説明

チオカルボキシレートシランの製造法

ハロアルキルシランとチオカルボン酸塩水溶液との反応によりハロアルキルシランからチオカルボキシレートシランを製造する水性プロセスが記載されている。また、硫化物及び/又は水硫化物と酸塩化物及び/又は酸無水物から水性チオカルボン酸塩を製造する方法も記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チオカルボキシレートシランの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムその他の用途における多硫化物のシラン、またそれよりは少ないがメルカプトシランの物、製造、及び使用に関連して多くの先行技術が存在する。この先行技術の殆ど全てにおいて教示されているこれらのシランの製造方法では水以外の溶媒と無水の条件を使用する。実際、製造又は貯蔵中の水の存在はシラン組成物の安定性及び/又は完全性(integrity)に対して有害であることが教示されている。先行技術に記載されている製造方法では、無水条件を達成し維持するために大量の危険な金属ナトリウム及び硫化水素を使用するといった精巧な手段が必要とされる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
相間移動触媒の存在下又は非存在下でハロアルキルシランとチオカルボン酸の塩の水溶液との反応によりハロアルキルシランからチオカルボキシレートシランを製造する水性プロセスについて記載する。
【0004】
また、容易に入手可能なカルボン酸誘導体、特に酸塩化物及び酸無水物を用いる水性チオカルボン酸塩(チオアルカン酸の塩及びチオアルカン酸塩ともいう)中間体の新規で簡単かつ効率的な製造方法についても記載する。
【0005】
本発明は、硫化ナトリウム又は水硫化ナトリウムの水溶液、カルボン酸塩化物又は無水物、及びハロアルキル官能性アルコキシシランからチオカルボキシレートシランを製造するプロセスについて教示する。一実施形態では、このプロセスは、水以外の溶媒を必要とせず、イオウ源として既存の水性硫化物廃棄物流を用い、そして供給原料として危険なアルカリ金属又は硫化水素を必要としない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
チオカルボキシレートシラン
本明細書で水性経路によるその製造について記載するチオカルボキシレートシランは、以下の式1、2及び3で表すことができる。
【0007】
(R−Y−S−)(−SiX (1)
[−Y−S−G(−SiX (2)
[G(−Y−S−) [G(−SiX (3)
式中、Yはカルボニル、すなわちC(=O)であり、各Rは独立に水素、不飽和を含有していてもいなくてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基及びアラルキル基を含む基の組から選択され、各Rは0〜約30個の炭素原子を含有し、各Gは独立にR又はアルキル、アルケニル、アリール若しくはアラルキル基の置換により誘導された多価基であり、Gは1〜約40個の炭素原子を含有することができ、各個々のGは独立にアルキル、アルケニル、アリール又はアラルキル基の置換により誘導された多価(二価以上)基であり、Gは1〜約40個の炭素原子を含有することができ、各Xは独立にRO−、RC=NO−、RNO−又はRN−、−R、及び−(OSiR(OSiR)からなる群から選択されるものであり、各RはRに対して上記した通りであり、1以上のXは−Rではなく、各下付文字tは0〜約50の整数であり、各下付文字aは独立に1〜約6の整数であり、各下付文字bは独立に1〜約100の整数であり、各下付文字cは独立に1〜6の整数であり、各下付文字dは独立に1〜約100の整数である。
【0008】
本明細書で使用する場合、アルキルとは線状、枝分かれ及び環式のアルキル基を包含し、アルケニルとは1以上の炭素−炭素二重結合を含有しており、置換点が炭素−炭素二重結合又は基内の他のいずれかであることができるあらゆる線状、枝分かれ、又は環式のアルケニル基を包含し、アルキニルとは1以上の炭素−炭素三重結合を含有し、場合により1以上の炭素−炭素二重結合も含有しており、置換点が炭素−炭素三重結合、炭素−炭素二重結合、又は基内の他のいずれかであることができるあらゆる線状、枝分かれ、又は環式のアルキニル基を包含する。アルキルの特定の例としてはメチル、エチル、プロピル及びイソブチルがある。アルケニルの特定の例としてはビニル、プロペニル、アリル、メタリル、エチリデニルノルボルナン、エチリデンノルボルニル、エチリデニルノルボルネン及びエチリデンノルボルネニルがある。アルキニルの特定の例としてはアセチレニル、プロパルギル及びメチルアセチレニルがある。
【0009】
本明細書で使用する場合、アリールとは1個の水素原子が除かれたあらゆる芳香族炭化水素を包含し、アラルキルとは1個以上の水素原子が同数の類似及び/又は異なるアリール(本明細書で定義した通り)置換基で置換されている上記アルキル基のいずれをも包含し、アレニルとは1個以上の水素原子が同数の類似及び/又は異なるアルキル(本明細書で定義した通り)置換基で置換されている上記アリール基のいずれをも包含する。アリールの特定の例としてはフェニル及びナフタレニルがある。アラルキルの特定の例としてはベンジル及びフェネチルがある。アレニルの特定の例としてはトリル及びキシリルがある。
【0010】
本明細書で使用する場合、環式アルキル、環式アルケニル、及び環式アルキニルとは、二環式、三環式、及びそれ以上の環式構造、並びにアルキル、アルケニル及び/又はアルキニル基でさらに置換された上記環式構造も包含する。代表例としては、ノルボルニル、ノルボルネニル、エチルノルボルニル、エチルノルボルネニル、エチルシクロヘキシル、エチルシクロヘキセニル、シクロヘキシルシクロヘキシル及びシクロドデカトリエニルがある。
【0011】
本発明のシラン中に存在する重要な官能基(−YS−)はチオカルボン酸エステル基−C(=O)S−である(この官能基を有するあらゆるシランが「チオカルボン酸エステルシラン」である)。
【0012】
一実施形態では、R−YがRC(=O)−に等しい組内の構造は、Rがカルボニルに結合した第一炭素を有するものである。Rは一実施形態ではC〜C20直鎖又は枝分かれ鎖アルキルであり、別の実施形態ではC〜C18直鎖アルキルである。さらに別の実施形態では、C〜C14直鎖アルキルを使用する。
【0013】
の代表例としては、Rに対して上記したもののような一価炭化水素基、フェニレン、−(CHν−[ここで、νは1〜約20であり、これは末端が他端でさらに置換されている末端直鎖アルキルを表し、例えば、−CH−、−CHCH−、−CHCHCH−、及び−CHCHCHCHCHCHCHCH−並びにそれらのβ−置換類似体、例えば−CH(CHCH(CH)−であり、mは0〜約17である]、−CHCHC(CHCH−、塩化メタリルから誘導され得る構造−CHCH(CH)CH−、ジビニルベンゼンから誘導され得るあらゆる構造、例えば−CHCH(C)CHCH−及び−CHCH(C)CH(CH)−[ここで記号Cは二置換ベンゼン環を表す]、ジプロペニルベンゼンから誘導され得るあらゆる構造、例えば−CHCH(CH)(C)CH(CH)CH−[ここで記号Cは二置換ベンゼン環を表す]、ブタジエンから誘導され得るあらゆる構造、例えば−CHCHCHCH−、−CHCHCH(CH)−及び−CHCH(CHCH)−、ピペリレンから誘導され得るあらゆる構造、例えば−CHCHCHCH(CH)−、−CHCHCH(CHCH)−及び−CHCH(CHCHCH)−、イソプレンから誘導され得るあらゆる構造、例えば−CHCH(CH)CHCH−、−CHCH(CH)CH(CH)−、−CHC(CH)(CHCH)−、−CHCHCH(CH)CH−、−CHCHC(CH−及び−CHCH[CH(CH]−、−CHCH−ノルボルニル−、−CHCH−シクロヘキシル−のあらゆる異性体、2個の水素原子を除去することによりノルボルナン、シクロヘキサン、シクロペンタン、テトラヒドロジシクロペンタジエン又はシクロドデセンから得ることができるあらゆるジラジカル、リモネンから誘導され得る構造−CHCH(4−メチル−1−C−)CH[ここで記号Cは2位の置換を欠くトリ置換シクロヘキサン環の異性体、トリビニルシクロヘキサンから誘導され得るあらゆるモノビニル含有構造、例えば−CHCH(ビニルC)CHCH−及び−CHCH(ビニルC)CH(CH)−[ここで記号Cはトリ置換シクロヘキサン環のいずれかの異性体を表す]、トリ置換C=Cを含有するミルセン(myrcene)から誘導され得るあらゆるモノ不飽和構造、例えば−CHCH[CHCHCH=C(CH]CHCH−、−CHCH[CHCHCH=C(CH]CH(CH)−、−CHC[CHCHCH=C(CH](CHCH)−、−CHCHCH[CHCHCH=C(CH]CH−、−CHCH(C−)(CH)[CHCHCH=C(CH]及び−CHCH[CH(CH)[CHCHCH=C(CH]]−、並びにトリ置換C=Cを欠くミルセンから誘導され得るあらゆるモノ不飽和構造、例えば−CHCH(CH=CH)CHCHCHC(CH−、−CHCH(CH=CH)CHCHCH[CH(CH]−、−CHC(=CH−CH)CHCHCHC(CH−、−CHC(=CH−CH)CHCHCH[CH(CH]−、−CHCHC(=CH)CHCHCHC(CH−、−CHCHC(=CH)CHCHCH[CH(CH]−、−CHCH=C(CHCHCHCHC(CH−及び−CHCH=C(CHCHCHCH[CH(CH]がある。一実施形態では、Gの構造は−CH−、−CHCH−、−CHCHCH−、−CHCH(CH)CH−、及び上記ノルボルナン由来構造の2,4又は2,5ジ置換により得られるあらゆるジラジカルである。別の実施形態では−CHCHCH−を使用する。
【0014】
の代表例としては、フェニレン、−(CHν−[ここで、νは1〜約20であり、これは末端が他端でさらに置換されている末端直鎖アルキルを表し、例えば−CH−、−CHCH−、−CHCHCH−、及び−CHCHCHCHCHCHCHCH−、並びにこれらのβ−置換類似体、例えば−CH(CHCH(CH)−であり、mは0〜約17である]、−CHCHC(CHCH−、塩化メタリルから誘導され得る構造−CHCH(CH)CH−、ジビニルベンゼンから誘導され得るあらゆる構造、例えば−CHCH(C)CHCH−及び−CHCH(C)CH(CH)−[ここで、記号Cは二置換ベンゼン環を表す]、ジプロペニルベンゼンから誘導され得るあらゆる構造、例えば−CHCH(CH)(C)CH(CH)CH−[ここで、記号Cは二置換ベンゼン環を意味する]、ブタジエンから誘導され得るあらゆる構造、例えば−CHCHCHCH−、−CHCHCH(CH)−及び−CHCH(CHCH)−、ピペリレンから誘導され得るあらゆる構造、例えば−CHCHCHCH(CH)−、−CHCHCH(CHCH)−及び−CHCH(CHCHCH)−、イソプレンから誘導され得るあらゆる構造、例えば−CHCH(CH)CHCH−、−CHCH(CH)CH(CH)−、−CHC(CH)(CHCH)−、−CHCHCH(CH)CH−、−CHCHC(CH−及び−CHCH[CH(CH]−、−CHCH−ノルボルニル−、−CHCH−シクロヘキシル−のあらゆる異性体、ノルボルナン、シクロヘキサン、シクロペンタン、テトラヒドロジシクロペンタジエン又はシクロドデセンから2つの水素原子を除去することにより得ることができるあらゆるジラジカル、リモネンから誘導され得る構造−CHCH(4−メチル−1−C−)CH[ここで、記号Cは2位の置換を欠くトリ置換シクロヘキサン環の異性体を意味する]、トリビニルシクロヘキサンから誘導され得るあらゆるモノビニル含有構造、例えば−CHCH(ビニルC)CHCH−及び−CHCH(ビニルC)CH(CH)−[ここで、記号Cはトリ置換シクロヘキサン環の任意の異性体を意味する]、トリ置換C=Cを含有するミルセンから誘導され得るあらゆるモノ不飽和構造、例えば−CHCH[CHCHCH=C(CH]CHCH−、−CHCH[CHCHCH=C(CH]CH(CH)−、−CHC[CHCHCH=C(CH](CHCH)−、−CHCHCH[CHCHCH=C(CH]CH−、−CHCH(C−)(CH)[CHCHCH=C(CH]及び−CHCH[CH(CH)[CHCHCH=C(CH]]−、並びにトリ置換C=Cを欠くミルセンから誘導され得るあらゆるモノ不飽和構造、例えば−CHCH(CH=CH)CHCHCHC(CH−、−CHCH(CH=CH)CHCHCH[CH(CH]−、−CHC(=CH−CH)CHCHCHC(CH−、−CHC(=CH−CH)CHCHCH[CH(CH]−、−CHCHC(=CH)CHCHCHC(CH−、−CHCHC(=CH)CHCHCH[CH(CH]−、−CHCH=C(CHCHCHCHC(CH−及び−CHCH=C(CHCHCHCH[CH(CH]がある。一実施形態では、Gの構造は−CH−、−CHCH−、−CHCHCH−、−CHCH(CH)CH−及び上記ノルボルナン由来構造の2,4又は2,5ジ置換により得られるあらゆるジラジカルである。別の実施形態では、構造−CHCHCH−を使用する。
【0015】
基の代表例は炭素原子数1〜約30の枝分かれ及び直鎖アルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、ヘキシル、オクチル、ノニル、オクタデシル、フェニル、ベンジル、トリル及びアリルである。
【0016】
R基の代表例は炭素原子数1〜約30以上の枝分かれ及び直鎖アルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル及びブチル、フェニル、ベンジル、トリル、及び、アリルである。一実施形態では、R基はC〜Cアルキル及びHである。
【0017】
Xの代表例はメチル、エチル、メトキシ、エトキシ、イソブトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ及びオキシマトである。一実施形態ではメトキシ及びエトキシを使用する。別の実施形態では、エトキシを使用する。
【0018】
XがRO−である実施形態の例には、Rが水素、メチル、エチル、プロピル、ブチル又はイソプロピルであり、Gが置換フェニル又は置換C〜C20直鎖アルキルであり、Gが二価C〜C直鎖アルキレンである実施形態がある。また、好ましい実施形態として、Gが二価炭化水素であるX3SiGSC(=O)GC(=O)SGSiXの形態の構造もある。別の実施形態では、pは0であり、Xはエトキシであり、GはC〜C14直鎖アルキルである。
【0019】
本発明でその製造について記載するシランの代表例としては、チオ酢酸2−トリエトキシシリル−1−エチル、チオ酢酸2−トリメトキシシリル−1−エチル、チオ酢酸2−(メチルジメトキシシリル)−1−エチル、チオ酢酸3−トリメトキシシリル−1−プロピル、チオ酢酸トリエトキシシリルメチル、チオ酢酸トリメトキシシリルメチル、チオ酢酸トリイソプロポキシシリルメチル、チオ酢酸メチルジエトキシシリルメチル、チオ酢酸メチルジメトキシシリルメチル、チオ酢酸メチルジイソプロポキシシリルメチル、チオ酢酸ジメチルエトキシシリルメチル、チオ酢酸ジメチルメトキシシリルメチル、チオ酢酸ジメチルイソプロポキシシリルメチル、チオ酢酸2−トリイソプロポキシシリル−1−エチル、チオ酢酸2−(メチルジエトキシシリル)−1−エチル、チオ酢酸2−(メチルジイソプロポキシシリル)−1−エチル、チオ酢酸2−(ジメチルエトキシシリル)−1−エチル、チオ酢酸2−(ジメチルメトキシシリル)−1−エチル、チオ酢酸2−(ジメチルイソプロポキシシリル)−1−エチル、チオ酢酸3−トリエトキシシリル−1−プロピル、チオ酢酸3−トリイソプロポキシシリル−1−プロピル、チオ酢酸3−メチルジエトキシシリル−1−プロピル、チオ酢酸3−メチルジメトキシシリル−1−プロピル、チオ酢酸3−メチルジイソプロポキシシリル−1−プロピル、1−(2−トリエトキシシリル−1−エチル)−4−チオアセチルシクロヘキサン、1−(2−トリエトキシシリル−1−エチル)−3−チオアセチルシクロヘキサン、2−トリエトキシシリル−5−チオアセチルノルボルネン、2−トリエトキシシリル−4−チオアセチルノルボルネン、2−(2−トリエトキシシリル−1−エチル)−5−チオアセチルノルボルネン、2−(2−トリエトキシシリル−1−エチル)−4−チオアセチルノルボルネン、1−(1−オキソ−2−チア−5−トリエトキシシリルペニル)安息香酸、チオ酢酸6−トリエトキシシリル−1−ヘキシル、チオ酢酸1−トリエトキシシリル−5−ヘキシル、チオ酢酸8−トリエトキシシリル−1−オクチル、チオ酢酸1−トリエトキシシリル−7−オクチル、チオ酢酸6−トリエトキシシリル−1−ヘキシル、チオ酢酸1−トリエトキシシリル−5−オクチル、チオ酢酸8−トリメトキシシリル−1−オクチル、チオ酢酸1−トリメトキシシリル−7−オクチル、チオ酢酸10−トリエトキシシリル−1−デシル、チオ酢酸1−トリエトキシシリル−9−デシル、チオ酢酸1−トリエトキシシリル−2−ブチル、チオ酢酸1−トリエトキシシリル−3−ブチル、チオ酢酸1−トリエトキシシリル−3−メチル−2−ブチル、チオ酢酸1−トリエトキシシリル−3−メチル−3−ブチル、チオオクタン酸3−トリメトキシシリル−1−プロピル(チオールオクタン酸3−トリメトキシシリル−1−プロピル及びチオカプリル酸3−トリメトキシシリル−1−プロピルともいう)、チオパルミチン酸3−トリエトキシシリル−1−プロピル、チオオクタン酸3−トリエトキシシリル−1−プロピル(チオールオクタン酸3−トリエトキシシリル−1−プロピル、3−トリエトキシシリル−1−プロピルチオオクトエート、3−トリエトキシシリル−1−プロピルチオールオクトエート、及びチオカプリル酸3−トリエトキシシリル−1−プロピルともいう)、チオデカン酸3−トリエトキシシリル−1−プロピル、チオドデカン酸3−トリエトキシシリル−1−プロピル(チオラウリン酸3−トリエトキシシリル−1−プロピルともいう)、チオテトラデカン酸3−トリエトキシシリル−1−プロピル(チオミリスチン酸3−トリエトキシシリル−1−プロピルともいう)、チオ安息香酸3−トリエトキシシリル−1−プロピル、チオ−2−エチルヘキサン酸3−トリエトキシシリル−1−プロピル、チオ−2−メチルヘプタン酸3−トリエトキシシリル−1−プロピル、ジチオフタル酸ビス−(3−トリエトキシシリル−1−プロピル)、ジチオイソフタル酸ビス−(3−トリエトキシシリル−1−プロピル)、ジチオテレフタル酸ビス−(3−トリエトキシシリル−1−プロピル)、ジチオコハク酸ビス−(3−トリエトキシシリル−1−プロピル)、ジチオシュウ酸ビス−(3−トリエトキシシリル−1−プロピル)、ジチオセバシン酸ビス−(3−トリエトキシシリル−1−プロピル)、及び、ジチオアジピン酸ビス−(3−トリエトキシシリル−1−プロピル)がある。
【0020】
本発明に包含されるチオカルボキシレートシラン組成物は、例えば、合成方法によりある分布の様々なシランが生成する場合、及びチオカルボキシレートシラン生成物の混合物を生成させる目的で出発成分の混合物を使用する場合などのように、場合によっては他の化学種も含む様々な混合物として製造してもよい。また、これらのチオカルボキシレートシラン(すなわち、チオカルボキシレートシロキサン及び/又はシラノール)の部分的加水分解物及び/又は縮合物も、これらの部分的加水分解物及び/又は縮合物は、殆どのチオカルボキシレートシラン製造方法の副生成物であり、又は殊に湿潤条件で、若しくはその製造後残存する残留水が製造後完全に除去されない条件下でチオカルボキシレートシランの貯蔵時に生じ得るという点で、本発明のチオカルボキシレートシランに包含され得る。
【0021】
本明細書に記載したチオカルボキシレート官能性シランの製造のための本発明の方法は、相間移動触媒の存在下又は非存在下でのチオカルボン酸の塩の水溶液(すなわち、チオカルボン酸陰イオンを含有するチオカルボン酸塩の水溶液)とハロアルキルシランとの反応を含む。場合により、水性チオカルボン酸塩及び/又はハロアルキルシランの混合物を使用することができ、この場合チオカルボキシレートシランの混合物が得られる。
【0022】
本明細書で使用する場合、「ハロアルキルシラン」という表現は、次の式4で表すことができる構造を有するあらゆるシランを指す。
【0023】
(−SiX (4)
式中、各Gは独立にアルキル、アルケニル、アリール又はアラルキル基の置換により誘導された多価の基であり、またGは1〜約40個の炭素原子を含有することができ、各Lはハロゲン原子(すなわち、F、Cl、Br、又はI)、スルホン酸基、スルフィン酸基、又はカルボン酸基であり、各Xは独立にRO−、RC=NO−、RNO−若しくはRN−、−R、及び−(OSiR(OSiR)からなる群から選択されるものであり、ここで各Rは既に定義した通りであるが、1以上のXが−Rではなく、各下付文字tは0〜約50の整数であり、各下付文字cは独立に1〜約6の整数であり、各下付文字fは独立に1〜約6の整数である。従って、本明細書で使用する場合「ハロアルキルシラン」という表現は、炭化水素基上の水素に対する1以上のハロゲン置換、及び以下に記載する求核置換反応の間の潜在的な離脱基となる他の置換を有するシランを包含する。
【0024】
チオカルボン酸塩の構造は次の式5で与えられる。
【0025】
(−Y−SM) (5)
式中、各Gは独立にR又はアルキル、アルケニル、アリール若しくはアラルキル基の置換により誘導された多価の基であり、またGは1〜約40個の炭素原子を含有することができ、GがRである場合、各Rは独立に水素、不飽和を含有していてもいなくてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、及びアラルキル基を含む基の組から選択され、各Rは0〜約30個の炭素原子を含有し、YはカルボニルC(=O)であり、各Mはアルカリ金属、アンモニウム、又はモノ−、ジ−、若しくはトリ−置換アンモニウムであり、各下付文字aは独立に1〜約6の整数である。
【0026】
Mはアルカリ金属、アンモニウム、又はモノ−、ジ−若しくはトリ−置換アンモニウムである。従って、Mは通例一価陽イオンであり、通例単一の正電荷を有する陽イオンとして存在することを意味する。二価陽イオン性イオンも、それらのチオカルボン酸塩が入手可能であり、水に充分に可溶性である場合には使用できるであろう。このように、Mはチオカルボン酸陰イオンG(−Y−Sの対イオンである。Mの代表例はナトリウム、カリウム、アンモニウム、メチルアンモニウム及びトリエチルアンモニウムである。一実施形態では、ナトリウム、カリウム及びアンモニウムを使用し得る。
【0027】
Lはハロゲン原子(すなわち、F、Cl、Br、又はI)、スルホン酸基、スルフィン酸基又はカルボン酸基である。合成化学の観点から見て、Lは求核置換反応の間離脱基として機能することができるあらゆる基である。Lの代表例は塩素、臭素、スルホン酸基である。Lはまた硫酸基又はリン酸基のような二価基であることもできる。Lは一実施形態ではクロロ(Cl)又はブロモ(Br)である。
【0028】
本発明で使用するハロアルキルシラン反応体の例は、3−クロロメチル−1−トリエトキシシラン、3−クロロエチル−1−トリエトキシシラン、3−クロロプロピル−1−トリエトキシシラン及び3−クロロブチル−1−トリエトキシシランである。一実施形態では、3−クロロプロピル−1−トリエトキシシランを使用する。
【0029】
チオカルボキシレートシランを生じる水性チオカルボン酸塩とハロアルキルシランとの反応に対する化学式は以下の式A、B、及びCで表される。
【0030】
【化1】

一実施形態では、本発明によるチオカルボキシレートシランの製造は、反応が所望の完了レベルに到達するまで混合物を、例えば撹拌により掻き混ぜつつハロアルキルシランをチオカルボン酸塩の水溶液に添加することによって行う。場合により、生成物シランを加水分解に対してさらに安定化するために、追加の塩を存在させるか又は水性チオカルボン酸塩に添加して反応媒体のイオン強度を増大することができる。かかる追加の塩の例としては、ナトリウム及びカリウムのハロゲン化物並びに対応する炭酸塩及び硝酸塩のようなアルカリ金属塩がある。これら及び類似の塩は約50以下のレベルで反応媒体中に存在することができる。一実施形態では、約20重量%以下の量のチオカルボン酸塩反応体が存在する。
【0031】
反応の完了のレベルは、例えば、有機相のガスクロマトグラフィー(GC)、液体クロマトグラフィー(LC又はHPLC)、核磁気共鳴分光法(NMR)、若しくは赤外分光法(IR)、又は水性相の湿式化学分析のような生成物から反応体を識別する任意の手段によりモニターすることができる。ハロアルキルシランを水性チオカルボン酸塩に添加する前、その間、及び/又はその後、相間移動触媒を一回若しくは数回の分量で及び/又は連続式にチオカルボン酸塩、ハロアルキルシラン、及び/又は反応混合物に添加して反応を促進してもよい。
【0032】
適切な反応条件としては、約−30〜約300℃の温度及び周囲〜約100気圧の圧力又は周囲〜約0.01トルの減圧がある。一実施形態では、反応条件は周囲圧力で約−10〜約100℃である。別の実施形態では、反応温度は約25〜約95℃の範囲であることができる。さらに別の実施形態では約40〜約85℃である。例えば、反応の進行中温度の漸進的上昇又は下降の傾斜のように上記範囲内の可変温度を使用してもよい。
【0033】
一実施形態では、通常、またチオカルボキシレートシラン形成反応中に形成され得るシロキサン型副生成物の量を低減する目的で、この反応は、例えば従来の回転攪拌機の作用によりもたらされる連続式撹拌下で行われる。撹拌の激しさは、通常、チオカルボキシレートシラン形成反応の間に生成するシロキサン型副生成物の量を正当な範囲、例えば反応生成物の総量の約20重量%未満、より一般的には約12重量%未満、通例約5〜約10重量%内に保つようなものである。これを達成するのに必要な撹拌の量は個々の場合に日常の実験によって決定することができる。
【0034】
出発水性チオカルボン酸塩の適切な濃度は約1重量%から飽和までであり、約50重量%以上になり得る。一実施形態では、濃度は約20〜約45重量%である。第二の実施形態では約30〜約40重量%である。場合により、反応の化学量論により必要とされる量よりも過剰のチオカルボン酸塩を使用して反応の完了を推進して、残留ハロアルキルシラン出発物質が最小の生成物を得、最小の反応時間及び/又は温度で生成物を得、及び/又はシランの加水分解/縮合生成物による損失又は汚染が最小の生成物得ることができる。また、反応の化学量論で必要とされる量よりも過剰のハロアルキルシランを用いて、反応完了時の残留水性チオカルボン酸塩含有量を最小に低減することができる。
【0035】
一実施形態では、反応は、溶媒があるとしても殆どない、すなわち混ざりもののない(すなわち、溶媒なし)状態、又は水に対して不溶性であるか若しくは限られた溶解性を有する溶媒の存在下で行うことができる。適当な溶媒の例は、エーテル、例えばジエチルエーテル、炭化水素、例えばヘキサン、石油エーテル、トルエン、及びキシレン、並びにケトン、例えばメチルエチルケトンである。一実施形態では、トルエン又はキシレンを使用する。別の実施形態では、反応は溶媒の非存在下(混ざりもののない)で行う。
【0036】
反応の完了時、撹拌を止め、反応混合物を2つの液相に偏析させる。有機相(通例上側の相)がチオカルボキシレートシラン生成物を含有し、水性相が同時に生成した塩と最初に存在していたか又は反応媒体のイオン強度を増大するために後に加えた塩とを含有する。充分な濃度の出発水溶液を使用すると、沈殿又は結晶化した塩からなる固相も分離し得る。場合により、これらの塩を水の添加により溶解して主として又は専ら2つの液相からなる混合物を得てもよい。その後これらの相はデカンテーションにより分離することができる。このプロセス中に用いたあらゆる溶媒はその後蒸留又は蒸発によって除去することができる。残留する水は真空及び/又は加熱ストリッピングにより除去することができる。残留する粒状物は後に又は同時にろ過により除去することができる。残留ハロアルキルシランは減圧下高温でストリッピングにより除去することができる。
【0037】
チオカルボン酸塩水溶液
チオカルボキシレートシラン組成物の製造に必要なチオカルボン酸塩の水溶液が入手できない場合には、チオカルボキシレートシランの製造に使用するのに先立って別個の工程で製造することができる。或いは、水性チオカルボン酸塩をその場で製造し、その後そのまま上記のように使用してチオカルボキシレートシラン組成物を製造してもよい。
【0038】
チオカルボン酸塩が入手可能であれば、その水溶液は適当な量の塩を適当な量の水に溶解して所望の濃度の溶液にすることによって簡単に製造することができるし、又は入手可能ないずれかの溶液の希釈又は蒸発濃縮によって製造することができる。或いは又、所望のチオカルボン酸塩又はその水溶液は目的とするチオカルボン酸の別の塩から製造することができる。チオカルボン酸が入手可能であれば、そのチオカルボン酸塩又は水溶液はこの酸を適切な塩基で中和することによって簡単に製造することができる。
【0039】
しかし、所望のチオカルボン酸もその塩も入手可能でない場合には、適当な酸ハロゲン化物及び/又は酸無水物(例えば、酸塩化物)と硫化物、水硫化物、又はこれらの混合物(例えば、水性水硫化ナトリウムNaSH)の水溶液との反応によりチオカルボニル基を合成することによってチオカルボン酸塩の水溶液を製造することができる。チオカルボン酸塩の水性混合物が所望の場合には、成分のチオカルボン酸塩をブレンドすることができ、又はチオカルボン酸塩の製造の際に酸ハロゲン化物及び/又は酸無水物の適当な混合物を使用することができる。場合により、1種以上の酸ハロゲン化物及び酸無水物の混合物を使用することができ、同様に単一成分又は混合物の水性チオカルボン酸塩を製造するときに異なる硫化物及び/又は水硫化物の混合物を使用することができる。
【0040】
硫化物、水硫化物、並びに酸ハロゲン化物及び酸無水物の構造はそれぞれ以下の式6、7、及び8で表される。
【0041】
S (6)
MSH (7)
(−Y−L) (8)
式中、各Mはアルカリ金属、アンモニウム、又はモノ−、ジ−、若しくはトリ−置換アンモニウムであり、各Lはハロゲン原子(すなわち、F、Cl、Br、又はI)、スルホン酸基、スルフィン酸基、又はカルボン酸基であり、YはカルボニルC(=O)であり、各Rは独立に水素、不飽和を含有していてもいなくてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基及びアラルキル基を含む基の組から選択され、各Rは0〜約30個の炭素原子を含有し、各別個のGは独立にR又はアルキル、アルケニル、アリール若しくはアラルキル基の置換により誘導された多価基であり、Gは1〜40個の炭素原子を含有することができ、各下付文字aは独立に1〜約6の整数である。
【0042】
Mはアルカリ金属、アンモニウム、又はモノ−、ジ−、若しくはトリ−置換アンモニウムである。従って、Mは通例一価陽イオンであり、通例単一の正の電荷を有する陽イオンとして存在することを意味する。二価陽イオンも、その硫化物又は水硫化物が入手可能であり、適度に安定であり、かつ水に充分に可溶性である場合には使用できるであろう。すなわち、Mは陰イオン性の硫化物又は水硫化物陰イオンに対する対イオンである。Mの代表例はナトリウム、カリウム、アンモニウム、メチルアンモニウム、及びトリエチルアンモニウムである。一実施形態では、ナトリウム、カリウム、又はアンモニウムを使用し得る。別の実施形態では、ナトリウムを使用する。
【0043】
Lはハロゲン原子(すなわち、F、Cl、Br、又はI)、スルホン酸基、スルフィン酸基、又はカルボン酸基である。Lの代表例は、塩素、臭素、並びに酢酸、オクタン酸、デカン酸、及びドデカン酸基のようなあらゆるカルボン酸基である。さらにLは硫酸基又はリン酸基のような二価基であることもできよう。Lの例としては、塩素(Cl)、及びカルボン酸基である。一実施形態では、塩素(Cl)を使用する。Lが塩素である場合、その試薬は酸塩化物である。Lがカルボン酸基である場合、この試薬は酸無水物である。
【0044】
水性チオカルボン酸塩溶液の製造法に対する以下の説明に関して、本発明では、次のように了解されたい。
1)酸ハロゲン化物という用語は、酸フッ化物、酸塩化物、酸臭化物、酸ヨウ化物、酸無水物、又は別のカルボン酸、他の有機酸、若しくは無機酸との混合酸無水物、又はこれらの混合物をいう。
【0045】
硫化物という用語は、アルカリ金属、アンモニウム、若しくは置換アンモニウムの硫化物塩、又はこれらのあらゆる混合物をいう。
3)チオカルボン酸塩という用語は、1種以上のチオカルボン酸イオン及び/又は対イオン(陽イオン)の塩の単一の成分又は混合物をいう。
【0046】
水性チオカルボン酸塩を生じる水性硫化物及び/又は水硫化物と酸ハロゲン化物及び/又は酸無水物との反応の化学式は以下の式D、E、F、及びGで説明される。
【0047】
【化2】

水性チオカルボン酸塩の製造は、酸ハロゲン化物及び/又は酸無水物を硫化物及び/又は水硫化物の水溶液に添加し、その混合物を撹拌することによって行う。酸ハロゲン化物及び/又は酸無水物の腐食性のため、実用的配慮から、この反応はガラス製又はガラスライニング付きの反応器で行うことが勧められている。
【0048】
酸ハロゲン化物/酸無水物を水性硫化物/水硫化物溶液に添加する前、その間、及び/又はその後、水性硫化物/水硫化物溶液、酸ハロゲン化物/酸無水物、及び/又は反応混合物に、以下に記載するもののような相間移動触媒を一回又は数回で及び/又は連続式に添加して反応を促進することができる。
【0049】
チオカルボン酸塩生成反応に適当な反応条件としては約10〜約40℃の温度がある。一実施形態では、回分式操作では約20〜約25℃であり、そして約20〜約50℃である。別の実施形態では、連続式操作では副生成物の形成を最小にするか又は抑制するために約25〜約40℃である。
【0050】
このチオカルボン酸塩生成反応は速くて発熱であるので、反応を前記温度条件以内に維持するために、温度調節能力、例えば、冷却した水又は塩水のような冷却剤を調節可能な速度で循環させるためのジャケット又はコイルを有する反応器を使用するのが有利である。かかる温度調節能力がない場合には、水性硫化物/水硫化物と相間移動触媒の混合物に酸塩化物反応体を添加する速度を調節することによって所望の反応温度を維持することができる。
【0051】
チオカルボン酸塩を製造するプロセスの追加の条件として、約0.01トル〜約100気圧の圧力がある。一実施形態では、約100トル〜約2気圧であり、硫化物/水硫化物対酸塩化物/酸無水物のモル比は約2:1〜約3:1である。別の実施形態では、約2:1〜約2.2:1である。
【0052】
一実施形態では、このプロセスは、例えば回転攪拌機を用いて反応媒体を撹拌しながら行って、望ましくない副生成物の形成を最小にする。一般に、回転攪拌機を用いて撹拌する場合、攪拌機の先端速度は約25インチ/秒以上に設定するとよい。別の実施形態では約30インチ/秒以上、さらに別の実施形態では約35インチ/秒以上とする。
【0053】
出発水性硫化物/水硫化物の濃度は約1重量%から飽和まで変化することができ、これは約60重量%以上とすることができる。一実施形態では、この濃度は約10〜約40重量%である。別の実施形態では、約15〜約25重量%の濃度を使用する。この反応は通常、酸ハロゲン化物/酸無水物が水性相に溶解し、この反応の発熱がもはや明かでなくなり、かつ硫化水素の放出が治まったときに完了する。既に述べたように、場合により、1以上の追加の塩を水性チオカルボン酸塩生成物内に存在させ、又はそこに添加して、チオカルボキシレートシラン生成反応に使用するのそのイオン強度を増大することができる。チオカルボン酸塩生成反応の完了時、場合によりその溶液をろ過して、存在する可能性があるあらゆる粒状不純物及び/又は結晶化した同時に生成した塩を除去することができる。
【0054】
水性硫化物及び/又は水硫化物
チオカルボン酸塩水溶液を製造するための硫化物及び/又は水硫化物の水溶液を得るには、適当な量の硫化物若しくは水硫化物、又は混合物が所望の場合には各々の適当な量を、適当な量の水に溶解させて目的とする濃度の硫化物及び/又は水硫化物を得ることができる。また、これらの溶液は硫化水素を適当な塩基の水溶液に添加することによって製造することができる。1モル以上の硫化水素と1当量の塩基の割合で水硫化物が生じ、一方1モルの硫化水素と2当量の塩基の割合で硫化物が生じる。1モルの硫化水素と1〜2当量の塩基の割合で対応する水硫化物と硫化物の混合物が生じる。或いは、硫化物の水溶液は1当量の塩基を1当量の水性水硫化物に添加することによっても製造することができ、水硫化物の水溶液は1当量以上の硫化水素を1当量の水性硫化物に添加することによっても製造することができる。例えば、水性水硫化ナトリウムは1モルの水酸化ナトリウム又は硫化ナトリウムを含有する水溶液に1モル又は過剰の硫化水素を添加することによって製造することができるであろうし、水性硫化ナトリウムは2モルの水酸化ナトリウムを含有する水溶液に1モルの硫化水素又は2モルの水硫化ナトリウムを添加することによって製造することができるであろう。
【0055】
相間移動触媒
本発明で使用する相間移動触媒は、2つの不混和性の液体の相境界を横切る化学反応を促進することによって、チオカルボン酸塩反応体及び/又はチオカルボキシレートシラン生成物の製造を促進する。相間移動触媒は、分子であれイオンであれ反応する化学種の相境界を横切る移動を促進することができるあらゆる物質からなることができる。有用な触媒は、硫化物、水硫化物、及びチオカルボン酸基のような含イオウ陰イオンを水性相から有機相中に移送することができる有機陽イオンからなることが多く、この有機相内でこれらの陰イオンが酸ハロゲン化物やハロアルキルシランのような化学種と反応することができる。これら有機陽イオンは塩として、又は水及び/又はアルコールのようなその他の適切な溶媒中の濃縮若しくは希薄溶液として加えることができる。この有機陽イオンは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、硫酸基、重硫酸基、炭酸基、重炭酸基、水酸基、リン酸基、カルボン酸基、チオカルボン酸基、などのような多種多様の陰イオンと結合することができる。
【0056】
さらに、相間移動触媒として有用なものはクラウンエーテル、クリプタンド、ポリエチレングリコール、不均一化触媒(ポリマー基材に結合したもの)などである。
【0057】
その使用について本明細書に記載する相間移動触媒の例としては、次の式7で表されるアンモニウム及びホスホニウム塩がある。
【0058】
(R−n (9)
式中、各別個のR、R、R、及びRは独立にRについて上記したものの一つであり、Qは窒素又はリンであり、A−nは一価又は多価陰イオンであり、ここでマイナスの記号はこの化学種が陰イオンであることを意味し、nはこの陰イオン上の負の電荷の数を表し、下付文字nは1〜約6の正の整数である。一実施形態では、親水性で、より構造的に対称的な相間移動触媒化学種を使用する。
【0059】
、R、R、及びRの代表例は枝分かれ及び直鎖アルキル、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、ヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、オクタデシル、フェニル、ベンジル、トリル、シクロヘキシル、メチルシクロヘキシル及びアリルである。一実施形態では、メチル、エチル、ブチル、及びオクチルを使用する。
【0060】
−nの代表例はフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸基、重硫酸基、炭酸基、重炭酸基、水酸基、リン酸基、カルボン酸基、チオカルボン酸基、硫化物及び水硫化物である。一実施形態では、塩化物、臭化物及び水酸基を使用し得る。別の実施形態では、塩化物を使用する。
【0061】
適切な相間移動触媒の代表例は、塩化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、塩化メチルトリブチルアンモニウム、臭化メチルトリブチルアンモニウム、ヨウ化メチルトリブチルアンモニウム、水酸化メチルトリブチルアンモニウム、塩化テトラオクチルアンモニウム、臭化テトラオクチルアンモニウム、ヨウ化テトラオクチルアンモニウム、水酸化テトラオクチルアンモニウム、塩化メチルトリオクチルアンモニウム、臭化メチルトリオクチルアンモニウム、ヨウ化メチルトリオクチルアンモニウム、水酸化メチルトリオクチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ベンジルトリブチルアンモニウム、塩化ジベンジルジメチルアンモニウム、臭化ジベンジルジメチルアンモニウム、塩化ジベンジルジエチルアンモニウム、塩化ジベンジルジブチルアンモニウム、臭化テトラブチルホスホニウム、塩化テトラブチルホスホニウム、ヨウ化トリオクチル(オクタデシル)ホスホニウム、塩化トリブチル(テトラデシル)ホスホニウム及びこれらの水溶液である。一実施形態では、相間移動触媒は塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、塩化メチルトリブチルアンモニウム、塩化テトラオクチルアンモニウム、臭化テトラオクチルアンモニウム、塩化メチルトリオクチルアンモニウム、臭化メチルトリオクチルアンモニウム、ヨウ化メチルトリオクチルアンモニウム、水酸化メチルトリオクチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ベンジルトリブチルアンモニウム、塩化ジベンジルジエチルアンモニウム、塩化ジベンジルジブチルアンモニウム、臭化テトラブチルホスホニウム及び塩化テトラブチルホスホニウムの水溶液である。一実施形態では、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、塩化メチルトリブチルアンモニウム、塩化テトラオクチルアンモニウム、塩化メチルトリオクチルアンモニウム、臭化メチルトリオクチルアンモニウム、水酸化メチルトリオクチルアンモニウム、塩化ベンジルトリエチルアンモニウム、塩化ベンジルトリブチルアンモニウム、塩化ジベンジルジブチルアンモニウム、臭化テトラブチルホスホニウム及び塩化テトラブチルホスホニウムの水溶液を使用する。
【0062】
相間移動触媒は反応中の任意の時点で、全てを一度に、又は二回以上に分けて、又は連続式若しくは半連続式に、又はこれらの任意の組合せで添加することができる。単一の相間移動触媒を用いてもよいし、又は幾つかを組み合わせて、ブレンドとして、又は別個の成分として、又はこれらの任意の組合せとして添加してもよい。場合により、異なる触媒を、一連の反応全体に沿った異なる時点で添加してもよい。相間移動触媒は、水性硫化物及び/又は水硫化物を酸ハロゲン化物と反応させる第一の工程のみで添加してもよいし、或いは水性チオカルボン酸塩をハロアルキルシランと反応させる第二の工程のみで添加してもよい。また、相間移動触媒は両方の工程で同一又は異なるレベルで添加してもよい。
【0063】
使用すべき相間移動触媒の量は、他の要因の中でも、所望の反応速度及び許容できる副生成物のレベルに依存する。反応は相間移動触媒なしで行うこともできる。しかし、相間移動触媒を使用する場合、反応中に使用するのに適当な濃度は約1ppm(百万部当たりの部、重量基準)〜約3重量%の濃度である。一実施形態では、濃度は約10ppm〜約1重量%である。別の実施形態では、濃度は約50ppm〜約0.5重量%である。一実施形態では、約1ppm未満の量の相間移動触媒も使用することができるが、相間移動触媒を使用しないで得られる結果と類似の結果となる。
【0064】
別の実施形態では、本発明のプロセスは、
反応器に水性NaSHを装入し、
この水性NaSH溶液を撹拌しながら塩化アシル及び場合により相間移動触媒をいずれかの添加順序で添加し、反応が完了するまで撹拌を継続し、
工程bで得られた水溶液にハロアルキルシランを、場合により相間移動触媒をいずれかの順序で添加し、所望の反応進行度に達するまで溶液を撹拌し、
有機相を水性相から分離し、
場合により、ろ過し、及び/又は加熱及び/又は真空を用いて蒸発により残留揮発性成分を除去する
ことからなる。
【0065】
さらに別の実施形態では、本発明のプロセスは、水性相中に含まれる相間移動触媒の存在下で10%モル過剰の25%水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液を酸ハロゲン化物と反応させることからなる。酸ハロゲン化物は、反応の発熱と発生する硫化水素を好都合に処理するために、ゆっくり水性NaSHに添加する。このプロセスは、酸塩化物の添加速度により調節され、熱の除去及びその装置の硫化水素洗浄(scrubbing)能力により制限される。この添加は、温度を30〜40℃に維持して数時間続ける。相の速くて十分な混合を達成するためには激しい撹拌が必要である。このプロセスの生成物はチオカルボン酸ナトリウムの水溶液であり、変換率は約99%である。第二の反応工程では、チオカルボン酸ナトリウム溶液を約80℃に加熱し、追加の触媒とクロロプロピルトリエトキシシランを系に添加する。この混合物を数時間撹拌し、必要に応じて追加の触媒を添加して原料濃度を下げる。最終生成物は単に相を分離し、約135℃、20トルの絶対圧でストリッピングして軽量物を除去することによって得られ、全収率は酸塩化物を基準にして約90%である。最終仕上げ(polish)ろ過により、淡黄色の透明なチオカルボキシレートシラン生成物が得られる。
【0066】
上記のプロセスは、NaSH溶液の代わりに硫化ナトリウムの水溶液を用いて同様にして実施することができる。NaSHに代えてNaSを用いるプロセスでは、NaSHを用いる上記プロセスの半分のモル数のNaSが必要である。
【0067】
本発明のプロセスの一実施形態では、水性相中に含まれる相間移動触媒の存在下で10%モル過剰の25%水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液を酸ハロゲン化物と反応させる。この酸ハロゲン化物は、反応の発熱及び発生する硫化水素を好都合に処理するために、ゆっくり水性NaSHに添加する。このプロセスは酸塩化物の添加速度により調節され、熱の除去及び装置の硫化水素洗浄能力により制限される。添加は、30〜40℃の温度を維持して数時間続ける。一実施形態では、激しい撹拌を用いて、相の速くて十分な混合を達成する。このプロセスの生成物は変換率約99%のチオカルボン酸ナトリウムの水溶液である。
【0068】
第二の反応工程では、チオカルボン酸ナトリウム溶液を約80℃に加熱し、追加の触媒とクロロプロピルトリエトキシシランを系に添加する。この混合物を数時間撹拌し、必要に応じて追加の触媒を添加して原料濃度を下げる。最終生成物は、単に相を分離し、約135℃、20トルの真空でストリッピングして軽量物を除去することによって得られ、全収率は酸塩化物を基準にして約90%である。最終の仕上げ(polish)ろ過により、淡黄色の透明なチオカルボキシレートシラン生成物が得られる。
【0069】
上記のプロセスは、NaSH溶液の代わりに硫化ナトリウムの水溶液を用いて同様にして実施することができる。チオカルボキシレートシラン生成物が約85%の収率で得られる。
【実施例】
【0070】
以下の実施例のうち、実施例1〜4は、(a)水性チオカルボン酸塩反応体の製造法と、(b)本発明に従ったチオカルボキシレートシラン生成物の製造法を例証し、実施例5〜8は本発明に従ってチオカルボキシレートシランを製造するのに使用することができる水性チオカルボン酸塩反応体の製造(実施例8は連続式プロセスである)を例証する。
【0071】
実施例1
A.水性チオオクタン酸ナトリウムの調製
5リットルの丸底フラスコ中で水和フレーク(240グラム、60%)の形態の硫化ナトリウム(144グラム、1.84モル)を880グラムの水中に溶解させることにより、12.9重量%の硫化ナトリウム水溶液を調製した。滴下漏斗に、塩化オクタノイル(300グラム、1.84モル)を仕込んだ。5リットルのフラスコ中の硫化ナトリウム溶液の温度は21℃と測定された。5リットルのフラスコの中身をメカニカルスターラーで撹拌しながら塩化オクタノイルの添加を開始し、即座に、0.15グラムの濃縮塩化メチルトリオクチルアンモニウム水溶液を5リットルのフラスコに添加した。塩化オクタノイルの添加は、5リットルのフラスコを外から冷却しながら5〜10分以内に完了した。5リットルのフラスコの中身は68℃の最高温度に達した。次に、5リットルのフラスコの中身を周囲温度まで冷却し、撹拌を止めて、チオオクタン酸ナトリウム(チオールオクタン酸ナトリウム及びチオカプリル酸ナトリウムともいう)と塩化ナトリウムの透明でやや粘稠な一相の水溶液を得た。
【0072】
B.3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシランの調製
チオオクタン酸ナトリウムの水溶液を50℃に加熱し、この手順の間中メカニカルスターラーで撹拌した。この溶液に、3−クロロ−1−プロピルトリエトキシシラン(444グラム、1.84モル)を全て一度に添加した。その後即座に、0.15グラムの濃縮塩化メチルトリオクチルアンモニウム水溶液を添加した。連続的に撹拌しながら50℃の温度を9時間維持し、次いで温度を上げ、その後さらに15時間連続的に撹拌しながら74℃に維持した。この時点で、溶液を周囲温度まで放冷し、撹拌を止め、有機相を分液漏斗でデカンテーションにより水性相から分離した。ガスクロマトグラフィー及び質量分析(GC及びGCMS)により、80%の3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシランと15.5%の残留3−クロロ−1−プロピルトリエトキシシランを含有する生成物が明らかになった(記録された純度はGC応答曲線の面積%を基準にしている)。この生成物を110℃、0.1トルで真空ストリッピングして揮発性物質(主として3−クロロ−1−プロピルトリエトキシシラン)を除去することにより、94%の純度で生成物を得た。このプロセスを用いた生成物の正体は核磁気共鳴分光法(NMR)で確認した。
【0073】
実施例2
A.水性チオオクタン酸ナトリウムの調製
5リットルの丸底フラスコ中で水和フレーク(168グラム、60%)の形態の硫化ナトリウム(101グラム、1.29モル)を463グラムの水中に溶解させることにより、16重量%硫化ナトリウム水溶液を調製した。滴下漏斗に塩化オクタノイル(210.5グラム、1.294モル)を仕込んだ。5リットルフラスコ中の硫化ナトリウム溶液の温度は23℃と測定された。5リットルフラスコの中身をメカニカルスターラーで撹拌しながら5リットルフラスコへの塩化オクタノイルの添加を開始し、即座に0.21グラムの濃縮塩化メチルトリオクチルアンモニウム水溶液を5リットルフラスコに添加した。塩化オクタノイルの添加は、氷水浴を用いて5リットルフラスコを外から冷却しながら3分で完了した。5リットルフラスコの中身は59℃の最高温度に達した。次いで、5リットルフラスコの中身を周囲温度まで冷却し、撹拌を止めて、チオオクタン酸ナトリウムと塩化ナトリウムの透明でやや粘稠な一相水溶液を得た。
【0074】
B.3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシランの調製
チオオクタン酸ナトリウムの水溶液を50℃まで加熱し、この手順の間中メカニカルスターラーで撹拌した。この溶液に、0.21グラムの濃縮塩化メチルトリオクチルアンモニウム水溶液を全て一度に添加した。その後即座に、23.6グラムのn−テトラデカンに溶かした3−クロロ−1−プロピルトリエトキシシラン(310グラム、1.29モル)の溶液を添加した。次の15〜20分にわたり、連続的に撹拌しながら5リットルフラスコの中身の温度を55℃に上昇させた。次に、連続的に撹拌しながらこの温度を5〜6時間維持した。その後、次の7分で温度を70℃まで上げ、さらに約2時間連続的に撹拌しながら維持したところ、温度は78℃まで上昇し、続いてさらに24時間程度連続的に撹拌しながらこの温度に維持した。周囲温度に冷却した後、有機相を水性相から分離した。ガスクロマトグラフィー及び質量分析(GC及びGCMS)により、85%の3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシランと5.5%の残留3−クロロ−1−プロピルトリエトキシシランを含有する生成物が明らかになった(記録された純度はGC応答曲線の面積%を基準にしている)。110℃、0.1トルの真空ストリッピングにより、揮発性物質(主として3−クロロ−1−プロピルトリエトキシシラン)を除去して、90+%の純度の生成物を得た。このプロセスの生成物の正体は核磁気共鳴分光法(NMR)により確認した。
【0075】
実施例3
A.水性チオオクタン酸ナトリウムの調製
水和フレーク(168グラム、60%)の形態の硫化ナトリウム(101グラム、1.29モル)を5リットルの丸底フラスコ中の463グラムの水に溶解させることにより、16重量%硫化ナトリウム水溶液を調製した。次に、この溶液を、さらに吸収されなくなるまで撹拌しながら硫化水素を添加することにより、過剰の硫化水素で飽和させることによって水硫化ナトリウム(NaSH)の水溶液に変換した。滴下漏斗に塩化オクタノイル(210.5グラム、1.294モル)を仕込んだ。5リットルフラスコ中の水硫化ナトリウム溶液の温度は23℃と測定された。5リットルフラスコの中身をメカニカルスターラーで撹拌しながら塩化オクタノイルの5リットルフラスコへの添加を開始し、その後即座に0.21グラムの濃縮塩化メチルトリオクチルアンモニウム水溶液を5リットルフラスコに添加した。塩化オクタノイルの添加中硫化水素が放出された。塩化オクタノイルの添加は3分で完了したが、その間氷水浴を用いて5リットルフラスコを外から冷却した。5リットルフラスコの中身は59℃の最高温度に達した。次いで、5リットルフラスコの中身を周囲温度まで冷却し、撹拌を止めて、チオオクタン酸ナトリウムと塩化ナトリウムの透明でやや粘稠な一相水溶液を得た。
【0076】
B.3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシランの調製
チオオクタン酸ナトリウムの水溶液を50℃に加熱し、この手順の間中メカニカルスターラーで撹拌した。この溶液に、0.21グラムの濃縮塩化メチルトリオクチルアンモニウム水溶液を全て一度に添加した。その後即座に、23.6グラムのn−テトラデカンに溶かした3−クロロ−1−プロピルトリエトキシシラン(310グラム、1.29モル)の溶液を添加した。次の15〜20分にわたり、連続的に撹拌しながら5リットルフラスコの中身の温度を55℃まで上昇させた。その後、この温度を5〜6時間連続的に撹拌しながら維持した。次いで、次の7分間で温度を70℃まで上げ、さらに約2時間連続的に撹拌しながら維持した後、温度を78℃まで上げ、その後さらに24時間程度連続的に撹拌しながら維持した。周囲温度に冷却した後、有機相を水性相から分離した。ガスクロマトグラフィー及び質量分析(GC及びGCMS)により、85%の3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシランと5.5%の残留3−クロロ−1−プロピルトリエトキシシランを含有する生成物が明らかになった(記録された純度はGC応答曲線の面積%を基準にしている)。110℃、0.1トルで真空ストリッピングして、揮発性物質(主として3−クロロ−1−プロピルトリエトキシシラン)を除去して、90+%の純度の生成物を得た。このプロセスを用いた生成物の正体は核磁気共鳴分光法(NMR)により確認した。
【0077】
実施例4
A.水性チオオクタン酸ナトリウムの調製
1リットルの丸底フラスコ中で水和フレーク(65グラム、60%)の形態の硫化ナトリウム(39グラム、0.5モル)を130グラムの水に溶解することにより、20重量%の硫化ナトリウム水溶液を調製した。次にこの溶液を、撹拌しながら硫化水素を吸収されなくなるまで添加することにより過剰の硫化水素で飽和させることによって水硫化ナトリウム(NaSH)の水溶液に変換した。滴下漏斗に、塩化オクタノイル(81.3グラム、0.5モル)を仕込んだ。1リットルフラスコ内の水硫化ナトリウム溶液の温度は29.7℃と測定された。1リットルフラスコの中身をメカニカルスターラーで撹拌しながら、1リットルフラスコへの塩化オクタノイルの添加を開始し、その後即座に1グラムの濃縮塩化メチルトリオクチルアンモニウム水溶液を1リットルフラスコに添加した。塩化オクタノイルの添加中硫化水素が放出された。塩化オクタノイルの添加完了後、1リットルフラスコの中身を周囲温度まで冷却し、撹拌を止め、チオオクタン酸ナトリウムと塩化ナトリウムの透明でやや粘稠な一相の水溶液を得た。
【0078】
B.3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシランの調製
チオオクタン酸ナトリウムの水溶液を80℃に加熱し、この手順の間中メカニカルスターラーで撹拌した。この溶液に4グラムの濃縮臭化テトラブチルアンモニウム水溶液を全て一度に添加した。その後即座に3−クロロ−1−プロピルトリエトキシシラン(120グラム、0.5モル)の溶液を添加した。この混合物を連続的に撹拌しながら6時間80℃に保った後、周囲温度まで放冷した。周囲温度に冷却した後、有機相を水性相から分離した。ガスクロマトグラフィー及び質量分析(GC及びGCMS)により、93%の3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシランを含有する生成物が明らかになった。このプロセスを用いた生成物の正体は核磁気共鳴分光法(NMR)で確認した。
【0079】
実施例5
チオデカン酸ナトリウムの調製
5リットルの丸底フラスコに、204.0グラムの硫化ナトリウムと410.0グラムの水を添加し、この混合物を固体が溶解するまで室温で撹拌した。硫化水素添加開始の約75分後トラップ中に泡立ちが見えるようになるまで合計53.5グラムの硫化水素を表面下に添加した。次に、反応混合物を氷水浴で16℃まで冷却した。次いで、塩化デカノイルをゆっくり添加した。約半分の塩化デカノイルを添加した後に発泡が観察された。この時点で、塩化デカノイルの添加を遅くし、場合によっては止めて発泡を調節した。反応器の温度は約17℃に保った。塩化デカノイルの添加は合計で4時間後完了した。得られたチオデカン酸ナトリウムを含有する溶液のpHをpH紙で測定したところ、値は11であった。その後、追加の10.0グラムの塩化デカノイルを滴定して溶液に添加して中和したところ、最終的に中性pH値が得られた。
【0080】
実施例6
チオデカン酸ナトリウムの調製
2リットルの丸底フラスコに82グラムの硫化ナトリウムと164グラムの水を添加し、この混合物を固体が溶解するまで室温で撹拌した。トラップ中で泡立ちが見られるまで過剰の硫化水素を表面下に添加した。次いで、反応混合物を氷水浴で17℃まで冷却した。次に、塩化デカノイルをゆっくり添加した。約半分の塩化デカノイルを添加した後発泡が観察された。この時点で、塩化デカノイルの添加を遅くし、場合によっては止めて発泡を調節した。反応器の温度は約17℃に保った。塩化デカノイルの添加は合計で2.5時間後に完了した。得られたチオデカン酸ナトリウムを含有する溶液のpHをpH紙で測定したところ、アルカリ性の値が得られた。そこで、追加の2.7グラムの塩化デカノイル滴定して溶液に加えて中和したところ、最終的に中性のpH値になった。
【0081】
実施例7
2−エチルヘキサン酸ナトリウムの調製
1リットルの丸底フラスコに、78グラムの硫化ナトリウムと210グラムの水を添加し、この混合物を固体が溶解するまで室温で撹拌した。その後、トラップ中で泡立ちが見られるようになるまで、合計で18.5グラムの硫化水素を表面下に添加した。次に、反応混合物を25℃に冷却した。この時点で、合計で92グラムの塩化2−エチルヘキサノイルをゆっくり添加したところ、同時に温度が約45℃に上昇した。発泡は観察されなかった。得られた2−エチルヘキサン酸ナトリウムを含有する溶液のpHをpH紙で測定したところ、11の値が得られた。次に、追加の9.5グラムの塩化2−エチルヘキサノイルを滴定して溶液に加えて中和したところ、最終的に中性のpH値になった。
【0082】
実施例8
チオオクタン酸ナトリウムの連続的製造方法
1リットルのジャケット付きフラスコに、25重量%の水硫化ナトリウム(NaSH)水溶液と塩化オクタノイルを、速度調節されたダイヤフラムポンプを介して仕込んだ。温度は、冷水をジャケット中に循環させることにより約25℃に維持した。反応器に保持された生成物は約425グラムであった。生成物はダイヤフラムポンプを用いて連続的に取り出した。反応体の供給速度は、25重量%水硫化ナトリウム水溶液が2.43cc/分、塩化オクタノイルが0.83cc/分であった。以上の供給速度では、滞留時間が約2時間、NaSHと塩化オクタノイルのモル比が2.2:1となった。臭化テトラブチルアンモニウム相間移動触媒は50重量%水溶液として調製し、供給NaSHを介して1200ppmのレベルで反応媒体に添加した。定常状態で試料を採取してGC分析にかけた。チオオクタン酸ナトリウムは平均98.5%の純度で生成した。
【0083】
実施例9〜14
連続式プロセスで生成するチオオクタン酸ナトリウムの収率に対する回転攪拌機の先端速度の効果
これらの実施例では、チオオクタン酸ナトリウム生成物及び望ましくないオクタン酸ナトリウム副生成物の生成に対する様々な回転攪拌機の先端速度の効果を連続式プロセスに関連して評価した。実施例8に記載した連続式プロセスの場合と同様に、実施例9〜14の反応は1リットルのジャケット付きフラスコで行った。反応体、すなわち塩化オクタノイル(OC)の重量を基準にして600ppmの臭化tert−ブチルアンモニウム(TBAB)を含有する水性水硫化ナトリウム(NaSH)は、NaSH対OCのモル比約2.2:1で、速度調節されたダイヤフラムポンプを介してフラスコに導入した。各実施例のその他のチオカルボン酸塩生成反応の条件及びその結果を下記表に示す。
【0084】
【表1】

【0085】
【表2】

これらのデータが示しているように、先端速度が増大すると、反応生成物全体に対する%としての目的とするチオオクタン酸ナトリウム生成物の量が増大し、また、先端速度約30in/sec以上で、反応生成物の純度(95.31%チオオクタン酸ナトリウム)はチオカルボキシレートシランの製造に直接使用したときに望ましい高いレベルの純度のチオカルボキシレートシランが得られるようなものである。本明細書に開示した所望の攪拌機先端速度はその大きさに関わらずあらゆる回転攪拌機に当てはまることが注目され得る。すなわち、攪拌機の大きさが増大してより大きい直径の反応器に適応すれば、所望の先端速度を達成するr.p.m.はそれだけ低くなる。
【0086】
幾つかの実施形態に関連して本発明を説明してきたが、当業者には明らかな通り、本発明の範囲から逸脱することなく様々な変更をなすことができ、またその要素に代えて等価物を用いることができる。加えて、特定の状況又は材料を本発明の教示に適合させるために本発明の本質的な範囲から逸脱することなく多くの修正が可能である。従って、本発明は、本発明を実施する上で考えられる最良の形態として開示した特定の実施形態に限定されることはなく、特許請求の範囲に入る全ての実施形態を包含するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相間移動触媒の存在下又は非存在下で、チオカルボン酸の塩の水溶液をハロアルキルシランと反応させてチオカルボキシレートシランを得ることを含んでなる、チオカルボキシレートシランの製造方法。
【請求項2】
ハロアルキルシランの塩が次式で表され、
(−SiX
(式中、各Gは独立にアルキル、アルケニル、アリール又はアラルキル基の置換により誘導された多価基であり、Gは1〜約40個の炭素原子を含有することができ、各Lはハロゲン原子(すなわち、F、Cl、Br、又はI)、スルホン酸基、スルフィン酸基、又はカルボン酸基であり、各Xは独立にRO−、RC=NO−、RNO−又はRN−、−R、及び−(OSiR(OSiR)からなる群から選択されるものであり、各Rは独立に水素、不飽和を含有していてもいなくてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、及びアラルキル基を含んでなる基の組から選択され、各Rは0〜30個の炭素原子を含有し、1以上のXは−Rではなく、各下付文字tは0〜約50の整数であり、各下付文字cは独立に1〜約6の整数であり、各下付文字fは独立に1〜約6の整数である。)、
チオカルボン酸が以下の式で表される、請求項1記載の方法。
(−Y−SM)
(式中、各Gは独立にR又はアルキル、アルケニル、アリール若しくはアラルキル基の置換により誘導された多価基であり、Gは1〜約40個の炭素原子を含有することができ、GがRである場合、各Rは独立に水素、不飽和を含有していてもいなくてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、及びアラルキル基を含んでなる基の組から選択され、各Rは0〜約30個の炭素原子を含有し、Yはカルボニル、C(=O)であり、各Mはアルカリ金属、アンモニウム、又はモノ−、ジ−、若しくはトリ−置換アンモニウムであり、各下付文字aは独立に1〜約6の整数である。)
【請求項3】
生成物チオカルボキシレートシランが以下の式の1以上で表される、請求項1又は請求項2記載の方法。
(R−Y−S−)(−SiX
[−Y−S−G(−SiX
[G(−Y−S−) [G(−SiX
式中、G、G、R、Y、X、a、b、c及びdは各々前述した意味を有する。
【請求項4】
反応中追加の塩が存在し、この追加の塩がアルカリ金属ハロゲン化物、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属硫酸塩及びこれらの組合せからなる群から選択される、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
チオカルボン酸の塩の水溶液中のその濃度が約20〜約45重量%である、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
反応条件下で水に不溶性であるか又は水に対して限られた溶解性を有する有機溶媒の実質的非存在下で反応を行う、請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
反応条件下で水に不溶性であるか又は水に対して限られた溶解性を有する有機溶媒の存在下で反応を行う、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
相間移動触媒が重量で約1ppm〜約3%の濃度で反応媒体中に存在し、この相間移動触媒が、反応媒体の水性相から有機相中へチオカルボン酸陰イオンを移送することができる有機陽イオンを保有する、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
チオカルボン酸の水性塩とハロアルキルシランとの反応を撹拌しながら行って、シロキサン型副生成物の量を反応生成物の総量の約20重量%未満に保つ、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
臭化テトラブチルアンモニウム相間移動触媒の存在下、純度約95重量%以上の水性チオオクタン酸ナトリウムを3−クロロ−1−プロピルトリエトキシシランと反応させて3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシランを得ることを含む、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
相間移動触媒の存在下で硫化物及び/又は水硫化物の水溶液を酸ハロゲン化物及び/又は酸無水物と反応させてチオカルボン酸塩の水溶液を得ることを含んでなる、チオカルボン酸の塩の水溶液の製造方法。
【請求項12】
硫化物、水硫化物、酸ハロゲン化物及び酸無水物の構造が以下のいずれかの式表される、請求項10記載の方法。

MSH
(−Y−L)
式中、各Mはアルカリ金属、アンモニウム又はモノ−、ジ−、若しくはトリ−置換アンモニウムであり、各Lはハロゲン原子(すなわち、F、Cl、Br、又はI)、スルホン酸基、スルフィン酸基、又はカルボン酸基であり、YはカルボニルC(=O)であり、各個々のGは独立にR又はアルキル、アルケニル、アリール若しくはアラルキル基の置換により誘導された多価基であり、Gは1〜約40個の炭素原子を含有することができ、各下付文字aは独立に1〜6の整数であり、Rは水素、不飽和を含有していてもいなくてもよいアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基及びアラルキル基を含む基の組から選択され、各Rは0〜約30個の炭素原子を含有する。
【請求項13】
相間移動触媒が次式で表される、請求項10又は請求項11記載の方法。
(R−n
式中、各個々のR、R、R及びRは独立に、既に定義したRであり、Qは窒素又はリンであり、A−nは一価又は多価陰イオンであり、マイナスの記号はこの化学種が陰イオンであることを意味し、nはこの陰イオン上の負の電荷数を意味し、下付文字nは1〜約6の正の整数である。
【請求項14】
約10〜約40℃において回分式操作で、又は約20〜約50℃において連続式操作で行う、請求項10乃至請求項12のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
撹拌下で行って、全反応生成物の総重量を基準にして約95重量%以上の純度の生成物チオカルボン酸塩を得る、請求項10乃至請求項12のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
相間移動触媒を含有する水溶液中のチオカルボン酸の塩をハロアルキルシランと反応させてチオカルボキシレートシランを得る、請求項10乃至請求項13のいずれか1項記載の方法。

【公表番号】特表2007−521305(P2007−521305A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−518766(P2006−518766)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【国際出願番号】PCT/US2004/021180
【国際公開番号】WO2005/007661
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【復代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
【Fターム(参考)】