説明

チェーンASSY組付け冶具

【課題】2本のカムシャフトの夫々に組み付け予定のカムスプロケットとクランクシャフトに組み付け予定のクランクスプロケットに無端チェーンベルトを捲回したチェーンASSYをエンジンに組み付けるための組付け冶具を提供する。
【解決手段】冶具10は、メインロッド12とリンク機構30とスプリング24を備える。メインロッドの一端にはクランクスプロケットを当接するための第1アタッチメント22が固定されている。リンク機構30は、メインロッドの短手方向の両側に伸びており、両端がメインロッドの短手方向に伸縮する。リンク機構30の両端にはカムスプロケットを当接するための第2アタッチメント38が固定されている。スプリング24は、リンク機構30の両端を伸展させる方向に付勢する。この冶具10は、リンク機構30を縮めたときの両端間の長さがエンジンに取付け後のカムスプロケット間距離よりも短くなるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のカムシャフトの夫々に組み付け予定の複数のカムスプロケットとクランクシャフトに組み付け予定のクランクスプロケットに無端チェーンベルトを捲回したチェーンASSYをエンジンに組み付けるための組付け冶具に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンは、クランクシャフトに同期してカムシャフトを回転させるために、スプロケットと無端チェーンベルトを備えている。本明細書では、複数のカムシャフトの夫々に組み付けられるスプロケットをカムスプロケットと称し、クランクシャフトに組み付けられるスプロケットをクランクスプロケットと称する。また本明細書では、複数のカムシャフトの夫々に組み付け予定のカムスプロケットとクランクシャフトに組み付け予定のクランクスプロケットに無端チェーンベルトを捲回した部品セットをチェーンASSYと称する。
【0003】
エンジンの中には、2個のカムシャフトと1個のクランクシャフトを有し、夫々のシャフトにスプロケットを取り付けて無端チェーンベルトでそれらのシャフトを同期回転させるものがある。エンジンの組立工程において3個のスプロケットと無端チェーンベルトを夫々個別にエンジンに組み付けるのは効率が悪い。作業効率の向上を目的として、3個のスプロケットと無端チェーンベルトを配置する板状の冶具をチェーンASSYのエンジンへの組み付けに用いる技術が特許文献1に開示されている。特許文献1の技術は、3個のスプロケットをエンジンへの組み付け予定の位置関係で板状の冶具に配置するとともにそれらのスプロケットに無端チェーンベルトを捲回した状態でそれらを同時にエンジンへ組み付ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−240061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の技術は、チェーンASSYをエンジンに組み付けた後に冶具を外し、最後にスプロケットと無端チェーンベルトを覆うケースカバーをエンジンに取り付ける。ケースカバーがケースに一体に成形されている場合など、スプロケットと無端チェーンベルトを組み付けるための作業スペースが限られている場合には、板状の冶具を使うことができない。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みて創作された。本発明は、狭い作業スペースでスプロケットと無端チェーンベルトを含むチェーンASSYをエンジンへ組み付けることを可能にする冶具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一般的なエンジンは2個のカムスプロケットを有しており、それらの間に間隙が存在する。本発明は、3個のスプロケットと無端チェーンベルトをエンジンへ組み付けるときの位置関係に保持するとともに、チェーンASSYを組み付けた後にカムスプロケットの間隙から抜き出すことができるように構造を工夫した組付け冶具を提供する。
【0008】
本発明の組付け冶具は、メインロッドとリンク機構とスプリングを備える。長尺のメインロッドの一端にはクランクスプロケットを当接するための第1アタッチメントが固定されている。リンク機構は、メインロッドに連結されている。リンク機構は、メインロッド短手方向の両側に伸びており、両端がメインロッドの短手方向に沿って伸縮する。より詳しくは、リンク機構は、短手方向の両端が互いに反対方向に同期して伸縮する。以下では、メインロッドの短手方向を「ロッド短手方向」と略称する。リンク機構のロッド短手方向の両端にはカムスプロケットを当接するための第2アタッチメントが固定されている。リンク機構には、リンク機構の両端をロッド短手方向に伸展させる方向に付勢するスプリングが備えられている。この冶具は、第1アタッチメントにエンジンへ組み付け予定のクランクスプロケットを当接するとともに第2アタッチメントにエンジンへ組み付け予定のカムスプロケットを当接し、クランクスプロケットとカムスプロケットに無端チェーンベルトを捲回したときに、スプリングがリンク機構の両端に位置するカムスプロケットを無端チェーンベルト外側へと付勢してクランクスプロケットとカムスプロケットをエンジンへの組み付け時のレイアウトに保持する。そして、本発明の冶具は、リンク機構を縮めたときのリンク機構両端間の長さがエンジンに組み付け後の2個のカムスプロケット間距離よりも短くなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の冶具は、チェーンASSYをエンジンに組み付けた後、リンク機構の両端間を縮めることによってカムスプロケットの間から抜き出すことができる。本発明の冶具は、スプロケット取り付け位置周辺の作業スペースが狭い場合でもスプロケットと無端チェーンベルトをエンジンへ同時に組み付けることを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】スプロケットと無端チェーンベルトを保持した状態の冶具の平面図である。
【図2】チェーンASSYを組み付け後にリンク機構の両端を縮めた状態の冶具の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施例のチェーンASSY組付け冶具10が有する技術的特徴のいくつかを列挙する。
(1)冶具10のメインロッド12は、サブロッド11と、サブロッド11に嵌挿されており、長手方向にスライドする筒状のシリンダロッド13で構成されている。第1リンク機構30はパンタグラフ構造を有している。リンク機構30の対向する第1と第2のピボット32a、32bの一方がシリンダロッド13に固定されているとともに他方がサブロッド11に固定されている。シリンダロッド13のスライド動作に連動して対向する第3と第4のピボット32c、32dがロッド短手方向に伸縮する。そして、対向する第3と第4のピボット32c、32dの夫々に作業者が把持するグリップ40が取り付けられている。第3と第4のピボット32c、32dの夫々と第2ピボット32bを連結するリンク36a、36bが、第2ピボット32bを超えて延びておりその2本のリンクの先端に第2アタッチメント38a、38bが夫々固定されている。別言すれば、第1リンク機構は、シリンダロッド13とサブロッド11の相対的なスライド動作に連動してロッド短手方向の両端が互いに反対向きに伸縮するパンタグラフ式のリンク構造を構成している。そして、第2ピボット32bを超えて延びているロッド短手方向の両端に第2アタッチメント38a、38bが取り付けられている。
【0012】
上記(1)の構造は、作業者が両グリップを強く把持するとパンタグラフ式の第1リンク機構両端間の長さを縮めることができる。即ち上記(1)の構造を有する冶具10は、ワンタッチでエンジンから抜き出すことができる。
【0013】
(2)冶具10は、サブロッド11のスライドに連動して対向する2つのピボット52d、52eがロッド短手方向に伸縮するパンタグラフ式の第2リンク機構50をさらに備えている。第2リンク機構50の2つのピボット52d、52eに、カムスプロケット90a、90bとクランクスプロケット96の間に配置されるチェーンガイド94を無端チェーンベルト92の外側へ押し付ける第3アタッチメント60が取り付けられている。上記(2)の構造を有する冶具10は、チェーンガイドを含むチェーンASSYをエンジンへ組み付けることができる。
【実施例】
【0014】
図1に、チェーンASSY組付け冶具10の模式的平面図を示す。チェーンASSY組付け冶具10は、2個のカムスプロケット90a、90b、1個のクランクスプロケット96、それらのスプロケットに捲回された無端チェーンベルト92、及び、カムスプロケットとクランクスプロケットの間で無端チェーンベルトを案内するチェーンガイド94を同時にエンジンへ組み付けるための冶具である。3個のスプロケット90a、90b、96、無端チェーンベルト92、チェーンガイド94を合わせて「チェーンASSY」と総称する。また、以下では、チェーンASSY組付け冶具10を「冶具10」と略称し、無端チェーンベルト92を「チェーン92」と略称する。
【0015】
冶具10は、メインロッド12、第1リンク機構30、及び第2リンク機構50を備えている。メインロッド12は、サブロッド11に中空のシリンダロッド13がスライド可能に嵌挿された2重構造を有している。第1リンク機構30と第2リンク機構50はパンタグラフ式のリンク構造を有しており、シリンダロッド13のスライド動作に連動して伸縮する。サブロッド11の先端(メインロッド12の先端)には、クランクスプロケット96に当接するための第1アタッチメント22が取り付けられている。第1アタッチメント22、及び、後述する第2アタッチメント38a、38bは、円板状のスプロケットに押し当てるための部材である。いずれのアタッチメントも、スプロケットの周面とほぼ同じの曲率の湾曲面を有しており、その湾曲面には滑り止めのラバーが貼着されている。
【0016】
図1に示す符号26は、サブロッド11の上端のフランジとシリンダロッド13の上端がスライド動作時に衝突する際の衝撃を和らげる緩衝用スプリングを示している。
【0017】
メインロッド12と第1リンク機構30について詳細に説明する。第1リンク機構は、4本のリンク34a、34b、34c、34dで構成されている。4本のリンク34a−34dは、4個のピボット32a、32b、32c、32dで相互に連結されたパンタグラフ構造を構成している。別言すると、4本のリンク34a−34dは、4個のピボット32a−32dで連結された四辺形の閉リンク系を構成している。「ピボット」とは、リンクを揺動可能に連結する揺動軸を意味する。
【0018】
第1リンク機構の対向する一対のピボット32a、32bのうち、第1ピボット32aがシリンダロッド13に連結しており、第2ピボット32bがシリンダロッド13に形成された長孔14を通してサブロッド11に連結している。他の一対のピボット32cと32dは、ロッド短手方向の両側に位置している。「ロッド短手方向」とは、長尺のメインロッド12の延びる方向に交差する方向を意味する。
【0019】
第3ピボット32cと第2ピボット32bを連結するリンク36bは第2ピボット32bを超えて延びており、その先端に第2アタッチメント38bが固定されている。同様に、第4ピボット32dと第2ピボット32bを連結するリンク36aは第2ピボット32bを超えて延びており、その先端に第2アタッチメント38aが固定されている。ロッド短手方向の両側に位置する第2アタッチメント38aの先端と第2アタッチメント38bの先端が、第1リンク機構30の両端に相当する。
【0020】
サブロッド11とシリンダロッド13はスプリング24で連結されている。スプリング24の一端がサブロッド11に連結されており、他端がシリンダロッド13に連結されている。スプリング24は、サブロッド11とシリンダロッド13を、対向する一対のピボット32aと32bを近づける向きに付勢している。
【0021】
上記の第1リンク機構は、次のとおり表現することもできる。第1リンク機構は、対向する一対のピボット32a、32bがメインロッド12に連結しており、シリンダロッド13とサブロッド11の相対的スライド動作に連動してロッド短手方向の両端が互いに逆方向に伸縮するパンタグラフ式のリンク構造を有している。また、スプリング24は、パンタグラフ式の第1リンク機構30両端の第2アタッチメント38a、38bをロッド短手方向の両側へ拡げるように付勢している。
【0022】
ロッド短手方向の両側に位置する一対のピボット32c、32dには夫々作業者が把持するグリップ40が取り付けられている。作業者が一対のグリップ40を強く握ると、第1リンク機構30の一対のピボット32a、32bが互いに離反する方向にシリンダロッド13がスライドし、第1リンク機構30両端の第2アタッチメント38a、38bの間の距離が狭まる。作業者が力を緩めると、スプリング24の付勢力によって、第2アタッチメント38a、38bの間の距離が拡がる。
【0023】
第2リンク機構50について説明する。第2リンク機構50は、メインロッド12に連結されており、シリンダロッド13のスライド動作に連動してロッド短手方向に伸縮するパンタグラフ式のリンク構造を構成している。第2リンク機構50は、6本のリンクが、7つのピボット52a、52b、52c、52d、52e、52f、及び52gで連結されており、四辺形の閉リンクが2個連なったリンク構造を構成している。4個のピボット52a、52c、52d、52eを連結するリンク群が一方の四辺形閉リンクを構成する。4個のピボット52b、52c、52f、52gを連結するリンク群が他方の四辺形閉リンクを構成する。第1ピボット52aがシリンダロッド13に連結しており、第2ピボット52bがサブロッド11に連結している。第1ピボット52aと第2ピボット52bの間に位置するピボット52cはメインロッド12に連結されていない。
【0024】
作業者が一対のグリップ40を強く握るとシリンダロッド13がスライドし、パンタグラフ式の第2リンク機構50がロッドの長手方向に伸展するとともに、ロッド短手方向に縮む。作業者が力を緩めると、スプリング24の付勢力によってシリンダロッド13が逆方向にスライドし、パンタグラフ式の第2リンク機構50はロッド短手方向の両側に拡がる。
【0025】
ロッド短手方向の両側に位置するピボット52d、52e、52f、52gの夫々に、第3アタッチメント60が取り付けられている。第3アタッチメント60は、チェーンASSYをエンジンに組み付ける際に、チェーンガイド94に当接する。
【0026】
冶具10の用法を説明する。冶具10は、チェーンASSYをエンジンに組み付けるための冶具である。作業者は、グリップ40a、40bを強く握って第2アタッチメント38a、38bの間の距離を縮めてから、チェーンASSYを構成する部品群(カムスプロケット90a、90b、クランクスプロケット96、チェーン92、チェーンガイド94)を冶具10で保持する。具体的には、クランクシャフトに組み付け予定の1個のクランクスプロケット96を第1アタッチメント22に当接し、2本のカムシャフトの夫々に組み付け予定の2個のカムスプロケット90a、90bを第2アタッチメント38a、38bに当接するとともに、それら3個のスプロケットにチェーン92を捲回した後にグリップ40を握る力を弱める。そうすると、スプリング24の付勢力によって2個の第2アタッチメント38a、38bが、ロッド短手方向両側に伸展し、3個のスプロケットを夫々チェーン92の環の外側に押し離す向きに付勢する。3個のスプロケットは、アタッチメント38a、38b、22とチェーン92に挟まれてそれらのレイアウトが保持される。3個のアタッチメント38a、38b、22は、3個のスプロケットをエンジンへ組み付けるときのレイアウトを再現するように配置されている。別言すれば、冶具10は、チェーンASSYを構成する部品群をエンジンに組み付けるときのレイアウトで保持する。
【0027】
なお、図1に示されているように、第2アタッチメント38a、38bの揺動軸であるピボット32bは、3個のスプロケットの中心を結ぶ三角形よりも外側に位置する。そのような構成により、第1リンク機構30は、カムスプロケット90a、90bを、三角形の中心からカムスプロケットの中心を通る放射線に沿ってチェーン92の環の外側へ向けて付勢する。第1リンク機構30は、3個のスプロケットを三角形の中心から放射状に付勢することになり、3個のスプロケットを安定して保持することができる。
【0028】
冶具10は、3個のスプロケットを覆うように無端チェーンベルトが捲回されていることを利用し、3個のスプロケットをチェーン92の環の内側から外側に向かって放射状に付勢することによってそれらスプロケットの位置関係を保持する。上記の構造によって、冶具10は、メインロッド12以外の部品がチェーン92の環の外側へはみ出さないコンパクト性を実現している。冶具10は、例えばチェーンカバーがエンジンに一体に形成されている場合など、狭いスペースであってもチェーンASSYをエンジンに組み付けることができる。
【0029】
3個のスプロケットを冶具10で保持する際、チェーンガイド94をチェーン92と第3アタッチメント60の間に配置する。冶具10は、3個のスプロケットとともに、チェーンガイド94も、エンジンへの組み付け時のレイアウトで保持する。図1は、チェーンASSYを保持した冶具10を示している。
【0030】
作業者は、冶具10で保持されたチェーンASSYをエンジンへ組み付ける。チェーンASSYを構成する部品群は冶具10によってエンジンへの組み付け時のレイアウトに保持されているので、作業者はチェーンASSYを構成する部品群を全て同時にエンジンへ組み付けることができる。図2に、チェーンASSYをエンジン100に組み付けた後の状態を示す。冶具10に保持されたまま、カムスプロケット90a、90bは夫々カムシャフト102a、102bに組み付けられ、クランクスプロケット96はクランクシャフト104に組み付けられる。チェーンガイド94も冶具10に保持されたままエンジンへ組み付けられる。
【0031】
チェーンASSYを構成する部品をエンジンに組み付けた後に、作業者はグリップ40を強く握って冶具10をチェーンASSYから外す(図2参照)。より詳細には、作業者は再び一対のグリップ40を強く握り、第1リンク機構30のロッド短手方向両端に位置する第2アタッチメント38a、38b間の距離を縮める。冶具10は、第1リンク機構30の両端をロッド短手方向に縮めたときの第1リンク機構30の両端間長さW2が、エンジンに組み付け後の2個のカムスプロケット90a、90bの間の距離W1よりも短くなるように構成されている(図2参照)。従って、チェーンASSYの組み付け後に、作業者は、冶具10を2個のカムスプロケットの間を通してエンジン上方へ抜き取ることができる。図2の符号Aが、冶具10の抜き取り方向を示している。上記のとおり、冶具10は、チェーンASSYを組み付けるための作業スペースが狭い場合に有効である。
【0032】
上記説明したように、冶具10は、第1アタッチメント22にエンジンへ組み付け予定のクランクスプロケット96を当接するとともに第2アタッチメント38a、38bにエンジンへ組み付け予定のカムスプロケット90a、90bを当接し、クランクスプロケット96とカムスプロケット90a、90bにチェーン92を捲回したときに、スプリング24が第1リンク機構30の両端に位置するカムスプロケットをチェーン92の環の外側へと付勢してクランクスプロケット96とカムスプロケット90a、90bをエンジン組み付け時のレイアウトでそれらの位置関係を保持する。そして冶具10は、第1リンク機構30をロッド短手方向に縮めたときの第1リンク機構30両端間の長さW2がエンジンに組み付け後の2個のカムスプロケット90a、90bの間の距離W1よりも短くなるように構成されている。そのような構成によって、冶具10は、チェーンASSYを構成するカムスプロケット90a、90b、クランクスプロケット96、及びチェーン92をエンジンに同時に組み付けることができる。また、冶具10は、チェーンASSYをエンジンに組み付けた後に、第1リンク機構30をロッド短手方向に縮めることによって、組み付け後の2個のカムスプロケット90a、90bの間を通してエンジン上方への引き抜くことができる。
【0033】
実施例の冶具10の好適な変形例を説明する。メインロッド12に装着されているスプリング24に代えて、第1リンク機構30のロッド短手方向の両側に位置する第3、第4ピボット32c、32dを連結する圧縮スプリングを備えてもよい。圧縮スプリングは、第1リンク機構30をロッド短手方向に伸展する向きに付勢している。そのような圧縮スプリングも、実施例のスプリング24と同様に、第1リンク機構30の両端に配置された2個の第2アタッチメント38a、38bをロッド短手方向の両側に拡げるように付勢する。また、チェーンASSYがチェーンガイド94を含まない場合、冶具10は第2リンク機構50を備えなくともよい。
【0034】
チェーンASSYを構成する部品群を冶具10に固定する際、部品をエンジン組み付け時の配置関係に保持する板状のセットパレットを用いることも好適である。具体的には、部品群をセットパレット上にレイアウトした後に、グリッパ40を強く把持した冶具10を部品間に移動し、グリッパ40の把持力を弱めて部品群を冶具10に固定する。セットパレットを用いることで、組み付け作業効率がさらに向上する。
【0035】
カムスプロケットとクランクスプロケットは、歯を有するスプロケットでなく歯を有さないプーリであっても、本発明の冶具10は有効である。スプロケットに代えてプーリが採用される場合、無端チェーンベルトの代わりにチェーンでない無端帯状のベルトが採用されてよい。本発明は、実施例の冶具10を何ら変更することなく、プーリと無端帯状ベルトで構成されるASSYをエンジンに組み付ける冶具に適用することもできる。
【0036】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。特に、特許請求の範囲に記載された「スプロケット」は、チェーンに嵌合する歯車状の円板だけでなく、無端帯状ベルトとの摩擦によって回転運動を伝達するプーリを含む概念で用いられている。同様に、特許請求の範囲に記載された「無端チェーンベルト」は、歯車に嵌合するチェーンだけでなく、摩擦によってプーリへ回転運動を伝達する無端帯状ベルトを含む概念で用いられている。
【0037】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0038】
10:チェーンASSY組付け冶具
11:サブロッド
12:メインロッド
13:シリンダロッド
14:長孔
22:第1アタッチメント
24:スプリング
30:第1リンク機構
32:ピボット
34:リンク
38:第2アタッチメント
40:グリップ
50:第2リンク機構
52:ピボット
60:第3アタッチメント
90:カムスプロケット
92:無端チェーンベルト
94:チェーンガイド
96:クランクスプロケット
100:エンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のカムシャフトの夫々に組み付け予定の複数のカムスプロケットとクランクシャフトに組み付け予定のクランクスプロケットに無端チェーンベルトを捲回したチェーンASSYをエンジンに組み付けるための組付け冶具であり、
一端にクランクスプロケットを当接するための第1アタッチメントが固定されているメインロッドと、
メインロッドの短手方向の両側に伸びており、両端がメインロッドの短手方向に伸縮するとともに両端にカムスプロケットを当接するための第2アタッチメントが固定されているリンク機構と、
リンク機構の両端を伸展させる方向に付勢するスプリングと、
を備えており、
第1アタッチメントにエンジンへ組み付け予定のクランクスプロケットを当接するとともに第2アタッチメントにエンジンへ組み付け予定のカムスプロケットを当接し、クランクスプロケットとカムスプロケットに無端チェーンベルトを捲回したときに、スプリングがリンク機構の両端に位置するカムスプロケットを無端チェーンベルト外側へと付勢してクランクスプロケットとカムスプロケットをエンジンへの組み付け時のレイアウトに保持し、リンク機構を縮めたときのリンク機構両端間の長さがエンジンに組み付け後のカムスプロケット間の距離よりも短くなることを特徴とするチェーンASSY組付け冶具。

【図1】
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【図2】
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