説明

チアゾール環状多量体、その製造方法、その合成中間体およびその利用

式(I)


(式中、Rは、それぞれ、独立に、水素原子、置換基を有してもよい低級アルキル基、−CHSHで表される基、ホルミル基またはカルボキシル基であり、nは1〜4のいずれかの整数である。)で表される新規なチアゾール環状多量体またはその薬理上許容される塩。上記化合物の製造方法および合成中間体、並びに、上記化合物を含有するテロメラーゼ阻害剤および医薬組成物が提供される。本発明の化合物は、テロメラーゼに選択的に作用し(すなわち、テロメラーゼへの阻害作用が大きく、Taq polymeraseや他の逆転写酵素への阻害作用が小さい)、かつ毒性がないあるいは低いので、テロメラーゼに対する選択的阻害剤としての利用価値が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、チアゾール環状多量体およびその利用に関する。
【背景技術】
従来の抗癌剤は、正常細胞と癌細胞の選択性が乏しく、そのため副作用が問題となっている。テロメラーゼは、染色体末端部に存在するテロメアの伸長反応を司る酵素であり、正常な体細胞では発現していないのに対して、85〜90%の癌細胞においては高度に発現していることが知られている。したがって、テロメラーゼ阻害剤は、分子標的薬の一つとして、癌細胞選択的な抗癌剤となることが期待される。
テロメラーゼによるテロメア伸長反応の過程において、テロメアDNAの4つのグアニン残基が自己会合することにより高次構造をとることが知られており、この高次構造はG−カルテット構造(図1)と呼ばれている。G−カルテット構造と相互作用し、テロメラーゼ抑制活性を持つ低分子化合物(2,6−diamido anthraquinone、porphirin、perylene、ethidiumbromide、3,3’−diethyloxyadicarbocyanine)が報告されている(TiPS−April 2000(Vo.21),pp.136−141)。
本発明は、テロメラーゼによるテロメア伸長反応の過程で見られるDNAのG−カルテット構造と相互作用し、テロメラーゼ活性を阻害する新規な化合物を提供することを目的とする。
【発明の開示】
本発明者は、テロメアグアニン四重鎖に作用し、G−カルテット構造を安定化させることで、テロメラーゼ活性を阻害する新規人工分子として、チアゾール環をアミド結合により連結した環状多量体を設計し、化学合成した。さらに、この化合物が効果的にテロメラーゼ活性を阻害することをTRAP(Telomeric Repeat Amplification Protocol)法により確認した。本発明は、これらの知見により完成されたものである。すなわち、本発明は、式(I)

(式中、Rは、それぞれ、独立に、水素原子、置換基を有してもよい低級アルキル基、−CHSHで表される基、ホルミル基またはカルボキシル基であり、nは1〜4のいずれかの整数である。)
で表される化合物またはその薬理上許容される塩を提供する。
式(I)において、Rは、それぞれ、独立に、水素原子、置換基を有してもよい低級アルキル基、−CHSHで表される基、ホルミル基またはカルボキシル基である。Rの低級アルキル基としては、炭素数1〜4のアルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル等などを挙げることができ、低級アルキル基の置換基としては、ヒドロキシル基、アミノ基、ジメチルアミノ基などを挙げることができる。
式(I)で表される化合物またはその薬理上許容される塩は、テロメラーゼ阻害剤、テロメラーゼが関与する疾患の予防および/または治療剤などとして利用することができる。本発明の化合物は、テロメラーゼに選択的に作用し(すなわち、テロメラーゼへの阻害作用が大きく、Taq polymeraseや他の逆転写酵素への阻害作用が小さい)、かつ毒性がないあるいは低いので、テロメラーゼに対する選択的阻害剤としての利用価値が高い。
また、本発明は、式(4)

で表される化合物を縮合することによりチアゾール環状三量体を形成させる工程を含む、式(2)

で表される化合物またはその薬理上許容される塩の製造方法を提供する。上記の縮合反応は、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)、ペンタフルオロフェニルジフェニルホスフィネート(FDPP)、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、ジイソプロピルカルボジイミド(DIP)、N−エチル−N’−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド(WSCI)、N−エチル−N’−3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド・塩酸塩(WSCI・HCl)、ベンゾトリアゾール−1−イル−トリス(ジメチルアミノ)ホスホニウムヘキサフルオロリン化物塩(BOP)、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)、N−ヒドロキシスクシンイミド(HONSu)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)、3−ヒドロキシ−4−オキソ−3,4−ジヒドロ−1,2,3−ベンゾトリアジシン(HOObt)、それらの2種以上の混合物などの縮合剤を用いて、アセトニトリル、ジクロロメタン、THF、DMF、1,4−ジオキサンなどの溶媒中で、0〜80℃の温度条件にて、1〜24時間の反応時間で行うとよい。縮合剤の使用量は、式(2)で表される化合物1モルに対して、1〜10モル程度であるとよく、好ましくは1〜5モルであり、より好ましくは1〜2モルである。
さらに、本発明は、式(4)

で表される化合物を提供する。この化合物は、式(2)で表される化合物またはその薬理上許容される塩を製造するための中間体として利用することができる。
さらにまた、本発明は、式(I)

(式中、Rは、それぞれ、独立に、水素原子、置換基を有してもよい低級アルキル基、−CHSHで表される基、ホルミル基またはカルボキシル基であり、nは1〜4のいずれかの整数である。)
で表される化合物またはその薬理上許容される塩を有効成分として含有するテロメラーゼ阻害剤を提供する。
本発明は、また、式(I)

(式中、Rは、それぞれ、独立に、水素原子、置換基を有してもよい低級アルキル基、−CHSHで表される基、ホルミル基またはカルボキシル基であり、nは1〜4のいずれかの整数である。)
で表される化合物またはその薬理上許容される塩を有効成分として含有する、医薬組成物を提供する。この医薬組成物は、テロメラーゼが関与する疾患を予防および/または治療するために使用することができる。テロメラーゼが関与する疾患としては癌を例示することができる。
本明細書において、Bocはt−ブチルオキシカルボニル基、Etはエチル基、Meはメチル基、TFAはトリフルオロ酢酸、Acはアセチル基を示す。
本明細書は、本願の優先権の基礎である日本国特許出願、特願2003−43914号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
【図面の簡単な説明】
図1は、テロメアDNAのG−カルテット構造を示す。
図2は、製造例1で製造した化合物(チアゾール環状三量体)がテロメラーゼの活性を阻害することをTRAP法で確認した実験結果を示す。
図3は、製造例1で製造した化合物(チアゾール環状三量体)がTaq polymeraseの活性を阻害するが、その活性はテロメラーゼの阻害活性より低いことをPCR法で確認した実験結果を示す。
図4は、製造例1で製造した化合物(チアゾール環状三量体)の逆転写酵素(ATM)阻害活性が低いことをRT inhibitionアッセイで確認した実験結果を示す。
図5は、製造例1で製造した化合物(チアゾール環状三量体)のHeLa S3細胞に対する細胞毒性が低いことをXTT法で確認した実験結果を示す。
図6は、製造例2で製造した化合物(チアゾール単量体)はテロメラーゼ活性を阻害しないことをTRAP法で確認した実験結果を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
式(2)で表される化合物(化合物2)は、以下に示す反応式に従って、製造することができる。

N−(tert−Butoxycarbonyl)glycine12(東京化成工業(株)より購入)を出発原料とし、Moodyらの方法(C.J.Moody and M.C.Bagley,J.Chem.Soc.,Perkin Trans.I,1998,601−607)に準じて、4行程で化合物16を合成する。合成に用いる試薬、反応条件は上記の合成スキーム中に記載してある。
化合物16を、1,4−ジオキサンに溶解し、0〜40℃(好ましくは25℃)攪拌下、3〜5M(好ましくは4M)の塩酸を加え、室温で3〜10時間(好ましくは6時間)攪拌する。反応終了後、減圧濃縮し、粗化合物4を得る。粗化合物4を、アセトニトリルに溶解し、0〜40℃(好ましくは25℃)攪拌下、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)とペンタフルオロフェニルジフェニルホスフィネート(FDPP)を加え、室温にて12〜24時間(好ましくは22.5時間)攪拌する。反応終了後、蒸留水を加えて、酢酸エチルにより抽出する。有機層を飽和食塩水にて洗浄し、芒硝乾燥後、減圧濃縮する。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製し、化合物2を得る。化合物2は、式(I)において、Rが水素原子であり、nが1である化合物である。
式(I)において、Rが水素原子であり、nが2〜4のいずれかの整数である化合物は、以下のようにして調製することができる。
前述の化合物15のBoc基を、塩化メチレン中、トリフルオロ酢酸(TFA)で処理して脱保護し、トリフルオロ酢酸塩を得る。このトリフルオロ酢酸塩とカルボン酸16を、ジイソプロピルエチルアミン存在下、ホスホニウムヘキサフルオロリン化物塩(PyBOP)を用いて縮合し、鎖状の二量体を得る。さらに、この二量体のBoc基を同様の方法で脱保護し、アミントリフルオロ酢酸塩とした後、再び化合物16と同様な方法で縮合させることで鎖状の三量体を得る。この一連の操作の繰り返しにより、鎖状の四量体、五量体、六量体が得られる。最後に、それぞれの鎖状化合物のエチルエステル基を水酸化リチウムで加水分解し、Boc基を脱保護した後、同様の縮合剤により環化させ、環状の四量体、五量体、六量体を得る。
式(I)において、Rがメチル基であり、nが1である化合物は、以下のようにして調製することができる。
D,L−threonineを出発原料とし、そのアミノ基をBoc基で保護後、トリメチルシリルジアゾメタンを用いたメチルエステル化、続く、Boc基の脱保護により、化合物Aを合成する。化合物Aの化学構造式を以下に示す。

この化合物Aと、N−(tert−Butoxycarbonyl)glycineを、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)により縮合させ、遊離の水酸基を、Dess−Martin酸化により酸化しケトンへと変換後、Lawesson′s試薬を用いてチアゾール中間体を合成する。さらに、このチアゾール体のメチルエステルを加水分解後、Boc基の脱保護を行い、環化前駆体を得た後、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)を用いて縮合させることで下記の化合物19を合成する。

化合物19より、19のメチル基の二酸化セレンによる酸化でアルデヒドへ変換後、種々のアルキルWittig試薬によるWittig反応、さらには、生じた二重結合の加水素分解による還元により、Rが、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル等であり、nが1である式(I)で表される化合物を合成することができる。
式(I)において、Rが置換基(ヒドロキシル基、アミノ基またはジメチルアミノ基)を有する低級アルキル基で、n=1である化合物は、以下のようにして調製することができる。
化合物19のメチル基を二酸化セレンによる酸化でアルデヒドへと変換後、NaBHで還元することで、Rがヒドロキシメチル基で表される化合物が合成でき、このものに対して、脱離基としてのトシル基の導入、つづくNaNでの処理によりアジド基を導入後、Pd触媒存在下での水素添加によるアミンへの変換およびPd触媒およびホルムアルデヒド存在化での水素添加によるジメチルアミノ基への変換により、Rがアミノメチル基およびジメチルアミノメチル基で表される化合物が合成できる。
式(I)において、Rが−CHSHで表される基で、n=1である化合物は、以下のようにして調製することができる。
化合物19のメチル基を二酸化セレンによる酸化でアルデヒドへと変換後、NaBHで還元し、Rがヒドロキシメチル基で表される化合物が合成でき、このものに対して、脱離基としてのトシル基の導入、つづくPhCOSHでの処理によりチオベンゾイル基を導入後、NaOMeで加水分解することで、Rが、−CHSHであり、nが1である式(I)で表される化合物を合成することができる。
式(I)において、Rがホルミル基またはカルボキシル基で、nが1である化合物は、以下のようにして調製することができる。
化合物19のメチル基の二酸化セレンによる酸化でアルデヒドを得、さらに、そのアルデヒドを亜塩素酸ナトリウムで酸化してカルボン酸へ変換することで、それぞれ、Rが、ホルミル基およびカルボキシル基であり、nが1である式(I)で表される化合物を合成することができる。
式(I)において、Rがメチル基で、nが2〜4のいずれかの整数である化合物は、以下のようにして調製することができる。
化合物Aと、N−(tert−Butoxycarbonyl)glycineを、ジフェニルホスホリルアジド(DPPA)により縮合させ、遊離の水酸基を、Dess−Martin酸化により酸化しケトンへと変換後、Lawesson’s試薬を用いてチアゾール中間体を合成する。このチアゾール中間体のBoc基を、塩化メチレン中、トリフルオロ酢酸(TFA)で処理して脱保護し、トリフルオロ酢酸塩を得る。また、このチアゾール中間体のメチルエステルを加水分解してカルボン酸を得る。このようにして得られたトリフルオロ酢酸塩とカルボン酸を、ジイソプロピルエチルアミン存在下、ホスホニウムヘキサフルオロリン化物塩(PyBOP)を用いて縮合し、鎖状の二量体を得る。さらに、この二量体のBoc基を同様の方法で脱保護し、アミントリフルオロ酢酸塩とした後、再び上述のカルボン酸と同様な方法で縮合させることで鎖状の三量体を得る。この一連の操作の繰り返しにより、鎖状の四量体、五量体、六量体が得られる。最後に、それぞれの鎖状化合物のメチルエステル基を水酸化リチウムで加水分解し、Boc基を脱保護した後、同様の縮合剤により環化させ、環状の四量体、五量体、六量体を得る。
式(I)において、Rが、−CHSHで表される基、ホルミル基またはカルボキシル基で、nが2〜4のいずれかの整数である化合物は、式(I)において、Rが、−CHSHで表される基、ホルミル基またはカルボキシル基で、nが1である化合物の製造方法と同様の方法で、式(I)において、Rがメチル基で、nが2〜4のいずれかの整数である化合物から製造することができる。
式(I)で表される化合物の薬理上許容される塩としては、塩酸塩、リン酸塩などを例示することができる。これらの塩は公知の方法で製造することができ、例えば、式(I)で表される化合物の塩酸塩は、塩酸メタノール溶液で処理することにより得られ、リン酸塩は、ジクロロメタン中、トリエチルアミン存在下、POClと反応させることにより得られる。
式(I)で表される化合物およびその薬理上許容される塩は、テロメラーゼ活性を阻害する効果を有する。従って、これらの化合物は、医薬品として、ヒト、その他の動物に投与してもよいし、実験用の試薬として用いてもよい。これらの化合物は、単独で使用してもよいし、あるいは他の薬剤(例えば、他の抗癌剤)と組み合わせて使用してもよい。
式(I)で表される化合物および薬理上許容されるその塩をヒトに投与する場合には、例えば、1日あたり約10〜100mg/kg(体重)、好ましくは1日あたり約20〜30mg/kg(体重)の投与量で、1回または数回に分けて経口投与するとよいが、その投与量や投与回数は、症状、年齢、投与方法などにより適宜変更しうる。
式(I)で表される化合物および薬理上許容されるその塩は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などの製剤にして、経口投与してもよいし、注射剤、坐剤などの製剤にして、腹腔内や静脈内への注射により非経口投与することもできる。製剤中の式(I)で表される化合物または薬理上許容されるその塩(有効成分)の含有率は、1〜90重量%の間で変動させることができる。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤などの形態をとる場合には、有効成分を5〜80重量%含有させるのが好ましい。シロップ剤などの液剤の場合には、有効成分を1〜30重量%含有させるのが好ましい。さらに、非経口投与する注射剤の場合には、有効成分を1〜10重量%含有させるのが好ましい
式(I)で表される化合物および薬理上許容される塩の製剤化は、賦形剤(乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニトールなどの糖類、バレイショ、コムギ、トウモロコシなどのデンプン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸水素ナトリウムなどの無機物、結晶セルロースなど)、結合剤(デンプンのり液、アラビアゴム、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースなど)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、マクロゴール、シリコーン油)、崩壊剤(デンプン、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、CMC・Na、CMC・Ca、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウムなど)、矯味矯臭剤(乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニトール、芳香性精油類など)、溶剤(注射用水、滅菌精製水、ゴマ油、ダイズ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油など)、安定剤(窒素、二酸化炭素などの不活性ガス、EDTA、チオグリコール酸などのキレート剤、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、L−アスコルビン酸、ロンガリットなどの還元物質など)、保存剤(パラオキシ安息香酸エステル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェノール、塩化ベンザルコニウムなど)、界面活性剤(水素添加ヒマシ油、ポリソルベート80、20など)、緩衝剤(クエン酸、酢酸、リン酸のナトリウム塩、ホウ酸など)、希釈剤などの製剤添加物を用いて、公知の方法で行われる。
式(I)で表される化合物および薬理上許容されるその塩は、テロメラーゼが関与する疾患(例えば、癌)を予防および/または治療するために利用することができる。また、テロメラーゼの研究に利用することができる。
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
[製造例1]化合物2(環状三量体)の合成

N−(tert−Butoxycarbonyl)glycine12を出発原料とし、Moodyらの方法(C.J.Moody and M.C.Bagley,J.Chem.Soc.,Perkin Trans.I,1998,601−607)に準じて、まず、4行程で化合物16を合成した。
化合物16(0.33g,1.55 x 10−3mol)を、1,4 −ジオキサン(9.77ml)に溶解し、0℃攪拌下、4Mの塩酸(1.94ml)を加え、室温で6時間攪拌した。TLCにて反応終了確認後、減圧濃縮し、粗化合物4を得た。粗化合物4(41.5mg,2.62 x 10−4mol)を、アセトニトリル(26.2ml)に溶解し、0℃攪拌下、ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)(89.2μl,5.24 x 10−4mol)とペンタフルオロフェニルジフェニルホスフィネート(FDPP)(0.151g,3.93 x 10−4mol)を加え、室温にて22.5時間攪拌した。TLCにて反応終了確認後、蒸留水(30ml)を加えて、酢酸エチル(30ml x 3)により抽出した。有機層を飽和食塩水(30ml)にて洗浄し、芒硝乾燥後、減圧濃縮した。濃縮残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(3.7g,クロロホルム:メタノール=10:1)にて精製し、化合物2の黄色結晶(22.0mg,収率;59.8%(2step))を得た。
300MHzH−NMR(CDCl)δ(ppm)=5.01(6H,d,J=4.5Hz,−CH),8.21(3H,s,thiazole−H),8.60(3H,br s,NH)
[試験例1]化合物2(環状三量体)のテロメラーゼ活性阻害効果
製造例1で合成した化合物2のテロメラーゼ活性阻害効果をTRAPEZE(登録商標)テロメラーゼ活性検出キット(Intergen Company)で測定した。結果を図2に示す。レーン1および2は、それぞれ、0.1および0.03μgのテロメラーゼタンパク質を添加した陽性コントロールであり、レーン3は、溶解バッファーを添加した陰性コントロールであり、レーン4〜8は、0.1μgのテロメラーゼタンパク質と、それぞれ、化合物2を30、10、3、1および0.3μM添加したものである。レーン1および2の陽性コントロールにおいては、テロメラーゼの作用により、基質のオリゴヌクレオチドが伸長して生じた生成物がラダーを形成している。レーン4〜8においては、化合物2の濃度に依存して、ラダーの形成が消失している。このことから、テロメラーゼ活性は環状三量体を形成している化合物2の濃度に依存して阻害されていることがわかる。IC50の値は16μMであった。
[試験例2]化合物2(環状三量体)のTaq polymerase活性阻害効果
M13mp18ssDNA(TaKaRa)と Ex Taq polymerase(TaKaRa)を用いて、化合物2のTaq polymerase活性阻害効果を測定した。結果を図3に示す。レーン1は、Taq polymeraseを作用させてDNAを増幅した陽性コントロールであり、レーン2〜5は、レーン1と同量のTaq polymeraseに、化合物2をそれぞれ100、30、10および3μM添加したものである。レーン1の陽性コントロールにおいては、Taq polymeraseの作用により増幅されたDNAがバンドとして現れている。一方、レーン2、3においては、化合物2の濃度に依存して、DNAバンドが消失したり薄くなったりしている。このことから、Taq polymerase活性は、環状三量体を形成している化合物2の濃度に依存して阻害されていることがわかる。IC50は58μMであった。
[試験例3]化合物2(環状三量体)の逆転写酵素活性阻害効果
化合物2の逆転写酵素活性阻害効果を、RNA PCR Kit(AMV)Ver.2.1(TaKaRa)により測定した。結果を図4に示す。レーン1は、逆転写酵素を作用させてRNAをcDNAとし、増幅させた陽性コントロールであり、レーン2〜5は、レーン1と同量の逆転写酵素と化合物2を、それぞれ150、50、15および5μM添加したものである。レーン1の陽性コントロールにおいては、逆転写酵素の作用によりRNAがcDNAに変換された後、PCRにより増幅されたDNAがバンドとして現れている。一方、レーン2〜5において、レーン2では、DNAのバンドがわずかに薄くなっているが、レーン3〜5では、コントロールと比較してバンドの濃さに変化はない。このことから、化合物2の逆転写酵素阻害活性は低いことがわかる。IC50は>100μMであった。
[試験例4]化合物2(環状三量体)の細胞毒性効果
化合物2の細胞毒性効果を、ヒト子宮頸部癌由来、HeLa S3細胞(大日本製薬)を用いて、XTT法(ロシュ・ダイアグノスティック(株))により測定した。結果を図5に示す。横軸は化合物2の濃度、縦軸はコントロールに対する細胞生存率を表している。化合物2が100μMの時に初めて、細胞生存率がコントロールよりもわずかに低下している。このことから、HeLa S3細胞に対する化合物2の細胞毒性は低いことがわかる。IC50は>100μMであった。
[製造例2]化合物18(単量体)の合成

N−(tert−Butoxycarbonyl)glycine12を出発原料とし、Moodyらの方法(C.J.Moody and M.C.Bagley,J.Chem.Soc.,Perkin Trans.I,1998,601−607)に準じて、まず、3行程で化合物15を合成した。
化合物15(8.5mg,2.97 x 10−5mol)を、1,4−ジオキサン(0.255ml)に溶解し、0℃攪拌下、4Mの塩酸(44.4μl,8.91 x 10−5mol)を加え、室温にて8.5時間攪拌した。TLCにて反応終了確認後、減圧濃縮することにより、粗化合物17を得た。粗化合物17(5.88mg,2.97 x 10−5mol)を、ピリジン(0.176ml)に溶解し、0℃攪拌下、無水酢酸(3.36μl)を加え、そのまま0℃で10分間攪拌した。TLCにて反応終了確認後、蒸留水(2ml)を加え、酢酸エチル(2ml x 3)にて抽出した。芒硝乾燥後、減圧濃縮し、トルエンで共沸した。濃縮残渣を、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(2.2g,クロロホルム:メタノール=4:1)にて精製し、化合物18の黄色結晶(4.8mg,収率;67.4%(2step))を得た。
300MHzH−NMR(CDCl)δ(ppm)1.47(3H,t,J=8.5Hz,−CH−Et),2.06(3H,s,−CH−Ac),4.41(2H,q,J=8.5Hz,−CH−Et),4.76(2H,d,J=5.7Hz,−CHNH),8.14(1H,s,N
[試験例5]化合物18(単量体)のテロメラーゼ活性阻害効果の測定
製造例2で合成した化合物18のテロメラーゼ活性阻害効果をTRAPEZE(登録商標)テロメラーゼ活性検出キット(Intergen Company)で測定した。結果を図6に示す。レーン1および2は、それぞれ、0.1および0.03μgのテロメラーゼタンパク質を添加した陽性コントロールであり、レーン3は、溶解バッファーを添加した陰性コントロールであり、レーン4〜10は、0.1μgのテロメラーゼタンパク質と、それぞれ、化合物18を1000、300、100、30、10、3、1および0.3μM添加したものである。レーン1および2の陽性コントロールにおいては、テロメラーゼの作用により、基質のオリゴヌクレオチドが伸長して生じた生成物がラダーを形成している。同様に、レーン4〜10においても、ラダーの形成が見られた。このことから、単量体である化合物18はテロメラーゼ活性を阻害しないことがわかる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
【産業上の利用可能性】
本発明により、テロメラーゼ活性を阻害する新規な化合物が提供された。本発明の化合物は、テロメラーゼ阻害剤として、また、癌などのテロメラーゼに関与する疾患を予防および/または治療するための医薬として、有用である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)

(式中、Rは、それぞれ、独立に、水素原子、置換基を有してもよい低級アルキル基、−CHSHで表される基、ホルミル基またはカルボキシル基であり、nは1〜4のいずれかの整数である。)
で表される化合物またはその薬理上許容される塩。
【請求項2】
式(4)

で表される化合物を縮合することによりチアゾール環状三量体を形成させる工程を含む、式(2)

で表される化合物またはその薬理上許容される塩の製造方法。
【請求項3】
式(4)

で表される化合物。
【請求項4】
式(I)

(式中、Rは、それぞれ、独立に、水素原子、置換基を有してもよい低級アルキル基、−CHSHで表される基、ホルミル基またはカルボキシル基であり、nは1〜4のいずれかの整数である。)
で表される化合物またはその薬理上許容される塩を有効成分として含有するテロメラーゼ阻害剤。
【請求項5】
式(I)

(式中、Rは、それぞれ、独立に、水素原子、置換基を有してもよい低級アルキル基、−CHSHで表される基、ホルミル基またはカルボキシル基であり、nは1〜4のいずれかの整数である。)
で表される化合物またはその薬理上許容される塩を有効成分として含有する、医薬組成物。
【請求項6】
テロメラーゼが関与する疾患を予防および/または治療するための請求項5記載の医薬組成物。
【請求項7】
テロメラーゼが関与する疾患が癌である請求項6記載の医薬組成物。

【国際公開番号】WO2004/074295
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【発行日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502723(P2005−502723)
【国際出願番号】PCT/JP2004/001772
【国際出願日】平成16年2月18日(2004.2.18)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【Fターム(参考)】