説明

チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造方法

【課題】チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程において回収される、焼成されたセラミックス体を再生原料として使用したチタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造方法であって、機械的強度および低熱膨張性、耐熱性等の熱特性に優れるチタン酸アルミニウム系セラミックス体を得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程において回収される、焼成されたセラミックス体を再生原料として用い、焼成されたセラミックス体から平均粒子径100μm以下の粉砕物を得る工程と、該粉砕物と水とを含む再生粘土を調製する工程と、該再生粘土を成形して成形体を得る工程と、該成形体を焼成する工程と含むチタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造方法に関し、より詳しくは、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程において回収される、焼成されたセラミックス体を再生原料として用いたチタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸アルミニウム系セラミックスは、構成元素としてチタンおよびアルミニウムを含み、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウムの結晶パターンを有するセラミックスであって、耐熱性に優れたセラミックスとして知られている。チタン酸アルミニウム系セラミックスは、従来からルツボのような焼結用の冶具などとして用いられてきたが、近年では、ディーゼルエンジンの内燃機関から排出される排ガスに含まれる微細なカーボン粒子(ディーゼル微粒子)を捕集するためのセラミックスフィルタ(ディーゼル微粒子フィルタ;Diesel Particulate Filter、以下DPFとも称する)を構成する材料として、産業上の利用価値が高まっている。
【0003】
チタン酸アルミニウム系セラミックスの製造方法としては、チタニアなどのチタニウム源化合物の粉末およびアルミナなどのアルミニウム源化合物の粉末を含む原料混合物またはその成形体を焼成する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第05/105704号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示されるように、原料混合物またはその成形体を焼成する方法により、所望の形状を有するチタン酸アルミニウム系セラミックス成形体を得ようとする場合、焼成物の成形時あるいは成形後、または、原料混合物の成形体の焼成時あるいは焼成後において、成形体に割れや欠けなどの不良が生じることがある。
【0006】
上記のような不良品の再利用は、歩留まり向上およびコスト削減の観点から好ましいが、このような不良品を再生使用して得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス体は、機械的強度または、低熱膨張性、耐熱性等の熱特性の点において満足できるものではなかった。
【0007】
そこで、本発明の目的は、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程において回収される、上記不良品などの焼成体を再生原料として使用したチタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造方法であって、機械的強度および低熱膨張性、耐熱性等の熱特性に優れるチタン酸アルミニウム系セラミックス体を得ることができる製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程において回収される、焼成されたセラミックス体を再生原料として用い、チタン酸アルミニウム系セラミックス体を製造する方法であって、以下の工程を含むチタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造方法を提供する。
(i)上記焼成されたセラミックス体から平均粒子径100μm以下の粉砕物を得る工程、
(ii)該粉砕物と水とを含む再生粘土を調製する工程、
(iii)該再生粘土を成形して成形体を得る工程、および、
(iv)該成形体を焼成する工程。
【0009】
上記焼成されたセラミックス体は、チタン酸アルミニウム系結晶構造を含むことが好ましい。また、該焼成されたセラミックス体は、アルミニウム元素およびチタニウム元素のほか、マグネシウム元素および/またはケイ素元素をさらに含んでいてもよい。
【0010】
平均粒子径100μm以下の粉砕物を得る工程(i)は、前記焼成されたセラミックス体を粉砕および分級する工程を含むことが好ましい。分級は、たとえば篩別によって行なうことができる。
【0011】
上記粉砕物の平均粒子径は、10〜50μmであることが好ましい。また、該粉砕物は、レーザ回折法により測定される粒径分布において、下記式(1)を満たすことが好ましい。
D90/D10≦8 (1)
ここで、式中、D90は体積基準の累積百分率90%相当粒子径であり、D10は体積基準の累積百分率10%相当粒子径である。
【0012】
上記再生粘土は、バインダー、潤滑剤および造孔剤からなる群から選択されるいずれか1種以上の成分をさらに含んでもよい。
【0013】
また、上記再生粘土は、チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末および/または焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれるセラミックス粉末混合物からなる新原料をさらに含んでもよい。
【0014】
上記新原料を構成するチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末は、アルミニウム元素およびチタニウム元素のほか、マグネシウム元素および/またはケイ素元素をさらに含んでいてもよい。
【0015】
上記新原料を構成するセラミックス粉末混合物は、アルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末を含むことが好ましく、また、マグネシウム源粉末および/またはケイ素源粉末をさらに含んでいてもよい。ケイ素源粉末としては、長石あるいはガラスフリット、またはそれらの混合物からなる粉末を好適に用いることができる。
【0016】
上記新原料を構成するチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末および/またはセラミックス粉末混合物に含まれるセラミックス粉末の平均粒子径は、100μm以下であることが好ましい。
【0017】
上記成形体を焼成する工程(iv)における焼成温度は、1300℃以上1650℃未満であることが好ましい。
【0018】
本発明は、上記のいずれかの方法により製造された多孔質セラミックスフィルタ用のチタン酸アルミニウム系セラミックスハニカム成形体を包含し、さらに前記ハニカム成形体からなるディーゼルパーティキュレートフィルタも包含する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法によれば、再生原料を用いて、機械的強度および低熱膨張性、耐熱性等の熱特性に優れるチタン酸アルミニウム系セラミックス体を提供することができ、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の歩留まりを大幅に向上させることができる。本発明により得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス体は、DPFなどのセラミックスフィルタとして好適に適用できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のチタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造方法は、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程において発生し回収された、焼成されたセラミックス体を原料の少なくとも一部として用いるものであり、次の工程を備える。
(i)焼成されたセラミックス体から平均粒子径100μm以下の粉砕物を得る工程、
(ii)該粉砕物と水とを含む再生粘土を調製する工程、
(iii)該再生粘土を成形して成形体を得る工程、および、
(iv)該成形体を焼成する工程。
【0021】
以下、各工程について詳細に説明する。
(i)粉砕工程
本工程において、焼成されたセラミックス体から平均粒子径100μm以下の粉砕物を得る。このように適切に粒度調整がなされた回収セラミックス体を再生原料として用いることにより、機械的強度および低熱膨張性、耐熱性等の熱特性に優れるチタン酸アルミニウム系セラミックス体を得ることが可能となる。焼成されたセラミックス体とは、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程(本発明に係る製造工程と区別するため、以下では、回収対象とする焼成セラミックス体の製造工程を「回収対象の製造工程」と呼ぶ)において発生し回収された、セラミックスからなる焼成物を意味し、その形状は粉体状、塊状、成形体のいずれであってもよい。「回収対象の製造工程」としては、チタン酸アルミニウム系セラミックス体を製造するための焼成工程を含むものである限り特に限定されない。たとえば、「回収対象の製造工程」における原料としては、(i)焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれるセラミックス粉末混合物(たとえば、アルミニウム源粉末とチタニウム源粉末と任意で添加されるマグネシウム源粉末およびケイ素源粉末とを含む混合物)、あるいは(ii)チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末、または(iii)これらの双方が挙げられる。「回収対象の製造工程」は該原料またはその成形体を焼成する焼成工程を含む製造工程を挙げることができる。当該製造工程は、得られた成形体を所望の形状に調整する工程を含んでいてもよい。
【0022】
上記「回収対象の製造工程」における原料に用いられるアルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末としては、後述する「焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる新原料としてのセラミックス粉末混合物」に含有されるアルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末と同様のものを用いることができる。また「回収対象の製造工程」における原料に用いられるチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末としては、新原料として用いられるチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末と同様のものを用いることができる。
【0023】
上記「回収対象の製造工程」において発生し回収される焼成されたセラミックス体は、焼成工程の少なくとも一部を経たセラミックス体である限り特に限定されない。その具体例としては焼成工程の少なくとも一部を経た不良成形体が挙げられ、例えば上記原料の成形体の焼成時または焼成後に発生する不良成形体(たとえば、割れや欠けなどが生じた成形体またはその破片など);焼成された成形体を所望の形状に調整する際に生じる破片またはセラミックス粉末(たとえば、焼成された成形体を切断する際に生じる切断粉など)を挙げることができる。
【0024】
再生原料として用いる上記焼成されたセラミックス体は、アルミニウム元素およびチタニウム元素を含む。「回収対象の製造工程」における原料として、アルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末とともに、マグネシウム源粉末および/またはケイ素源粉末を含む混合物や、マグネシウム元素および/またはケイ素元素を含有するチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末を用いる場合、焼成されたセラミックス体は、さらに、マグネシウム元素および/またはケイ素元素を含有し得る。マグネシウム元素および/またはケイ素元素を含有するセラミックス体を再生原料として用いると、耐熱性がより向上されたチタン酸アルミニウム系セラミックス体を得ることが可能となる。
【0025】
再生原料として用いる上記焼成されたセラミックス体は、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程における焼成工程の少なくとも一部を経たものであることから、通常、チタン酸アルミニウム系結晶構造を含むものである。再生原料として用いる焼成されたセラミックス体は、粉砕、分級による粉砕前後または分級前後での再生原料の組成変化を抑制する観点から、主にチタン酸アルミニウム系結晶からなることが好ましく、ほぼ完全にまたは完全にチタン酸アルミニウム系結晶からなるものであることがより好ましい。
【0026】
焼成されたセラミックス体から、平均粒子径100μm以下の粉砕物を得る方法としては、特に制限されず、焼成されたセラミックス体を公知の粉砕装置を用いて粉砕し、必要に応じて分級する方法が挙げられる。粉砕装置としては、ジョークラッシャ、ローラミル、ピンミルなどを用いることができる。また、粉砕メディアを用いた粉砕も好適である。分級方法としては、特に制限されず、たとえば、篩やメッシュを用いた篩別、粉体を気流に同伴させ粉体に加わる慣性力、遠心力の差などを利用する乾式分級、粉体を液体に分散させ沈降速度の差を利用する湿式分級、およびこれらの分級方法の複数の組み合わせなどが好適に用いられる。焼成されたセラミックス体が粉末状である場合には、平均粒子径100μm以下の粉砕物を得るにあたり、必ずしも粉砕は必要ではなく、また、分級を要しないこともあり得る。
【0027】
上記粉砕(および必要に応じてなされる分級)は、複数回行なわれてもよい。たとえば、焼成されたセラミックス体を粉砕・分級し、平均粒子径100μm以下の粉砕物を得た後、残渣を再度、粉砕・分級することにより、該残渣から平均粒子径100μm以下の粉砕物を回収してもよい。これにより、焼成されたセラミックス体の再利用率を向上させることができる。
【0028】
なお本発明において、上記粉砕物の平均粒子径とは、レーザ回折法により測定される体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)を意味する。粉砕物の平均粒子径は、得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス体の機械的強度および/または低熱膨張性、耐熱性向上の観点から、好ましくは10〜50μmであり、さらに好ましくは20〜40μmである。
【0029】
また、本発明の製造方法によって得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス体の物性(たとえば機械的強度や熱特性)を均一にするためには、原料である粉砕物の粒径分布はシャープであることが望ましく、上記粉砕物は、レーザ回折法により測定される粒径分布において、下記式(1)を満たすことが好ましい。
D90/D10≦8 (1)
ここで、式中、D90は体積基準の累積百分率90%相当粒子径であり、D10は体積基準の累積百分率10%相当粒子径である。粉砕物のD90/D10は、より好ましくは5以下である。
【0030】
(ii)再生粘土調製工程
本工程において、上記工程(i)で得られた平均粒子径100μm以下の粉砕物と水とを含む再生粘土を調製する。再生粘土は、該粉砕物に水を加え、混練することにより得ることができる。混練には通常用いられる混練機を用いることができる。後述するように、当該再生粘土を成形した後、焼成することにより、上記焼成されたセラミックス体を原料としたチタン酸アルミニウム系セラミックス体が得られる。
【0031】
再生粘土には、「回収対象の製造工程」において回収される焼成されたセラミックス体の粉砕物とともに、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の原料の一部として、更に(i)チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末、あるいは(ii)焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれるセラミックス粉末混合物、または(iii)これらの双方からなる新原料を添加してもよい。新原料とは、「回収対象の製造工程」において発生し回収されたものではない、新たな原料を意味する。
【0032】
新原料としての上記チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末は、主にチタン酸アルミニウム系結晶からなるセラミックス粉末であり、構成元素としてアルミニウム元素およびチタニウム元素を少なくとも含む。該チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末は、さらに、マグネシウム元素および/またはケイ素元素を含有していてもよい。マグネシウム元素および/またはケイ素元素を含有するチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末を用いると、耐熱性がより向上されたチタン酸アルミニウム系セラミックス体を得ることが可能となる。また、チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末は、その原料由来あるいは製造工程で混入する不可避的不純物を含むものであってもよい。
【0033】
新原料としての上記チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末は、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウムまたはチタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶パターンのほか、アルミナ、チタニア、シリカなどの結晶パターンを含んでいてもよい。チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末がチタン酸アルミニウムマグネシウム結晶からなる場合、組成式:Al2(1-x)MgxTi(1+x)5で表すことができる。当該組成式におけるxの値は好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.01以上0.7以下、さらに好ましくは0.02以上0.5以下である。
【0034】
上記焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる新原料としてのセラミックス粉末混合物としては、アルミニウム源粉末とチタニウム源粉末とを含む混合物を挙げることができる。
【0035】
上記アルミニウム源粉末は、チタン酸アルミニウム系セラミックス体を構成するアルミニウム成分となる化合物の粉末である。アルミニウム源粉末としては、たとえば、アルミナ(酸化アルミニウム)の粉末が挙げられる。アルミナは結晶性であってもよく、不定形(アモルファス)であってもよい。アルミナが結晶性である場合、その結晶型としては、γ型、δ型、θ型、α型などが挙げられる。なかでも、α型のアルミナが好ましく用いられる。
【0036】
アルミニウム源粉末は、空気中で焼成することによりアルミナに導かれる物質の粉末であってもよい。かかる物質としては、たとえばアルミニウム塩、アルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、金属アルミニウムなどが挙げられる。
【0037】
アルミニウム塩は、無機酸との塩であってもよいし、有機酸との塩であってもよい。無機塩として具体的には、たとえば、硝酸アルミニウム、硝酸アンモニウムアルミニウムなどの硝酸塩;炭酸アンモニウムアルミニウムなどの炭酸塩などが挙げられる。有機塩としては、たとえば、蓚酸アルミニウム、酢酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウムなどが挙げられる。
【0038】
また、アルミニウムアルコキシドとして具体的には、たとえば、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムtert−ブトキシドなどが挙げられる。
【0039】
水酸化アルミニウムは結晶性であってもよく、不定形(アモルファス)であってもよい。水酸化アルミニウムが結晶性である場合、その結晶型としては、たとえば、ギブサイト型、バイヤライト型、ノロソトランダイト型、ベーマイト型、擬ベーマイト型などが挙げられる。アモルファスの水酸化アルミニウムとしては、たとえば、アルミニウム塩、アルミニウムアルコキシドなどのような水溶性アルミニウム化合物の水溶液を加水分解して得られるアルミニウム加水分解物も挙げられる。
【0040】
アルミニウム源粉末としては、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。上記のなかでも、アルミニウム源粉末としては、アルミナ粉末が好ましく用いられ、より好ましくは、α型のアルミナ粉末である。なお、アルミニウム源粉末は、その原料由来あるいは製造工程で混入する不可避的不純物を含むものであってもよい。
【0041】
新原料としてのセラミックス粉末混合物に含まれる上記チタニウム源粉末は、チタン酸アルミニウム系セラミックス体を構成するチタン成分となる物質の粉末であり、かかる物質としては、たとえば酸化チタンの粉末が挙げられる。酸化チタンとしては、たとえば、酸化チタン(IV)、酸化チタン(III)、酸化チタン(II)などが挙げられ、酸化チタン(IV)が好ましく用いられる。酸化チタン(IV)は結晶性であってもよく、不定形(アモルファス)であってもよい。酸化チタン(IV)が結晶性である場合、その結晶型としては、アナターゼ型、ルチル型、ブルッカイト型などが挙げられる。より好ましくは、アナターゼ型、ルチル型の酸化チタン(IV)である。
【0042】
チタニウム源粉末は、空気中で焼成することによりチタニア(酸化チタン)に導かれる物質の粉末であってもよい。かかる物質としては、たとえば、チタニウム塩、チタニウムアルコキシド、水酸化チタニウム、窒化チタン、硫化チタン、金属チタンなどが挙げられる。
【0043】
チタニウム塩として具体的には、三塩化チタン、四塩化チタン、硫化チタン(IV)、硫化チタン(VI)、硫酸チタン(IV)などが挙げられる。チタニウムアルコキシドとして具体的には、チタン(IV)エトキシド、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)t−ブトキシド、チタン(IV)イソブトキシド、チタン(IV)n−プロポキシド、チタン(IV)テトライソプロポキシド、および、これらのキレート化物などが挙げられる。
【0044】
チタニウム源粉末としては、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。上記のなかでも、チタニウム源粉末としては、酸化チタン粉末が好ましく用いられ、より好ましくは、酸化チタン(IV)粉末である。なお、チタニウム源粉末は、その原料由来あるいは製造工程で混入する不可避的不純物を含むものであってもよい。
【0045】
上記アルミニウム源粉末とチタニウム源粉末とを含む混合物中におけるAl23(アルミナ)換算でのアルミニウム源粉末とTiO2(チタニア)換算でのチタニウム源粉末との質量比は、再生原料である粉砕物の組成;新原料として併用し得るチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末の組成;および新原料として併用し得、焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれるセラミックス粉末混合物の含有量比にもよるが、たとえば30:70〜70:30とすることができ、好ましくは、40:60〜60:40とすることができる。
【0046】
本発明において、アルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム源粉末の質量x1は、下記式(A)により求められる。
【0047】
1=N10×x10 ・・・(A)
式(A)中、N10はAl23の式量を表し、x10はアルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム源粉末のモル量を表す。アルミナ〔Al23〕換算のアルミニウム源粉末のモル量x10は、下記式(A−1)により求められる。
【0048】
10=(w1×M1)/(N1×2) ・・・(A−1)
式(A−1)中、w1はアルミニウム源粉末の使用量(g)を表し、M1はアルミニウム源粉末1モル中のアルミニウムのモル数を表し、N1は使用したアルミニウム源粉末の式量を表す。本発明において2種以上のアルミニウム源粉末を使用する場合、式(A−1)によって各アルミニウム源粉末のアルミナ〔Al23〕換算のモル量を求め、各モル量を合計することによって、使用するアルミニウム源粉末のアルミナ〔Al23〕換算のモル量を求めることができる。
【0049】
本発明において、チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム源粉末の質量x2は、下記式(B)により求められる。
【0050】
2=N20×x20 ・・・(B)
式(B)中、N20はTiO2の式量を表し、x20はチタニア〔TiO2〕換算のチタニウム源粉末のモル量を表す。チタニア〔TiO2〕換算のチタニウム源粉末のモル量x20は、下記式(B−1)により求められる。
【0051】
20=(w2×M2)/N2 ・・・(B−1)
式(B−1)中、w2はチタニウム源粉末の使用量(g)を表し、M2はチタニウム源粉末1モル中のチタニウムのモル数を表し、N2は使用したチタニウム源粉末の式量を表す。本発明において2種以上のチタニウム源粉末を使用する場合、式(B−1)によって各チタニウム源粉末のチタニア〔TiO2〕換算のモル量を求め、各モル量を合計することによって、使用するチタニウム源粉末のチタニア〔TiO2〕換算のモル量を求めることができる。
【0052】
また、上記アルミニウム源粉末とチタニウム源粉末とを含む混合物は、マグネシウム源粉末を含有していてもよい。マグネシウム源粉末としては、マグネシア(酸化マグネシウム)の粉末のほか、空気中で焼成することによりマグネシアに導かれる物質の粉末が挙げられる。後者の例としては、たとえば、マグネシウム塩、マグネシウムアルコキシド、水酸化マグネシウム、窒化マグネシウム、金属マグネシウムなどが挙げられる。
【0053】
マグネシウム塩として具体的には、塩化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、ピロリン酸マグネシウム、蓚酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、ミリスチン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ジメタクリル酸マグネシウム、安息香酸マグネシウムなどが挙げられる。
【0054】
マグネシウムアルコキシドとして具体的には、マグネシウムメトキシド、マグネシウムエトキシドなどが挙げられる。
【0055】
マグネシウム源粉末として、マグネシウム源とアルミニウム源とを兼ねた物質の粉末を用いることもできる。このような物質としては、たとえば、マグネシアスピネル(MgAl24)が挙げられる。
【0056】
マグネシウム源粉末としては、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なお、マグネシウム源粉末は、その原料由来あるいは製造工程で混入する不可避的不純物を含むものであってもよい。
【0057】
上記アルミニウム源粉末とチタニウム源粉末とを含む混合物中におけるMgO(マグネシア)換算でのマグネシウム源粉末の含有量は、再生原料である粉砕物の組成;新原料として併用し得るチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末の組成;および焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる新原料としてのセラミックス粉末混合物の含有量比にもよるが、Al23(アルミナ)換算でのアルミニウム源粉末とTiO2(チタニア)換算でのチタニウム源粉末との合計量100質量部に対して、通常、0.1〜10質量部であり、好ましくは、8質量部以下である。
【0058】
本発明において、マグネシア〔MgO〕換算のマグネシウム源粉末の質量x3は、下記式(C)により求められる。
【0059】
3=N30×x30 ・・・(C)
式(C)中、N30はMgOの式量を表し、x30はマグネシア〔MgO〕換算のマグネシウム源粉末のモル量を表す。マグネシア〔MgO〕換算のマグネシウム源粉末のモル量x30は、下記式(C−1)により求められる。
【0060】
30=(w3×M3)/N3 ・・・(C−1)
式(C−1)中、w3はマグネシウム源粉末の使用量(g)を表し、M3はマグネシウム源粉末1モル中のマグネシウムのモル数を表し、N3は使用したマグネシウム源粉末の式量を表す。本発明において2種以上のマグネシウム源粉末を使用する場合、式(C−1)によって各マグネシウム源粉末のマグネシア〔MgO〕換算のモル量を求め、各モル量を合計することによって、使用するマグネシウム源粉末のマグネシア〔MgO〕換算のモル量を求めることができる。
【0061】
また、上記アルミニウム源粉末とチタニウム源粉末とを含む混合物は、ケイ素源粉末をさらに含有していてもよい。ケイ素源粉末は、シリコン成分となってチタン酸アルミニウム系セラミックス体に含まれる物質の粉末である。ケイ素源粉末としては、たとえば、二酸化ケイ素、一酸化ケイ素などの酸化ケイ素(シリカ)の粉末が挙げられる。
【0062】
また、ケイ素源粉末は、空気中で焼成することによりシリカに導かれる物質の粉末であってもよい。かかる物質としては、たとえば、ケイ酸、炭化ケイ素、窒化ケイ素、硫化ケイ素、四塩化ケイ素、酢酸ケイ素、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、長石、ガラスフリットなどが挙げられる。なかでも、長石、ガラスフリットなどが好ましく用いられ、工業的に入手が容易であり、組成が安定している点で、ガラスフリットなどがより好ましく用いられる。ガラスフリットとは、ガラスを粉砕して得られるフレークまたは粉末状のガラスをいう。ケイ素源粉末として、長石とガラスフリットとの混合物からなる粉末を用いることも好ましい。
【0063】
ガラスフリットを用いる場合、得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス体の耐熱分解性をより向上させるという観点から、屈伏点が700℃以上のものを用いることが好ましい。本発明において、ガラスフリットの屈伏点は、熱機械分析装置(TMA:Thermo Mechanical Analysis)を用いて、低温から昇温してガラスフリットの膨張を測定する際に、膨張が止まり、次に収縮が始まる温度(℃)と定義される。
【0064】
上記ガラスフリットを構成するガラスには、ケイ酸〔SiO2〕を主成分(全成分中50質量%超)とする一般的なケイ酸ガラスを用いることができる。ガラスフリットを構成するガラスは、その他の含有成分として、一般的なケイ酸ガラスと同様、アルミナ〔Al23〕、酸化ナトリウム〔Na2O〕、酸化カリウム〔K2O〕、酸化カルシウム〔CaO〕、マグネシア〔MgO〕等を含んでいてもよい。また、ガラスフリットを構成するガラスは、ガラス自体の耐熱水性を向上させるために、ZrO2を含有していてもよい。
【0065】
ケイ素源粉末としては、1種のみが用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。なお、ケイ素源粉末は、その原料由来あるいは製造工程で混入する不可避的不純物を含むものであってもよい。
【0066】
上記アルミニウム源粉末とチタニウム源粉末とを含む混合物中におけるSiO2(シリカ)換算でのケイ素源粉末の含有量は、再生原料である粉砕物の組成;新原料として併用し得るチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末の組成;および焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる新原料としてのセラミックス粉末混合物の含有量比にもよるが、Al23(アルミナ)換算でのアルミニウム源粉末とTiO2(チタニア)換算でのチタニウム源粉末との合計量100質量部に対して、通常、0.1〜10質量部であり、好ましくは、8質量部以下である。
【0067】
本発明において、シリカ〔SiO2〕換算のケイ素源粉末の質量x4は、下記式(D)により求められる。
【0068】
4=N40×x40 ・・・(D)
式(D)中、N40はSiO2の式量を表し、x40はシリカ〔SiO2〕換算のケイ素源粉末のモル量を表す。シリカ〔SiO2〕換算のケイ素源粉末のモル量x40は、下記式(D−1)により求められる。
【0069】
40=(w4×M4)/N4 ・・・(D−1)
式(D−1)中、w4はケイ素源粉末の使用量(g)を表し、M4はケイ素源粉末1モル中のケイ素のモル数を表し、N4は使用したケイ素源粉末の式量を表す。本発明において2種以上のケイ素源粉末を使用する場合、式(D−1)によって各ケイ素源粉末のシリカ〔SiO2〕換算のモル量を求め、各モル量を合計することによって、使用するケイ素源粉末のシリカ〔SiO2〕換算のモル量を求めることができる。
【0070】
なお、上記アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、ならびに任意で添加されるマグネシウム源粉末および/またはケイ素源粉末を含む混合物は、上記マグネシアスピネル(MgAl24)などの複合酸化物のように、チタニウム、アルミニウム、ケイ素およびマグネシウムのうち、2つ以上の金属元素を成分とする化合物を含むことができる。この場合、そのような化合物は、それぞれの金属源化合物を混合した混合物と同じであると考えることができる。
【0071】
新原料として再生粘土に添加されるチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末、および、焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれるセラミックス粉末混合物に含まれるセラミックス粉末(アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末、ケイ素源粉末など)の平均粒子径(D50)は、得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス体の機械的強度および/または低熱膨張性、耐熱性をさらに向上させる観点から、100μm以下であることが好ましく、1〜50μmであることがより好ましい。
【0072】
再生粘土中における粉砕物、チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末および焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれるセラミックス粉末混合物の含有量比は、特に制限されないが、再生原料である粉砕物の組成;新原料として併用し得るチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末の組成;および、焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれる新原料としてのセラミックス粉末混合物中のセラミックス粉末の組成等を考慮して調整されることが好ましい。具体的には、再生粘土中におけるAl23(アルミナ)換算でのAl成分とTiO2(チタニア)換算でのTi成分との質量比が30:70〜70:30となるように、好ましくは40:60〜60:40となるように調整されることが好ましい。また、再生粘土中におけるMgO(マグネシア)換算でのMg成分の含有量は、Al23(アルミナ)換算でのAl成分とTiO2(チタニア)換算でのTi成分との合計量100質量部に対して、0.1〜10質量部となるように、好ましくは8質量部以下となるように調整されることが好ましい。さらに、再生粘土中におけるSiO2(シリカ)換算でのSi成分の含有量は、Al23(アルミナ)換算でのAl成分とTiO2(チタニア)換算でのTi成分との合計量100質量部に対して、0.1〜10質量部となるように、好ましくは8質量部以下となるように調整されることが好ましい。かかる範囲内にAl成分、Ti成分、Mg成分およびSi成分の含有量比を調整することにより、機械的強度および低熱膨張性、耐熱性等の熱特性により優れるチタン酸アルミニウム系セラミックス体が得られやすくなる。
【0073】
再生粘土には、必要に応じて、さらにバインダー、潤滑剤および造孔剤からなる群から選択されるいずれか1種以上の成分を添加してもよい。上記バインダーとしては、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシルメチルセルロースなどのセルロース類;ポリビニルアルコールなどのアルコール類;リグニンスルホン酸塩などの塩;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等のワックス;EVA、ポリエチレン、ポリスチレン、液晶ポリマー、エンジニアリングプラスチックなどの熱可塑性樹脂などが挙げられる。バインダーの添加量は、再生粘土中のAl23(アルミナ)換算でのAl成分とTiO2(チタニア)換算でのTi成分とMgO(マグネシア)換算でのMg成分とSiO2(シリカ)換算でのSi成分との合計量100質量部に対して、通常、20質量部以下、好ましくは15質量部以下とすることができる。
【0074】
上記潤滑剤としては、グリセリンなどのアルコール類;カプリル酸、ラウリン酸、パルミチン酸、アラギン酸、オレイン酸、ステアリン酸などの高級脂肪酸;ステアリン酸アルミニウムなどのステアリン酸金属塩などが挙げられる。潤滑剤の添加量は、再生粘土中のAl23(アルミナ)換算でのAl成分とTiO2(チタニア)換算でのTi成分とMgO(マグネシア)換算でのMg成分とSiO2(シリカ)換算でのSi成分との合計量100質量部に対して、通常、0〜10質量部、好ましくは1〜5質量部とすることができる。
【0075】
上記造孔剤としては、グラファイト等の炭素材;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル等の樹脂類;でんぷん、ナッツ殻、クルミ殻、コーンなどの植物系材料;氷;およびドライアイス等などが挙げられる。造孔剤の添加量は、再生粘土中のAl23(アルミナ)換算でのAl成分とTiO2(チタニア)換算でのTi成分とMgO(マグネシア)換算でのMg成分とSiO2(シリカ)換算でのSi成分との合計量100質量部に対して、通常、0〜40質量部、好ましくは0〜25質量部とすることができる。
【0076】
また、硝酸、塩酸、硫酸などの無機酸;シュウ酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸、乳酸などの有機酸;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;ポリカルボン酸アンモニウム、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどの界面活性剤などの分散剤が再生粘土に添加されてもよい。分散剤の添加量は、再生粘土中のAl23(アルミナ)換算でのAl成分とTiO2(チタニア)換算でのTi成分とMgO(マグネシア)換算でのMg成分とSiO2(シリカ)換算でのSi成分との合計量100質量部に対して、通常、0〜20質量部、好ましくは2〜8質量部とすることができる。
【0077】
(iii)成形工程
本工程において、上記再生粘土を成形して、成形体を得る。成形体の形状は特に制限されないが、たとえば、ハニカム形状、棒状、チューブ状、板状、るつぼ形状等を挙げることができる。なかでも、得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス体をDPF等のセラミックスフィルタに適用する場合には、ハニカム形状とすることが好ましい。再生粘土の成形に用いる成形機としては、一軸プレス、押出成形機、打錠機、造粒機などが挙げられる。
【0078】
(iv)焼成工程
本工程において、上記再生粘土の成形体を焼成し、チタン酸アルミニウム系セラミックス体を得る。成形体の焼成における焼成温度は、通常、1300℃以上、好ましくは1400℃以上である。また、焼成温度は、通常、1650℃未満、好ましくは1550℃以下である。焼成温度までの昇温速度は特に限定されるものではないが、通常、1℃/時間〜500℃/時間である。再生粘土が新原料としてのケイ素源粉末や、粉砕物および/または新原料のチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末が含有するケイ素元素に由来するケイ素成分を含む場合には、焼成工程の前に、1100〜1300℃の温度範囲で3時間以上保持する工程を設けることが好ましい。これにより、チタン酸アルミニウム系セラミックス体中でのケイ素分の融解、拡散を促進させることができる。
【0079】
焼成工程は、通常、再生粘土の成形体を乾燥する工程および脱脂工程(再生粘土がバインダー等の燃焼性有機物を含有する場合)を含む。乾燥および脱脂工程は、典型的には、焼成温度に至るまでの昇温段階(たとえば、500℃以下の温度範囲)になされる。
【0080】
焼成は通常、大気中で行なわれるが、必要に応じて、窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガス中で焼成してもよいし、一酸化炭素ガス、水素ガスなどのような還元性ガス中で焼成してもよい。また、水蒸気分圧を低くした雰囲気中で焼成を行なってもよい。
【0081】
焼成は、通常、管状電気炉、箱型電気炉、トンネル炉、遠赤外線炉、マイクロ波加熱炉、シャフト炉、反射炉、ロータリー炉、ローラーハース炉などの通常の焼成炉を用いて行なわれる。焼成は回分式で行なってもよいし、連続式で行なってもよい。また、静置式で行なってもよいし、流動式で行なってもよい。
【0082】
焼成に要する時間は、原料混合物の量、焼成炉の形式、焼成温度、焼成雰囲気などにより異なるが、通常は1分〜300時間であり、好ましくは10分〜24時間である。
【0083】
以上のようにして、目的のチタン酸アルミニウム系セラミックス体を得ることができる。このようなチタン酸アルミニウム系セラミックス体は、成形直後の成形体の形状をほぼ維持した形状を有する。得られたチタン酸アルミニウム系セラミックス体は、研削加工等により、所望の形状に加工することもできる。
【0084】
本発明により得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス体は、X線回折スペクトルにおいて、チタン酸アルミニウムまたはチタン酸アルミニウムマグネシウムの結晶パターンのほか、アルミナ、チタニア、シリカなどの結晶パターンを含んでいてもよい。チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末がチタン酸アルミニウムマグネシウム結晶からなる場合、組成式:Al2(1-x)MgxTi(1+x)5で表すことができる。当該組成式におけるxの値は好ましくは0.01以上であり、より好ましくは0.01以上0.7以下、さらに好ましくは0.02以上0.5以下である。
【0085】
なお、本発明の製造方法に従う製造工程において発生し回収された、焼成されたセラミックス体を、さらに本発明の製造方法における再生原料として用いてもよい。
【実施例】
【0086】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、得られたチタン酸アルミニウム系セラミックス体の三点曲げ強度、チタン酸アルミニウム化率(AT化率)、熱膨張係数、開気孔率および細孔径、ならびに用いた原料粉末(粉砕物を含む)の粒径分布は、下記方法により測定する。
【0087】
(1)三点曲げ強度
チタン酸アルミニウム系セラミックス体を、押出成形時の押出方向に長さ50mm、幅5mm、厚さ5mmの直方体形状に切り出す。この切り出したセラミックス体の外表面を紙やすり(#1500)を用いて、目視で凹凸がなくなるまで研磨する。得られるサンプルの三点曲げ強度を、JIS R 1601に準拠した方法により測定する。
【0088】
(2)AT化率
チタン酸アルミニウム化率(AT化率)は、乳鉢にて解砕したチタン酸アルミニウム系セラミックス体について測定した粉末X線回折スペクトルにおける2θ=27.4°の位置に現れるピーク〔チタニア・ルチル相(110)面に帰属される〕の積分強度(IT)と、2θ=33.7°の位置に現れるピーク〔チタン酸アルミニウムマグネシウム相(230)面に帰属される〕の積分強度(IAT)とから、下記式:
AT化率=IAT/(IT+IAT)×100(%)
により算出する。
【0089】
(3)熱膨張係数
チタン酸アルミニウム系セラミックス体を、押出成形時の押出方向に長さ50mm、幅5mm、厚さ5mmの直方体形状に切り出し、さらに長さ12mmの平行端面となるように正確に切り出す。ついで、この試験片に対して、200℃/hの昇温速度で1000℃まで昇温し、切り出し作業に用いた固定用樹脂を焼失させ、室温(25℃)まで冷却する。熱処理を施した試験片について、熱機械的分析装置(SIIテクノロジー(株)製 TMA6300)を用いて、室温(25℃)から1000℃まで600℃/hで昇温させた際の試験片の膨張率から、下記式に基づき、熱膨張係数〔K-1〕を算出する。
【0090】
熱膨張係数〔K-1〕=試験片の膨張率/975〔K〕
ここで、試験片の膨張率とは、
(1000℃まで昇温させたときの試験片の押出方向の長さ−昇温前(25℃)における試験片の押出方向の長さ)/(昇温前(25℃)における試験片の押出方向の長さ)
を意味する。
【0091】
(4)開気孔率
JIS R1634に準拠した、水中浸漬によるアルキメデス法により、チタン酸アルミニウム系セラミックス体の水中重量M2(g)、飽水重量M3(g)および乾燥重量M1(g)を測定し、下記式:
開気孔率(%)=100×(M3−M1)/(M3−M2)
により開気孔率を算出する。
【0092】
(5)細孔径
0.4gのチタン酸アルミニウム系セラミックス体を砕き、得られる約2mm角の小片を、120℃で4時間、空気中で、乾燥させた後、水銀圧入法により、細孔半径測定範囲0.001〜100.0μmまで測定する。細孔容積基準でみたときの最大頻度を示す細孔半径を2倍した値を細孔径(モード径)とする。測定装置には、Micromeritics社製の「オートポアIII9420」を用いる。
【0093】
(6)原料粉末の粒径分布
原料粉末の平均粒子径〔体積基準の累積百分率50%相当粒子径(D50)〕、および、体積基準の累積百分率10%相当粒子径(D10)、累積百分率90%相当粒子径(D90)は、レーザ回折式粒度分布測定装置〔日機装社製「Microtrac HRA(X−100)」〕を用いて測定する。
【0094】
<比較例1>
原料粉末として以下のものを用いる。下記の原料粉末の仕込み組成は、アルミナ〔Al23〕、チタニア〔TiO2〕、マグネシア〔MgO〕およびシリカ〔SiO2〕換算の質量比で、〔Al23〕/〔TiO2〕/〔MgO〕/〔SiO2〕=47%/47%/2%/4%である。
【0095】
(1)アルミニウム源粉末
D50が29μmの酸化アルミニウム粉末(α−アルミナ粉末)
47質量部
(2)チタニウム源粉末
D50が0.5μmの酸化チタン粉末(ルチル型結晶)
47質量部
(3)マグネシウム源粉末
D50が2.5μmの酸化マグネシウム粉末
2質量部
(4)ケイ素源粉末
D50が5.4μmのガラスフリット(タカラスタンダード社製「CK0160M1」、SiO2分70%)
4質量部
上記アルミニウム源粉末、チタニウム源粉末、マグネシウム源粉末およびケイ素源粉末からなる混合物に、該混合物100質量部に対して、造孔剤として馬鈴薯でんぷんを14質量部、バインダーとしてメチルセルロースを9質量部、界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルを5質量部、および潤滑剤としてグリセリンを0.5質量部加え、さらに、分散媒として水を32質量部加えた後、混練機を用いて混練することにより、成形用粘土を調製した。ついで、この成形用粘土を押出成形することにより、ハニカム形状の成形体を作製した。得られた成形体を、大気雰囲気下、1500℃で5時間焼成することにより、ハニカム形状のチタン酸アルミニウム系セラミックス体を得た。
【0096】
得られたチタン酸アルミニウム系セラミックス体の三点曲げ強度は、1.5MPa、AT化率は100%、熱膨張係数は2×10-6-1、開気孔率は45%、細孔径は15μmである。
【0097】
<実施例1>
上記比較例1で得られたチタン酸アルミニウム系セラミックス体をロールクラッシャー(ロール間隔2mm)を用いて粗砕し、得られる粗砕物500gをアルミナボール〔直径15mm〕5kgとともにアルミナ製粉砕容器〔内容積3.3L〕に投入する。その後、粉砕容器を振動ミルにより振幅5.4mm、振動数1760回/分、動力5.4kWの条件下で、6分間振動させることにより粉砕容器内の粗砕物を粉砕し、粉砕物を得る。得られる粉砕物を目開き63μmの篩にて分別し、篩下の粉末を回収した。この粉末の平均粒子径は、23μmである。また、体積基準の累積百分率90%相当粒子径(D90)と体積基準の累積百分率10%相当粒子径(D10)との比D90/D10は4.7である。
【0098】
次に、上記回収粉末9質量部に対して、比較例1と同じ上記(1)の酸化アルミニウム粉末を42質量部、比較例1と同じ上記(2)の酸化チタン粉末を42質量部、比較例1と同じ上記(3)の酸化マグネシウム粉末を2質量部、比較例1と同じ上記(4)のガラスフリットを4質量部加えるとともに、造孔剤として馬鈴薯でんぷんを14質量部、バインダーとしてメチルセルロースを9質量部、界面活性剤としてポリオキシアルキレンアルキルエーテルを5質量部、および潤滑剤としてグリセリンを0.5質量部を加え、さらに、分散媒として水を32質量部加えた後、混練機を用いて混練することにより、再生粘土を調製した。ついで、この再生粘土を押出成形することにより、ハニカム形状の成形体を作製した。得られた成形体を、大気雰囲気下、1500℃で5時間焼成することにより、ハニカム形状のチタン酸アルミニウム系セラミックス体を得た。
【0099】
得られたチタン酸アルミニウム系セラミックス体の三点曲げ強度は、1.8MPa、AT化率は100%、熱膨張係数は1×10-6-1、開気孔率は45%、細孔径は16μmであった。また、得られたチタン酸アルミニウム系セラミックスを組成式Al2(1-x)MgxTi(1+x)5で表した際のxの値は0.12であった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明により得られるチタン酸アルミニウム系セラミックス体は、優れた機械的強度および熱特性を有することから、DPF等の排ガスフィルタに好適に適用できるほか、たとえば、ビールなどの飲食物の濾過に用いる濾過フィルタ;石油精製時に生じるガス成分(たとえば一酸化炭素、二酸化炭素、窒素、酸素など)を選択的に透過させるための選択透過フィルタ;ルツボ、セッター、コウ鉢、炉材などの焼成炉用冶具;触媒担体;基板、コンデンサーなどの電子部品などに好適に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造工程において回収される、焼成されたセラミックス体を再生原料として用い、チタン酸アルミニウム系セラミックス体を製造する方法であって、
(i)前記焼成されたセラミックス体から平均粒子径100μm以下の粉砕物を得る工程と、
(ii)前記粉砕物と水とを含む再生粘土を調製する工程と、
(iii)前記再生粘土を成形して成形体を得る工程と、
(iv)前記成形体を焼成する工程と、
を含むチタン酸アルミニウム系セラミックス体の製造方法。
【請求項2】
前記焼成されたセラミックス体は、チタン酸アルミニウム系結晶構造を含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記焼成されたセラミックス体は、マグネシウム元素をさらに含む請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記焼成されたセラミックス体は、ケイ素元素をさらに含む請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
前記平均粒子径100μm以下の粉砕物を得る工程(i)は、前記焼成されたセラミックス体を粉砕および分級する工程を含む請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記分級は、篩別により行なわれる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記粉砕物の平均粒子径は、10〜50μmである請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記粉砕物は、レーザ回折法により測定される粒径分布において、下記式(1)を満たす請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
D90/D10≦8 (1)
(式中、D90は体積基準の累積百分率90%相当粒子径であり、D10は体積基準の累積百分率10%相当粒子径である。)
【請求項9】
前記再生粘土は、バインダー、潤滑剤および造孔剤からなる群から選択されるいずれか1種以上の成分をさらに含む請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記再生粘土は、チタン酸アルミニウム系セラミックス粉末および/または焼成によりチタン酸アルミニウム系セラミックスに導かれるセラミックス粉末混合物からなる新原料をさらに含む請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記新原料を構成するチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末は、マグネシウム元素を含む請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記新原料を構成するチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末は、ケイ素元素をさらに含む請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
前記新原料を構成するセラミックス粉末混合物は、アルミニウム源粉末およびチタニウム源粉末を含む請求項10〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
前記新原料を構成するセラミックス粉末混合物は、マグネシウム源粉末をさらに含む請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記新原料を構成するセラミックス粉末混合物は、ケイ素源粉末をさらに含む請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
前記ケイ素源粉末は、長石あるいはガラスフリット、またはそれらの混合物からなる粉末である請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記新原料を構成するチタン酸アルミニウム系セラミックス粉末および/またはセラミックス粉末混合物に含まれるセラミックス粉末の平均粒子径は、100μm以下である請求項11〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記成形体を焼成する工程(iv)における焼成温度は、1300℃以上1650℃未満である請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれかに記載の方法により製造された多孔質セラミックスフィルタ用のチタン酸アルミニウム系セラミックスハニカム成形体。
【請求項20】
請求項19に記載のハニカム成形体からなるディーゼルパーティキュレートフィルタ。

【公開番号】特開2010−254557(P2010−254557A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78001(P2010−78001)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】