説明

チタン酸膜コーティング樹脂基板の製造方法

【課題】 透明性、表面硬度、ガスバリア性等に優れた無機被膜を、あらゆる種類の樹脂基板に対して密着性よく形成することができるチタン酸膜コーティング樹脂基板の製造方法を得る。
【解決手段】 層状チタン酸塩を酸または温水で処理し、次に層間膨潤作用を有する塩基性化合物を作用させ、層間を膨潤または剥離して得られる薄片状チタン酸の懸濁液を樹脂基板上に塗布し、該樹脂基板の軟化点未満の温度、好ましくは100℃未満の温度で熱処理することにより、樹脂基板の上にチタン酸膜を形成することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基板の上にチタン酸膜を形成したチタン酸膜コーティング樹脂基板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、プラスチック製品が、加工性、軽量化等の観点からガラスや金属製品に置き換わりつつある。しかしながら、プラスチック製品は、表面が傷つき易いという問題がある。このような問題を解消するため、プラスチックの表面を、表面硬度の高い被膜で被覆する方法が提案されている。
【0003】
特許文献1においては、ポリカーボネート成形品の表面に、(メタ)アクリル酸エステル共重合体の被膜を形成した後、その上にシリコーン系界面活性剤を含むラダー型シリコーンオリゴマーの硬化被膜を形成することが提案されている。また、特許文献2においては、コロイダルシリカを含有したシリコーンオリゴマーの硬化被膜をプラスチック基材の上にコーティングすることが提案されている。しかしながら、これらの方法では、プラスチック基材に対し十分な密着性が得られず、また表面硬度も十分ではないという問題があった。
【0004】
プラスチック基材の上に二酸化ケイ素等の無機被膜を形成する方法としては、プラスチック基材の上に二酸化ケイ素のゾル液を塗布する方法などがあるが、これらの方法では密着性が不十分であり、またプラスチック基材を用いる場合には塗布後高温に加熱できないことなどから表面硬度の高い被膜やガスバリア性に優れた被膜を形成することができないという問題があった。また、真空蒸着やスパッタリング法により二酸化ケイ素等の無機被膜を形成した場合には、無機被膜が非常に脆く、柔軟性や密着性が不十分であり、また特殊な装置が必要であるという問題があった。
【0005】
また、モンモリロナイトの水懸濁液を、PET(ポリエチレンテレフタレート)基材の上に塗布することにより、PET基材の上にモンモリロナイトの無機被膜を形成できることが知られている。しかしながら、これらに形成した無機被膜は、密着性が悪く、また表面硬度やガスバリア性においても十分ではなかった。また、モンモリロナイトの被膜は、PET基材の上にのみ成膜することができ、その他の樹脂基材に対しては成膜することはできないという問題があった。
【0006】
特許文献3においては、層状チタン酸塩を酸処理した後、塩基性化合物を作用させ、層間を膨潤または剥離して得られる層状チタン酸懸濁液をPET基材上に塗布して薄膜を形成することが開示されているが、PET以外の樹脂基板に対しては検討されておらず、また薄膜形成条件や、形成した薄膜の特性については詳細に検討されていない。
【0007】
特許文献4〜6は、後述するように、層状チタン酸塩の製造方法を開示している。また、特許文献7及び8は、後述するように、薄片状チタン酸懸濁液の製造方法を開示している。
【特許文献1】特開平3−287634号公報
【特許文献2】特開平11−43646号公報
【特許文献3】国際公開公報WO03/016218号公報
【特許文献4】特許第2979132号公報
【特許文献5】国際公開公報WO99/11574号公報
【特許文献6】特許第3062497号公報
【特許文献7】特許第2671949号公報
【特許文献8】国際公開公報WO03/037797号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、透明性、表面硬度、ガスバリア性等に優れた無機被膜を、あらゆる種類の樹脂基板に対しても密着性よく形成することができるチタン酸膜コーティング樹脂基板の製造方法及びこの方法により製造されるチタン酸膜コーティング樹脂基板に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のチタン酸膜コーティング樹脂基板の製造方法は、樹脂基板の上に薄片状チタン酸懸濁液を塗布し、次いで該樹脂基板の軟化点未満の温度で熱処理することにより、樹脂基板の上にチタン酸膜を形成することを特徴としている。
【0010】
本発明の製造方法においては、薄片状チタン酸懸濁液を樹脂基板上に塗布した後、100℃未満の温度で熱処理することが好ましい。本発明においては、100℃未満の温度、好ましくは80〜90℃の範囲内の温度で熱処理しても、良好な透明性、表面硬度、ガスバリア性等を有するチタン酸からなる無機被膜を形成することができる。このように100℃未満の温度で熱処理して良好なチタン酸膜を密着性よく形成することができるので、本発明によれは、ほとんどのあらゆる種類の樹脂基板に対しても無機被膜を密着性よく形成することが可能である。
【0011】
本発明において用いる薄片状チタン酸懸濁液のpHは、一般に6〜12の範囲内のものを用いることが好ましく、さらに好ましくは6〜9の範囲内のものを用いる。pHが6〜9の範囲内のものを用いることにより、形成したチタン酸膜の耐候性試験における変色を抑制することができ、耐光性を向上させることができる。
【0012】
本発明において用いる薄片状チタン酸は、平均長径1〜100μmであり、かつ、平均厚みが0.5nm〜2μmであることが好ましい。このような薄片状チタン酸を用いることにより、厚みが薄くかつ均一なチタン酸膜を形成することができる。
【0013】
本発明において用いる薄片状チタン酸懸濁液は、層状チタン酸塩を酸または温水で処理し、ついで層間膨潤作用を有する塩基性化合物を作用させ、層間を膨潤または剥離して得られるものであることが好ましい。この場合、塩基性化合物を作用させ、層間を膨潤または剥離した後、水で洗浄して過剰の塩基性化合物を除去するか、あるいはリン酸類、水溶性カルボン酸化合物類、ホウ酸及び炭酸ガスから選ばれる少なくとも1種の酸によって過剰の塩基性化合物を中和することにより、薄片状チタン酸懸濁液のpHを6〜9の範囲内に調整したものであることがさらに好ましい。
【0014】
上記層状チタン酸塩としては、式AxyzTi2-(y+z)4 [式中、A及びMは互いに異なる1〜3価の金属を示し、□はTiの欠陥部位を示す。xは、0<x<1を満たす正の実数であり、y及びzは0<y+z<1を満たす0または正の実数である]で表されるものであることが好ましい。例えば、具体的には、層状チタン酸塩が、K0.50.8Li0.27Ti1.733.854で表されるものが挙げられる。
【0015】
本発明のチタン酸膜コーティング樹脂基板は、上記本発明の製造方法で製造されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、透明性、表面硬度、ガスバリア性等に優れたチタン酸膜からなる無機被膜を、あらゆる種類の樹脂基板に対して密着性よく形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
【0018】
<薄片状チタン酸懸濁液>
本発明において用いる薄片状チタン酸懸濁液は、例えば、層状チタン酸塩を酸または温水で処理して層状チタン酸を得た後、層間膨潤作用を有する塩基性化合物を作用させて、層間を膨潤または剥離することにより得ることができる。このような方法は、例えば、特許文献3及び特許文献7に記載されている。
【0019】
<層状チタン酸塩>
原料となる層状チタン酸塩は、例えば、特許文献4に開示の方法に従い、炭酸セシウムと二酸化チタンをモル比1:5.3で混合し、800℃で焼成することによりCs0.7Ti1.834が得られる。また、特許文献5に開示の方法に従い、炭酸カリウムと炭酸リチウムと二酸化チタンをK/Li/Ti=3/1/6.5(モル比)で混合して摩砕し、800℃で焼成することによりK0.80.27Ti1.734が得られる。更に、特許文献6に開示の方法に従い、アルカリ金属またはアルカリ金属のハロゲン化物もしくは硫酸塩をフラックスとし、フラックス/原料の重量比が0.1〜2.0となるように混合した混合物を700〜1200℃で焼成することにより、一般式AXYZTi2-(Y+Z)4[式中、A及びMは互いに異なる1〜3価の金属を示し、□はTiの欠陥部位を示す。Xは0<X<1.0を満たす正の実数であり、Y及びZは0<Y+Z<1を満たす0または正の実数である]で表される層状チタン酸塩を得ることもできる。上記一般式におけるAは、価数1〜3価の金属であり、好ましくは、K、Rb、及びCsから選ばれる少なくとも一種であり、Mは、金属Aとは異なる価数1〜3価の金属であり、好ましくは、Li、Mg、Zn、Cu、Fe、Al、Ga、Mn、及びNiから選ばれる少なくとも一種である。具体的な例としては、K0.800.27Ti1.734、Rb0.75Ti1.75Li0.254、Cs0.70Li0.23Ti1.774、Ce0.700.18Ti1.834、Ce0.70Mg0.35Ti1.654、K0.8Mg0.4Ti1.64、K0.8Ni0.4Ti1.64、K0.8Zn0.4Ti1.64、K0.8Cu0.4Ti1.64、K0.8Fe0.8Ti1.24、K0.8Mn0.8Ti1.24、K0.76Li0.22Mg0.05Ti1.734、K0.67Li0.2l0.07Ti1.734等が挙げられる。また、特許文献8に開示の方法に従い、K0.80.27Ti1.734を酸洗後、焼成して得られるK0.50.70.27Ti1.733.853.95も利用することができる。
【0020】
<層状チタン酸>
層状チタン酸は、例えば、上記層状チタン酸塩を酸処理し、交換可能な金属カチオンを水素イオンまたはヒドロニウムイオンで置換することにより得られる。酸処理に使用する酸は、特に限定されるものではなく、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ホウ酸などの鉱酸、あるいは有機酸でも良い。層状チタン酸の種類、酸の種類及び濃度、層状チタン酸のスラリー濃度は、金属カチオンの交換率に影響する。一般に、酸濃度が低く、スラリー濃度が大きいほど、層間金属カチオンの残存量が多くなり、層間剥離しにくくなるため、剥離後の薄片状チタン酸の厚みが大きくなる。
【0021】
金属カチオンが除きにくい場合は、必要に応じて酸処理を繰り返し行ってもよい。
【0022】
<層間膨潤作用のある塩基性化合物>
薄片状チタン酸懸濁液は、上記層状チタン酸に層間膨潤作用のある塩基性化合物を作用させ、層間を膨潤または剥離することにより得られる。層間膨潤作用のある塩基性化合物としては、例えば、1級〜3級アミン及びそれらの塩、アルカノールアミン及びそれらの塩、4級アンモニウム塩、ホスホニウム塩、アミノ酸及びそれらの塩等が挙げられる。1級アミン類としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、2−エチルヘキシルアミン、3−メトキシプロピルアミン、3−エトキシプロピルアミン等及びこれらの塩が挙げられる。2級アミン類としては、例えば、ジエチルアミン、ジペンチルアミン、ジオクチルアミン、ジベンジルアミン、ジ(2−エチルヘキシル)アミン、ジ(3−エトキシプロピル)アミン等及びこれらの塩が挙げられる。3級アミン類としては、例えば、トリエチルアミン、トリオクチルアミン、トリ(2−エチルヘキシル)アミン、トリ(3−エトキシプロピル)アミン、ジポリオキシエチレンドデシルアミン等及びこれらの塩が挙げられる。アルカノールアミン類としては、例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、イソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等及びこれらの塩が挙げられる。水酸化4級アンモニウム塩類としては、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム等が挙げられる。4級アンモニウム塩類としては、例えば、ドデシルトリメチルアンモニウム塩、セチルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、トリメチルフェニルアンモニウム塩、ジメチルジステアリルアンモニウム塩、ジメチルジデシルアンモニウム塩、ジメチルステアリルベンジルアンモニウム塩、ドデシルビス(2−ヒドロキシエチル)メチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、ジポリオキシエチレンドデシルメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0023】
ホスホニウム塩類としては、例えば、テトラブチルホスホニウム塩、ヘキサデシルトリブチルホスホニウム塩、ドデシルトリブチルホスホニウム塩、ドデシルトリフェニルホスホニウム塩等の有機ホスホニウム塩等が挙げられる。また、12−アミノドデカン酸、アミノカプロン酸等のアミノ酸類及びこれらの塩や、ポリエチレンイミン等のイミン類及びこれらの塩も使用可能である。
【0024】
そしてこれらの塩基性化合物は、目的に応じて、1種類あるいは数種類を混合して用いても良い。特に、疎水性の高い塩基性化合物単独では剥離が十分に進まないため、親水性の高い塩基性化合物と併用することが好ましい。
【0025】
層間膨潤作用のある塩基性化合物を作用させるためには、酸処理または温水処理後の層状チタン酸を水系媒体に分散させた懸濁液に、撹拌下、塩基性化合物または塩基性化合物を水系媒体で希釈したものを加えれば良い。あるいは塩基性化合物の水系溶液に、撹拌下、該層状チタン酸、またはその懸濁液を加えても良い。
【0026】
水系媒体または水系溶液とは、水、水に可溶な溶媒、または水と水に可溶な溶媒との混合溶媒、あるいはその溶液を意味する。
【0027】
水に可溶な溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類、酢酸エチル、プロピレンカーボネート等のエステル類を挙げることができる。
【0028】
塩基性化合物の添加量は、層状チタン酸塩のイオン交換容量の0.3〜10当量、好ましくは0.5〜2当量とするのがよい。ここで、イオン交換容量とは、交換可能な金属カチオン量であり、例えば層状チタン酸塩が一般式AXYZTi2-(Y+Z)4で表される場合、Aの価数をm、Mの価数をnとするときのmx+nyで表される値をいう。
【0029】
薄片状チタン酸の平均長径は1〜100μmが好ましく、更に好ましくは10〜50μmであり、平均厚みは0.5nm〜2μmが好ましく、更に好ましくは1nm〜1μmである。
【0030】
薄片状チタン酸の平均長径は、塩基性化合物を作用させて層間剥離を行う行程で強い剪断力での攪拌を行わない限り、原料である層状チタン酸塩の平均長径をほぼ保つ。
【0031】
薄片状チタン酸の平均長径が1μm以下では均一な塗膜が形成しにくく、100μm以上では原料である層状チタン酸塩の合成が困難となる。
【0032】
また、薄片状チタン酸の平均厚みは単層まで剥離した際の厚みが0.5nm程度であり、2μm以上では薄片状チタン酸懸濁液が均一分散状態を保てず、薄片状チタン酸が沈降を起こす可能性がある。
【0033】
薄片状チタン酸懸濁液の濃度は、薄片状チタン酸の固形分濃度として、0.01〜50重量%が好ましく、更に好ましくは0.1〜10重量%である。0.01重量%以下では粘度が低いため塗膜が形成しにくく、50重量%以上では粘度が高いため扱いが困難となる。
【0034】
本発明において用いる薄片状チタン酸懸濁液は、塩基性化合物を作用させ、層間を膨潤または剥離した後、通常pHが6〜12の範囲内となるが、更に水で洗浄して過剰の塩基性化合物を除去するか、あるいはリン酸類、水溶性カルボン酸化合物類、ホウ酸または炭酸ガスから選ばれる少なくとも1種の酸によって過剰の塩基性化合物を中和することにより、薄片状チタン酸懸濁液のpHを6〜9の範囲内に調整したものであることがさらに好ましい。pHが6〜9の範囲内のものを用いることにより、形成したチタン酸膜の耐光性を向上させることができる。pHが6未満の場合、薄片状チタン酸が凝集を起こし、分散性が損なわれるおそれがある。また、上記以外の酸、例えば塩酸や硫酸などの鉱酸を中和に用いても、同様に薄片状チタン酸が凝集を起こし、分散性が損なわれるおそれがある。
【0035】
水で洗浄して過剰の塩基性化合物を除去する場合は、薄片状チタン酸懸濁液を遠心して上澄みを分取後、沈降した濃縮薄片状チタン酸分散液を脱イオン水で再希釈する操作を数回繰り返せばよい。遠心の条件としては、5000〜20000rpmで5分〜1時間が好ましい。
【0036】
また、中和する場合は、リン酸類、水溶性カルボン酸化合物類、ホウ酸または炭酸ガスから選ばれる少なくとも1種の酸を用いることができる。リン酸類としては、例えば、オルトリン酸、ピロリン酸、メタリン酸、ポリリン酸などを用いることができる。水溶性カルボン酸化合物類としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、グリコール酸、乳酸、リンゴ酸などを用いることができる。
【0037】
中和する場合には、薄片状チタン酸懸濁液の攪拌下に、上記より選ばれる少なくとも1種の酸、またはその水溶液を添加するか、炭酸ガスをバブリングすればよい。また、生成する塩基性化合物の中和塩は遠心洗浄等により除去することが好ましい。
【0038】
<樹脂基板>
本発明に使用される樹脂基板は、特に限定されるものではない。具体的には、例えば、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、セルロース系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、尿素系樹脂、フェノール系樹脂、フッ素系樹脂、ポリブタジエン系樹脂などの単独樹脂、及びそれらの複合系樹脂などが挙げられる。
【0039】
<チタン酸膜の形成>
本発明におけるチタン酸膜の形成は、一般的な方法、例えば、ロールコート、グラビアコート、ナイフコート、ディップコート、スプレーコートなどが利用できる。
【0040】
チタン酸膜の膜厚は0.01〜100μmが好ましく、更に好ましくは0.1〜20μmである。0.01μm以下では期待の効果が得られない場合があり、100μm以上では乾燥に時間がかかり、また経済的にも不利となる。
【0041】
乾燥温度は膜厚にもよるが、60℃以上が好ましく、更に好ましくは80℃以上である。60℃以下では乾燥が不十分となる可能性がある。乾燥温度の上限に関しては、基材樹脂の軟化点未満の温度であれば制限はないが、100℃未満が好ましい。
【0042】
また、目的を損なわない範囲で、薄片状チタン酸懸濁液にポリマー、分散剤、界面活性剤、有機及び無機性のゾル等を添加し、チタン酸膜としてもよい。
【実施例】
【0043】
以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下において「%」及び「部」とあるのは、特に断らない限り重量基準を意味するものとする。
【0044】
<薄片状チタン酸懸濁液の合成>
(合成例1)
炭酸カリウム27.64g、炭酸リチウム4.91g、二酸化チタン69.23gを乾式で粉砕混合した原料を1060℃にて4時間焼成した。焼成後の試料を10kgの脱イオン水に浸して20時間撹拌後に分離、水洗したものを110℃で乾燥した。得られた白色粉末は、層状チタン酸塩K0.80Li0.27Ti1.734であり、平均長径32μmであった。
【0045】
この層状チタン酸塩65gを3.5%塩酸5Kgに分散攪拌し、40℃で2時間反応させた後、吸引濾過で分離し、水洗した。得られた層状チタン酸のK2O残存量は0.2%、金属イオン交換率は99.6%であった。得られた層状チタン酸全量を脱イオン水1.6Kgに分散し、n−プロピルアミン22.7g(1当量)を脱イオン水0.4Kgに溶解した液を攪拌しながら添加し、40℃で12時間攪拌した。得られた薄片状チタン酸懸濁液はpH=11.5、濃度2.7%であり、しばらく静置しても固形物の沈降は見られなかった。これを薄片状チタン酸懸濁液Aとした。平均長径は31μmであり、平均厚みは1nmであった。
【0046】
(合成例2)
塩基性化合物をジメチルエタノールアミンに変える以外は、合成例1と同様の方法で薄片状チタン酸懸濁液Bを調製した。得られた薄片状チタン酸懸濁液はpH=9.9、濃度2.9%であり、しばらく静置しても固形物の沈降は見られなかった。平均長径は31μmであり、平均厚みは1nmであった。
【0047】
(合成例3)
塩基性化合物をt−ブチルアミンに変える以外は、合成例1と同様の方法で薄片状チタン酸懸濁液Cを調製した。得られた薄片状チタン酸懸濁液はpH=10.3、濃度2.7%であり、しばらく静置しても固形物の沈降は見られなかった。平均長径は31μmであり、平均厚みは1nmであった。
【0048】
(合成例4)
塩基性化合物を2−メチル−2−アミノ−1−プロパノールに変える以外は合成例1と同様の方法で薄片状チタン酸懸濁液Dを調製した。得られた薄片状チタン酸懸濁液はpH=10.6、濃度3.1%であり、しばらく静置しても固形物の沈降は見られなかった。平均長径は31μmであり、平均厚みは1nmであった。
【0049】
(合成例5)
合成例1で得られた層状チタン酸塩の10.9%水スラリー79.2リットルを調製し、10%硫酸水溶液4.7Kgを加えて2時間攪拌し、スラリーのpHを7.0に調製した。分離、水洗したものを110℃で乾燥した後、600℃で12時間焼成した。得られた白色粉末は層状チタン酸塩K0.60Li0.27Ti1.733.9であり、平均長径32μmであった。
【0050】
得られた層状チタン酸塩を用い、合成例1と同様の方法で、薄片状チタン酸懸濁液Eを調製した。得られた薄片状チタン酸懸濁液はpH=11.4、濃度2.9%であり、しばらく静置しても固形物の沈降は見られなかった。平均長径は31μmであり、平均厚みは1nmであった。
【0051】
(合成例6)
炭酸カリウム27.64g、炭酸リチウム4.91g、二酸化チタン69.23g、塩化カリウム12.44gを乾式で粉砕混合した原料を1020℃にて4時間焼成した。焼成後の試料を10kgの脱イオン水に浸して20時間撹拌後に分離、水洗したものを110℃で乾燥した。得られた白色粉末は、層状チタン酸塩K0.80Li0.27Ti1.734であり、平均長径15μmであった。
【0052】
この層状チタン酸塩65gを3.5%塩酸5Kgに分散攪拌し、40℃で2時間反応させた後、吸引濾過で分離し、水洗した。この操作を2回繰り返して得られた層状チタン酸のK2O残存量は1.5%、金属イオン交換率は97.2%であった。得られた層状チタン酸全量を脱イオン水1.6Kgに分散し、エタノールアミン23.5g(1当量)を脱イオン水0.4Kgに溶解した液を攪拌しながら添加し、40℃で12時間攪拌して、薄片状チタン酸懸濁液Fを得た。得られた薄片状チタン酸懸濁液はpH=11.1、濃度2.8%であり、しばらく静置しても固形物の沈降は見られなかった。平均長径は、14μmであり、平均厚みは1nmであった。
【0053】
(合成例7)
炭酸セシウム88.84g、二酸化チタン69.23gを乾式で粉砕混合した原料を800℃にて40時間焼成した。焼成後の試料を10kgの脱イオン水に浸して20時間撹拌後に分離、水洗したものを110℃で乾燥した。得られた白色粉末は、層状チタン酸塩Cs0.7Ti1.834であり、平均長径1μmであった。
【0054】
この層状チタン酸塩65gを3.5%塩酸5Kgに分散攪拌し、40℃で2時間反応させた後、吸引濾過で分離し、水洗した。この操作を3回繰り返して得られた層状チタン酸の金属イオン交換率は99.4%であった。得られた層状チタン酸全量を脱イオン水1.6Kgに分散し、10%テトラブチルアンモニウム水酸化物水溶液1Kg(1当量)を攪拌しながら添加し、40℃で12時間攪拌して、薄片状チタン酸懸濁液Gを得た。得られた薄片状チタン酸懸濁液はpH=9.5、濃度2.5%であり、しばらく静置しても固形物の沈降は見られなかった。平均長径は、1μmであり、平均厚みは1nmであった。
【0055】
(合成例8)
合成例1で得られた薄片状チタン酸懸濁液を14000rpmで20分間遠心して上澄みを分取後、沈降した濃縮薄片状チタン酸分散液を脱イオン水で再希釈する操作を3回繰り返すことにより、過剰のn−プロピルアミンを上澄みと共に除去し、濃度3.0%に調製した。得られた薄片状チタン酸懸濁液HはpH=8.4であり、しばらく静置しても固形物の沈降は見られなかった。平均長径は、30μmであり、平均厚みは1nmであった。
【0056】
(合成例9)
合成例1で得られた薄片状チタン酸懸濁液に炭酸ガスをバブリングすることによりpHを7.9に調製し、14000rpmで20分間遠心して上澄みを分取後、沈降した濃縮薄片状チタン酸分散液を脱イオン水で再希釈することにより、生成したn−プロピルアミン炭酸塩を上澄みと共に除去し、濃度3.0%に調製した。得られた薄片状チタン酸懸濁液IはpH=7.8であり、しばらく静置しても固形物の沈降は見られなかった。平均長径は、30μmであり、平均厚みは1nmであった。
【0057】
<チタン酸膜コーティング樹脂基板の評価>
(実施例1)
合成例1〜9で調製した薄片状チタン酸懸濁液A〜Iを、表1に示す各樹脂からなる基板の上に、フィルムアプリケーターで塗布し、80℃で10分間乾燥し、厚みが2μmであるチタン酸膜を形成した。塗膜が形成できたものを〇、塗膜が形成できなかったものを×として評価した。結果を表1に示す。
【0058】
(比較例1)
天然モンモリロナイト(クニピアF;クニミネ工業株式会社製)を脱イオン水に2.5重量%になるように分散させた液を、表1に示す樹脂基板上に塗膜の厚みが2μmになるように塗布した。結果を表1に併せて示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示すように、薄片状チタン酸懸濁液A〜Iを用いた場合には、いずれの樹脂基板の上にもチタン酸膜を形成することができた。
【0061】
また、チタン酸膜コーティング樹脂基板を屈曲させても、無機塗膜が割れたり、剥がれたりする現象は確認されず、塗膜として十分な密着性を有していた。
【0062】
一方、モンモリロナイト懸濁液(比較例1)ではPET基板上にのみ製膜できたが、その他の樹脂基板では液がはじいてしまい、塗膜は形成できなかった。また、PET基板上のモンモリロナイト塗膜は屈曲させると全て剥がれてしまい、塗膜として密着性はほとんど皆無であった。
【0063】
(実施例2)
実施例1と同様の方法で薄片状チタン酸懸濁液A〜IをPET基板(75μm厚)及びポリプロピレン(PP)樹脂基板(75μm厚)上に塗布して厚みが2μmになるようにチタン酸膜を形成し、その透明度、鉛筆硬度、ガスバリア性を下記方法で評価した。その結果を表2に示す。
【0064】
〔透明度〕
ヘイズメーター(日本電色工業(株)製 NDH2000)によりチタン酸膜コーティング樹脂基板の全光線透過率(%)を測定した。
【0065】
〔鉛筆硬度〕
JIS S−6006に準じて鉛筆硬度試験を行った。
【0066】
〔ガスバリア性〕
酸素透過率測定装置(MOCON社製、OX−TRAN2/61、温度35℃、湿度60%)によりチタン酸膜コーティング樹脂基板の酸素ガスバリア性を測定した(単位;cc/m2・day・atm)。
【0067】
(比較例2)
比較例1と同様の方法で、モンモリロナイトの塗膜をPET基板上に形成し、実施例2と同様の方法で、その透明度、鉛筆硬度、酸素ガスバリア性を評価した。その結果を表2に併せて示す。
【0068】
【表2】

【0069】
表2に示すように、本発明に従い形成したチタン酸膜は、いずれも透明性、表面硬度、ガスバリア性に優れていることが分かった。
【0070】
一方、PET基板上のモンモリロナイト塗膜は、各物性とも、本発明に従い形成したチタン酸膜よりも劣るものであった。
【0071】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で薄片状チタン酸懸濁液A、H、IをPET樹脂基板上に塗布してチタン酸膜を基板上に形成し、その耐光性を下記方法で評価した。結果を表3に示す。
【0072】
〔耐光性〕
チタン酸膜コーティング樹脂基板をデューサイクルサンシャインウェザーメーターWEL−SUN−DC(スガ試験機株式会社製、ブラックパネル温度60℃、120分毎に18分間降雨)で100時間の促進耐候性試験を行い、初期からの色差変化量(△E)にて耐光性を評価した。
【0073】
【表3】

【0074】
表3に示すように、薄片状チタン酸懸濁液H及びIから形成したチタン酸膜は、薄片状チタン酸懸濁液Aから形成したチタン酸膜に比べ、黄変が抑制されており、耐光性が向上していることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基板上に薄片状チタン酸懸濁液を塗布し、次いで該樹脂基板の軟化点未満の温度で熱処理することにより、樹脂基板上にチタン酸膜を形成することを特徴とするチタン酸膜コーティング樹脂基板の製造方法。
【請求項2】
100℃未満の温度で熱処理することを特徴とする請求項1に記載のチタン酸膜コーティング樹脂基板の製造方法。
【請求項3】
薄片状チタン酸懸濁液のpHが6〜12の範囲内であることを特徴とするチタン酸膜コーティング樹脂基板の製造方法。
【請求項4】
薄片状チタン酸懸濁液のpHが6〜9の範囲内であることを特徴とするチタン酸膜コーティング樹脂基板の製造方法。
【請求項5】
薄片状チタン酸が、平均長径1〜100μmであり、かつ、平均厚みが0.5nm〜2μmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のチタン酸膜コーティング樹脂基板の製造方法。
【請求項6】
薄片状チタン酸懸濁液が、層状チタン酸塩を酸または温水で処理し、ついで層間膨潤作用を有する塩基性化合物を作用させ、層間を膨潤または剥離して得られるものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のチタン酸膜コーティング樹脂基板の製造方法。
【請求項7】
塩基性化合物を作用させ、層間を膨潤または剥離した後、水で洗浄して過剰の塩基性化合物を除去し、薄片状チタン酸懸濁液のpHを6〜9の範囲内に調整することを特徴とする請求項6に記載のチタン酸膜コーティング樹脂基板の製造方法。
【請求項8】
塩基性化合物を作用させ、層間を膨潤または剥離した後、リン酸類、水溶性カルボン酸化合物類、ホウ酸及び炭酸ガスから選ばれる少なくとも1種の酸によって過剰の塩基性化合物を中和し、薄片状チタン酸懸濁液のpHを6〜9の範囲内に調整することを特徴とする請求項6に記載のチタン酸膜コーティング樹脂基板の製造方法。
【請求項9】
層状チタン酸塩が、式AxyzTi2-(y+z)4 [式中、A及びMは互いに異なる1〜3価の金属を示し、□はTiの欠陥部位を示す。xは、0<x<1を満たす正の実数であり、y及びzは0<y+z<1を満たす0または正の実数である]で表されることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載のチタン酸膜コーティング樹脂基板の製造方法。
【請求項10】
層状チタン酸塩が、K0.50.8Li0.27Ti1.733.854で表されることを特徴とする請求項9に記載のチタン酸膜コーティング樹脂基板の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法で製造されたことを特徴とするチタン酸膜コーティング樹脂基板。
【請求項12】
樹脂基板が、PET樹脂以外の樹脂からなる基板であることを特徴とする請求項11に記載のチタン酸膜コーティング樹脂基板。


【公開番号】特開2006−206841(P2006−206841A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−24386(P2005−24386)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【出願人】(302060306)大塚化学株式会社 (88)
【Fターム(参考)】