説明

ダム水位制御システム

【課題】ダム制御処理設備にて実施する水位一定制御において、流入量や貯水位の急激な変化に対して水位一定を保持するようなゲート制御が実施できない場合があった。
【解決手段】ダムの貯水位データ1、ゲートの開度データ2、及び該ダムと同じ水系の上流地点水位データを入力する入力処理部21と、この入力処理部に入力されたデータに基づいて制御判定を行なう制御判定処理部31と、ゲートの制御量を算出する制御量演算処理部32とを有する演算処理部30を備え、上記制御判定処理部は、所定時間毎に現在貯水位が基準水位に対して設定された開制御区間、閉制御区間、及び制御を行なわない不感帯の何れに属するかの判定と、この判定結果、並びに前回制御判定時と今回制御判定時における上記ダムの貯水位、及び上記上流地点水位データを用いて上記ゲートの制御を行なうか否かの判定を行なうようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ダムや堰、貯水池など(本書においては、これらを単に「ダム」と呼称する)の貯水位を制御するダム水位制御システムに関し、特にダムの貯水位が設定された所定の貯水位を保つように放流用のゲートを制御する水位一定制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のダムの水位一定制御においては、ダムの貯水位を一定に保持するための基準水位、制御判定間隔、及び基準水位を含む形で不感帯をあらかじめ設定し、貯水位が不感帯にある場合は貯水位が基準水位にて保持されていると見なされるため、ゲートの制御は行わない。基準水位より高く、不感帯ではない貯水位帯は開制御区間、基準水位より低く、不感帯ではない貯水位帯は閉制御区間とし、貯水位が開制御区間にある場合はゲートの開制御を行い、閉制御区間にある場合はゲートの閉制御を行なう。但し、数分前の貯水位と現在貯水位を比較し、[数分前の貯水位<現在貯水位](現在貯水位が開制御区間にあった場合)または、[数分前の貯水位>現在貯水位](現在貯水位が閉制御区間にあった場合)であれば制御は行わない。また、従来の水位一定制御におけるゲート制御量(一度の制御にて動くゲート動作量)について、貯水位の変化勾配や現在貯水位と基準水位との差に応じてゲート制御量を変化させる手法が用いられている(例えば特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2000−122726号公報(第1頁、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の水位一定制御では、貯水位が不感帯、開制御区間、閉制御区間の何れにあるかという条件の他に、過去から現在までの貯水位の変動を条件に加えて制御要否を決定している。この制御では、貯水位が開制御区間内にあり、かつ[数分前の貯水位>現在貯水位]であった場合、制御を行なわないが、自然現象や流入量算出のタイミングにより、現在から数分後までに流入量が急激に上がった場合、貯水位を基準水位に近づける制御を実施することができないなどの問題点があった。また、貯水位が閉制御区間にあり、かつ[数分前の貯水位<現在貯水位]であった場合も同様に、流入量の変動によっては貯水位を基準水位に近づける制御を実施することができないなどの問題点があった。また、従来の水位一定制御では、貯水位の変化勾配や基準水位と貯水位との差によって、ゲートの制御量を変動させているが、貯水位のみを制御量決定の判断に使用しているため、流入量の変動によって、ゲート制御量が大きすぎて貯水位が急速に基準水位に近づき、そのまま通りすぎて基準水位から離れていく場合があるなどの問題点があった。
【0005】
この発明は上記のような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、ダムの同じ水系の上流地点水位データを制御実施要否の判断条件に加えることにより、近い将来における流入量の変動を見込んだ制御要否判定を行なうことを可能とし、貯水位を基準水位で保持することがより確実にできるようにしたダム水位制御システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明によるダム水位制御システムは、ダムの貯水位データ、ゲートの開度データ、及び該ダムと同じ水系の上流地点水位データを入力する入力処理部と、この入力処理部に入力されたデータに基づいて制御判定を行なう制御判定処理部と、上記ゲートの制御量を算出する制御量演算処理部とを有する演算処理部を備え、上記制御判定処理部は、所定時間毎に現在貯水位が基準水位に対して設定された開制御区間、閉制御区間、及び制御を行なわない不感帯の何れに属するかの判定と、この判定結果、並びに前回制御判定時と今回制御判定時における上記ダムの貯水位、及び上記上流地点水位データを用いて上記ゲートの制御を行なうか否かの判定を行なうようにしたものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明においては、ダムの同じ水系の上流地点水位データによる上流地点の流量の変動傾向を制御実施要否の判断条件に加えて、近い将来における流入量の変動を見込んだ制御要否判定を行なうようにしたことにより、ダムの貯水位を基準水位により確実に保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
図1ないし図5はこの発明の実施の形態1によるダム水位制御システムを説明するもので、図1はダム水位制御システムの要部構成を示すブロック図、図2は図1のダム水位制御システムによる制御例を示すフロー図、図3はダムと同一水系の上流地点で測定された上流地点流量の時間変動例を示す測定図であり、縦軸は上流地点流量、横軸は経過時間を示す。図4は比較例として従来の水位一定制御を行なった場合における制御判定とダムの貯水位の時間変動例を示すダム水位変動図であり、縦軸は貯水位、横軸は経過時間を示す。図5は図2に示すフロー図によって水位一定制御を行なった場合の制御判定とダム貯水位の時間変動例を示すダム水位変動図であり、縦軸は貯水位、横軸は経過時間を示す。なお、説明の重複を避けるため、以降の実施の形態を含めて各図を通じて同一符号、同一番号のStepは同一もしくは相当部分を示すものとする。
【0009】
図において、ダムに設置された貯水位計からの貯水位データ1、ゲートを駆動するゲート機側に設けられた開度計からの開度データ2、ダムの同じ水系の上流に設けられた水位局からの上流地点水位データ3は、入出力処理部20の入力処理部21に入力される。入力処理部21に入力されたデータは演算処理部30に渡され、以下詳述する演算処理が行なわれた後、入出力処理部20のゲート制御出力処理部22に送られ、このゲート制御出力処理部22から制御出力信号11として上記ゲートを駆動するゲート機側に伝送され、ゲートを駆動して指定された開度に制御することによりダム水位の制御が行なわれる。
【0010】
なお、図1の左側に縦方向に示す1点鎖線の右側は入出力処理部20や演算処理部30などからなる制御装置を収容し、コントロールする管理所内、左側はその外部にあることを示し、ハードウエア関係の機器、装置類については、公知の従来装置は特別な制限なくそのまま用いることができるので図示を省略している。
【0011】
上記演算処理部30は、上記入力処理部21から受取った上流地点水位データ3から上流地点流量8の算出を行なう流量演算処理部34と、入力処理部21から受信したダムの貯水位データ1及び上流地点流量8を元にゲート制御の要否を判定する制御判定処理部31と、ゲート制御において、ゲートの制御量を水位データ等から演算する制御量演算処理部32と、ゲート制御出力処理部22に対して制御指示を行なうゲート制御指示部33などから構成されている。なお、四角で囲む演算処理部30の枠内に示す上記31、32、33、及び34などの各部分は、制御プログラムの演算処理部分に設けられたプログラム上の部分を概念的に示すものである。
【0012】
また、4は目標とする貯水位の基準位置を示す基準水位、5は基準水位4に対して開制御を実施する貯水位の範囲を示す開制御区間、6は基準水位4に対して閉制御を実施する範囲を示す閉制御区間、7は基準水位4に対して制御を行わない範囲を示す不感帯、9は制御判定処理部31にて制御判定を行なう間隔を示す制御判定間隔、10は制御判定処理部31の制御判定時に使用する制御判定設定値(α、β)であり、これら4、5、6、7、及び9、10は図示を省略している設定手段により所定の値に設定され、ないしはテーブルとして図示を省略している記憶手段に記憶され、上記上流地点流量8と共に、制御判定処理部31にてデータとして使用される。
【0013】
次に上記のように構成された実施の形態1の動作について、先ず図2のフロー図を参照して説明する。まず、前回の制御判定処理実施時から、あらかじめ設定された制御判定間隔9が経過しているか確認し(Step1)、次に入力処理部21に入力された貯水位データ1とあらかじめ設定された基準水位4、開制御区間5、閉制御区間6、不感帯7を用いて、現在の貯水位が開制御区間5、不感帯7、閉制御区間6の何れにあるかを判定する(Step2、4)。貯水位が開制御区間5または閉制御区間6内にあれば、前回制御判定時での貯水位、及び上流地点流量と、現在の貯水位、及び上流地点流量をそれぞれ下記1)a〜c、2)d〜fの条件式で比較し(Step3、5)、a〜cの何れか、またはd〜fの何れかの条件がYesの場合、Step6以下のフローに従ってゲートの制御を実施する。
【0014】
1)現在貯水位が開制御区間5にある場合(即ち、Step2がYesのとき)、
a[現在貯水位>前回制御判定時の貯水位]かつ、
[現在上流地点流量≧前回制御判定時の上流地点流量]
b[現在貯水位>前回制御判定時の貯水位]かつ
[前回制御判定時の上流地点流量−現在上流地点流量≦α1](α1:設定値)
c[前回制御判定時の貯水位−現在貯水位<α2](α2:設定値)かつ、
[現在上流地点流量−前回制御判定時の上流地点流量≧α3](α3:設定値)
2)現在貯水位が閉制御区間6にある場合(即ち、Step4がYesのとき)、
d[現在貯水位<前回制御判定時の貯水位]かつ、
[現在上流地点流量≦前回制御判定時の上流地点流量]
e[現在貯水位<前回制御判定時の貯水位]かつ、
[現在上流地点流量−前回制御判定時の上流地点流量≦β1](β1:設定値)
f[現在貯水位−前回制御判定時の貯水位<β2](β2:設定値)かつ、
[前回制御判定時の上流地点流量−現在上流地点流量≧β3](β3:設定値)
【0015】
上記条件bに関連して、貯水位の変動傾向が増加方向であった場合において、上流地点流量8が設定値α1より大きく減少した場合は、近い将来に流入量が減少することが予想されるため、開制御を実施しない。
上記条件cでは、貯水位の変動傾向が設定値α2より小さな下降であった場合において、設定値α3以上の上流地点流量の増加があった場合は、近い将来に流入量が増加することが予想されるため、開制御を実施する。
上記条件eに関連して、貯水位の変動傾向が減少方向であった場合において、上流地点流量が設定値β1より大きく増加した場合は、近い将来に流入量が増加することが予想されるため、閉制御は実施しない。
上記条件fでは、貯水位の変動傾向が設定値β2より小さな上昇であった場合において、設定値β3以上の上流地点流量の減少があった場合は、近い将来に流入量が減少することが予想されるため、閉制御を実施する。
【0016】
ダムのゲートの開制御または閉制御は、上記Step3またはStep5の判定結果がYesの場合に、制御量演算処理部32は、制御判定処理部31からの開制御か閉制御かを含む情報に基づいてゲート制御量、即ち目標開度を算出、設定して、その結果をゲート制御指示部33に渡し(Step6)、ゲート制御指示部33は、入出力処理部20のゲート制御出力処理部22にゲート指令出力として送信し(Step7)、ゲート制御出力処理部22は図示省略しているゲートを駆動するゲート機に制御信号出力11を送出し(Step8)、現在ゲート開度、即ちフィードバックされる開度データ2が目標開度に等しくなったかを判定し(Step9)、現在ゲート開度が目標開度に等しくなったとき、即ちStep9の判定がYesのときにゲート停止を行なう(Step10)ことによって制御される。
【0017】
次に、上流地点の流量の変動と、ダムの貯水位の変動について図3、図4、図5を参照して説明する。図3は上流地点流量の時間変動例を示しており、Δtは図1の制御判定間隔9で設定された制御判定間隔を示し、(1)〜(4)は各制御判定時点及び該制御判定時点における流量の変動傾向(増加または減少)を示す。図4は上流地点流量の変動を加味せずにダムの貯水位が開制御区間、不感帯、閉制御区間の何れにあるかによって単純にゲートを制御した場合を比較例として示す貯水位の時間変動例、図5は実施の形態1による水位制御システムで上流地点流量の変動傾向を加味して制御した場合の貯水位の時間変動例を示し、Δtは同様に制御判定間隔を示し、(1)〜(4)は各制御判定時点と、そのときにおける判定結果を示している。
【0018】
図4において、(1)では貯水位が開制御区間かつ前回制御判定時から上昇方向に変化しているため、制御を実施する。しかし、図3において、同時刻(1)の上流地点流量の変化方向では大きく減少しており、図4の(1)から(2)の間では、上流地点流量の影響により流入量が減少し、かつゲートの開制御が実施されたため、貯水位が大幅に変化し、閉制御区間まで下降している。
【0019】
これに対して、図5に示す実施の形態1における水位一定制御の場合、制御判定時点(1)では貯水位が開制御区間5(Step2の判定が「Yes」)、かつ前回制御判定時から上昇方向に変化しているが、図3の同時刻(1)において、上流地点流量が大きく減少しているため、Step3における判定条件aまたはbまたはcの何れにも当てはまらず、判定結果が「No」となるのでゲートの制御を実施しない。ゲートは前回制御実施時の状態、例えば少量開放した状態が維持される。
【0020】
これにより、図5の制御判定時点(1)から(2)の間では、ゲート制御を実施していないため、貯水位が大幅に下降することを防いでいる。以降、制御判定間隔Δt経過時点の(2)、(3)、(4)では、図4の比較例では(2)と(3)でそれぞれ制御を実施することになったのに対し、この実施の形態1では(1)で制御を実施しなかったことが反映されて、何れもダムの貯水位が不感帯7にあるためゲートの制御を実施しないが、基準水位4は維持されている。そして、ダムの貯水位の変動は上流地点流量の変動が所定の時間差で影響している程度になっている。
【0021】
上記説明したように、この実施の形態1では、開制御区間5、閉制御区間6、不感帯7を設けてダムの貯水位を一定に制御する場合におけるゲートの制御要否の判定に、現在貯水位及び前回制御判定時の貯水位の比較、並びに現在上流地点流量及び前回制御判定時の上流地点流量の比較を組み合わせたものを使用する。上流地点流量は近い将来の流入量の増減と同様の変化をするため、近い将来の流入量の変化を見込んだ制御要否判定が実施できるようになり、ダムの貯水位を目標とする基準水位により正確に制御できる。
【0022】
実施の形態2.
図6及び図7はこの発明の実施の形態2によるダム水位制御システムを説明するものであり、図6は要部を示す構成図、図7は図6のダム水位制御システムによる制御例を示すフロー図である。この実施の形態2によるダム水位制御システムの構成は、上記図1に示す実施の形態1の制御量演算処理部32に対する演算要素として、近い将来の流入量の変動を見込んだゲート制御量を算出するために所定の掛け率γ(12)を加えるようにしたもので、その他の構成は図1と同様であるので説明を省略する。
【0023】
次に図7のフロー図を参照して実施の形態2の動作について説明する。図7において、Step1〜5は上記実施の形態1と同様である。Step3、またはStep5の判定結果が「Yes」となり、ゲート制御実施の判断がされた場合、目標放流量、現在流入量、制御判定間隔、現在貯水量、及び目標貯水量の間には、
(目標放流量−現在流入量)×制御判定間隔=現在貯水量−目標貯水量
の関係式が成立することから、制御量演算処理部32は下記式1にて求められる目標放流量からゲート制御量Aを算出する(Step11A、Step11B)。
なお、上記[(目標放流量−現在流入量)×制御判定間隔]は制御判定間隔9の間でのダムの貯水変化量であり、[現在貯水量−目標貯水量]は基準水位4に到達するために必要な放流量を示す。また、現在流入量及び現在貯水量の算出は、通常のダム制御装置に具備されている機能をそのまま用いることができるものであるので、図6において図示を省略している。
【0024】
目標放流量=(現在流入量×制御判定間隔+現在貯水量−目標貯水量)/制御判定間隔 ・・・・・(式1)
但し、
目標放流量:基準水位4到達に必要な放流量
現在流入量:ダムへの現在の流入量算出値
制御判定間隔:制御判定を実施してから次の制御判定を実施するまでの時間(秒)
現在貯水量:現在のダムの貯水量
目標貯水量:基準水位に対する貯水量
【0025】
上記式1により基準水位に到達させるために必要な目標放流量を算出し、算出された目標放流量からゲート制御量Aを算出する。なお、目標放流量とゲート制御量Aとの関係は、対象とするダムや設備されたゲートの諸元から別途計算及び試験等により求められた関係式により一義的に算出されるものであるので詳細説明は省略する。求められたゲート制御量Aに対し、前回制御判定時と現在の上流地点流量の変動傾向を、下記g、h、i、またはjに分け、それぞれ予め設定された異なる掛け率γ(γ1〜γ4)を乗じてゲート制御量を増減させる(Step3A、5A、11C、11D、11E、11F)。
【0026】
g 開制御時かつ[現在上流地点流量≧前回制御判定時の上流地点流量]の場合、
ゲート制御量=ゲート制御量A×γ1(但し、γ1>1)
h 開制御時かつ[現在上流地点流量<前回制御判定時の上流地点流量]の場合、
ゲート制御量=ゲート制御量A×γ2(但し、0<γ2<1)
i 閉制御時かつ[現在上流地点流量≦前回制御判定時の上流地点流量]の場合、
ゲート制御量=ゲート制御量A×γ3(但し、γ3>1)
j 閉制御時かつ[現在上流地点流量>前回制御判定時の上流地点流量]の場合、
ゲート制御量=ゲート制御量A×γ4(但し、0<γ4<1)
【0027】
上記gでは、開制御時にて上流地点流量が増加方向のため、近い将来では流入量が増加すると予測されるため、ゲート制御量をゲート制御量Aよりも大きくする。
上記hでは、開制御時にて上流地点流量が減少傾向のため、近い将来では流入量が減少すると予測されるため、ゲート制御量をゲート制御量Aよりも小さくする。
上記iでは、閉制御時にて上流地点流量が減少傾向のため、近い将来では流入量が減少すると予測されるため、ゲート制御量をゲート制御量Aよりも大きくする。
上記jでは、閉制御時にて上流地点流量が増加方向のため、近い将来では流入量が増加すると予測されるため、ゲート制御量をゲート制御量Aよりも小さくする。
【0028】
次に、上記のようにしてStep11C、11D、11E、または11Fで、ゲート制御量Aに所定の掛け率γを乗じて算出されたゲート制御量に対応してStep6Aでゲートの目標開度を設定し、以下実施の形態1と同様にしてStep7〜Step10で、設定に従ってゲートの制御が実施される。
【0029】
上記のように実施の形態2によれば、前回制御判定時と現在の上流地点流量を比較し、上流地点流量の変動傾向によって、近い将来での流入量の変化を予測し、ゲート制御量を所定の掛け率γを乗じて変化させることにより、現在貯水位から基準水位に到達するために必要な放流量よりも過放流、もしくは過少放流となってしまうことを防ぎ、ダムの貯水位を目標とする基準水位により正確に保持するような放流を行なうことが可能となる。
【0030】
実施の形態3.
図8はこの発明の実施の形態3によるダム水位制御システムの要部を示す構成図である。この実施の形態3は、上記図1に示す実施の形態1のダム水位制御システムに、流入量予測処理部40を追加し、その流入量予測処理部40の有する流入量予測機能41から提供される予測流入量13のデータを制御判定処理部31に加えるようにしたものである。なお、動作フローは図2と同様であるので、以下、図8、及び図2を参照して実施の形態3の動作を具体的に説明する。
【0031】
この実施の形態3のダム水位制御システムでは、演算処理部30の制御量演算処理部32によるStep6(図2)のゲート制御量(目標開度)算出・設定の演算処理において、上記実施の形態1、2で用いた現在流入量に代えて、ダム水位制御システムに設けられた流入量予測機能41から算出された予測流入量13を用いて目標放流量を算出することによって、算出した目標放流量の誤差をより小さくするようにしたものである。なお、流入量予測機能41からは例えば毎分にて流入量を取得するため、目標放流量を演算するための式は下記式2を用いる。
【0032】
[Σ(目標放流量−予測流入量)=(現在貯水量−目標貯水量)]・・・・・(式2)
但し、
目標放流量:基準水位到達に必要な放流量
予測流入量:流入量予測機能から得たの流入量予測値
現在貯水量:現在のダムの貯水量
目標貯水量:基準水位に対する貯水量
なお、その他の動作については、上位実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0033】
上記のように、この実施の形態3によれば、制御量演算処理部32による目標放流量の算出式に流入量予測機能41から得た毎分の予測流入量13を用いるようにしたことにより、次の制御判定までの流入量の変動を見込んだ目標放流量の演算ができるため、より精度の高い目標放流量が算出できので、過放流もしくは過少放流となって、貯水位を基準水位に維持できなくなる事態を回避できる。
【0034】
実施の形態4.
図9ないし図11はこの発明の実施の形態4によるダム水位制御システムを説明するもので、図9はその要部を示す構成図、図10は図9のダム水位制御システムによる制御例を示すフロー図、図11は上流地点流量の変動幅に応じて制御判定間隔を変更した例を示す説明図である。この実施の形態4は、図1に示す実施の形態1では、制御判定間隔がΔtで一定としたのに対し、上流地点の流量の変動幅に応じて制御判定間隔を自動的に切り替えて制御をきめ細かく行なえるようにしたもので、制御間隔を切り替えるかの判定値φ(9B)と、予め設定された制御判定間隔T1、T2(但し、T1>T2)(9A)を追加したものである。その他の構成は上記実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0035】
次に図10のフロー図を参照して実施の形態4の動作について説明する。Step1〜Step6のゲート制御量(目標開度)の算出、設定までは実施の形態1と同様である。Step6に次ぐStep11Aでは、下記条件式l(lはローマ字、「エル」)による上流地点流量の変化量の判定、即ち、現在上流地点流量と前回制御判定時における上流地点流量との差の絶対値が予め設定されたしきい値である判定値φ未満であるかの判定が行なわれ、判定結果がNoの場合、即ち判定値φよりも大きい場合(この場合は下記の条件式kを満たしている)、Step11Dにより、次回の制御判定間隔を通常のT1からT2に変更する。(但し、T1>T2。T1、及びT2は設定値)
【0036】
上記制御判定間隔の切り替えは例えば下記選択式の任意の一方にて行なう。
k[|現在上流地点水位−前回制御判定時の上流地点流量|≧φ]であればT2を選択。
l[|現在上流地点水位−前回制御判定時の上流地点流量|<φ]であればT1を選択。
なお、Step11Aでは、lを満たすか否かの判定結果で切り替えている。
【0037】
また、T2からT1へ戻す場合、kを満たした後、即ち、図10のフロー図ではStep11Aの「lを満たす」か否かの判定結果が「No」となった後、上流地点流量が小さくなり、その後連続N回(Nは設定値)の制御判定時にてlを満たした場合(Step11B)、制御判定間隔をT2からT1に戻す(Step11C)。以降、Step7〜Step10により、実施の形態1と同様にしてゲートの制御が行なわれる。
【0038】
図11は設定された判定値φと、上流地点流量の変動に伴って制御判定間隔が変更された例を示しており、経過時点(1)で上記式kを満たしたため、即ち、図10のフロー図ではStep11Aの「lを満たす」か否かの判定結果が「No」であるため、Step11Dにて次回制御判定間隔にT2が設定される。(2)、(3)にてN回(この例ではN=2)連続してlを満たしたため、その次の経過時点(4)では制御判定間隔がT1に戻されたことを示している。
【0039】
上記のように、この実施の形態4によれば、所定の制御判定間隔における上流地点流量の変化量(変動幅)に対してしきい値φを判定値として設定し、変動幅がφを超える非常に大きな場合において、制御判定間隔を切り替え、貯水位ならびに上流地点流量の変動傾向を短い間隔で監視するようにしたことにより、急激な流入量変化に伴う貯水位変化にも対応することが可能となり、貯水位を基準水位に近づけた制御を行なうことができる。
【0040】
実施の形態5.
図12及び図13はこの発明の実施の形態5によるダム水位制御システムを説明する図であり、図12は要部を示す構成図、図13は自動選択を実施する場合の動作例を示すフロー図である。この実施の形態5は実施の形態1に係る図1の演算処理部30において、制御判定処理部31に制御条件判定処理部35を加えたものである。図において、14はしきい値ωである。その他の構成は、上記実施の形態1と同様であるので説明を省路する。この実施の形態5では、制御条件判定処理部35において、上流地点流量の変動傾向を制御要否判定に用いるStep3、Step5の追加・削除(もしくは実施・不実施)を任意または自動にて選択できるようにしたものである。自動によるStep3、Step5の追加・削除要否の判定は、ダムに対する現在流入量と、ダムの貯水位の変動傾向に応じて行われる。
【0041】
次に図13のフロー図を参照して実施の形態5の動作について説明する。図13において、Step2またはStep4で実施の形態1と同様に貯水位の判定を行なった後、この実施の形態5では、Step3またはStep5による制御判定の前に、Step12AまたはStep12Cで、下記選択式mにより現在流入量が予め設定されたしきい値ω以上であるかのチェック、判定を行なう。
選択式
m[現在流入量≧ω](但し、ωは予め設定されたしきい値)
【0042】
上記選択式mを満たす場合、即ちStep12AまたはStep12Cの判定結果がYesの場合、Step3またはStep5に進み、実施の形態1と同様に上流地点水位データを用いて制御判定を実施する。以降、実施の形態1と同様にゲート制御が行なわれる。一方、選択式mを満たさない場合、即ちStep12AまたはStep12Cの判定結果がNoの場合、開制御区間ではStep12Bで下記条件nを満たすか否か、閉制御区間ではStep12Dで下記条件oを満たすか否かの判定が行なわれ、満たす場合、即ちStep12AまたはStep12Cの判定結果がYesの場合、制御判定条件に上流地点流量の変動傾向を用いるStep3またはStep5の判定をバイパスし、即ち削除し、Step6でゲート制御量(目標開度)の算出、設定が行なわれる。Step12B、またはStep12Dの判定結果がNoの場合はゲート制御を実施せず、Step1に戻る。つまり、下記n、o、で示す貯水位の位置と変動傾向(変化方向)にて制御要否を決定する。
【0043】
開制御実施
n現在貯水位が開制御区間5にある場合、かつ
[前回制御判定時の貯水位<現在貯水位]
閉制御実施
o現在貯水位が閉制御区間6にある場合、かつ
[前回制御判定時の貯水位>現在貯水位]
なお、しきい値ωによって、上記条件によりStep3、5の削除(バイパス)を決定する条件追加の選択について、任意または自動にするかは、あらかじめ設定できるものとし、任意選択を設定した場合は、自動による条件削除は行なわない。また、Step6以降の動作は上記実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0044】
上記のように、この実施の形態5によれば、使用する上流地点水位局によっては、高水時は上流地点流量の変動幅が大きいが、通常時は変動幅が小さく、かつ頻繁に上昇・下降を繰り返している場合など、上流地点流量の変動傾向の判定が制御要否条件において有効ではない場合において、任意、自動により上流地点流量による判定条件の追加・削除要否を判断し、選択することにより、よりダムの状況に応じた水位一定制御が可能となる。
【0045】
ところで、上記実施の形態の説明で示したフロー図や、判定に用いた条件式は一例を示したものに過ぎず、同様の作用効果を得るために適宜に変形や変更ができることは当然である。また、実施の形態2〜5に示す互いに異なる機能を適宜組み合わせることも差し支えなく、その場合には組み合わせによる相乗効果も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】この発明の実施の形態1によるダム水位制御システムの要部構成を示すブロック図。
【図2】図1のダム水位制御システムによる制御例を示すフロー図。
【図3】ダムと同一水系の上流地点流量の時間変動例を示す測定図。
【図4】比較例として従来の水位一定制御を行なった場合における制御判定とダムの貯水位の時間変動例を示すダム水位変動図。
【図5】図2に示すフロー図によって水位一定制御を行なった場合の制御判定とダム貯水位の時間変動例を示すダム水位変動図。
【図6】この発明の実施の形態2によるダム水位制御システムの要部を示す構成図。
【図7】図6のダム水位制御システムによる制御例を示すフロー図。
【図8】この発明の実施の形態3によるダム水位制御システムの要部を示す構成図。
【図9】この発明の実施の形態4によるダム水位制御システムの要部を示す構成図。
【図10】図9のダム水位制御システムによる制御例を示すフロー図。
【図11】上流地点流量の変動に応じて制御判定間隔を変更した例を示す説明図。
【図12】この発明の実施の形態5によるダム水位制御システムの要部を示す構成図。
【図13】図12のダム水位制御システムにおいて、自動選択を実施する場合の動作例を示すフロー図。
【符号の説明】
【0047】
1 貯水位データ、 2 開度データ、 3 上流地点水位データ、 4 基準水位、 5 開制御区間、 6 閉制御区間、 7 不感帯、 8 上流地点流量、 9 制御判定間隔、 9A 制御判定間隔(T1、T2)、 9B 制御判定間隔判定値(φ)、 10 制御判定設定値(α・β)、 11 制御信号出力、 12 掛け率(γ)、 13 予測流入量、 14 しきい値(ω)、 20 入出力処理部、 21 入力処理部、 22 ゲート制御出力処理部、 30 演算処理部、 31 制御判定処理部、 32 制御量演算処理部、 33 ゲート制御指示部、 34 流量演算処理部、 35 制御条件判定処理部、 40 流入量予測処理部、 41 流入量予測機能。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダムの貯水位が所定レベルを維持するように放流用のゲートの開閉により制御するダム水位制御システムにおいて、上記ダムの貯水位データ、上記ゲートの開度データ、及び該ダムと同じ水系の上流地点水位データを入力する入力処理部と、この入力処理部に入力されたデータに基づいて制御判定を行なう制御判定処理部と、上記ゲートの制御量を算出する制御量演算処理部とを有する演算処理部を備え、上記制御判定処理部は、所定時間毎に現在貯水位が基準水位に対して設定された開制御区間、閉制御区間、及び制御を行なわない不感帯の何れに属するかの判定と、この判定結果、並びに前回制御判定時と今回制御判定時における上記ダムの貯水位、及び上記上流地点水位データを用いて上記ゲートの制御を行なうか否かの判定を行なうようにしてなることを特徴とするダム水位制御システム。
【請求項2】
上記制御量演算処理部は、上記制御判定処理部による判定の結果、上記ゲートの制御を行なうときに、次式(1)により算出された目標放流量に基づいてゲート制御量Aを算出するようにしてなることを特徴とする請求項1に記載のダム水位制御システム。
目標放流量=(現在流入量×制御判定間隔+現在貯水量−目標貯水量)/制御判定間隔 ・・・・・(式1)
但し、
目標放流量:基準水位到達に必要な放流量
現在流入量:現在の流入量算出値
制御判定間隔:制御判定を実施してから次の制御判定を実施するまでの時間
現在貯水量:現在のダムの貯水量
目標貯水量:基準水位に対する貯水量
【請求項3】
上記ダムへの予測流入量を出力する流入量予測機能を備え、上記制御量演算処理部は、上記ゲートの制御を行なうときに、この流入量予測機能によって出力された予測流入量を用いた次式(2)により算出された目標放流量に基づいてゲート制御量Aを算出するようにしてなることを特徴とする請求項1に記載のダム水位制御システム。
{Σ(目標放流量−予測流入量)=(現在貯水量−目標貯水量)}・・・・・(式2)
目標放流量:基準水位到達に必要な放流量
予測流入量:流入量予測機能から得た流入量予測値
現在貯水量:現在のダムの貯水量
目標貯水量:基準水位に対する貯水量
【請求項4】
上記制御量演算処理部は、上記算出されたゲート制御量Aに対し、上記上流地点における流量の増減傾向に応じて、予め定められた掛け率γ(但し、1<γ、または0<γ<1)を乗じることにより、ゲート制御量を増減させるようにしたことを特徴とする請求項2または請求項3の何れかに記載のダム水位制御システム。
【請求項5】
上記制御量演算処理部は、上記上流地点水位データの変動傾向に応じて上記制御判定処理部による制御判定間隔を可変にするようにしてなることを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れかに記載のダム水位制御システム。
【請求項6】
上記演算処理部は、上記ダムにおける現在流入量について、予め設定されたしきい値ωに対する判定を行なう制御条件判定処理部を備え、この制御条件判定処理部による判定結果がしきい値ωを超えているときには上記制御判定処理部による上記上流地点水位データを条件に入れた判定を行い、上記制御条件判定処理部による判定結果がしきい値ωを下回るときには該制御判定処理部による上記上流地点水位データを条件に入れた判定をバイパスし、上記ダムにおける貯水位の変動傾向に応じて上記ゲートの制御の判定を行なうことを特徴とする請求項1ないし請求項5の何れかに記載のダム水位制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−171845(P2006−171845A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359752(P2004−359752)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】