説明

テラヘルツ波の特性測定方法、物質検出方法、測定用具、テラヘルツ波の特性測定装置、及び物質検出装置

【課題】測定対象が液体であっても、凍結や固化作業を行うことなく、測定対象を透過または反射したテラヘルツ波の分光特性または強度を測定する。
【解決手段】測定対象の溶液を分光特性測定用具14の深さ50μmのマイクロ流路14cに充填し、テラヘルツ波の伝播方向がマイクロ流路14cの深さ方向となるように、テラヘルツ波発生装置12と測定器16との間に分光特性測定用具14を配置する。テラヘルツ波発生装置12において発生されるテラヘルツ波の周波数を連続的に変化させながら、測定器16で、溶液を透過したテラヘルツ波の分光特性を測定し、測定された分光特性を、同様に測定された水の分光特性を用いて、同一の周波数における水の透過率に対する測定物質の透過率の比で表した分光特性に変換する。変換した分光特性と既知の物質のテラヘルツ波の分光特性と比較することにより、測定対象の溶液に含まれる物質を同定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波の特性測定方法、物質検出方法、測定用具、テラヘルツ波の特性測定装置、及び物質検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、衣服やかばん等に対して透過性の高いテラヘルツ帯の周波数域の電磁波(テラヘルツ波)を使用して、対象物を検出する技術が提案されている。例えば、テラヘルツ波を物品に放射して、物品から反射した、または物品を透過したテラヘルツ波の情報を解析して、物品を探知するシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、有機物を含む水溶液に1種以上の無機塩を添加、混合して凍結させて凍結試料を得て、この凍結試料にテラヘルツ波を照射して、透過したテラヘルツ波を測定することにより有機物の溶解状態もしくは分散状態や、スペクトル特性を測定する手法が提案されている(例えば、特許文献2〜4参照)。
【0004】
また、テラヘルツパルス光を透過する2枚の透光性基材が重ね合わされて貼着され、2枚の透光性基材の界面に試料溶液が注入される液体流路を有するテラヘルツ分光分析用液体セルが提案されている(例えば、特許文献5及び6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−500541号公報
【特許文献2】特開2009−281864号公報
【特許文献3】特開2009−74807号公報
【特許文献4】特開2010−249564号公報
【特許文献5】特開2009−288046号公報
【特許文献6】特開2009−288047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のシステムでは、測定対象物が固体に限定されており、また、特許文献2〜4の手法では、測定対象物である液体を一旦凍結させてから測定している。これは、測定対象物が液体試料の場合、溶媒の水分子が極性を有することから、水分子同士の相互作用によりテラヘルツ波を強く吸収してしまい、液体中の溶質分子のスペクトルを測定することが困難なためである。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、測定対象物が固体試料であるため、例えば、空港のセキュリティチェック等において対象物を検知するシステムに適用する場合には、過酸化水素や硫酸等の液体を測定することができない、という問題がある。
【0008】
また、特許文献2〜4の手法では、測定対象の液体試料を一旦凍結させてから測定しているため、例えば、空港のセキュリティチェック等において対象物を検知するシステムに適用する場合には、実用性が低い、という問題がある。
【0009】
また、特許文献5及び6の技術では、試料溶液としては液体であれば限定されず、例えば有機溶剤や血液であってもよい旨が記載されているが、試料溶液の溶媒としての具体例は、エタノール及び水の例しか記載されておらず、溶質として何を使用し、その挙動が度のようなものであるかといった具体的な内容は記載されていない。また、テラヘルツ分光分析用液体セルの液体の厚み(液体の厚みL)が大きい場合には、液体の吸収が増え透過光が得られない旨の記載もあり、水などのパルス光の吸収が強い溶媒を含む試料溶液に対する透過測定法を確立できていない、という問題がある。
【0010】
本発明は上記問題点を解決するためになされたもので、測定対象が液体であっても、凍結や固化作業を行うことなく、測定対象を透過または反射したテラヘルツ波の分光特性または強度を測定することができるテラヘルツ波の特性測定方法、物質検出方法、測定用具、テラヘルツ波の特性測定装置、及び物質検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明のテラヘルツ波の特性測定方法は、少なくとも1種類の測定対象の物質を含む溶液の厚みが10μm〜100μmの範囲となる部分に対して、伝播方向が前記厚み方向となるようにテラヘルツ波が照射され、前記部分を透過した、または前記部分から反射したテラヘルツ波の分光特性または特定周波数もしくは特定波長におけるテラヘルツ波の強度を測定する方法である。
【0012】
このように、溶液の厚みが10μm〜100μmの範囲となる部分に対して、テラヘルツ波の伝播方向が溶液の厚み方向となるようにテラヘルツ波を照射することにより、水のように極性を有する溶媒によるテラヘルツ波の吸収の影響を抑制できるため、測定対象が液体であっても、凍結や固化作業を行うことなく、測定対象を透過または反射したテラヘルツ波の分光特性または強度を測定することができる。
【0013】
また、前記テラヘルツ波の分光特性を測定する場合に、前記テラヘルツ波の周波数または波長を連続的に変化させながら照射し、前記部分を透過した、または前記部分から反射したテラヘルツ波から分光特性を測定したり、連続した周波数または波長を有する前記テラヘルツ波を一括して照射し、前記部分を透過した、または前記部分から反射したテラヘルツ波の強度をフーリエ変換して分光特性を測定したりすることができる。また、前記特定周波数または特定波長におけるテラヘルツ波の強度を測定する場合に、1つ以上の特定周波数または特定波長のテラヘルツ波を照射し、前記部分を透過した、または前記部分から反射したテラヘルツ波の強度を測定することもできる。
【0014】
また、前記テラヘルツ波の分光特性または強度を、前記測定対象の物質を含まず、かつ予め定めた厚みの溶媒を透過した、または前記溶媒から反射したテラヘルツ波の透過率または反射率に対する、前記部分を透過した、または前記部分から反射したテラヘルツ波の透過率または反射率の比で表すことができる。このように、測定対象の物質を含まない溶媒をリファレンスとすることにより、対象物質を明確に区別することができる。
【0015】
また、前記溶液の溶媒、及び前記測定対象の物質を含まない溶媒が少なくとも1種類の極性分子を含むようにすることができる。
【0016】
また、少なくとも1つの物体を通過したテラヘルツ波を前記厚みが10μm〜100μmの範囲となる部分に照射するようにしてもよい。これにより、例えば、衣服やかばん等の物体越しの検査を想定したテラヘルツ波の分光特性または強度を得ることができる。
【0017】
また、本発明の物質検出方法は、上記テラヘルツ波の特性測定方法により、未知の物質を含む溶液に対するテラヘルツ波の分光特性または強度を測定し、測定された分光特性または強度と、上記テラヘルツ波の特性測定方法により測定された既知の物質を含む溶液に対するテラヘルツ波の分光特性または強度とを比較して、前記未知の物質を同定する方法である。
【0018】
また、本発明の測定用具は、少なくとも1種類の測定対象の物質を含む溶液を透過した、または前記溶液から反射したテラヘルツ波の分光特性または特定周波数もしくは特定波長におけるテラヘルツ波の強度を測定するために用いられる測定用具であって、前記溶液の厚みが10μm〜100μmの範囲となる部分が形成されるように該溶液が満たされる空隙部を有する測定用具である。
【0019】
また、本発明のテラヘルツ波の特性測定装置は、光発生装置、及び非線形光学結晶を含んで構成されたテラヘルツ波発生装置と、前記テラヘルツ波発生装置から発生されたテラヘルツ波の伝播方向が前記厚み方向となるように配置された上記測定用具と、前記溶液の厚みが10μm〜100μmの範囲となる部分を透過した、または前記部分から反射したテラヘルツ波の分光特性または特定周波数もしくは特定波長におけるテラヘルツ波の強度を測定する測定手段と、を含んで構成されている。
【0020】
本発明のテラヘルツ波の特性測定装置によれば、溶液の厚みが10μm〜100μmの範囲となる部分が形成されるように溶液が満たされる空隙部を有する測定用具が、テラヘルツ波発生装置から発生されたテラヘルツ波の伝播方向が厚み方向となるように配置され、空隙部に満たされた溶液に、テラヘルツ波発生装置によりテラヘルツ波を照射し、測定手段が、その部分を透過した、またはその部分から反射したテラヘルツ波の分光特性または特定周波数もしくは特定波長におけるテラヘルツ波の強度を測定する。
【0021】
このように、溶液の厚みが10μm〜100μmの範囲となる部分が形成されるように溶液が満たされる空隙部を有する測定用具を用いて、測定対象の溶液を空隙部に満たして、テラヘルツ波の伝播方向が厚み方向となるようにテラヘルツ波をその部分に照射することにより、水のように極性を有する溶媒によるテラヘルツ波の吸収の影響を抑制できるため、測定対象が液体であっても、凍結や固化作業を行うことなく、測定対象を透過または反射したテラヘルツ波の分光特性または強度を測定することができる。
【0022】
また、前記光発生装置は、異なる2波長の光を励起光として発生するようにしてもよいし、フェムト秒またはナノ秒のパルス光を励起光として発生するようにしてもよい。
【0023】
また、前記テラヘルツ波発生装置は、連続した周波数または波長を有するテラヘルツ波を一括して発生することができる。
【0024】
また、本発明の物質検出装置は、上記テラヘルツ波の特性測定装置と、前記テラヘルツ波の特性測定装置で測定された未知の物質を含む溶液に対するテラヘルツ波の分光特性または強度と、既知の物質を含む溶液に対するテラヘルツ波の分光特性または強度とを比較して、前記未知の物質を同定する同定手段と、を含んで構成されている。
【発明の効果】
【0025】
以上説明したように、本発明のテラヘルツ波の特性測定方法、物質検出方法、測定用具、テラヘルツ波の特性測定装置、及び物質検出装置によれば、溶液の厚みが10μm〜100μmの範囲となる部分に対して、テラヘルツ波の伝播方向が溶液の厚み方向となるようにテラヘルツ波を照射することにより、水のように極性を有する溶媒によるテラヘルツ波の吸収の影響を抑制できるため、測定対象が液体であっても、凍結や固化作業を行うことなく、測定対象を透過または反射したテラヘルツ波の分光特性または強度を測定することができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施の形態の物質検出装置の概略を示す構成図である。
【図2】分光特性測定用具の(a)外観斜視図、及び(b)断面図である。
【図3】過酸化水素水の分光特性を示すグラフである。
【図4】強酸性水溶液の分光特性を示すグラフである。
【図5】水溶性塩類の分光特性を示すグラフである。
【図6】本実施の形態の物質検出装置において実行される物質検出処理ルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して、本発明のテラヘルツ波の特性測定方法、物質検出方法、測定用具、テラヘルツ波の特性測定装置、及び物質検出装置の実施の形態を詳細に説明する。本実施の形態では、水のように極性を有する溶媒中に測定対象の物質を含む溶液を測定して、溶液中の物質を検出する場合について説明する。なお、極性を有する溶媒の他の例として、アルコール類等がある。アルコール類としては、例えば、メタノールやエタノールが挙げられる。ただし、本発明が対象とする溶媒は、極性を有する溶媒であればよく、これらの溶媒に限定されない。
【0028】
図1に示すように、本実施の形態の物質検出装置10は、テラヘルツ波を発生するテラヘルツ波発生装置12と、分光特性測定用具14と、測定対象を透過したテラへルツ波を測定する測定器16と、測定されたテラヘルツ波の分光特性に基づいて測定対象物質を同定する処理を実行する処理部18と、を含んで構成されている。
【0029】
テラヘルツ波発生装置12は、異なる2波長の励起光を発生する2波長光発生装置12aと、入射された異なる2波長の光から差周波発生(DFG:Differential Frequency Generation)により異なる2波長の差周波数分に相当するテラヘルツ波を発生する非線形光学結晶12bとを含んで構成されている。2波長光発生装置12aとしては、KTPパラメトリック共振器や2波長光発生レーザユニット等を用いることができる。2波長光発生装置12aから発生される励起光の波長を制御することにより、非線形光学結晶12bから発生するテラヘルツ波の周波数を変化させることができる。
【0030】
また、非線形光学結晶12bとしては、DAST(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウムトシレート)結晶、DASC(4−ジメチルアミノ−N−メチル−4−スチルバゾリウム−p−クロロベンゼンスルホネート)結晶、OH1(2−(3−(4−ヒドロキシスチリル)−5,5−ジメチルシクロヘクス−2−エニリデン)マロノニトリル)結晶等の有機光学結晶を用いることができる。また、GaPO4(リン酸ガリウム)、GaAs(ヒ化ガリウム)、LiNbO3(ニオブ酸リチウム)等の無機光学結晶を用いてもよい。
【0031】
図2(a)に、分光特性測定用具14の分解斜視図、及び同図(b)に、同図(a)のA−A’線における断面図を示す。図2に示すように、分光特性測定用具14は、2枚の薄板14a、14bを組み合わせて構成される。薄板14a、14bの材料は、テラヘルツ波の透過率が高いオレフィン系の材料、例えば、超高分子量ポリエチレン(UHMW−PE)、高抵抗シリコンウエハ等を用いることができる。
【0032】
また、薄板14aには、深さ50μmの溝が形成されており、薄板14aと薄板14bとを組み合わせた状態で、この溝が測定対象の溶液が充填されるマイクロ流路14c(空隙部)となる。また、分光特性測定用具14は、テラヘルツ波発生装置12から発生したテラヘルツ波の伝播方向が、マイクロ流路14cの深さ方向となるように、テラヘルツ波発生装置12と測定器16との間に配置される。
【0033】
ここでは、マイクロ流路14cの深さを50μmとしているが、マイクロ流路14cの深さは、10μm〜100μmの範囲であればよい。マイクロ流路14cの深さが10μmより小さくなると、テラヘルツ波が透過し過ぎて特徴的な分光特性を得ることができなくなる。また、マイクロ流路14cへ測定対象の溶液を充填する作業も困難となる。一方、マイクロ流路14cの深さが100μmを超えると、溶媒である水分子によるテラヘルツ波の吸収の影響が強くなり、溶液中の物質の分光特性が測定できなくなる。そのため、マイクロ流路14cの深さは、10μm〜100μmの範囲とすることが適している。
【0034】
測定器16は、測定対象の溶液がマイクロ流路14cに充填された分光特性測定用具14を透過したテラへルツ波の強度を測定する。より具体的には、テラヘルツ波発生装置12において発生されるテラヘルツ波の周波数を連続的に変化させながら、溶液を透過したテラヘルツ波の分光特性を測定する。
【0035】
なお、上記の分光特性測定用具14が、本発明の測定用具の一例であり、上記のテラヘルツ波発生装置12、分光特性測定用具14、及び測定器16からなる構成が本発明のテラヘルツ波の特性測定装置の一例であり、この構成で実行される方法が本発明のテラヘルツ波の特性測定方法の一例である。
【0036】
処理部18は、CPU、ROM及びRAM等を含むマイクロコンピュータで構成されている。処理部18では、測定器16により測定されたテラヘルツ波の分光特性を取得して、リファレンスとなる水の透過率に対する比で表された分光特性に変換する。そして、変換されたテラヘルツ波の分光特性と、予め記憶された既知の物質の水に対する比で表された分光特性とを比較して、測定対象の物質を同定する。既知の物質の水に対する比で表された分光特性は、上記の分光特性測定方法により予め得られたものである。具体的には、分光特性測定用具14のマイクロ流路14cに既知の物質を充填して、テラヘルツ波発生装置12によりテラヘルツ波を照射して、測定器16により溶液を透過したテラヘルツ波の分光特性を測定する。そして、同様に測定された水の分光特性を用いて、同一の周波数における水の透過率に対する既知の物質の透過率の比で表すことにより得られる。
【0037】
例えば、既知の物質の分光特性の例として、水の透過率に対する過酸化水素水の透過率の比で表された分光特性(以下、「過酸化水素水の分光特性」ともいう)を、図3に示す。過酸化水素水の分光特性は、4THz付近に現れるピークから水との区別が可能である。また、水の透過率に対する塩酸、硫酸、及び硝酸の各々の透過率の比で表された分光特性の各々(以下、これらをまとめて「強酸性水溶液の分光特性」ともいう)を、図4に示す。強酸性水溶液の分光特性は、2.5THz付近に現れる吸収ピークから水との区別が可能である。また、水の透過率に対する塩素酸ナトリウム水及び硝酸アンモニウム水の各々の透過率の比で表された分光特性の各々(以下、これらをまとめて「水溶性塩類の分光特性」ともいう)を、図5に示す。水溶性塩類の分光特性は、過酸化水素水と同様に、4THz付近に現れるピークから水との区別が可能である。このような既知の物質のテラヘルツ波の分光特性、またはこれらの分光特性から得られる情報を、未知の物質を同定する際の参照情報として記憶しておく。
【0038】
次に、図6を参照して、本実施の形態の物質検出装置10で実行される物質検出処理ルーチンについて説明する。
【0039】
ステップ100で、測定対象の溶液を分光特性測定用具14のマイクロ流路14cに充填し、テラヘルツ波発生装置12から発生したテラヘルツ波の伝播方向が、マイクロ流路14cの深さ方向となるように、テラヘルツ波発生装置12と測定器16との間に配置する。
【0040】
次に、ステップ102で、テラヘルツ波発生装置12において発生されるテラヘルツ波の周波数を連続的に変化させながら、測定器16で、溶液を透過したテラヘルツ波の透過強度を検出し、分光特性を測定する。そして、測定した分光特性のデータを処理部18へ出力する。
【0041】
次に、ステップ104で、上記ステップ102で測定された分光特性を、同様に測定された水の分光特性を用いて、同一の周波数における水の透過率に対する測定物質の透過率の比で表した分光特性に変換する。
【0042】
次に、ステップ106で、所定の記憶領域に予め記憶された既知の物質のテラヘルツ波の分光特性を読み出し、上記ステップ106で変換した分光特性と比較することにより、測定対象の溶液に含まれる物質を同定し、結果を出力して、処理を終了する。
【0043】
以上説明したように、本実施の形態の物質検出装置によれば、10μm〜100μmの範囲の深さ(ここでは、50μm)のマイクロ流路を有する分光特性測定用具を用いて、測定対象の溶液をマイクロ流路に充填して、テラヘルツ波の伝播方向がマイクロ流路の深さ方向となるようにテラヘルツ波を溶液に照射することにより、水のように極性を有する溶媒によるテラヘルツ波の吸収の影響を抑制できるため、測定対象が液体であっても、凍結や固化作業を行うことなく、テラヘルツ波を用いた分光特性を測定することができる。また、水に対する透過率の比で表された分光特性を用いることで、検出したい物質と水とを明確に区別することができる。
【0044】
なお、上記実施の形態では、分光特性測定用具を、一方に溝を有する2枚の薄板を組み合わせることにより構成した場合について説明したが、この構成に限定されない。測定対象の溶液を充填するための空隙部の深さが10μm〜100μmとなる構成であればよい。
【0045】
また、上記実施の形態では、分光特性測定用具の空隙部(マイクロ流路)の深さを10μm〜100μmの範囲とし、この空隙部に溶液を充填する場合について説明したが、テラヘルツ波が照射される部分の溶液の厚みが10μm〜100μmの範囲となっていればよく、空隙部の深さ自体を10μm〜100μmの範囲とすることは必ずしも必要ではない。また、空隙部を溶液で完全に満たす必要はなく、溶液の厚みが10μm〜100μmとなる部分が形成されればよい。
【0046】
また、上記実施の形態では、空隙部の深さとして、10μm〜100μmの範囲から50μmを選択した場合について説明したが、特許文献4等にも記載のように、テラヘルツ波においても、ランベルト・ベールの法則を適用することで、10μm〜100μmの範囲の他の厚みとして吸光光度分析することも可能である。より具体的には、ランベルト・ベールの法則に従うと、液体の厚み、すなわち空隙部の深さを小さくすると、入射光強度と透過光強度との間に差異がなくなる旨の特許文献4の記載に基づいて、当業者であれば、空隙部の深さを10μm〜100μmの範囲から50μm以外の値を選択して本発明に適用することは、容易に実施可能である。
【0047】
また、本発明のように、空隙部の深さを10μm〜100μmの範囲とした場合には、溶媒について入射光強度と透過光強度との間に差異が無くなるにも拘らず、溶質の透過率のピークを観測することができる。
【0048】
また、上記実施の形態では、溶液を透過したテラヘルツ波を測定する場合について説明したが、溶液から反射したテラヘルツ波を測定するようにしてもよい。この場合、分光特性測定用具の一面として、テラヘルツ波の反射率が高い材料を用いるようにするとよい。
【0049】
また、例えば、空港のセキュリティチェック等の分野に応用された場合を考慮して、既知の物質の分光特性を測定する際に、テラヘルツ波発生装置と分光特性測定用具との間に布等の物体を配置し、その物体を通過したテラヘルツ波が溶液に照射されるようにしてもよい。これにより、衣服やかばんの中の対象物質を検出することを想定した分光特性を得ることができる。
【0050】
また、上記実施の形態では、波長可変のテラヘルツ波発生装置を用いて分光特性を測定する分光法を用いる場合について説明したが、連続した周波数または波長のテラヘルツ波を一括して溶液に透過または反射させて、フーリエ変換により分光特性を測定する時間領域分光法(TDS:Time Domain Spectroscopy)により分光特性を測定してもよい。この場合、テラヘルツ発生装置12は、2波長光発生装置12aに替えて、励起光であるフェムト秒またはナノ秒のパルス光発生装置を励起光光源として用い、この励起光を非線形光学結晶12bに照射することによってテラヘルツ波を発生させる。ここで発生されるテラヘルツ波の周波数は、一般的には0.1〜10.0THzである。そして、このテラヘルツ波(フェムト秒またはナノ秒のパルス光)を測定対象の物質を含む溶液に照射し、透過または反射したテラヘルツ波の波形を時間分解計測し、その時間波形をフーリエ変換することにより周波数毎の振幅と位相を得る。
【0051】
また、1つ以上の特定周波数または特定波長を用い、溶液を透過または反射したテラヘルツ波の強度を測定してもよい。例えば、過酸化水素や塩酸等、特定の物質を検出する場合のように、予めピークとなる周波数または波長が分かっていれば、連続的に周波数または波長を変化させたり(DFGの場合)、連続した周波数または波長のテラヘルツ波を一括で照射したり(TDSの場合)することなく、特定周波数または特定波長のテラヘルツ波を照射すればよい。
【0052】
また、上記実施の形態では、分光特性として、水の分光特性に対する比で表された分光特性を用いる場合について説明したが、これに限定されず、各物質の分光特性そのままを用いてもよいし、分光特性から得られる特徴を示す情報を用いてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 物質検出装置
12 テラヘルツ波発生装置
14 分光特性測定用具
14c マイクロ流路
16 測定器
18 処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類の測定対象の物質を含む溶液の厚みが10μm〜100μmの範囲となる部分に対して、伝播方向が前記厚み方向となるようにテラヘルツ波が照射され、
前記部分を透過した、または前記部分から反射したテラヘルツ波の分光特性または特定周波数もしくは特定波長におけるテラヘルツ波の強度を測定する
テラヘルツ波の特性測定方法。
【請求項2】
前記テラヘルツ波の分光特性を測定する場合に、前記テラヘルツ波の周波数または波長を連続的に変化させながら照射し、前記部分を透過した、または前記部分から反射したテラヘルツ波から分光特性を測定する請求項1記載のテラヘルツ波の特性測定方法。
【請求項3】
前記テラヘルツ波の分光特性を測定する場合に、連続した周波数または波長を有する前記テラヘルツ波を一括して照射し、前記部分を透過した、または前記部分から反射したテラヘルツ波の時間波形をフーリエ変換して分光特性を測定する請求項1記載のテラヘルツ波の特性測定方法。
【請求項4】
前記特定周波数または特定波長におけるテラヘルツ波の強度を測定する場合に、1つ以上の特定周波数または特定波長のテラヘルツ波を照射し、前記部分を透過した、または前記部分から反射したテラヘルツ波の強度を測定する請求項1記載のテラヘルツ波の特性測定方法。
【請求項5】
前記テラヘルツ波の分光特性または強度を、前記測定対象の物質を含まず、かつ予め定めた厚みの溶媒を透過した、または前記溶媒から反射したテラヘルツ波の透過率または反射率に対する、前記部分を透過した、または前記部分から反射したテラヘルツ波の透過率または反射率の比で表した請求項1〜請求項4のいずれか1項記載のテラヘルツ波の特性測定方法。
【請求項6】
前記溶液の溶媒、及び前記測定対象の物質を含まない溶媒が少なくとも1種類の極性分子を含む請求項1〜請求項5のいずれか1項記載のテラヘルツ波の特性測定方法。
【請求項7】
少なくとも1つの物体を通過したテラヘルツ波を前記部分に照射する請求項1〜請求項6のいずれか1項記載のテラヘルツ波の特性測定方法。
【請求項8】
前記溶液を、空隙部を有する測定用具に満たし、
前記空隙部内の溶液の厚みが10μm〜100μmの範囲となる部分に対して、伝播方向が前記厚み方向となるようにテラヘルツ波を照射する請求項1〜請求項7のいずれか1項記載のテラヘルツ波の特性測定方法。
【請求項9】
請求項1〜請求項8のいずれか1項記載のテラヘルツ波の特性測定方法により、未知の物質を含む溶液に対するテラヘルツ波の分光特性または強度を測定し、
測定された分光特性または強度と、請求項1〜請求項8のいずれか1項記載のテラヘルツ波の特性測定方法により測定された既知の物質を含む溶液に対するテラヘルツ波の分光特性または強度とを比較して、前記未知の物質を同定する
物質検出方法。
【請求項10】
少なくとも1種類の測定対象の物質を含む溶液を透過した、または前記溶液から反射したテラヘルツ波の分光特性または特定周波数もしくは特定波長におけるテラヘルツ波の強度を測定するために用いられる測定用具であって、
前記溶液の厚みが10μm〜100μmの範囲となる部分が形成されるように該溶液が満たされる空隙部を有する測定用具。
【請求項11】
光発生装置、及び非線形光学結晶を含んで構成されたテラヘルツ波発生装置と、
前記テラヘルツ波発生装置から発生されたテラヘルツ波の伝播方向が前記厚み方向となるように配置された請求項10記載の測定用具と、
前記部分を透過した、または前記部分から反射したテラヘルツ波の分光特性または特定周波数もしくは特定波長におけるテラヘルツ波の強度を測定する測定手段と、
を含むテラヘルツ波の特性測定装置。
【請求項12】
前記光発生装置は、異なる2波長の光を励起光として発生する請求項11記載のテラヘルツ波の特性測定装置。
【請求項13】
前記光発生装置は、フェムト秒またはナノ秒のパルス光を励起光として発生する請求項11記載のテラヘルツ波の特性測定装置。
【請求項14】
前記テラヘルツ波発生装置は、連続した周波数または波長を有するテラヘルツ波を一括して発生する請求項11記載のテラヘルツ波の特性測定装置。
【請求項15】
請求項11〜請求項14のいずれか1項記載のテラヘルツ波の特性測定装置と、
前記テラヘルツ波の特性測定装置で測定された未知の物質を含む溶液に対するテラヘルツ波の分光特性または強度と、既知の物質を含む溶液に対するテラヘルツ波の分光特性または強度とを比較して、前記未知の物質を同定する同定手段と、
を含む物質検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−185151(P2012−185151A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−2486(P2012−2486)
【出願日】平成24年1月10日(2012.1.10)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】