説明

チタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造用の鋳型およびこれを備えた連続鋳造装置

【課題】表面に欠陥が少ない鋳塊を鋳造することができるようにする。
【解決手段】鋳型2の内周面の少なくとも一部において、少なくとも溶湯12の湯面が接触する箇所に、緩冷却板8a,8bを設けることで、緩冷却板8a,8bに接触する溶湯12からの抜熱量が、鋳型2に接触する溶湯12からの抜熱量よりも小さくなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタンまたはチタン合金からなる鋳塊を連続的に鋳造する、チタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造装置、および、これに用いられる鋳型に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマアーク溶解や電子ビーム溶解によって溶融させた金属を無底の鋳型内に注入して凝固させながら下方に引抜くことで、鋳塊を連続的に鋳造することが行われている。
【0003】
また、特許文献1には、チタンまたはチタン合金を不活性ガス雰囲気中でプラズマ溶解し、引続き不活性ガス雰囲気中にて連続鋳造により薄肉スラブを鋳造し、これを圧延してストリップを製造し、このストリップを圧延する、チタンまたはチタン合金圧延材の製造方法が開示されている。
【0004】
ここで、チタンまたはチタン合金からなる鋳塊を連続鋳造した際に、鋳造された鋳塊の表面(鋳肌)に凹凸や傷があると、その後の圧延過程で表面欠陥となる。そのため、圧延する前に鋳塊表面の凹凸や傷を切削等で取り除く必要があり、歩留まりの低下や作業工程の増加など、コストアップの要因となる。そのため、表面に凹凸や傷が無い鋳塊を鋳造することが求められる。
【0005】
鋳塊の表面欠陥を低減する方法として、特許文献2には、電子ビーム溶解炉で連続鋳造して引き抜いた後、鋳塊表面に電子ビームを照射して表層を再溶融して、ローラー間に送り込んで表面を平滑化する方法が開示されている。さらに、鋳塊の表面欠陥を低減する方法として、製鋼分野では、鋳型直下の鋳塊の表面をスプレー水で冷却する方法がある。しかし、チタンまたはチタン合金からなる鋳塊の場合、活性金属であるチタンは高温状態であり水から酸素を吸収して水素を発生させるので、水素爆発の危険があり採用することはできない。
【0006】
ここで、鋳塊の表面欠陥は、鋳型の壁面近傍において凝固シェルが成長しすぎて湯面に露出し、湯被りが発生したり、鋳塊を鋳型から引抜く際に、成長した凝固シェルと鋳型との界面に作用する摩擦力で凝固シェルが断裂したりすることで生じるものと推測される。そこで、鋳型の壁面近傍において凝固シェルの成長を抑制するには、加熱装置の出力を上げて、湯面への入熱量を上昇させ、凝固シェルを再溶融させる必要がある。しかし、湯面近傍では、鋳型からの抜熱が大きく、またチタンは熱伝導率が低いため、初期の凝固シェルを十分に溶解できない可能性がある。
【0007】
そこで、鋳型と溶湯との熱伝導率を下げて溶湯からの抜熱量を小さくすることで、鋳型と溶湯との界面を緩冷却して、初期の凝固シェルを溶融させることが考えられる。
【0008】
特許文献3には、鋳型の厚みや材質を変更したり、鋳型内を流れる冷却水の流速や温度を変更したりすることで、初期の凝固シェルを緩冷却して、鋳片の表面疵の発生を防止する鋼の連続鋳造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−118773号公報
【特許文献2】特開昭62−050047公報
【特許文献3】特開平9−94635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2においては、鋳塊を引き抜いた後のローラーや、表面加熱用の電子ビーム発生器を別途設置する必要があり、設備コスト面の課題がある。また、特許文献3のように、鋳型の厚みや材質を変更するのは、飛躍的な緩冷却の効果を得られず、鋳型の溶損を招き、溶湯に混入して品質が低下する虞がある。さらに、特許文献3のように、鋳型を冷却する冷却水の流速や温度を制御するのは、鋳型の溶損だけでなく、鋳型構造の複雑さを招き、メンテナンス性を低下させる可能性がある。
【0011】
本発明の目的は、表面に欠陥が少ない鋳塊を鋳造することが可能なチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造用の鋳型およびこれを備えた連続鋳造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明におけるチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造用の鋳型は、チタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造に用いられて、チタンまたはチタン合金を溶融させた溶湯が内部に注入される無底の鋳型であって、前記鋳型の内周面の少なくとも一部において、少なくとも前記溶湯の湯面が接触する箇所に、前記溶湯からの抜熱量が前記鋳型よりも小さい緩冷却部が設けられていることを特徴とする。
【0013】
上記の構成によれば、鋳型の内周面の少なくとも一部において、少なくとも溶湯の湯面が接触する箇所に緩冷却部を設けることで、緩冷却部に接触する溶湯からの抜熱量は、鋳型に接触する溶湯からの抜熱量よりも小さくなる。すると、緩冷却部に接触する凝固シェルの冷却速度が緩やかになるので、緩冷却部が設けられた箇所において凝固シェルが成長するのが抑制される。これにより、鋳型の壁面近傍において凝固シェルが成長することで鋳塊の表面に欠陥が発生するのが抑制される。よって、表面に欠陥が少ない鋳塊を鋳造することができる。
【0014】
また、本発明におけるチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造用の鋳型において、前記緩冷却部が、前記溶湯の湯面の温度よりも融点が高い高融点材料からなっていてよい。上記の構成によれば、緩冷却部が、溶湯の湯面の温度よりも融点が高い高融点材料からなるので、緩冷却部を溶損しにくくすることができる。
【0015】
また、本発明におけるチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造用の鋳型において、前記高融点材料が、前記溶湯の湯面の温度よりも融点が高い高融点金属であってよい。上記の構成によれば、高融点金属は、チタン中での拡散が遅く、チタンとの反応もしにくいので、チタン表面の活性を抑えることができる。
【0016】
また、本発明におけるチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造用の鋳型において、前記緩冷却部が、チタンまたはチタン合金からなっていてよい。上記の構成によれば、緩冷却部がチタンまたはチタン合金からなるので、仮に緩冷却部が溶損したとしても鋳塊の表面品質を悪化させることがない。
【0017】
また、本発明におけるチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造装置は、上記の鋳型と、前記鋳型内に前記溶湯を注入する溶湯注入装置と、前記溶湯が前記鋳型内で凝固した鋳塊を前記鋳型の下方に引抜く引抜装置と、を有することを特徴とする。
【0018】
上記の構成によれば、鋳型の内周面の緩冷却部が設けられた箇所において凝固シェルが成長するのが抑制されるので、表面に欠陥が少ない鋳塊を連続的に鋳造することができる。
【0019】
また、本発明におけるチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造装置においては、少なくとも前記鋳型のまわりが不活性ガス雰囲気にされており、前記鋳型内に注入された前記溶湯の湯面をプラズマアークで加熱するプラズマアーク加熱装置を更に有していてよい。上記の構成によれば、プラズマアークにより安定した入熱を溶湯の湯面に与えることができるため、鋳型の内周面の緩冷却部からの抜熱量を一定に保つことができる。これにより、凝固シェルが成長するのを抑制して、表面に欠陥が少ない鋳塊を安定して連続的に鋳造することができる。
【0020】
また、本発明におけるチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造装置においては、前記鋳型内の前記溶湯にフラックスを投入するフラックス投入装置を更に有していてよい。上記の構成によれば、フラックスには、鋳型と凝固シェルとの間の潤滑効果の他に、鋳型と溶湯との熱伝導率を下げて、鋳型と溶湯との界面を緩冷却する効果がある。よって、不活性ガス雰囲気でのプラズマアーク溶解において、フラックスを併用することで、凝固シェルが成長するのを一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造用の鋳型およびこれを備えた連続鋳造装置によると、鋳型の内周面の少なくとも一部において、少なくとも溶湯の湯面が接触する箇所に緩冷却部を設けることで、緩冷却部に接触する凝固シェルの冷却速度が緩やかになるので、緩冷却部が設けられた箇所において凝固シェルが成長するのが抑制される。これにより、鋳型の壁面近傍において凝固シェルが成長することで鋳塊の表面に欠陥が発生するのが抑制されるから、表面に欠陥が少ない鋳塊を鋳造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】連続鋳造装置を示す斜視図である。
【図2】連続鋳造装置を示す断面図である。
【図3】表面欠陥の発生メカニズムを表す説明図である。
【図4】表面欠陥の発生メカニズムを表す説明図である。
【図5】連続鋳造装置を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
[第1実施形態]
(連続鋳造装置の構成)
本実施形態によるチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造用の鋳型(鋳型)2は、チタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造装置(連続鋳造装置)1に設けられている。連続鋳造装置1は、斜視図である図1、および、断面図である図2に示すように、鋳型2と、コールドハース(溶湯注入装置)3と、原料投入装置4と、プラズマトーチ5と、スターティングブロック(引抜装置)6と、プラズマトーチ(プラズマアーク加熱装置)7と、を有している。連続鋳造装置1のまわりは、アルゴンガスやヘリウムガス等からなる不活性ガス雰囲気にされている。
【0025】
原料投入装置4は、コールドハース3内にスポンジチタンやスクラップ等のチタンまたはチタン合金の原料を投入する。プラズマトーチ5は、コールドハース3の上方に設けられており、プラズマアークを発生させてコールドハース3内の原料を溶融させる。コールドハース3は、原料が溶融した溶湯12を注湯部3aから鋳型2内に注入する。鋳型2は、銅製であって、無底で断面長方形状に形成されており、四辺をなす壁部の内部を循環する水によって冷却されるようになっている。スターティングブロック6は、図示しない駆動部によって上下動され、鋳型2の下側開口部を塞ぐことが可能である。プラズマトーチ7は、鋳型2の上方に設けられており、鋳型2内に注入された溶湯12の湯面をプラズマアークで加熱する。
【0026】
また、連続鋳造装置1は、図示しないフラックス投入装置を有している。フラックス投入装置は、鋳型2内の溶湯12に固相のフラックス9を投入する。溶湯12の湯面において溶解したフラックス9は、鋳型2と溶湯12との間に侵入して、鋳型2と凝固シェル13との摩擦抵抗を低減させる潤滑効果を発揮するとともに、鋳型2と溶湯12との界面を緩冷却する効果を発揮することとなる。
【0027】
鋳型2の長辺をなす壁部の内側面には、緩冷却板(緩冷却部)8aがそれぞれ取り付けられている。緩冷却板8aは、鋳型2の長辺方向においては、鋳型2の長辺をなす壁部の内側面の全長にわたって設けられているとともに、鋳型2の鉛直方向においては、溶湯12の湯面を挟んで鋳型2の上端から下端の上方にかけて設けられている。また、鋳型2の短辺をなす壁部の内側面には、緩冷却板(緩冷却部)8bがそれぞれ取り付けられている。緩冷却板8bは、鋳型2の短辺方向においては、鋳型2の短辺をなす壁部の内側面の全長にわたって設けられているとともに、鋳型2の鉛直方向においては、溶湯12の湯面を挟んで鋳型2の上端から下端の上方にかけて設けられている。これにより、溶湯12の湯面の全周が緩冷却板8aおよび緩冷却板8bで囲まれている。
【0028】
なお、緩冷却板8aは、少なくとも溶湯12の湯面が接触する箇所であれば、鋳型2の長辺をなす壁部の内側面の一部に設けられていてよい。同様に、緩冷却板8bは、少なくとも溶湯12の湯面が接触する箇所であれば、鋳型2の短辺をなす壁部の内側面の一部に設けられていてよい。あるいは、緩冷却板8aは、鋳型2の長辺をなす壁部の内側面の全面に設けられていてよい。同様に、緩冷却板8bは、鋳型2の短辺をなす壁部の内側面の全面に設けられていてよい。
【0029】
以上の構成において、鋳型2内に注入された溶湯12は、水冷式の鋳型2との接触面から凝固していく。そして、鋳型2の下側開口部を塞いでいたスターティングブロック6を所定の速度で下方に引き下ろしていくことで、溶湯12が凝固したスラブ11が下方に引抜かれながら連続的に鋳造される。
【0030】
なお、真空雰囲気での電子ビーム溶解では、電子ビーム自体のエネルギー密度が高く、低融点で蒸気圧の大きい金属元素が蒸発するために、成分コントロールの点で、チタン合金の製造は困難であるが、不活性ガス雰囲気でのプラズマアーク溶解では、純チタンだけでなく、チタン合金も鋳造することが可能である。また、真空雰囲気での電子ビーム溶解では、フラックス9が飛散するのでフラックス9を鋳型2内の溶湯12に投入するのが困難であるが、不活性ガス雰囲気でのプラズマアーク溶解では、フラックス9を好適に鋳型2内の溶湯12に投入することができる。
【0031】
(表面欠陥の発生メカニズム)
ところで、チタンまたはチタン合金からなるスラブ11を連続鋳造した際に、スラブ11の表面に凹凸や傷があると、次工程である圧延過程で表面欠陥となる。そのため、圧延する前にスラブ11表面の凹凸や傷を切削等で取り除く必要があり、歩留まりの低下や作業工程の増加など、コストアップの要因となる。そのため、表面に凹凸や傷が無いスラブ11を鋳造することが求められる。
【0032】
ここで、スラブ11の表面に生じる欠陥の中には、鋳型2の壁面近傍において凝固シェルが成長しすぎて湯面に露出し、湯被りが発生することで生じるものがあると推測される。そのメカニズムについて図3を用いて説明する。まず、図3(a)に示すように、鋳型2の壁面近傍において凝固シェル13が成長する。次に、図3(b)に示すように、鋳型2の壁面近傍に溶湯12が供給されない状態で、引抜きにより凝固シェル13が下降する。すると、図3(c)に示すように、凝固シェル13の上端が溶湯12の液面よりも低くなることで、凝固シェル13の上に溶湯12が流れ込む。そして、図3(d)に示すように、凝固シェル13の上に流れ込んだ溶湯12が凝固して凝固シェル13になることで、凝固シェル13に表面欠陥が生じ、これがスラブ11の表面欠陥となる。
【0033】
また、スラブ11の表面に生じる欠陥の中には、凝固シェル13の断裂により生じるものがあると推測される。そのメカニズムについて図4を用いて説明する。鋳型2の壁面近傍において成長した凝固シェル13が、引抜きにより下降する。このとき、成長した凝固シェル13と鋳型2との界面に作用する摩擦力で凝固シェル13が断裂し、この断裂がスラブ11の表面欠陥となる。
【0034】
(緩冷却)
本実施形態では、図1,2に示すように、スラブ11の表面に欠陥が生じるのを抑制するために、鋳型2の長辺をなす壁部の内側面に緩冷却板8aを、鋳型2の短辺をなす壁部の内側面に緩冷却板8bを、それぞれ設けている。緩冷却板8aおよび緩冷却板8bは、溶湯12の湯面の温度よりも融点が高い高融点金属からなっている。ここで、溶湯12の湯面の温度は、溶湯12が純チタンからなる場合、チタンの融点である1680℃よりも高くなっており、プラズマトーチ7による加熱箇所ではさらに高くなっていると推測される。そこで、溶湯12の湯面の温度よりも融点が高い高融点金属として、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)を挙げることができる。この中で特に好ましいのはタンタル(Ta)、ニオブ(Nb)である。これらの高融点金属は、チタンの融点との融点差が大きいので、チタンとはほとんど反応しない。また、真空あるいは不活性ガス環境下において高い耐食性を有することから好適である。
【0035】
このような緩冷却板8a,8bは、銅よりも熱伝導率が小さいので、溶湯12からの抜熱量が銅製の鋳型2よりも小さい。そのため、鋳型2の内周面の全周において、溶湯12の湯面が接触する箇所に緩冷却板8a,8bを設けることで、緩冷却板8a,8bに接触する溶湯12からの抜熱量は、鋳型2に接触する溶湯12からの抜熱量よりも小さくなる。すると、緩冷却板8a,8bに接触する凝固シェル13の冷却速度が緩やかになるので、緩冷却板8a,8bが設けられた箇所において凝固シェル13が成長するのが抑制される。これにより、鋳型2の壁面近傍において凝固シェル13が成長することでスラブ11の表面に欠陥が発生するのが抑制される。
【0036】
また、緩冷却板8a,8bが、溶湯12の湯面の温度よりも融点が高い高融点金属からなるので、緩冷却板8a,8bが溶損しにくい。また、高融点金属は、チタン中での拡散が遅く、チタンとの反応もしにくいので、チタン表面の活性が抑えられる。
【0037】
また、図示しないフラックス投入装置から鋳型2内の溶湯12に投入されたフラックス9は、鋳型2と凝固シェル13との間を潤滑する効果の他に、鋳型2と溶湯12との熱伝導率を下げて、鋳型2と溶湯12との界面を緩冷却する効果を発揮する。この緩冷却効果により、凝固シェル13が成長するのが一層抑制されるので、フラックス9を併用することが好ましい。
【0038】
(効果)
以上に述べたように、本実施形態に係る鋳型2および連続鋳造装置1によると、鋳型2の内周面の少なくとも一部において、少なくとも溶湯12の湯面が接触する箇所に緩冷却板8a,8bを設けることで、緩冷却板8a,8bに接触する溶湯12からの抜熱量は、鋳型2に接触する溶湯12からの抜熱量よりも小さくなる。すると、緩冷却板8a,8bに接触する凝固シェル13の冷却速度が緩やかになるので、緩冷却板8a,8bが設けられた箇所において凝固シェル13が成長するのが抑制される。これにより、鋳型2の壁面近傍において凝固シェル13が成長することでスラブ11の表面に欠陥が発生するのが抑制される。よって、表面に欠陥が少ないスラブ11を鋳造することができる。
【0039】
また、緩冷却板8a,8bが、溶湯12の湯面の温度よりも融点が高い高融点金属からなるので、緩冷却板8a,8bを溶損しにくくすることができる。また、高融点金属は、チタン中での拡散が遅く、チタンとの反応もしにくいので、チタン表面の活性を抑えることができる。
【0040】
また、フラックス9には、鋳型2と凝固シェル13との間の潤滑効果の他に、鋳型2と溶湯12との熱伝導率を下げて、鋳型2と溶湯12との界面を緩冷却する効果がある。本実施形態に係る連続鋳造装置1によると、不活性ガス雰囲気でのプラズマアーク溶解において、フラックス9を併用することで、凝固シェル13が成長するのを一層抑制することができる。
【0041】
(変形例)
なお、緩冷却板8a,8bが、チタンまたはチタン合金からなっていてもよい。そして、純チタンからなるスラブ11を鋳造する場合には、緩冷却板8a,8bを純チタン製にし、チタン合金からなるスラブ11を鋳造する場合には、緩冷却板8a,8bを同種のチタン合金製にすることで、仮に緩冷却板8a,8bが溶損したとしてもスラブ11の表面品質を悪化させることがない。
【0042】
[第2実施形態]
(緩冷却)
次に、本発明の第2実施形態に係る連続鋳造装置201について説明する。なお、上述した構成要素と同じ構成要素については、同じ参照番号を付してその説明を省略する。本実施形態の連続鋳造装置201が第1実施形態の連続鋳造装置1と異なる点は、図5に示すように、鋳型2の内側面に溶射膜(緩冷却部)8cが形成されている点である。
【0043】
溶射膜8cは、溶湯12の湯面の温度よりも融点が高い高融点金属や、酸化物や炭化物など無機材料の総称であるセラミックスからなる溶射膜である。溶射膜8cは、鋳型2の内側面の全面に形成されている。なお、溶射膜8cは、少なくとも溶湯12の湯面が接触する箇所であれば、鋳型2の内側面の一部に設けられていてよい。また、溶射膜8cは、チタンまたはチタン合金からなる溶射膜であってもよい。なお、航空機向けチタン合金においては、疲労破壊の起点になるタングステンカーバイドの混入が制限されているが、航空機向け以外のチタンまたはチタン合金を鋳造する場合には、タングステンカーバイドを溶射膜8cに採用してもよい。
【0044】
上記のような構成においても、第1実施形態と同様の効果を奏する。
【0045】
(本実施形態の変形例)
以上、本発明の実施形態を説明したが、具体例を例示したに過ぎず、特に本発明を限定するものではなく、具体的構成などは、適宜設計変更可能である。また、発明の実施の形態に記載された、作用及び効果は、本発明から生じる最も好適な作用及び効果を列挙したに過ぎず、本発明による作用及び効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【0046】
例えば、断面長方形状のスラブ11が連続鋳造される構成に限定されず、断面円形の鋳塊などが連続鋳造される構成であってもよい。
【0047】
また、緩冷却板8a,8bは、溶湯12の湯面の温度よりも融点が高いセラミックスからなる構成であってもよい。
【0048】
また、プラズマトーチ7からのプラズマアークで溶湯12の湯面を加熱する構成に限定されず、電子ビームや非消耗電極式アーク、高周波誘導加熱により溶湯12の湯面を加熱する構成であってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1,201 連続鋳造装置
2 鋳型
3 コールドハース(溶湯注入装置)
3a 注湯部
4 原料投入装置
5 プラズマトーチ
6 スターティングブロック(引抜装置)
7 プラズマトーチ(プラズマアーク加熱装置)
8a,8b 緩冷却板
8c 溶射膜
9 フラックス
11 スラブ
12 溶湯
13 凝固シェル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造に用いられて、チタンまたはチタン合金を溶融させた溶湯が内部に注入される無底の鋳型であって、
前記鋳型の内周面の少なくとも一部において、少なくとも前記溶湯の湯面が接触する箇所に、前記溶湯からの抜熱量が前記鋳型よりも小さい緩冷却部が設けられていることを特徴とするチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造用の鋳型。
【請求項2】
前記緩冷却部が、前記溶湯の湯面の温度よりも融点が高い高融点材料からなることを特徴とする請求項1に記載のチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造用の鋳型。
【請求項3】
前記高融点材料が、前記溶湯の湯面の温度よりも融点が高い高融点金属であることを特徴とする請求項2に記載のチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造用の鋳型。
【請求項4】
前記緩冷却部が、チタンまたはチタン合金からなることを特徴とする請求項1に記載のチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造用の鋳型。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の鋳型と、
前記鋳型内に前記溶湯を注入する溶湯注入装置と、
前記溶湯が前記鋳型内で凝固した鋳塊を前記鋳型の下方に引抜く引抜装置と、
を有することを特徴とするチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造装置。
【請求項6】
少なくとも前記鋳型のまわりが不活性ガス雰囲気にされており、
前記鋳型内に注入された前記溶湯の湯面をプラズマアークで加熱するプラズマアーク加熱装置を更に有することを特徴とする請求項5に記載のチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造装置。
【請求項7】
前記鋳型内の前記溶湯にフラックスを投入するフラックス投入装置を更に有することを特徴とする請求項5又は6に記載のチタンまたはチタン合金からなる鋳塊の連続鋳造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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