説明

ダブルベローズ型熱処理炉

【課題】高耐圧強度、高冷却効率、軽量化、大焼成空間を有し、しかも真空炉・減圧炉・加圧炉として使用でき、電気炉・高温ガス炉・ガスバーナー炉などとしても使用できる熱処理炉を実現する。
【解決手段】本発明に係る熱処理炉は、周回状のベローズ山10a、12aを軸方向に多段に形成した外側ベローズ10と内側ベローズ12を環状間隙11を有するように二重管状に配置したダブルベローズ型周壁部8と、前記ダブルベローズ型周壁部8を支持する床部4と、前記ダブルベローズ型周壁部8の上方開口部を閉鎖する天井部6からハウジング13を形成し、少なくとも前記環状間隙11に冷却水16を流通させて強制水冷するダブルベローズ型熱処理炉2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被焼成物を炉空間に配置して焼成する熱処理炉に関し、更に詳細には熱処理炉のハウジングの耐圧強度を強靭にして高加圧炉、減圧炉及び高真空炉として利用できる熱処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、熱処理炉は、被焼成物を炉空間に配置し、この被焼成物を炉空間内で高温状態に加熱して焼成する装置である。熱源としては、電気ヒータやガスバーナーや高温ガスを利用し、熱源に応じて電気炉やガスバーナー炉や高温ガス炉などと称されている。また、炉空間を真空状態、減圧状態、加圧状態に保持して熱処理(焼成)する炉は、真空炉、減圧炉、加圧炉と夫々呼称されている。真空炉や減圧炉では、熱処理炉の外壁に大気圧が作用するため、熱処理炉は大気圧に対する耐圧強度を有しているのが通常である。特に、加圧炉では、炉空間を数気圧から数十気圧程度まで加圧するため、熱処理炉に強力な引張力やせん断力や曲げ応力が作用し、熱処理炉には強靭な耐圧強度が要求される。
【0003】
真空熱処理炉として特開2002−357389号公報(特許文献1)が知られている。この真空熱処理炉は、その図1から明らかなように、炉殻1と、その内側に配置されたケーシング2と、アルミ・シリカ系セラミックファイバーブランケット3、4と、薄板状のアルミナ系セラミック複合材とによって形成された断熱層と、この断熱層によって囲まれる加熱室内に配置されたヒータ7から構成されている。本願発明の用語で言えば、ハウジングと、ハウジング内部の断熱材と、断熱材内部のヒータと、ヒータで囲まれた炉空間から構成されているものである。真空炉であるため、外圧として大気圧が作用するだけであるから、薄いケーシング2だけで大気圧に対する耐圧強度を有すると考えられる。しかし、この真空熱処理炉を数十気圧の加圧炉として使用する場合には、この薄いケーシング2だけではとても数十気圧の耐圧強度を有するとは考えられない。炉殻1は大気と連通しているから、密閉性を有さず、耐圧性において不十分な構造である。この特許文献1には水冷構造は開示されていない。
【0004】
水冷構造の観点から言えば、特開平10−246578号公報(特許文献2)が知られている。この特許文献2は高純度合金を製造するスカル溶解炉であり、大気に連通しているため特別な耐圧構造は考慮されていない。但し、水冷構造については、その図1及び図2に明示されているように、溶解炉本体の周壁内部に環状間隙を形成し、この環状間隙内に冷却水を通水させて溶解炉本体を強制水冷する構成を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−357389号公報
【特許文献2】特開平10−246578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願明細書の図7は、水冷構造と耐圧構造を有した従来型電気炉102の縦断端面図である。前述した特許文献2の水冷構造を特許文献1のケーシングに適用し、周壁の厚みを大きくして耐圧構造を付加したものである。前記従来型電気炉102は本願発明と直接対比できる構成であるから、以下に詳説する。
【0007】
前記従来型電気炉102の基本構造を与えるハウジング113は、床部104の上面周縁に周壁部108を載置し、周壁部108の上方開口部を天井部106により閉鎖して構成される。周壁部108は、外側円筒管110と内側円筒管112を同軸状に二重管に配置構成され、外側円筒管110と内側円筒管112の間に環状間隙111を設ける構成となっている。外側円筒管110の適所に冷却水入口114と冷却水出口118を配置して、冷却水116は冷却水入口114から矢印a方向に流入し、環状間隙111を周回しながらハウジング113を冷却し、冷却水出口118から矢印b方向に流出する。床部104及び天井部106には図示しない別の冷却水通路が形成され、夫々冷却されている。また、図示していないが、天井部106は開閉構造を有しており、小型電気炉の場合には、ヒンジにより周壁部108の上縁に対し天井部106を開閉できる構造にしても良いし、大型電気炉の場合には、天井部106をクレーンにより吊り上げて開閉できる構造にしても良い。
【0008】
床部104の上面には床断熱材120が密着配置され、内側円筒管112の内面側には周壁断熱材122が密着配置され、天井部106の下面には天井断熱材126が密着配置されている。床断熱材120と周壁断熱材122と天井断熱材126により囲繞された炉空間130には、一点鎖線で示す被焼成物132が配置されている。周壁断熱材122の内面には電気ヒータ線128が卷回されており、通電により炉空間130を高温に加熱して、前記被焼成物132を焼成するように構成されている。装置寸法に関しては、図示するように、外側円筒管厚と内側円筒管厚をtとし、環状間隙厚をcとし、周壁断熱材厚をrとし、炉内径をdとする。また、床断熱材厚をr1とし、天井断熱材厚をr2とし、炉高をsとする。
【0009】
上記従来型電気炉102には下記のような欠点がある。大型の被焼成物132を焼成するためには、炉空間130を大きく設計する必要がある。その時、天井部126の重量は大きくなり、天井部126を支持する周壁部108の耐圧強度を増大させる必要がある。また、鉄骨重量に対する耐圧強度だけでなく、加圧焼成する場合の耐圧強度も保持しなければならない。炉空間を真空状態にした場合には大気圧に対する耐圧強度で済むが、炉空間を数気圧〜数十気圧まで加圧した場合には、内圧が周壁部108と天井部106に直接作用する。その結果、周壁部108には高引張力、高せん断力及び高曲げ力が作用し、周壁部108の耐圧強度を特に強靭にしなければならない。そのため、周壁部108の断面寸法を決める外側円筒管厚tと内側円筒管厚tを増大させることになる。従って、周壁部108の重量が増大し、この大型大重量の従来電気炉を設置する建屋の地下基礎工事費が高騰する結果を招来していた。また、前記円筒管厚tの増大は炉内径dの縮小を余儀なくする。また、環状間隙111には冷却水が流通しているが、内側円筒管112と外側円筒管110は直線状円筒管であるから、その表面積は比較的小さく、冷却効率が悪いという弱点がある。その結果、周壁断熱材厚rを大きく設計する必要があり、炉内径dを一層縮小することになった。同様の理由で、床断熱材厚r1と天井断熱材厚r2も増大し、炉高sも縮小する結果となった。被焼成物132が配置される炉空間130の容積vは、v=π(d/2)2sで与えられるから、dとsの縮小は炉空間容積vの縮小になり、被焼成物132のサイズが制限されるという結果になる。これらの問題点を解決することが緊急の課題である。
【0010】
従って、本発明は上記欠点を改善するために為されたものであり、電気炉・高温ガス炉・ガスバーナー炉などとして使用でき、真空炉・減圧炉・加圧炉として使用できる熱処理炉を提供するものである。周壁部を構成する外側円筒管と内側円筒管の替わりにベローズ(蛇腹管又は伸縮管とも云う)を使用し、環状間隙を挟んで外側ベローズと内側ベローズを立設して構成されるダブルベローズ型周壁部を採用し、ベローズ厚が薄くて高耐圧強度(高引張強度、高せん断強度及び高曲げ強度)を有するから、真空焼成・減圧焼成及び高加圧焼成を実現でき、ベローズ重量が軽量であるから、高価な地盤基礎工事を不要にすることができる。また、ベローズ厚の薄さと同時に冷却表面積が増大するから冷却効率が格段に増強され、その結果炉内径及び炉高を増大でき、炉空間容積の増大と長寿命を実現する熱処理炉を提供することに成功したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、本発明の第1の形態は、ハウジングの内部に画成された炉空間に被焼成体を配置して前記被焼成物を焼成する熱処理炉において、周回状のベローズ山を軸方向に多段に形成した外側ベローズと内側ベローズを環状間隙を有するように二重管状に配置したダブルベローズ型周壁部と、前記ダブルベローズ型周壁部を支持する床部と、前記ダブルベローズ型周壁部の上方開口部を閉鎖する天井部から前記ハウジングを形成し、少なくとも前記環状間隙に冷却水を流通させて強制水冷するダブルベローズ型熱処理炉である。
【0012】
本発明の第2の形態は、天井部をダブルベローズ型周壁部に対し開閉可能構造にし、ダブルベローズ型周壁部の上方開口部を開閉して炉空間に対し被焼成物を出入するダブルベローズ型熱処理炉である。
【0013】
本発明の第3の形態は、ハウジングの内部において、床部の上面側に床断熱材を配置し、ダブルベローズ型周壁部の内側ベローズの内面側に周壁断熱材を配置し、天井部の下面側に天井断熱材を配置し、床断熱材と周壁断熱材と天井断熱材で囲繞形成される内部空間を炉空間とするダブルベローズ型熱処理炉である。
【0014】
本発明の第4の形態は、天井断熱材を出入可能に配置して、炉空間に対し被焼成物を出入可能にするダブルベローズ型熱処理炉である。
【0015】
本発明の第5の形態は、床断熱材、周壁断熱材、又は天井断熱材の一つ以上に電気ヒータ線を配置して熱処理炉を電気炉として構成するダブルベローズ型熱処理炉である。
【0016】
本発明の第5の形態は、炉空間を真空状態、減圧状態又は加圧状態にして被焼成物を焼成するダブルベローズ型熱処理炉である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の第1の形態によれば、周回状のベローズ山を軸方向に多段に形成した外側ベローズと内側ベローズを環状間隙を有するように二重管状に配置したダブルベローズ型周壁部を採用しているから、ベローズ(蛇腹管又は伸縮管とも呼ぶ)の高耐圧強度、即ち高圧縮強度・高引張強度・高座屈強度・高せん断強度・高曲げ強度により本発明熱処理炉は0〜10MPa(真空〜100気圧)の高耐久性を有し、炉空間を真空状態・減圧状態・高加圧状態に設定することが可能であり、真空炉・減圧炉・加圧炉・高加圧炉として使用することができる。また、ベローズ厚が薄くても前記高耐圧強度を有しており、ダブルベローズ型周壁部の厚さを短縮化でき、その短縮量だけ炉内径を大きくすることができる。更に、ベローズ山を多段に形成したベローズの表面積は円筒管の表面積よりかなり大きくて冷却効率が格段に良くなるから、周壁断熱材の厚さを小さくでき、その厚さの短縮分だけ炉内径を増大することができる。この冷却効率の増大は床断熱材と天井断熱材の厚さも薄くでき炉高を大きく設計することが可能になる。炉内径及び炉高の増大により炉空間容積の増大化を実現でき、小型から大型の被焼成物を焼成できる熱処理炉を提供することができる。また、軽量なベローズにより構成されるダブルベローズ型周壁部の重量は、従来型周壁部の重量より格段に軽量化され、熱処理炉の地盤基礎工事を不要にでき、熱処理炉の設置費用の低減を実現できる。また、本形態のダブルベローズ型周壁部は電気炉だけでなく、高温ガス炉やガスバーナー炉などにも適用でき、広範囲の各種の熱処理炉に利用することが可能である。その意味で、本発明の名称をダブルベローズ型熱処理炉と呼ぶ。冷却効率を上げるために、床部と天井部にも独自の強制水冷構造を付加することができる。
【0018】
本発明の第2の形態によれば、天井部をダブルベローズ型周壁部に対し開閉可能構造にするから、ダブルベローズ型周壁部の上方開口部を開閉して炉空間に対し被焼成物を出入することが可能になる。開閉可能構造に関しては、大型熱処理炉の場合には、天井部をクレーンで吊り下げ及び吊り上げすれば良いし、小型及び中型熱処理炉では天井部をダブルベローズ型周壁部の上端周縁にヒンジにより開閉可能にすればよく、また天井部を手で持ち上げ及び持ち下げしてダブルベローズ型周壁部の上端周縁にロックできるようにすることもできる。
【0019】
本発明の第3の形態によれば、ダブルベローズ構造により冷却効率が格段に増大するから、床断熱材と周壁断熱材と天井断熱材を極力薄くすることが可能になり、床断熱材と周壁断熱材と天井断熱材で囲繞形成される炉空間を従来よりも増大化することが可能になる。従って、大型被焼成物を炉空間に配置して焼成することができる。従来であれば、大型熱処理炉と中型熱処理炉と小型熱処理炉を用意しなければならなかったが、本発明の熱処理炉であれば、小型被焼成物から大型被焼成物を一台で焼成することが可能になり、熱処理炉の設置コストを大幅に低減できるようになる。
【0020】
本発明の第4の形態によれば、天井断熱材を出入可能に配置するから、天井部を開放し、天井断熱材を取り出すことにより、炉空間に対し被焼成物を出入可能にでき、熱処理炉内部に被焼成物を搬入・搬出することが容易になるダブルベローズ型熱処理炉を提供することができる。
【0021】
本発明の第5の形態によれば、床断熱材、周壁断熱材、又は天井断熱材の一つ以上に電気ヒータ線を配置して本発明熱処理炉を電気炉として構成することが可能になる。通常は、周壁断熱材の内面側に電気ヒータ線を卷回するだけでよいが、加熱効率を上げるために床断熱材及び/又は天井断熱材にも電気ヒータ線を配置することが可能である。本発明のダブルベローズ型熱処理炉を電気炉として提供するものである。
【0022】
本発明の第6の形態によれば、炉空間を真空状態、減圧状態又は加圧状態にして被焼成物を焼成することができ、本発明のダブルベローズ型熱処理炉を真空炉、減圧炉又は加圧炉として提供するものである。本発明のダブルベローズ型周壁部を使用すれば、その耐圧強度を格段に増強できるから、真空炉、減圧炉、加圧炉のいずれの形態にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るダブルベローズ型電気炉の断面斜視図である。
【図2】本発明に係るダブルベローズ型電気炉の縦断端面図で、図1のA−A線切断端面図である。
【図3】本発明に使用するベローズの斜視図及び本発明に係るダブルベローズ型電気炉を用いた熱処理工程図である。
【図4】本発明ベローズと通常円筒管の座屈圧力を計算したコンピュータ計算結果図である。
【図5】本発明に係るダブルベローズ型電気炉を真空炉として使用したときの圧力関係を示す縦断端面図である。
【図6】本発明に係るダブルベローズ型電気炉を加圧炉として使用したときの圧力関係を示す縦断端面図である。
【図7】従来型電気炉の縦断端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。本発明のダブルベローズ型熱処理炉は電気炉、ガスバーナ炉、高温ガス炉など各種の熱処理炉に適用できるが、以下の図面では電気炉として応用した場合のダブルベローズ型電気炉を説明する。ガスバーナ炉では電気ヒータ線がガスバーナに置換され、また高温ガス炉では電気ヒータ線が高温ガスの供給ノズルに置換されるだけであり、本発明の中核概念であるダブルベローズ型周壁部を利用する点では全て共通する。従って、電気炉で説明するダブルベローズ型周壁部の作用効果の全てはガスバーナ炉や高温ガス炉などでも共通するから、実施形態としては電気炉に絞って説明する。
【0025】
図1は、本発明に係るダブルベローズ型電気炉の断面斜視図である。ダブルベローズ型電気炉2の基本骨格を与えるハウジング13は、床部4の上面周縁にダブルベローズ型周壁部8を載置し、ダブルベローズ型周壁部8の上方開口部を天井部6により閉鎖して構成される。この天井部6はダブルベローズ型周壁部8の上端周縁に設けられたヒンジ(図示せず)により開閉自在に設けられ、前記上方開口部を開閉することが可能である。前記ダブルベローズ型周壁部8は、外側ベローズ10と内側ベローズ12を同軸に二重管状に配置構成され、外側ベローズ10と内側ベローズ12の間に環状間隙11を設ける構成となっている。外側ベローズ10の下方には冷却水入口14が設けられ、上方には冷却水出口18が配置されている。図示しないポンプにより冷却水16は冷却水入口14から矢印a方向に流入し、環状間隙11を周回しながらハウジング13を冷却し、冷却水出口18から矢印b方向に流出する。前記環状間隙11の幅長は環状間隙厚Cであり、環状間隙11の内部は冷却水16により充満し、ポンプにより冷却水を循環させて、炉内の熱を冷却する構成になっている。
【0026】
外側ベローズ10は多段のベローズ山10aを有しており、同様に内側ベローズ12も多段のベローズ山12aを有している。ベローズ山10a、12aは、山幅w、山高h及びピッチpを持って形成されており、山幅w、山高h及びピッチpはバローズ管径及びベローズ長に依存しながら任意に調整することができる。ベwローズは多段のベローズ山から構成されるため、ベローズの表面積は直円筒管の表面積より格段に大きくなり、山幅w、山高h及びピッチpを調整することによりベローズ表面積を自在に変化させることができる。ベローズ表面積が大きいため、冷却効率は直円筒管より格段に高く、本ダブルベローズ型電気炉2の冷却効率は従来型電気炉と比較しても格段に優れていることが分かる。また、床部4及び天井部6には図示しない別の冷却水通路が形成され、夫々個別に冷却されている。
【0027】
外側ベローズ10及び内側ベローズ12のベローズ厚Tが薄くても、ベローズは高耐圧強度、即ち高圧縮強度・高引張強度・高座屈強度・高せん断強度・高曲げ強度を有している。従って、大型の電気炉の場合に、天井部6は大重量になるが、軽量なダブルベローズ型周壁部8により十分に支持することができ、小型電気炉から大型電気炉までダブルベローズ型周壁部8により構成することができる。ダブルベローズ型周壁部8の厚さは環状間隙厚Cと外側ベローズ厚Tと内側ベローズ厚Tの合計C+2Tになる。ベローズ厚Tが小さいから、ダブルベローズ型周壁部8の厚さC+2Tも従来型電気炉と比較して格段に小さくなる。これは炉内径Dを相対的に大きくできることを意味しており、炉空間30の炉容積Vを増大できる効果がある。
【0028】
床部4の上面には床断熱材20が密着配置され、内側ベローズ12の内面側には周壁断熱材22が密着配置され、天井部6の下面には天井断熱材26が密着配置されている。床断熱材20と周壁断熱材22と天井断熱材26により囲繞されて炉空間30が形成されている。周壁断熱材22の内面には電気ヒータ線28が卷回して形成されており、この電気ヒータ線28に通電して焼成を行う。ダブルベローズ型周壁部8の冷却効率が極めて高いから、周壁断熱材厚Rは薄くすることが可能であり、炉内径Dを大きく設計することが容易になる。また、同様に、ダブルベローズ型周壁部8の冷却効率が極めて高いから、床断熱材厚R1と天井断熱材厚R2も薄くでき、その結果炉高Sも大きく設計することができる。
【0029】
図2は、本発明に係るダブルベローズ型電気炉の縦断端面図で、図1のA−A線切断端面図である。図1で説明した内容は同様であるから、異なる部分を説明する。炉空間30には、一点鎖線で示された被焼成物32が配置されて所定温度で焼成される。炉空間30の炉容積VはV=π(D/2)2Sで与えられる。本発明では、炉内径D及び炉高Sを増大できるから、炉容積Vは従来装置に比較して格段に大きく設けることができる。従って、被焼成物32も炉容積Vより小さければ炉空間30に配置することが可能であり、大型の被焼成物32を焼成することもできる。
【0030】
図3の(3A)は本発明に使用するベローズの斜視図であり、(3B)は本発明に係るダブルベローズ型電気炉を用いた熱処理工程図である。図(3A)において、ベローズ24は外側ベローズ10と内側ベローズ12を代表しており、ベローズ山24aはベローズ山10a、12aを代表している。山高h、山幅w及びピッチpは自在に変更できる。山高hを大きくすると、ベローズ表面積は急激に増大し、同様にピッチpを小さくするほどベローズ表面積は急増する。ベローズ表面積が増大すると、強制水冷による冷却効率が増大することは当然である。 (3B)には具体的な熱処理工程が示されている。例えば、被焼成物32を加熱焼成するには、1時間の昇温過程と1時間の高温焼成過程が必要であるが、本実施形態の電気炉では冷却効率が高いため1時間で室温まで冷却することができる。しかし、従来型電気炉では、冷却効率が悪いため室温まで冷却するのに4時間を要している。この具体例では、本発明炉の冷却速度は従来型電気炉の4倍である。本発明炉の焼成時間が3時間であるのに対し、従来型電気炉では焼成時間が6時間を要し、本発明炉の方が生産効率が2倍に増大し、本発明炉の量産性能は従来炉と比較して格段に優れていることが明白である。
【0031】
図4は、本発明ベローズと通常円筒管の座屈圧力を計算したコンピュータ計算結果図である。本発明者等は応力解析システム「AUTO−PIPE」及び非線形有限要素法解析システム「ANSYS」を用いて、ベローズ構造パイプ(ベローズのこと)と通常の管状パイプ(円筒管のこと)の座屈圧力を計算した。両管とも材料はニッケル合金であるインコネル625を用いた。インコネル625の縦弾性係数は1.91×105(N/mm2)であり、降伏応力は328(N/mm2)である。(4A)はベローズ構造パイプの計算結果を示している。ベローズ構造パイプの板厚は5mm、外径は710mm、全長は1998mm、山高は30mm、山数は6個である。その座屈圧力は1.79MPaである。(4B)は通常の管状パイプの計算結果を示している。管状パイプの板厚は5mm、外径は710mm、全長は2000mmであり、ほぼベローズ構造パイプと同じである。その座屈圧力は0.9MPaである。管状パイプをベローズに変更するだけで、座屈圧力が0.9MPaから1.79MPaへと約2倍に増大していることが分かった。また、ベローズでは、板厚を薄くするほど座屈圧力が増大することが分かった。従って、本発明のダブルベローズ型周壁部を採用することによって、高強度化と同時に軽量化が実現できることが証明された。
【0032】
図5は、本発明に係るダブルベローズ型電気炉を真空炉として使用したときの圧力関係を示す縦断端面図である。図符号が同一部分については、図1及び図2と同一であるから説明を省略する。異なる図符号を説明する。本形態では、ダブルベローズ型電気炉2を真空炉として利用している。炉空間30の内部は図示しない真空装置により真空状態に置かれている。従って、炉空間30の内圧は0MPaであり、ダブルベローズ型電気炉2には大気圧P0、即ち0.1MPaの外圧が作用している。ダブルベローズ型周壁部8の外側ベローズ10は大気圧P0に対して十分なる耐圧強度を有しているから、安ダブルベローズ型電気炉2は安定且つ安全に動作できる。
【0033】
図6は、本発明に係るダブルベローズ型電気炉2を加圧炉として使用したときの圧力関係を示す縦断端面図である。図符号が同一部分については、図1及び図2と同一であるから説明を省略し、異なる図符号を説明する。本形態では、ダブルベローズ型電気炉2を加圧炉として利用している。炉空間30の内部には高圧ガスが導入され、内圧Pが炉空間30の内部に作用している。内圧Pの大きさは0.1MPa〜10MPaまでに対応でき、好適には0.1MPa〜5MPaである。他方、ダブルベローズ型電気炉2の外表面には大気圧P0、即ち0.1MPaの外圧が作用している。従って、ダブルベローズ型周壁部8の外側ベローズ10には大気圧P0が作用し、内側ベローズ12には内圧Pが作用することになる。前述したように、ベローズの耐圧強度は極めて高く、上述したような内圧に対して十分な耐力を有しており、本発明のダブルベローズ型電気炉2は安定且つ安全に動作できる環境にある。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上詳述したように、本発明に係るダブルベローズ型熱処理炉は、ベローズの高耐圧強度、即ち高圧縮強度・高引張強度・高座屈強度・高せん断強度・高曲げ強度により、0〜10MPa(真空〜100気圧)の高耐久性を有し、真空炉・減圧炉・加圧炉・高加圧炉として利用することができる。また電気炉だけでなく、高温ガス炉やガスバーナー炉などにも適用でき、広範囲の各種の熱処理炉に利用することが可能である。発明の中心概念がダブルベローズ型周壁部にあり、熱処理炉業界とベローズ業界に新製品を導入でき、業界の活性化を図ることができる。熱処理炉を利用する業界は、半導体、誘電体などの電子部品業界、自動車業界、航空機業界など広範囲に及び、広範な産業界に新風を巻き起こすことができる。
【符号の説明】
【0035】
2 ダブルベローズ型電気炉(ダブルベローズ型熱処理炉)
4 床部
6 天井部
8 ダブルベローズ型周壁部
10 外側ベローズ
10a ベローズ山
11 環状間隙
12 内側ベローズ
12a ベローズ山
13 ハウジング
14 冷却水入口
16 冷却水
18 冷却水出口
20 床断熱材
22 周壁断熱材
24 ベローズ
24a ベローズ山
26 天井断熱材
28 電気ヒータ線
30 炉空間
32 被焼成物
C 環状間隙厚
D 炉内径
h 山高
p ピッチ
R 周壁断熱材厚
R1 床断熱材厚
R2 天井断熱材厚
S 炉高
T ベローズ厚
w 山幅
102 従来型電気炉
104 床部
106 天井部
108 従来型周壁部
110 外側円筒管
111 環状間隙
112 内側円筒管
113 ハウジング
114 冷却水入口
116 冷却水
118 冷却水出口
120 床断熱材
122 周壁断熱材
126 天井断熱材
128 電気ヒータ線
130 炉空間
132 被焼成物
d 炉内径
r 周壁断熱材厚
r1 床断熱材厚
r2 天井断熱材厚
s 炉高
t 円筒管厚(内側円筒管厚、外側円筒管厚)
c 環状間隙厚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングの内部に画成された炉空間に被焼成体を配置して前記被焼成物を焼成する熱処理炉において、周回状のベローズ山を軸方向に多段に形成した外側ベローズと内側ベローズを環状間隙を有するように二重管状に配置したダブルベローズ型周壁部と、前記ダブルベローズ型周壁部を支持する床部と、前記ダブルベローズ型周壁部の上方開口部を閉鎖する天井部から前記ハウジングを形成し、少なくとも前記環状間隙に冷却水を流通させて強制水冷することを特徴とするダブルベローズ型熱処理炉。
【請求項2】
前記天井部を前記ダブルベローズ型周壁部に対し開閉可能構造にし、前記ダブルベローズ型周壁部の上方開口部を開閉して前記炉空間に対し前記被焼成物を出入する請求項1に記載のダブルベローズ型熱処理炉。
【請求項3】
前記ハウジングの内部において、前記床部の上面側に床断熱材を配置し、前記ダブルベローズ型周壁部の前記内側ベローズの内面側に周壁断熱材を配置し、前記天井部の下面側に天井断熱材を配置し、前記床断熱材と前記周壁断熱材と前記天井断熱材で囲繞形成される内部空間を前記炉空間とする請求項1又は2に記載のダブルベローズ型熱処理炉。
【請求項4】
前記天井断熱材を出入可能に配置して、前記炉空間に対し前記被焼成物を出入可能にする請求項3に記載のダブルベローズ型熱処理炉。
【請求項5】
前記床断熱材、前記周壁断熱材、又は前記天井断熱材の一つ以上に電気ヒータ線を配置して前記熱処理炉を電気炉として構成する請求項1〜4のいずれか一つに記載のダブルベローズ型熱処理炉。
【請求項6】
前記炉空間を真空状態、減圧状態又は加圧状態にして前記被焼成物を焼成する請求項1〜5のいずれか一つに記載のダブルベローズ型熱処理炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−233644(P2012−233644A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103427(P2011−103427)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(511089583)日本ニューロン株式会社 (2)
【Fターム(参考)】