説明

チタン、銀、シリコンに結合能を有するペプチド

ソフトマターによるチタン、銀、シリコン材料の高機能化を行うために必要なチタン、銀、シリコンへの結合能を持つペプチド配列、ファージ、人工タンパク質やキメラ分子、または前記ペプチド配列と機能性ペプチド配列を持つ、ペプチド、ファージ、人工タンパク質又はキメラ分子とチタンの複合体を提供するものである。チタン粒子等に、異なったペプチド配列をファージ粒子上に提示したファージ集団を接触させ、ファージ粒子が結合したチタン粒子を遠心操作により回収し、得られたファージ粒子を菌体中で増殖させ、次いで、パニング操作を繰り返すことにより、チタンに結合するファージクローンを濃縮する。このファージクローンから、チタンに結合能を持つペプチドRKLPDAPGMHTW等を同定する。チタン、銀、シリコンへの結合能を持つペプチドとして、RKLPDAやRALPDAを挙げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、チタンに結合能を有するペプチドのスクリーニング方法や、チタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有するペプチドや、チタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有するペプチドがチタン、銀又はシリコンと結合したチタン、銀又はシリコンとペプチドとの複合体や、チタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有するペプチドと機能性ペプチド又は機能性タンパク質とが結合した人工タンパク質や、かかる人工タンパク質がチタン、銀又はシリコンと結合したチタン、銀又はシリコンと人工タンパク質との複合体や、チタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有するペプチドと標識化物質若しくはペプチドタグとの結合体又は非ペプチド系化合物とが結合したキメラタンパク質や、かかるキメラタンパク質がチタン、銀又はシリコンと結合したチタン、銀又はシリコンとキメラタンパク質との複合体や、チタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有するペプチドをその粒子表面上に提示したファージや、かかるファージがチタン、銀又はシリコンと結合したチタン、銀又はシリコンとファージとの複合体や、チタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有するペプチド,チタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有する人工タンパク質,チタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有するキメラタンパク質,チタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有するファージを用いるチタン、銀又はシリコン表面の改質又はチタンの整列化方法や、銀又はシリコン粒子の形成方法や、チタン−人工タンパク質複合体を有効成分とするインプラント材料に関する。
【背景技術】
1952年のブローネマルクによるチタンと骨が結合組織を介することなく結合するオッセオインテグレーション現象の発見を契機に、1965年に初めて純チタン製のインプラントが臨床応用された。現在に至るまで、オッセオインテグレーション現象を利用した、インプラント治療は盛んに行われているが、チタンと骨が結合するまでに要する期間は、3〜6ヶ月と非常に長い時間が必要になっており、その間これまでにも、この期間を短縮するために骨親和性を高める目的で、表面仕上げに工夫をしたり、カルシウムやハイドロキシアパタイトのチタン表面への蒸着や、材料にチタン合金を検討するなど、主に機械的な材料改変であるハードマターの再設計からのアプローチは盛んに行われているが、これまでのところ顕著な効果は得られていない。例えば、ハイドロキシアパタイトのようなセラミックの場合、被膜の減少や物理的性質上、負荷に弱いことが問題となる。また、合金の場合これまで多数検討されてきたが、多くの場合、有害な組織反応を引き起こしており、現在では、純チタンとその合金である、TiAlVが使われているに留まる。
また、インプラントと周囲粘膜の関係は、歯と歯肉の関係と異なり感染に対する抵抗力が小さい瘢痕組織であると考えられている。そのため、この問題を解決するために、チタン表面に抗菌剤をコートするなど、先述したハードマターの検討がなされているが、このようなハードマターからのアプローチでは、インプラントと周囲粘膜との解剖学的・組織学的な関係の改善は考慮されていない。
チタンは、非常に酸化されやすく、大気中・水中で直ちに二酸化物を形成する。二酸化チタン結晶のひとつである、アナターゼ形結晶が持つ光触媒活性を利用して、ほぼすべての有害化学物質を分解・無害化することができるため、シックハウスガスやアセトアルデヒドなどの悪臭の分解、防カビ剤の様々な用途に用いられている。しかし、アナターゼ形結晶が利用できる波長は紫外域に限られているため、可視光域で利用できる光触媒の開発が望まれている。
その他、被験体に生体内利用するのに適した材料を、放出可能な形のオステオポンチンと組み合わせてオステオポンチン含有インプラントを形成した状態で含む、オッセオインテグレーションの速度及び骨接着のパーセンテージを増加させる新規なオステオポンチン含有インプラント(特表2002−500898号公報)や、金属化合物を結合し、分子レベルでその配向や配列の制御を可能にした新規な蛋白質、蛋白質断片、ペプチドまたはこれらの変異体の誘導体を提供するため、蛋白質、蛋白質断片、ペプチド、またはこれらの変異体の有する特徴的な立体構造上に、ニトリロ三酢酸構造などを有する官能基を導入することにより、結合する金属化合物の構造を分子レベルで制御する技術(特開平10−338700号公報)や、半導体物質に特異的に結合することができるアミノ酸オリゴマーを有するように修飾された自己組織化生物分子を用いることにより、相や配置などの特異的な結晶的特性を有する半導体物質のナノ結晶を作製する方法(米国特許出願公開第2003/0073104号明細書)が提案されている。
上記のように、インプラントの分野におけるチタン材料の高機能化を、ハードマターによる材料改変ではなく、チタン表面に柔軟に結合することのできるソフトマターであるタンパク質などの高分子ポリマーにより行おうと考えたとき、チタン表面を特異的に認識・結合するようなアミノ酸モチーフは天然には存在しないという問題がある。本発明の課題は、ソフトマターによるチタン材料の高機能化を行うために必要なチタンへの結合能を持つペプチド配列、ファージ、人工タンパク質やキメラ分子、または前記ペプチド配列と機能性ペプチド配列を持つ、ペプチド、ファージ、人工タンパク質又はキメラ分子とチタンの複合体を提供することにある。具体的には、前記ペプチドと石灰化促進または骨増殖・分化ペプチドもしくは人工タンパク質・キメラタンパク質を表面に結合した機能性チタンインプラント材料で、オッセオインテグレーションが短期間で終了するもの、あるいは、前記ペプチドと歯肉に高い親和性を持つペプチドもしくは人工タンパク質・キメラタンパク質を表面に結合した機能性チタンインプラント材料で、細菌感染等に抵抗性の高いものを提供する。または、可視光領域でも光触媒能を持つような、前記ペプチドもしくは人工タンパク質・キメラタンパク質と二酸化チタン複合体、もしくは前記複合体とクロモフォアのような低分子化合物との複合体を提供することや、前記のペプチドと、肌にやさしいコラーゲン等とのキメラタンパク質・人工タンパク質を表面に結合した二酸化チタン顔料を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究し、金属チタンに水溶液中で、多様なペプチド配列をファージ粒子上に提示したファージ集団を接触させ、ファージ粒子がペプチド配列を介して結合したチタンを遠心操作により回収し、得られたチタンに結合したファージ粒子を大腸菌中で増殖させ、次いで、増殖させたペプチド配列をファージ粒子上に提示したファージ集団をチタンに再度接触させるパニング操作を繰り返すことによりチタンに結合するファージクローンを濃縮し、チタンを特異的に認識する、チタンに結合能を有するペプチドを提示すると考えられるファージライブラリーを得た。
得られたファージライブラリーをクローン化し、提示しているアミノ酸配列を調べた。前記のパニング操作を繰り返すことで、特にチタンに強く結合できる配列を提示するクローンがファージライブラリー中に、多数を占めることが予想されるが、RKLPDAPGMHTW(配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチド)を提示するファージクローンが43クローン中33クローンあり、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを提示するファージクローンのチタンへの結合能は、配列番号16〜38で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを提示するファージクローンの結合能を大きく上回るものであることを見い出した。
チタンに対して、得られた配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを提示するクローンが、果たして提示している配列を介して結合しているかどうかを検討する必要がある。水晶振動子形相互作用定量装置で消散を同時に測定できるQCM−D300(q−sense AB社 イエテボリ)を用いることで、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを提示するファージクローンのチタンへの結合が、提示する配列を介して特異的に結合しているかどうかを確認することができる。ファージのように非常に長く伸びた分子が、水晶振動子センサーに対して垂直方向に結合したとき、結合量を表す周波数の減少に対して、消散により測定される粘弾性が極端に上昇する。また、逆に非常に長く伸びた分子であっても、水晶振動子センサー面に水平に方向に結合したとき、周波数の減少に対して粘弾性の極端な上昇は見られない。実際に、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを提示するファージクローンは、チタン表面に対して、垂直方向に結合していることを示す結果を得た。水晶振動子形相互作用解析装置によるファージの結合様式を調べた例は、おそらく世界で初めてであり、この方法が固体表面に結合するファージの解析に非常に有用であることを同時に示した。
チタンは、水中でその表面は直ちに酸化され、水酸基がチタン原子に結合する。結合した水酸基は、二つのチタン原子間をブリッジする水酸基と、ひとつのチタン原子と結合したターミナルの水酸基に別れると考えられる。ブリッジの水酸基とターミナルの水酸基ではそれぞれ極性が異なるため、異なるpKを持つ。ブリッジの水酸基は酸として、ターミナルの水酸基は塩基として作用していると考えられている。このチタン表面に配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドがどのような特異性で結合しているのかを調べることで、チタンとペプチドの結合を制御することが可能になる。
一般にペプチドモチーフの特異性についての検討は、点変異の導入による機能に重要な役割を果たす残基の同定、欠失変異体の解析による機能領域の絞り込みが行われる。前者においては、アラニンスキャニングと呼ばれる一連のアラニン置換点変異体の機能解析がしばしば行われる。電荷を持たず、メチル基がひとつだけの小さな側鎖を持つアラニンへの置換は、そのアミノ酸残基の側鎖の機能を損なうと考えられている。配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを提示するファージクローンについてアラニンスキャニングを行った。配列番号4〜14で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを提示する一連の点変異ファージクローンを作製し、それぞれのクローンのチタンへの結合能を調べた結果、4番目のプロリンへの点変異体の結合能は、今回調べた中で最も大きく失われた。プロリンは、グリシンと同じくペプチドやタンパク質の主鎖が大きく折れ曲がる役割をしている。このことから、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドがチタンに結合するのに、4番目のプロリンに於ける主鎖の折れ曲がりが重要な役割を果たしていることが強く示唆された。また、側鎖に電荷を持つアミノ酸のうち1番目のアルギニンと5番目のアスパラギン酸への点変異体の結合能が著しく損なわれたことから、これらの残基が前記したチタン表面の正負の電荷と相互作用していることが示唆された。
アラニンスキャニングの結果、配列番号2の前半部、配列番号1の領域が、チタンへの結合に重要な役割を果たしていることを支持する結果が得られたので、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの7〜12番目を欠失した欠失変異体、すなわち配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを提示するファージクローンを作製し、チタンへの結合能を調べた。チタンへの結合能は、欠失により影響を受けなかったことから、配列番号1で表されるアミノ酸配列部分だけで十分にチタン結合能を有することが明らかになった。
配列番号3のペプチド配列が、チタンに結合する際、一番目のアルギニンの側鎖の正電荷の重要性は前記の通りであるが、同時に主鎖のアミノ末端のアミノ基と協調的に働いてチタンに結合している可能性が残る。そこで、配列番号3で表されるアミノ酸配列についてアミノ末端にアラニンを挿入した挿入変異体(配列番号15)を作製し、チタンへの結合能を調べた。その結果チタンへの結合能の上昇が見られた。結合能の上昇の理由としては、配列番号3の2番目のリジンの側鎖の正電荷と主鎖のアミノ末端のアミノ基の正電荷間の反発が、一残基のアミノ酸の挿入により減少し、配列番号15で表されるアミノ酸配列からなるペプチドの構造がより安定化したことによるものであると考えることができる。また、この結果は、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドがチタンに結合するのに、必ずしもアルギニンが先頭(アミノ末端)にある必要がないということを意味する。このことは、チタンに結合するキメラタンパク質、人工タンパク質や合成ペプチドなどを作製する際、配列番号1または3の配置に一次構造上の制約を全く受けないことを意味する重要な知見である。
過酸化水素処理により、チタン表面により多くの水酸基が結合することは知られている。また、前記の通り配列番号1,3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドとチタン表面の相互作用は、チタンに結合した水酸基の電荷と、配列番号1,3の一番目のアルギニンの側鎖と5番目のアスパラギン酸の側鎖間の静電的相互作用によるものが支配的だと考えられる。チタンに結合する水酸基の量を調節することができれば、チタンとペプチドの結合量を調節することができる可能性がある。実際に、過酸化水素処理したチタンへの配列番号3を提示するファージクローンの結合能は上昇した。このことは、過酸化水素処理によるチタン表面への水酸基のさらなる付加により、配列番号3を提示するファージクローン、配列番号3のペプチド、およびこれを含む人工タンパク質・キメラタンパク質の結合量を増やすことができる。また、逆にチタン表面から水酸基を除いた場合、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるペプチドを提示するファージクローン、配列番号3のペプチド、およびこれを含む人工タンパク質・キメラタンパク質の結合量を減らすことができると期待される。チタン表面から水酸基を取り除く方法としては、例えばフッ化ナトリウム処理がある。これらの方法を組み合わせることで、チタンへの配列番号3を提示するファージクローン、配列番号3のペプチド、およびこれを含む人工タンパク質・キメラタンパク質の結合量を調節することができると期待される。
また、チタン結合能を有するペプチドの金属材料への結合の特異性を調べたところ、チタン以外にも銀、シリコンに選択的に結合し、金・白金・銅・鉄・錫・亜鉛・クロム等には結合しないことを見い出した。この金属材料結合特異性を利用して、例えば金基盤上にチタンでパターンニングを施し、機能性化合物、例えば半導体ナノ粒子を抱合したチタン結合ペプチド、およびこれを含む人工タンパク質・キメラタンパク質を加えることで、チタン結合ペプチドを介して機能性化合物を金基盤上にパターン化することが期待できる。
本発明者らは、上記知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【発明の開示】
すなわち本発明は、(1)チタンに、異なったペプチド配列をファージ粒子上に提示したファージ集団を接触させ、ファージ粒子がペプチド配列を介して結合したチタンを遠心操作により回収し、得られたチタンに結合したファージ粒子を菌体中で増殖させ、次いで、増殖させたペプチド配列をファージ粒子上に提示したファージ集団をチタンに接触させるパニング操作を繰り返すことにより、チタンに結合するファージクローンを濃縮することを特徴とするチタンに結合能を有するペプチドのスクリーニング方法や、(2)上記(1)記載のスクリーニング方法により得られることを特徴とするチタンに結合能を有するペプチドに関する。
また本発明は、(3)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるチタンに結合能を有するペプチドや、(4)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつチタンに結合能を有するペプチドや、(5)配列番号1に示されるアミノ酸配列の1,4,5番目のアミノ酸残基が保存されていることを特徴とする上記(4)記載のチタンに結合能を有するペプチドや、(6)2番目のリジンがアラニンに置換された配列番号2に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする上記(5)記載のチタンに結合能を有するペプチドや、(7)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるチタンに結合能を有するペプチドや、(8)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつチタンに結合能を有するペプチドや、(9)配列番号3に示されるアミノ酸配列の1,4,5番目のアミノ酸残基が保存されていることを特徴とする上記(8)記載のチタンに結合能を有するペプチドや、(10)1〜5番目及び7〜12番目のアミノ酸残基がそれぞれアラニンに置換された配列番号4〜14に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする上記(8)記載のチタンに結合能を有するペプチドや、(11)配列番号3に示されるアミノ酸配列のN末端にアラニンが付加・挿入された配列番号15に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする上記(8)又は(9)記載のチタンに結合能を有するペプチドや、(12)配列番号16〜24に示されるアミノ酸配列からなるチタンに結合能を有するペプチドや、(13)配列番号16〜24に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつチタンに結合能を有するペプチドや、(14)配列番号25〜38に示されるアミノ酸配列からなるチタンに結合能を有するペプチドや、(15)配列番号25〜38に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつチタンに結合能を有するペプチドや、(16)化学修飾されていることを特徴とする上記(2)〜(15)のいずれか記載のチタンに結合能を有するペプチドに関する。
さらに本発明は、(17)チタンが、金属チタン、チタン合金又は二酸化チタンであることを特徴とする上記(2)〜(16)のいずれか記載のチタンに結合能を有するペプチドや、(18)上記(2)〜(16)のいずれか記載のチタンに結合能を有するペプチドがチタンと結合したチタン−ペプチド複合体や、(19)上記(2)〜(16)のいずれか記載のチタンに結合能を有するペプチドと、機能性ペプチド又は機能性タンパク質との結合体であって、かつチタンに結合能を有する人工タンパク質や、(20)機能性ペプチド又は機能性タンパク質が、チタンに結合能を有するペプチドと協働して、二次元結晶を自己集合で形成しうるペプチド又はタンパク質であることを特徴とする上記(19)記載の人工タンパク質や、(21)機能性ペプチド又は機能性タンパク質が、細胞接着活性等の細胞認識活性をもつペプチド配列を有するペプチド又はタンパク質であることを特徴とする上記(19)記載の人工タンパク質や、(22)上記(19)〜(21)のいずれか記載の人工タンパク質がチタンと結合したチタン−人工タンパク質複合体や、(23)上記(2)〜(17)のいずれか記載のチタンに結合能を有するペプチドと、標識化物質若しくはペプチドタグとの結合体、又は非ペプチド系化合物との結合体であって、かつチタンに結合能を有するキメラタンパク質や、(24)上記(23)記載のキメラタンパク質がチタンと結合したチタン−キメラタンパク質複合体や、(25)上記(2)〜(17)のいずれか記載のチタンに結合能を有するペプチドをその粒子表面上に提示し、かつチタンに結合能を有するファージや、(26)上記(25)記載のファージがチタンと結合したチタン−ファージ複合体や、(27)上記(2)〜(17)のいずれか記載のチタンに結合能を有するペプチドを用いることを特徴とするチタン表面の改質又はチタン粒子の形成方法や、(28)上記(19)〜(21)のいずれか記載のチタンに結合能を有する人工タンパク質を用いることを特徴とするチタン表面の改質、チタン粒子の形成又はチタンの整列化方法や、(29)上記(23)記載のチタンに結合能を有するキメラタンパク質を用いることを特徴とするチタン表面の改質又はチタン粒子の形成方法や、(30)上記(25)記載のチタンに結合能を有するファージを用いることを特徴とするチタンの整列化又はチタン粒子の形成方法や、(31)上記(22)記載のチタン−人工タンパク質複合体を有効成分とするインプラント材料に関する。
また本発明は、(32)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる銀に結合能を有するペプチドや、(33)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ銀に結合能を有するペプチドや、(34)配列番号1に示されるアミノ酸配列の1,4,5番目のアミノ酸残基が保存されていることを特徴とする上記(33)記載の銀に結合能を有するペプチドや、(35)2番目のリジンがアラニンに置換された配列番号2に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする上記(34)記載の銀に結合能を有するペプチドや、(36)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる銀に結合能を有するペプチドや、(37)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ銀に結合能を有するペプチドや、(38)化学修飾されていることを特徴とする上記(32)〜(37)のいずれか記載の銀に結合能を有するペプチドや、(39)上記(32)〜(38)のいずれか記載の銀に結合能を有するペプチドが銀と結合した銀−ペプチド複合体や、(40)上記(32)〜(38)のいずれか記載の銀に結合能を有するペプチドと、機能性ペプチド又は機能性タンパク質との結合体であって、かつ銀に結合能を有する人工タンパク質や、(41)上記(40)記載の人工タンパク質が銀と結合した銀−人工タンパク質複合体や、(42)上記(32)〜(38)のいずれか記載の銀に結合能を有するペプチドと、標識化物質若しくはペプチドタグとの結合体、又は非ペプチド系化合物との結合体であって、かつ銀に結合能を有するキメラタンパク質や、(43)上記(42)記載のキメラタンパク質が銀と結合した銀−キメラタンパク質複合体や、(44)上記(32)〜(38)のいずれか記載の銀に結合能を有するペプチドをその粒子表面上に提示し、かつ銀に結合能を有するファージや、(45)上記(44)記載のファージが銀と結合した銀−ファージ複合体や、(46)上記(32)〜(38)のいずれか記載の銀に結合能を有するペプチドを用いることを特徴とする銀表面の改質又は銀粒子の形成方法や、(47)上記(40)記載の銀に結合能を有する人工タンパク質を用いることを特徴とする銀表面の改質、銀粒子の形成又は銀の整列化方法や、(48)上記(42)記載の銀に結合能を有するキメラタンパク質を用いることを特徴とする銀表面の改質又は銀粒子の形成方法や、(49)上記(44)記載の銀に結合能を有するファージを用いることを特徴とする銀粒子の形成又は銀の整列化方法や、(50)配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるシリコンに結合能を有するペプチドや、(51)配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつシリコンに結合能を有するペプチドや、(52)配列番号1に示されるアミノ酸配列の1,4,5番目のアミノ酸残基が保存されていることを特徴とする上記(49)記載のシリコンに結合能を有するペプチドや、(53)2番目のリジンがアラニンに置換された配列番号2に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする上記(50)記載のシリコンに結合能を有するペプチドや、(54)配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるシリコンに結合能を有するペプチドや、(55)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつシリコンに結合能を有するペプチドや、(56)化学修飾されていることを特徴とする上記(50)〜(55)のいずれか記載のシリコンに結合能を有するペプチドや、(57)上記(50)〜(56)のいずれか記載のシリコンに結合能を有するペプチドがシリコンと結合したシリコン−ペプチド複合体や、(58)上記(50)〜(56)のいずれか記載のシリコンに結合能を有するペプチドと、機能性ペプチド又は機能性タンパク質との結合体であって、かつシリコンに結合能を有する人工タンパク質や、(59)上記(58)記載の人工タンパク質がシリコンと結合したシリコン−人工タンパク質複合体や、(60)上記(50)〜(56)のいずれか記載のシリコンに結合能を有するペプチドと、標識化物質若しくはペプチドタグとの結合体、又は非ペプチド系化合物との結合体であって、かつシリコンに結合能を有するキメラタンパク質や、(61)上記(60)記載のキメラタンパク質がシリコンと結合したシリコン−キメラタンパク質複合体や、(62)上記(50)〜(56)のいずれか記載のシリコンに結合能を有するペプチドをその粒子表面上に提示し、かつシリコンに結合能を有するファージや、(63)上記(62)記載のファージがシリコンと結合したシリコン−ファージ複合体や、(64)上記(50)〜(56)のいずれか記載のシリコンに結合能を有するペプチドを用いることを特徴とするシリコン表面の改質又はシリコン粒子の形成方法や、(65)上記(58)記載のシリコンに結合能を有する人工タンパク質を用いることを特徴とするシリコン表面の改質、シリコン粒子の形成又はシリコンの整列化方法や、(66)上記(60)記載のシリコンに結合能を有するキメラタンパク質を用いることを特徴とするシリコン表面の改質改質又はシリコン粒子の形成方法や、(67)上記(62)記載のシリコンに結合能を有するファージを用いることを特徴とするシリコン粒子の形成又はシリコンの整列化方法や、(68)上記(2)〜(17)のいずれか記載のチタンに結合能を有するペプチド、上記(32)〜(38)のいずれか記載の銀に結合能を有するペプチド、又は、上記(50)〜(56)のいずれか記載のシリコンに結合能を有するペプチドを原子間力顕微鏡(AFM)の探針(プローブ)として使用する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
第1図はD−12ファージライブラリーを用いた、チタン粒子へのパニングの結果を示す写真である。
縦軸は、溶出されてきたファージの力価を加えたファージの力価で割った値を、対数で表したもの、横軸の数字は、パニングの回数を表す。
第2図は、C7Cファージライブラリーを用いた、チタン粒子へのパニングの結果を示す写真である。
縦軸は、溶出されてきたファージの力価を加えたファージの力価で割った値を、対数で表したもの、横軸の数字は、パニングの回数を表す。
第3図は、D−12ライブラリーを用いて、チタン粒子に対してパニングを3回繰り返した後に得られたクローンが提示するペプチドのアミノ酸配列を示す写真である。
一番左はクローンの名前、その横に提示配列をアミノ酸一文字表記にて示してある。
第4図は、C7Cライブラリーを用いて、チタン粒子に対してパニングを3回繰り返した後に得られたクローンが提示するペプチドのアミノ酸配列を示す写真である。
一番左はクローンの名前、その横に提示配列をアミノ酸一文字表記にて示してある。なお、ここで示したアミノ酸配列には、両端に、C7Cライブラリーの提示配列が環状になるために必要なチオール基を持つシステイン残基を含んでいる。
第5図は、クローン化したファージのチタンへの結合能を調べた結果を示す写真である。
縦軸は、溶出されてきたファージの力価を加えたファージの力価で割った値を、対数で表したもの、横軸は、図3、図4中に示す各ファージクローンを表す。
第6図は、水晶発振子形生体分子相互作用解析装置QCM−D300を用いた配列番号3で示されるペプチドを提示するファージクローンのチタン表面への結合状態の解析結果を示す写真である。
第7図は、チタン製水晶発振子センサー上へのファージの結合状態の模式図の写真である。
QCM−D300を用いたチタン表面へのファージクローンの結合を模式的に表した。上が、BSAでセンサーをブロッキングしたときの結合状態、下は、ブロッキングをしなかったときの結合状態を示している。
第8図は、実施例で用いたプライマーの塩基配列を示す写真である。
この図の最初の段落の左に記されている「アルファベット−数字−アルファベット」は、そのプライマーを使って作製した変異体の名前が書かれている。名前の由来は、e3−2−3の配列をアミノ酸一文字表記、そのアミノ酸残基のアミノ端からの位置を数字で表し、最後のAは、アラニンに置換したことを意味する。例としてP4Aをあげると、配列番号3のN末端から4番目のプロリンをアラニンに置換するのに用いたプライマーのことである。
次に、Δ7−12F、Δ7−12R、K2AΔ7−12Rは、実施例5に説明する欠失変異体作製に用いたプライマーである。それぞれ、Δ7−12FとΔ7−12Rの組み合わせ、Δ7−12FとK2AΔ7−12Rの組み合わせでPCRに用いた。
Ala insertは、実施例6に説明する挿入変異体作製に用いたプライマーである。
第9図は、点変異が及ぼす配列番号4〜14で示されるペプチドを提示するファージクローンのチタンへの結合能への影響を調べた結果を示す写真である。
縦軸は、配列番号4〜14で示されるペプチドを提示するファージのチタンへの結合能を1としたときの点変異体の結合能の値を対数で表したもの、横軸は、各点変異体を表す。
第10図は、PCR法を用いた欠失変異体作製法の模式図の写真である。
第11図は、欠失変異と挿入変異が及ぼす配列番号2と15で示されるペプチドを提示するファージクローンのチタンへの結合能への影響を調べた結果を示す写真である。
縦軸は、配列番号1で示されるペプチドを提示するファージクローンのチタンへの結合能を1としたときの点変異体の結合能の値を表したもの、横軸は、欠失および挿入変異体を表す。
第12図は、チタン粒子の過酸化水素処理によるファージ結合能への影響の結果を示す写真である。
第13図は、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを提示するファージの各種金属への結合能を調べた結果を示す写真である。
縦軸は、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを提示するファージの結合量を、提示配列を持たないファージの結合量で割った値であり、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるペプチドによる結合の寄与を表している。銅と鉄は、どちらのファージも結合量が検出限界以下であった。
第14図は、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるペプチドにおけるアラニン置換変異がチタン・銀・シリコンへの結合に及ぼす影響を調べた結果を示す写真である。
縦軸は、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを提示するファージの結合量を1として規格化した値を表す。
第15図は、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる合成ペプチドのバイオミネラリゼーションにより生成された銀粒子の電子顕微鏡像と電子線回折パターンを示す写真である。
第16図は、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる合成ペプチドのバイオミネラリゼーションにより生成されたシリカ量とペプチド濃度との関係を示す写真である。
白抜き記号と点線部のペプチド濃度条件下では、ゲル状のシリカが形成され、黒塗り記号と実線部のペプチド濃度条件下では、粒子状のシリカが形成される。
第17図は、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる合成ペプチドのバイオミネラリゼーションにより生成されたシリカ粒子の透過型電子顕微鏡像と走査型電子顕微鏡像を示す写真である。
第18図は、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを融合したフェリチン発現ベクター構築の模式図の写真である。
第19図は、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを融合した組換えフェリチンのチタン表面への結合結果を示す写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明のチタンに結合能を有するペプチドのスクリーニング方法としては、チタンに、異なったペプチド配列をファージ粒子上に提示(ディスプレイ)したファージ集団(ファージライブラリー)を接触、好ましくは水溶液中で接触させ、ファージ粒子がペプチド配列を介して結合したチタンを遠心操作により回収し、得られたチタンに結合したファージ粒子を大腸菌等の菌体中で増殖させ、次いで、増殖させたペプチド配列をファージ粒子上に提示したファージ集団をチタンに接触させるパニング操作を繰り返すことにより、チタンに結合するファージクローンを濃縮するスクリーニング方法であれば特に制限されるものではなく、上記チタンとしては、粒子状、板状等の金属チタン、チタン合金、二酸化チタンなどのチタンを用いることができる。また、上記ファージライブラリーは、化学合成したランダムDNAをファージDNA(ファージミド)に挿入し、宿主大腸菌に遺伝子導入することでファージウィルスを形成する分子が生合成され、ウィルス粒子の外殼タンパク質pIIIのN末端の先にランダムペプチドが発現され、ランダム化した部分のアミノ酸残基(−Xn−,X=any amino acid)を表層に提示するファージとして調製することもできるが、市販されているファージライブラリー(random 7 mer,12 mer,cyclic 7 merなど)を用いることもできる。
本発明のチタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有するペプチドとしては、上記本発明のチタンに結合能を有するペプチドのスクリーニング方法により得られるチタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有するペプチドやその変異体を挙げることができる。具体的には、配列番号1に示されるアミノ酸配列RKLPDAからなるチタン、銀及びシリコンに結合能を有するペプチド(Δ7−12)や、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつチタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有するペプチド(Δ7−12変異体)を、チタン、銀及び/又はシリコンへの優れた結合能を有する点で好適に例示することができる。上記Δ7−12変異体の中でも、配列番号1に示されるアミノ酸配列の1番目(Arg),4番目(Pro),5番目(Asp)のアミノ酸残基が保存されているペプチドが好ましく、2番目(Lys)がAlaに置換された配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(K2A−Δ7−12)がチタン、銀及びシリコンへの優れた結合能を有する点で特に好ましい。
また、本発明のチタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有するペプチドとして、配列番号3に示されるアミノ酸配列RKLPDAPGMHTWからなるチタンに結合能を有するペプチド(e3−2−3)や、配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつチタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有するペプチド(e3−2−3変異体)を、チタン、銀及び/又はシリコンへの優れた結合能を有する点で好適に例示することができる。上記e3−2−3変異体としては、1〜5番目及び7〜12番目のアミノ酸残基がそれぞれAlaに置換された配列番号4〜14に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(R1A,K2A,L3A,P4A,D5A,P7A,G8A,M9A,H10A,T11A,W12A)や、e3−2−3のN末端にAlaが付加・挿入された配列番号15に示されるアミノ酸配列からなるペプチド(Ala insert)を挙げることができる。Ala insertは、チタン、銀及び/又はシリコンへの優れた結合能を有する点で特に好ましい。
また、本発明のチタンに結合能を有するペプチドとして、e3−2−3同様に、12残基の直線状ランダムペプチドを提示するD12ライブラリー(New England Biolabs社、Beverly)由来の配列番号16〜24に示されるアミノ酸配列からなるペプチドや、配列番号16〜24に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつチタンに結合能を有するペプチドを例示することができる。
さらに、本発明のチタンに結合能を有するペプチドとして、7残基の環状ランダムペプチドを提示するC7Cライブラリー(New England Biolabs社)由来の配列番号25〜38に示されるアミノ酸配列からなるペプチドや、配列番号25〜38に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつチタンに結合能を有するペプチドを例示することができる。
ここで、アミノ酸の「置換、欠失若しくは付加」の程度及びそれらの位置などは、改変されたペプチドが、配列番号1や3で示されるアミノ酸配列からなるペプチドと同様に、チタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有する同効物であればすべて本発明に包含される。
また、チタンとしては、金属チタン、チタン合金、不定形二酸化チタン、二酸化チタンアナターゼ結晶、二酸化チタンルチル結晶、二酸化チタンブルカイト結晶を例示することができる。
上記本発明のチタンに結合能を有するペプチド群(以下、これらペプチドを「本件チタン結合ペプチド」という)、銀に結合能を有するペプチド群(以下、これらペプチドを「本件銀結合ペプチド」という)、シリコンに結合能を有するペプチド群(以下、これらペプチドを「本件シリコン結合ペプチド」という)は、そのアミノ酸配列に従って、一般的な化学合成法により製造することができる。そして、化学合成法には、通常の液相法及び固相法によるペプチド合成法が包含される。かかるペプチド合成法は、より詳しくは、アミノ酸配列情報に基づいて、各アミノ酸を1個ずつ逐次結合させ鎖を延長させていくステップワイズエロゲーション法と、アミノ酸数個からなるフラグメントを予め合成し、次いで各フラグメントをカップリング反応させるフラグメント・コンデンセーション法とを包含する。本発明のペプチドの合成は、そのいずれによることもできる。
上記ペプチド合成に採用される縮合法も、公知の各種方法に従うことができる。その具体例としては、例えばアジド法、混合酸無水物法、DCC法、活性エステル法、酸化還元法、DPPA(ジフェニルホスホリルアジド)法、DCC+添加物(1−ヒドロキシベンゾトリアゾール、N−ヒドロキシサクシンアミド、N−ヒドロキシ−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボキシイミド等)、ウッドワード法等を例示できる。これら各方法に利用できる溶媒もこの種ペプチド縮合反応に使用されることがよく知られている一般的なものから適宜選択することができる。その例としては、例えばジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサホスホロアミド、ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル等及びこれらの混合溶媒等を挙げることができる。
上記ペプチド合成反応に際して、反応に関与しないアミノ酸やペプチドにおけるカルボキシル基は、一般にはエステル化により、例えばメチルエステル、エチルエステル、第三級ブチルエステル等の低級アルキルエステル、例えばベンジルエステル、p−メトキシベンジルエステル、p−ニトロベンジルエステルアラルキルエステル等として保護することができる。また、側鎖に官能基を有するアミノ酸、例えばTyrの水酸基は、アセチル基、ベンジル基、ベンジルオキシカルボニル基、第三級ブチル基等で保護されてもよいが、必ずしもかかる保護を行う必要はない。更に例えばArgのグアニジノ基は、ニトロ基、トシル基、2−メトキシベンゼンスルホニル基、メチレン−2−スルホニル基、ベンジルオキシカルボニル基、イソボルニルオキシカルボニル基、アダマンチルオキシカルボニル基等の適当な保護基により保護することができる。上記保護基を有するアミノ酸、ペプチド及び最終的に得られる本件チタン結合ペプチド等におけるこれら保護基の脱保護反応もまた、慣用される方法、例えば接触還元法や、液体アンモニア/ナトリウム、フッ化水素、臭化水素、塩化水素、トリフルオロ酢酸、酢酸、蟻酸、メタンスルホン酸等を用いる方法等に従って、実施することができる。
その他、本件チタン結合ペプチド等は、本件チタン結合ペプチド等をコードするDNAの塩基配列情報により、遺伝子工学的手法を用いて常法により調製することもできる。このようにして得られる本件チタン結合ペプチド等は、通常の方法に従って、例えばイオン交換樹脂、分配クロマトグラフィー、ゲルクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、向流分配法等のペプチド化学の分野で汎用されている方法に従って、適宜その精製を行うことができる。
また、本件チタン結合ペプチド、本件銀結合ペプチド、本件シリコン結合ペプチドとして、化学修飾がなされたペプチドを有利に用いることができる。かかる化学修飾としては、官能基を有するアミノ酸への置換からなる化学修飾や、リンカーとの結合を容易に形成させるための化学修飾を挙げることができるが、化学修飾によりチタン、銀、シリコンへの結合能が低下しない修飾が好ましい。例えば、上記リンカーとの結合を容易に形成させるための化学修飾としては、ビオチンのN−ハイドロキシサクシイミドエステル体を用いて、ペプチドのアミノ基へのビオチンの共有結合を挙げることができる。かかるペプチドのビオチン化により、後述するキメラ分子を容易に作製することができる。
本発明のチタン、銀、シリコンに結合能を有する人工タンパク質としては、本件チタン結合ペプチド、本件銀結合ペプチド、又は本件シリコン結合ペプチドと、機能性ペプチド又は機能性タンパク質との結合体からなるものであれば特に制限されるものではなく、上記機能性ペプチド又はタンパク質の機能としては、αヘリックス形成等の二次構造を形成しやすい機能、石灰化促進機能、骨増殖分化誘導機能、クロモフォア結合機能、コラーゲン結合機能、細胞接着機能、細胞外へタンパク質を局在化させる機能、特定の細胞内小器官(ミトコンドリア、葉緑体、ERなど)にターゲットする機能、細胞膜に埋め込まれる機能、アミロイド繊維形成機能、繊維性タンパク質の形成機能、タンパク質性ゲル形成機能、タンパク質性フィルム形成機能、単分子膜形成機能、二次元結晶を自己集合で形成しうる等の自己集合機能、粒子形成機能、他のタンパク質の高次構造形成を補助する機能、ウィルス等の中和抗体を誘導する抗原機能、免疫賦活化する機能(Nature Medicine,3:1266−1270,1997)、細胞増殖を促進又は抑制する機能、癌細胞を特異的に認識する機能、プロテイン・トランスダクション機能、細胞死誘導機能、抗原決定残基呈示機能、金属結合機能、補酵素結合機能、触媒活性機能、蛍光発色活性機能、特定の受容体に結合してその受容体を活性化する機能、信号伝達に関わる特定の因子に結合してその働きをモジュレートする機能、タンパク質,DNA,RNA,糖などの生体高分子を特異的に認識する機能などを挙げることができる。これらの人工タンパク質は、チタンに結合能を有するペプチドに機能性ペプチド又は機能性タンパク質を、アミノ酸レベルで、あるいはDNAレベルで直接的又は間接的に連結することにより作製することができる。DNAレベルで作製する際には、本発明者らにより提案されている「高分子マイクロ遺伝子重合体の作成方法」(特許第3415995号公報)や「多機能塩基配列及びそれを含む人工遺伝子」(特開2001−352990号公報)に開示された人工タンパク質の設計技術を有利に用いることができる。
上記機能性ペプチド又は機能性タンパク質の中でも、例えば、チタン、銀又はシリコンに結合能を有するペプチドと協働して、二次元結晶を自己集合で形成しうるペプチド又はタンパク質を用いると、その二次元結晶に沿ってチタン、銀又はシリコンをナノスケールできれいに整列化することができる人工タンパク質を構築することができる。かかるチタン、銀又はシリコンに結合能を有するペプチドと協働して、二次元結晶を自己集合で形成しうるペプチド又はタンパク質として、ウィルス(例えば、アデノウィルス、ロタウィルス、ポリオウィルス、HK97、CCMV等)、フェリチンやアポフェリチンのようなフェリチンファミリー、DpsAタンパク質やMrgAタンパク質を挙げることができる。その他の、二次元結晶を自己集合で形成しうるペプチド又はタンパク質としては、人工的に設計された繰り返し性に富む人工タンパク質などを挙げることができる。また、タンパク質の二次元結晶を作製する方法としては、タンパク質溶液を水面上に単分子膜で展開させた後、固体基板に吸着させる方法などを例示することができる。
また、上記機能性ペプチド又は機能性タンパク質の中でも、例えば、細胞接着活性等の細胞認識活性をもつペプチド配列を有するペプチド又はタンパク質を用いると、チタン、銀又はシリコンと細胞を同時に認識する複合活性をもつ人工タンパク質を得ることができる。かかる細胞接着活性等の細胞認識活性をもつペプチド配列を有するペプチド又はタンパク質としては、各種リガンド、モノクローナル抗体やその可変領域、1本鎖抗体等を例示することができる他、上記のような天然タンパク質に限らず、細胞接着活性を有するペプチドを含む人工タンパク質を挙げることができる。
本発明のチタン、銀又はシリコンに結合能を有するキメラタンパク質としては、本件チタン結合ペプチド、本件銀結合ペプチド、又は本件シリコン結合ペプチドと、単独又は他の物質と反応することにより検出可能なシグナルをもたらすことができる標識化物質又はペプチドタグとの結合体からなるキメラ分子を挙げることができる。上記標識化物質としては、酵素、蛍光物質、化学発光物質、放射性同位体、抗体のFc領域、等を挙げることができ、具体的には、ペルオキシダーゼ(例えば、horseradish peroxidase)、アルカリフォスファターゼ、β−D−ガラクトシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、グルコース−6−ホスフェートデヒドロゲナーゼ、アルコール脱水素酵素、リンゴ酸脱水素酵素、ペニシリナーゼ、カタラーゼ、アポグルコースオキシダーゼ、ウレアーゼ、ルシフェラーゼ若しくはアセチルコリンエステラーゼ等の酵素、フルオレスセインイソチオシアネート、フィコビリタンパク、希土類金属キレート、ダンシルクロライド若しくはテトラメチルローダミンイソチオシアネート等の蛍光物質、H、14C、125I等の放射性同位体、化学発光物質を挙げることができる。また、ペプチドタグとしては、HA、FLAG、Myc等のエピトープタグや、GST、マルトース結合タンパク質、ビオチン化ペプチド、オリゴヒスチジン(His)等の親和性タグなどの従来知られているペプチドタグを具体的に例示することができる。例えば、HisタグとNi−NTAの親和性を利用すると、チタン・ペプチドあるいはタンパク質複合体を容易に精製することができる。
また、本発明のチタン、銀、又はシリコンに結合能を有するキメラタンパク質としては、本件チタン結合ペプチド、本件銀結合ペプチド、又は本件シリコン結合ペプチドと、非ペプチド系化合物との結合体からなるキメラ分子を挙げることができる。上記非ペプチド系化合物のうち、非ペプチド系低分子化合物としては、フルオレセイン、ローダミン等の蛍光色素、クロラムフェニコール、アンピシリン等の抗生物質を、非ペプチド系高分子化合物としては、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ガラスビーズ、シリカゲル、多糖類(誘導体を含む)、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコールを具体的に例示することができる。
本発明のチタン、銀、又はシリコンに結合能を有するファージとしては、本件チタン結合ペプチド、本件銀結合ペプチド、又は本件シリコン結合ペプチドをその粒子表面上に提示するファージであればどのようなものでもよく、かかるチタン、銀、又はシリコンに結合能を有するファージは、前記のスクリーニングの過程で、チタン分子、銀分子、又はシリコン分子に強く結合したペプチド提示ファージを、その他のファージ集団から分離することにより、チタン、銀、又はシリコンに結合するファージクローンとして得られる他、本件チタン結合ペプチド、本件銀結合ペプチド、又は本件シリコン結合ペプチドをコードするDNAを常法によりファージミドベクターに組み込んで大腸菌等の宿主細胞を形質転換し、ヘルパーファージを感染させることで得ることもできる。一般的にM13やfdなどの繊維状ファージは、高濃度の状態では液晶状態となり、規則的な整列構造をとることから、チタンを認識するペプチドファージを液晶状態にすることにより、チタンを認識するペプチドが規則的にナノスケールで配列した状態をつくることができる。ここにチタンを接触させると、ペプチドのチタン認識能力により、チタンを整列させることができる。
本発明のチタン、銀又はシリコンとペプチドとの複合体や、チタン、銀又はシリコンと人工タンパク質との複合体や、チタン、銀又はシリコンとキメラタンパク質との複合体や、チタン、銀又はシリコンとファージとの複合体としては、上記本発明のチタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有するペプチドや、上記本発明のチタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有する人工タンパク質や、上記本発明のチタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有するキメラタンパク質や、上記本発明のチタン、銀及び/又はシリコンに結合能を有するファージが、チタン、銀又はシリコンにイオン結合、パイ電子結合、ファンデルワールス結合、疎水結合などの弱い結合のいずれか、あるいは組み合わせにより結合した複合体を挙げることができる。特に、チタン−人工タンパク質複合体は、インプラント材料,光触媒,顔料等として有利に用いることができる。
チタン結合ペプチドを融合した骨分化を促進するサイトカイン、例えばBMPをチタン製インプラント材にチタン結合ペプチドを介して結合したものを用いることで、チタンインプラント近傍における積極的な骨化が起こることにより、オッセオインテグレーションの期間が短縮できることが期待される。また、チタン結合ペプチドを人工的に融合したハイドロキシアパタイトのバイオミネラリゼーションを促進するペプチドあるいはタンパク質を、チタン製インプラント材にチタン結合ペプチドを介して結合したものを用いることで、チタンインプラント表面の石灰化が促進され、オッセオインテグレーションの期間が短縮できることが期待される。あるいは、チタン結合ペプチドを人工的に融合した抗菌作用を持つペプチドあるいはタンパク質あるいは化合物を、チタン製インプラント材にチタン結合ペプチドを介して結合したものを用いることで、オッセオインテグレーション中の感染症を低減することができる。さらに、チタン結合ペプチドを融合したコラーゲンをチタン製インプラント材にチタン結合ペプチドを介して結合することで、これまでの人工歯根では見られない、人工歯根に対し垂直にコラーゲン繊維が結合したような構造を構築することができる。これは、強い力がかかったとき、本来の歯が持つ力を分散させるメカニズムを模倣しており、これにより人工歯根に対して強い力がかかったときに、従来の人工歯根よりも高い安定性を持つことができる。
このチタン結合ペプチドは、同時に銀にも結合することができるので、例えば、チタン結合ペプチドを融合したコラーゲンを、酸化チタン顔料と銀に結合させた化粧品は、高い抗菌作用を付与することができる。
さらに、本発明の本件チタン結合ペプチドを用いるチタン表面の改質方法や、本件チタン結合ペプチドと結合した本発明の人工タンパク質を用いるチタン表面の改質、チタン粒子の形成又はチタンの整列化方法や、本件チタン結合ペプチドと結合した本発明のキメラタンパク質を用いるチタン表面の改質又はチタン粒子の形成方法や、本件チタン結合ペプチドを粒子表面上に提示した本発明のファージを用いるチタンの整列化又はチタン粒子の形成方法によると、チタン表面の性状やチタンの物性を改善することができ、特にタンパク質の自己集合能を利用した酸化チタンのパターンニングによる、ナノスケールのデバイス開発も可能となる。
また、本件銀結合ペプチドや本件シリコン結合ペプチドを用いる銀表面やシリコン表面の改質又は銀粒子やシリコン粒子の形成方法や、本件銀結合ペプチドや本件シリコン結合ペプチドと結合した本発明の人工タンパク質を用いる銀表面やシリコン表面の改質又は銀粒子やシリコン粒子の形成、銀又はシリコンの整列化方法や、本件銀結合ペプチドや本件シリコン結合ペプチドと結合した本発明のキメラタンパク質を用いる銀表面やシリコン表面の改質又は銀粒子やシリコン粒子の形成方法や、本件銀結合ペプチドや本件シリコン結合ペプチドを粒子表面上に提示した本発明のファージを用いる銀粒子やシリコン粒子の形成、銀又はシリコンの整列化方法によると、銀表面やシリコン表面の性状や銀・シリコンの物性を改善することができる。
特に、チタン表面や銀表面やシリコン表面の改質により、生物が自身の体の内外に鉱物(無機化合物)を作り出す生体鉱物形成能(biomineralization)を付与することができる。
また、本件チタン結合ペプチドや本件銀結合ペプチドや本件シリコン結合ペプチドを原子間力顕微鏡(AFM)の探針(プローブ)として用いることにより、固体材料表面を水溶液中で分析することが可能となる。例えば、本件チタン結合ペプチド、あるいはチタン結合ペプチド融合人工タンパク質・キメラタンパク質を、原子間力顕微鏡の探針に、例えば金・チオール結合で固層化する。探針を、チタン・銀・シリコンの基盤に近付けることで、チタン結合ペプチドと基盤の間に相互作用が生じ、今度は探針を離すことで相互作用が切断される。その時に発生する張力を測定することができる。また、探針を二次元にスキャンすることで、基盤表面とチタン結合ペプチドの結合力を指標とした、フォースマップを作製することができる。作製したフォースマップをもとに、パターンニングに適した、材料および結晶面の選択などの幅が広がる。
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
粒径150μMのチタン粒子10mg(住友チタニウム、兵庫)を、1.5mlエッペンドルフチューブに入れ、500μlの50mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(以下、トリス(キシダ化学、大阪))塩酸緩衝液pH7.5、150mM塩化ナトリウム(和光純薬、大阪)溶液(以下TBS)に、0.1%ウシ血清アルブミン(以下、BSA)0.1% Polyoxyethylenesorbitan monolaurate(以下、Tween−20(シグマ社、St.Louis))を添加した溶液で、二回洗浄した。チタン粒子の洗浄は、卓上遠心機H1300(コクサン)13,000rpm,5秒の遠心操作により、チタン粒子を沈澱させ、上清を取り除くことで行った。洗浄後、ファージの非特異的吸着をブロッキングするために、さらに1ml同溶液で30分間、室温で、回転撹拌機rotator RT−50(タイテック社)を用いて回転撹拌した。
卓上遠心機H1300(コクサン)13,000rpm,5秒の遠心操作により、チタン粒子を沈澱させ、上清を取り除いた後、ペプチド提示ファージライブラリー、12残基の直線状ランダムペプチドを提示するD12ライブラリー(New England Biolabs社、Beverly)、1.7x1011プラーク形成単位(以下、pfu)もしくは、7残基の環状ランダムペプチドを提示するC7Cライブラリー(New England Biolabs社)2.0x1011pfuを含む1ml TBS,0.1% BSA,0.1% Tween−20溶液を加え、二時間、室温で回転撹拌機rotator RT−50を用いて回転撹拌した。
卓上遠心機H1300(コクサン)13,000rpm,5秒の遠心操作により、上清を取り除き、1ml TBS,0.1% Tween−20溶液で10回洗浄した。洗浄は、8,000×g,5秒の遠心操作により、チタン粒子を沈澱させることで行った。洗浄溶液を取り除いた後、1mlの0.2M グリシン(和光純薬)・塩酸緩衝液pH2.2を加え、10分間、室温でタイテック社製rotator RT−50を用いて回転撹拌することでチタンに結合したファージを溶出した。遠心操作により、チタンを沈澱させ、上清を別の1.5mlエッペンドルフチューブに移し、さらに150μlの1M トリス・塩酸緩衝液pH9.1を添加することで中和した後に、溶液中のファージの力価(単位溶液あたりのプラーク形成能力)を常法(Molecular Cloning Third Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press)に従い測定した。
上記の操作で得られたファージ溶出液をLB培地20ml中で対数増殖中の大腸菌ER2738株[F’lacI△(lacZ)M15 proAzzf::Tn10(TetR)fhuA2 supE thi△(lac−proAB)△(hsdMS−mcrB)5(rMcrBC)]に感染させ、振とう培養機(BR40−LF、タイテック社)を用い37℃で激しく撹拌しながら6時間インキュベートした。ファージ感染菌培養液を遠心チューブ(50ml、ベックマン、カルフォルニア)に移して、ベックマン遠心機(ベックマン、JA−12ローター)を用い4℃、10分、10,000rpmで遠心してER2738株を取り除く操作を2度行い、上清のファージ液を別のチューブに移した。ファージ液に3.5ml(1/6量)の20% Polyethylene glycol 6000(以下PEG6000、Fluka社、Buchs)、2.5M 塩化ナトリウム溶液を加え、テストチューブミキサー、TM252(イワキ)により良く撹拌して4℃、12時間インキュベートして、ファージを沈殿させた。
沈殿したファージをベックマン遠心機で4℃、10分、10,000rpmで遠心して回収した。ファージ沈殿を、更に4,000rpm、1分で遠心し少量残っている上清を完全に取り除いた。得られたファージ沈殿に、1mlのTBSを加え、氷上で冷却した後に、穏やかにファージを懸濁した。このファージ懸濁液を、1.5mlエッペンドルフチューブに移し、微量高速遠心機(AT2018Mローター、クボタ社)を用い5分、15,000rpmで遠心して上清を別のチューブに移し、懸濁されない残渣を取り除いた。ファージ液に再度、200μlの20%PEG6000、2.5M 塩化ナトリウム溶液を加えてミキサーで良く撹拌し、氷上で1時間インキュベートしてファージを沈殿させた。次に、微量高速遠心機により10分、15,000rpmで遠心してファージ沈殿を回収した。得られたファージ沈殿に200μlの0.02%アジ化ナトリウム(和光純薬、大阪)、TBSを加えて完全に懸濁させた。懸濁できない残渣を微量高速遠心機により5分、15,000rpmで遠心し取り除いた。得られた濃縮ファージ液の力価を求めた。
上記に示すような標的分子(この場合チタン)へのファージの結合、洗浄、回収、大腸菌による増幅といった一連の作業はパニング操作と呼ばれている。パニング操作を繰り返すことにより、標的分子へ特異的に強く結合するファージクローンを濃縮していくことが可能である。この場合も、1回目のパニング操作後、一度大腸菌で増やしたファージを用いて、再度、チタンに対する結合、洗浄、回収、増殖の2回目以降のパニング操作を繰り返していった。2回目以降のパニング操作実験条件で、1回目の操作と異なるのは以下の通りであった。すなわち、2回目以降のパニング操作で加えるファージの力価を、D12ライブラリー・C7Cライブラリーともに2.0x1011、3回目は、D12ライブラリー・C7Cライブラリーともに2.0x1010、4回目は、D12ライブラリーでは、4.3x10、C7Cライブラリーでは、2.0x1010となるように調製した。濃縮ファージを懸濁する溶液とチタンの反応溶液、及び、その洗浄溶液中のTween−20濃度を2回目のパニング操作時で0.1%、3回目のパニング操作時で、0.3%、4回目のパニング操作で0.5%とした。
D12ライブラリーを用いたパニング実験のインプット力価(標的分子に加えたファージ力価)とアウトプット力価(洗浄後の標的分子から溶出されたファージ力価)の比の値の変化を図1に、またC7Cライブラリーでのパニング実験のインプット力価とアウトプット力価の比の値の変化を図2に示す。
D12ライブラリー、C7Cライブラリーで3ラウンド目に得られたファージを、それぞれ常法(Phage Display A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,2001)に従いクローン化し、その提示ペプチド部分の塩基配列を決定した。塩基配列の決定には提示ペプチド領域から96塩基下流に位置する塩基配列の相補鎖に相当するプライマー[−96gIII シーケンシングプライマー(5’−H0CCCTCATAGTTAGCGTAACG−3’)(配列番号39)、NEB社、Beverly]を用いて、ダイデオキシターミネイト法により決定した(CEQ DTCS Quick startkit、ベックマン社、カルフォルニア)。反応産物の泳動とデータ解析には、オートキャピラリーシーケンサー(CEQ2000、ベックマン)を用いた。
決定した塩基配列から予想される提示ペプチド配列を、D12ライブラリーについては図3(配列番号3,16〜24)に、C7Cライブラリーについては図4(配列番号25〜38)にそれぞれ示す。
この中で、D12ライブラリーから得られたe3−2−3ファージの提示するペプチド配列、RKLPDAPGMHTW(配列番号3)は、調べた43個のクローンの中には同じ配列をもつものが33個あった。特定のファージクローンが集団中の大多数を占めるようになることの理由の1つに、そのファージクローンが標的分子に対して強い結合能力をもつことがあげられる。
図3(配列番号3,16〜24)、図4(配列番号25〜38)で示したペプチドを提示するファージをクローン化し、クローン化状態でのチタンに対する結合能力を以下に示すように評価した。
【実施例2】
実施例1で得られたファージクローンを用い、チタンに対する結合能力を次のような実験から評価した。実施例1で示したパニング操作と同じ方法で行った。実施例1と異なるのは、チタンとファージクローンの撹拌時間が1時間であること、各溶液中のTween20の濃度が0.5%、BSAの濃度が1%で行ったこと、加えたファージの力価を、D12由来のクローンは10pfu、C7C由来のクローンは1011pfuで実施した。各ファージクローンのチタンに対する結合能を図5にまとめた。
【実施例3】
実施例2で、特にチタンと強く結合したクローン(配列番号3のペプチドを提示)について、水晶発振子形生体分子相互作用解析装置であるQCM−D300(q−sense AB社、イェテボリ)による測定でチタン表面とファージの結合様式を調べた。
水晶発振子には、QCM−D300純正品のチタンセンサーを用いた。温度は24.99℃に設定し、実測値は、24.68℃から24.70℃付近であった。BSAでセンサーをブロッキングする条件とブロッキングしない条件で測定した。BSAでブロッキングを行わないときは、TBSで基準値を測定した後、ファージの力価が1010pfu/mlとなるように調整したファージ溶液を引き続き測定した。BSAでブロッキングを行うときは、TBSで基準値を測定した後、TBS、0.1% BSAで約10分間インキュベートしてブロッキングを行い、再びTBSで遊離のBSAを洗浄した後、ファージの力価が1011pfu/mlとなるように調整したファージ溶液で引き続き測定した。その結果を、図6に示す。
図6に示す結果から、BSA非存在下で、センサーにファージクローンが結合したことは周波数の変化から明らかであるが、粘弾性はそれほど大きく上昇はしないことから、図7(下)に示すようにファージがチタン表面と水平に、固く結合していると考えられる。一方、BSAでセンサーをブロックした時、センサーに結合するファージ量は少ないことが周波数の変化量が小さいことから分かるが、一方、粘弾性は大幅に上昇する。これらの結果は、図7(上)に示すように、ファージがチタン表面に対して、提示したペプチド領域でおもに結合し、その他のファージ粒子部分はチタンとは結合することなく溶液中に存在する形で結合していることを示唆する。一方、コントロールのファージでは、BSA非存在下におけるチタン表面への非特異的吸着は同様に見られるが、BSAでブロッキングを行ったときには、粘弾性の上昇は見られない。
【実施例4】
実施例2で、特にチタンと強く結合したクローン(配列番号3)について、側鎖にメチル基をひとつしか持たないアラニンに置換した点変異体を作製し、各変異体ファージのチタンに対する結合能の変化を調べた。点変異体は、提示配列の6番目にアラニンがあるため、6番目残基を除いた残りの全ての残基について作製した。点変異体の作製は、Kunkel法(Molecular Cloning Third Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press)により行った。点変異体作製に用いた合成DNAを図8(配列番号40〜50)に示す。点変異の導入の確認は、ファージDNAの塩基配列を決定することにより確認した。DNAシークエンスは、実施例1と同様に行った。得られた点変異体のチタンへの結合能の測定は、加えたファージ量を1010pfuに合わせた、実施例2に示す方法で行った。各点変異体のチタンに対する結合能を図9にまとめた。
図9に示す結果から、1番目のアルギニン、5番目のアスパラギン酸の側鎖の電荷が、チタンとの結合に重要な役割を果たしていると考えられる。また、4番目のプロリンの変異体の結果から、4番目のプロリンに於けるペプチドの主鎖の折れ曲がりが、非常に重要であることが示唆される。
【実施例5】
実施例4の結果から、チタンとの結合に主に重要なのは配列番号3のアミノ端部分に集中している。そこで、カルボキシル端側の7番目から12番目までを欠失した変異体を作製し、チタンへの結合能の変化を調べた。また、実施例4で結合能が上昇した、2番目のリジンをアラニンに置換した変異体についても同様の欠失変異体を作製し、チタンへの結合能の変化を調べた。
欠失変異体は、図10に模式的に示した方法で作製した。各ファージクローンの二本鎖DNA(以下RF)を、QIAGEN kitを用いて調製した。得られたRFを鋳型にしてPCRを行った。この時に用いたプライマー(図8、配列番号51〜53)には、5’側に制限酵素BamHI切断サイトとBamHIで切断が可能になるように、さらに5’側に3残基のポリG配列を付加した。試薬は、ExpandTM Long Template PCR System(ベーリンガー)を用いて行い、反応は、ポリメラーゼ 1μl、添付の10x緩衝液2 10μl、2.5mM dNTPs 8μl、プライマー各100pmole/μlを1μlずつ、RF 0.5μlを含む100μl溶液で行った。PCRの反応は、94℃、30秒、60℃、30秒、72℃、6分を30サイクル行った。また、サイクルの前に94℃、5分間プレヒートを行い、サイクル後に72℃、7分間インキュベートした。PCR反応後、生成物を1%アガロースゲル電気泳動により分離し、目的の大きさである7kb付近のバンドをUV下で切り出し、GenecleanII kit(フナコシ)を用いて、添付のプロトコルに従い精製した。精製したDNAを、制限酵素BamHI(ベーリンガー)で2時間、30℃でインキュベート後、エタノール沈澱によりBamHIを失活させ、DNAを乾燥した。乾燥したDNAを、4μlの滅菌水、5μlの2xライゲーションバッファー(プロメガ)に溶解した後、1μl T4 DNAライゲース(ロシュ)を加え、室温30分間ライゲーション反応を行い自己閉環させた。反応溶液に対して、100μlの実施例1に記載の大腸菌ER2738株のコンピテントセルを加え、氷上で30分間静置した後、42℃、40秒ヒートショックを加えたあと、すぐに3分間氷上に置いた。その後、800μlのSOC培地を添加し、37℃で3時間激しく震盪培養した後、1,10,100μlを、対数増殖期のER2738株200μlと混合し、5分間静地した。その後、常法(Molecular Cloning Third Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press)に従いクローン化した。欠失の導入の確認は、ファージDNAの配列をシークエンスすることにより確認した。DNAシークエンスは、実施例1と同様に行った。得られた欠失変異体のチタンへの結合能の測定は、加えたファージ量を1010pfuに合わせて、実施例2に示す方法で行った。両欠失変異体のチタンに対する結合能を図11にまとめた。図11から、チタンに結合する配列番号1で示されるペプチドを提示するファージクローンは、前半部の1−6番目だけでも、同じ強さで結合することが分かった。
【実施例6】
実施例4の結果、配列番号1の最初のアルギニンの側鎖の正電荷がチタンへの結合に重要な役割を果たしていることが分かった。しかし、このアルギニンは、アミノ末端に位置するので、主鎖の端に正に帯電したアミノ基を持つ。この正電荷が、側鎖の正電荷と強調できに働いている可能性を検討するために、アラニンを、アルギニンの前に挿入した挿入変異体を作製し、チタン結合能への影響を調べた。
挿入変異体の作製は、アニーリング条件を除いて実施例4と同じ方法で行った。アニーリングは、85℃、10分間、48℃、15分間の後、ヒートブロック(ALB121,IWAKI)のスイッチを切り、室温に下がるまでそのまま放置して行った。用いたプライマーの配列(配列番号54)を図8に示す。挿入変異の導入の確認は、ファージDNAの配列をシークエンスすることにより確認した。DNAシークエンスは、実施例1と同様に行った。得られた挿入変異体のチタンへの結合能の測定は、加えたファージ量を1010pfuに合わせて、実施例2に示す方法で行った。挿入変異体のチタンに対する結合能を図11に示す。
実施例6の結果は、配列番号15がチタンに結合するのに、必ずしもアルギニンが先頭にある必要がないということを示している。このことは、チタンに結合するキメラタンパク質、人工タンパク質や合成ペプチドなどを作製する際、配列番号1や3の配置に制限を受けないことを意味する重要な知見である。
【実施例7】
実施例3〜6の結果から、配列番号3で示されるペプチドを提示するファージクローンは、チタン原子に結合した水酸基が荷電したものと結合していると考えられる。そこで、チタン表面に結合する水酸基を増やすために、過酸化水素処理を行ったチタン粒子に対する、配列番号3で示されるペプチドをを提示するファージクローンの結合能を調べた。
チタン粒子(粒子系150mm以下、住友チタニウム)10mgをエッペンドルフチューブにとり、3%の過酸化水素(和光純薬)を1ml加えた後、それぞれ、120℃、80℃、室温(rt)で1時間インキュベートした後、TBSで二回洗浄した後に、配列番号3で示されるペプチドを提示するファージクローンの結合能の測定を、加えるファージ量を1010pfuに合わせて、実施例2に示す方法で行った。過酸化水素処理による、ファージ結合能への影響の結果を図12に示す。
実施例7の結果から分かることは、過酸化水素処理により、配列番号3で示されるペプチドを提示するファージクローンの結合量が増やすことができることで、このことから、チタン表面の状態を変えることで、ファージの結合量をコントロールできる可能性が示唆される。
【実施例8】
配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを提示するファージクローンの金属材料への結合の特異性を検討するために、金(純度>99.9% 粒系<150μm)・銀(純度>99.9% 粒系<75μm)・銅(純度>99% 粒系75−150μm)・白金(純度>99.9% 粒系<75μm)・鉄(純度>99.9% 粒系150μm)・錫(純度>99.9% 粒系<150μm)・亜鉛(純度>99.9% 粒系150μm)・クロム(純度>98% 粒系10μm)・コバルト(純度>99% 粒系<75μm)・シリコン(純度>99% 粒系<150μm)(高純度化学研究所・埼玉)各10mgに対して、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを提示するファージクローン1010pfu/mlを用いて、実施例2と同じ方法で各金属への結合能を調べた。その結果を図13にまとめた。図13に示される結果から、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを提示するファージクローンはチタンのみならず銀やシリコンにも結合することがわかった。
【実施例9】
配列番号3で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを提示するファージクローンの銀やシリコンへの結合様式、配列特異性がチタンに結合する場合と同様であるかどうか確かめるために、実施例4で使用した配列番号4,5,7,8のアラニン置換変異ファージの銀・シリコンへの結合能を実施例2に示す方法でおこなった。その結果を図14にまとめた。図14に示される結果から、各アラニン置換による銀・シリコン結合能への影響は、チタンのときと同じ傾向を示した。このことから、配列番号3を提示するファージクローンは、チタンに結合するときと同じ分子機構・配列特異的に銀・シリコンに結合することが示唆された。
【実施例10】
配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる合成ペプチドが、チタン表面に結合することを確認するために、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる合成ペプチドのチタン粒子に対する結合能を調べた。実施例1で用いたチタン粒子10mgをエッペンドルフチューブにとり、50mM HEPES−NaOH、150mM NaClで二回洗浄した後に、100μlの配列番号3の合成ペプチド5〜40μMを添加し、2時間、室温で回転撹拌機rotator RT−50(タイテック社)を用いて回転撹拌した。卓上遠心機H1300(コクサン 東京)13,000rpm、5秒の遠心操作により、上清を回収し、フルオロアルデヒド(ピアス社 ロックフォード イリノイ)と混合し、分光蛍光光度計(日本分光 東京)を用いて、励起波長342nm、蛍光波長437nmから、上清中のペプチド濃度からチタンへの結合量を求めた。チタンの比表面積は密度と平均粒子系から求めた。また、同じ方法で実施例13で用いたシリコン・錫についても配列番号2で示されるアミノ酸配列からなる合成ペプチドの結合能を調べた。得られた結果に対してLangmuir吸着等温式を用いてフィッティングをおこない、最大吸着量・解離定数を求めた結果を表1にまとめた。

【実施例11】
無機材料結合ペプチドは、多くの場合その標的材料のバイオミネラリゼーション能を有する。そこで、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる合成ペプチドの銀のバイオミネラリゼーション能を以下の方法により調べた。TBSに溶解した配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる合成ペプチド0.1〜0.4mMに、硝酸銀水溶液を終濃度0.1mMになるように添加し、25℃で48時間インキュベートした後、遠心操作により生成した銀を回収した。回収した銀を、蒸留水でよく洗浄した後、透過型電子顕微鏡で観察をおこなったその結果を、図15にまとめた。図15に示される結果から、約500nmの大きさの結晶性の粒子が配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる合成ペプチドにより生成されることが分かった。
【実施例12】
配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる合成ペプチドのシリコンのバイオミネラリゼーション能を以下の方法により調べた。TBSあるいはPBSに溶解した配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる合成ペプチド2−12mg/mlに、1mM HClで終濃度0.1Mになるように希釈した1/10容量のテトラメトキシシラン(信越化学 東京)を添加し、5分間室温で静置したあと、遠心操作により生成したシリカを回収した。回収したシリカを、蒸留水でよく洗浄し、20μlの0.5N NaOH、98℃ 30分間インキュベートにより溶解、蒸留水で100〜500倍に希釈した溶液250μlに、10μlの10倍希釈・有害金属測定用硫酸、10μlの10%モリブデンサンアンモニウム水溶液を添加し、25℃で10分間インキュベートした後、385nmの吸光度から生成シリカ量の定量をおこなった。その結果を図16に、また生成したシリカの形態を透過型電子顕微鏡・走査型電子顕微鏡で観察した結果を図17にそれぞれまとめた。これらの結果から、配列番号3で示されるアミノ酸配列からなる合成ペプチドは、シリカ粒子のバイオミネラリゼーション能を持つことが分かった。
【実施例13】
配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドの配列を持つ融合タンパク質が、チタン結合能を獲得することを示すために、配列番号1をフェリチンタンパク質に融合した融合タンパク質(以下TBF)を作製した。TBFを発現するためのプラスミド構築は、図18に模式的に示した方法によりおこなった。すなわち、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチド融合組換えフェリチン発現ベクターは、ウマリコンビナントフェリチン発現ベクターであるpMK2/ferritinを制限酵素BamHIとSacIで切断し、アニーリングした配列番号55及び56に示される合成DNAを挿入し、次にBamHIで切断した。そこに、pMK2/ferritinをBamHIで切断したときに生じる短いDNA断片を挿入し作製した。
構築したTBF発現プラスミドを大腸菌XLI−blue株に常法(Molecular Cloning Third Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press)に従い形質転換した。形質転換した菌株を、5ml 100μg/mlカルベニシリン含有LB培地で16−20時間、37℃で前培養の後、500ml 100μg/mlカルベニシリン含有LB培地に植え継ぎ、さらに16−18時間、37℃で培養をおこなった。遠心操作により大腸菌を集菌したあと、50mM TrisHCl pH8.0緩衝液で菌体を洗浄したあと、1 literの培養菌体あたり20mlの50mM TrisHCl pH8.0緩衝液で菌体をよく分散させた後、超音波破砕装置Sonifer 250(Branson社製 ダンバリー、コネティカット)、微量チップ、出力7、duty cycle 50%で2分間破砕した後、氷冷、2分間破砕、氷冷を繰り返し菌体を良く破砕した。破砕後、遠心操作により可溶性画分を回収し、70℃、15分間温浴し、室温に放置して徐々に冷ました後、遠心操作により上清を回収した。回収した溶液を、陰イオン交換担体であるQ−SepharoseHP(Amersham ピスカタウェイ、ニュージャージー)を用いたカラムクロマトグラフィーによる精製をおこなった。0−400mMの塩化ナトリウムのグラジエントによりTBFを溶出した。溶出したTBFを限外ろ過により濃縮した後、Sephacryl S−400(Amersham ピスカタウェイ、ニュージャージー)を担体に用いたゲルろ過クロマトグラフィーにより、TBFの24量体の溶出ピークを回収した。
このTBFのチタンへの結合能を、実施例3で用いたQCMによりおこなった。対照として配列番号1以外のチタンへの結合の寄与を、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを含まない組換えフェリチンタンパク質(fer0)のチタンへの結合も調べた。その結果を図19に示す。図19に示される結果から、TBFはfer0よりも強くチタンに結合することが分かり、配列番号1で示されるアミノ酸配列からなるペプチドを含む融合タンパク質のチタンへの親和性が大幅に上昇することが示された。
【産業上の利用可能性】
本発明によると、例えば、オッセオインテグレーション期間を短縮するチタンインプラント材料、歯を擬態することで細菌感染に抵抗性の高いチタンインプラント材料などの医療分野、可視光域でも利用可能な光触媒能をもつ酸化チタン材料など、ナノバイオテクノロジー、材料工学、半導体、医薬品、化粧品などに有利に用いることができるチタン複合体を提供することができる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンに、異なったペプチド配列をファージ粒子上に提示したファージ集団を接触させ、ファージ粒子がペプチド配列を介して結合したチタンを遠心操作により回収し、得られたチタンに結合したファージ粒子を菌体中で増殖させ、次いで、増殖させたペプチド配列をファージ粒子上に提示したファージ集団をチタンに接触させるパニング操作を繰り返すことにより、チタンに結合するファージクローンを濃縮することを特徴とするチタンに結合能を有するペプチドのスクリーニング方法。
【請求項2】
請求項1記載のスクリーニング方法により得られることを特徴とするチタンに結合能を有するペプチド。
【請求項3】
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるチタンに結合能を有するペプチド。
【請求項4】
配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつチタンに結合能を有するペプチド。
【請求項5】
配列番号1に示されるアミノ酸配列の1,4,5番目のアミノ酸残基が保存されていることを特徴とする請求項4記載のチタンに結合能を有するペプチド。
【請求項6】
2番目のリジンがアラニンに置換された配列番号2に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項5記載のチタンに結合能を有するペプチド。
【請求項7】
配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるチタンに結合能を有するペプチド。
【請求項8】
配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつチタンに結合能を有するペプチド。
【請求項9】
配列番号3に示されるアミノ酸配列の1,4,5番目のアミノ酸残基が保存されていることを特徴とする請求項8記載のチタンに結合能を有するペプチド。
【請求項10】
1〜5番目及び7〜12番目のアミノ酸残基がそれぞれアラニンに置換された配列番号4〜14に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項8記載のチタンに結合能を有するペプチド。
【請求項11】
配列番号3に示されるアミノ酸配列のN末端にアラニンが付加・挿入された配列番号15に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項8又は9記載のチタンに結合能を有するペプチド。
【請求項12】
配列番号16〜24に示されるアミノ酸配列からなるチタンに結合能を有するペプチド。
【請求項13】
配列番号16〜24に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつチタンに結合能を有するペプチド。
【請求項14】
配列番号25〜38に示されるアミノ酸配列からなるチタンに結合能を有するペプチド。
【請求項15】
配列番号25〜38に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつチタンに結合能を有するペプチド。
【請求項16】
化学修飾されていることを特徴とする請求項2〜15のいずれか記載のチタンに結合能を有するペプチド。
【請求項17】
チタンが、金属チタン、チタン合金又は二酸化チタンであることを特徴とする請求項2〜16のいずれか記載のチタンに結合能を有するペプチド。
【請求項18】
請求項2〜16のいずれか記載のチタンに結合能を有するペプチドがチタンと結合したチタン−ペプチド複合体。
【請求項19】
請求項2〜16のいずれか記載のチタンに結合能を有するペプチドと、機能性ペプチド又は機能性タンパク質との結合体であって、かつチタンに結合能を有する人工タンパク質。
【請求項20】
機能性ペプチド又は機能性タンパク質が、チタンに結合能を有するペプチドと協働して、二次元結晶を自己集合で形成しうるペプチド又はタンパク質であることを特徴とする請求項19記載の人工タンパク質。
【請求項21】
機能性ペプチド又は機能性タンパク質が、細胞接着活性等の細胞認識活性をもつペプチド配列を有するペプチド又はタンパク質であることを特徴とする請求項19記載の人工タンパク質。
【請求項22】
請求項19〜21のいずれか記載の人工タンパク質がチタンと結合したチタン−人工タンパク質複合体。
【請求項23】
請求項2〜17のいずれか記載のチタンに結合能を有するペプチドと、標識化物質若しくはペプチドタグとの結合体、又は非ペプチド系化合物との結合体であって、かつチタンに結合能を有するキメラタンパク質。
【請求項24】
請求項23記載のキメラタンパク質がチタンと結合したチタン−キメラタンパク質複合体。
【請求項25】
請求項2〜17のいずれか記載のチタンに結合能を有するペプチドをその粒子表面上に提示し、かつチタンに結合能を有するファージ。
【請求項26】
請求項25記載のファージがチタンと結合したチタン−ファージ複合体。
【請求項27】
請求項2〜17のいずれか記載のチタンに結合能を有するペプチドを用いることを特徴とするチタン表面の改質又はチタン粒子の形成方法。
【請求項28】
請求項19〜21のいずれか記載のチタンに結合能を有する人工タンパク質を用いることを特徴とするチタン表面の改質、チタン粒子の形成又はチタンの整列化方法。
【請求項29】
請求項23記載のチタンに結合能を有するキメラタンパク質を用いることを特徴とするチタン表面の改質又はチタン粒子の形成方法。
【請求項30】
請求項25記載のチタンに結合能を有するファージを用いることを特徴とするチタンの整列化又はチタン粒子の形成方法。
【請求項31】
請求項22記載のチタン−人工タンパク質複合体を有効成分とするインプラント材料。
【請求項32】
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなる銀に結合能を有するペプチド。
【請求項33】
配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ銀に結合能を有するペプチド。
【請求項34】
配列番号1に示されるアミノ酸配列の1,4,5番目のアミノ酸残基が保存されていることを特徴とする請求項33記載の銀に結合能を有するペプチド。
【請求項35】
2番目のリジンがアラニンに置換された配列番号2に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項34記載の銀に結合能を有するペプチド。
【請求項36】
配列番号3に示されるアミノ酸配列からなる銀に結合能を有するペプチド。
【請求項37】
配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ銀に結合能を有するペプチド。
【請求項38】
化学修飾されていることを特徴とする請求項32〜37のいずれか記載の銀に結合能を有するペプチド。
【請求項39】
請求項32〜38のいずれか記載の銀に結合能を有するペプチドが銀と結合した銀−ペプチド複合体。
【請求項40】
請求項32〜38のいずれか記載の銀に結合能を有するペプチドと、機能性ペプチド又は機能性タンパク質との結合体であって、かつ銀に結合能を有する人工タンパク質。
【請求項41】
請求項40記載の人工タンパク質が銀と結合した銀−人工タンパク質複合体。
【請求項42】
請求項32〜38のいずれか記載の銀に結合能を有するペプチドと、標識化物質若しくはペプチドタグとの結合体、又は非ペプチド系化合物との結合体であって、かつ銀に結合能を有するキメラタンパク質。
【請求項43】
請求項42記載のキメラタンパク質が銀と結合した銀−キメラタンパク質複合体。
【請求項44】
請求項32〜38のいずれか記載の銀に結合能を有するペプチドをその粒子表面上に提示し、かつ銀に結合能を有するファージ。
【請求項45】
請求項44記載のファージが銀と結合した銀−ファージ複合体。
【請求項46】
請求項32〜38のいずれか記載の銀に結合能を有するペプチドを用いることを特徴とする銀表面の改質又は銀粒子の形成方法。
【請求項47】
請求項40記載の銀に結合能を有する人工タンパク質を用いることを特徴とする銀表面の改質、銀粒子の形成又は銀の整列化方法。
【請求項48】
請求項42記載の銀に結合能を有するキメラタンパク質を用いることを特徴とする銀表面の改質又は銀粒子の形成方法。
【請求項49】
請求項44記載の銀に結合能を有するファージを用いることを特徴とする銀粒子の形成又は銀の整列化方法。
【請求項50】
配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるシリコンに結合能を有するペプチド。
【請求項51】
配列番号1に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつシリコンに結合能を有するペプチド。
【請求項52】
配列番号1に示されるアミノ酸配列の1,4,5番目のアミノ酸残基が保存されていることを特徴とする請求項49記載のシリコンに結合能を有するペプチド。
【請求項53】
2番目のリジンがアラニンに置換された配列番号2に示されるアミノ酸配列からなることを特徴とする請求項50記載のシリコンに結合能を有するペプチド。
【請求項54】
配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるシリコンに結合能を有するペプチド。
【請求項55】
配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつシリコンに結合能を有するペプチド。
【請求項56】
化学修飾されていることを特徴とする請求項50〜55のいずれか記載のシリコンに結合能を有するペプチド。
【請求項57】
請求項50〜56のいずれか記載のシリコンに結合能を有するペプチドがシリコンと結合したシリコン−ペプチド複合体。
【請求項58】
請求項50〜56のいずれか記載のシリコンに結合能を有するペプチドと、機能性ペプチド又は機能性タンパク質との結合体であって、かつシリコンに結合能を有する人工タンパク質。
【請求項59】
請求項58記載の人工タンパク質がシリコンと結合したシリコン−人工タンパク質複合体。
【請求項60】
請求項50〜56のいずれか記載のシリコンに結合能を有するペプチドと、標識化物質若しくはペプチドタグとの結合体、又は非ペプチド系化合物との結合体であって、かつシリコンに結合能を有するキメラタンパク質。
【請求項61】
請求項60記載のキメラタンパク質がシリコンと結合したシリコン−キメラタンパク質複合体。
【請求項62】
請求項50〜56のいずれか記載のシリコンに結合能を有するペプチドをその粒子表面上に提示し、かつシリコンに結合能を有するファージ。
【請求項63】
請求項62記載のファージがシリコンと結合したシリコン−ファージ複合体。
【請求項64】
請求項50〜56のいずれか記載のシリコンに結合能を有するペプチドを用いることを特徴とするシリコン表面の改質又はシリコン粒子の形成方法。
【請求項65】
請求項58記載のシリコンに結合能を有する人工タンパク質を用いることを特徴とするシリコン表面の改質、シリコン粒子の形成又はシリコンの整列化方法。
【請求項66】
請求項60記載のシリコンに結合能を有するキメラタンパク質を用いることを特徴とするシリコン表面の改質改質又はシリコン粒子の形成方法。
【請求項67】
請求項62記載のシリコンに結合能を有するファージを用いることを特徴とするシリコン粒子の形成又はシリコンの整列化方法。
【請求項68】
請求項2〜17のいずれか記載のチタンに結合能を有するペプチド、請求項32〜38のいずれか記載の銀に結合能を有するペプチド、又は、請求項50〜56のいずれか記載のシリコンに結合能を有するペプチドを原子間力顕微鏡(AFM)の探針(プローブ)として使用する方法。

【国際公開番号】WO2005/010031
【国際公開日】平成17年2月3日(2005.2.3)
【発行日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−512129(P2005−512129)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011319
【国際出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】