説明

テトラオキシ−シラン潤滑油組成物

【課題】潤滑油組成物に耐摩耗性添加剤、耐疲労性添加剤および極圧剤として使用するのに適した無リン無硫黄添加剤を提供する。
【解決手段】主要量の潤滑粘度の油、および一般式Si−X4(式中、Xは独立に、ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、アシルオキシ、アミノ、モノアルキルアミノおよびジアルキルアミノからなる群より選ばれる)を有する四官能の加水分解性シラン化合物、またはその加水分解生成物を含む潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に使用して、潤滑にすべき構成部分に保護膜、すなわち耐摩耗膜を形成するための四官能の加水分解性シラン組成物に関するものである。特には、本発明は、潤滑油組成物に耐摩耗性添加剤、耐疲労性添加剤および極圧剤として使用するのに適したリンも硫黄も含まない添加剤の部類に関する。
【背景技術】
【0002】
リン、特にジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)により供給されるリンが、過去50年間、最終調合潤滑剤の主な耐摩耗性添加剤であった。未燃焼炭化水素や窒素酸化物からなる排出ガスを低減するためにガソリンエンジンに使用される触媒コンバータを、リンが毒することが研究によって示唆されている(非特許文献1、2及び3)。排出ガスを統制する環境規制が強化されるにつれて、エンジン油中のリンの許容濃度も著しく低減されてきている。次期候補のGF−5のエンジン油ではリン分の更なる低減がありそうで、おそらくは0.05質量%まで下がるであろう。
【0003】
Zn、PまたはSのいずれかが一部でも全部を排除するために、多くの部分解決策がある。一つの方法としてチャン、外(非特許文献4)により、ZDDPおよびDDP(ジアルキルジチオリン酸塩)から生じる摩擦膜の生長と形態学について、広範囲の摩擦時間(10秒乃至10時間)及び濃度(ZDDP0.1−5質量%)にわたって、原子間力鏡検法(AFM)、X線光電子分光法(XPS)、並びにO、P及びSのK端とP、S及びFeのL端でのX線吸収端構造(XANES)分光法を使用して研究がなされた。カメロン・プリント(Cameron-Plint)試験機を用いて52100鋼上に発生する被膜全ての主成分は、リン酸及びポリリン酸のZn及びFe塩である。PのK端XANES及びXPSプロファイリングを使用して、これらリン酸塩膜の平均膜厚が測定された。ZDDPでは、10秒後に非常に大きなリン酸塩膜(膜厚約100オングストローム)が形成されるが、一方、DDPの被膜生長は基本的にもっと遅い。だが、両添加剤とも30分間摩擦した後の平均膜厚は、600〜800オングストロームまで増加し、そののちは変化しないか、あるいは減少する。
【0004】
また、純粋なZDDPおよびDDPと組み合わせたZDDPの耐摩耗性についても、様々な摩擦時間と濃度で試験された。あらゆる条件下でZDDPの耐摩耗性添加剤としての性能は、DDPの性能よりも優れていることが分かった。だが、DDPは両者を混ぜ合わせてもZDDPの性能に悪影響を与えることがなく、DDPをZDDPと一緒に使用して、それにより全灰分の量を低減することが明らかにされている。
【0005】
灰分を低減する別の方法が、マンカ(Manka)により特許文献1に展開されていて、下記の成分を含む組成物である。
(A)下記式で表される化合物:
【0006】
【化1】

【0007】
(式中、R1、R2、R3およびR4は独立に炭化水素基であり、そしてX1およびX2は独立にOまたはSであり、そしてnは0〜3である);
(B)脂肪族炭素原子数が少なくとも10の置換基を持つ窒素含有アシル化化合物。
一態様ではその発明に係る組成物は更に、(A)以外の第二のリン化合物(C)を含み、該第二リン化合物は、リン酸、リン酸エステル、リン酸塩またはそれらの誘導体である。別の態様では発明に係る組成物は更に、有機硫黄酸、カルボン酸又はフェノールのアルカリ又はアルカリ土類金属塩(D)を含んでいる。さらに別の一態様では発明に係る組成物は更に、チオカルバメート(E)を含んでいる。これらの組成物は、耐摩耗性が増大した潤滑油組成物および機能液とするのに有用である。つまり、開示されている組成物はトラクタ用油圧作動油として有用であり、耐摩耗性能および耐かじり性能の増大を示す。
【0008】
特許文献2では、発明として耐摩耗性および酸化防止性が主張されている。耐摩耗性と酸化防止性を有する潤滑剤添加剤は、チオジカルボン酸とエーテルアミン、好ましくは3,3’−チオジプロピオン酸とN−イソエイコシルオキシプロピル−1,3−ジアミノプロパンとの反応生成物を、脂肪族アルコール、好ましくはオレイルアルコール、脂肪族アミン、好ましくはtert−C12〜C14アミン、および/または亜リン酸トリアルキル、好ましくは亜リン酸トリブチルと後反応させたものである。後反応生成物は、少なくとも一個のエステル、アミドおよび/またはホスホネート官能基を含んでいる。有益な耐摩耗性能を支持する四球試験のデータが得られている。
【0009】
特許文献3には、リンを含まない補助摩耗防止剤が記載されている。この開示文献には、油中に大量のスス(スス含量:0.20〜4.0質量%)を含んで作動するディーゼルエンジン用の、摩耗防止特性が増大した潤滑油組成物が提供されていて、特に排出ガス再循環(EGR)装置を備えた蓄圧(コモンレール)型ディーゼルエンジンに適している。特許請求に係る潤滑油組成物は、鉱油および/または合成油からなる基油を含み、かつMoとして0.03乃至0.50質量%の硫化オキシモリブデンジチオカルバメート;Pとして0.04乃至0.05質量%のジアルキルジチオンリン酸亜鉛;並びにCaとして0.004乃至1.0質量%のアルキルサリチレートのCa塩、Mgとして0.002乃至0.60質量%のアルキルサリチレートのMg塩、およびZnとして0.006乃至1.60質量%のアルキルサリチレートのZn塩からなる群より選ばれる少なくとも一種のアルキルサリチレートの金属塩である、少なくとも三種の添加剤が混ぜ合わされている、ただし、パーセントは全て全組成物に基づく。SRV摩擦/摩耗試験機にて台上試験が行われている。
【0010】
上記の参考文献には主として、PまたはSを含有する補助摩耗防止剤が記載されている。しかし、残念ながら、排ガス要求条件の強化によって、PもSもZnも含まない摩耗防止剤が要求されている。特許文献4には、潤滑剤に熱安定性を付加するためにトリアルキルシラン類が開示され、また特許文献5には、酸化改善のためにフェニルトリアルキルシラン類が開示されている。三官能の加水分解性シラン類は、燃料及び潤滑剤組成物での用途が見い出だされている。特許文献6には、燃料組成物に使用するための有機硝酸エステル発火促進剤とトリアルコキシシランとの添加剤混合物が開示されている。特許文献7には、ビス−(トリアルコキシシリル)アルキルポリスルフィド類、並びにポリシロキサン類を含む他の関連グループが開示されている。ビス及び高分子シラン化合物は、ASTM D4172試験を使用してファレックス四球摩耗痕の減少を示している。
【0011】
特許文献8には、2〜35質量%、好ましくは5質量%の量で使用されると潤滑油の耐摩擦特性と耐食特性を改善する潤滑剤添加剤が、一般式(AlkO)3SiRR’(式中、AlkOはアルコキシ基であり、Rはアルキル基、アリール基またはアルケニル基であり、そしてR’はNH2、CO2H、COH、OHまたはCNなどの官能基である)を有するトリアルコキシオルガノシラン類であることが開示されている。
【0012】
特許文献9には、一般式R−Si(OR13[式中、RはC1-24アルキルまたはC2-24アルコキシアルキルであり、そしてR1はC1-12アルキルまたはC2-12アルコキシアルキルである、ここで、アルコキシアルキルは、−Cn−O−Cm−(ただし、nとmの和は、Rの場合には2〜24であり、R1の場合には2〜12である)で表されるエーテル基を意味する]を有するトリアルコキシシランから誘導された縮合重合体を約0.01乃至5質量%含み、耐疲労性を改善する潤滑剤組成物が開示されている。
【0013】
特許文献10には、シラン化合物、例えば、a):R1Si(OR)3、b):(R12Si(OR)2、及びc):(R13SiOR[但し、R=H、C1-18アルキル、C2-18アルケニル、C6-18アリールであり、そしてR1=C6-50アルケニル(任意に、N、O及び/又はS原子を含み、あるいはヒドロキシル、カルボニル、アルコキシカルボニル、アルケノキシカルボニルまたはアリールオキシカルボニルで置換されている)、またはC6-50アリールである]からなる添加剤が開示されている。特許請求されているのは、(i)この添加剤(群)0.05−10質量%を含むエンジン用潤滑油組成物;(ii)(A)この添加剤(群)、(B)基油中の金属清浄剤(群)、(C)極圧潤滑剤(群)、および(D)無灰分散剤(群)を含む組成物である。この添加剤は、エンジンのピストンの清浄性を改善し、それにより添加されたリン型極圧剤およびエステル型油性向上剤の量の低減を可能にして、エンジン油の寿命を延ばすと述べられている。また、組成物には高い摩擦低減効果があるとも述べられている。
【0014】
【特許文献1】米国特許第5674820号明細書
【特許文献2】米国特許第5405545号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/0148899A1号明細書
【特許文献4】米国特許第4572791号明細書
【特許文献5】米国特許第5120485号明細書
【特許文献6】米国特許第4541838号明細書
【特許文献7】米国特許第6887835号明細書
【特許文献8】露国特許第SU−245955号明細書(1969年6月11日)
【特許文献9】英国特許第1441335号明細書
【特許文献10】特開平8−337788公報(1996年12月24日)
【非特許文献1】スピアロット(Spearot, J.A.)、及びカラシオロ(Caracciolo, F.)著、「連邦耐久性及び高速車両試験におけるエンジン油リンの触媒コンバータ性能への影響(Engine Oil Phosphorus Effects on Catalytic Converter Performance in Federal Durability and High Speed Vehicle Tests)」、1977年、SAE(アメリカ自動車技術者協会)技術論文(Technical Paper)770637
【非特許文献2】カラシオロ(Caracciolo, F.)、及びスピアロット(Spearot, J.A.)著、「エンジン油添加剤の理論排ガス制御(C−4)装置の劣化に対する影響(Engine Oil Additive Effects on the Deterioration of a Stoichiometric Emissions Control (C-4) System)」、1979年、SAE技術論文790941
【非特許文献3】ウエダ(Ueda, F.)、スギヤマ(Sugiyama, S.)、アリムラ(Arimura, K.)、ハマグチ(Hamaguchi, S.)、及びアキヤマ(Akiyama, K.)著、「エンジン油添加剤のモノリス三元触媒及び酸素センサーの失活に対する影響(Engine Oil Additive Effects on Deactivation of Monolithic Three-Way Catalysts and Oxygen Sensors)」、1994年、SAE技術論文940746
【非特許文献4】ツァン(Zhang, Z.)、ヤマグチ(Yamaguchi, E.S.)、カスライ(Kasrai, M.)、バンクロフト(Bancroft, G.M.)著、「ZDDP及び無灰ジアルキルジチオリン酸塩(DDP)から鋼表面に生じた摩擦膜、第1部、生長、摩耗及び形態学的側面(Tribofilms Generated From ZDDP and ashless dialkyldithiophosphate (DDP) on Steel Surfaces, Part 1, Growth, Wear, and Morphological Aspects)」、2005年、トライボロジー・レターズ(Tribology Letters)、第19巻、第3号、p.211−220
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、潤滑油組成物に使用して、潤滑にすべき構成部分に保護膜、すなわち耐摩耗膜を形成するための四官能の加水分解性シラン組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は一部では、主要量の潤滑粘度の油、および一般式Si−X4(式中、Xは独立に、ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、アシルオキシ、アミノ、モノアルキルアミノおよびジアルキルアミノからなる群より選ばれる)を有する四官能の加水分解性シラン化合物、またはその加水分解生成物を含む潤滑油組成物に関する。この態様では、Xは、独立にC1-6アルコキシ、C6-10アリールオキシおよびC1-6アシルオキシからなる群より選ばれ、そして一部では商業的入手性ゆえに、更に好ましくはC1-6アルコキシである。
【0017】
特に好ましい潤滑油組成物は、主要量の潤滑粘度の油、および下記式Iの化合物またはその加水分解生成物から選ばれる四官能の加水分解性シラン化合物を含んでいる。
【0018】
【化2】

【0019】
式中、各Rは独立に、直鎖及び分枝鎖アルキル、シクロアルキル、アルクシクロアルキル、アリール、アルカリール、アリールアルキル、およびヒドロキシ基、アルコキシ基、エステル基またはアミノ基から選ばれる1個以上の置換基を持つ置換炭化水素基からなる群より選ばれるC1-20炭化水素基であり、各R1は独立に、直鎖または分枝鎖のアルキル、シクロアルキルおよびアリールであり、そしてaは、0〜4の整数である。
【0020】
テトラ(アシルオキシ)シラン類は一般に、アルコキシシラン類またはアリールオキシシラン類よりも加水分解を起こしやすく、よって一般にaは、0より大きい整数で、例えば1乃至4、好ましくは2乃至4、更に好ましくは4の整数である。この態様では、特に好ましい上記式Iのテトラ−アルコキシシラン類は、Rが、アルキル基、アリール基、アルカリール基およびアリールアルキル基からなる群、好ましくはC1-6アルキル基のような直鎖または分枝鎖アルキル基からなる群より選ばれるものである。この点に関して四官能の加水分解性シラン化合物は、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラキス(メトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシプロポキシ)シラン、テトラキス(エトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシエトキシエトキシ)シラン、トリメトキシエトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、およびトリエトキシメトキシシラン、またはそれらの混合物からなる群より選ばれる。特に好ましい四官能の加水分解性シラン化合物はテトラエトキシシランである。
【0021】
上記式Iの四官能の加水分解性シラン化合物は、ヒドロキシル基、アルコキシ基、エステル基またはアミノ基から選ばれる一個以上の置換基で置換されている少なくとも1個のC1-20炭化水素基Rを持っていてもよく、好ましくは少なくとも1個の置換炭化水素基は、グリコールモノエーテルまたはアミノアルコールから誘導されたものである。
【0022】
本発明の別の態様は、主要量の潤滑粘度の油、および一般式Si−X4(式中、Xは独立に、C1-6アルコキシ、C6-10アリールオキシおよびC1-6アシルオキシからなる群より選ばれる)を有する四官能の加水分解性シラン化合物またはその加水分解生成物の混合物を含み、更に下記式IIで表される部分非加水分解性シラン添加剤を含む潤滑油組成物に関する。
【0023】

(R10nSi(OR114-n (II)
【0024】
式中、OR11基は、アルコキシ、アリールオキシおよびアシルオキシからなる群より選ばれる加水分解性部であり、R10は、アルキル、アリール、置換アルキルおよび置換アリールから選ばれる非加水分解性基であり(ただし、置換基は、ヒドロキシル、エーテル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アミド、カルボキシル、メルカプト、チオエーテル、アクリルオキシ、シアノ、アルデヒド、アルキルカルボニル、スルホン酸およびリン酸から選ばれる官能基である)、そしてnは、1、2または3の整数である。好ましい態様では、OR11基は独立に、C1-6アルコキシ、C6-10アリールオキシおよびC1-6アシルオキシからなる群より選ばれる。好ましくは、R10はアルキルまたはアリールである。
【0025】
特に好ましい上記式IIの部分非加水分解性シラン添加剤は、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、4−メチル−2−ペンチルトリエトキシシラン、4−メチル−2−ペンチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、2−(3−シクロヘキセニル)エチルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリメトキシシラン、フェネチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリプロポキシシラン、3−アミノプロピルトリブトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3−イソシアノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、4−(2−アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルトリエトキシシラン、3−シアノプロピルトリエトキシシラン、3−エトキシプロピルトリメトキシシラン、3−エトキシプロピルトリメトキシシラン、3−プロポキシプロピルトリメトキシシラン、3−メトキシエチルトリメトキシシラン、3−エトキシエチルトリメトキシシラン、および3−プロポキシエチルトリメトキシシランからなる群より選ぶことができる。更に好ましい部分非加水分解性シラン添加剤は、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリプロポキシシラン、3−アミノプロピルトリブトキシシラン、および4−アミノブチルトリエトキシシランから選ばれる。
【0026】
本発明の潤滑剤組成物は、清浄剤、分散剤および酸化防止剤など、その所定の目的で知られている他の潤滑剤添加剤を含有していてもよい。よって、一態様は、下記の成分を含む内燃機関用潤滑油組成物に関する:
a)主要量の潤滑粘度の基油、
b)0.5乃至10%の、下記式Iの化合物またはその加水分解生成物から選ばれる四官能の加水分解性シラン化合物、
【0027】
【化3】

【0028】
(式中、各Rは独立に、直鎖及び分枝鎖アルキル、シクロアルキル、アルクシクロアルキル(アルキルシクロアルキル)、アリール、アルカリール、アリールアルキル、およびヒドロキシ基、アルコキシ基、エステル基またはアミノ基から選ばれる1個以上の置換基を持つ置換炭化水素基からなる群より選ばれるC1-20炭化水素基であり、
各R1は独立に、直鎖及び分枝鎖アルキル、シクロアルキルおよびアリールであり、そして
aは、0〜4の整数である)
c)0.5乃至10%の清浄剤、
d)1乃至20%の、平均分子量450乃至3000のポリアルキレンから誘導されたアルケニルコハク酸イミド分散剤、
ただし、添加剤のパーセントは潤滑油組成物の全質量パーセントに基づく。
【0029】
特に好ましい上記b)に係る四官能の加水分解性シラン化合物は、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラキス(メトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシプロポキシ)シラン、テトラキス(エトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシエトキシエトキシ)シラン、トリメトキシエトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、およびトリエトキシメトキシシランからなる群より選ばれる。
【0030】
この潤滑油組成物の別の態様は、さらに、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリプロポキシシラン、3−アミノプロピルトリブトキシシラン、および4−アミノブチルトリエトキシシランからなる群より選ばれる部分非加水分解性シランを、約0.5乃至10%含むことにある。
【発明の効果】
【0031】
本発明の潤滑油組成物は、耐摩耗性添加剤、耐疲労性添加剤および極圧剤として使用するのに適したリンも硫黄も含まない添加剤を用いる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
ケイ素のエステル類は、ケイ素原子と有機基を結ぶ酸素橋、すなわち≡Si−O−Riを含む有機ケイ素化合物である。最初に報告された四個の酸素橋を含む有機ケイ素化合物は、オルトケイ酸、Si(OH)4の誘導体であった。ケイ酸は、pKが約9.8と11.8の二塩基性であるかのような挙動をとり、そしてシラノール基の縮合またはシリケートイオンの反応により、シリカゲルやシリケートなどの重合体を形成する。普通、有機ケイ素化合物は、その有機命名法によって呼称され、例えばアルコキシ誘導体のSi(OC254はテトラエトキシシランであり、アシルオキシ誘導体のSi(OOCCH34はテトラアセトオキシシランである。
【0033】
オルトケイ酸のエステル類およびそれらの低縮合段階は、最も厳密な意味ではオルガノシランとはみなされない、というのは、オルガノ(オルガノキシ)シランとは違って、テトラ(炭化水素オキシ)シランはケイ素または好適な天然シリケートとアルコールから直接合成することができるからである。テトラ(炭化水素オキシ)シランには各種の用途があるが、それら用途は多少なりとも、最終用途でSi−O−Ri結合がそのままであると予測されるか、あるいは加水分解されると予測されるかに係っている。テトラ(炭化水素オキシ)シランは、高分子加水分解物中に最大四つのマトリックス配位を含むことができ、よって三つのマトリックス配位を持つアルキル及びアリールトリアルコキシシランよりも硬い被膜になることができる。同様に、モノアルコキシシランは単層または部分単層しか形成することができない。金属面への吸着における加水分解は、カルボン酸エステルおよびある種のリン酸エステルでは室温で観察されている。従って、金属面は反応性であると言える。だが、金属面への吸着も荷重を掛けた摩擦も一般に、オルトケイ酸のエステルの場合には熟成した耐摩耗膜を生成させる必要がある。こうして生成した被膜は、Siを含むことが分かっていて、以降の実施例で明らかになるように摩耗を防ぐのに効果がある。被膜は多層の単層であろう。多層は、ゆるい網目構造で連続しているか、混ぜ合わさっているか、あるいはその両方であり、実際に大抵の蒸着技術によって形成される。また、これら被膜は、他の表面活性成分、例えば清浄剤、耐摩耗性添加剤、分散剤等も含むことができ、特有の保護膜となることができる。金属面との共有結合の形成は、更なる縮合で水素結合度を減少させながら、ある一定量の可逆性を有して進行する。同様に、水の除去によって共有結合が生成したり、壊れたり、再生成したりして被膜の内部応力を和らげ、また界面成分が位置的にずれるのを可能にする。
【0034】
Si−O−Ri結合は、加水分解や縮合の他に種々の反応を進行させる。アルコキシ部は、立体的嵩を増大させて油溶性および安定性を改善することができるが、アルコキシ基の大きさの増大は加水分解速度を減少させることになる。テトラ(アルコキシ)シランおよびテトラ(アリールオキシ)シランは、広い温度範囲にわたって優れた熱安定性および液体挙動を有し、その温度範囲は置換基の長さと分枝によって広がる。アシルオキシ及びアミノ置換シランは一般に、アルコキシシランよりも加水分解を起こしやすい。速度の増加は副生物の酸性または塩基性に帰すことができる。このため、この速度を加速するために、しばしば触媒量のアミンまたは酸が添加される。A表に、市販のシランエステル類の物性を示す。
【0035】
【表1】

【0036】
本発明のケイ素エステル化合物は、多数の合成経路で製造することができる。ケイ素エステル製造の最古の基本方法は、フォン・エベルマン(Von Ebelman)の1846年の合成によって記述されている。
【0037】

SiCl4 + 4C25OH → Si(OC254 + 4HCl
【0038】
1940年代及び1950年代に導入されたケイ素金属を用いるアルコールの直接触媒反応(米国特許第2473260号及び第3072700号の各明細書参照)は、1990年代になって、金属アルコラート触媒の使用による低級エステルの製造(米国特許第4113761号明細書)の点で、重要な商業技術になった。アルコキシシラン製造に使用される他の商業的方法としてはエステル交換がある。エステル化すべきアルコールの沸点が高く、残ったアルコールが蒸留によって除去できる場合に、エステル交換は実用的である。アルコキシシランの他の製造方法は、次のように例示することができる。
【0039】
1)≡SiCl+(RO)3CH → ≡SiOR+RCl+ROOCH
2)≡SiCl+NaOR → ≡SiOR+NaCl
3)≡SiH+HOR(触媒) → ≡SiOR+H2
4)≡SiOH+HOR → ≡SiOR+H2
5)≡SiCl+CH3NO2 → ≡SiOCH3+NO2Cl
6)≡SiSR+HOR → ≡SiOR+H2
7)≡SiCl+HOC(O)R → ≡SiOC(O)R+HCl
8)≡SiCl+HONR’R” → ≡SiONR’R”+HCl
【0040】
アシルオキシシランは、無水物とクロロシランの反応により容易に製造される。アミノシランは、ヒドロキシルアミンとクロロシランの反応および遊離した塩化水素の塩基による除去によって生成する。アシルオキシシランおよびアルコキシ−アシルオキシ−シラン、特にジ−tert−ブトキシジアセトキシシランの製造方法については、米国特許第3296195号、第3296161号、第5817853号及び欧州特許出願公開第0465723号の各明細書に開示されている。
【0041】
テトラアルコキシシランは一般に、スラリー相直接合成法で製造され、しばしば溶媒は生成物そのものである。触媒は、銅でも銅化合物でもよいが、通常は高沸点アルコールのアルカリ又はアルカリ金属塩である。そのような方法は、米国特許第3627807号、第3803197号、第4113761号、第4288604号及び第4323690号の各明細書に開示されている。同様にトリアルコキシシランでは、直接合成法に不活性高沸点溶媒中で懸濁状態に維持された触媒活性ケイ素粒子を用いて、高温でアルコールと反応させる。この種の反応は、米国特許第3641077号、第3775457号、第4727173号、第4761492号、第4762939号、第4999446号、第5084590号、第5103034号、第5362897号及び第5527937号の各明細書に開示されている。アルコキシシランおよびテトラアルコキシシランの直接合成のためのスラリー相反応器は、バッチ式でも連続式でも行なうことができる。バッチ式操作では、初めにケイ素と触媒を反応器に一回で添加し、そしてケイ素が完全に反応するか、あるいは所望の変換度に反応するまで、アルコールを連続的にもしくは間欠的に添加する。アルコールは一般に、気相で添加するが、液相添加も実行可能である。連続式操作では、最初にケイ素と触媒を反応器に添加し、そののちスラリーの固形分を所望の限度内で維持する。バッチ式については、米国特許第4727173号、第5783720号及び第5728858号の各明細書に示されている。反応器から、所望の反応生成物を未反応アルコールと一緒に気相混合物として取り出す。生成物の分離は、蒸留により公知の操作に従って容易に遂行される。トリアルコキシシランの連続直接合成については、米国特許第5084590号明細書に、またテトラアルコキシシランの連続直接合成については、米国特許第3627807号、第3803197号及び第4752647号の各明細書に開示されている。
【0042】
本発明の潤滑油組成物の配合および被膜組成物に使用できる加水分解性四官能のシラン類は、四個の官能基がケイ素原子に結合している。これらの四官能の加水分解性シラン化合物は、一般式Si−X4(式中、Xは独立に、ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、アシルオキシ、アミノ、モノアルキルアミノおよびジアルキルアミノからなる群より選ばれる)を有するか、もしくはその加水分解生成物である。特には、Xは独立に、C1-6アルコキシ、C6-10アリールオキシおよびC1-6アシルオキシからなる群より選ばれる。用いられた加水分解性基は、水で加水分解されてアルコーリシス、エステル交換反応を進行させ、および/または縮合によりポリシロキサン誘導体を生成させる。これら四配位のシラン化合物は、同時に硬度も大きく機械的弾性も高いとの性状を有する三次元被膜の形成をもたらす。
【0043】
「加水分解性基」は、本発明に関しては、適切な条件下で直接に縮合反応を進めることができるか、あるいは適切な条件下で加水分解されて、それにより化合物を生成させることができ、その化合物が縮合反応を進めることができる基を意味する。適切な条件としては、酸性又は塩基性の水性条件で、任意に縮合触媒が存在する条件が挙げられる。従って、「非加水分解性基」は、本発明に使用するとき、適切な条件下で直接に縮合反応を進めることも、加水分解性基を加水分解するための上記条件下で加水分解することもできない基を意味する。
【0044】
特に好ましいのは、下記式Iの化合物またはその加水分解生成物から選ばれる四官能の加水分解性シラン化合物である。
【0045】
【化4】

【0046】
式中、Rは独立に、直鎖及び分枝鎖アルキル、シクロアルキル、アルクシクロアルキル、アリール、アルカリール、アリールアルキル、およびヒドロキシ基、アルコキシ基、エステル基またはアミノ基から選ばれる1個以上の置換基を持つ置換炭化水素基からなる群より選ばれるC1-20炭化水素基であり、R1は独立に、直鎖及び分枝鎖アルキル、シクロアルキルおよびアリールであり、そしてaは、0〜4の整数である。置換炭化水素基は、ケイ素−酸素にアルキレン又はアリーレン架橋基を介して結合し、そして酸素または−NH−基で中断されていてもよいし、あるいはアミノ、アルキル基が1〜8であるモノアルキルアミノまたはジアルキルアミノを末端基としていてもよい。従って、グリコールおよびグリコールモノエーテル、多価アルコールまたは多価フェノールを、上記の(RO)基、一般には低級テトラアルコキシシラン(通常は、メトキシ又はエトキシシラン)とアルコーリシスで反応させて、酸素中断置換基を生成させることができる。よって、例えばテトラエトキシシランは、グリコールモノエーテル残部と反応して3個のエトキシ基または4個のエトキシ基を置換することができる。4個のエトキシ基を置換するためには、一般に少量のナトリウムなどの触媒が用いられてアルカリ金属アルコキシドが生成する。グリコールモノエーテルから製造される特に好ましいテトラアルコキシシランは、式:Si(OCH2CH2ORa4(式中、Raはアルキル、シクロアルキルまたはアリールである)で表される。同様に、テトラアルコキシシランのアルコーリシスをアミノアルコールで行って、アミノアルコキシシランを生成させることもできる。特に好ましいグリコールモノエーテルは、HO−(CH2CH2m20(但し、mは1〜10であり、そしてR20はC1-6アルキルである)から選ばれる。特に好ましいアミノアルコールは、HO−(CH2CH2mN(R212(ただし、R21は独立に水素またはC1-6アルキル、好ましくはモノアルキルまたはジアルキル、より好ましくはジアルキルである)から選ばれる。式Iの加水分解生成物は、式Iの化合物の加水分解と縮合によって生成させることができ、例えば上記Rは−Si(OR)3基で表され、よって一個以上のシロキサン結合が形成される。
【0047】
式Iで表される四官能のシラン類の例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラキス(メトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシプロポキシ)シラン、テトラキス(エトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシエトキシエトキシ)シラン、トリメトキシエトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、トリエトキシメトキシシラン、テトラ−(4−メチル−2−ペントキシ)シラン、およびテトラ−(2−エチルヘキソキシ)シランからなる群より選ばれる加水分解性シラン化合物がある。加水分解生成物は、ポリ(ジメトキシシロキサン)、ポリ(ジエトキシシロキサン)、ポリ(ジメトキシ−ジエトキシシロキサン)、テトラキス(トリメトキシシロキシ)シラン、およびテトラキス(トリエトキシシロキシ)シラン等で表すことができる。さらに、アシルオキシ基を持つ四官能のシラン類の例としては、テトラアセトキシオキシシラン、四プロピオン酸ケイ素および四酪酸ケイ素がある。
【0048】
本発明の組成物は、式Iの四官能のシランに加えて更に、下記式IIの化合物、または一種以上の式IIのシラン添加剤(すなわち、三官能のシラン、二官能のシラン、一官能のシランおよびそれらの混合物)の加水分解生成物と部分縮合物の混合物を、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.1乃至約50質量%含有していてもよい。本発明の潤滑油組成物に混合される追加のシラン添加剤の選択は、潤滑油組成物または形成される被膜のいずれかに増大または付与すべき特性に依存する。任意のシラン添加剤は下記式IIで表される。
【0049】

(R10nSi(OR114-n (II)
【0050】
式中、nは1、2または3であり、−OR11部は加水分解性基であって、n=1または2のとき同じであっても異なっていてもよい。加水分解性−OR11基の例としては例えば、アルコキシ(好ましくは、C1-6アルコキシ、例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシおよびブトキシ)、アリールオキシ(好ましくは、C6-10アリールオキシ、例えばフェノキシ)、およびアシルオキシ(例えばC1-6アシルオキシ、例えばアセトキシまたはプロピオニルオキシ)がある。
【0051】
10は、任意に官能基を持っていてもよい非加水分解性基である。R10の例としては、アルキル(好ましくは、C1-6アルキル、例えばメチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、s−ブチルおよびt−ブチル、ペンチル、ヘキシルまたはシクロヘキシル)、およびアリール(好ましくは、C6-10アリール、例えばフェニルおよびナフチル)がある。
【0052】
基R10の官能基の特定の例としては、ヒドロキシル基、エーテル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アミド基、カルボキシル基、メルカプト基、チオエーテル基、アクリルオキシ基、シアノ基、アルデヒド基、アルキルカルボニル基、スルホン酸基、およびリン酸基がある。これらの官能基は、ケイ素原子にアルキレンまたはアリーレン架橋基を介して結合していて、そして酸素又は硫黄原子または−NH−基で中断されていてもよい。該架橋基は、例えば上記のアルキル基またはアリール基から誘導される。基R10は炭素原子を1〜18個、特には1〜8個含んでいることが好ましい。
【0053】
上に規定した式で表されるシラン添加剤の例としては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、4−メチル−2−ペンチルトリエトキシシラン、4−メチル−2−ペンチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、2−(3−シクロヘキセニル)エチルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリメトキシシラン、フェネチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3−イソシアノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、4−(2−アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルトリエトキシシラン、3−シアノプロピルトリエトキシシラン、3−エトキシプロピルトリメトキシシラン、3−エトキシプロピルトリメトキシシラン、3−プロポキシプロピルトリメトキシシラン、3−メトキシエチルトリメトキシシラン、3−エトキシエチルトリメトキシシラン、3−プロポキシエチルトリメトキシシラン、2−エチルヘキシルトリメトキシシラン、2−エチルヘキシルトリエトキシシラン、2−[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]ヘプタメチルトリシロキサン、[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリメトキシシラン、[メトキシ(ポリエチレンオキシ)エチル]トリメトキシシラン、[メトキシ(ポリエチレンオキシ)プロピル]トリエトキシシラン、および[メトキシ(ポリエチレンオキシ)エチル]トリエトキシシラン等がある。
【0054】
縮合触媒は本発明の潤滑油組成物の基本成分ではないが、縮合触媒の添加は、被膜形成、耐アブレシブ摩耗性、並びに安定性や気孔率、耐苛性アルカリ性、耐水性等を含む他の被膜特性に影響を与えることができる。縮合触媒を用いる場合に、使用する触媒の量は広い範囲で変えることができるが、一般には組成物の全固形分に基づき約0.005乃至約1質量%の量で存在する。
【0055】
本発明の潤滑油組成物に混合することができる触媒、より好ましくは、そのような潤滑油組成物が所期の用途で、例えばエンジン、ギヤ、油圧作動油等用の潤滑剤として用いられるときに供される触媒の例としては、次のものがある:(i)金属アセチルアセトナト、(ii)ジアミド、(iii)イミダゾール、(iv)アミンおよびアンモニウム塩、(v)無機酸、有機酸、有機スルホン酸およびそれらのアミン塩、(vi)カルボン酸のアルカリ金属塩、(vii)アルカリ及びアルカリ土類金属水酸化物及び酸化物、(viii)フッ化物塩、並びに(ix)有機金属。従って、そのような触媒の例としては、(i)群ではアセチル酢酸アルミニウム、亜鉛、鉄及びコバルトのような化合物、(ii)群ではジシアンジアミド、(iii)群では2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールおよび1−シアノエチル−2−プロピルイミダゾールのような化合物、(iv)群ではベンジルジメチルアミンおよび1,2−ジアミノシクロヘキサンのような化合物、(v)群では塩酸、硫酸、硝酸、酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸のような化合物、(vi)群では酢酸ナトリウムのような化合物、(vii)群では水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムのような化合物、(viii)群ではフッ化テトラn−ブチルアンモニウム、並びに(ix)群ではジブチルスズジラウレートおよびスズジ(2−エチルヘキソエート)等を挙げることができる。
【0056】
別の態様では、本発明は、上に規定した組成物の部分縮合から誘導できる組成物を提供する。「部分縮合」および「部分縮合物」は、本発明に関しては、混合物中の幾つかの加水分解性基は反応したが、同時に縮合反応に利用できる相当量の加水分解性基が残っていることを意味する。一般に部分縮合物は、加水分解性基のうちの少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%がまだ縮合反応に利用できることを意味する。
【0057】
別の態様では、本発明は、上に規定した組成物の完全縮合から誘導できる組成物を提供する。「完全縮合」は、本発明に関しては、混合物中の殆ど又は全ての加水分解性基が反応したことを意味する。一般に完全縮合物は、加水分解性基が僅かしか又は全く縮合反応に利用できる状態で残っていないことを意味する。
【0058】
別の態様では、本発明は、上に規定した組成物の成分を有機溶媒中で、水と酸または塩基などの触媒とを存在させて反応させることにより、組成物を含む部分又は完全縮合物を製造する方法を提供する。
【0059】
また別の態様では、本発明は、基板を処理する方法であって、基板表面の少なくとも一部に上に規定した組成物を付与する工程からなる方法も提供する。得られた基板の被膜は、触媒が存在するとすればその選んだ種類にもよるが、一般には約20乃至300摂氏温度で硬化させることが好ましい。組成物を付与したときにその硬化が起こるように基板を予備加熱してもよいし、あるいは基板への組成物の付与と同時に、もしくはそれに続いて加熱を行ってもよい。
【0060】
[潤滑油および潤滑油組成物]
本発明の潤滑油組成物は、本発明の加水分解性四官能のシランを、任意に他の添加剤も用いて、潤滑粘度の油(基油)と一緒に単にブレンドもしくは混合することにより、好適に製造することができる。また、所望の濃度の添加剤を含む潤滑油組成物のブレンドを容易にするために、本発明の化合物をその他各種の添加剤と一緒に適切な比率で、濃縮物またはパッケージとして予備ブレンドしてもよい。本発明の化合物は、耐摩耗効果の改善をもたらし、所望の調合潤滑油において油に溶解し、かつ他の添加剤と混合できる濃度で、基油とブレンドする。この場合の混合性は一般に、適用可能な処理比で油溶性であるぐらい可溶性の本化合物が、普通の条件下で他の添加剤を沈殿させることもないことを意味する。ある化合物の潤滑油配合物における好適な油溶性/混合性の範囲は、当該分野の熟練者であれば日常の溶解度試験法を使用して決定することができる。例えば、配合した潤滑油組成物からの実際の沈殿、もしくは不溶性ろう粒子形成の証拠となる「曇った」溶液の配合のいずれかによって、環境条件(約20℃〜25℃)での油組成物の沈殿を測定することができる。
【0061】
本発明の潤滑油組成物に使用される潤滑油または基油は一般に、例えばエンジン油、ギヤ油、工業用油、切削油など特定の用途に合わせて選択される。例えば、クランクケース用エンジン油として所望されるなら、基油は一般に、ガソリンエンジンや舶用エンジンを含むディーゼルエンジンなどの内燃機関のクランクケースに使用するのに適した粘度の鉱油または合成油である。クランクケース潤滑油の粘度は通常、0°Fで約1300cSt乃至210°F(99℃)で24cStである。潤滑油は合成原料からでも天然原料からでも誘導することができる。天然油としては、動物油および植物油(例えば、ヒマシ油、ラード油)、並びに鉱油が挙げられる。本発明に基油として使用される鉱油としては、パラフィン系油、ナフテン系油、並びに溶剤処理油、水素化処理油またはフィッシャー・トロプシュ法による油を含む、通常潤滑油組成物に使用されるその他の油を挙げることができる。本発明に使用される好ましい潤滑粘度の油は、粘度指数が少なくとも95、好ましくは少なくとも100であるべきである。好ましいものはAPI分類I種乃至IV種油から選ばれ、好ましくはII種、III種およびIV種、または任意にI種とブレンドしたそれらの混合物から選ばれる。合成油としては、炭化水素合成油と合成エステルの両方が挙げられる。使用できる合成炭化水素油としては、適正な粘度を有するアルファオレフィンの液体重合体が挙げられる。特に有用なものはC6−C12アルファオレフィンの水素化液体オリゴマー、例えば1−デセン三量体である。同様に、適正な粘度のアルキルベンゼン、例えばジドデシルベンゼンを使用することもできる。使用できる合成エステルとしては、モノカルボン酸及びポリカルボン酸両方とモノヒドロキシアルカノール及びポリオールとのエステルが挙げられる。代表的な例としては、ジドデシルアジペート、ペンタエリトリトールテトラカプロエート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、およびジラウリルセバケート等がある。モノ及びジカルボン酸とモノ及びジヒドロキシアルカノールとの混合物から合成された複合エステルも使用することができる。また、種々の鉱油、合成油および鉱油と合成油のブレンドも、例えば一定の粘度又は粘度範囲とするのに有利であると言える。一般にエンジン油用基油又は基油混合物は、本発明の燃料経済性添加剤組成物を含めて、種々の添加剤を含有する調整済み潤滑油の100℃粘度が4乃至22センチストークス、好ましくは10乃至17センチストークス、より好ましくは13乃至17センチストークスとなるように予め選択される。
【0062】
一般に潤滑油組成物には、特別な最終用途や使用する基油に応じて、調合済み潤滑油組成物に様々な特性を付与するために所望される各種の混合性添加剤が含有される。そのような添加剤としては、天然及び過塩基性有機スルホネート、および標準及び過塩基性フェネート及びサリチレートなどの補助中性及び塩基性清浄剤、分散剤および/または無灰分散剤を挙げることができる。
【0063】
また、耐摩耗性添加剤、摩擦緩和剤、さび止め添加剤、消泡剤、流動点降下剤、酸化防止剤などその他の添加剤も挙げることができ、いわゆる粘度指数(VI)向上剤、分散型VI向上剤、および前述したように他の腐食防止剤または摩耗防止剤も挙げられる。
【0064】
[清浄剤]
燃焼工程および/または潤滑剤酸化の酸性副生物を中和したり、石けん効果をもたらしてピストンや他の高温表面を清浄に保ち、それによりスラッジを防ぐために、エンジン油用潤滑油配合物には金属清浄剤が広く用いられている。種々の潤滑剤清浄剤を製造するのに、多数の様々な界面活性剤型ものが使用されている。金属清浄剤の一般的な例としては次のものが挙げられる:スルホネート、アルキルフェネート、硫化アルキルフェネート、カルボキシレート、サリチレート、ホスホネート、およびホスフィネート。市販品は一般に中性または過塩基性と称されている。過塩基性金属清浄剤は一般に、炭化水素、清浄剤用酸、例えば:スルホン酸、アルキルフェノール、カルボキシレート等、金属酸化物又は水酸化物(例えば、酸化カルシウムまたは水酸化カルシウム)、および促進剤、例えばキシレン、メタノールおよび水からなる混合物を炭酸塩化することにより製造される。例えば過塩基性カルシウムスルホネートを製造するには、炭酸化の際に、酸化カルシウムあるいは水酸化カルシウムを二酸化炭素ガスと反応させて、炭酸カルシウムを生成させる。スルホン酸を過剰のCaOまたはCa(OH)で中和して、スルホネートを生成させる。
【0065】
金属含有又は灰分形成性清浄剤は、堆積物を低減又は除去する清浄剤としても、また酸中和剤またはさび止め添加剤としても機能し、それにより摩耗および腐食を低減してエンジン寿命を延ばすものである。清浄剤は一般に、長い疎水性尾部を持つ極性頭部からなる。極性頭部は、酸性有機化合物の金属塩からなる。塩は実質的に化学量論量の金属を含み、その場合には通常、標準又は中性塩とみなされ、一般に全塩基価又はTBN(ASTM D2896で測定できて)は0乃至80である。過剰の金属化合物(例えば、酸化物または水酸化物)を酸性ガス(例えば、二酸化炭素)と反応させることにより、大量の金属塩基を取り込ませることができる。得られた過塩基性清浄剤は、金属塩基(例えば、カーボネート)ミセルの外層として中和清浄剤を含んでいる。そのような過塩基性清浄剤のTBNは150又はそれ以上であり、一般にはTBNは250乃至450又はそれ以上である。
【0066】
使用することができる清浄剤としては、金属、特にはアルカリ又はアルカリ土類金属、例えばバリウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウムおよびマグネシウムの油溶性中性及び過塩基性スルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリチレートおよびナフテネート並びに他の油溶性カルボキシレートを挙げることができる。最も普通に用いられる金属は、カルシウムおよびマグネシウム、両方とも潤滑剤に使用される清浄剤中に存在でき、並びにカルシウムおよび/またはマグネシウムとナトリウムの混合物である。特に好都合な金属清浄剤は、TBNが20乃至450の中性及び過塩基性カルシウムスルホネート、TBNが50乃至450の中性及び過塩基性カルシウムフェネート及び硫化フェネート、およびTBNが20乃至450の中性及び過塩基性マグネシウム又はカルシウムサリチレートである。清浄剤の組合せも、過塩基性であっても中性であっても、あるいは両方であっても使用することができる。
【0067】
スルホネートは、石油の精留または芳香族炭化水素のアルキル化により得られたものなどのアルキル置換芳香族炭化水素を、スルホン化することにより一般に得られたスルホン酸から製造することができる。その例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、ジフェニルまたはそれらのハロゲン誘導体をアルキル化して得られたものが挙げられる。アルキル化は、触媒の存在下で炭素原子数約3〜70以上のアルキル化剤を用いて実施することができる。アルカリールスルホネートは通常、アルキル置換芳香族部当り炭素原子約9〜約80個又はそれ以上、好ましくは炭素原子約16〜約60個を含んでいる。
【0068】
油溶性スルホネート又はアルカリールスルホン酸は、金属の酸化物、水酸化物、アルコキシド、炭酸塩、カルボン酸塩、硫化物、ヒドロ硫化物、硝酸塩、ホウ酸塩及びエーテルで中和することができる。金属化合物の量は、所望とする最終生成物のTBNとの関係で選ばれるが、一般には化学量論的に必要な量の約100乃至220質量%(好ましくは、少なくとも125質量%)の範囲にある。
【0069】
フェノールおよび硫化フェノールの金属塩は、酸化物または水酸化物など適当な金属化合物と反応させることにより製造され、そして中性又は過塩基性生成物は当該分野でよく知られた方法により得ることができる。硫化フェノールは、フェノールを、硫黄、もしくは硫化水素、一ハロゲン化硫黄または二ハロゲン化硫黄などの硫黄含有化合物と反応させることにより製造することができ、一般に2つ以上のフェノールを硫黄含有橋で架橋した化合物の混合物である生成物が生成する。
【0070】
カルボキシレート清浄剤、例えばサリチレートは、芳香族カルボン酸を酸化物または水酸化物など適当な金属化合物と反応させることにより製造することができ、そして中性又は過塩基性生成物は当該分野でよく知られた方法により得ることができる。芳香族カルボン酸の芳香族部は、窒素や酸素などのヘテロ原子を含むことができる。好ましくは芳香族部は炭素原子のみを含み、より好ましくは芳香族部は6個以上の炭素原子を含み、例えばベンゼンが好ましい部である。芳香族カルボン酸は、縮合もしくはアルキレン橋で連結した、1個以上のベンゼン環のような1個以上の芳香族部を含んでいてもよい。カルボン酸部は芳香族部に直接結合していても間接的に結合していてもよい。好ましくは、カルボン酸基は芳香族部の炭素原子、例えばベンゼン環の炭素原子に直接結合している。より好ましくは、芳香族部は、芳香族部の炭素原子に直接または間接的に結合できる第二の官能基、例えばヒドロキシ基またはスルホネート基も含んでいる。
【0071】
芳香族カルボン酸の好ましい例としては、サリチル酸およびそれらの硫化誘導体、例えば炭化水素置換サリチル酸およびその誘導体がある。例えば炭化水素置換サリチル酸を硫化する方法は当該分野の熟練者には知られている。サリチル酸は一般に、フェノキシドを例えばコルベ・シュミット法でカルボキシ化することにより製造され、その場合には通常は希釈剤中で、一般に非カルボキシ化フェノールとの混合で得られる。
【0072】
[分散剤]
本発明の組成物に用いられる分散剤は、アルケニルコハク酸イミド、アルケニルコハク酸無水物およびアルケニルコハク酸エステルなどの無灰分散剤、もしくはそのような分散剤の混合物であってよい。
【0073】
無灰分散剤は大まかに幾つかの群に分類される。そのような群の一つは、アミン、アミド、イミン、イミド、ヒドロキシルおよびカルボキシル等を含む一以上の追加の極性官能基を持つカルボン酸エステルを含む共重合体に関する。これらの生成物は、長鎖のアルキルアクリレート又はメタクリレートと上記官能基を持つ単量体との共重合により製造することができる。そのような群としては、アルキルメタクリレート・ビニルピロリジノン共重合体、およびアルキルメタクリレート・ジアルキルアミノエチルメタクリレート共重合体等が挙げられる。さらに、高分子量のアミド及びポリアミドまたはエステル及びポリエステル、例えばテトラエチレンペンタアミン、ポリビニルポリステアレートおよび他のポリステアラミドを用いてもよい。好ましい分散剤はN置換長鎖アルケニルコハク酸イミドである。
【0074】
モノ及びビスアルケニルコハク酸イミドは通常、アルケニルコハク酸又は無水物とアルキレンポリアミンとの反応から誘導される。これらの化合物は一般に下記式を有すると考えられる。
【0075】
【化5】

【0076】
式中、R1は、実質的に分子量が約450乃至3000の炭化水素基であり、すなわち、R1は炭素原子約30〜約200個を含む炭化水素基、好ましくはアルケニル基であり、Alkは、炭素原子数2〜10、好ましくは2〜6のアルキレン基であり、R2、R3およびR4は、C1−C4アルキル又はアルコキシまたは水素から選ばれ、好ましくは水素であり、そしてxは、0〜10、好ましくは0〜3の整数である。アルキレン又はアルケニレンコハク酸又は無水物とアルキレンポリアミンとの実際の反応生成物は、スクシンアミド酸およびコハク酸イミドを含む化合物の混合物からなる。だが、この反応生成物を上記式のコハク酸イミドとして表すことが慣例になっている、というのはこれが混合物の主成分だからである。生成するモノアルケニルコハク酸イミド及びビスアルケニルコハク酸イミドは、ポリアミンとコハク酸基の充填モル比および使用した特定のポリアミンに依存しうる。ポリアミンとコハク酸基の充填モル比が約1:1では、主としてモノアルケニルコハク酸イミドが生成しうる。ポリアミンとコハク酸基の充填モル比が約1:2では、主としてビスアルケニルコハク酸イミドが生成しうる。
【0077】
これらのN置換アルケニルコハク酸イミドは、無水マレイン酸とオレフィン炭化水素を反応させた後、得られたアルケニルコハク酸無水物をアルキレンポリアミンと反応させることにより製造することができる。上記式のR1基、すなわちアルケニル基は、炭素原子2〜5個を含むオレフィン単量体から合成された重合体から誘導されることが好ましい。よって、アルケニル基は、炭素原子2〜5個を含むオレフィンを重合して、分子量が約450乃至3000の範囲にある炭化水素を生成させることにより得られる。そのようなオレフィン単量体の例示としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテンおよびそれらの混合物がある。
【0078】
好ましい態様では、ポリアルキレンコハク酸無水物とアルキレンポリアミンを反応させることにより、アルケニルコハク酸イミドを製造することができる。ポリアルキレンコハク酸無水物は、ポリアルキレン(好ましくは、ポリイソブテン)と無水マレイン酸の反応生成物である。そのようなポリアルキレンコハク酸無水物の製造には、従来のポリイソブテンでも、高メチルビニリデンポリイソブテンでも使用することができる。この製造には熱的方法、塩素化法、ラジカル法、酸触媒法または他の任意の方法を使用することができる。好適なポリアルキレンコハク酸無水物の例としては、米国特許第3361673号明細書に記載の熱的PIBSA(ポリイソブテニルコハク酸無水物)、米国特許第3172892号明細書に記載の塩素化PIBSA、米国特許第3912764号明細書に記載の熱的及び塩素化PIBSAの混合物、米国特許第4234435号明細書に記載の高コハク酸比PIBSA、米国特許第5112507号及び第5175225号の各明細書に記載のポリPIBSA、米国特許第5565528号及び第5616668号の各明細書に記載の高コハク酸比ポリPIBSA、米国特許第5286799号、第5319030号及び第5625004号の各明細書に記載のラジカルPIBSA、米国特許第4152499号、第5137978号及び第5137980号の各明細書に記載の高メチルビニリデンポリブテンから製造されたPIBSA、欧州特許出願公開第0355895号明細書に記載の高メチルビニリデンポリブテンから製造された高コハク酸比PIBSA、米国特許第5792729号明細書に記載の三元共重合体PIBSA、米国特許第5777025号及び欧州特許出願公開第0542380号の各明細書に記載のスルホン酸PIBSA、および米国特許第5523417号及び欧州特許出願公開第0602863号の各明細書に記載の精製PIBSAがある。これら各文献の開示内容も全て参照として本明細書の記載とする。ポリアルキレンコハク酸無水物は、ポリイソブテニルコハク酸無水物であることが好ましい。好ましい一態様では、ポリアルキレンコハク酸無水物は、数平均分子量が少なくとも450、より好ましくは少なくとも900乃至約3000、更に好ましくは少なくとも約900乃至約2300であるポリイソブテニルコハク酸無水物である。
【0079】
別の好ましい態様では、ポリアルキレンコハク酸無水物の混合物が用いられる。この態様では、混合物は低分子量のポリアルキレンコハク酸無水物成分と、高分子量のポリアルキレンコハク酸無水物成分とからなることが好ましい。より好ましくは、低分子量成分の数平均分子量は約450乃至1000未満であり、高分子量成分の数平均分子量は1000乃至約3000である。更に好ましくは、低分子量成分も高分子量成分も共にポリイソブテニルコハク酸無水物である。あるいは、様々な分子量のポリアルキレンコハク酸無水物成分を、分散剤としてまた上に明らかにしたような他の上記分散剤との混合物として組み合わせることができる。
【0080】
また、ポリアルキレンコハク酸無水物は清浄剤と混ぜ合わせることもでき、清浄剤混合物の安定性および混合性を改善すると思われる。清浄剤と一緒に用いられる場合にポリアルキレンコハク酸無水物は、清浄剤混合物の0.5乃至5質量%、好ましくは約1.5乃至4質量%を占めることができる。
【0081】
コハク酸イミドを製造するのに使用される好ましいポリアルキレンアミンは、下記式を有する。
【0082】
【化6】

【0083】
式中、zは0〜10の整数であり、そしてAlk、R2、R3およびR4は前に定義した通りである。アルキレンアミンとしては主に、メチレンアミン、エチレンアミン、ブチレンアミン、プロピレンアミン、ペンチレンアミン、ヘキシレンアミン、ヘプチレンアミン、オクチレンアミン、その他のポリメチレンアミン、またピペラジンおよびアミノアルキル置換ピペラジンのようなアミンの環状物及び高次類似物も挙げることができる。それらの例示としては具体的には、エチレンジアミン、トリエチレンテトラアミン、プロピレンジアミン、デカメチルジアミン、オクタメチレンジアミン、ジヘプタメチレントリアミン、トリプロピレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、トリメチレンジアミン、ペンタエチレンヘキサアミン、ジトリメチレントリアミン、2−ヘプチル−3−(2−アミノプロピル)−イミダゾリン、4−メチルイミダゾリン、N,N−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、1,3−ビス(2−アミノエチル)イミダゾリン、1−(2−アミノプロピル)−ピペラジン、1,4−ビス(2−アミノエチル)ピペラジン、および2−メチル−1−(2−アミノブチル)ピペラジンがある。このような高次類似物は、二以上の上記アルキレンアミンを縮合することにより得られ、同様に有用である。エチレンアミンは特に有用である。それらについては、化学技術大辞典(Encyclopedia of Chemical Technology)、カーク・オスマー(Kirk-Othmer)著、第5巻、p.898−905の「エチレンアミン類」の項目(インターサイエンス・パブリッシャーズ(Interscience Publishers)、ニューヨーク、1950年)に詳しく記載されている。「エチレンアミン」は、包括的な意味で使用され、大部分が下記構造に当てはまるポリアミンの部類を意味する。
【0084】

2N(CH2CH2NH)a

ただし、aは1〜10の整数である。
【0085】
従って、その例としては、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラアミン、テトラエチレンペンタアミン、およびペンタエチレンヘキサアミン等を挙げることができる。本発明のアルケニルコハク酸イミド組成物に使用される個々のアルケニルコハク酸イミドは、米国特許第2992708号、第3018250号、第3018291号、第3024237号、第3100673号、第3172892号、第3202678号、第3219666号、第3272746号、第3361673号、第3381022号、第3912764号、第4234435号、第4612132号、第4747965号、第5112507号、第5241003号、第5266186号、第5286799号、第5319030号、第5334321号、第5356552号、第5716912号の各明細書に開示されているような従来法により製造することができ、その開示内容も全て如何なる目的であれ参照として本明細書の記載とする。
【0086】
また、「アルケニルコハク酸イミド」には、米国特許第4612132号(ウォレンベルグ、外)及び第4746446号(ウォレンベルグ、外)の各明細書等に開示のホウ酸塩またはエチレンカーボネートを含む後処理法、並びにその他の後処理法で後処理したコハク酸イミドも含まれ、その各開示内容も全て参照として本明細書の記載とする。カーボネート処理したアルケニルコハク酸イミドは、分子量が450乃至3000、好ましくは900乃至2500、より好ましくは1300乃至2300、好ましくは2000乃至2400のポリブテン、並びにこれら分子量の混合物から誘導されたポリブテンコハク酸イミドであることが好ましい。ポリブテンコハク酸イミドは、米国特許第5716912号明細書に教示されているように、反応条件下で、ポリブテンコハク酸誘導体、不飽和酸性試薬とオレフィンの不飽和酸性試薬共重合体およびポリアミンの混合物を反応させることより製造することが好ましく、その内容も参照内容として本明細書の記載とする。
【0087】
アルケニルコハク酸イミド成分は、潤滑剤組成物の質量の1乃至20質量%、好ましくは2乃至12質量%、より好ましくは4乃至8質量%を占めることが好ましい。
【0088】
少量の耐摩耗性添加剤、金属二炭化水素ジチオリン酸塩を潤滑剤組成物に添加することが好ましい。金属は亜鉛であることが好ましい。二炭化水素ジチオリン酸塩は、0.1乃至2.0質量%の量で存在してよいが、一般には低リン組成物が望ましく、よって二炭化水素ジチオリン酸塩は0.25乃至1.2、好ましくは0.5乃至0.7質量%で潤滑油組成物に用いられる。好ましくは、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)が使用される。これは、潤滑油組成物に酸化防止性および耐摩耗性をもたらす。そのような化合物は、公知技術に従って、まず通常はアルコールまたはフェノールとP25の反応によりジチオリン酸を生成させ、次いでジチオリン酸を適当な亜鉛化合物で中和することにより製造することができる。第一級及び第二級アルコールの混合物を含めてアルコールの混合物を使用してもよい。そのようなアルコールの例としては、次のリストに限定されるものではないが、次のものを挙げることができる:イソ−プロパノール、イソ−オクタノール、2−ブタノール、メチルイソブチルカルビノール(4−メチル−1−ペンタン−2−オール)、1−ペンタノール、2−メチルブタノール、および2−メチル−1−プロパノール。炭化水素基は、第一級、第二級またはそれらの混合物であってよく、例えば化合物は、第一級又は第二級炭素原子から誘導された第一級及び/又は第二級アルキル基を含んでいてもよい。さらに、第二級アルキル基を用いる場合には、好ましくは少なくとも50、より好ましくは75又はそれ以上、最も好ましくは85乃至100質量%であり、一例は、第二級アルキル基85質量%と第一級アルキル基15質量%のZDDPであり、例えば、ブタン−2−オール85質量%とイソ−オクタノール15質量%から製造されたZDDPである。更に好ましいのは、sec−ブタノールとメチルイソブチルカルビノールから誘導されたZDDPであり、そして最も好ましいのはsec−ブタノールが75モル%のものである。
【0089】
金属二炭化水素ジチオリン酸塩は、潤滑油組成物のリン分の全部ではないとしても大部分を供給する。リン元素の質量%で表して0.10又はそれ以下、好ましくは0.08又はそれ以下、より好ましくは0.075又はそれ以下、例えば0.025乃至0.07の範囲のリン分を与える量で潤滑油組成物に存在する。特に好ましい態様では、潤滑油組成物は金属二炭化水素ジチオリン酸塩を含有せず、またこの潤滑油組成物の別の態様では、基本的に追加のリン添加剤成分も含有しない。
【0090】
酸化防止剤又は抗酸化剤は、基材油が使用中に劣化する傾向を低減するものであり、金属表面のスラッジやワニス状堆積物などの酸化生成物および粘度増加がその劣化の証拠となる。そのような酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、好ましくはC5−C12アルキル側鎖を持つアルキルフェノールチオエステルのアルカリ土類金属塩、カルシウムノニルフェノールスルフィド、油溶性無灰フェネート及び硫化フェネート、リン硫化又は硫化炭化水素、アルキル置換ジフェニルアミン、アルキル置換フェニル及びナフチルアミン、リンエステル、金属チオカルバメート、無灰チオカルバメート(好ましくは、ジチオカルバメートである)、メチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)、エチレンビス(ジブチルジチオカルバメート)、およびイソブチルジスルフィド−2,2’−ビス(ジブチルジチオカルバメート)を挙げることができる。好ましいフェノール型酸化防止剤は次のものからなる群より選ばれる:4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−ノニルフェノール)、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−シクロヘキシルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−4−(N,N’−ジメチルアミノメチルフェノール)、4,4’−チオビス(2−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−チオビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルベンジル)−スルフィド、およびビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)。ジフェニルアミン型酸化防止剤:アルキル化ジフェニルアミン、オクチル化/ブチル化ジフェニルアミン、および主として3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ桂皮酸C7-9分枝アルキルエステルのヒンダードフェノール系酸化防止剤、フェニル−アルファ−ナフチルアミン、およびアルキル化アルファ−ナフチルアミン。
【0091】
場合によっては摩擦緩和剤が必要となる。そのような摩擦緩和剤は、油溶性の有機摩擦緩和剤であることが好ましく、潤滑油組成物の約0.02乃至2.0質量%の量で潤滑油組成物に混合される。好ましくは0.05乃至1.0、より好ましくは0.1乃至0.5質量%の摩擦緩和剤が使用される。摩擦緩和剤としては、脂肪族アミン、またはエトキシル化脂肪族アミン、脂肪族脂肪酸アミド、脂肪族カルボン酸、ポリオールの脂肪族カルボン酸エステル、例えばグリセロールオレエートで例示される脂肪酸のグリセロールエステル、グリセロール脂肪酸モノエステルのホウ酸エステル、脂肪族カルボン酸エステル−アミド、脂肪族ホスホン酸エステル、脂肪族リン酸エステル、脂肪族チオホスホン酸エステル、脂肪族チオリン酸エステル等の化合物を挙げることができる、ただし、化合物を好適に油溶性とするために、脂肪族基は通常は炭素原子を約8個より多く含む。好適な摩擦緩和剤の代表的な例は、脂肪酸エステル及びアミドが開示された米国特許第3933659号明細書;二量化脂肪酸のグリセロールエステルが開示された米国特許第4105571号明細書;カルボン酸及び無水物とアルカノールのエステルが開示された米国特許第4702859号明細書;好ましくは、グリセロール、脂肪酸およびホウ酸からなるエステルを含むホウ酸化グリセロールモノオレエートであり、そして該エステルが、単独または組合せで用いたホウ酸エステルを平均してホウ酸残基単位モル当り、炭素原子数8〜24の飽和又は不飽和アルキル基を含むカルボン酸残基最大2.0モルと、グリセロール残基1.5乃至2.0モルの正量を有し、該カルボン酸残基とグリセロール残基のモル比が、カルボン酸残基1モルに基づきグリセロール残基1.2モル以上である米国特許第4530771号明細書;アルカンホスホン酸塩が開示された米国特許第3779928号明細書;ホスホン酸エステルとオレアミドの反応生成物が開示された米国特許第3778375号明細書;およびジ(低級アルキル)亜リン酸エステルとエポキシドの反応生成物が開示された米国特許第3932290号明細書に見られる。上記参考文献の開示内容も参照として本明細書の記載とする。窒素含有摩擦緩和剤の例としては、これらに限定されるものではないが、イミダゾリン、アミド、アミン、アルコキシル化アミン、アルコキシル化エーテルアミン、酸化アミン、アミドアミン、ニトリル、ベタイン、第四級アミン、イミン、アミン塩、アミノグアナジン、およびアルカノールアミド等を挙げることができる。そのような摩擦緩和剤は、直鎖、分枝鎖又は芳香族炭化水素基またはそれらの混合物から選ばれ、飽和でも不飽和でもよい炭化水素基を含んでいてよい。炭化水素基は、主として炭素と水素とからなるが、1個以上の硫黄または酸素などのヘテロ原子を含んでいてもよい。好ましい炭化水素基は、炭素原子数が12〜25の範囲にあり、飽和でも不飽和でもよい。より好ましいのは線状炭化水素基を持つものである。
【0092】
また、本発明の潤滑油組成物は、粘度指数向上剤又はVIIを含んでいてもよい。粘度指数向上剤の例としては、ポリ−(アルキルメタクリレート)、エチレン・プロピレン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、およびポリイソプレンを挙げることができる。分散型(分散性の増大した)または多機能型の粘度指数向上剤も用いられる。これらの粘度指数向上剤は、単独でも組み合わせても使用することができる。エンジン油に混合される粘度指数向上剤の量は、所望とする配合エンジン油の粘度によって変わるが、一般にはエンジン油の全量当り0.5−20質量%の範囲にある。
【実施例】
【0093】
本発明について、以下の実施例により更に説明するが、これらは特に有利な態様を示すものである。なお、実施例は本発明を説明するために記されるのであって、本発明を限定しようとするものではない。
【0094】
[実施例1−8]
第1表に示す質量パーセントに従って、本発明の潤滑油組成物(実施例1−8および比較例A、B及びC)を製造した。比較例Aで示した基本油組成物は、一般の低排出ディーゼル用潤滑剤で代表的な基本油として製造した。実施例1−8では基本油の数種類のブレンドを製造した。基本油は、潤滑粘度の油、すなわちニュートラル油−100Nと220N基油の2:1混合物およそ75質量%、平均分子量2300のポリイソブチレンコハク酸無水物と重質ポリアミンから製造したビスコハク酸イミド、またはコハク酸イミド分散剤混合物およそ4.75質量%、平均分子量1300のポリイソブチレンコハク酸無水物と重質ポリアミンから製造したホウ酸化ビスコハク酸イミド2.5質量%、C18-30アルファオレフィンとC10-15分枝オレフィンの混合物から製造したBN140のサリチレート清浄剤(例えば、米国特許出願公開第2004/0235686号明細書に開示されているようにして製造した、その開示内容も全て参照内容として本明細書の記載とする)およそ4.5質量%と、C20-40アルファオレフィンとC10-15分枝オレフィンの混合物から製造したBN16のカルシウム合成アルキルアリールスルホネートおよそ0.6質量%、オクチル化/ブチル化ジフェニルアミンと主として3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ桂皮酸C7-9分枝アルキルエステルのヒンダードフェノール系酸化防止剤との混合物からなる酸化防止剤の等量混合物およそ1質量%、sec−ブタノールとメチルイソブチルカルビノールから誘導した第二級ZDDPおよそ0.7質量%、エチレン・プロピレン共重合体、および消泡剤から構成した。基本油は、II種油から製造した10W−40ブレンド油であった。基本油に本発明のシラン添加剤を添加した。基本油は、希釈油、分散剤、清浄剤、酸化防止剤、消泡剤、粘度指数向上剤、および鉱物油からなる。
【0095】
また、比較例も製造した。比較例Aは、上述したように基本油を含んでいる。比較例Bは、基本油に、基本油に使用したのと同じZDDPおよそ0.7質量%を仕上げ処理して製造した。第三の比較例である比較例Cは、基本油に、オクチルトリエトキシシランおよそ1質量%を仕上げ処理して製造した。比較例Dは、市販のCI−4完全配合エンジン油であった。
【0096】
【表2】

【0097】
[性能試験]
三種類の異なる台上摩耗試験を行って摩耗性を調べた。それらは、電気接点抵抗(ECR)台上試験、高周波往復リグ(HFRR)台上試験、および小型摩擦機(MTM)台上試験である。後者二つの機器はPCSインスツルメンツ社(PCS Instruments Ltd.、英国ロンドン)より販売されている。
【0098】
ECR台上試験について、下記第2表に適切な条件を示す。
【0099】
第 2 表
摩擦摩耗試験機の試験条件および摩擦対材料
──────────────────────────────────
材料 52100鋼
スライダ(直径 平面ディスク
0.635cm球)
硬度 Rc=62 Rc=58
表面粗さ(Raα、μm) 0.02 0.046−0.056
──────────────────────────────────
荷重(N) 4.90
初期接触圧(GPa) 0.71
初期接触面積(cm2) 6.9×10-5
すべり速度(cm/秒) 17.3
温度(℃) 100
運転時間(秒) 1200
雰囲気 実験室空気
──────────────────────────────────
【0100】
各ブレンドについて球−ディスク摩擦摩耗試験機を使用して、ECRと摩擦係数の同時測定を行った。第3表に、試験条件と材料をまとめて示す。ディスクもスライダも両方とも52100鋼からなり、ディスク硬度はRc=58でスライダ硬度はRc=62であった。各運転前に、ディスクを一連の等級の炭化ケイ素研磨布紙で研磨して、最終平均表面粗さを5P型タリサーフ(Model 5P Tallysurf)で測定して、0.046−0.056μm(〜1.8−2.2μin)にした。スライダは、購入した直径0.635cm(1/4in)の球軸受、グレード5であった。グレード5の軸受は、工業平均表面粗さ明細が0.02μm(0.8μin)である。球を試薬用ヘキサンと試薬用アセトン中で超音波洗浄して完全に風乾した後、スライダとして使用した。ディスクについて平均表面粗さ以外の表面微細構成の特性決定は実施しなかった。スライダについても、グレード5分類で明示された平均表面粗さを適用するのが当然のことと考えて、他の表面微細構成測定は行わなかった。
【0101】
ディスクを回転するカップに固定した。球をすべりはするが回転はしないようにしっかりと固定したコレットチャックを、ばね開きアームで保持した。球をディスクまで下げると、アームはひずみ計により制約される。ひずみ計からの出力を、二本ペン・ストリップチャート式記録計の一チャンネルに連続的に記録した。死重を用いてひずみ計を検定して、摩擦係数が直接記録されるようにした。電圧分割器回路を使用してECRを測定した。
【0102】
ストリップチャート式記録計で測定した電圧は約±2%で再現性があった。明らかに、摩擦係数およびECR電圧は接触条件に依存するから、それほどの再現性は見られなかった。この摩擦摩耗試験機を用いた摩擦係数測定に関するこれまでの経験では、本研究で用いたような短時間の試験での摩擦係数が、試料にもよるが、約5−12%で再現性があることを示していた。驚くほどのことではないが、抵抗、特にメガオーム範囲の抵抗は、接触条件の不均一性を反映して二倍の係数ぐらい大きく変動する。
【0103】
運転を終了した時点で、球を保持しているコレットチャックを摩擦摩耗試験機から取り出し、球の摩耗痕を100倍顕微鏡で簡単に調べた。次に、サインペンで球の摩耗痕近くに印を付けて摩耗痕を見つけやすいようにした。コレットチャックをゆるめ、それにより球を自由にして、倍率100Xの顕微鏡写真技術のために固定した。摩耗痕径(WSD)を100Xの顕微鏡写真で測定した。二つの直交する直径を測定した:摩耗痕は円形か楕円形のどちらかであった。楕円形の摩耗痕の場合には、長径と短径を測定して面積が等しい円の直径を計算した。少なくとも二つの摩耗痕の直径(または等価な直径)を平均して、試験した各油の平均摩耗痕径を得た。
【0104】
HFRR台上試験について、下記第3表に適切な条件を示す。
【0105】
第 3 表
HFRR台上試験条件
──────────────────────
荷重 9.806N、1Kgf
初期接触圧 1.41GPa
温度 116℃
摩擦対 52100/52100
周波数 20Hz
ストローク長 1mm
時間の長さ 20分試験
エンジンスス 6%
──────────────────────
【0106】
HFRR台上試験では、条件はECR試験よりも厳しく、ディーゼルエンジンで250000−300000psi(最大)に達するようなバルブ・トレーン条件に従っている[マックギーハン(Mc Geehan, J.A.)及びリアソン(Ryason, P.R.)著、「低排出ディーゼルエンジンにおける破滅的なカムシャフト・ローブ故障の防止(Preventing Catastrophic Camshaft Lobe Failure in Low Emission Diesel Engines)」、2000年、SAE論文200−01−2949]。球が始めから終わりまでストロークするとき、始動と完全な停止の両方がある。再度、摩耗痕径を測定する。
【0107】
PCS MTM機器を改良して、機器に付随したピンホルダの代わりに、1/4インチ径のファレックス52100鋼試験球(特定のホルダを備えている)を用いた[ヤマグチ(Yamaguchi, E.S.)著、「改良MTM摩擦摩耗試験機を用いた摩擦及び摩耗測定(Friction and Wear Measurements Using a Modified MTM Tribometer)」、2002年8月、IPドットコム・ジャーナル(IP.com Journal)7、第2巻、第9号、p.57−58、第IPCOM000009117D号]。機器をピン−ディスク方式で使用して、すべり条件で運転した。球がディスク上での自由度が1で滑るように、球を特定のホルダにしっかりと固定して行った。第4表に、条件を示す。
【0108】
第 4 表
MTMの試験条件
──────────────────────
荷重 14N
初期接触圧 1.53GPa
温度 100℃
摩擦対 52100/52100
──────────────────────
速度 mm/秒 分
3800 10
2000 10
1000 10
100 10
20 10
10 10
5 10
──────────────────────
時間の長さ 70分試験
ディーゼルエンジンスス 9%
──────────────────────
【0109】
エンジン試験設備の上部回収装置から得られたエンジンススをこの試験に使用した。使用前にススを、ペンタンを用いてスラリーにし、ガラス漏斗でろ過し、減圧炉内でN2雰囲気中で乾燥し、そして粉砕して最大50メッシュ(300μm)にした。この操作の目的は、最新のEGRエンジンに見られるような、アブレシブ摩耗を起こす再生粒子を作ることにあった。
【0110】
試験試料を用意するために、PCSインスツルメンツ52100平滑(Ra0.02ミクロン)鋼ディスクの耐食性被膜を、ヘプタンとヘキサンとイソオクタンとを用いて取り除いた。次に、ディスクを柔らかなティッシュできれいに拭き、そしてディスク・トラックの被膜が取り除かれてディスクのトラックが輝いてみえるまで、洗浄溶剤の入ったビーカーに沈めた。ディスクと試験球を別々の容器に入れて、シェブロン(Chevron)450シンナーに浸した。最後に、試験試料を音波器に入れて20分間超音波洗浄をした。
【0111】
下記第5表に、三種類の台上試験の摩耗結果を表す。値が低いほど摩耗が少ないことを示す。
【0112】
第 5 表
台上試験結果
──────────────────────────────────
試験した 摩耗痕径 ECRdによる
試料油 ECRa HFRRb MTMc 被膜絶縁効率(相対)
(μm) (μm) (μm) (E04mV)
──────────────────────────────────
実施例
1 140 150 424 4.55
2 120 143 407 4.62
3 140 159 433 4.57
4 120 159 460 4.58
5 120 144 455 4.54
6 120 156 403 4.49
7 170 158 451 4.12
8 100 161 470 4.53
──────────────────────────────────
比較例
A 130 235 634 2.59
B 150 178 558 4.13
C 100 151 510 4.37
D 150 97 408 3.39
──────────────────────────────────
aECR:電気接点抵抗
bHFRR:高周波往復リグ
cMTM:小型摩擦機
dECR:接触面に掛かった電圧の2000回測定の合計としての測定部分
【0113】
第5表に示した結果全体から、本発明を表すシラン含有ブレンドの摩耗性能は、基本油とZDDP0.7質量%で製造した比較例Bに比べて、改善を示している。事実、実施例2は、市販CI−4完全配合エンジン油である比較例Dに比べて、四部分のうち三部分で同等又は向上した性能を示している。特に、実施例2のECR結果、MTM結果および相対被膜絶縁は、プレミアム製品である比較例Dの結果を越えている。ECR被膜は、被膜形成工程から被膜除去工程を引いた結果を示している。数値が大きいほど、被膜形成が強力で被膜除去工程よりも優勢である。この比較で、実施例2は比較例Dよりも強力な被膜形成工程を示し、実施例2の絶縁被膜が極めて強固で、20分試験の間中ずっと維持できることを示唆している。
【0114】
比較例C(オクチルトリエトキシシラン)は、ECR試験では優れた摩耗痕径を与えたが、もっと過酷なHFRR及びMTM台上試験並びに被膜絶縁測定では実施例2よりもずっと効果が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主要量の潤滑粘度の油、および一般式Si−X4(式中、各々のXは独立に、ヒドロキシル、アルコキシ、アリールオキシ、アシルオキシ、アミノ、モノアルキルアミノおよびジアルキルアミノからなる群より選ばれる)を有する四官能の加水分解性シラン化合物、またはその加水分解生成物を含む潤滑油組成物。
【請求項2】
各々のXが独立に、C1-6アルコキシ、C6-10アリールオキシおよびC1-6アシルオキシからなる群より選ばれる請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
四官能の加水分解性シラン化合物が、下記式Iの化合物またはその加水分解生成物から選ばれる請求項1に記載の潤滑油組成物:
【化1】

(式中、各々のRは独立に、直鎖もしくは分枝鎖のアルキル、シクロアルキル、アルクシクロアルキル、アリール、アルカリール、アリールアルキルからなる群より選ばれる置換または未置換のC1-20炭化水素基であり、ただし、置換炭化水素基は、ヒドロキシ基、アルコキシ基、エステル基またはアミノ基から選ばれる一個以上の置換基を持つ、
各々のR1は独立に、直鎖もしくは分枝鎖のアルキル、シクロアルキルまたはアリールであり、そして
aは、0〜4の整数である)。
【請求項4】
aが1〜4の整数である請求項3に記載の潤滑油組成物。
【請求項5】
aが4である請求項4に記載の潤滑油組成物。
【請求項6】
Rが独立に、アルキル、アリール、アルカリールおよびアリールアルキルから選ばれる請求項5に記載の潤滑油組成物。
【請求項7】
Rが独立に、直鎖及び分枝鎖のアルキル基から選ばれる請求項6に記載の潤滑油組成物。
【請求項8】
RがC1-6アルキルである請求項7に記載の潤滑油組成物。
【請求項9】
四官能の加水分解性シラン化合物が、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラキス(メトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシプロポキシ)シラン、テトラキス(エトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシエトキシエトキシ)シラン、トリメトキシエトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、およびトリエトキシメトキシシランからなる群より選ばれる請求項4に記載の潤滑油組成物。
【請求項10】
四官能の加水分解性シラン化合物がテトラエトキシシランである請求項9に記載の潤滑油組成物。
【請求項11】
少なくとも1つのRが置換炭化水素基である請求項4に記載の潤滑油組成物。
【請求項12】
少なくとも1つの置換炭化水素基が、グリコールモノエーテルまたはアミノアルコールから誘導されたものである請求項11に記載の潤滑油組成物。
【請求項13】
さらに、下記式IIで表される部分非加水分解性シラン添加剤を含む請求項3に記載の潤滑油組成物:
【化2】


(式中、各々のOR11基は、アルコキシ、アリールオキシおよびアシルオキシからなる群より独立に選ばれる加水分解性部であり、
各々のR10は、アルキル、アリール、置換アルキルおよび置換アリールから独立に選ばれる非加水分解性基であり、ただし、置換基は、ヒドロキシル、エーテル、アミノ、モノアルキルアミノ、ジアルキルアミノ、アミド、カルボキシル、メルカプト、チオエーテル、アクリルオキシ、シアノ、アルデヒド、アルキルカルボニル、スルホン酸およびリン酸から選ばれる官能基である、そして
nは、1、2または3の整数である)。
【請求項14】
OR11基が、C1-6アルコキシ、C6-10アリールオキシおよびC1-6アシルオキシからなる群より選ばれる請求項13に記載の潤滑油組成物。
【請求項15】
部分非加水分解性シラン添加剤が、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、4−メチル−2−ペンチルトリエトキシシラン、4−メチル−2−ペンチルトリメトキシシラン、オクチルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、2−(3−シクロヘキセニル)エチルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリメトキシシラン、3−シアノプロピルトリメトキシシラン、フェネチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリプロポキシシラン、3−アミノプロピルトリブトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3−イソシアノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、4−(2−アミノエチルアミノメチル)フェネチルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルトリエトキシシラン、3−シアノプロピルトリエトキシシラン、3−エトキシプロピルトリメトキシシラン、3−エトキシプロピルトリメトキシシラン、3−プロポキシプロピルトリメトキシシラン、3−メトキシエチルトリメトキシシラン、3−エトキシエチルトリメトキシシラン、および3−プロポキシエチルトリメトキシシランからなる群より選ばれる請求項13に記載の潤滑油組成物。
【請求項16】
部分非加水分解性シラン添加剤が、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリプロポキシシラン、3−アミノプロピルトリブトキシシラン、および4−アミノブチルトリエトキシシランから選ばれる請求項15に記載の潤滑油組成物。
【請求項17】
さらに、清浄剤、分散剤および酸化防止剤からなる群より選ばれる少なくとも一種の添加剤を含む請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項18】
下記の成分を含む内燃機関用の潤滑油組成物。
a)主要量の潤滑粘度の基油、
b)0.5乃至10%の、下記式Iの化合物またはその加水分解生成物から選ばれる四官能の加水分解性シラン化合物、
【化3】


(式中、各々のRは独立に、直鎖もしくは分枝鎖のアルキル、シクロアルキル、アルクシクロアルキル、アリール、アルカリール、アリールアルキル、およびヒドロキシ基、アルコキシ基、エステル基またはアミノ基から選ばれる一個以上の置換基を持つ置換炭化水素基からなる群より選ばれるC1-20炭化水素基であり、
各々のR1は独立に、直鎖もしくは分枝鎖のアルキル、シクロアルキルおよびアリールであり、そして
aは、0〜4の整数である)
c)0.5乃至10%の清浄剤、および
d)1乃至20%の、平均分子量450乃至3000のポリアルキレンから誘導されたアルケニルコハク酸イミド分散剤、
ただし、添加剤のパーセントは、潤滑油組成物の全質量パーセントに基づく質量パーセントである。
【請求項19】
b)に係る四官能の加水分解性シラン化合物が、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラキス(メトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシプロポキシ)シラン、テトラキス(エトキシエトキシ)シラン、テトラキス(メトキシエトキシエトキシ)シラン、トリメトキシエトキシシラン、ジメトキシジエトキシシラン、およびトリエトキシメトキシシランからなる群より選ばれる請求項18に記載の潤滑油組成物。
【請求項20】
さらに、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリプロポキシシラン、3−アミノプロピルトリブトキシシラン、および4−アミノブチルトリエトキシシランからなる群より選ばれる部分非加水分解性シランを、0.5乃至10%含む請求項19に記載の潤滑油組成物。

【公開番号】特開2008−56929(P2008−56929A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−224727(P2007−224727)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(598037547)シェブロン・オロナイト・カンパニー・エルエルシー (135)
【Fターム(参考)】