説明

チップの断面観察方法

【課題】 チップ101の表面をスライスするように除去し、SEM107により断面観察を行なう工程を繰り返し、3次元像を形成する場合、チップ101表面の保護膜102が一番先に除去されるため電荷の放出経路がなくなり、チャージアップ現象が発生してしまう。
【解決手段】 斜面105を、チップ101の表面に対向する位置にある観察面106の観察を行なう場合にSEM107からの電子線を遮らぬようFIBを用いて形成する。観察面106をSEM107で観察した後、観察面106をスライスするように除去し、再びSEM107により新たな観察面の観察を行なう。チップ101の表面部には導電性の保護膜102が形成されているため、最表面までスライスして除去しても、電荷の逃げ道が確保されているため、チャージアップ現象を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路などが表面に形成されたチップの側面から、当該側面への集束イオンビームの照射により加工されて得られる平面に、荷電粒子を照射して、得られた信号をもとにして断面構造を観察するチップの断面観察方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記した断面観察方法の一つでは、特許文献1に記載されているように、集束イオンビーム(以下「FIB」と略記)と、走査形電子顕微鏡(以下「SEM」と略記)または走査形イオン顕微鏡(以下「SIM」と略記)を用い、チップ表面の3次元構造を観察している。ここで、観察手段として、SEMを代表例として説明する。
【0003】
この方法では、FIBによりまずチップの表面に形成された被観察領域と隣接する領域に、前記チップの表面と略垂直な、SEM等による観察を行なうための観察面の形成と、前記観察面をSEM等で観察する際に影となる領域の除去とを行なう。
【0004】
次に、SEM等で前記観察面を観察し、前記観察面の2次元画像データを蓄積する。
【0005】
次に、FIBを用いて前記観察面を除去し、前記観察面と略平行な新しい観察面を露出させる。
【0006】
そして、観察面の観察と、新しい観察面の露出との繰り返しを被観察領域がある限り行ない、3次元断面像を得るものである。
【0007】
また、公知の技術として、チップ表面をFIBのビーム方向に対して略垂直になるよう設置して、チップ表面方向から、FIBでチップ表面をスライスするよう除去し、新しい面を露出させて、チップ表面と略垂直な方向からSEM観察し、2次元データを収集した後、3次元像を得る方法が知られている。
【0008】
【特許文献1】特開平8−115699号公報(第2〜4頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されている観察方法では、SEM観察を用いた場合、その分解能は、1nm程度と優れているが、FIBによる新しい観察面の形成では、そのスライス厚みはFIBの制御限界である20nm程度の分解能でしか制御できないため、チップ表面の第1方向の軸では1nmの分解能があるのに対し、観察面で、その方向と垂直な第2方向の軸では20nmの分解能しか得ることができない。
【0010】
そのため、表面に平行な面方向の構造を重視して3次元構造を観察する場合、一方の軸の方向では1nmの分解能が得られているのに対し、前記観察面内で一方の軸と直行する他方の軸の方向では20nm程度の分解能しか得られないため、平行な観察方向での分解能差が大きくなり、例えばチップの観察方向が異なった場合、3次元観察像が平面方向で変形して観察されてしまう場合があった。
【0011】
また、公知技術である、チップ表面をスライスするように除去して、チップ表面と略垂直な方向からSEM観察を行なう場合、表面に平行な面方向の分解能は均一になるが、この場合ではチップ表面が一番先に除去されるため、チップ表面上にチャージアップを防ぐための導通膜を形成しても、導通膜が除去されてからチップの観察が始まることとなり、SEM観察に用いられる電子線が注入されることで蓄積される電荷を逃がすことができず、SEM観察のための電子線が観察面からはじかれることにより生じる、観察面が白く光り、観察を困難とするチャージアップ現象が発生してしまう場合があった。
【0012】
そこで本発明は、チップの平面方向の分解能が略等しい値を持ち、かつ観察を困難とするチャージアップ現象を抑制してチップの平面方向の情報を観察した2次元データを得て、さらに前記2次元データを収集し、3次元構造の断面構造を獲得するためのチップの断面観察方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために本発明のチップの断面観察方法は、表面側には被観察領域が形成されており、また前記表面側には導電体からなる、前記被観察領域を保護するための保護膜が形成されたチップを用い、前記チップの表面から、前記チップの裏面に垂直に向かう方向を正とした深さと、前記チップの一つの側面と垂直で、前記チップの前記側面から前記チップの内部に向かう方向を正とした奥行きと、前記チップの前記側面及び前記表面と平行で、前記チップの外部から前記側面を見て、左から右に向かう方向を正とした幅と、を用いて配置が特定される前記チップの断面観察方法であって、幅方向の両端では、一端が前記被観察領域の幅の最大値以上の値を有し、また他端が前記被観察領域の幅の最小値以下の値を有し、また前記被観察領域の最大奥行き以上の奥行きと、前記被観察領域の最大深さ以上の深さと、を有してなる観察面を、前記表面と平行で、かつ前記被観察領域を挟んで対向する位置に配置し、前記観察面に1次の荷電粒子を照射して得られた前記観察面からの2次電子、または2次イオン、または2次光線を収集して前記観察面を観察する際に、前記1次の荷電粒子が前記観察面へ到達することを妨げる領域を、前記チップの前記側面から集束イオンビームを照射して除去する工程と、前記信号を用いて、前記観察面を観察し、断面像のデータを蓄積することと、前記観察面を前記集束イオンビームを用いて前記表面と平行に除去し、新しい観察面を形成することとを、前記被観察領域を全て観察するまで繰り返し行なう、または観察面を解釈するために必要となる情報が観察途中で得られた場合、繰り返しを打ち切る工程とを有することを特徴とする。
【0014】
この観察方法によれば、前記観察面が、前記表面と平行で、前記被観察領域を挟んで対向する位置にあり、前記観察面を観察し、前記断面像のデータを蓄積する第1の工程と、前記観察面を前記集束イオンビームを用いて前記表面と平行にスライスするよう除去し、新しい観察面を形成する第2の工程と、第1の工程と第2の工程を前記被観察領域を全て観察するまで繰り返し行なう工程を有するため、前記被観察領域をチップの深い位置から浅い位置に向けて観察することができる。そのため、前記チップの表面に導電膜を形成することで、前記観察面に侵入してきた1次の荷電粒子の電荷を、前記表面上に導電体からなる保護膜を通じて逃がすことで、侵入してきた1次の荷電粒子の電荷の蓄積によりコントラストが低下してしまうチャージアップ現象を抑制することができる。
【0015】
また、前記表面と平行で、前記被観察領域を挟んで対向する位置にある前記観察面を観察するため、前記チップ表面方向に、同一の分解能を有する2次元像観察手段を割り当て、深さ方向に前記集束イオンビームのスライス量に応じた分解能を割り当てることができるため、表面方向の構造の分解能を優先した3次元構造を観察する場合、表面方向での分解能差をなくすことができ、平面方向の構造を主とした3次元構造をより精密に観察することができる。
【0016】
また、上記した本発明のチップの断面観察方法は、前記観察面を観察する工程では、走査形電子顕微鏡または走査形イオン顕微鏡を用いて観察することを特徴とする。
【0017】
この観察方法によれば、チップの構造を、走査形電子顕微鏡により観察するため、走査形電子顕微鏡の分解能である1nm程度の微細な構造を観察することができる。また、走査形電子顕微鏡と比べ結晶粒界の検出感度が高い走査形イオン顕微鏡を用いることで、ポリシリコンやアルミニウムの結晶粒界を高い感度で観察することが可能となる。
【0018】
また、上記した本発明のチップの断面観察方法は、前記観察面を観察した工程のデータから、前記被観察領域の3次元構造を合成し出力する工程を有することを特徴とする。
【0019】
この観察方法によれば、前記断面像のデータを用いて3次元構造を合成し出力するため、断面構造の観察結果を、視覚的に認識しやすい形式で表現することが可能となる。
また、上記した本発明のチップの断面観察方法は、前記保護膜が絶縁体からなることを特徴とする。
この観察方法によれば、チップの材質が導電体からなる場合に、導体からなる保護膜を用いた場合と比べ、高いコントラストを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係るチップの断面観察方法について、図面を参照して説明する。なお、各図では、図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各膜や各部材毎に縮尺を異ならせてある。
【0021】
図1は、集束イオンビーム(以下「FIB」と略記)と走査型電子顕微鏡(以下「SEM」と略記)を用いて、チップを加工、観察する手法を示す概略断面図である。
【0022】
チップ101の表面には導電性の保護膜102が形成されている。そして、チップ101は、図面右側にチップ101の表面を向けて、電気的に接地されたステージ103上に導電性ペースト104を用いて固定されている。また、導電性の保護膜102は、導電性ペースト104を用いてステージ103と電気的に導通が取られている。
【0023】
チップ101の側面(図1での上面)には、SEM107による観察を行なう際に影となる領域をFIB源108からのFIBを用いて除去することで得られる斜面105が形成されており、チップ101の表面に略垂直な方向に作成された観察面106のSEM107による観察を可能としている。
【0024】
ここで、SEM107による観察は、観察面106を観察するために、チップ101の表面より深い位置(図1での左側)から、観察面106に向かってSEM107による観察用の電子線を照射する方式で行なわれる。また、観察面106のSEM107による観察が終了した後には、FIB源108からのFIBを用いてチップ101の観察面106をスライスするよう除去し、新たな観察面を露出させて観察する。
【0025】
そのため、チップ101の表面に形成された導電性の保護膜102は、チップ101の観察が終了するまで残存することとなり、SEM107を用いてチップ101の観察をした場合、チップ101の観察が終了するまで導電性の保護膜102を経由して、導電性ペースト104、ステージ103を通じて電荷を放出することができる。
【0026】
従って、チップ101の表面に形成された観察面106に負電荷が蓄積し、蓄積した負電荷の影響により、SEM107による観察のための電子線が観察面からはじかれることにより生じる、観察面が白く光ることで観察を困難とするチャージアップ現象を抑制することができる。
【0027】
次に、図2、及び図3を用いて観察手順について説明する。図2、図3は本発明に係る観察手順を示すための工程断面図である。
【0028】
(1)図2(A)に示すように、表面に導電性の保護膜102が形成されたチップ101を、導電性ペースト104を用いてステージ103上に固定する。この際、導電性の保護膜102と導電性ペースト104が電気的に導通するよう導電性ペースト104を塗布する。
【0029】
(2)図2(B)に示すように、表面方向を右側に向けたチップ101の直上から、FIB源108からのGaイオンをFIBとして用いることで被測定領域を加工して、SEM107による観察をする際に影となる領域を除去した斜面105を形成することで、SEM観察を行なうための観察面106aを露出させる工程を行なう。
【0030】
(3)図3(A)に示すように、観察面106aを斜め方向からSEM107によリ観察し、2次元像データを得る。
【0031】
(4)図3(B)に示すように、観察面106aの直上からFIBを入射し、観察面106と平行にスライスするようにチップ101を除去し、新たな観察面106bを形成する。
【0032】
(5)被観察領域全てを観察するまで(3)、(4)の手順を繰り返す、あるいは断面像を解釈するために必要となる情報が観察途中で得られた場合のデータが得られた時点で繰り返しを打ち切る。
【0033】
この手順を用いて観察することで、チップ101の表面に平行な面に対してSEM107による観察が行なえるため、チップ101の表面に平行な面に対して高い分解能を必要とするチップ101の観察を精度良く行なうことができる。
【0034】
次に図4を用いて、3次元像を観察した事例について説明する。
【0035】
図4は、異物が侵入していたチップについて、9枚の断面観察結果を測定順序(S1〜S9)に従って示した断面図である。
【0036】
図5は、図4での9枚の断面図を組み合わせて3次元表示を行なった立体図である。チップ101と略平行な面に対して略同一の分解能を有する2次元像観察手段としてSEMを用いたためチップ101と略平行な面に対して高い分解能を得ることができる。単一のSEM107によるデータからは、球形の異物として観察されていたものが、実際の異物の形状は円錐形を成していることがわかった。
【0037】
<変形例>
上記した、表面観察に用いたSEMに代えて、SIMを用いても良く、特に多結晶構造を持つ被観察領域の結晶粒界の観察ではSIMを用いることで、SEM107による観察に比べ粒界を高いコントラストを持って観察することができる。
【0038】
また、SEM107からの電子線を妨げぬよう、斜面105を形成しているが、これは斜面に限定する意図はなく、階段状、あるいは矩形など、SEM107からの電子線を妨げぬよう加工された形状であれば良い。
【0039】
また、保護膜102に導電性があるものを用いた例について説明したが、これはチップ101の材質によっては、絶縁性の保護膜を使っても良い。特に、チップが導体からなる場合には、絶縁体の保護膜を用いることで高いコントラストを得ることができる。
【0040】
また、3次元形状に加工するための手法について説明したが、これは単一の面についての観察結果を得ても良い。特に、チップ101の表面に近い部分のSEM107による観察では、チップ101の最表面に導電性の保護膜102が形成されているため、電荷の逃げ道があるためにチャージアップを抑えてSEM107を用いた観察が可能となる。
【0041】
次に、本実施形態の効果について記述する。
【0042】
(1)SEM107による観察は、観察面106を観察するために、チップ101の表面より深い位置から、観察面106に向かってSEM107による観察用の電子線を照射する方式で行なわれる。また、観察面106のSEM107による観察が終了した後には、FIB源108からのFIBを用いてチップ101の観察面106をスライスするよう除去し、新たな観察面を露出させて観察する。
【0043】
そのため、チップ101の表面に形成された導電性の保護膜102は、チップ101の観察が終了するまで残存することとなり、SEM107を用いてチップ101の観察をした場合、チップ101の観察が終了するまで導電性の保護膜102を経由して、導電性ペースト104、ステージ103を通じて電荷を放出することができる。
【0044】
従って、チップ101の表面に形成された観察面106に負電荷が蓄積し、蓄積した負電荷の影響により、SEM107による観察のための電子線が観察面からはじかれることにより生じる、観察面が白く光ることで観察を困難とするチャージアップ現象を抑制することができる。
【0045】
(2)チップ101の表面に平行な面に対してSEM107による観察が行なえるため、チップ101の表面に平行な面に対して高い分解能を必要とするチップ101の観察を、別断面で観察する場合と比べより精度良く行なうことができる。
【0046】
(3)深さの異なる位置で観察した2次元像を元に3次元像を作成するため、異物を含んだチップ101の観察結果を2次元像のみで解釈した場合と比べ、より正しい解釈を行なうことが可能となる。
【0047】
(4)断面像を解釈するために必要となる情報が観察途中で得られた場合には観察を打ち切るため、チップ101の観察に掛かる時間を短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】チップを加工、観察する手法を示す概略断面図。
【図2】本発明に係る観察手順を示すための工程断面図。
【図3】本発明に係る観察手順を示すための工程断面図。
【図4】断面観察結果を測定順序(S1〜S9)に従って示す断面図。
【図5】断面図を組み合わせて形成した3次元表示結果を示す立体図。
【符号の説明】
【0049】
101…チップ、102…保護膜、103…ステージ、104…導電性ペースト、105…斜面、106…観察面、106a…観察面、106b…観察面、107…SEM、108…FIB源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側には被観察領域が形成されており、また前記表面側には導電体からなる、前記被観察領域を保護するための保護膜が形成されたチップを用い、前記チップの表面から、前記チップの裏面に垂直に向かう方向を正とした深さと、
前記チップの一つの側面と垂直で、前記チップの前記側面から前記チップの内部に向かう方向を正とした奥行きと、
前記チップの前記側面及び前記表面と平行で、前記チップの外部から前記側面を見て、左から右に向かう方向を正とした幅と、を用いて配置が特定される前記チップの断面観察方法であって、
幅方向の両端では、一端が前記被観察領域の幅の最大値以上の値を有し、また他端が前記被観察領域の幅の最小値以下の値を有し、また前記被観察領域の最大奥行き以上の奥行きと、前記被観察領域の最大深さ以上の深さと、を有してなる観察面を、前記表面と平行で、かつ前記被観察領域を挟んで対向する位置に配置し、前記観察面に1次の荷電粒子を照射して得られた前記観察面からの2次電子、2次イオン、または2次光線を収集して前記観察面を観察する際に、前記1次の荷電粒子が前記観察面へ到達することを妨げる領域を、前記チップの前記側面から集束イオンビームを照射して除去する工程と、
前記1次の荷電粒子を前記観測面に照射して、前記観察面を観察し、断面像のデータを蓄積することと、前記観察面を前記集束イオンビームを用いて前記表面と平行に除去し、新しい観察面を形成することとを、前記被観察領域を全て観察するまで繰り返し行なう、または観察面を解釈するために必要となる情報が観察途中で得られた場合、繰り返しを打ち切る工程とを有することを特徴とするチップの断面観察方法。
【請求項2】
前記観察面を観察する工程では、走査形電子顕微鏡または走査形イオン顕微鏡を用いて観察することを特徴とする請求項1に記載のチップの断面観察方法。
【請求項3】
前記観察面を観察した工程のデータから、前記被観察領域の3次元構造を合成し出力する工程を有することを特徴とする請求項1または2に記載のチップの断面観察方法。
【請求項4】
前記保護膜が絶縁体からなることを特徴とする請求項1に記載のチップの断面観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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