泥などの異物から保護するためのダストカバーが用いられている。一方、ディスクロータは、ブレーキパッドとの接触により発生する摩擦熱によって高温となるため、外気によって冷却される必要がある。しかしながら、上記ダストカバーは、ディスクロータを異物から保護するために、ディスクロータを覆うようにして設けられているため、ディスクロータの熱は外気に放出され難くなっている。このような実情に鑑み、例えば、下記特許文献のダストカバーは、車輪とともに回転することができ、また、その回転する方向に向かって開口する通気孔を有している。そのため、車両の走行中、通気孔からダストカバーとディスクロータとの隙間には外気が導入されるため、ディスクロータの冷却が促進される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−8441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献のダストカバーでは、ディスクロータの冷却が促進されたとしても、外気とともに異物がダストカバーとディスクロータとの隙間に侵入し易くなってしまうという問題がある。この問題を始めとして、ダストカバーは種々の問題を抱えており、ダストカバーには改良の余地が多分に存在している。したがって、何らかの改良を施せば、ダストカバーの実用性を向上させることができる。本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、実用性の高いダストカバーを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のダストカバーは、ディスクロータと向かい合う面に、ディスクロータの周方向に間隔を設けて配置された複数の突起を有しており、複数の突起の各々が、ディスクロータの径方向に対して傾斜して延びてダストカバーの中心側の縁から外周側の縁に至る形状、または、それぞれが、ディスクロータの径方向に対してディスクロータの回転方向における前方側に傾斜し、ダストカバーの中心側の縁と外周側の縁との間の位置から延び、中心側の縁に至る中心側延出部および外周側の縁に至る外周側延出部を有する形状とされていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
ダストカバーとディスクロータとの隙間にある空気は、車両の走行中、ディスクロータの回転に引きずられて移動させられる。つまり、ダストカバーとディスクロータとの隙間には、ディスクロータの回転によって気流が発生する。その気流は、ダストカバーの周方向に旋回するように発生する。一方、ディスクロータは、ブレーキパッドとの接触により発生する摩擦熱によって高温となる。そのため、隙間内の空気が、高温となった状態で旋回し続けると、ディスクロータから空気への熱伝達が悪化し、ディスクロータの冷却が阻害されてしまう。
【0007】
本ダストカバーに設けられている突起が、「ディスクロータの径方向に対して傾斜して延びてダストカバーの中心側の縁から外周側の縁に至る形状」となっている場合、突起によって、隙間内の空気に、ダストカバーの中心方向あるいは外周方向の一方に向かう流れが発生することになる。例えば、突起が、ダストカバーの中心側の縁に位置する部分が気流の上流側に位置し、外周側の縁に位置する部分が下流側に位置するような形状になっている場合には、隙間内の空気に、外周側の縁に向かう流れを発生させることができる。そのため、そのように流れた空気は、外周側の縁から隙間外へと排出されることになる。一方、突起が、ダストカバーの外周側の縁に位置する部分が気流の上流側に位置し、中心側の縁に位置する部分が下流側に位置するような形状になっている場合には、隙間内の空気に、中心側の縁に向かう流れを発生させることができ、そのように流れた空気は、中心側の縁から隙間外へと排出されることにる。
【0008】
また、本ダストカバーに設けられている突起が、「それぞれが、ディスクロータの径方向に対してディスクロータの回転方向における前方側に傾斜し、ダストカバーの中心側の縁と外周側の縁との間の位置から延び、中心側の縁に至る中心側延出部および外周側の縁に至る外周側延出部を有する形状」となっている場合、突起によって、隙間内の空気に、ダストカバーの中心方向と外周方向との両方に向かう流れが発生することになる。例えば、突起が、V字型を成すようにして一体とされた中心側延出部と外周側延出部とを有する形状になっている場合には、隙間内の空気に、中心側延出部によって、中心側の縁に向かう流れを発生させることができ、外周側延出部によって、外周側の縁に向かう流れを発生させることができる。そのため、中心側に流れた空気は、ダストカバーの中心側の縁から隙間外へと排出され、外周側に流れた空気は、ダストカバーの外周側の縁から隙間外へと排出されることになる。
【0009】
したがって、本ダストカバーは、突起によって、ディスクロータの発する熱で高温とされた隙間内の空気を、ダストカバーの外周側または中心側、あるいは、それら両方の側へと導くことができ、その高温の空気は、ダストカバーの外周側の縁または中心側の縁、あるいは、それら両方の縁から隙間外へと排出されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施例のダストカバーが用いられたディスクブレーキ装置の断面図である。
【図2】図1のダストカバーとディスクロータとを示す斜視図である。
【図3】本発明の第1実施例のダストカバーをディスクロータ側から見た図であり、隙間内の空気の流れを模式的に示した図である。
【図4】本発明の第1実施例のダストカバーが有する突起の断面図であり、隙間内の空気の流れを模式的に示した図である。
【図5】本発明の第2実施例のダストカバーをディスクロータ側から見た図であり、隙間内の空気の流れを模式的に示した図である。
【図6】本発明の第3実施例のダストカバーをディスクロータ側から見た図であり、隙間内の空気の流れを模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を、図を参照しつつ詳しく説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【実施例1】
【0012】
図1は、車両に設けられたディスクブレーキ装置10を示している。ディスクブレーキ装置10は、車体側に取り付けられるブレーキキャリパ12と、ホイール14とともに回転し、概して円板形状とされたディスクロータ16とを含んで構成される。
【0013】
ホイール14は、それの外周部に、図示を省略するタイヤが嵌め込まれており、アクスルハブ20に固定されている。また、アクスルハブ20には、ディスクロータ16も固定されている。アクスルハブ20は、ベアリングを介して支持軸22に回転可能に保持されており、その支持軸22は、図示を省略するサスペンションアームの一端に取り付けられたキャリア24に固定されている。そのため、ディスクロータ16およびホイール14は、車体に対して回転可能となっている。なお、サスペンションアームの他端は車体に回動可能に取り付けられている。また、キャリア24には、ブレーキキャリパ12も取り付けられている。ブレーキキャリパ12は1組のブレーキパッド26を保持しており、ブレーキパッド26の各々は、ディスクロータ16を両側から挟み込むようにして配置されている。
【0014】
また、ブレーキキャリパ12は、運転者のブレーキ操作に応じて作動するブレーキシリンダ28を内部に有している。ブレーキシリンダ28は、自身の作動によってブレーキパッド26をディスクロータ16に押し付けることが可能とされている。そのため、ブレーキ操作がされると、ブレーキパッド26はディスクロータ16に押し付けられ、ディスクロータ16とブレーキパッド26との接触部には摩擦力が発生する。その摩擦力によって、ディスクロータ16の回転が抑制されるため、ディスクブレーキ装置10はホイール14の回転を抑制することができ、車両が制動される。
【0015】
このようなディスクブレーキ装置10には、ディスクロータ16やブレーキパッド26を埃や泥などの異物から保護するためのダストカバー30が用いられている。ダストカバー30は、ディスクロータ16の車体側に配置され、ボルト32によってキャリア24に固定されている。したがって、ディスクロータ16が車体に対して回転可能になっている一方で、ダストカバー30は車体に対して回転不能となっている。図2に示すように、ダストカバー30は、概して円板形状とされているが、ダストカバー30がブレーキキャリパ12と干渉しないように、ブレーキキャリパ12が位置する箇所には切欠部34が設けられている。つまり、ダストカバー30は、ブレーキキャリパ12の位置する箇所を除いて、ディスクロータ16の一方の面を覆うような形状とされている。また、ダストカバー30には、ディスクロータ16に向かい合う面に突出する3個の突起36が設けられている。各突起36は、ディスクロータ16の径方向に対して傾斜して延びて、ダストカバー30の中心側の縁38から外周側の縁40に至る形状となっている。また、3個の突起36は、ダストカバー30の周方向に約90°間隔でそれぞれ配置されている。なお、ダストカバー30とディスクロータ16との間には隙間が設けられているが、この隙間に異物を侵入させ難くするために、隙間の間隔は比較的小さくされている。
【0016】
このダストカバー30とディスクロータ16との隙間にある空気は、車両の走行中、ディスクロータ16の回転に引きずられて移動させられる。つまり、ダストカバー30とディスクロータ16との隙間には、ディスクロータ16の回転によって気流が発生する。その気流は、図3に矢印で示すように、ダストカバー30の周方向に旋回するようにして発生する。図4は、図3の矢視A−Aにおける突起36の断面、および、突起36の前後における気流の状態を示している。気流は、ディスクロータ16の回転に引きずられるようにして発生するため、突起36の手前における気流の速さは、図4における矢印の長さで示すように、ディスクロータ16側で最も速く(矢印が長い)、ダストカバー30側で最も遅く(矢印が短い)なる。また、その気流は、ダストカバー30に突起36が無い場合には、このような速度分布を持った層流状態で流れることになる。
【0017】
本ダストカバー30では、各突起36は、気流を乱す障害物となるため、突起36の後方では、気流が乱流状態になる。つまり、本ダストカバー30によれば、ディスクロータ16の熱によって高温となった空気が、ディスクロータ16に接したまま流れ続けることはなく、ディスクロータ16は攪拌された空気に曝されることになる。
【0018】
また、各突起36は、中心側の縁38に位置する部分が上記気流の上流側に位置し、外周側の縁40に位置する部分が気流の下流側に位置する形状となっている。そのため、隙間内の空気に、外周側の縁40に向かう流れを発生させることができ、そのように流れた空気は、外周側の縁40から隙間外へと排出されることになる。また、突起36による空気の排出や乱流の発生によって、突起36の後方では、隙間内の空気が外気に対して負圧状態となる。そのため、突起36の後方では、比較的低温な外気が隙間内に導入されることになる。したがって、本ダストカバー30の突起36は、ディスクロータ16に接する空気を攪拌し、隙間内の高温な空気を排出し、低温な外気を隙間内へ導入することができるため、ディスクロータ16を効率的に冷却することができるのである。
【0019】
また、突起36は、ダストカバー30の径方向に間隔を設けて3個設けられているため、車速がある速さ以上になり、ディスクロータ16の回転する速さに伴って気流の速さもある速さ以上になると、突起36を通過して乱流となった気流は、層流に変化せずに乱流のまま下流側の突起36に到達する。つまり、各突起36の間は、気流が概ね乱流となった状態で維持される。また、突起36は、ダストカバー30の周方向に約90°間隔、つまり、同じ間隔で設けられている。したがって、車速がある速さ以上になると、ディスクロータ16の周方向における全域で、気流は概ね乱流となる。したがって、本ダストカバー30によれば、周方向において、ディスクロータ16全体を効率的に冷却することができる。
【実施例2】
【0020】
図5は、ディスクブレーキ装置10に適用可能な別のダストカバー50を示している。ダストカバー50は、大まかには、突起の形状を除いて、第1実施例のダストカバー30と同じ構造となっている。以下に、説明の簡略化に配慮して、第1実施例のダストカバー30と異なる事柄について説明する。
【0021】
ダストカバー50には、ディスクロータ16に向かい合う面に突出する3個の突起52が設けられている。各突起52は、ディスクロータ16の径方向に対して傾斜して延びて、ダストカバー50の外周側の縁54から中心側の縁56に至る形状となっている。また、各突起52は、外周側の縁54に位置する部分が上記気流の上流側に位置し、中心側の縁56に位置する部分が気流の下流側に位置する形状となっている。そのため、本ダストカバー50によれば、隙間内の空気に、中心側の縁56に向かう流れを発生させることができ、そのように流れた空気は、中心側の縁56から隙間外へと排出されることになる。また、3個の突起52は、ダストカバー50の周方向に約90°間隔でそれぞれ配置されている。したがって、本ダストカバー50によれば、周方向において、ディスクロータ16全体を効率的に冷却することができる。
【実施例3】
【0022】
図6は、ディスクブレーキ装置10に適用可能な別のダストカバー70を示している。ダストカバー70は、大まかには、突起の形状を除いて、第1実施例のダストカバー30と同じ構造となっている。以下に、説明の簡略化に配慮して、第1実施例のダストカバー30と異なる事柄について説明する。
【0023】
ダストカバー70には、ディスクロータ16に向かい合う面に突出する3個の突起72が設けられている。各突起72は、ダストカバー70の中心側の縁74と外周側の縁76との間における略中央の位置から延び、中心側の縁に至る中心側延出部78および外周側の縁に至る外周側延出部80を有している。また、これらの延出部78,80は、それぞれ、ディスクロータ16の径方向に対して、ディスクロータ16の回転方向における前方側に傾斜している。つまり、各突起72は、気流の方向に対して尖ったV字形状とされている。これら3個の突起72は、ダストカバー70の周方向に約90°間隔でそれぞれ配置されている。
【0024】
本ダストカバー70によれば、突起72によって、隙間内の空気に、ダストカバーの中心方向と外周方向との両方に向かう流れが発生することになる。具体的には、隙間内の空気に、中心側延出部78によって、中心側の縁74に向かう流れを発生させることができ、外周側延出部80によって、外周側の縁76に向かう流れを発生させることができる。そのため、中心側に流れた空気は、ダストカバーの中心側の縁74から隙間外へと排出され、外周側に流れた空気は、ダストカバーの外周側の縁76から隙間外へと排出されることになる。また、3個の突起72は、ダストカバー70の周方向に約90°間隔でそれぞれ配置されている。したがって、本ダストカバー70によれば、周方向において、ディスクロータ16全体を効率的に冷却することができる。
【符号の説明】
【0025】
10:ディスクブレーキ装置 16:ディスクロータ 30:ダストカバー 36:突起 38:中心側の縁 40:外周側の縁 50:ダストカバー 52:突起 54:外周側の縁 56:中心側の縁 70:ダストカバー 72:突起 74:中心側の縁 76:外周側の縁 78:中心側延出部 80:外周側延出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクブレーキ装置用のダストカバーであって、
当該ダストカバーが、前記ディスクブレーキ装置の有するディスクロータと向かい合う面に、前記ディスクロータの周方向に間隔を設けて配置された複数の突起を有しており、
前記複数の突起の各々が、
前記ディスクロータの径方向に対して傾斜して延びて当該ダストカバーの中心側の縁から外周側の縁に至る形状、または、
それぞれが、前記ディスクロータの径方向に対して前記ディスクロータの回転方向における前方側に傾斜し、当該ダストカバーの中心側の縁と外周側の縁との間の位置から延び、前記中心側の縁に至る中心側延出部および前記外周側の縁に至る外周側延出部を有する形状
とされたダストカバー。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−112460(P2012−112460A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262353(P2010−262353)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】