説明

チョッパ装置

【課題】制御における応答性の向上と、スイッチング素子のエネルギー損失および発熱の抑制を両立させたチョッパ装置を提供する。
【解決手段】チョッパ部5,6を複数個直列に接続し、前記複数のチョッパ部5,6のうち少なくとも一つを、その他のチョッパ部5と比較して高いキャリア周波数に設定した高キャリア周波数チョッパ部6とし、この高キャリア周波数チョッパ部6の制御周期を短く設定する。また、前記その他のチョッパ部5により、前記チョッパ装置の電圧指令値となる電圧を出力する。そして、前記高キャリア周波数チョッパ部6により、前記電圧指令値と前記チョッパ装置の出力電圧検出値との偏差電圧を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はチョッパ装置に係り、特に出力電圧を高精度に制御するチョッパ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、チョッパ装置において、制御における応答性の向上が要求されている。チョッパ装置に高い応答性を得る手法としては、指令に応じた周波数の正弦波信号と比較する三角波キャリア信号の周波数(すなわち、キャリア周波数)を高く設定する方法が知られている。
【0003】
しかしながら、キャリア周波数を高く設定することにより、スイッチング素子でのエネルギー損失や発熱が上昇する等の問題がある。キャリア周波数の上限は、主回路定数と素子特性により定まる。
【0004】
なお、インバータにおいては、負荷状態に応じてキャリア周波数を切り換えることにより、上記の問題を解決した装置が特許文献1に開示されている。
【0005】
また、チョッパ装置においても、負荷状態に応じてキャリア周波数を切り換える方法が特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−217776号公報(段落[0024]〜[0033],第1図)
【特許文献2】特開2006−158109号公報(段落[0008]〜[0018],第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1,2に示すような負荷状態に応じたキャリア周波数の切替では、キャリア周波数を高く設定して制御における応答性を向上させるか、キャリア周波数を低く設定してスイッチング素子のエネルギー損失および発熱を抑制するか、のどちらか一方を優先させることはできるが、制御における応答性の向上と、スイッチング素子のエネルギー損失および発熱の抑制を、同時に両立することはできなかった。
【0008】
以上示したようなことから、制御における応答性の向上と、スイッチング素子のエネルギー損失および発熱の抑制を両立させたチョッパ装置を提供することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、スイッチング素子をオンオフ制御することにより、直流電圧を降圧または昇圧して負荷に供給するチョッパ部と、前記スイッチング素子にゲート信号を出力する制御部と、を備えたチョッパ装置であって、前記チョッパ部は、複数個が直列に接続され、前記制御部は、前記複数のチョッパ部のうち少なくとも一つを、その他のチョッパ部と比較して高いキャリア周波数に設定した高キャリア周波数チョッパ部とし、この高キャリア周波数チョッパ部の制御周期を短く設定し、前記その他のチョッパ部により、前記チョッパ装置の電圧指令値となる電圧を出力し、前記高キャリア周波数チョッパ部により、前記電圧指令値と前記チョッパ装置の出力電圧検出値との偏差電圧を出力することを特徴とする。
【0010】
また、その他の態様は、前記チョッパ部は、2つ直列に接続され、前記制御部は、前記2つのチョッパ部にそれぞれ異なるキャリア周波数を設定し、他方のチョッパ部と比較して低いキャリア周波数が設定された低キャリア周波数チョッパ部のスイッチング素子を、前記電圧指令値と低キャリア周波数チョッパ部の出力電圧検出値との偏差に基づいて電圧制御し、前記低キャリア周波数チョッパ部と比較して高いキャリア周波数が設定された高キャリア周波数チョッパ部のスイッチング素子を、前記電圧指令値と前記出力電圧検出値との偏差に基づいて電圧制御することを特徴とする。
【0011】
また、前記制御部は、前記電圧指令値と低キャリア周波数チョッパ部の出力電圧検出値との偏差に基づいて電圧制御を行い、第1電流指令値を出力する第1電圧制御部と、前記第1電流指令値と低キャリア周波数チョッパ部の電流検出値との偏差に基づいて電流制御を行う第1電流制御部と、他方と比較して低いキャリア周波数が設定されたキャリア信号と前記第1電流制御部の出力とを比較し、第1ゲート信号を出力する第1PWM信号生成部と、前記電圧指令値と前記出力電圧検出値との偏差に基づいて電圧制御を行い、第2電流指令値を出力する第2電圧制御部と、前記第2電流指令値と高キャリア周波数チョッパ部の電流検出値との偏差に基づいて電流制御を行う第2電流制御部と、他方と比較して高いキャリア周波数が設定されたキャリア信号と前記第2電流制御部の出力とを比較し、第2ゲート信号を出力する第2PWM信号生成部と、を備えた構成としても良い。
【0012】
また、前記チョッパ部は、直流電源と、前記直流電源に対して、直列接続された2つのスイッチング素子と、前記スイッチング素子のそれぞれに逆並列に接続された2つのダイオードと、前記2つのスイッチング素子の中間接続点に一端が接続されたリアクトルと、前記リアクトルの他端と一方のスイッチング素子との間に介挿されたコンデンサと、をそれぞれ備えた構成としても良い。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、制御における応答性の向上と、スイッチング素子のエネルギー損失および発熱の抑制を両立したチョッパ装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施形態におけるチョッパ装置の主回路の構成図である。
【図2】実施形態におけるチョッパ装置の制御部の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[実施形態]
本実施形態におけるチョッパ装置を図1,図2に基づいて説明する。図1は、チョッパ装置の主回路を示し、図2はチョッパ装置1の制御部を示す。
【0016】
本実施形態におけるチョッパ装置の主回路は、図1に示すように、低キャリア周波数チョッパ部5,高キャリア周波数チョッパ部6が直列に接続されている。前記低キャリア周波数チョッパ部5は、スイッチングモジュール1と、直流電源3と、リアクトルDCL1と、コンデンサC1と、を備えている。
【0017】
前記スイッチングモジュール1は、スイッチング素子S1,S2および、そのスイッチング素子S1,S2に逆並列に接続されたダイオードD1,D2を備えている。
【0018】
前記低キャリア周波数チョッパ部5は、スイッチング素子S1とスイッチング素子S2およびダイオードD1とダイオードD2とをそれぞれ直列接続して各両端同士および各中間接続点同士を共通接続し、かつ、中間接続点にリアクトルDCL1の一端を接続したものである。そして、リアクトルDCL1の他端とスイッチング素子S2との間にコンデンサC1を介挿する。
【0019】
なお、図1に示したスイッチング素子S1,S2はIGBTであるが、これはIGBTに限定されるものではなく、IGBTやGTO等の自己消弧形スイッチングデバイスであれば良い。
【0020】
また、高キャリア周波数チョッパ部6も低キャリア周波数チョッパ部5と同様に、スイッチングモジュール2と、直流電源4と、リアクトルDCL2と、コンデンサC2と、を備えている。また、スイッチングモジュール2は、スイッチング素子S3,S4と、そのスイッチング素子S3,S4に逆並列に接続されたダイオードD3,D4を備えている(図示省略)。
【0021】
上記のように構成されたチョッパ装置において、スイッチング素子S1,S3をオンオフ制御することにより、直流電源3,4の直流電圧をスイッチング素子S1,S3において降圧し、リアクトルDCL1,DCL2を介してコンデンサC1,C2に充電する。
【0022】
ここで、スイッチング素子S1,S3をオンすると、低キャリア周波数チョッパ部電流I1,高キャリア周波数チョッパ部電流I2がスイッチング素子S1,S3→リアクトルDCL1,DCL2→コンデンサC1,C2の経路で流れ、コンデンサC1,C2を充電する。
【0023】
次に、スイッチング素子S1,S3をオフすると、リアクトルDCLの蓄積エネルギーとして流れていた低キャリア周波数チョッパ部電流I1,高キャリア周波数チョッパ部電流I2は、コンデンサC1,C2→ダイオードD2,D4→リアクトルDCL1,DCL2の経路で循環電流として流れ、リアクトルDCL1,DCL2の残留エネルギーをコンデンサC1,C2に充電する。
【0024】
また、スイッチング素子S2,S4をオンオフ制御することにより、コンデンサC1,C2の電流を放電し、直流電源3,4に回生する。
【0025】
まず、スイッチング素子S2,S4をオンすることによって、コンデンサC1,C2の電流はリアクトルDCL1,DCL2およびスイッチング素子S2,S4を介して放電し、この時のエネルギーがDCL1,DCL2に蓄積される。
【0026】
次に、スイッチング素子S2,S4をオフにすると、リアクトルDCL1,DCL2には逆起電力による電圧が発生し、コンデンサC1,C2の電圧とリアクトルDCL1,DCL2の逆起電力による電圧が加算されてダイオードD1,D3を介して直流電源3,4に回生し、昇圧チョッパの動作を行う。
【0027】
ここで、図2に基づき、本実施形態におけるチョッパ装置の制御部10について説明する。この制御部10における信号処理は、コンピュータを利用したディジタル処理で行われる。
【0028】
本実施形態におけるチョッパ装置の制御部10は、第1電圧制御器11,第2電圧制御器12と、第1電流制御器13,第2電流制御器14と、第1PWM信号生成部15,第2PWM信号生成部16と、キャリア生成部17,18と、を備える。
【0029】
まず、第1電圧制御器(AVR:Automatic Voltage Regurator)11は、電圧指令値Vref*と低キャリア周波数チョッパ部5の出力電圧検出値V1との偏差が、下記(1)式となるように、電圧制御を行う。この第1電圧制御器11の出力は第1電流指令値I1ref*となる。
【0030】
【数1】

【0031】
次に、前記第1電流指令値I1ref*と低キャリア周波数チョッパ部5の電流検出値I1を第1電流制御器13(ACR:Automatic current Regurator)に入力し、その偏差に基づきスイッチングモジュール1から出力される電流I1が電流指令値I1ref*となるように制御する。
【0032】
第1PWM(Pulse Width Modulation)信号生成部15は、キャリア生成部17で生成された周波数F1の三角波キャリア信号と第1電流制御器13の出力とを比較してPWM波形を生成し、スイッチングモジュール1(スイッチング素子S1,S2)に出力する第1ゲート信号G1を生成する。
【0033】
第2電圧制御器12は、電圧指令値Vref*と負荷7の両端電圧となるチョッパ装置1の出力電圧検出値Voutの偏差が、下記(2)式となるように、電圧制御を行う。この第2電圧制御器12の出力は第2電流指令値I2ref*となる。
【0034】
【数2】

【0035】
次に、前記第2電流指令値I2ref*と、高キャリア周波数チョッパ部6の電流検出値I2を第2電流制御器14に入力し、その偏差に基づきスイッチングモジュール2から出力される電流I2が第2電流指令値I2ref*となるように制御する。
【0036】
第2PWM信号生成部16は、キャリア生成部18で生成された周波数F2の三角波キャリア信号と第2電流制御器14の出力とを比較してPWM波形を生成し、スイッチングモジュール2(スイッチング素子S3,S4)に出力するゲート信号G2を生成する。
【0037】
ここで、キャリア生成部17,18において生成されるキャリア周波数F1,F2は、F1<F2という関係になるように設定する。また、第1電圧制御器11,第1電流制御器13はキャリア周波数F1に、第2電圧制御器12,第2電流制御器14はキャリア周波数F2に、同期する制御周期で制御する。
【0038】
これにより、スイッチングモジュール2はスイッチングモジュール1よりキャリア周期,制御周期ともに短くなり、高応答の制御性能が得られる。
【0039】
ここで、スイッチングモジュール2の出力電圧をV2とすると、下記(3)式が成り立つ。
【0040】
【数3】

【0041】
前記(2),(3)式より、下記(4)式が成り立つ。
【0042】
【数4】

【0043】
また、前記(1)式,(4)式から、下記(5)式となる。
【0044】
【数5】

【0045】
よって、下記(6)式となる。
【0046】
【数6】

【0047】
この(6)式に示すように、電圧指令値Vref*と低キャリア周波数チョッパ部5の出力電圧検出値V1との偏差が小さくなるようにスイッチングモジュール1を制御することにより、負荷7で必要とされる電力の大部分をスイッチングモジュール1(スイッチング素子S1,S2)により供給することができる。その結果、スイッチングモジュール2(スイッチング素子S3,S4)には小容量の電力しか通過しないため、発熱およびスイッチング損失等の影響が少なく、キャリア周波数F2を高速化することができる。
【0048】
すなわち、本実施形態のチョッパ装置は、キャリア周波数の低いスイッチングモジュール1(低キャリア周波数チョッパ部5)により、チョッパ装置1の電圧指令値となる電圧を出力し、キャリア周波数の高いスイッチングモジュール2(高キャリア周波数チョッパ部6)により、チョッパ装置1の電圧指令値とチョッパ装置1の出力電圧検出値との偏差電圧を出力し、電圧制御における応答性向上のための補償を行うものである。
【0049】
以上より、本実施形態のチョッパ装置によれば、スイッチング素子の発熱およびスイッチング損失を抑制する共に、キャリア周波数を上昇させ、電圧制御における応答性の向上を図ることが可能となる。
【0050】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0051】
例えば、本実施形態では、低キャリア周波数チョッパ部5,高キャリア周波数チョッパ部6に2象限の可逆チョッパを適用したが、低キャリア周波数チョッパ部5,高キャリア周波数チョッパ部6はそれに限られるものではなく、その他の構成でも良い。
【符号の説明】
【0052】
1,2…スイッチングモジュール
3,4…直流電源
5…低キャリア周波数チョッパ部
6…高キャリア周波数チョッパ部
7…負荷
10…制御部
11,12…第1,第2電圧制御部(AVR)
13,14…第1,第2電流制御部(ACR)
15,16…第1,第2PWM信号生成部
17,18…キャリア生成部
S1〜S4…スイッチング素子
D1〜D4…ダイオード
DCL1,DCL2…リアクトル
C1,C2…コンデンサ
1…低キャリア周波数チョッパ部の出力電圧検出値
2…高キャリア周波数チョッパ部の出力電圧検出値
out…負荷電圧検出値
1…低キャリア周波数チョッパ部の電流検出値
2…高キャリア周波数チョッパ部の電流検出値
ref*…電圧指令値
1,G2…第1,第2ゲート信号
1,F2…キャリア周波数
1ref*,I2ref*…第1,第2電流指令値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチング素子をオンオフ制御することにより、直流電圧を降圧または昇圧して負荷に供給するチョッパ部と、
前記スイッチング素子にゲート信号を出力する制御部と、を備えたチョッパ装置であって、
前記チョッパ部は、複数個が直列に接続され、
前記制御部は、前記複数のチョッパ部のうち少なくとも一つを、その他のチョッパ部と比較して高いキャリア周波数に設定した高キャリア周波数チョッパ部とし、この高キャリア周波数チョッパ部の制御周期を短く設定し、
前記その他のチョッパ部により、前記チョッパ装置の電圧指令値となる電圧を出力し、
前記高キャリア周波数チョッパ部により、前記電圧指令値と前記チョッパ装置の出力電圧検出値との偏差電圧を出力することを特徴とするチョッパ装置。
【請求項2】
前記チョッパ部は、2つ直列に接続され、
前記制御部は、
前記2つのチョッパ部にそれぞれ異なるキャリア周波数を設定し、他方のチョッパ部と比較して低いキャリア周波数が設定された低キャリア周波数チョッパ部のスイッチング素子を、前記電圧指令値と低キャリア周波数チョッパ部の出力電圧検出値との偏差に基づいて電圧制御し、前記低キャリア周波数チョッパ部と比較して高いキャリア周波数が設定された高キャリア周波数チョッパ部のスイッチング素子を、前記電圧指令値と前記出力電圧検出値との偏差に基づいて電圧制御することを特徴とする請求項1記載のチョッパ装置。
【請求項3】
前記制御部は、
前記電圧指令値と低キャリア周波数チョッパ部の出力電圧検出値との偏差に基づいて電圧制御を行い、第1電流指令値を出力する第1電圧制御部と、
前記第1電流指令値と低キャリア周波数チョッパ部の電流検出値との偏差に基づいて電流制御を行う第1電流制御部と、
他方と比較して低いキャリア周波数が設定されたキャリア信号と前記第1電流制御部の出力とを比較し、第1ゲート信号を出力する第1PWM信号生成部と、
前記電圧指令値と前記出力電圧検出値との偏差に基づいて電圧制御を行い、第2電流指令値を出力する第2電圧制御部と、
前記第2電流指令値と高キャリア周波数チョッパ部の電流検出値との偏差に基づいて電流制御を行う第2電流制御部と、
他方と比較して高いキャリア周波数が設定されたキャリア信号と前記第2電流制御部の出力とを比較し、第2ゲート信号を出力する第2PWM信号生成部と、を備えたことを特徴とする請求項2記載のチョッパ装置。
【請求項4】
前記チョッパ部は、
直流電源と、
前記直流電源に対して、直列接続された2つのスイッチング素子と、
前記スイッチング素子のそれぞれに逆並列に接続された2つのダイオードと、
前記2つのスイッチング素子の中間接続点に一端が接続されたリアクトルと、
前記リアクトルの他端と一方のスイッチング素子との間に介挿されたコンデンサと、をそれぞれ備えたことを特徴とする請求項1〜3のうち何れか1項に記載のチョッパ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−157153(P2012−157153A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−13812(P2011−13812)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】