説明

チトクロムP450−2D6をコードする遺伝子における変異を検出する方法

本発明は、チトクロムP450-2D6をコードする遺伝子の中に位置する二つ以上の変異を、同時に同定するための方法を記載する。多重検出は、多重にタグ付加された対立遺伝子特異的プライマー伸長(ASPE)、およびそうした伸長プライマーのプローブへの、好ましくはアドレス可能なアンチタグ支持体へのハイブリダイゼーションを用いて達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、チトクロムP450-2D6をコードする遺伝子の中に位置する変異の検出のための方法およびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
先行技術の説明
チトクロムP450ファミリーの中の酵素は、数多くの処方薬を含む広範な小分子の第一相代謝に関与している。CYP2D6(デブリソキン-4-ヒドロキシラーゼ)は、少なくとも58個の臨床的意義のある薬物の代謝に関与している。CYP2D6中の変異に起因する薬物代謝障害は、毒性レベルまで薬物蓄積を引き起こすことがあり、これにより潜在的な薬物有害反応(ADR)に寄与する。
【0003】
チトクロムP450 2D6をコードする遺伝子は、染色体22q13.1上に位置する。図1に示すように、CYP2D6と高いDNA配列相同性を示す二つのスプライスされた偽遺伝子(CYP2D7PおよびCYP2D8P)は、CYP2D6のすぐ上流に位置する。遺伝子は、約4.5 Kbpの領域内に配置された9つのエキソンからなる。遺伝子は、酵素のデブリソキン-4-ヒドロキシラーゼをコードしている。図1は、CYP2D6遺伝子の配置、および二つの偽遺伝子に対するその関連を、主要なゲノム変異において欠失または重複した領域と共に示す。
【0004】
チトクロムP450遺伝子の統一命名法は、Daly et al.(1996)により記載されている。この命名法によると、対立遺伝子は、CYPに遺伝子名(例えば、CYP2D6)続いて星印を加えて表示され、その後にアラビア数字で変異が表示される。異なるCYP2D6対立遺伝子の大部分は、数多くの点変異からなるハプロタイプであるか、または同じ遺伝子内で同時に発生する小さな変種である。同じ対立遺伝子のサブタイプは、さらに文字により命名される(例えばCYP2D6*4A)。CYP2D6に関して記述された変異は、ヒトP450対立遺伝子命名委員会の公式ホームページ内に記載されている(http://www.imm.ki.se/CYPalleles/default.htm(非特許文献1))。データベース中のヌクレオチド位置の付番は、ゲノム登録におけるそれらの位置(Genbankアクセッション番号#M33388またはSEQ ID No:1)に基づくが、付番はGenbank登録における番号を用いるのではなく、ATGにおけるAから始まる。
【0005】
遺伝子診断は、個体の遺伝学的プロファイルに基づいてADRの危険性のある個体を同定し、医師が投与計画を変更すること、または潜在的なADRの危険性を軽減するために別の薬物を選択することを可能にするために使用され得る。しかしながら、CYP2D6 をコードする遺伝子中の特異的な変異の検出について、迅速かつ正確な試験の必要性が存在する。
【0006】
多重対立遺伝子特異的プライマー伸長および変異の固体支持体検出
多重対立遺伝子プライマー伸長、および伸長されたプライマーの固体支持体へのハイブリダイゼーションは、先行技術の中に記述されている。ASPE技術は、米国特許第4,851,331号(特許文献1)に概説されている。本技術は、ゲノム中の特異的な多型部位の存在または非存在を同定するよう設計される。
【0007】
変異検出のため支持体とのハイブリダイゼーションと連動した多重ASPEを、以下のように概説することができる:
1)多重化PCRを利用して、多型遺伝子座を含むDNAの領域を増幅する工程。
2)DNAの増幅領域が対立遺伝子特異的伸長のための標的配列として働く、プライマーの対立遺伝子特異的伸長。標的配列と完全マッチを形成する3'末端ヌクレオチドを有する伸長プライマーを伸長して、伸長産物を形成する。検出のため伸長産物を効率的に標識する、改変ヌクレオチドを伸長産物に組み入れる。または、伸長プライマーは、標識配列とミスマッチを形成する3'末端ヌクレオチドを代わりに含み得る。この場合、プライマー伸長は起こらない。
3)マイクロアレイなどの固体支持体上で、伸長産物の5'端に相補的であるプローブに伸長産物をハイブリダイズする工程。
【0008】
上記の方法論において用いられる伸長プライマーは、その5'端に特有の配列タグを有する。例えば、配列タグは伸長産物を固体支持体上で捕獲することを可能にし得る。
【0009】
上記技術のバリエーションは、例えば米国特許第6,287,778号(特許文献2)およびPCT出願(WO 00/47766)(特許文献3)に記載されている。
【0010】
CYP2D6をコードする遺伝子における変種を同定するための、費用効率がよく、迅速、かつ正確な方法を提供することが、本発明の目的である。
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,851,331号
【特許文献2】米国特許第6,287,778号
【特許文献3】PCT出願(WO 00/47766)
【非特許文献1】ヒトP450対立遺伝子命名委員会の公式ホームページ、インターネット<URL:http://www.imm.ki.se/CYPalleles/default.htm>
【発明の開示】
【0012】
発明の概要
ひとつの態様において、本発明は、表1に認められる変異の群より選択される試料中の変異の存在または非存在を検出するための方法であって、以下の工程を含む方法を提供する。
【0013】
SEQ ID NO:2 およびSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4および SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6およびSEQ ID NO:7、ならびにSEQ ID NO:8 およびSEQ ID NO:9からなるPCR 対の群より選択される、少なくとも二つのPCRプライマー対を用いて、上述の変異を含み得るDNAの領域を増幅する工程。
【0014】
SEQ ID NO:10〜SEQ ID NO:35からなる群より選択される少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーを、増幅DNAの相補的領域にハイブリダイズする工程であって、各タグ付き対立遺伝子特異的プライマーは、増幅DNAの領域に相補的な3'部分、上述の変異部位のひとつの1つの対立遺伝子(野生型または変異型)に相補的な3'末端ヌクレオチド、およびプローブ配列に相補的な5'部分を有する、工程。
【0015】
プライマーの3'末端ヌクレオチドが標的配列中の対応するヌクレオチドに相補的である場合に、プライマーの標識伸長産物が合成されることによって、タグ付きASPEプライマーを伸長させる工程;プライマーの末端ヌクレオチドが標的配列中の対応するヌクレオチドに相補的でない場合には伸長産物は合成されない。
【0016】
伸長産物をプローブにハイブリダイズする工程、および標識伸長産物の検出。標識伸長産物の検出は、ASPEプライマーの3'末端ヌクレオチドに相補的な対立遺伝子の存在を示している。標識された伸長産物が存在しない場合、ASPEプライマーの3'端に対応する対立遺伝子が試料中に存在しないと判定される。
【0017】
もうひとつの態様において、本発明は、表1に認められる少なくとも二つの変異の存在または非存在を検出する際に使用するためのキットであって、SEQ ID NO:10〜SEQ ID NO:35からなる群より選択される少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマー、およびSEQ ID NO:2 およびSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4および SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6およびSEQ ID NO:7、ならびにSEQ ID NO:8 およびSEQ ID NO:9からなる群より選択される、二つのPCRプライマー対を含むキットを提供する。
【0018】
もうひとつの態様において、本発明は、チトクロムP450-2D6をコードする遺伝子中の多型部位において、表1に記載された変種の群より選択されるヌクレオチド変種の存在または非存在を検出するための方法であって、以下の工程を含む方法を提供する;
a)変種を含むDNAの領域を増幅して、増幅DNA産物を形成する工程;
b)少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーを、増幅DNA産物中の相補的標的配列にハイブリダイズする工程であって、各タグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーが、増幅DNAにハイブリダイズすることが可能な3'端ハイブリダイズ部分、および対応するプローブ配列に相補的な5'端タグ部分を有し、かつ少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーの3'端ハイブリダイズ部分がSEQ ID NO:10〜SEQ ID NO:35の塩基25以上からなる群より選択される配列を含み、3'端ハイブリダイズ部分の末端ヌクレオチドが、疑わしい変異体ヌクレオチドまたはその部位の対応する野生型ヌクレオチドのいずれかに相補的である、工程;
c)3'端ハイブリダイズ部分の末端ヌクレオチドが増幅DNA産物中の多型部位の一つの対立遺伝子に完全マッチしている場合、少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーを、標識ヌクレオチドを用いて伸長させる工程;
d)少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーを、対応するプローブ配列にハイブリダイズし、標識伸長産物の存在を検出する工程。
【0019】
もうひとつの態様において、本発明は、チトクロムP450-2D6をコードする遺伝子中の多型部位において、表1に記載された変種の群より選択されるヌクレオチド変種の存在または非存在を検出するための方法であって、以下の工程を含む方法を提供する;
a)変種を含むDNAの領域を増幅して、増幅DNA産物を形成する工程;
b)SEQ ID NO:10〜SEQ ID NO:35からなる群より選択される少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーを、増幅DNA産物中の相補的標的配列にハイブリダイズする工程であって、各タグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーが、増幅DNAにハイブリダイズすることが可能な3'端ハイブリダイズ部分および対応するプローブ配列に相補的な5'端タグ部分を有し、3'端ハイブリダイズ部分の末端ヌクレオチドが、疑わしい変異体ヌクレオチドまたは部位の対応する野生型ヌクレオチドのいずれかに相補的である、工程;
c)3'端ハイブリダイズ部分の末端ヌクレオチドが増幅DNA産物中の多型部位の一つの対立遺伝子に完全マッチしている場合、少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーを、標識ヌクレオチドを用いて伸長させる工程;
d)少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーを、対応するプローブ配列にハイブリダイズし、標識された伸長産物の存在を検出する工程。
【0020】
もうひとつの態様において、本発明は、チトクロムP450-2D6をコードする遺伝子中の多型部位において、表1に記載された変種の群より選択されるヌクレオチド変種の存在または非存在を検出するためのキットであって、各タグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーが、疑わしい変異体ヌクレオチドまたは多型部位の一つの対応する野生型ヌクレオチドのいずれかに相補的である3'末端ヌクレオチドを含む3'端ハイブリダイゼーション部分、および対応するプローブ配列に相補的な5'端タグ部分を有し、かつSEQ ID NO:10〜SEQ ID NO:35からなる群より選択される、少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーのセットを含むキットを提供する。
【0021】
もうひとつの態様において、本発明は、チトクロムP450-2D6をコードする遺伝子中の多型部位において、表1に記載された変種の群より選択されるヌクレオチド変種の存在または非存在を検出するためのキットであって、少なくとも二つの多型部位を含むDNAの領域を増幅するための、以下からなる対の群より選択されるPCRプライマーの少なくとも二つの対を含むPCR増幅プライマーのセットを含む、キットを提供する:
SEQ ID NO:2 およびSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4およびSEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6およびSEQ ID NO:7、ならびにSEQ ID NO:8およびSEQ ID NO:9。
【0022】
好ましい態様の説明
本出願において用いられる次の用語は、以下に定義された意味を有すると理解される。
【0023】
本明細書で用いられる「変異」という用語は、本発明の方法によって同定される8個の単一塩基対置換、2個の単一塩基対欠失、および1個の3塩基対欠失を含むが、それらに限定されないヌクレオチド配列中の多くの種類の変更を指す。
【0024】
本出願において用いられる「オリゴヌクレオチド」および「ポリヌクレオチド」という用語は、長さが1ヌクレオチドより大きいDNA配列を指す。そのような配列は一本鎖か、または二本鎖のいずれかの型で存在し得る。本明細書に記載されたオリゴヌクレオチドの例には、PCRプライマー、ASPEプライマー、およびアンチタグ(anti-tags)が含まれる。
【0025】
「対立遺伝子」という用語は、ヌクレオチド配列の変種を指すために本明細書で用いられる。
【0026】
本明細書で用いられる「対立遺伝子特異的プライマー伸長(ASPE)」という表現は、対応するDNA配列にハイブリダイズするプライマーであって、かつそうしたプライマーの3'末端ヌクレオチドが上手くハイブリダイズするのに応じて伸長するプライマーを利用した変異検出法を指す。DNAの増幅領域は、ASPEプライマーのための標的配列として働く。ASPEプライマーには、DNAの増幅領域にハイブリダイズする3'端-ハイブリダイズ部分が含まれる。標的配列と完全マッチを形成する3'末端ヌクレオチドを有するASPEプライマーは、伸長して伸長産物を形成する。検出のために効率的に伸長産物を標識する改変ヌクレオチドは、伸長産物に取り込まれ得る。または、伸長プライマーは、標的配列とミスマッチを形成する3'末端ヌクレオチドを代わりに含み得る。この場合、伸長のために用いられるポリメラーゼが偶発的にエキソヌクレアーゼ活性を有するか、または誤取り込みをする傾向があるということがなければ、プライマー伸長は起こらない。
【0027】
「遺伝子型」という用語は、生物の遺伝子構成を指す。より具体的には、この用語は個体において存在する対立遺伝子の同一性を指す。個体またはDNA試料の「遺伝子型解析」とは、公知の多型部位において個体により所有されている二つの対立遺伝子の、ヌクレオチド塩基の観点から見た性質を同定することを指す。
【0028】
本明細書で用いられる「多型」という用語は、遺伝子またはその一部の二つ以上の型の共在を指す。
【0029】
本明細書で用いられる「PCR」という用語は、ポリメラーゼ連鎖反応を指す。PCRは、熱安定性ポリメラーゼ、ならびに増幅される配列の一端に(+)鎖に相補的な一つのプライマーおよび増幅される配列のもう一つの端に(-)鎖に相補的なもう一つのプライマーというプライマー対を用いて、DNA塩基配列を増幅する方法である。新しく合成されたDNA鎖は、続いて同じプライマー配列のための鋳型として働くことができ、熱変成、プライマーアニーリング、および鎖伸長の連続回転により、所望の配列の迅速かつ非常に特異的な増幅がもたらされる。PCRは、DNA試料中の規定配列の存在を検出するために用いることができる。
【0030】
本明細書で用いられる「プライマー」という用語は、DNA試料中の相補的配列にハイブリダイズすることが可能な、短い一本鎖オリゴヌクレオチドを指す。プライマーは、鋳型依存的DNA合成のための開始点として働く。DNAポリメラーゼによって、デオキシリボヌクレオチドをプライマーに接合することができる。「プライマー対」または「プライマーセット」は、増幅されるDNA配列の5'端の相補体とハイブリダイズする5'上流プライマー、および増幅されるDNA配列の3'端とハイブリダイズする3'下流プライマーを含むプライマーのセットを指す。本明細書で用いられる「PCRプライマー」という用語は、PCR反応のために用いられるプライマーを指す。本明細書で用いられる「ASPEプライマー」という用語は、ASPE反応のために用いられるプライマーを指す。
【0031】
本明細書で用いられる「タグ」という用語は、ASPEプライマーに連結しているオリゴヌクレオチド配列を指す。配列は、通常、特有かつヒトゲノムに非相補的であるが、プローブ配列には実質的に相補的である。プローブ配列は、例えば、固体支持体に付着していてもよい。タグは、ASPEプライマーをプローブに結合させるために働く。
【0032】
本明細書で用いられる「タグ付きASPEプライマー」という用語は、タグに連結しているASPEプライマーを指す。
【0033】
本明細書で用いられる「アンチタグ」または「プローブ」という用語は、ASPEプライマーのタグ配列に相補的、かつハイブリダイズ可能な配列を有するオリゴヌクレオチド配列を指す。「アンチタグ」は、支持体に連結していてもよい。
【0034】
本明細書で用いられる「野生型」または「wt」という用語は、遺伝子の正常な、または変異していない、または機能的な型を指す。
【0035】
本明細書で用いられる「ホモ接合性野生型」という用語は、同じ対立遺伝子の二つのコピーを有する個体を指し、そのような対立遺伝子は遺伝子の正常かつ機能的な型と見なされているものである。
【0036】
本明細書で用いられる「ヘテロ接合性」または「HET」という用語は、同じ遺伝子の二つの異なる対立遺伝子を有する個体を指す。
【0037】
本明細書で用いられる「ホモ接合性変異体」という用語は、同じ対立遺伝子の二つのコピーを有する個体を指し、そのような対立遺伝子は遺伝子の変異体型と見なされているものである。
【0038】
本明細書で用いられる「変異体」という用語は、遺伝子の変異した、または潜在的に非機能的な型を指す。
【0039】
本明細書で用いられる「欠失」という用語は、遺伝子からゲノムDNAの一部が欠失している変異を指す。欠失は、欠失が位置する染色体により寄与されている全ての酵素活性を消失させるよう働き得る。
【0040】
本明細書で用いられる「重複」という用語は、遺伝子の複数コピーが、影響を受ける染色体上に存在し得る変異を指す。重複は、特異的遺伝子の複数コピーの存在による酵素の過剰産生をもたらし得る。
【0041】
本発明は、薬物有害反応を受けやすい個体の遺伝子型を解析するための、迅速で、非常に特異的で、費用効率のよい方法の必要性に応じて開発された。より具体的には、本発明は、CYP2D6遺伝子中の変異に起因する薬物代謝異常を有し得る個体を同定するための方法を提供する。
【0042】
本発明は、CYP2D6をコードする遺伝子の中に位置する複数の変異を検出する新規の多重法を提供する。具体的には、表1に認められる変異からなる群より選択される二つ以上の変異の存在または非存在の検出のために、本方法論を用いることができる。好ましい態様において、本発明は表1に認められる全ての変異の存在または非存在を検出する方法を提供する。
【0043】
(表1)CYP2D6をコードする遺伝子の変異

【0044】
表1に認められる一つまたは複数の変異の陽性検出は、薬物有害反応の素因を有する個体であることを示し得る。
【0045】
図1は、本発明の方法でアッセイされる変種の位置、および本方法で用いられる二つのコード領域PCRアンプリマーを示している(以下でさらに論じる)。
【0046】
本発明は、高レベルの特異性によってさらに特徴付けられる。そのような特異性は、生じるいかなる結果もゲノム標的の真の表示であり、単に反応中に存在する試薬間に生じる非特異的相互作用の結果でないということを保証するために必要である。反応混合物中に存在するほとんどが非相補的な多数の配列が反応条件によっては非特異的に相互作用し得る、多重化されたDNAに基づく試験にとって、これは特に重要である。
【0047】
本発明の方法論は、検出を促進するため、タグ付きかつ標識された伸長産物のプローブへのハイブリダイゼーションと多重ASPE技術とを組み合わせて利用する。そのような方法論は、ハイスループットの臨床遺伝子型解析の適応に適している。
【0048】
ひとつの態様において、本発明は、表1に認められる変異の群より選択される試料中の変異の存在または非存在を検出する方法であって、以下の工程を含む方法を提供する。
【0049】
上述の変異を含み得るDNAの領域を増幅する工程。
【0050】
少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーを増幅DNAの相補的領域にハイブリダイズする工程であって、各タグ付き対立遺伝子特異的プライマーが、増幅DNAの領域に相補的な3'部分、上述の変異部位のひとつの1つの対立遺伝子(野生型または変異体)に相補的な3'末端ヌクレオチド、およびプローブ配列に相補的な5'部分を有する、工程。
【0051】
プライマーの3'末端ヌクレオチドが標的配列中の対応するヌクレオチドに相補的である場合に、プライマーの標識伸長産物が合成されることにより、タグ付きASPEプライマーを伸長させる工程;プライマーの末端ヌクレオチドが標的配列中の対応するヌクレオチドに相補的でない場合には、伸長産物は合成されない。
【0052】
伸長産物をプローブにハイブリダイズする工程、および標識された伸長産物の検出。標識された伸長産物の検出は、ASPEプライマーの3'末端ヌクレオチドに相補的な対立遺伝子の存在を示している。標識された伸長産物が存在しない場合、ASPEプライマーの3'端に相補的な対立遺伝子が試料中に存在しないと判定される。
【0053】
上述の方法の一例の一般的概要を図2に提示する。当技術分野において公知の方法を用いて、DNA試料は最初に調製される10。チトクロムP450-2D6をコードする遺伝子中の変種部位を含むDNAの領域を増幅するために、多重PCR増幅20を実施する。その後、多重ASPE反応30を実施する。例としてのみ、33は遺伝子の野生型および変異型対立遺伝子を説明している。工程36において、ASPEプライマーをDNAの増幅領域にハイブリダイズさせる。ASPEプライマーの3'末端ヌクレオチドが標的配列中の対応するヌクレオチドに相補的である場合、以下に詳述するように標識伸長産物が形成される39。標識伸長産物の存在を、例えばxMAP検出50を用いて検出し得る、アドレス可能なユニバーサル選別アレイ40上で、ASPEを選別し得る。
【0054】
図1は、本発明の方法でアッセイされる変種の位置、およびアッセイに用いられる二つのコード領域PCRアンプリマーを示している。
【0055】
表2に記載された小さなヌクレオチド変化に加えて、二つの大きなゲノム再構成もまたCYP2D6活性に影響を与える。CYP2D6*5対立遺伝子は全2D6遺伝子を含むゲノムDNAの12.1 Kbpの欠失によって特徴付けられる。この欠失は、それが位置する染色体により寄与される全ての酵素活性を消失させるヌル表現型を有する。
【0056】
CYP2D6xn対立遺伝子は、2D6遺伝子のタンデム重複によって特徴付けられる。反復ユニットは、おおまかに長さ12.1 Kbpであり、実際、2D6*5において欠失している領域と同一である。稀な事例では最高13個までの重複されたコピーが存在し得ることが観察されているが、ほとんどの場合、重複は影響される染色体上に2D6遺伝子の二つのコピーの存在をもたらす。2D6の原形および複製コピーの両方共、転写的および翻訳的に活性であり、酵素の過剰産生および超代謝表現型(CYP2D6活性の正常より大きいレベル)をもたらす。重複は2D6*4遺伝子型と関連しても認められているが、2D6xn重複の発生のほとんどは、高代謝表現型と関連する2D6*1または2D6*2遺伝子型に観察されている。
【0057】
DNA試料調製
以下の方法において使用するための核酸(最も好ましくはゲノムDNA)を提供するため、当技術分野において公知の様々な方法を用いて患者試料を抽出することができる。
【0058】
増幅
最初の工程において、CYP2D6をコードする遺伝子由来のDNAの少なくとも一つの領域を増幅する。増幅された少なくとも一つの領域は、表1に記載された変異部位を含む。
【0059】
本発明の好ましい態様において、CYP2D6をコードする遺伝子中の変異部位を含む領域のPCR増幅は、以下からなるプライマー対の群より選択されるPCRプライマー対を用いて開始する:SEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4およびSEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6およびSEQ ID NO:7、ならびにSEQ ID NO:8およびSEQ ID NO:9。
【0060】
プライマーの各対と表1に記載された変異との関係、ならびに上記の欠失および重複領域の検出との関係を表2に提示する。
【0061】
(表2)CYP2D6変異を含む領域を増幅するために用いられるプライマー対

【0062】
当業者は、標的多型領域ならびに欠失および重複領域を増幅するために、別のPCRプライマーを用い得ることを認識すると考えられるが、しかしながら、好ましい態様においては、反応混合物における他の配列との最小限の非特異的相互作用のため、表2に記載されたプライマーが選択される。
【0063】
欠失および重複ゲノム再構成の存在は、PCRに基づくメカニズムにより検出される。これらのアプローチは、2D6*5(欠失)の検出に関してはSteen et al.,(1995)、2D6xn(重複)の検出に関してはLovlie et al.,(1996)の研究から改変される。これらのアプローチの基本は、特定のゲノム再構成(欠失または重複)が存在する場合にのみ、産物を生じるPCRプライマーの対を利用することである。欠失および重複の両方における組み換え現象は、2.8 Kbp反復領域と共に起こるので、PCRアンプリマーはこの領域全域に及ばなければならない。したがって、存在する場合に欠失は3.5 Kbの産物を産生する。一方、存在する場合に重複は3.2 Kbの産物を産生する。プライマーの混合は、全てのWTゲノムDNA試料からシグナルを産生するので、欠失および重複プライマーを同じPCR反応において用いることはできない。以下に提供される例で概説するように、実行するPCR反応の数を最小限にするため、α-プライマーを重複プライマーと組み合わせ(α反応セット)、およびβ-プライマーを重複プライマーと組み合わせる(β反応セット)ことにより、メガ反応を多重化する。
【0064】
ASPE
本発明の方法のASPE工程は、SEQ ID NO:10〜SEQ ID NO:35からなるASPEプライマーの群より選択されるタグ付きASPEプライマーを用いて実施される。
【0065】
本発明のASPEプライマーセットは、そのような対立遺伝子特異的プライマーを利用して、診断試験の高い特異性および正確性を確実にするよう最適化されている。
【0066】
表3は、本発明の好ましい態様において用いられるASPEプライマーの一覧を提示している。末尾の「wt」は、特異的変異部位においてCYP2D6をコードする遺伝子の野生型を検出するために用いられるASPEプライマーを示している。末尾の「mut」は、特異的変異部位においてCYP2D6をコードする遺伝子の変異型を検出するために用いられるASPEプライマーを示している。末尾の「dup」は、重複領域を検出するために用いられるASPEプライマーを示している。末尾の「del」は、欠失領域を検出するために用いられるASPEプライマーを示している。SEQ ID NO:10〜SEQ ID NO:35のそれぞれの塩基1から24は、特異的プローブ配列に相補的であるASPEプライマーの5'部分である。表3に記載された特異的配列が好ましいが、本発明の別の態様においては、表3の配列の異なる5'部分(SEQ ID NO:10から35の塩基1から24)を表3の配列の異なる3'端ハイブリダイズ部分(SEQ ID NO:10から35の塩基25以上)と組み合わせることが可能である。
【0067】
ASPEプライマーのそれぞれの方向性もまた、表3に提示している。
【0068】
(表4)P450-2D6のASPEプライマー配列

【0069】
伸長プライマーの3'端ハイブリダイズ部分は、増幅される物質にハイブリダイズされる。ASPEプライマーの3'端ハイブリダイズ部分の3'末端ヌクレオチドが多型部位に相補的である場合、プライマー伸長は改変ヌクレオチドを用いて実行される。ASPEプライマーの3'末端ヌクレオチドが多型領域に相補的でない場合、プライマー伸長は起こらない。
【0070】
ひとつの態様において、伸長産物の標識は、蛍光(ストレプトアビジンーフィコエリスリン)または化学発光(ストレプトアビジンー西洋ワサビペルオキシダーゼ)反応を用いて同定され得る、ビオチン化ヌクレオチドの伸長産物への取り込みを介して達成される。しかしながら、他の標識技術が利用され得ることを、当業者は認識すると考えられる。検出のために有用な標識の例には、放射標識、蛍光標識(例えば、フルオレセインおよびローダミン)、核磁気共鳴活性標識、陽電子放射断層撮影(PET)スキャナー、およびルシフェリンなどの化学発光体、およびペルオキシダーゼまたはフォスファターゼなどの酵素マーカーが含まれるが、それらに限定されない。
【0071】
上記の方法論において用いられる各ASPEプライマーは、その5'端に特有の配列タグを有する。配列タグにより、例えば、検出を促進するための固体支持体上での捕捉を通じて、伸長産物を高い特異性で検出することが可能となる。
【0072】
検出
本発明の対立遺伝子特異的プライマーのタグ付き5'部分はプローブ配列に相補的である。対立遺伝子特異的プライマーを対応するプローブ配列にハイブリダイズすると、伸長産物の存在を検出できる。
【0073】
好ましい態様において、本発明の方法論において用いられるプローブは、例えば「ユニバーサルな」ビーズに基づくマイクロアレイなどの固体支持体に連結している。
【0074】
本発明に用いられ得る支持体の例には、ビーズに基づくマイクロアレイおよび2Dガラスマイクロアレイが含まれるが、それらに限定されない。マイクロアレイの調製、使用、および解析は、当業者にとって周知である。(例えば、Brennan, T. M. et al.(1995)米国特許第5,474,796号;Schena et al.(1996)Proc. Natl. Acad. Sci. 93:10614-10619; Baldeschweiler et al.(1995), PCT出願WO95/251116; Shalon D. et al.(1995)PCT出願WO95/35505; Heller, R. A. et al.(1997)Proc. Natl. Acad. Sci. 94:2150-2155;およびHeller, M. J. et al.(1997)米国特許第5,605,662号を参照されたい)。例えば、特異的変異の存在または非存在を同定するための化学発光または蛍光技術を用いたアレイにより、検出を達成することができる。
【0075】
ユニバーサルアレイは、関心対象の標的を間接的に検出する選別ツールとして機能し、セットとして等温で交差ハイブリダイズが最小限となるよう設計されている。本発明で用いられ得るマイクロアレイの例には、Luminex's(登録商標)ビーズに基づくマイクロアレイシステム、およびMetrigenix's(商標)フロースルーチップ技術が含まれるが、それらに限定されるべきない。
【0076】
ひとつの態様において、例えば、Luminex's 100xMAP(商標)蛍光に基づく固体支持体マイクロアレイシステムが利用される。上記、ASPEプライマー/伸長産物のタグ領域に相補的なアンチタグ配列は、内部を蛍光で色分けされたミクロスフェアの表面に連結される。ミクロスフェアの各セットがそれ自身に特徴的なスペクトルアドレスを有するアンチタグミクロスフェアのアレイが産生される。タグ付きの、伸長された、ビオチン化されたASPEプライマーの混合物は、アンチタグ付きミクロスフェアのアレイと組み合わせられ、ストリンジェントな条件下でのハイブリダイズが可能となる。
【0077】
反応混合物中で、ASPEプライマーの末端ヌクレオチドが標的配列中の対応するヌクレオチドに相補的である場合、合成される標識伸長産物を検出するために蛍光レポーター分子(例えば、ストレプトアビジンーフィコエリスリン)が用いられる。
【0078】
ミクロスフェア、伸長産物などを含む反応混合物を、例えばLuminex's 100xMAP(商標)などの微小流体を用いてミクロスフェアを一列縦隊に整列する読み取り装置の中に注入する。ミクロスフェアの内部、およびアンチタグ配列にハイブリダイズした伸長産物の形態で表面に付着している両方のフルオロフォアを照射するために、レーザーを用いる。Luminex 100xMAP(商標)は、受信したシグナルを解釈し、野生型および/または変異型対立遺伝子の存在を同定する。表2に示された変異の任意の一つまたは複数の変異型対立遺伝子の存在は、薬物有害反応を受けやすい素因を示し得る。本発明の特異的伸長産物およびアンチタグ付きミクロスフェアと関連するデータを解析するように設計されたソフトウェアが提供され得る。
【0079】
もうひとつの態様においては、当技術分野において公知のとおり、Metrigenixフロースルー三次元微小チャネルバイオチップ(Cheek, B. J. Steel A. B., Torres, M. P., Yu, Y., およびYang H. Anal. Chem. 2001, 73, 5777-5783)が遺伝子型解析のために利用される。本態様において、微小チャネルの各セットは異なるユニバーサルアンチタグ集団を表す。上記、ASPEプライマー/伸長産物のタグ領域に相補的なアンチタグ配列は、セルを含む複数の微小チャネルの内側表面に付着している。複数のセルによりチップが作り上げられる。ビオチン化伸長産物を含む反応混合物は、ストレプトアビジンー西洋ワサビペルオキシダーゼなどの化学発光レポーター基質の存在下、セルの中を流れる。個体の遺伝子型を同定するため、ORCA-ER CCD(Hamamatsu Photonics K. K., Hamamatsu City, Japan)など当技術分野において公知の技術、および画像ソフトウェアを用いてマイクロアレイチップを画像化することができる。
【0080】
キット
さらなる態様において、本発明はCYP2D6をコードする遺伝子中の変異の多重検出のためのキットを提供する。
【0081】
関心対象の変異の検出のために用いられ得るキットには、以下を含む次の構成要素が含まれ得る:関心対象の変異部位を含む領域を増幅するためのPCRプライマーミックス(任意でdNTPを含む)、標識伸長産物の作製のためのASPEプライマーミックス(任意でdNTPを含む)、およびASPEプライマーのタグ領域に相補的なアンチタグを有するマイクロアレイビーズなどの固体支持体。さらに、当業者は、例えば緩衝液およびポリメラーゼなどを含むキット中に含まれ得る他の構成要素を認識すると考えられる。
【0082】
本発明のキットは、検出される全ての変異のためのPCRプライマー対、ASPEプライマー、およびタグ付き支持体を含み得るか、または個別の末端使用者の必要性に最適となるよう特注生産され得る。例えば、末端使用者がCYP2D6遺伝子中の変異の5個のみを検出したい場合、所望の変異の検出に必要なPCRプライマー対、ASPEプライマー、および支持体のみを含むようにキットを特注生産することができる。従って、製品の末端使用者が、彼らの具体的な要求に適合するキットを設計できる。さらに、末端使用者は、例えば、検出のためユニバーサルなビーズに基づくマイクロアレイを用いる場合、実施する試験をソフトウェアレベルで調節することもできる。例えば、所望の変異のためのビーズのみを読み取るようなソフトウェアか、または所望の変異データからの結果のみを報告するソフトウェアをキットと共に提供することができる。アッセイを別のプラットフォーム上で実行する場合、ソフトウェアによりデータ報告の類似の調節を得ることができる。
【0083】
表1に認められる特異的変異に関して本方法を記載してきたが、さらなる変異を検出するために用いられるPCRプライマーおよびASPEプライマーを上記の方法およびキットの中に含むことができることを、当業者は認識すると考えられる。
【0084】
実施例1:CYP2D6をコードする遺伝子中の変異のASPE/マイクロアレイ検出
以下に、本発明の方法で用いられるためのプロトコールの例を提示する。
【0085】
試験される各ゲノム試料について、二つの別個のPCR反応を実行する。各PCR反応には、ゲノムDNA 25 ngが必要である(例えば、試料当たり50 ngのゲノムDNA)。最初のPCR(PCR-α)により、表1に示される変種を検出するために用いられるα断片(3.8 kb)(SEQ ID NO:2およびSEQ ID NO:3を含むPCRプライマー対由来)と共に、存在すれば重複遺伝子型の存在を示唆する重複アンプリマー(3.2 kb)(SEQ ID NO:4およびSEQ ID NO:5を含むPCRプライマー対由来)が産生される。二番目のPCR(PCR-β)により、表2に示される変種を検出するために用いられるβ断片(2.6 kb)(SEQ ID NO:6およびSEQ ID NO:7を含むPCRプライマー対由来)と共に、存在すれば欠失遺伝子型を示唆する欠失アンプリマー(3.5 kb))(SEQ ID NO:8およびSEQ ID NO:9を含むPCRプライマー対由来)が産生される。PCR増幅の後、二つの反応物(PCR-αおよびPCR-β)はプールされる。対立遺伝子特異的プライマー伸長(ASPE)反応の間、ビオチン-dCTPの効率的な取り込みを可能にするため、プールされたPCR産物をシュリンプアルカリフォスファターゼ(SAP)によって処理して、いかなる残存ヌクレオチド(特にdCTP)も不活性化し、かつエキソヌクレアーゼI(EXO)によりPCR反応由来のいかなるプライマー余剰も分解する。その後、ASPEプライマーミックス中に供給されている26個のユニバーサルにタグが付けられたプライマー(SEQ ID NO:10〜SEQ ID NO:35)を用いてASPEを実行する。ASPE反応の5μl分割量を、ハイブリダイゼーション緩衝液の存在下でユニバーサルアレイ(ビーズミックス)とハイブリダイズし、ストレプトアビジン、R-フィコエリスリン接合体(レポーター溶液)とインキュベートする。試料はLuminex(登録商標)100xMAP(商標)装置で読み取られ、12個の小さなヌクレオチド変種のそれぞれについて、および(存在すれば)重複および欠失アンプリマーについても、シグナルが産生される。その後、これらの蛍光値を解析して、12個の小さなヌクレオチド変種のそれぞれについて、野生型/変異型対立遺伝子が検出されたかどうか、または試料が欠失または重複を有する対立遺伝子を保有するかどうかを判定する。
【0086】
実施例2:CYP2D6をコードする遺伝子における変異の検出
1)オリゴヌクレオチド
全てのオリゴヌクレオチドは、Integrated DNA Technologies(Coralville, IA)によって合成された。PCRプライマーは無修飾であり、標準的な脱塩手順により精製した。カルボキシル化ミクロスフェアと連結するために、ユニバーサルアンチタグ(プローブ)を3'-C7アミノ修飾した。全てのアンチタグを逆相HPLC精製した。対立遺伝子特異的配列に対して5'側に24merのユニバーサルタグ配列からなるキメラASPEプライマーもまた無修飾であったが、ポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製した。再構成の後、供給業者により提供された吸光係数を用いて、正確なオリゴ濃度を分光測定で決定した。再構成されたオリゴを200 nmから500 nmの間でスキャンし、260 nmにおいて吸光度を測定してオリゴ濃度を計算した。
【0087】
2)試薬
Expand Long Template PCRシステムはRoche Diagnostics(Indianapolis IN)から購入した。Platinum Tsp DNAポリメラーゼ、個々のdNTP、およびビオチン-dCTPは、Invitrogen Corporation(Carlsbad, CA)から購入した。シュリンプアルカリフォスファターゼおよびエキソヌクレアーゼIは、USB Corporation(Cleveland, OH)から購入した。カルボキシル化蛍光ミクロスフェアは、Luminex Corporation(Austin, TX)により提供された。EDCクロスリンカー(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩)は、Pierce(Rockford, IL)から購入した。MES(2-(N-モルフォリーノ)エタンスルホン酸)、10% SDS、NaCl、Tris、Triton X-100、Tween-20、およびTE緩衝液を含むOmniPur試薬は、EM Science(Darmstadt, Germany)から購入した。ストレプトアビジン-接合フィコエリスリンは、Molecular Probes Inc.(Eugene, OR)から入手した。
【0088】
3)遺伝子型解析
a)多重PCR(ふたつの2重):
各PCRを、ゲノムDNA 25 ngを用いて最終容積10 μl中で実行した。「無標的」PCRネガティブ対照を、各アッセイの実行に含んだ。反応は、0.45 umol/Lから1 umol/Lの範囲のプライマーと共に、1x Expand Long緩衝液2、200 umol/Lの各dNTP、Expand Long酵素ミックス(Roche)0.75ユニットから成った。MJ Research PTC-200 thermocycler(Waterdown MA)中で、95℃で3分間に続いて、95℃で60秒間、66℃で30秒間、および72℃で3分間を35サイクルというサイクルパラメータ設定で、試料をサイクルさせた。その後、試料を72℃で5分間保持し、使用まで4℃で保管した。PCRの完了の後、AおよびBの反応物をプールした。
【0089】
b)対立遺伝子特異的プライマー伸長:
ASPE反応に先立って、プライマー伸長反応の間にビオチン-dCTPを効率的に取り込むことができるように、各プールPCR反応混合物をシュリンプアルカリフォスファターゼ(SAP)で処理し、いかなる残存ヌクレオチド(特にdCTP)も不活性化した。また、タグ付きASPEプライマーおよび伸長反応自体へのいかなる干渉も回避するために、各PCR反応をエキソヌクレアーゼI(EXO)で処理し、残存PCRプライマーを分解した。各プール試料(20μL)に対して、SAP 2μL(=2ユニット)およびEXO 0.5μL(=5ユニット)を直接試料に加えた。その後、試料を37℃で30分間インキュベートし、続いて酵素を不活性化するため99℃で15分間インキュベートした。その後、試料を直接ASPE反応に加えた。
【0090】
処理されたPCR産物の5μLを用いて、最終容量20μL中で多重ASPEを実行した。各反応は、20 mmol/L Tris-HCl pH8.4、50 mmol/L KCl、1.25 mmol/L MgCl2、5 umol/L ビオチン-dCTP、それぞれ5 umol/L のdATP、dGTP、およびdTTP、1.5ユニット Platinum Tsp DNAポリメラーゼ、および2.5 nmol/L ASPEプライマープールからなった。ASPE反応物を96℃で2分間インキュベートし、その後94℃で30秒間、54℃で30秒間、および74℃で60秒間の40サイクルに供した。その後、反応物を使用まで4℃で保持した。
【0091】
c)ビーズの連結:
Luminex's 1工程カルボジイミド連結手順の後、アミノ修飾アンチタグ配列をカルボキシル化ミクロスフェアに連結した。簡潔に、最終容量50 μL の0.1 mol/L MES, pH4.5中で、5×106個のミクロスフェアを1 nmol NH2-オリゴに結合させた。使用直前に10 mg/mL EDC作業溶液を調製し、2.5 μLをビーズ混合物に添加し30分間インキュベートした。新鮮に調製されたEDCのもう一つの2.5μL分割量を添加し、その後さらに30分間インキュベートした。0.02%(v/v)Tween-20および0.1%(w/v)SDS中で洗浄後、アンチタグ連結ビーズをTE緩衝液(10 mmol/L Tris, pH8.0、1 mmol/L EDTA)100uL中に再懸濁した。ビーズ濃度を、Beckman Coulter Z2 粒子計算およびサイズ解析装置(Coulter Corp, Miami FL)を用いて決定した。
【0092】
d)ユニバーサルアレイハイブリダイゼーション:
26アンチタグを有するビーズ集団のそれぞれ約2500ビーズを用いて、各ハイブリダイゼーション反応を実行した。ビーズをハイブリダイゼーション緩衝液(0.22 mol/L NaCl、0.11 mol/L Tris, pH 8.0、および0.088%(v/v)Triton X-100)中で結合させ、混合物の45μLをMJ Research 96-ウェルプレート(Waterdown MA)の各ウェルに添加した。その後、各ASPE反応物の5μL分割量を各ウェルに直接添加した。その後、MJ Research PTC-200中で試料を96℃で1分間熱し、次に37℃で1時間インキュベートした。このインキュベーションの後、試料を1.2 umのDurapore膜(Millipore Corp, Bedford, MA)を貫通濾過させ、洗浄緩衝液(0.2 mol/L NaCl、0.1 mol/L Tris, pH8.0および0.08%(v/v)Triton X-100)を用いて1回洗浄した。その後、ビーズをレポーター溶液(洗浄緩衝液中に1 ug/mL ストレプトアビジン接合フィコエリスリン)150μL中に再懸濁し、室温で15分間インキュベートした。反応物をLuminex xMAPで読み取った。ビーズ集団および100μL試料容量当たり100事象を測定するように収集パラメータを設定した。ゲート設定を、試料を流す前に確立し、研究経過中の全期間を通じて維持した。
【0093】
本発明のキットを用いて得られた代表的な結果を図3から図7に提示している。小さなヌクレオチド変種についてWT(暗棒)および変異体(明棒)対立遺伝子比率を示し、欠失および重複について中央値蛍光強度を示す。図3は、試験した全ての対立遺伝子に関してWTである個体について得られた結果を示している。図4は2549A>del(*3)変種について、個別の変異体から得られた結果を示している。図5は、三つの変種についての個別のヘテロ接合体からの結果を示している;100C>Tおよび1846G>A変種は両方とも*4対立遺伝子中に見出される。図6および図7は、それぞれ遺伝子欠失または重複を伴う個体に認められた統計データを示している。
【0094】
全ての刊行物、特許、および特許出願は、各個別の刊行物、特許、または特許出願が参照により全体として組み入れられることを、具体的かつ個別に示された場合と同程度に、参照により全体として本明細書に組み入れられる。
【0095】
ある具体的な態様に関連して本発明を記載してきたが、その様々な改変は、本明細書に添付された特許請求項の範囲の中で概説したとおり、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、当業者にとって明らかであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
発明の好ましい態様のこれらおよび他の特徴は、以下の添付図面を参照とする、次の詳細な説明においてより明らかになると考えられる。
【図1】CYP2D6遺伝子の配置を表す。
【図2】本発明の工程の全般的概要を表す。
【図3】本発明の方法を用いて得られた遺伝子型解析の結果を示す。
【図4】本発明の方法を用いて得られた遺伝子型解析の結果を示す。
【図5】本発明の方法を用いて得られた遺伝子型解析の結果を示す。
【図6】本発明の方法を用いて得られた遺伝子型解析の結果を示す。
【図7】本発明の方法を用いて得られた遺伝子型解析の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チトクロムP450-2D6をコードする遺伝子中の多型部位において、表1に記載された変種の群より選択されるヌクレオチド変種の存在または非存在を検出するための方法であって、以下の工程を含む方法:
a)変種を含むDNAの領域を増幅して、増幅DNA産物を形成する工程;
b)少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーを増幅DNA産物中の相補的な標的配列にハイブリダイズする工程であって、各タグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーは、増幅DNAにハイブリダイズすることが可能な3'端ハイブリダイズ部分を有し、かつ少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーの3'端ハイブリダイズ部分は、SEQ ID NO:10〜SEQ ID NO:35の塩基25以上からなる群より選択される配列、および対応するプローブ配列に相補的な5'端タグ部分を含み、3'端ハイブリダイズ部分の末端ヌクレオチドは疑わしい変種ヌクレオチドまたは部位の対応する野生型ヌクレオチドのいずれかに相補的である、工程;
c)3'端ハイブリダイズ部分の末端ヌクレオチドが、増幅DNA産物中の多型部位の一つの対立遺伝子に完全マッチしている場合に、少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーを、標識ヌクレオチドを用いて伸長する工程;
d)少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーを対応するプローブ配列にハイブリダイズし、標識伸長産物の存在を検出する工程。
【請求項2】
少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーの5'端タグ部分が、SEQ ID NO:10〜SEQ ID NO:35の塩基1から24からなる群より選択される配列を含む、請求項2記載の方法。
【請求項3】
プローブ配列が固体支持体に連結している、請求項1記載の方法。
【請求項4】
固体支持体が、ビーズ、スペクトルコード化ビーズ、およびチップに基づくマイクロアレイからなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
増幅する工程が、以下からなる対の群より選択されるPCRプライマーの少なくとも二つの対を含むPCR増幅プライマーのセットを用いて、PCRによって実施される、請求項1記載の方法:
SEQ ID NO:2 およびSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4および SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6およびSEQ ID NO:7、ならびにSEQ ID NO:8 およびSEQ ID NO:9。
【請求項6】
チトクロムP450-2D6をコードする遺伝子中の多型部位において、表1に記載された変種の群より選択されるヌクレオチド変種の存在または非存在を検出するための方法であって、以下の工程を含む方法;
a)変種を含むDNAの領域を増幅して、増幅DNA産物を形成する工程;
b)SEQ ID NO:10〜SEQ ID NO:35からなる群より選択される少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーを、増幅DNA産物中の相補的な標的配列にハイブリダイズする工程であって、各タグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーは、増幅DNAにハイブリダイズすることが可能な3'端ハイブリダイズ部分および対応するプローブ配列に相補的な5'端タグ部分を有し、3'端ハイブリダイズ部分の末端ヌクレオチドは、疑わしい変種ヌクレオチドまたは部位の対応する野生型ヌクレオチドのいずれかに相補的である、工程;
c)3'端ハイブリダイズ部分の末端ヌクレオチドが、増幅DNA産物中の多型部位の一つの対立遺伝子に完全マッチしている場合に、少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーを、標識ヌクレオチドを用いて伸長する工程;
d)少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーを対応するプローブ配列にハイブリダイズし、標識伸長産物の存在を検出する工程。
【請求項7】
プローブ配列が固体支持体に連結している、請求項6記載の方法。
【請求項8】
固体支持体が、ビーズ、スペクトルコード化ビーズ、およびチップに基づくマイクロアレイからなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
増幅する工程が、以下からなる対の群より選択されるPCRプライマーの少なくとも二つの対を含むPCR増幅プライマーのセットを用いて、PCRにより実施される、請求項6記載の方法:
SEQ ID NO:2 およびSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4および SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6およびSEQ ID NO:7、ならびにSEQ ID NO:8 およびSEQ ID NO:9。
【請求項10】
チトクロムP450-2D6をコードする遺伝子中の多型部位において、表1に記載された変種の群より選択されるヌクレオチド変種の存在または非存在を検出するためのキットであって、キットは少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーを含み、各タグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーは、疑わしい変種ヌクレオチドまたは多型部位の一つの対応する野生型ヌクレオチドのいずれかに相補的な3'末端ヌクレオチドを含む3'端ハイブリダイズ部分、および対応するプローブ配列に相補的な5'端タグ部分を有し、かつ少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーは、SEQ ID NO:10〜SEQ ID NO:35からなる群より選択される、キット。
【請求項11】
多型部位を含むDNAの領域を増幅するための、以下からなる対の群より選択されるPCRプライマーの少なくとも二つの対を含むPCR増幅プライマーのセットをさらに含む、請求項10記載のキット:
SEQ ID NO:2 およびSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4および SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6およびSEQ ID NO:7、ならびにSEQ ID NO:8 およびSEQ ID NO:9。
【請求項12】
プローブのセットをさらに含む、請求項10記載のキット。
【請求項13】
プローブのセットが支持体に連結している、請求項12記載のキット。
【請求項14】
チトクロムP450-2D6をコードする遺伝子中の多型部位において、表1に記載された変種の群より選択されるヌクレオチド変種の存在または非存在を検出するためのキットであって、少なくとも二つの多型部位を含むDNAの領域を増幅するための、以下からなる対の群より選択されるPCRプライマーの少なくとも二つの対を含むPCR増幅プライマーのセットを含む、キット:
SEQ ID NO:2 およびSEQ ID NO:3、SEQ ID NO:4および SEQ ID NO:5、SEQ ID NO:6およびSEQ ID NO:7、ならびにSEQ ID NO:8 およびSEQ ID NO:9。
【請求項15】
少なくとも二つのタグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーのセットをさらに含む、請求項14記載のキットであって、各タグ付き対立遺伝子特異的伸長プライマーは、増幅DNAにハイブリダイズすることが可能な3'端ハイブリダイズ部分、対応するプローブ配列に相補的な5'端タグ部分を有し、3'端ハイブリダイズ部分の末端ヌクレオチドは疑わしい変種ヌクレオチドまたは多型部位の対応する野生型ヌクレオチドのいずれかに相補的である、キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−504826(P2008−504826A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−519575(P2007−519575)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【国際出願番号】PCT/CA2005/001000
【国際公開番号】WO2006/002526
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(507004945)ティーエム バイオサイエンス ピージーエクス インコーポレイティッド (3)
【Fターム(参考)】