説明

チーズ食感の大豆加工食品及びその製造方法

【課題】チーズ食感のある大豆加工食品を提供すること。
【解決手段】豆乳を凝固して豆腐を得る工程、豆腐を崩して遠心脱水する工程、ペースト状に解砕する工程、加熱凝固工程を経ることによって、チーズ食感の大豆加工食品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝固剤以外の添加物を使用することなく、これまでにないチーズ食感を有する大豆加工食品を製造する方法及び得られたチーズ食感の大豆加工食品並びに該チーズ食感の大豆加工食品を使用した食品に関する。
本発明では、「チーズ食感」とは、乳由来と同様にある程度の歯ごたえはあるが、なめらかさのある食感を言う。
【背景技術】
【0002】
従来、チーズ食感を有する大豆加工食品の代表的な製造方法としては、大豆加工食品由来の原料に対してチーズを作成するときに使用する微生物や酵素等を添加する方法が用いられている。
原料として、にがり等の凝固剤を用いて凝固した豆腐を崩したものを使用する場合、凝固剤のみでは、凝固が難しいので、特定の添加物を添加するなど凝固に工夫を凝らす技術が知られている。
例えば、チーズ製造工程途中の凝乳と乳清の半製品を加温したものに、ゲル化剤含有の豆乳を加えた混合体を凝固させるチーズ食感の豆腐の製造方法(特開2006−000007)、豆乳の凝固反応終了後に麹菌や酵素を添加し、大豆タンパク質を分解させ、チーズ食感の豆腐を作成する方法(特開2004−141129号公報)、大豆に担子菌の菌糸体を摂取して発酵させた後、得られた発酵物をホモジナイズする大豆加工食材の製造方法(特開2007−37527号公報)、蒸した豆腐、塩、食用油及び酢を加えたものを混練し、ペースト状にした後、急速冷却した大豆加工食品の製造方法(特開2004−283172号公報)、豆乳類にイモ由来の増粘性処理剤等を混合して凝固させる大豆成分含有食品(WO2004/098315号公報)、豆腐をカッター等で解砕してペースト化した後、トランスグルタミナーゼを加えて再生させる再生豆腐の製造方法(特開2004−222618号公報)などである。
しかしながら、上記従来法で得られた製品は、いずれも麹菌等の微生物や酵素等の添加物あるいは増粘剤等を加えることによって大豆由来の加工食品に対して乳由来のチーズの有するチーズ食感を与えるということから、製造時の条件調整が難しい上に、困難な凝固工程のために本来、添加が不適当な添加物まで添加しなければならないなどの安全性、経済性の面で問題があった。
【0003】
【特許文献1】特開2006−000007号公報
【特許文献2】特開2004−141129号公報
【特許文献3】特開2007−037527号公報
【特許文献4】特開2004−283172号公報
【特許文献5】国際公開WO2004/098315号パンフレット
【特許文献6】特開2004−222618号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、凝固剤以外の添加物、特に微生物やその他添加物を使用することなく、凝固剤のみの使用によってこれまでにないチーズ食感を有する大豆加工食品を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決すべく、本発明の発明者らが、鋭意検討を重ねた結果、以下に示すような方法によってチーズ食感を有する大豆加工食品を製造する発明に至った。
本発明の基本的な構成は以下のとおりである。
(1)豆乳を凝固して豆腐を得る工程、豆腐を崩して遠心脱水する工程、ペースト状に解砕する工程、加熱凝固工程からなるチーズ食感の大豆加工食品の製造方法。
(2)遠心脱水の遠心力が50G〜250Gで離水しなくなるまで脱水したことを特徴とする(1)に記載のチーズ食感の大豆加工食品の製造方法。
(3)水分が60〜80%であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のチーズ食感の大豆加工食品の製造方法。
(4)上記(1)〜(3)に記載のいずれかの製造方法によって製造したことを特徴とするチーズ食感の大豆加工食品。
(5)上記(4)に記載のチーズ食感の大豆加工食品を使用した食品。
【0006】
本発明では、上記のように、豆乳を凝固して豆腐を得る工程、豆腐を崩して遠心脱水する工程、ペースト状に解砕する工程、加熱凝固工程からなるチーズ食感の大豆加工食品の製造方法を基本構成とするものである。
先ず、第一の豆腐を得る工程は、通常の豆乳を作成し通常の豆腐の製造方法をそのまま採用する。
すなわち、大豆を水洗し、夾雑物や塵、ゴミを除去した後、水に浸漬し、磨砕する。水浸漬は、夏期であれば、15〜20℃で8〜16時間、冬季であれば、10〜15℃で12〜16時間程度である。大豆重量は、浸漬前の2.2〜2.3倍程度になる。磨砕は、通常のグラインダーを使用して行う。
【0007】
次に上記の磨砕工程で得られた磨砕物を95〜105℃で加熱する。このとき、シリコーン樹脂や脂肪酸モノグリセリド等の消泡剤を加えると、発生した泡を抑制できるが、これら添加物を添加しなくても良い発泡抑制できる煮釜を用いるのが好ましい。
次いで、濾過装置を使用して豆乳と固形分(おから)を分離する。分離に用いる濾過装置としては、圧搾機や回転円筒濾過機を使用し、濾過で分離する。得られた豆乳は、大豆の10倍程度(固形分10重量%程度)であり、大豆タンパクは5重量%程度含まれている。
本発明では、一般的な大豆から上記のように得られる加熱抽出豆乳又は未加熱の生搾り豆乳、これらを濃縮した豆乳いずれを用いても良いが、凝固のし易さから考えるとブリックス糖度12%以上の豆乳を使用することが好ましい。
【0008】
本発明の第1凝固工程で使用する凝固剤は、粗製海水塩化マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、グルコデルタラクトン(GDL)、もしくはこれらを混合した複合凝固剤等、通常に使用される凝固剤であれば粉末及び液状でも良い。豆乳への添加量も常法の範囲でよく、また、従来の絹ごし豆腐、木綿豆腐、充填豆腐等の凝固方法で作られた豆腐を用いればよい。
【0009】
次に、豆腐を崩して、脱水し、固液を分離後の第2凝固工程を説明する。
本発明における豆腐を崩す工程は、通常の豆腐製造時の機械を使用しての粉砕で十分である。
次いで豆腐磨砕物を脱水する工程としては、圧搾脱水等があるが、圧搾脱水の場合、脱水に時間を要し、かつ布に付着しやすく、歩留まりが低下し、均一に豆腐の水分が脱水できず、離水が生じやすいため、遠心分離による脱水がよい。
このときの遠心脱水は、遠心力が50G〜250G程度で、固形分に含まれる水分は、60〜80%であることが望ましい。
また、解砕工程は、フードプロセッサーやミキサー等、結果的にペースト状に出来るものであればよい。加熱工程は、スチーム加熱等適宜の手段を講じればよい。
第2凝固工程は、特別の手段を講じることなく、湯中、スチーム加熱等適宜の手段を講じればよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、豆腐の凝固のための凝固剤以外の添加物を使用することなく、第2の凝固を行うという簡便な方法によってこれまでにないチーズ食感を有する大豆加工食品を製造することができる。
得られたチーズ食感のある大豆加工食品は、そのまま、刺身のように箸でつかみ、醤油やダシ等の調味料で喫食可能であり、適宜、野菜等の食材と和えて食品とすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明では、豆乳を凝固して豆腐(第1凝固工程)とし、得られた豆腐を崩して遠心脱水し、固形分をさらに解砕してペースト状とし、得られたペーストをさらに加熱凝固(第2凝固工程)することによって、食感がチーズ食感の大豆加工食品を製造する。
【0012】
本発明において第1凝固工程でのみ用いる凝固剤は、上記のように粗製海水塩化マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、グルコデルタラクトン(GDL)等のように、常法で使用可能な豆腐用凝固剤で豆乳への添加量も通常の豆腐製造法の範囲でよい。
本発明の第1凝固工程における凝固は、電子凝固機、打ち込み等、その手段は限定されることない。
さらに、第1凝固工程によって得られた豆腐を崩した後、脱水するが、豆腐を崩す工程に特徴は無く、汎用の手段を講じればよい。
豆腐を崩した後の脱水のための工程は限定されることはないが、遠心分離が好ましい。遠心脱水は、上述するように遠心力が50G〜250G、好ましくは80G〜200Gの範囲で、離水状態がなくなるまで脱水するが、固形分に含まれる水分は、60〜80%であることが望ましい。
脱水時に用いる遠心力は、遠心分離機の性能及び経済性の面から考えると、現段階では250Gまでが限界とも考えられるが、性能及び経済性を満たせる遠心分離機があれば、250G以上でも製造可能と考えられる。
さらにこれに続く解砕工程は、フードプロセッサーやミキサー等、結果的にペースト状に出来るものであればよい。
さらに、第2凝固工程における加熱は、50〜100℃程度の湯中や50〜400℃程度のスチーム加熱等適宜の手段を講じることによって凝固を達成することができる。
【0013】
本発明では、第1凝固工程における凝固剤に添加物を使用することなく、第2凝固工程も十分に可能という簡便な方法によってこれまでにないチーズ食感を有する大豆加工食品を製造することができる。
なお、本発明では、適宜の工程において、抹茶等の食品素材もしくは、従来の添加物等を添加することによって、これまでにないチーズ食感を有する大豆加工食品を製造することができる。
そして、最終的に第2凝固工程によって得られた大豆加工食品は、そのまま、刺身のように箸でつかみ、醤油やダシ等の調味料で喫食可能であり、適宜、野菜等の食材と和えて食品とすることが可能である。
【0014】
以下に実施例を示し、本発明の効果を具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
〔実施例1〕
常法により国産大豆を熱水抽出し、ブリックス糖度15%の豆乳を得た。次いで、凝固剤(塩化マグネシウム)を豆乳に対して0.2重量%(溶かし水は凝固剤に対し4倍)添加し、55℃で凝固(マルチカーディーS型,(株)高井製作所製)、すぐにスチーム加熱85℃45分し、豆腐を得た。
得られた豆腐を120メッシュの布に流し込み、遠心脱水機(KM−3PDA型,(株)岩月機械製作所製)を用いて遠心力50Gで5分間脱水後、フードプロセッサー(RM4100V型,(株)エフ・エムアイ製)でペースト状にした。
さらに、これを適宜の型に入れ、スチーム加熱85℃30分し、大豆加工食品を得た。
得られた製品の水分測定(常圧加熱乾燥法105℃恒量)及び食感(官能評価),離水性(1時間放置して離水の発生の有無を目視で検査)をテストした結果、水分70%、なめらかなチーズ食感、離水が発生しなかった。
【0015】
〔実施例2〕
常法により国産大豆を熱水抽出し、ブリックス糖度15%の豆乳を得た。次いで、凝固剤(塩化マグネシウム)を豆乳に対して0.2重量%(溶かし水は凝固剤に対し4倍)添加し、55℃で凝固(マルチカーディーS型,(株)高井製作所製)、すぐにスチーム加熱85℃45分し、豆腐を得た。
得られた豆腐を120メッシュの布に流し込み、遠心脱水機(KM−3PDA型,(株)岩月機械製作所製)を用い、遠心力250Gで5分間脱水後、フードプロセッサー(RM4100V型,(株)エフ・エムアイ製)でペースト状にした。
さらに、これを型に入れ、スチーム加熱85℃30分し、大豆加工食品を得た。
水分測定(常圧加熱乾燥法105℃恒量)及び食感(官能評価),離水性(1時間放置して離水の発生の有無を目視で検査)をテストした結果、水分68%、なめらかなチーズ食感、離水が発生しなかった。
なお、本実施例では、用いた遠心力としては、遠心分離機の性能及び経済性の面から考えると、250Gまでが限界であったが、性能及び経済性を満たせる遠心分離機を使用したとすれば、250G以上でも製造可能と推定できた。
【0016】
〔比較例1〕
常法により国産大豆を熱水抽出し、ブリックス糖度15%の豆乳を得た。次いで、凝固剤(塩化マグネシウム)を豆乳に対して0.2重量%(溶かし水は凝固剤に対し4倍)添加し、55℃で凝固(マルチカーディーS型,(株)高井製作所製)、すぐにスチーム加熱85℃45分し、豆腐を得た。
得られた豆腐を120メッシュの布に流し込み、遠心脱水機(KM−3PDA型,(株)岩月機械製作所製)を用い遠心力250Gで5分間脱水後、フードプロセッサー(RM4100V型,(株)エフ・エムアイ製)でペースト状にした。
さらに、これを型に入れ、スチーム加熱85℃30分し、大豆加工食品を得た。
水分測定(常圧加熱乾燥法105℃恒量)及び食感(官能評価),離水性(1時間放置して離水の発生の有無を目視で検査)をテストした結果、水分75%、なめらかなチーズ食感だが、離水が発生した。
【0017】
〔比較例2〕
常法により国産大豆を熱水抽出し、ブリックス糖度10%の豆乳を得た。次いで、凝固剤(塩化マグネシウム)を豆乳に対して0.2重量%(溶かし水は凝固剤に対し4倍)添加し、55℃で凝固(マルチカーディーS型,(株)高井製作所製)、すぐにスチーム加熱85℃45分し、豆腐を得た。
得られた豆腐を120メッシュの布に流し込み、遠心脱水機(KM−3PDA型,(株)岩月機械製作所製)を用い遠心力250Gで30分間脱水後、フードプロセッサー(RM4100V型,(株)エフ・エムアイ製)でペースト状にした。
さらに、これを型に入れ、スチーム加熱85℃30分し、大豆加工食品を得た。
水分測定(常圧加熱乾燥法105℃恒量)及び食感(官能評価),離水性(1時間放置して離水の発生の有無を目視で検査)をテストした結果、水分59%、離水は発生しなかったが、ざらつきがありチーズ食感のものが出来なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
豆乳を凝固して豆腐を得る工程、豆腐を崩して遠心脱水する工程、ペースト状に解砕する工程、加熱凝固工程からなるチーズ食感の大豆加工食品の製造方法。
【請求項2】
遠心脱水の遠心力が50G〜250Gで離水しなくなるまで脱水したことを特徴とする請求項1に記載のチーズ食感の大豆加工食品の製造方法。
【請求項3】
水分が60〜80%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のチーズ食感の大豆加工食品の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3に記載のいずれかの製造方法によって製造したことを特徴とするチーズ食感の大豆加工食品。
【請求項5】
請求項4のチーズ食感の大豆加工食品を使用したことを特徴とする食品。