説明

チオシアン酸エステル化合物及びその製造方法

【課題】 抗菌剤、防カビ剤、防虫剤、除草剤、防汚剤又は金属キレート剤等として有用な、臭気の少ない新規チオシアン酸エステル化合物の提供。
【解決手段】ヒドロキノンにアルカリを作用させ、ヒドロキノンの一方の水酸基をイオン化して1,2−ジハロゲノエタンによって反応エチレン側鎖を形成し、得られた4−(2−ハロゲノエトキシ)フェノールに(メタ)アクリロイル化剤を反応させて、(メタ)アクリル酸エステルを製造し、この4−(2−ハロゲノエトキシ)フェニル(メタ)アクリレートに、チオシアン酸塩を反応させて、下式(1)で示される4−(2−チオシアナトエトキシ)フェニル(メタ)アクリレートを製造する。


(ただし、式中のRは水素又はメチル基である)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規4−(2−チオシアナトエトキシ)フェニル(メタ)アクリレート及びその製造方法に関する。
なお、本発明における(メタ)アクリレートは、アクリレート及びメタクリレートの両化合物を示す。
【背景技術】
【0002】
チオシアン酸塩やチオシアン酸エステル化合物は、抗菌剤、防カビ剤、防虫剤、除草剤又はキレート剤等として使用されているが、とりわけチオシアン酸エステル化合物であるアルキレンジチオシアネート、特にメチレンジチオシアネートは有用性の高い抗菌剤として汎用されている。例えば、チオシアン酸基を有する化合物を含む防汚塗料(特許文献1;特開2002−047112号公報)、イソチオシアン酸エステル化合物又はこれらを発生する化合物を含む土壌改善剤(特許文献2;特開平09−095402号公報、特許文献3;特開平10−117662号公報)等が知られている。
しかしながら、アルキレンジチオシアネートの中で、有用に使用されているチオシアン酸エステル化合物はごく一部であり、これはチオシアン酸エステル化合物が比較的低分子量の化合物で、溶出しやすく、抗菌剤等として使用するには蒸発ないし揮散するために寿命が短いこと、チオシアン酸エステル類の多くは刺激臭がすること等が使用時の欠点となっていることによる。
これらの問題を解決するため、従来、上記問題のあるチオシアン酸エステル化合物類をゼオライトのような吸着担体に吸着させる処理を行い、長寿命化や臭気の軽減を図っているが、有効な解決策とは言えなかった。
【0003】
【特許文献1】特開2002−047112号公報
【特許文献2】特開平09−095402号公報
【特許文献3】特開平10−117662号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明では、従来のアルキレンジチオシアネート類と同様の抗菌剤、防カビ剤、防虫剤又は除草剤としての効果を有しているが、アルキレンジチオシアネート類とは違って臭気の少ない新規チオシアン酸エステル化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、チオシアン酸エステル化合物の中でも、有用で、且つ臭気の少ない下記一般式(1)で示される新規4−(2−チオシアナトエトキシ)フェニル(メタ)アクリレートを提供する。
【0006】
【化1】


(式中、Rは水素又はメチル基を表す)
一般式(1)
【0007】
本発明の上記新規化合物は、上記一般式(1)中、Rが水素のとき、下記化学式(2)の4−(2−チオシアナトエトキシ)フェニルアクリレートである。
【0008】
【化2】


化学式(2)
【0009】
また、本発明の上記新規化合物は、上記一般式(1)中、Rがメチル基のとき、下記化学式(3)の4−(2−チオシアナトエトキシ)フェニルメタクリレートである。
【0010】
【化3】

化学式(3)
【0011】
本発明の上記一般式(1)で示される4−(2−チオシアナトエトキシ)フェニル(メタ)アクリレートは、ヒドロキノンを原料として、ヒドロキノンの一方の水酸基にエチレン側鎖を形成した後、他方の水酸基にエステル化により(メタ)アクリロイル基を導入し、さらに、チオシアン酸塩を反応させることによって目的とするチオシアン酸エステル生成物とすることによって製造する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の上記一般式(1)で示される4−(2−チオシアナトエトキシ)フェニル(メタ)アクリレートは、新規の化合物であり、これらの化合物は、臭気の少ない、抗菌剤、防カビ剤、防虫剤、除草剤、防汚剤又は金属キレート剤等として使用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明では、ヒドロキノンにアルカリ触媒下にエタノール溶媒中で1,2−ジブロモエタン等の1,2−ジハロゲノエタンを反応させて4−(2−ブロモエトキシ)フェノールとし、これにトリエチルアミン触媒下にTHF溶媒中で(メタ)アクリロイルクロリド等の(メタ)アクリロイル化剤を反応させて4−(2−ブロモエトキシ)フェニル(メタ)アクリレートとし、続いてDMF溶媒中でチオシアン酸カリを反応させて、上記一般式(1)で示される4−(2−チオシアナトエトキシ)フェニル(メタ)アクリレートを製造する。
【0014】
このときの反応式を図1に示す。
【0015】
上記ヒドロキノンにアルカリを作用させる際のアルカリとしては、水酸化カリウムの外に水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物、ナトリウム等のアルカリ金属又は酸化銀等の塩基性金属酸化物等を使用することができる。
【0016】
また、1,2−ジハロゲノエタンとしては、1,2−ジブロモエタンの外に1,2−ジクロロエタン等を用いることができる。さらに、(メタ)アクリロイル化剤としては、アクリル酸、メタクリル酸、アクリロイルクロリド又はメタクリロイルクロリド等の酸ハロゲン化物等をあげることができる。
【0017】
ヒドロキノンにエチレン側鎖の導入を行う反応では、上述するように1,2−ジハロゲノエタンを添加して、アルカリを溶解させたメタノール、エタノール等のアルコール類を溶媒として用いる。このときの反応温度は、溶媒の沸点以下、好ましくは0〜100℃、より好ましくは20〜80℃である。0℃未満では、ヒドロキノンと1,2−ジハロゲノアルカンとの反応が起こりにくくなり、100℃を越えると、両側の水酸基ともエチレン側鎖が導入された副生成物が多くなる。反応溶媒として使用するメタノール及びエタノールの沸点を反応温度とすることが好ましい。
【0018】
また、ヒドロキノンに1,2−ジハロゲノエタンを作用させ、エチレン側鎖を形成した4−(2−ハロゲノエトキシ)フェノールと(メタ)アクリロイル化剤との反応は、反応溶媒を使用することにより行うことができるが、この反応は、(メタ)アクリロイル化剤により異なる。アクリロイルクロリド、メタクリロイルクロリド等の酸ハロゲン化物を使用する場合は、反応溶媒として、ジエチルエーテルやテトラヒドロフラン等のエーテルを用いることができる。
反応温度は、室温以下、通常、好ましくは酸ハロゲン化物の滴下時には−20〜10℃、滴下終了後には−20〜20℃とする。−20℃未満では、4−(2−ハロゲノエトキシ)フェノールと(メタ)アクリロイル化剤との反応が起こりにくくなり、20℃を越えると、重合反応が起こりやすくなる。
【0019】
上記(メタ)アクリロイル化剤を作用させてエステル化した4−(2−ハロゲノエトキシ)フェニル(メタ)アクリレートと、チオシアン酸カリのようなチオシアン酸塩との反応は、反応溶媒を使用することにより行うことができる。反応溶媒としては、アセトン等のケトン又はN,N−ジメチルホルムアミド等のアミドを用いる。
反応温度は、溶媒の沸点以下、通常、好ましくは−20〜60℃、より好ましくは20〜50℃とすることができる。−20℃未満では、4−(2−ハロゲノエトキシ)フェニル(メタ)アクリレートとチオシアン酸塩との反応が起こりにくくなり、60℃を越えると、重合反応が起こりやすくなる。
【0020】
チオシアン酸塩としては、例えばチオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム又はチオシアン酸リチウム等のアルカリ金属塩等を用いることができる。
得られたチオシアン酸エステル化合物は、カラムクロマトグラフィー又は薄層クロマトグラフィー等を用いて精製する。
【0021】
精製後の化合物は、NMR法、FT−IR法及びGC−MS法により同定することによって下記化学式(2)及び(3)の構造を確認した。
【0022】
【化4】


化学式(2)
【0023】
【化5】


化学式(3)
【0024】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
<4−(2−チオシアナトエトキシ)フェニルアクリレートの製造>
冷却管、温度計及び攪拌機を設置した三口フラスコにて、水酸化カリウム26gをエタノール500mlに溶解させた。そこに、ヒドロキノン50gを添加した後、1, 2−ジブロモエタン60mlとエタノール200mlの混合液を約2時間かけて滴下し、還流条件下にて10時間反応させた。反応物について、溶媒を減圧留去させた後、残渣をn−ヘキサンで洗浄して、未反応の1,2−ジブロモエタンを取り除いた。
次いで、未反応のヒドロキノンを取り除くため、5%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、さらに中性になるまで十分水洗を行った。
得られた粗生成物は、減圧乾燥後、酢酸エチルで再結晶を行い、さらに、減圧乾燥して中間体1を11.0g得た(収率:11(mol−%))。
中間体1の収率、融点、性質、及び、H−NMR、FT−IR、GC−MS測定データを表1に示す。
【0026】
同様の装置にて、中間体1の10gをテトラヒドロフラン(THF)30mlに溶解させた。そこに、トリエチルアミン6.5ml及び2,4−ジ−tert.−ブチル−3−ヒドロキシトルエン(BHT)0.05gを添加した後、氷浴上にて10℃以下(約5℃)に冷却した後、アクリロイルクロリド3.5mlとTHF20mlの混合液を約3時間かけて滴下した。滴下終了後、氷浴上で30分間、室温にて約10時間反応させた。反応物について、ジエチルエーテル及び水を加え、溶媒抽出を行った。有機相について、溶媒を減圧留去させ、粗生成物を得て、ついでクロロホルムを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行い、中間体2を10.4g得た(収率:83(mol−%))。
中間体2の収率、融点、性質、及び、H−NMR、FT−IR、GC−MS測定データを表1に示す。
【0027】
同様の装置に中間体2を10g、チオシアン酸カリウム3.6g及びBHT0.05gをN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)50mlに溶解し、50℃にて25時間反応させた。反応物について、溶媒抽出し、次いでクロロホルムを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行い、4−(2−チオシアナトエトキシ)フェニルアクリレートを8.0g得た(収率:87(mol−%))。
4−(2−チオシアナトエトキシ)フェニルアクリレートの全収率、融点、性質、及び、H−NMR、FT−IR、GC−MS測定データを表2に示す。
【実施例2】
【0028】
<4−(2−チオシアナトエトキシ)フェニルメタクリレートの製造>
実施例1と同様の装置に、中間体1の10gをTHF 30mlに溶解させた。そこに、トリエチルアミン 6.5ml及びBHT 0.05gを添加した後、氷浴上にて10℃以下(約5℃)に冷却した後、メタクリロイルクロリド 4.5mlとTHF 20mlの混合液を約3時間かけて滴下した。
滴下終了後、氷浴上で30分間、室温にて約10時間反応させた。
反応物について、溶媒抽出し、次いでクロロホルムを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行い、中間体3を12.9g得た(収率:98(mol−%))。
中間体3の収率、融点、性質、及び、H−NMR、FT−IR、GC−MS測定データを表1に示す。
【0029】
同様の装置に中間体3を10g、チオシアン酸カリウム 3.5g及びBHT 0.05gを DMF 50mlに溶解し、50℃にて25時間反応させた。反応物について、溶媒抽出し、次いでクロロホルムを展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行い、4−(2−チオシアナトエトキシ)フェニルメタクリレートを8.9g得た(収率:96(mol−%))。
得られた4−(2−チオシアナトエトキシ)フェニルメタクリレートの全収率、融点、性質、及び、H−NMR、FT−IR、GC−MS測定データを表2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の化合物1の製造時の反応

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(1)で示される化合物、4−(2−チオシアナトエトキシ)フェニル(メタ)アクリレート。
(ただし、式中のRは水素又はメチル基である)
【化1】


一般式(1)
【請求項2】
ヒドロキノンを原料として、ヒドロキノンの一方の水酸基にエチレン側鎖を形成した後、他方の水酸基にエステル化により(メタ)アクリロイル基を導入し、さらに、チオシアン酸塩を反応させることによって4−(2−チオシアナトエトキシ)フェニル(メタ)アクリレートを製造する方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−117614(P2006−117614A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−309442(P2004−309442)
【出願日】平成16年10月25日(2004.10.25)
【出願人】(000233619)株式会社ニチリン (69)
【Fターム(参考)】