説明

テアニン含有組成物及びその製造方法

【課題】緑茶抽出物から分離・精製して得られるテアニン含有組成物であって、テアニンを30質量%以上含み、且つカリウム含有量の少ないテアニン含有組成物を提供する。
【解決手段】イヌリナーゼを用いて緑茶抽出液の酵素処理を行って酵素処理済液を得、該酵素処理済液をカラムクロマトグラフィーによってテアニン含有画分とそれ以外の夾雑画分とに分けて当該テアニン含有画分を回収することで、テアニンを30質量%以上含み、且つカリウム含有量の少ないテアニン含有組成物を製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テアニンを30質量%以上含有するテアニン含有組成物、及び、緑茶抽出液から前記テアニン含有組成物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テアニン(L-Theanine)は、アミノ酸の一種でグルタミン酸の誘導体であり、茶の旨味成分の一つとして知られている。また、テアニンには、カフェインによる興奮の抑制作用、血圧降下作用、リラックス作用などの生理活性のほか、脳機能改善作用などの高齢者に特に好ましい生理活性も見出されている(特許文献1−3)。
【0003】
テアニンは、植物の中でも茶(Camellia sinensis 又はThea sinensis)及びそのごく近縁種のみその存在が確認されている。また、茶の中では、新芽を原料とする上級茶や、茶樹の被覆栽培により得られる玉露、碾茶、抹茶などに多くのテアニンが含まれている。
しかし、茶葉中に含まれるテアニン量は、乾燥茶葉の1〜2質量%程度であり、茶ポリフェノール(10〜15質量%)に比べるとかなり少ないため、緑茶抽出物からテアニン含有組成物を分離・精製するためには様々な工夫が必要とされる。
【0004】
例えば特許文献4には、茶抽出液を吸着剤を充填した容器に容積比(茶抽出液/吸着剤)=1.5以下で通液し、前記抽出液中のテアニンを前記吸着剤に吸着させる吸着工程と、前記抽出液の通液終了後、溶出液としての水を前記容器に通液する通液工程と、前記茶抽出液及び/又は前記溶出液としての水を前記容器に通液することにより得られる初期排出画分を、前記吸着剤の容積の0.5〜2倍量で回収して夾雑成分群を除去する除去工程と、前記溶出液としての水の残り排出画分を回収してテアニン含有溶出液を得る回収工程とを有するテアニンの製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献5には、テアニン純度が15%以上からなる茶抽出物を吸着剤を充填した容器に通液速度=3以下の範囲で通液することにより、純度60%以上のテアニンを得ることを特徴とするテアニンの製造法が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平08−73350号の請求項1
【特許文献2】特開2000−229854号の請求項1
【特許文献3】特開2001−48797号の請求項1
【特許文献4】特開2004−010545号の請求項1
【特許文献5】特開2007−8865号の請求項1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、緑茶抽出物からテアニン含有組成物を分離・精製することは容易なことではなく、特にテアニンを30質量%以上含有するテアニン含有組成物を分離・精製することは従来の技術では困難であった。
また、緑茶にはカリウムが含まれているため、緑茶抽出物からテアニン含有組成物を得ようとすると、その中にはカリウムが含まれることになる。しかし、腎機能が正常であれば排泄されるはずのカリウムが、高齢者などのように腎機能が低下していると、適切に排泄されず、不整脈など心臓関連疾患の原因となることがあるため、腎機能が低下した人でも安心して摂取できるように、テアニン含有組成物に関しても、できる限りカリウムを低減することが望まれる。
【0008】
そこで本発明の目的は、緑茶抽出物から分離・精製して得られるテアニン含有組成物であって、テアニンを30質量%以上含み、且つカリウム含有量の少ない、新たなテアニン含有組成物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、従来知られていなかった新たなテアニン含有組成物として、テアニンを30質量%以上含有し、且つ、カリウムを5質量%以下含有することを特徴とする新たなテアニン含有組成物を提案する。
なお、本発明のテアニン含有組成物は、粉末状、液状、ゲル状などその状態は任意である。また、テアニン含有組成物が乾燥状態でない場合には、各成分の質量%は、乾燥質量換算での質量割合を意味する(以下、同様)。
【0010】
本発明のテアニン含有組成物は、テアニンを30質量%以上含有しているため、旨味増強或いは様々な生理活性付与などを目的として様々な飲食物に加えることができるほか、健康食品としてのサプリメント原料としても利用することができる。しかも、カリウム含有量を5質量%以下に抑えているため、腎機能が低下した人でも安心して摂取することができる。
【0011】
本発明はまた、従来知られていなかった新たなテアニン含有組成物の製造方法として、イヌリナーゼを用いて緑茶抽出液の酵素処理を行って酵素処理済液を得、該酵素処理済液をカラムクロマトグラフィーによってテアニン含有画分とそれ以外の夾雑画分とに分けて当該テアニン含有画分を回収することを特徴とするテアニン含有組成物の製造方法を提案するものでもある。
【0012】
本発明のテアニン含有組成物の製造方法によれば、高級茶や被覆栽培による茶を原料とせずとも、前述のようにテアニン含有量が多く、しかもカリウム含有量の少ないテアニン含有組成物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1、2及び比較例1において、クロマト分離した際のテアニンの分離挙動を示したグラフである。
【図2】実施例1、2及び比較例1において、クロマト分離した際のテオガリンの分離挙動を示したグラフである。
【図3】実施例1、2及び比較例1において、クロマト分離した際のグルコースの分離挙動を示したグラフである。
【図4】実施例1、2及び比較例1において、クロマト分離した際のフルクトースの分離挙動を示したグラフである。
【図5】実施例1、2及び比較例1において、クロマト分離した際のショ糖の分離挙動を示したグラフである。
【図6】実施例1、2及び比較例1において、クロマト分離した際のカリウムの分離挙動を示したグラフである。
【図7】実施例1、2及び比較例2において、クロマト分離した際のテアニンの分離挙動を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明が下記実施形態に限定されるものではない。
【0015】
<テアニン含有組成物の製造方法>
本実施形態に係るテアニン含有組成物(以下、「本テアニン含有組成物」という)は、緑茶を抽出して得られた茶抽出液を、必要に応じて分離精製した後、イヌリナーゼを用いて酵素処理を行い、必要に応じて濃縮して酵素処理済液を得、得られた酵素処理済液をカラムクロマトグラフィーによってテアニン含有画分とそれ以外の夾雑画分とに分けて当該テアニン含有画分を回収し、必要に応じて濃縮、乾燥を行うことにより得ることができる。この際、イヌリナーゼによる酵素処理の前に予め、茶抽出液からカテキン乃至カフェインを除く処理を行うことが好ましい。以下、詳細に説明する。
【0016】
(緑茶)
緑茶は、ツバキ科茶の樹(Camellia sinensis var.) の芽、葉、茎のいずれか或いはこれらの混合であればよく、品種、産地を問わず使用することができる。
テアニンをより多く含む観点から言えば、緑茶(煎茶、玉露、かぶせ茶、番茶、玉緑茶、抹茶、ほうじ茶、釜炒り茶、てん茶等)の中でも、新芽を原料とする上級茶や、茶樹の被覆栽培により得られる玉露、碾茶、抹茶などが好ましいが、本発明の製造方法は低級茶葉或はその茶抽出物を原料としても本テアニン含有組成物を得ることができる点に特徴がある。
また、生茶、すなわち収穫したままの未加工状態の緑茶であっても、蒸熱処理などの前処理を施したものであってもよい。
【0017】
(抽出)
緑茶の抽出は、緑茶を水、温水または熱水、或いは人体に無害なエタノール水溶液またはエタノールなどの有機溶媒を用いて行えばよい。
【0018】
抽出温度は、特に限定するものではないが、緑茶成分の抽出率を高める観点からは、40℃〜100℃、特に70〜100℃、中でも90〜100℃の熱水で抽出するのが好ましい。他方、テアニンの抽出率を高める観点からは、低温で抽出するのが好ましいため、かかる観点から70℃以下、特に60℃以下、中でも45〜55℃の水で抽出するのが好ましい。
【0019】
緑茶を抽出して得られる茶抽出液中には、通常は、アミノ酸、有機酸、ポリフェノール類(主にカテキン)、カフェイン、ビタミン類、糖類、水溶性食物繊維、ミネラル(カリウム含む)等が含まれることになる。
【0020】
(分離・精製)
上記のようにして得られた茶抽出液は、溶媒抽出法、樹脂吸着法、限外濾過・逆浸透濾過等の濾過などの分離・精製手段によって、ポリフェノール(特にカテキン)及びテアニンをより多く含むように分離・精製することが好ましい。但し、必ずしもこのような分離・精製を行う必要はない。
【0021】
なお、前記のように緑茶の抽出及び分離・精製を行って茶抽出液を得るのではなく、緑茶の抽出及び分離・精製を行って得られた市販の茶抽出物を用いて、当該市販の茶抽出物を、例えば純水などの溶媒に溶解して得られる茶抽出液を用いることもできる。
市販の茶抽出物としては、例えばテアフラン30E(商品名;伊藤園社製)などを好ましく用いることができる。テアフラン30Eは、緑茶を熱水抽出処理し、この抽出物を乾燥させてカテキン濃度を30%とした緑茶抽出物である。その他、市販の茶抽出物として三井農林(株)製「ポリフェノン」、太陽化学(株)製「サンフェノン」、サントリー(株)製「サンウーロン」等も用いることができる。
【0022】
(カテキン乃至カフェインの除去)
緑茶抽出液に含まれるカテキンは、イヌリナーゼの機能を阻害するため、イヌリナーゼによる酵素処理する前に予め、カテキンを除去する前処理を行うのが好ましい。この際、カフェインも阻害成分であるため、カフェインも予め除去するのが好ましい。
【0023】
目標値としては、例えば緑茶抽出液中のカテキン含有量が乾燥重量換算で5質量%以下、特に3質量%以下、中でも特に1質量%以下とするのが好ましい。
カフェインに関しては、緑茶抽出液中のカフェイン含有量が乾燥重量換算で5質量%以下、特に3質量%以下、中でも特に1質量%以下とするのが好ましい。
【0024】
カテキン乃至カフェインの除去方法は、テアニンを一緒に除去してしまう方法でなければ、公知の各種方法を採用することができる。例えば、緑茶抽出液を吸着剤に接触させてカテキン乃至カフェインを吸着除去する方法や、有機溶媒を用いた液−液分配方法によってカテキン乃至カフェインを分配除去する方法を挙げることができる。但し、この方法に限定するものではない。
【0025】
カテキン乃至カフェインを吸着除去する方法において使用する吸着剤としては、例えばポリビニルポリピロリドン、ポリビニルピロリドン、スチレン−ジビニルベンゼン系吸着剤(三菱化学製ダイヤイオンHP20・HP21など、三菱化学製セパビーズなど)、メタクリル酸エステル系吸着剤(三菱化学製ダイヤイオンダイヤイオンHP2MGなど)、架橋デキストランゲル(ファルマシア製セファデックスシリーズなど)、親水性ビニルポリマー系吸着剤(東ソー製トヨパールHWシリーズなど)、逆相系吸着剤(和光純薬工業製ワコーパックC18など)、順相系吸着剤(シリカゲルなど)の中から選ばれる1つ或は1つ以上の組み合わせからなる吸着剤を挙げることができる。
【0026】
緑茶抽出液にはカテキンが多く含まれるため、より好ましくは、カテキン及びカフェインをともに吸着除去できる樹脂と接触させた後、カテキンを吸着除去できる樹脂と接触させるのが好ましい。
この際、カテキン及びカフェインをともに吸着除去できる樹脂としては、例えば樹脂の母体がスチレンジビニルベンゼン系、具体的には、三菱化学社製セパビーズSP205,SP206、SP207,オルガノ社製アンバーライトXAD-2、XAD-4、XAD-2000、XAD-2010、XAD-2005スチレン系、例えば、ダイヤイオンHP20,HP21,セパビーズSP800、SP825、SP850、SP875、SP70などを挙げることができる。
また、カテキンを吸着除去できる樹脂としては、ファルマシア社製セファデックスシリーズ、バイオラッド社製バイオゲルAシリーズ、三菱化学社製ダイヤイオンHP2MGなどを挙げることができる。
【0027】
液−液分配方法に用いる有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、アセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、n−ブタノールなどを挙げることができる。
【0028】
(イヌリナーゼによる酵素処理)
緑茶抽出液中には、二糖及び多糖が多く含まれており、これらがクロマトグラフィーにおいてテアニンと夾雑成分との分離を阻害してテアニンの回収率を低下させることになる(比較例1参照)。これに対し、イヌリナーゼを用いた酵素処理を行うことで、二糖及び多糖が分解され、テアニンと夾雑成分との分離効率を高めてテアニンの回収率を高めることができる(実施例1及び実施例2参照)。
また、イヌリナーゼによる酵素処理(以下「イヌリナーゼ処理」ともいう。)を行うことで、茶の風味が増すことも確認されている。
【0029】
イヌリナーゼ処理では、使用茶葉量の100質量部に対してイヌリナーゼを0.05〜1.0質量部の割合で添加することが好ましく、特に0.05〜0.5質量部、中でも特に0.05〜0.1質量部の割合で添加することがより好ましい。
【0030】
なお、イヌリナーゼ以外の酵素についても試験した結果、ヘミセルラーゼ、キシラーゼ、プロテアーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼなどの酵素では、イヌリナーゼのような効果が得られないことを確認している。
【0031】
(濃縮)
上記のようにイヌリナーゼ処理を行って得られた酵素処理済液は、液濃度が薄いため、カラムクロマトグラフィーによる分離処理する前に濃縮するのが好ましい。
この際、濃縮の程度は、Brix5〜35、特にBrix15〜35、中でも特にBrix20〜35に濃縮するのが好ましい。
【0032】
(カラムクロマトグラフィー)
上記のようにして得られた酵素処理済液は、カラムクロマトグラフィーによってテアニン含有画分とそれ以外の夾雑画分(失活したイヌリナーゼを含む)とに分離して当該テアニン含有画分を回収すればよい。
【0033】
カラムクロマトグラフィーでは、吸着樹脂を充填した容器(カラム)に酵素処理済液を通液し、テアニンを吸着させるか、或いは、テアニン以外の夾雑成分を吸着させるかして、テアニン含有画分とそれ以外の夾雑画分とを吸着分離すればよい。
【0034】
使用する吸着樹脂としては、テアニン含有画分とそれ以外の夾雑画分とを分離することができる樹脂であればよい。
例えばテアニン以外の夾雑成分とテアニン含有画分とを分離させることができる樹脂として、樹脂の母体がスチレンジビニルベンゼン系、具体的には、三菱化学社製セパビーズSP205,SP206、SP207,オルガノ社製アンバーライトXAD-2、XAD-4、XAD-2000、XAD-2010、XAD-2005スチレン系、例えば、ダイヤイオンHP20,HP21,セパビーズSP800、SP825、SP850、SP875、SP70などを使用することができる。特に臭素原子を核置換して吸着力を強めた修飾スチレン系、例えばセパビーズ SP205、SP206、SP207(三菱化学社製)がより一層好ましい。
【0035】
ここでのカラムクロマトグラフィーは、SV=4以下で留出液を通液して行うのが好ましく、特にSV=3〜1、中でも特にSV=1.5〜1で留出液を通液して行うのがより好ましい。この際、SV=4より速い速度で留出液の通液を行うと、分離挙動が乱れやすくなり好ましくない。
なお、通液速度(Space Velocity:SV)とは、1時間あたりに、容器に充填された吸着剤の容量に対して、どの程度の量の溶液を通液させたかを示す単位であり、「通液量/吸着剤容量/時間」で示される。例えば、1時間あたりに、吸着剤の容量と等量の溶液を通過させる場合にSV=1となる。
【0036】
(濃縮・乾燥)
このようにして得られたテアニン含有画分は、その用途に応じて濃縮乃至乾燥させて本テアニン含有組成物を調製すればよい。この際、濃縮方法及び乾燥方法は任意である。
【0037】
<テアニン含有組成物>
上記のような製造方法によって、本テアニン含有組成物、すなわちテアニン含有量が30質量%以上で、且つ、カリウム含有量が5質量%以下であり、残部がテアニン及びカリウム以外の緑茶抽出成分であるテアニン含有組成物を得ることができる。
この際、テアニン含有量は30〜65質量%であるのがより好ましく、特に40〜65質量%であるのがさらに好ましい。また、カリウム含有量は5質量%以下であるのがより好ましく、特に3〜1質量%であるのがさらに好ましい。
【0038】
また、上記のような製造方法によって、テアニンのほかにテオガリンを含有させることもできるから、テアニン含有量が30〜65質量%であり、テオガリン含有量が10〜30質量%であり、且つ、カリウム含有量が5質量%以下であり、残部がテアニン、テオガリン及びカリウム以外の緑茶抽出成分である本テアニン含有組成物を得ることができる。
【0039】
また、上記の本テアニン含有組成物は、カテキン含有量、カフェイン含有量がともに1質量%未満で、且つ残部がテアニン、テオガリン、カテキン、カフェイン及びカリウム以外の茶抽出成分であるテアニン含有組成物に調製することができる。
この際、カテキン含有量、カフェイン含有量はともに1質量%未満であることがより好ましく、特に0.5質量%未満であることがさらに好ましい。
【0040】
テアニン、テオガリン、カテキン、カフェイン及びカリウム以外の茶抽出成分としては、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン、セリン、Na+、Mg2+、Ca2+、Cl、SO42−、リンゴ酸、グルコース、フルクトース、ショ糖、アルコール不溶性の高分子成分等を挙げることができる。
【0041】
さらにまた、上記の本テアニン含有組成物は、グルコース及びフルクトースの総量を5質量%以下に調製することができる。この際、グルコース及びフルクトースの総量はともに5質量%以下であることがより好ましく、特に3質量%以下であることがさらに好ましい。
また、スクロースの総量を1質量%以下に調製することができる。この際、スクロースの総量はともに1質量%以下であることがより好ましく、特に0.5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0042】
好ましい本テアニン含有組成物の組成は、表1に示すとおりである。
なお、表1中の数値の単位は質量%(固形分の質量割合)である。
【0043】
【表1】

【0044】
(利用用途)
本テアニン含有組成物は、テアニンを30質量%以上含有しているため、旨味増強或いは様々な生理活性付与などを目的として様々な飲食物に加えることができるほか、健康食品としてのサプリメント原料としても利用することができる。しかも、カリウム含有量を5質量%以下に抑えているため、腎機能が低下した人でも安心して摂取することができる。
【0045】
(用語の説明)
本明細書において「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含する。また、その際のX及びYは、四捨五入を考慮した数値である。
また、「X以上」或いは「Y以下」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意を包含する。また、その際のX及びYは、四捨五入を考慮した数値である。
【実施例】
【0046】
次に、試験例に基づいて本発明について更に説明するが、本発明が以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0047】
《分析条件》
次のようにして各成分の定量並びに粘度測定を行った。
【0048】
(アミノ酸(テアニン)分析条件)
HPLC装置:Waters アライアンスシステム
カラム:Wakosil 3C18HG 150×3.0mm.I.D
移動相A:50mM 酢酸Buffer(pH6.0)
移動相B:100%エタノール
検出:蛍光検出器 励起波長340nm 検出波長450nm
発色試薬:OPA試薬
試料注入量:5μL
送液量:0.43mL/分
【0049】
(テオガリン分析)
HPLC装置:Waters アライアンスシステム
カラム:Waters T3 150×3.0mm.I.D
移動相A:20mM リン酸二水素カリウム
移動相B:20mM リン酸二水素カリウム/アセトニトリル=50/50
検出:UV検出器 210nm
試験注入量:5μL
送液量:0.43mL/分
【0050】
(糖分析)
HPLC装置:DIONEX
カラム:DIONEX AP1 250×4.6mm.I.D
移動相A:150mM NaOH
移動相B:150mM NaOH + 500mM 酢酸ナトリウム
検出:電気化学検出器
試料注入量:30μL
送液量1.00mL/分
【0051】
(イオン分析)
HPLC装置:島津イオンクロマトグラムデュアルシステム
カラム陽イオン:Shim-pack IC-C3 100mm×4.6mm.I.D
カラム陰イオン:Shim-pack IC-A1 100mm×4.6mm.I.D
移動相陽イオン:2.5mMシュウ酸
移動相陰イオン:1.2mMフタル酸水素カリウム/アセトニトリル=95/5
試料注入量:1000μL
送液量:陽イオン0.8mL/分
送液量:陰イオン1.5mL/分
【0052】
(粘度分析)
酵素処理前の茶抽出液について、VISCOMETER TVB-10(東機産業(株)製)を使用して粘度を測定した。
【0053】
(Brix測定)
酵素処理前の茶抽出液について、ATAGO RX-5000((株)アタゴ製)を使用してBrixを測定した。
【0054】
(実施例1)
テアフラン30E(株式会社伊藤園社製茶抽出物:TF30E)を1.85質量%濃度でイオン交換水に溶解したテアフラン30E溶液4000mLを、内径3cm、高さ50cmのガラスカラムにHW40EC樹脂(東ソー(株)製:HW40EC)を300mL充填した樹脂塔にSV=7で通液し、カラム出口でのBrixが0.5%に達した時点から樹脂通過液を回収開始し、テアフラン30E溶液を通液後、続いて水を300mL通液し、水通液終了と同時に回収を止め、HW40EC通過液を得た。
得られたHW40EC通過液4300mLを、内径3cm、高さ50cmのガラスカラムにセパビーズSP207(三菱化学(株)製:SP207)を250mL充填した樹脂塔にSV=7で通液し、カラム出口でのBrixが0.2%に達した時点から樹脂通過液を回収開始し、HW40EC通過液を通液後、続いて水を500mL通液し、水通液終了と同時に回収を止め、SP207通過液を得た(カテキン含有量1質量%未満、カフェイン含有量1%未満)。
【0055】
得られたSP207通過液を減圧濃縮し、この濃縮されたSP207通過液100mL(Brix24.1)に、イヌリナーゼ(Smizyme INS 新日本化学工業(株)社製、イヌリナーゼ活性2,000Unit/g)55.5mgを水に溶解した溶液を加え、55℃〜65℃で60分間酵素反応させた。この際、酵素添加後に軽く撹拌した後、静置した。
次いで、酵素反応させた溶液を95℃まで加熱して酵素失活させた後、室温まで冷却した。
【0056】
このようして得られた酵素処理済液53mLを、内径3cm、高さ50cmのガラスカラムにセパビーズSP207(三菱化学(株)製:SP207)を212mL充填して樹脂高さ30cmにした樹脂塔にSV=4(14.13mL/分)で通液し、カラム出口でのBrixが0.2%に達した時点から樹脂通過液を回収開始し、酵素処理済液を通液後、続いて水を約650mL通液し、回収開始1bed分の排出液を廃棄し、廃棄後3bed分の通過液を回収した。
そして、このように回収した回収液(テアニン分画分)を、減圧濃縮し乾燥させて、テアニン含有組成物を3g得た。
【0057】
(実施例2)
実施例1において、イヌリナーゼ(SIGMA、イヌリナーゼ活性:25,000Unit/g)を使用し、SP207通過液を減圧濃縮して得られたSP207通過液100mL(Brix24.1)に、前記イヌリナーゼ10mgを水に溶解した溶液を加え、37℃で60分間酵素反応させた以外は、実施例1と同様にしてテアニン含有組成物を約3g得た。
【0058】
(比較例1)
実施例1において、イヌリナーゼ処理を行わない以外は、実施例1と同様にしてテアニン含有組成物を7g得た。すなわち、得られたSP207通過液を減圧濃縮し、この濃縮されたSP207通過液(Brix24.1)53mLを、内径3cm、高さ50cmのガラスカラムにセパビーズSP207(三菱化学(株)製:SP207)を212mL充填して樹脂高さ30cmにした樹脂塔にSV=4で通液し、他の点は実施例1と同様にしてテアニン含有組成物を得た。
【0059】
実施例1・2及び比較例1で得られた減圧濃縮後の茶抽出液のBrix及び粘性と、テアニン含有組成物の各成分量とを表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
イヌリナーゼ処理をすることにより、粘度が大きく低下し、単糖の量が大きく増加する結果となった。これは、イヌリナーゼ処理により、二糖及び多糖類が分解された為である。また、イヌリナーゼ処理を行っても、テアニンの量は変化することがない、すなわち分解などしないことが確認された。
【0062】
(酵素処理によるクロマト分離効率比較)
実施例1、2及び比較例1について、イヌリナーゼ処理して得られた酵素処理済液(比較例1については、減圧濃縮後の茶抽出液)を、流速SV=4で通液した後、0.25bed毎フラクションを取り、分析を行った。
【0063】
この結果、イヌリナーゼ処理を行った実施例1及び実施例2は、比較例1と比較して、各成分の分離挙動が良くなっていることが確認できた。すなわち、イヌリナーゼによる酵素処理を行うことでテアニン及びテオガリンと、その他の夾雑成分との分離効率を高めることができることが確認された。
【0064】
(比較例2)
アフラン30E(株式会社伊藤園社製茶抽出物:TF30E)を5質量%濃度でイオン交換水に溶解したテアフラン30E溶液2000mLに酢酸エチルを2000mL添加し、液液分配抽出により水画分を得た。
得られた水画分を、固形分量と等量の活性炭を添加して64gして茶抽出液を得た。
こうして得られた茶抽出液を減圧濃縮して得た茶抽出液(Brix20.2%)68mLを、内径3cm、高さ50cmのガラスカラムにセパビーズSP207(三菱化学(株)製:SP207)を212mL充填して樹脂高さ30cmにした樹脂塔にSV=3で通液し、茶抽出液通液後を53mL通液した。カラム出口でのBrixが0.2%に達した時点から樹脂通過液を回収開始し、回収開始1bed分の排出液を廃棄し、廃棄後3bed分の通過液を回収した。
そして、このように回収した回収液(テアニン分画分)を、減圧濃縮し乾燥させて、粉末状のテアニン含有組成物を3g得た。
【0065】
【表3】

【0066】
この結果、比較例2では、テアニン含有量が30質量%以上のテアニン含有組成物を得ることが出来ないことが分かった。
【0067】
比較例2についても、流速SV=3で通液した後、0.25bed毎フラクションを取り、分析を行ってテアニン分離挙動を検討した。
【0068】
実施例1、2及び比較例2について、テアニンの分離挙動の分析を行った。
その結果、比較例2のテアニン溶出率は実施例と比べ悪い結果となった。テアニンが溶出し始めるフラクションは略同じであるが、後ろに大きくずれ込んでいることが確認された。これは、分離前の茶抽出物中に含まれる不要成分が多い為、分離効率が悪いく、テアニンの溶出率が悪くなったものと考えられる。テオガリンに関しては、分析をしたが検出されなかった。これは、テアニン分離前の処理工程において除去されたものと考えられる。
【0069】
なお、これまで行った試験結果を総合すると(本明細書には示さない試験内容も含む)、テアニン含有成分と夾雑成分を分離する際、テアニンはSP207に完全吸着はしないが、極弱い吸着をして夾雑成分と分離される為、溶出が遅れる傾向が認められる。分離流速(SV)を上げることで、極弱い吸着は、樹脂空間を流れる水の勢いで分離せずに溶出されてしまう。そのため、流速を落とすことで、テアニンの極弱い吸着を出来るだけ保持するために、SVは4以下にするのが好ましいことが分かった。かかる観点から、さらに好ましくは3〜1、中でも1.5〜1とするのがさらに好ましいことも分かった。
【0070】
(精製物結果)
分離作業においてテアニン、テオガリン画分であるFr.5〜Fr.16を回収し、精製物とした。
【0071】
【表4】

【0072】
精製物の結果、イヌリナーゼ処理を行うことでテアニン及びテオガリンの純度が上がることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テアニンを30質量%以上含有し、且つ、カリウムを5質量%以下含有することを特徴とするテアニン含有組成物。
【請求項2】
テアニン含有量が30〜65質量%であり、テオガリン含有量が10〜30質量%であることを特徴とする請求項1記載のテアニン含有組成物。
【請求項3】
カテキン含有量、カフェイン含有量がともに1質量%未満で、且つ残部がテアニン、テオガリン、カテキン、カフェイン及びカリウム以外の茶抽出成分であることを特徴とする請求項1又は2記載のテアニン含有組成物。
【請求項4】
グルコース及びフルクトースの総量が5質量%以下であることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のテアニン含有組成物。
【請求項5】
スクロースの総量が1質量%以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のテアニン含有組成物。
【請求項6】
イヌリナーゼを用いて緑茶抽出液の酵素処理を行って酵素処理済液を得、該酵素処理済液をカラムクロマトグラフィーによってテアニン含有画分とそれ以外の夾雑画分とに分けて当該テアニン含有画分を回収することを特徴とするテアニン含有組成物の製造方法。
【請求項7】
イヌリナーゼを用いて緑茶抽出液の酵素処理を行う前に、緑茶抽出液からカテキン及びカフェインを除く処理を行うことを特徴とする請求項6に記載のテアニン含有組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−207172(P2010−207172A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−58971(P2009−58971)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】