説明

テアフラビン類含有容器詰飲料及び飲料中のテアフラビン類含有量の低減を抑制する方法

【課題】テアフラビン類を含有する飲料を容器詰飲料の形態として提供する場合であっても、テアフラビン類を高濃度で含有する容器詰飲料、及びテアフラビン類を含有する飲料中のテアフラビン類含有量の低減を抑制する方法を提供する。
【解決手段】テアフラビン類含有容器詰飲料は、0.002質量%以上のテアフラビン類と、0.5質量%以下のフルクトースとを含有する。また、テアフラビン類含有飲料中のテアフラビン類含有量の低減を抑制する方法は、テアフラビン類含有飲料中の単糖類の全含有量を、0.5質量%以下に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テアフラビン類含有容器詰飲料及びテアフラビン類含有飲料中のテアフラビン類含有量の低減を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紅茶等の発酵茶には、茶葉の発酵過程において茶葉に含まれる酸化酵素の働きによってカテキン類から生成されるテアフラビン類が含有されていることが知られている。このテアフラビン類は、様々な生理活性(例えば、脂質吸収阻害作用;脂質のミセル中への不溶化作用、脂質のミセル中への溶解・取込阻害作用、脂質のミセルからの脱離促進作用、ミセル膜破壊作用、脂質の沈殿促進作用等のミセル形成阻害作用等)を有することが知られており、特にテアフラビン類のうちのガレート型テアフラビン類は、その生理活性が強いことが知られている。
【0003】
このようなテアフラビン類を摂取する方法として、テアフラビン類を含有する飲食品の形態で摂取する方法が挙げられ、特に、テアフラビン類を含有する飲料の形態で摂取するのが、多量のテアフラビン類を容易に摂取することができるため好ましい。
【0004】
このような観点から、従来、テアフラビン類を含有する飲料、容器詰飲料等が種々提案されている(特許文献1〜2等参照)。
【特許文献1】特開2008−125428号公報
【特許文献2】国際公開2006/004114号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えば、容器詰飲料にテアフラビン類を高濃度に含有させる場合、その製造段階において食品衛生法に定められた条件で加熱殺菌処理をする必要があるが、かかる加熱殺菌処理により、飲料中のテアフラビン類の含有量が低減してしまうという問題がある。かかる問題を考慮して、加熱殺菌前の飲料中にテアフラビン類をさらに高濃度に含有させておくことで、加熱殺菌後の容器詰飲料に所望濃度のテアフラビン類を含有させることもできるが、容器詰飲料の製造コストが増大してしまい、テアフラビン類を高濃度に含有する容器詰飲料を安価に提供することができなくなってしまうという問題もある。
【0006】
このような問題に鑑みて、本発明は、テアフラビン類を含有する飲料を容器詰飲料の形態として提供する場合であっても、テアフラビン類を高濃度で含有する容器詰飲料を提供することを目的とする。また、本発明は、テアフラビン類を含有する飲料中のテアフラビン類含有量の低減を抑制する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、第一に本発明は、0.002質量%以上のテアフラビン類と、0.5質量%以下のフルクトースとを含有することを特徴とするテアフラビン類含有容器詰飲料を提供する(請求項1)。
【0008】
本発明において「テアフラビン類」には、テアフラビン(非ガレート型テアフラビン)の他、テアフラビン−3−モノガレート、テアフラビン−3’−モノガレート、テアフラビン−3,3’−ジガレート等のガレート基を有するエステル型テアフラビン(ガレート型テアフラビン)が含まれる。
【0009】
上記発明(請求項1)によれば、テアフラビン類を含有する容器詰飲料におけるフルクトースの含有量が上記範囲内であれば、容器詰飲料の製造段階における加熱殺菌処理によって、当該飲料中のテアフラビン類の含有量が低減してしまうのを抑制することができるため、容器詰飲料中に高濃度でテアフラビン類を含有させることが可能となる。
【0010】
上記発明(請求項1)においては、グルコースをさらに含有し、該グルコースの含有量が0.1質量%以下であるのが好ましい(請求項2)。かかる発明(請求項2)によれば、グルコースの含有量を所定の範囲に調整することで、飲料中のテアフラビン類の含有量の低減をより抑制することができるため、容器詰飲料中にテアフラビン類を高濃度に含有させることができる。
【0011】
上記発明(請求項1又は2)においては、スクロースをさらに含有し、該スクロースの含有量が0.5質量%以上であるのが好ましい(請求項3)。糖類(例えば、フルクトース、グルコース、スクロース)のうち、スクロースを容器詰飲料に含有させた場合に、容器詰飲料中のテアフラビン類の残存率に対する影響が少ないと考えられるため、かかる発明(請求項3)のように飲料中のスクロースの含有量を0.5質量%以上とすることで、テアフラビン類に由来する好ましくない呈味性(苦味等)を改善し、商品価値を高めることができる。
【0012】
上記発明(請求項1〜3)においては、カフェインを実質的に含有せず、総テアフラビン類中におけるガレート型テアフラビン類の含有比率が70質量%以上である精製紅茶抽出物を含有するのが好ましい(請求項4)。
【0013】
本発明において「カフェインを実質的に含有しない」とは、例えば、精製紅茶抽出物中におけるカフェイン含有量が、0.2質量%以下であることを意味する。
【0014】
上記発明における精製紅茶抽出物は、テアフラビン類の中でも特に生理活性が強いガレート型テアフラビン類の含有比率が高いものであることから、当該精製紅茶抽出物を容器詰飲料に含有させるとともに、フルクトース等の糖類含有量を所定の範囲に調整することで、容器詰飲料中におけるガレート型テアフラビン類の含有量を高濃度にすることができる。
【0015】
上記発明においては、前記精製紅茶抽出物中のカフェイン含有量が、0.2質量%以下であるのが好ましい。カフェインは、その摂取量や個人差によってはカフェインのもつ強い生理活性作用により、めまい、不眠、心悸亢進、悪心等の症状が起こることがあるが、かかる発明によれば、好ましくない生理活性を有するカフェイン含有量が極めて少なく、かつ好ましい生理活性を有するガレート型テアフラビン類を高濃度で含有する容器詰飲料とすることができる。
【0016】
上記発明においては、前記飲料が、不発酵茶飲料、半発酵茶飲料又は発酵茶飲料であればよい(請求項5)。
【0017】
第二に本発明は、テアフラビン類含有飲料中のテアフラビン類含有量の減少を抑制する方法であって、前記テアフラビン類含有飲料中の単糖類の含有量を、0.5質量%以下に調整することを特徴とする前記方法を提供する(請求項6)。
【0018】
上記発明(請求項6)によれば、テアフラビン類含有飲料中の単糖類の含有量を上記範囲に調整することで、飲料中のテアフラビン類の含有量の低減を抑制することができる。
【0019】
上記発明(請求項6)においては、前記単糖類が、グルコース及び/又はフルクトースであればよい(請求項7)。特に単糖類としてフルクトースを含有する場合には、前記フルクトースの含有量を、0.5質量%以下に調整するのが好ましい。上記単糖類のうち、フルクトースが飲料中のテアフラビン類の残存率に最も影響を与えると考えられるため、飲料中のフルクトースの含有量を0.5質量%以下に調整することで、飲料中のテアフラビン類の含有量の低減をさらに効果的に抑制することができる。
【0020】
上記発明においては、前記グルコース含有量を、0.1質量%以下に調整するのが好ましい。このようにグルコースの含有量を上記範囲とすることによって、飲料中のテアフラビン類の含有量の低減をさらに効果的に抑制することができる。
【0021】
上記発明(請求項6又は7)においては、前記飲料が、不発酵茶飲料、半発酵茶飲料又は発酵茶飲料であるのが好ましい(請求項8)。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、テアフラビン類を含有する飲料を容器詰飲料の形態として提供する場合であっても、テアフラビン類を高濃度で含有する容器詰飲料を提供することができる。また、本発明によれば、テアフラビン類を含有する飲料中のテアフラビン類含有量の低減を抑制する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明のテアフラビン類含有容器詰飲料について説明する。
本発明のテアフラビン類含有容器詰飲料は、0.002質量%以上のテアフラビン類と、0.5質量%以下のフルクトースとを含有するものである。
【0024】
テアフラビン類の含有量は、0.002質量%以上(20ppm以上)であり、好ましくは0.002〜0.025質量%(20〜250ppm)である。テアフラビン類の含有量が、0.002質量%未満であるとテアフラビン類が有する好ましい生理活性を十分に享受することができない。また、テアフラビン類として紅茶葉抽出物の精製物を容器詰飲料に添加して本発明のテアフラビン類含有容器詰飲料を製造する場合、0.025質量%を超えるテアフラビン類を含有させるためには、紅茶葉抽出物の精製度を向上させて、精製物中のテアフラビン類濃度を高くする必要があり、技術的な困難性が増大する。ただし、この点を解消しさえすれば、0.025質量%を超えるテアフラビン類の含有量であっても設計可能である。
【0025】
上記容器詰飲料に含有されるテアフラビン類としては、例えば、テアフラビン、テアフラビン−3−ガレート、テアフラビン−3’−ガレート、テアフラビン−3,3’−ジガレート等である。容器詰飲料にこれらのテアフラビン類を含有させる方法としては、これらのテアフラビン類を飲料にそのまま添加してもよいし、テアフラビン類を高濃度に含有する精製紅茶抽出物を飲料に添加してもよい。
【0026】
上記容器詰飲料中のテアフラビン類の含有量は、100〜150μg/mLであるのが好ましい。飲料中のテアフラビン類の含有量が上記範囲内であれば、飲料を摂取することによって、テアフラビン類の有する好ましい生理活性が発揮され得る。
【0027】
本発明のテアフラビン類含有容器詰飲料には、テアフラビン類の他、フルクトース等の単糖類が含有されるが、後述する実施例において示すように、容器詰飲料におけるフルクトース等の単糖類の含有量を調整することによって、容器詰飲料中のテアフラビン類の低減を抑制することができる。
【0028】
本発明のテアフラビン類含有容器詰飲料中のフルクトースの含有量は、0.5質量%以下、好ましくは0.1質量%以下、次に好ましくは0.01質量%以下、最も好ましくは0.002質量%以下である。当該含有量が0.5質量%を超えると、テアフラビン類含有容器詰飲料中のテアフラビン類含有量の低減を抑制することが困難となるおそれがある。また、本発明のテアフラビン類含有容器詰飲料中のフルクトースの含有量の下限値は、本発明の効果が得られる限りにおいて特に限定されないが、フルクトース含有量が0.0005質量%(5ppm)以上であると、容器詰飲料の呈味性向上の観点から好ましい。なお、飲料中のフルクトース量は、公知方法にて測定することができる。
【0029】
特に、本発明のテアフラビン類含有容器詰飲料が、単糖類としてグルコースをさらに含有する場合、当該グルコースの含有量が、好ましくは0.1質量%以下、好ましくは0.01質量%以下、最も好ましくは0.008質量%以下である。また、本発明のテアフラビン類含有容器詰飲料中のグルコースの含有量の下限値は、本発明の効果が得られる限りにおいて特に限定されないが、グルコース含有量が0.007質量%(70ppm)以上であると、容器詰飲料の呈味性向上の観点から好ましい。なお、飲料中のグルコース量は、公知方法にて測定することができる。
【0030】
また、本発明のテアフラビン類含有容器詰飲料が二糖類としてスクロースを含有する場合、当該スクロースの含有量は、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは1〜7質量%である。後述する実施例から明らかなように、スクロースは、容器詰飲料中のテアフラビン類含有量の低減に与える影響が少ないと考えられることから、スクロースの含有量を0.5質量%以上とすることで、テアフラビン類に由来する好ましくない呈味性(苦味等)を改善し、当該飲料の品質を向上させることができる。なお、飲料中のスクロース量は、公知方法にて測定することができる。
【0031】
本発明のテアフラビン類含有容器詰飲料に含有し得る、テアフラビン類を高濃度に含有する精製紅茶抽出物としては、例えば、以下のようにして得られるものが挙げられる。
【0032】
上記精製紅茶抽出物を製造するためには、まず、紅茶抽出液を製造する。
紅茶抽出液の製造に使用する抽出原料は、茶(学名:Camellia sinensis)の葉部、茎部を完全に発酵させて得られる紅茶(紅茶葉)である。紅茶の茶種としては、特に限定されるものではなく、例えば、ダージリン、アッサム、ニルギ、シッキム、ウバ、ヌワラエリア、ディンブラ、ウダプセラワ、キャンディ、ルフナ、キーモン、ラプサンスーチョン、雲南種、ケニア種、ジャワ種、スマトラ種、ネパール種、トルコ種、バングラディシュ種等が挙げられる。
【0033】
上記紅茶抽出液を得るためには、特殊な抽出方法を用いることなく、植物の一般的な抽出方法を用いればよい。例えば、紅茶葉を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用い粉砕して溶媒抽出による抽出に供することにより、紅茶抽出液を得ることができる。紅茶葉の乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。
【0034】
抽出溶媒としては、含水有機溶媒を、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用するのが好ましい。抽出溶媒として含水有機溶媒を用いることで、得られる紅茶抽出液中のテアフラビン類含有量を増大させることができ、あわせてカテキン類含有量を増大させることも可能となる。
【0035】
含水有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール等の低級脂肪族アルコール;アセトン等の低級脂肪族ケトン等のうちの1種又は2種以上の有機溶媒と水との混合溶媒を用いることができ、特にエタノール水溶液を用いるのが好ましい。エタノールは食品添加物として認められているものであることから、抽出溶媒としてエタノール水溶液を用いることで、人体等への安全性の高い紅茶抽出液を得ることができる。
【0036】
抽出溶媒としての含水有機溶媒の有機溶媒濃度は、少なくとも紅茶葉からテアフラビン類を抽出させ得る限り特に限定されるものではなく、例えば、5〜90容量%であればよい。
【0037】
抽出処理は、抽出原料としての紅茶葉に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、紅茶葉の1〜30倍量(質量比)、好ましくは1〜10倍量(質量比)の抽出溶媒に、紅茶葉を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより紅茶抽出液を得ることができる。
【0038】
次に、上記のようにして得られた紅茶抽出液を精製して、精製紅茶抽出物を製造する。
紅茶抽出液の精製工程においては、まず、紅茶抽出液をそのまま吸着剤を充填したカラムに通液し、紅茶抽出液中の各成分(特に、テアフラビン類、カテキン類、カフェイン等)を吸着剤に吸着させる。かかる方法においては、得られた紅茶抽出液をそのままカラムに通液することができるため、紅茶抽出液の精製工程の前処理としての紅茶抽出液を希釈したり、濃縮したりする工程を省略することができ、精製紅茶抽出物の製造を簡易化することができる。
【0039】
なお、上記のようにして得られた紅茶抽出液の希釈物をカラムに通液してもよいし、当該紅茶抽出液の濃縮物又は乾燥物等を、所定の溶媒(例えば、エタノール水溶液等)に溶解させた紅茶抽出物溶液をカラムに通液してもよい。なお、抽出溶媒としてエタノール水溶液以外の含水有機溶媒(例えば、メタノール水溶液、アセトン水溶液等)を用いた場合、紅茶抽出液から抽出溶媒を留去し、所望により乾燥させて得られた紅茶抽出物(濃縮物、乾燥物等)を、エタノール水溶液に溶解させて、カラムに通液することで、より人体等への安全性の高い精製紅茶抽出物を製造することができる。
【0040】
カラムに充填される吸着剤としては、少なくとも紅茶抽出液中に含有されるガレート型テアフラビン類を吸着し得るものであればよく、例えば、活性炭(例えば、ZN−50(味の素ファインテクノ社製));親水性ビニルポリマー(例えば、トヨパールHW40EC(東ソー社製))、ヒドロキシプロピル化デキストラン(例えば、Sephadex LH-20(GEヘルスケアバイオサイエンス社製))、スチレン−ジビニルベンゼン重合体(例えば、ダイヤイオンHP−20(三菱化学社製)、アンバーライトXAD−2(オルガノ社製))、メタアクリル酸エステル重合体(例えば、ダイヤイオンHP2MG(三菱化学社製)、アンバーライトXAD−7HP(オルガノ社製))等を母体とするゲル型合成吸着剤等が挙げられる。特に好適な例としては、親水性ビニルポリマー又はメタアクリル酸エステル重合体を母体とするゲル型合成吸着剤が挙げられる。
【0041】
紅茶抽出液のカラムへの通液速度は、空間速度として0.5〜10h−1であり、好ましくは1〜5h−1である。当該通液速度が0.5h−1未満であると生産性の点で好ましくない。10h−1を超えると、吸着が不充分又は不安定となるおそれがある。
【0042】
紅茶抽出液のカラムへの通液量は、カラムに充填された吸着剤の体積量に対して0.1〜1.0倍量であり、好ましくは0.1〜0.5倍量である。当該通液量が1.0倍量を超えると、吸着が不充分又は不安定となるおそれがある
【0043】
次に、紅茶抽出液が注入されたカラムに、展開溶媒としてエタノール濃度20〜100容量%、好ましくは40〜80容量%のエタノール水溶液を、吸着剤のカラム充填体積量に対して0.5〜10倍量、好ましくは2〜5倍量通液し、クロマトグラフ法による分離処理を行う。このように、エタノール濃度(有機溶媒濃度)の高い(40〜80容量%)エタノール水溶液を展開溶媒として用いても、本実施形態に係る方法によれば、カフェイン及び非ガレート型テアフラビン類と、ガレート型テアフラビン類とをほぼ分離することができる。
【0044】
展開溶媒としてのエタノール水溶液のエタノール濃度が20容量%未満であると、カフェイン及び非ガレート型テアフラビン類と、ガレート型テアフラビン類との分離が不充分又は不安定となるおそれがあり、40〜80容量%であると、カフェイン及び非ガレート型テアフラビン類と、ガレート型テアフラビン類とを十分にかつ安定的に分離することができる。
【0045】
また、展開溶媒としてのエタノール水溶液の通液量が0.5倍量未満であると、カフェイン及び非ガレート型テアフラビン類と、ガレート型テアフラビン類との分離が不充分又は不安定となるおそれがあり、10倍量を超えると、ガレート型テアフラビン類の回収率は上がるものの、多量の溶出液を要するため、エタノールを回収する際の蒸留操作が煩雑になるおそれがある。
【0046】
展開溶媒としてのエタノール水溶液をカラムに通液後、初期通過液(例えば、吸着剤として親水性ビニルポリマー等を母体とするゲル型合成吸着剤を用いた場合、カラムへのエタノール水溶液の通液量のうちの40容量%程度)を廃棄する。当該初期通過液には、ガレート型テアフラビン類よりも吸着剤への吸着力の弱いカフェインや非ガレート型テアフラビン類、非ガレート型カテキン類が溶出するため、カフェイン、非ガレート型テアフラビン類、非ガレート型カテキン類等を紅茶抽出物から除去することができる。
【0047】
上記初期通過液を廃棄した後、ガレート型テアフラビン類の画分(精製紅茶抽出物の画分)を回収する。そして、得られた画分から、必要に応じて溶媒(エタノール水溶液)を留去し、乾燥することで、精製紅茶抽出物を得ることができる。
【0048】
このようにして得られた精製紅茶抽出物は、カフェイン、非ガレート型テアフラビン類のほとんどが除去されているため、カフェインの含有量が極めて少なく、かつ総テアフラビン類中におけるガレート型テアフラビン類の含有比率が極めて高いものとすることができる。
【0049】
具体的には、精製紅茶抽出物中のカフェイン含有量は、0.2質量%以下であり、好ましくは0.1質量%以下である。また、精製紅茶抽出物の総テアフラビン類中におけるガレート型テアフラビン類の含有比率は、80質量%以上であり、好ましくは80〜90質量%である。
【0050】
さらに、精製紅茶抽出物中における総テアフラビン類と総カテキン類との合計質量におけるガレート型テアフラビン類とガレート型カテキン類との合計含有比率は、80質量%以上であり、好ましくは80〜90質量%以上である。
【0051】
このように、上記精製紅茶抽出物は、テアフラビン類を高濃度に含有し、特にガレート型テアフラビン類を高濃度に含有するものであるため、当該精製紅茶抽出物を本発明の容器詰飲料に配合することによって、テアフラビン類含有容器詰飲料に、特に生理活性の強いガレート型テアフラビン類を高濃度に含有させることができる。
【0052】
本発明のテアフラビン類含有容器詰飲料は、テアフラビン類又は上述のようにして得られた精製紅茶抽出物と、単糖類(フルクトース、グルコース)とを所定量飲料に添加してなるテアフラビン類含有飲料を、所定の容器に充填して得ることができる。なお、単糖類(フルクトース、グルコース)は、加熱殺菌によりその含有量が変化するものではなく、精製紅茶抽出物中の単糖類(フルクトース、グルコース)の含有量はほぼ無視し得る程度に低いものであるため、単糖類(フルクトース、グルコース)の添加量が、ほぼそのままテアフラビン類含有飲料中の単糖類(フルクトース、グルコース)の含有量であると考えることができる。
【0053】
上記飲料としては、特に限定されるものではなく、例えば、茶系飲料(緑茶飲料、紅茶飲料、ウーロン茶飲料等)、穀物抽出飲料(麦茶、豆茶、トウモロコシ茶、ソバ茶等)、コーヒー飲料、野菜飲料、果実飲料、乳酸菌飲料、炭酸飲料、天然水、スポーツ用飲料、酢飲料、各種機能性飲料等が挙げられる。これらのうち、茶系飲料が好ましく、特に紅茶飲料が好ましい。
【0054】
本発明のテアフラビン類含有容器詰飲料には、所定量のテアフラビン類(上記精製紅茶抽出物を含む)及び単糖類(フルクトース、グルコース)の他に、必要に応じて、飲料の製造に一般的に使用される各種添加剤が配合されていてもよい。このような添加剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、苦味抑制剤、酸化防止剤、香料、各種エステル類、有機酸類、有機酸塩類、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料、pH調整剤、品質安定剤等が挙げられる。また、これらの他に、様々な生理活性を有することが知られているカテキン類(カテキン、エピカテキン、ガロカテキン、エピガロカテキン、カテキンガレート、エピカテキンガレート、ガロカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等)が配合されていてもよい。
【0055】
本発明のテアフラビン類含有容器詰飲料において使用される容器としては、PETボトル、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶等の通常用いられる飲料用容器であればよい。
【0056】
本発明のテアフラビン類含有容器詰飲料は、例えば、金属缶のような容器にテアフラビン類含有飲料を充填後、加熱殺菌できる場合にあっては食品衛生法に定められた殺菌条件で殺菌されて製造される。なお、PETボトル、紙容器のように、容器にテアフラビン類含有飲料を充填した状態で加熱殺菌できないものに関しては、予め上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器等を用いて高温短時間殺菌した後、一定の温度まで冷却して容器に充填する方法等により製造すればよい。
【0057】
本発明のテアフラビン類含有容器詰飲料は、当該飲料中のフルクトースの含有量が0.5質量%以下に調整されているため、上記のように加熱殺菌したとしても、飲料中のテアフラビン類の含有量の低減を抑制することができる。したがって、加熱殺菌される前の飲料中のテアフラビン類の含有量を大幅に増加させることなく、テアフラビン類含有容器詰飲料中にテアフラビン類を高濃度で含有させることができる。
【実施例】
【0058】
以下、実施例を示し、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0059】
〔精製紅茶抽出物の製造〕
20メッシュのナイロン網を備えた抽出網に投入され、上部が平坦になるように揃えた紅茶葉(中国湖南省産,CTC製法)100kgを、抽出槽に供給された60容量%エタノール水溶液450L中に90分間浸漬させた。このとき、15分ごとに抽出網を上下に移動させて、抽出槽中のエタノール水溶液を攪拌した。
【0060】
浸漬処理後、得られた抽出液を抽出槽から抜き出して、80メッシュのナイロン網を用いてろ過し、次いで53μmのフィルタでろ過することで、紅茶抽出液を回収した。
【0061】
ステンレスカラムに充填した合成吸着剤(トヨパールHW40EC,東ソー社製)90Lを、予め60容量%エタノール水溶液90Lにより平衡化し、上記のようにして得られた紅茶抽出液45L(合成吸着剤のカラム充填体積量に対して0.5倍量)をSV(空間速度)=4(h−1)の通液速度でステンレスカラムに注入した。
【0062】
次いで、展開溶媒として60容量%エタノール水溶液450LをSV=4(h−1)の通液速度でステンレスカラムに通液し、初期通過液180Lを廃棄した後に、後半の通過液(テアフラビン類画分)270Lを回収した。
【0063】
上記と同様のクロマトグラフィー分離処理を合計7回行い、テアフラビン分画物1890Lを得た。得られたテアフラビン分画物を濃縮し、噴霧乾燥することで、精製紅茶抽出物4.6kg(収率4.6%)を得た。
【0064】
上記のようにして得られた精製紅茶抽出物を定量した結果を表1に示す。なお、表中の数字は、得られた組成物中における各成分の含有量(質量%)を表す。
【0065】
【表1】

【0066】
〔テアフラビン類含有量低減抑制試験〕
上記のようにして得られた精製紅茶抽出物1.47gに、熱水500mL、アスコルビン酸0.6g、アスコルビン酸ナトリウム0.4gを加え、水を加えて全量を800gとした。そして、pH調整剤(重曹)を添加してpH5.97に調整し、全量を900gとした後、市販の香料を1.6mL添加し、全量を1000gとして飲料を調製した。
【0067】
このようにして得られた飲料5mLに所定量(質量%,表2及び表3を参照)のグルコース又はフルクトースを添加し、その後水を添加して全量を10mLとし、テアフラビン類含有飲料を調製した。また、比較として、グルコース又はフルクトースに代えてスクロースを添加し、上記と同様にしてテアフラビン類含有飲料を調製した。
【0068】
上記のようにして得られたテアフラビン類含有飲料を、オートクレーブにて120℃で10分間加熱殺菌処理に付した。加熱殺菌後の当該テアフラビン類含有飲料について、下記条件のHPLC法によりテアフラビン類(テアフラビン(TF)、テアフラビン−3−ガレート(TF3g)、テアフラビン−3’−ガレート(TF3’g)、テアフラビン−3,3’−ジガレート(TFdg))含有量(μg/mL)を測定した。
【0069】
また、グルコース、フルクトース及びスクロースのいずれをも添加することなく、上記と同一条件にて加熱殺菌したテアフラビン類含有飲料中のテアフラビン類含有量(μg/mL)を上記と同様にして測定した。さらに、加熱殺菌前の上記テアフラビン類含有飲料中のテアフラビン類含有量(μg/mL)を上記と同様にして測定した。
測定結果を表2に示す。
【0070】
また、上記測定結果に基づいて算出した、加熱殺菌後のテアフラビン類の残存率(=加熱殺菌後のテアフラビン類含有量/加熱殺菌前のテアフラビン類含有量;質量%)を表3に示す。
【0071】
<HPLC分析条件>
装置:Alliance 2695 Separations Module PDA(Model 2996)システム(日本ウォーターズ社製)
カラム:Xbridge Shield RP18(4.6mmI.D.×150mm,3.5μm,日本ウォーターズ社製)
移動相A液:水
移動相B液:アセトニトリル
移動相C液:1.0%リン酸水溶液を用いたグラジエント法
流速:1mL/min
検出:UV280nm
カラム温度:40℃
サンプル量:10μL
【0072】
【表2】

【0073】
【表3】

【0074】
表2及び3に示すように、飲料への単糖類の添加量を調整することで、飲料中のテアフラビン類の含有量の低減を抑制し得ることが確認された。一方、スクロースを添加した場合、スクロースの添加量を調整することによる、飲料の加熱殺菌に起因するテアフラビン類含有量の低減抑制効果は見られなかった。なお、上記結果から、スクロースを1質量%以上添加することで、テアフラビン類の低減をより抑制することができるものと推察される。
【0075】
特に、フルクトースの添加量が1質量%以上になると、飲料の加熱殺菌によるテアフラビン類含有量の残存率が50質量%未満となってしまうことが確認された。このことから、テアフラビン類含有容器詰飲料中へのフルクトースの添加量(テアフラビン類含有容器詰飲料中の含有量)を1質量%未満、特に0.5質量%以下とすることで、容器詰飲料中のテアフラビン類含有量の低減を効果的に抑制し得ると推察される。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、好ましい生理活性を有するテアフラビン類を高濃度に含有するテアフラビン類含有容器詰飲料の製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
0.002質量%以上のテアフラビン類と、0.5質量%以下のフルクトースとを含有することを特徴とするテアフラビン類含有容器詰飲料。
【請求項2】
グルコースをさらに含有し、該グルコースの含有量が0.1質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のテアフラビン類含有容器詰飲料。
【請求項3】
スクロースをさらに含有し、該スクロースの含有量が0.5質量%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のテアフラビン類含有容器詰飲料。
【請求項4】
カフェインを実質的に含有せず、総テアフラビン類中におけるガレート型テアフラビン類の含有比率が70質量%以上である精製紅茶抽出物を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のテアフラビン類含有容器詰飲料。
【請求項5】
前記飲料が、不発酵茶飲料、半発酵茶飲料又は発酵茶飲料であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のテアフラビン類含有容器詰飲料。
【請求項6】
テアフラビン類含有飲料中のテアフラビン類含有量の低減を抑制する方法であって、
前記テアフラビン類含有飲料中の単糖類の含有量を、0.5質量%以下に調整することを特徴とする前記方法。
【請求項7】
前記単糖類が、グルコース及び/又はフルクトースであることを特徴とする請求項6に記載の前記方法。
【請求項8】
前記飲料が、不発酵飲料、半発酵飲料又は発酵茶飲料であることを特徴とする請求項6又は7に記載の前記方法。

【公開番号】特開2010−94043(P2010−94043A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−265324(P2008−265324)
【出願日】平成20年10月14日(2008.10.14)
【出願人】(591014972)株式会社 伊藤園 (213)
【Fターム(参考)】