説明

ティルティングパッド軸受装置

【課題】回転軸の低速回転時及び高速回転時においても、十分な油膜を形成して、軸受負荷能力の低下を防止することができるティルティングパッド軸受装置を提供する。
【解決手段】回転軸11をティルティングパッド23a,23b,23c,23dを介して回転可能に支持すると共に、ティルティングパッド23a,23b,23c,23d間の給油ノズル31から、当該給油部31における回転軸11の回転方向下流側に配置されるティルティングパッド23a,23b,23c,23dに向けて、潤滑油を供給するティルティングパッド軸受装置において、ティルティングパッド23b,23cの摺動面24b,24cに開口する給油孔41と、この給油孔41を介して摺動面24b,24cに潤滑油を供給する第2潤滑油供給用ポンプ43と、回転軸11の回転停止時に、当該回転軸11を押圧して摺動面24b,24cから離間させる油圧ジャッキ51とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸を複数のティルティングパッドを介して回転可能に支持するティルティングパッド軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タービンや発電機等の大形回転機械においては、その回転軸を回転可能に支持するために、ティルティングパッド軸受装置が用いられている。このティルティングパッド軸受装置では、揺動可能なティルティングパッドを、回転軸の周方向に複数配置し、この回転軸の回転によって、潤滑油を回転軸の外周面とティルティングパッドの摺動面との間に供給するようにしている。これにより、それらの間に、動圧発生に必要なくさび状油膜が形成されるため、回転軸の振動が減衰されるようになっている。
【0003】
また、従来の軸受装置の中には、油膜のくさび効果による十分な負荷能力を得ることができない回転軸の回転開始時や低速回転時に、回転軸の外周面と軸受の摺動面との接触を防止することを目的として、軸受の摺動面に開口させた給油孔から、摺動面に高圧の潤滑油を供給するものが提供されている。このような、軸受装置は、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−218132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記従来の軸受装置では、回転軸の回転開始時や低速回転時に、強制的に外部から摺動面の給油孔に潤滑油を高圧で供給して、軸受に負荷能力を持たせるために、給油孔とその周囲とに亘り、摺動面に対して凹んだ溝部を形成するようにしている。
【0006】
しかしながら、このような軸受装置の構成を、ティルティングパッド軸受装置に適用した場合、高圧給油を行う回転軸の回転開始時や低速回転時においては、凹状の溝部内の高圧油によって、その負荷能力が得られるものの、溝部を介した高圧給油を停止する回転軸の高速回転時においては、その溝部によって、油膜による十分なくさび効果が得られないため、その負荷能力が低下し、ティルティングパッドの損傷を招くおそれがある。
【0007】
従って、本発明に係るティルティングパッド軸受装置は上記課題を解決するものであって、回転軸の低速回転時及び高速回転時においても、十分な油膜を形成して、軸受負荷能力の低下を防止することができるティルティングパッド軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する第1の発明に係るティルティングパッド軸受装置は、
回転軸を、その周方向に複数配置されるティルティングパッドを介して、回転可能に支持すると共に、隣接した前記ティルティングパッド間に設けられる給油部から、当該給油部における前記回転軸の回転方向下流側に配置される前記ティルティングパッドに向けて、潤滑油を供給するティルティングパッド軸受装置において、
前記ティルティングパッドの摺動面に開口する給油孔と、
前記給油孔を介して前記摺動面に潤滑油を供給する潤滑油供給手段と、
前記回転軸の回転停止時に、前記回転軸を押圧して前記摺動面から離間させる回転軸押圧手段とを備える
ことを特徴とする。
【0009】
上記課題を解決する第2の発明に係るティルティングパッド軸受装置は、
前記回転軸押圧手段は、前記回転軸を上下方向に振動させる
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
従って、本発明に係るティルティングパッド軸受装置によれば、ティルティングパッドの摺動面における凹部を最小限に抑えることができるので、回転軸の低速回転時及び高速回転時においても、十分な油膜を形成させることができ、軸受負荷能力の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例に係るティルティングパッド軸受装置の概略構成図である。
【図2】図1のA−A矢視断面図である。
【図3】ティルティングパッドの外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るティルティングパッド軸受装置について、図面を用いて詳細に説明する。なお、図中の2点鎖線は、潤滑油の供給方向を示している。
【実施例】
【0013】
図1及び図2に示すように、ティルティングパッド軸受装置1には、タービンや発電機等の大形回転機械の回転軸11が回転可能に支持されている。回転軸11の一端側及び他端側における径方向外側には、環状の軸受ハウジング21が設けられており、この軸受ハウジング21の内周面には、ピボット22a,22b,22c,22dが等角度間隔で設けられている。
【0014】
ピボット22a,22b,22c,22dには、ティルティングパッド23a,23b,23c,23dが揺動(傾斜)可能に支持されている。これらティルティングパッド23a,23b,23c,23dは、回転軸11の外周面に沿うような所定の曲率を有する摺動面24a,24b,24c,24dを有している。
【0015】
また、各ティルティングパッド23a,23b,23c,23d間には、給油ノズル(給油部)31が回転軸11に向けて設けられており、これら給油ノズル31には、第1潤滑油供給用ポンプ32が接続されている。従って、第1潤滑油供給用ポンプ32を駆動することにより、給油ノズル31から、当該給油ノズル31における回転軸11の回転方向下流側に隣接するティルティングパッド23a,23b,23c,23dの摺動面24a,24b,24c,24dに向けて、潤滑油が供給されることになる。
【0016】
更に、回転軸11の中心よりも下方に配置される2つのティルティングパッド23b,23cの摺動面24b,24cの中央部には、給油孔41が開口されている。この給油孔41は、ティルティングパッド23b,23c内部に形成される給油通路42と連通しており、この給油通路42には、第2潤滑油供給用ポンプ(潤滑油供給手段)43が接続されている。従って、第2潤滑油供給用ポンプ43を駆動することにより、給油孔41から摺動面23a上に潤滑油が供給されることになる(図3参照)。
【0017】
そして、軸受ハウジング21の軸方向内側及び外側における回転軸11の下方には、油圧ジャッキ51が設けられており、この油圧ジャッキ51の押圧部51aは、回転軸11をその下方から上方に向けて押圧可能となっている。また、油圧ジャッキ51には、ジャッキ駆動用ポンプ52が接続されている。なお、油圧ジャッキ51及びジャッキ駆動用ポンプ52は、回転軸押圧手段を構成するものである。
【0018】
従って、ジャッキ駆動用ポンプ52を駆動することにより、油圧ジャッキ51の押圧部51aが上昇(伸長)及び下降(短縮)を繰り返すため、回転軸11が上下方向に振動することになる。即ち、回転軸11が、当該回転軸11の中心よりも下方に配置されるティルティングパッド23b,23cの摺動面24b,24cから、間欠的に上方に離間されることになる。
【0019】
よって、回転軸11を回転させる場合には、先ず、回転軸11を停止させた状態で、第2潤滑油供給用ポンプ43を駆動させ、潤滑油を給油孔41に供給する。なお、停止状態の回転軸11は、ティルティングパッド23b,23cの摺動面24b,24cに載っており、ティルティングパッド23a,23dの摺動面24a,24dには接触していない。このとき、回転軸11の外周面とティルティングパッド23b,23cの摺動面24b,24cとが密着し、給油孔41が塞がれているため、その摺動面24b,24cには、潤滑油が供給されていない。
【0020】
次いで、ジャッキ駆動用ポンプ52を駆動させ、油圧ジャッキ51の押圧部51aを繰り返し上下動させる。これにより、回転軸11が上下方向に振動するため、この回転軸11の上昇(離間)中においては、潤滑油が給油孔41からティルティングパッド23b,23cの摺動面24b,24c上に染み出ることになる。
【0021】
そして、更に、回転軸11を上下方向に振動させ、給油孔41からティルティングパッド23b,23cの摺動面24b,24c上に、潤滑油を十分に供給させる。
【0022】
次いで、ジャッキ駆動用ポンプ52を停止させる。これにより、回転軸11の外周面とティルティングパッド23b,23cの摺動面24b,24cとの間に油膜が形成されているため、回転軸11がその摺動面24b,24cから浮上した状態となる。
【0023】
そして、回転軸11の回転を開始する。このように、回転軸11の回転が開始され、当該回転軸11の回転速度が所定の回転速度を超えた場合、即ち、低速回転から高速回転に変わった場合には、第2潤滑油供給用ポンプ43を停止させ、給油孔41からの潤滑油の供給を停止すると共に、第1潤滑油供給用ポンプ32を駆動させ、潤滑油を給油ノズル31からその回転方向下流側のティルティングパッド23a,23b,23c,23dの摺動面24a,24b,24c,24dに供給する。これにより、回転軸11の外周面とその摺動面24a,24b,24c,24dとの間に、動圧発生に必要なくさび状油膜が形成され、回転速度に関わらず、回転軸11の振動が減衰されることになる。
【0024】
なお、給油ノズル31からの潤滑油の供給は、給油孔41からの潤滑油の供給開始と同時に行うようにしたり、回転軸11の低速回転時から行うようにしたりしても構わない。
【0025】
従って、本発明に係るティルティングパッド軸受装置1によれば、回転軸11の回転停止時に、給油孔41を介して下方に配置されるティルティングパッド23b,23cの摺動面24b,24cに潤滑油を供給すると共に、回転軸11を押圧して上下方向に振動させることにより、摺動面23b,23cにおける凹部を、給油孔41のみに抑えることができる。これにより、回転軸11の低速回転時及び高速回転時においても、十分な油膜を形成させることができるので、軸受負荷能力の低下を防止することができる。
【0026】
また、回転軸11の回転停止時に、回転軸11を上下方向に振動させて、ティルティングパッド23b,23cの摺動面24b,24cに潤滑油を供給することにより、常に回転軸11を摺動面23b,23cから上方に離間させる場合と比較して、第2潤滑油供給用ポンプ43の小型化を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、潤滑油量の低減を図ることを目的としたティルティングパッド軸受装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0028】
1 ティルティングパッド軸受装置
11 回転軸
21 軸受ハウジング
22a〜22d ピボット
23a〜23d ティルティングパッド
24a〜24b 摺動面
31 給油ノズル
32 第1潤滑油供給用ポンプ
41 給油孔
42 給油通路
43 第2潤滑油供給ポンプ
51 油圧ジャッキ
52 ジャッキ駆動用ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を、その周方向に複数配置されるティルティングパッドを介して、回転可能に支持すると共に、隣接した前記ティルティングパッド間に設けられる給油部から、当該給油部における前記回転軸の回転方向下流側に配置される前記ティルティングパッドに向けて、潤滑油を供給するティルティングパッド軸受装置において、
前記ティルティングパッドの摺動面に開口する給油孔と、
前記給油孔を介して前記摺動面に潤滑油を供給する潤滑油供給手段と、
前記回転軸の回転停止時に、前記回転軸を押圧して前記摺動面から離間させる回転軸押圧手段とを備える
ことを特徴とするティルティングパッド軸受装置。
【請求項2】
請求項1に記載のティルティングパッド軸受装置において、
前記回転軸押圧手段は、前記回転軸を上下方向に振動させる
ことを特徴とするティルティングパッド軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−179548(P2011−179548A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−42480(P2010−42480)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】