説明

テラヘルツ波発生検出装置

【課題】環境変化による、テラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルス間の相対的な時間差の変動を低減し、かつ光パルスの時間波形および/またはスペクトル波形の変形を低減することが可能なテラヘルツ波発生検出装置を提供すること。
【解決手段】ビームコンバイナ107にて直交偏光の、第1の経路からのテラヘルツ波発生用光パルスと、第2の経路からのテラヘルツ波検出用光パルスとを合波し、ファイバ伝送部108の複屈折軸にそれぞれ入射させる。第2の経路には、ファイバ伝送部108にて、発生用光パルスと検出用光パルスとが時間的に重ならないようにするパルス時間間隔調整部105が設けられている。偏光ビームスプリッタ109とTHz波発生部111との間に、時間的に重ならない発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスとを時間的に重なるようにするパルス時間間隔補正部110が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テラヘルツ波発生検出装置に関し、より詳細には、レーザによりテラヘルツ波を発生させて被測定物に入射し、反射や透過などにより該被測定物から出射されたテラヘルツ波を検出するテラヘルツ波発生検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1にて提案されているテラヘルツ分光・イメージング装置は、図1に示すように、超短パルスレーザ1から発生した光パルスをビームスプリッタ2にてテラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出光用光パルスとに分岐し、該テラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスとをそれぞれ別個の光ファイバ5および光ファイバ8を伝送路として用いて、テラヘルツ波発生用プローブヘッド6およびテラヘルツ波検出用プローブヘッド9に伝送させている。すなわち、ビームスプリッタ2にて分岐された一方の光パルスであるテラヘルツ波発生用光パルスは、集光光学系ユニット3を介して光ファイバ5に入射し、該光ファイバ5中を伝播してテラヘルツ波発生用プローブヘッド6に入射する。一方、ビームスプリッタ2にて分岐された他方の光パルスであるテラヘルツ波検出用光パルスは、集光光学系ユニット7を介して光ファイバ8に入射し、該光ファイバ8中を伝播してテラヘルツ波検出用プローブヘッド9に入射する。
【0003】
テラヘルツ波発生用プローブヘッド6は、光ファイバ5から入射されたテラヘルツ波発生用光パルスによりテラヘルツ波を発生し、該テラヘルツ波を被測定物10に照射する。また、テラヘルツ波検出用プローブヘッド9は、被測定物10から出射されたテラヘルツ波、および光ファイバ8から出射されたテラヘルツ波発生用光パルスを受光して、テラヘルツ波の検出を行う。
【0004】
一方、非特許文献1はパルス捕捉に指向するものであり、一本の偏光保持光ファイバ(Polarization Maintaining Fiber:PMF)のそれぞれの複屈折軸(高速軸と低速軸)に光パルスを伝播させた時に生じるパルス間の相互作用について非特許文献1に記載されている。上述のように、非特許文献1の技術はパルス捕捉に関するものであり、互いに偏光方向が直交した信号パルスと制御パルスとを時間的に重ねてPMFに結合する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−122278号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Eiji Shiraki、Norihiko Nishizawa、“Wideband amplification using orthogonally polarized pulse trapping in birefringent fibers”OPTICS EXPRESS 7330、Vol.18、No.7、2010年3月29日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、特許文献1では、テラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスとを、それぞれテラヘルツ波発生用プローブヘッド6およびテラヘルツ波検出用プローブヘッド9に供給する際に、互いに独立した伝送路(光ファイバ5、8)にて伝送させている。よって、テラヘルツ波発生用光パルスの伝送用の光ファイバ5およびテラヘルツ波検出用光パルスの伝送用の光ファイバ8の、温度変化による伸張が互いに独立に起こる。従って、環境変化、特に温度変化に対して、テラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスとの相対時間がずれてしまい、時間軸精度が不安定となる。
【0008】
また、非特許文献1では、光パルスが捕捉されて時間的に重なった、偏光方向が互いに直交する2つの光パルスをPMFの高速軸および低速軸にて伝播させているので、交差位相変調(Cross Phase Modulation:XPM)が生じ、スペクトル変化(波長シフト)やパルス間でのエネルギーの移動(光パルス強度の変化)が生じる。従って、PMFを伝播する偏光方向が互いに直交する2つの光パルスが時間的に重なっていることから、該PMFを伝播する上記2つの光パルスは、XPMによってパルス時間波形、および/またはスペクトル波形が変形してしまう。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、環境変化による、テラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルス間の相対的な時間差の変動を低減し、かつ光パルスの時間波形および/またはスペクトル波形の変形を低減することが可能なテラヘルツ波発生検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明の一態様は、テラヘルツ波発生検出装置であって、光パルスを発振するレーザ発振手段と、2つの出射端を有し、前記レーザ発振手段から発振された光パルスを2つに分岐する分岐手段と、2つの入射端を有し、該2つの入射端のうち一方から入射された第1の直線偏光と、他方から入射された、前記第1の直線偏光と直交する第2の直線偏光とを合成して出射する合成手段と、前記分岐手段の2つの出射端の一方と前記合成手段の入射端の一方とを光学的に接続する第1の経路であって、前記分岐手段の2つの出射端の一方から出射された光パルスを伝播させ、前記合成手段の一方の入射端に前記第1の直線偏光である光パルスを入射する第1の経路と、前記分岐手段の2つの出射端の他方と前記合成手段の入射端の他方とを光学的に接続する第2の経路であって、前記分岐手段の2つの出射端の他方から出射された光パルスを伝播させ、前記合成手段の他方の入射端に前記第2の直線偏光である光パルスを入射する第2の経路と、前記第1の経路および前記第2の経路の少なくとも一方に設けられた遅延手段であって、該遅延手段が設けられた経路を通過する光パルスを所定の遅延時間だけ遅延させる遅延手段と、前記第1の経路および前記第2の経路の少なくとも一方に設けられた調整手段であって、前記合成手段にて前記第1の直線偏光である光パルスと前記第2の直線偏光である光パルスとが合成される際に、該合成された第1の直線偏光である光パルスと前記合成された第2の直線偏光である光パルスとが時間的に重ならないように、前記調整手段が設けられた経路を通過する光パルスを一定の遅延時間だけ遅延させる調整手段と、一方端が前記合成手段の出射端に接続された複屈折を有する偏光保持ファイバであって、前記第1の直線偏光である光パルスが前記偏光保持ファイバの高速軸および低速軸の一方に入射し、前記第2の直線偏光である光パルスが前記高速軸および低速軸の他方に入射するように、前記合成手段に接続されることにより、前記第1の直線偏光である光パルスおよび前記第2の直線偏光である光パルスの双方が伝播する偏光保持ファイバと、2つの出射端を有し、前記偏光保持ファイバの他方端に接続され、該偏光保持ファイバの他方端から入射された前記第1の直線偏光である光パルスおよび前記第2の直線偏光である光パルスの一方を、前記2つの出射端の一方から出射し、前記偏光保持ファイバの他方端から入射された前記第1の直線偏光である光パルスおよび前記第2の直線偏光である光パルスの他方を前記2つの出射端の他方から出射する偏光分岐手段と、前記偏光分岐手段の2つの出射端の一方から出射された光パルスによりテラヘルツ波を発生するテラヘルツ波発生手段と、前記偏光分岐手段の2つの出射端の他方から出射した光パルスと、前記テラヘルツ波発生手段から発生したテラヘルツ波が入射された被測定物から出射されたテラヘルツ波とが入射されるように構成され、前記出射されたテラヘルツ波の検出を行うテラヘルツ波検出手段と、前記偏光分岐手段の2つの出射端の一方と前記テラヘルツ波発生手段とを光学的に接続する第3の経路と、前記偏光分岐手段の2つの出射端の他方と前記テラヘルツ波検出手段とを光学的に接続する第4の経路と、前記第3の経路および前記第4の経路の少なくとも一方に設けられ、前記時間的に重ならない前記第1の直線偏光である光パルスおよび前記第2の直線偏光である光パルスが時間的に重なるようにする補正部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環境変化(例えば、温度変化など)による、テラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルス間の相対的な時間差の変動を低減し、かつ光パルスの時間波形および/またはスペクトル波形の変形を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来の、テラヘルツ分光・イメージング装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るテラヘルツ波発生検出装置の概略構成図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る共用化されたファイバ伝送部に結合された、テラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスの様子を示すための図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るテラヘルツ波発生装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。なお、以下で説明する図面で、同機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略することもある。
【0014】
(第1の実施形態)
図2は、本実施形態に係るテラヘルツ波発生検出装置の概略構成図である。
図2において、テラヘルツ波発生検出装置100は、ファイバレーザ101と、インライン型のビームスプリッタ102と、強度変調器103と、インライン型の遅延ラインスキャナ104と、パルス時間間隔調整部105と、強度変調器106と、偏光ビームコンバイナ107と、複屈折を有する偏光保持光ファイバ(PMF)であるファイバ伝送部108と、インライン型の偏光ビームスプリッタ109と、パルス時間間隔補正部110と、テラヘルツ波(THz波)発生部111と、テラヘルツ波(THz波)検出部112と、伝播モジュール113とを備える。該伝播モジュール113は、複数の軸外し放物面鏡を有し、テラヘルツ波発生部111から入射されたテラヘルツ波をコリメートし、集光して被測定物114に入射させ、かつ被測定物114から入射されたテラヘルツ波をコリメートし、集光してテラヘルツ波検出部112に入射させるように構成されている。
【0015】
ファイバレーザ101は、受動モード同期レーザであり、第1の偏光方向の直線偏光であるフェムト秒レーザ光パルスであって、テラヘルツ波発生部111およびテラヘルツ波検出部112に入射すべき条件が整ったフェムト秒レーザの光パルスを発振する。該ファイバレーザ101の出射端とビームスプリッタ102の入射端とは偏光保持ファイバ(PMF)により接続されている。該ビームスプリッタ102は、1つの入射端と、2つの出射端とを有し、上記入射端から入射されたフェムト秒レーザ光パルスを2つに分岐して、該分岐された光パルスを上記2つの出射端から出射する。すなわち、ビームスプリッタ102は、ファイバレーザ101から入射されたフェムト秒レーザ光パルスを2つに分岐して、第1の偏光方向を有するテラヘルツ波発生用光パルス(テラヘルツ波発生部に入射すべき条件が整ったフェムト秒レーザの光パルス)を出射し、他方の出射端から第1の偏光方向を有するテラヘルツ波検出用光パルス(テラヘルツ波検出部に入射すべきフェムト秒レーザの光パルス)を出射する。このように、ビームスプリッタ102は、フェムト秒レーザ光パルスの伝播経路を、テラヘルツ波発生用の光パルスを伝送させるための第1の経路と、テラヘルツ波検出用の光パルスを伝送させるための第2の経路とに分岐する。
【0016】
ビームスプリッタ102の一方の出射端と、強度変調器103の入射端とはPMFにより接続されている。該強度変調器103は、後述するファイバ伝送部108中においてテラヘルツ波発生用光パルスをソリトン伝播させるように、ビームスプリッタ102から入射されたテラヘルツ波発生用光パルスに対して所定の変調をかける。すなわち、強度変調器103は、ファイバ伝送部108での一次のソリトン条件を整えるための強度変調器である。このように、本実施形態では、テラヘルツ波発生用光パルスを、ファイバ伝送部108を光ソリトン(波形変形無し、ないしは波形変形を低減して伝播する光パルス)として伝播させる。
【0017】
さて、上記ソリトン伝播とは、光ファイバでの波長分散によるパルス広がりの効果と非線形光学効果によるパルス圧縮効果とが釣り合う事で、光ファイバ中をパルスが、時間形状を変えずに、ないしは時間形状の変形を低減して伝播する現象のことである。よって、強度変調器103は、このようなソリトン伝播を起こさせるために、ビームスプリッタ102から入射されたテラヘルツ波発生用光パルスに対して、ソリトン次数が「1」となるようにピークパワー(光量)を調整する。すなわち、強度変調器103は、ファイバ伝送部108を伝播するテラヘルツ波発生用光パルスがソリトン条件を満たすような強度、および/またはパルス時間幅となるように、入射されたテラヘルツ波発生用光パルスに変調をかける。これにより、テラヘルツ波発生用光パルスは、ファイバ伝送部108中をソリトン伝播することができる。
【0018】
上記強度変調器103の出射端は、偏光ビームコンバイナ107の一方の入射端にPMFを介して接続されている。本実施形態では、ビームスプリッタ102の一方の出射端と偏光ビームコンバイナ107の一方の入射端とをPMFにより光学的に接続する光パルスの伝播する経路が、上記第1の経路(テラヘルツ波発生用の光パルスを伝送させるための経路)となり、該第1の経路中に強度変調器103が挿入されている。該第1の経路に含まれる光ファイバはPMFであるので、第1の経路から出射されるテラヘルツ波発生用光パルス、すなわち、偏光ビームコンバイナ107の一方の入射端に入射されるテラヘルツ波発生用光パルスは第1の偏光方向を有する直線偏光である。
【0019】
一方、ビームスプリッタ102の他方の出射端と、遅延ラインスキャナ104の入射端とはPMFにより接続されている。本実施形態では、ビームスプリッタ102の他方の出射端と偏光ビームコンバイナ107の他方の入射端とをPMFにより光学的に接続する光パルスの伝播経路が、上記第2の経路(テラヘルツ波検出用の光パルスを伝送させるための経路)となり、該第2の経路中に、遅延ラインスキャナ104、後述する、パルス時間間隔調整部105および強度変調器106が挿入されている。
【0020】
遅延ラインスキャナ104は、テラヘルツ波検出用光パルスを所定の遅延時間だけ遅延させるように構成されており、PC(パーソナルコンピュータ)等の制御装置(不図示)に電気的に接続された、ファイバピグテール付のインライン型の遅延ラインスキャナである。該遅延ラインスキャナ104は、駆動部により駆動可能なミラーを有しており、上記制御装置が上記駆動部を駆動させることにより、テラヘルツ波検出用光パルスに所定の遅延を付与するようにミラーを移動させることができる。よって、遅延ラインスキャナ104は、変動するミラーの各位置に応じた遅延時間の各々をテラヘルツ波検出用光パルスに付与することができる。すなわち、テラヘルツ波信号のサンプリングを行う際には、制御装置からの指示により、遅延ラインスキャナ104を駆動しながらテラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスとの時間差を調整する。
【0021】
なお、本実施形態では、テラヘルツ波検出用光パルスに所定の遅延時間を付与する形態であるが、テラヘルツ波発生用光パルスに所定の遅延時間を付与するようにしても良い。この場合は、第1の経路上であって、ビームスプリッタ102と偏光ビームコンバイナ107との間のいずれかの位置に遅延ラインスキャナ104を配置すれば良い。あるいは、第1の経路および第2の経路の双方に遅延ラインスキャナ104を設けても良い。
【0022】
遅延ラインスキャナ104の出射端と、パルス時間間隔調整部105の入射端とはPMFにより接続されている。該パルス時間間隔調整部105は、上記第1の経路を伝送して偏光ビームコンバイナ107に入射されたテラヘルツ波発生用光パルスと、上記第2の伝送経路を伝送して偏光ビームコンバイナ107に入射されたテラヘルツ波検出用光パルスとがファイバ伝送部108の入射端において時間的に重ならないように、テラヘルツ波検出用光パルスに一定の遅延時間を付与するように構成されている。すなわち、パルス時間間隔調整部105は、ファイバ伝送部108内にてテラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスとが時間的に重ならないように、これら2つの光パルスの相対的な時間差を調整する。
【0023】
本実施形態では、パルス時間間隔調整部105は、遅延ラインスキャナ104と同一の構造を有しており、駆動部により駆動可能なミラーを有している。該ミラーは、制御装置(不図示)からの制御により変位可能であり、第2の経路の光路長が第1の経路の光路長よりも長くなるように、上記ミラーは位置決めされている。従って、ビームスプリッタ102から第1の経路および第2の経路へと同時刻に出射されたテラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスとは、時間差を持って偏光ビームコンバイナ107に到着する。すなわち、ビームスプリッタ102から第1の経路へと出射されたテラヘルツ波発生用光パルスと同時刻にビームスプリッタ102から第2の経路へと出射されたテラヘルツ波検出用光パルスは、パルス時間間隔調整部105にて付与された光路長に相当する時間だけ遅れて偏光ビームコンバイナ107に入射する。よって、ファイバ伝送部108への入射時においては、テラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスとは意図的な時間差が設けられ、これら2つの光パルスは時間的に重ならない状態でファイバ伝送部108中を伝播することができる。
【0024】
本実施形態では、パルス時間間隔調整部105として遅延ラインスキャナ104と同一の構成を用いているが、これに限定されない。例えば、第1の経路の光路長が第2の経路の光路長よりも長くなるように追加的に設けられたPMF等、テラヘルツ波検出用光パルスが伝播する第2の経路に所定の光路長の追加が可能であればいずれの構成を採用しても良い。
【0025】
なお、本実施形態において、遅延ラインスキャナ104は、テラヘルツ波の波形を時間分解により計測するために、遅延時間を変動させながらテラヘルツ波検出用光パルスの各パルスに所定の遅延時間を付与するように機能している。これに対して、パルス時間間隔調整部105は、ファイバ伝送部108中において、テラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスとがファイバ伝送部108の光軸に沿って時間的に重ならないようにするため、テラヘルツ波検出用光パルス(あるいは、テラヘルツ波発生用光パルス)に一定の遅延時間を付与するように機能している。
【0026】
パルス時間間隔調整部105の出射端と、強度変調器106とはPMFにより接続されている。該強度変調器106は、後述するファイバ伝送部108中においてテラヘルツ波発生用光パルスをソリトン伝播させるように、パルス時間間隔調整部105から入射されたテラヘルツ波検出用光パルスに対して所定の変調をかける。すなわち、強度変調器106は、強度変調器103と同様の動作を行う。これにより、テラヘルツ波検出用光パルスは、ファイバ伝送部108中をソリトン伝播することができる。
【0027】
本実施形態では、ファイバ伝送部108を、テラヘルツ波発生用光パルスの伝送用光ファイバとテラヘルツ波検出用光パルスの伝送用光ファイバとを共用化したファイバとして用いるため、該ファイバ伝送部108の入射端に接続された偏光ビームコンバイナ107に入射する時点で、テラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスの偏光方向を互いに直交させる必要がある。従って、本実施形態では、上記第2の経路に含まれるPMFを捻り、該第2の経路の入射端から入射した第1の偏光方向を有するテラヘルツ波検出用光パルスが、第2の経路の出射端においては第1の偏光方向と直交する第2の偏光方向を有するテラヘルツ波検出用光パルスとなるように偏光方向を制御している。すなわち、第2の経路の入射時点では第1の偏光方向であったテラヘルツ波発生用光パルスの偏光方向が第2の経路の出射端(すなわち、偏光ビームコンバイナ107の他方の入射端)においては第2の偏光方向となるように、第2の経路の少なくとも一部のPMFを捻っている。
【0028】
なお、本実施形態では、第2の経路を捻ることで、偏光ビームコンバイナ107への到達時のテラヘルツ波発生用光パルスの偏光方向を90度回転させているが、第2の経路のいずれかに、例えば、1/2波長板のように入射された光パルスの偏光方向を90度回転させる部材を挿入しても良い。すなわち、結果として、第2の経路から偏光ビームコンバイナ107へと第2の偏光方向のテラヘルツ波検出用光パルスが出射されれば、いずれの構成を採用しても良い。
【0029】
また、本発明では、テラヘルツ波検出用光パルスの偏光方向を第2の経路において90度回転させることが本質ではなく、偏光ビームコンバイナ107への入射時において、テラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスの偏光方向を互いに直交させることが本質である。従って、第1の経路を捻ったり、該第1の経路上に偏光方向を90度回転させる部材を設ける等して、テラヘルツ波検出用光パルスの偏光方向は第1の偏光方向に維持し、テラヘルツ波発生用光パルスの偏光方向を90度回転させるようにしても良い。
【0030】
偏光ビームコンバイナ107は、2つの入射端、および1つの出射端を有し、互いに直交する2つの直線偏光を合成して出射する。本実施形態では、一方の入射端から第1の偏光方向のテラヘルツ波発生用光パルスが入射され、他方の入射端から第2の偏光方向のテラヘルツ波検出用光パルスが入射されるので、偏光ビームコンバイナ107は、上記2つの入射端から入射された第1の偏光のテラヘルツ波発生用光パルスと第2の偏光方向のテラヘルツ波検出用光パルスとを合成して出射端から出射する。
【0031】
偏光ビームコンバイナ107の出射端と、ファイバ伝送部108の入射端とが接続されている。該ファイバ伝送部108は複屈折を有するPMFであり、高速軸および低速軸を有する。ファイバ伝送部108の高速軸に第1の偏光方向のテラヘルツ波発生用光パルスが入射し、低速軸に第2の偏光方向のテラヘルツ波検出用光パルスが入射するように、偏光ビームコンバイナ107の出射端とファイバ伝送部108の入射端とは接続されている。従って、ファイバ伝送部108内において、高速軸と第1の偏光方向とが一致するようにテラヘルツ波発生用光パルスが伝播し、低速軸と第2の偏光方向とが一致するようにテラヘルツ波検出用光パルスが伝播する。すなわち、本実施形態では、ファイバ伝送部108は、テラヘルツ波発生用光パルスの伝送用光ファイバとテラヘルツ波検出用光パルスの伝送用光ファイバとを共用化したファイバ伝送部である。よって、テラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスに対してそれぞれ光学系を構築する場合に比べ部品点数を減らせるだけでなく、温度変化などの環境変化に対しても、相対的なパルス時間差を安定化することができる(温度変化によってファイバ長が変化しても、共用化していれば相対的な時間差は変化しない)。
【0032】
本実施形態では、パルス時間間隔調整部105により、テラヘルツ波検出用光パルスには一定の遅延時間が付与されている。従って、図3に示すように、高速軸に入射したテラヘルツ波発生用光パルス201と、低速軸に入射したテラヘルツ波検出用光パルス202との間には時間差が設けられていることになり、これら2つの光パルスはファイバ伝送部108内において時間的に重ならない。従って、ファイバ伝送部108中において、XPMによる時間波形、および/またはスペクトルの変形を低減して、直交した2つの光パルス201、202を独立に伝播させることができる。
【0033】
なお、本実施形態では、第1の偏光方向のテラヘルツ波発生用光パルスを高速軸に入射し、第2の偏光方向のテラヘルツ波検出用光パルスを低速軸に入射するようにしているが、第1の偏光方向のテラヘルツ波発生用光パルスを低速軸に入射し、第2の偏光方向のテラヘルツ波検出用光パルスを高速軸に入射するようにしても良い。
【0034】
ファイバ伝送部108の出射端と、偏光ビームスプリッタ109の入射端とが接続されている。該偏光ビームスプリッタ109は、1つの入射端と、2つの出射端とを有し、ファイバ伝送部108から出射された第1の偏光方向のテラヘルツ波発生用光パルスを2つの出射端の一方から出射し、ファイバ伝送部108から出射された第2の偏光方向のテラヘルツ波検出用光パルスを2つの出射端の他方から出射する。
【0035】
偏光ビームスプリッタ109の一方の出射端と、パルス時間間隔補正部110の入射端とがPMFにより接続されている。該パルス時間間隔補正部110は、ファイバ伝送部108中を時間的に重ならないようにして伝送された、第1の偏光方向のテラヘルツ波発生用光パルスと第2の偏光方向のテラヘルツ波検出用光パルスとが時間的に重なるように、テラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスとの時間的なずれを補正する。
【0036】
本実施形態では、上述のように、パルス時間間隔調整部105にてテラヘルツ波検出用光パルスに対して所定の遅延時間が付与されているので、ファイバ伝送部108の入射時においては、テラヘルツ波発生用光パルス201とテラヘルツ波検出用光パルス202との間に一定の時間差が付与されている。さらに、テラヘルツ波発生用光パルス201は高速軸に入射してファイバ伝送部108中を伝播するので、テラヘルツ波発生用光パルス201の方がより早くファイバ伝送部108中を伝播することになる。よって、ファイバ伝送部108の出射端においては、テラヘルツ波発生用光パルス201とテラヘルツ波検出用光パルス202との間には、パルス時間間隔調整部105にて付与された時間差に加えて、ファイバ伝送部108の複屈折による時間差が付与される。よって、パルス時間間隔補正部110は、パルス時間間隔調整部105にて付与された時間差、およびファイバ伝送部108の複屈折による時間差を補償するように構成されている。
【0037】
本実施形態では、パルス時間間隔補正部110は、パルス時間間隔調整部105や、遅延ラインスキャナ104と同一の構造を有しており、駆動部により駆動可能なミラーを有している。該ミラーは、制御装置(不図示)からの制御により変位可能であり、パルス時間間隔調整部105にて付与された遅延時間、およびファイバ伝送部108の複屈折により生じた、高速軸に入射したテラヘルツ波発生用光パルスと低速軸に入射したテラヘルツ波検出用光パルスとの間時間差の合計時間だけ、テラヘルツ波発生用光パルスが遅延するように、上記ミラーは位置決めされている。
【0038】
パルス時間間隔補正部110の出射端と、テラヘルツ波発生部111の入射端とがPMFにより接続されている。本実施形態では、偏光ビームスプリッタ109の一方の出射端とテラヘルツ波発生部111とをPMFにより光学的に接続する光パルスの伝播する経路が、第3の経路となり、該第3の経路中にパルス時間間隔補正部110が挿入されている。
【0039】
テラヘルツ波発生部111は、パルス時間間隔補正部110とテラヘルツ波発生部111とを接続するPMFの出射端に接続されたコリメートレンズと、該コリメートレンズにてコリメートされた光を集光するように設けられた集光レンズと、該集光レンズにて集光された光が入射するように設けられたテラヘルツ波発生用の非線形結晶とを有している。上記PMFの出射端、コリメートレンズ、集光レンズ、およびDAST結晶はモジュール化されている。このような構成で、パルス時間間隔補正部110から出射された第1の偏光方向のテラヘルツ波発生用光パルスは、コリメートレンズおよび集光レンズによりコリメート・集光されテラヘルツ波発生用非線形結晶であるDAST結晶に入射され、DAST結晶はテラヘルツ波を発生する。
【0040】
偏光ビームスプリッタ109の他方の出射端と、テラヘルツ波検出部112とがPMFにより接続されている。本実施形態では、偏光ビームスプリッタ109の他方の出射端とテラヘルツ波検出部112とをPMFにより光学的に接続する光パルスの伝播する経路が、第4の経路となる。なお、本実施形態では、第4の経路において、第2の偏光方向のテラヘルツ波検出用光パルスの偏光方向が、第4の経路の出射端において第1の偏光方向となるようにしている。これは、例えば、上記第4の経路に含まれるPMFを捻り、該第4の経路の入射端から入射した第2の偏光方向を有するテラヘルツ波検出用光パルスが、第4の経路の出射端においては第1の偏光方向を有するテラヘルツ波検出用光パルスとなるように偏光方向を制御している。すなわち、第4の経路の入射時点では第2の偏光方向であったテラヘルツ波発生用光パルスの偏光方向が第4の経路の出射端においては第1の偏光方向となるように、第4の経路の少なくとも一部のPMFを捻っている。
なお、本実施形態では、第4の経路に、偏光方向を90度回転させる部材を設けても良い。
【0041】
テラヘルツ波検出部112は、偏光ビームスプリッタ109の他方の出射端とテラヘルツ波検出部112とを接続するPMFの出射端に接続され、第二高調波を発生可能な非線形結晶(本実施形態では、PPLN(Periodically Poled Lithium Niobate))と、該非線形結晶から発生した光から第二高調波を抽出する光学フィルタと、該光学フィルタにより抽出された第二高調波を光伝導アンテナに入射させるためのレンズと、該光学フィルタにて抽出された第二高調波が入射するように設けられた光伝導アンテナとを有する。該光伝導アンテナの裏面(偏光ビームスプリッタ109と反対側の面)にはシリコンの半球または超半球レンズが設置されている。本実施形態では、上記PMFの出射端からシリコンレンズまで1つのモジュールとなっており、空間伝搬時と比べて小型化・堅牢化が実現されている。このような構成により、偏光ビームスプリッタ190から出射され、偏光方向が第2の偏光方向から第1の偏光方向に変換されたテラヘルツ波検出用光パルスがPPLNに入射すると、該PPLNから第2高調波が発生し、光学フィルタにより第2高調波のみが取り出され、該取り出された第二高調波はレンズにより光伝導アンテナへ集光される。このとき、光伝導アンテナのシリコンレンズ側から被測定物105から出射されたテラヘルツ波が入射されることにより、該テラヘルツ波の検出が行われる。
なお、本実施形態では、光伝導アンテナを用いてテラヘルツ波を検出したが、変わりに非線形結晶を用いてEO検出してもよい。非線形結晶を用いたEO検出においては第2高調波を発生しなくてもテラヘルツ波を検出することができる。
【0042】
本実施形態では、上記各構成要素を接続している光ファイバは偏光保持ファイバ(PMF)である。従って、環境変化、ファイバの曲げに対して、生成される光パルスの強度、パルス波形、偏光方向を安定にすることができる。
【0043】
次に、本実施形態に係るテラヘルツ波発生検出装置100の動作を説明する。
ファイバレーザ101は、第1の偏光方向のフェムト秒レーザ光パルスを発振する。該第1の偏光方向のフェムト秒レーザ光パルスは、ビームスプリッタ102に2つに分岐され、分岐された一方の光パルスは第1の偏光方向のテラヘルツ波発生用光パルスとして第1の経路に結合され、他方の光パルスは第1の偏光方向のテラヘルツ波検出用光パルスとして第2の経路に結合する。
【0044】
上記第1の経路に結合された第1の偏光方向のテラヘルツ波発生用光パルスは強度変調器103に入射する。該強度変調器103は、入射された第1の偏光方向のテラヘルツ波発生用光パルスに対して、該テラヘルツ波発生用光パルスがファイバ伝送部108にてソリトン伝播するための変調をかけて出射する。該出射されたソリトン伝播のための変調がかけられ、第1の偏光方向のテラヘルツ波発生用光パルスは、偏光ビームコンバイナ107に入射する。
【0045】
一方、上記第2の経路に結合された第1の偏光方向のテラヘルツ波検出用光パルスは、遅延ラインスキャナ104に入射する。遅延ラインスキャナ104は、テラヘルツ波波形を観測するために制御装置による制御により駆動し、被測定物114から出射される反射されたテラヘルツ波とテラヘルツ波検出用光パルスの時間差を変化させながら、テラヘルツ波検出部112の光伝導アンテナ出力電流を検出する。遅延ラインスキャナ104によるスキャンのスキャン幅、スキャンレートは被測定物114に応じて調整するとよい。
【0046】
上記遅延ラインスキャナ104にて所定の遅延時間を付与されたテラヘルツ波検出用光パルスは、パルス時間間隔調整部105に入射し、該パルス時間間隔調整部105にて、ファイア伝送部108にてテラヘルツ波発生用光パルスと時間的に重ならないようにするための一定の遅延時間をさらに付与される。該一定の遅延時間を付与されたテラヘルツ波検出用光パルスは、強度変調器106に入射する。該強度変調器106は、入射されたテラヘルツ波検出用光パルスに対して、該テラヘルツ波検出用光パルスがファイバ伝送部108にてソリトン伝播するための変調をかけて出射する。該出射されたソリトン伝播のための変調がかけられたテラヘルツ波検出用光パルスは、偏光ビームコンバイナ107に入射する。なお、第2の経路は、該第2の経路の出射端において該第2の経路の入射端における偏光方向から90度回転させるように捻られているので、偏光ビームコンバイナ107への入射時において、テラヘルツ波検出用光パルスの偏光方向は第2の偏光方向となっている。
【0047】
偏光ビームコンバイナ107は、入射された第1の偏光方向のテラヘルツ波発生用光パルスと第2の偏光方向のテラヘルツ波検出用光パルスとを合成して、第1の偏光方向のテラヘルツ波発生用光パルスをファイバ伝送部108の高速軸に入射させ、かつ第2の偏光方向のテラヘルツ波検出用光パルスをファイバ伝送部108の低速軸に入射させる。このとき、テラヘルツ波検出用光パルスは、パルス時間間隔調整部105にて一定の遅延時間が付与されているので、ファイバ伝送部108の入射端においては、テラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスとは時間的に重なっていない。このようにして、一本の光ファイバ(ファイバ伝送部108)中を、テラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスの双方が、時間的に重ならないようにして伝播する。なお、テラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスの双方は強度変調器103、106にてソリトン伝播するように変調がかけられているので、テラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスは共にファイバ伝送部108中を光ソリトンとして伝播する。
【0048】
ファイバ伝送部108を伝送した第1の偏光方向のテラヘルツ波発生用光パルスと第2の偏光方向のテラヘルツ波検出用光パルスは偏光ビームスプリッタ109に入射する。該偏光ビームスプリッタ109は、第1の偏光方向のテラヘルツ波発生用光パルスを第3の経路に結合し、第2の偏光方向のテラヘルツ波検出用光パルスを第4の経路に結合する。
【0049】
上記第3の経路に結合した第1の偏光方向のテラヘルツ波発生用光パルスは、パルス時間間隔補正部110に入射する。該パルス時間間隔補正部110は、パルス時間間隔調整部105にてテラヘルツ波検出用光パルスに付与された一定の遅延時間、およびファイバ伝送部108の複屈折によるテラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスとの時間差の和に相当する時間だけテラヘルツ波発生用光パルスを遅延させて、時間的に重ならないテラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスとが時間的に重なるようにする。このようにして補正が施された第1の偏光方向のテラヘルツ波発生用光パルスはテラヘルツ波発生部111に入射し、該テラヘルツ波発生部111はテラヘルツ波を発生する。該発生したテラヘルツ波は伝播モジュール113を介して被測定物114に入射する。該被測定物114に入射されたテラヘルツ波は該被測定物114にて反射され、該反射されたテラヘルツ波は伝播モジュール113を介してテラヘルツ波検出部112に入射する。
【0050】
一方、上記第4の経路に結合した第2の偏光方向のテラヘルツ波検出用光パルスは、テラヘルツ波検出部112に入射する。なお、第4の経路は、該第4の経路の出射端において該第4の経路の入射端における偏光方向から90度回転させるように捻られているので、テラヘルツ波検出部112への入射時において、テラヘルツ波検出用光パルスの偏光方向は第1の偏光方向となっている。
【0051】
テラヘルツ波検出部112は、第1の偏光方向のテラヘルツ波検出用光パルスと、伝播モジュール113から出射された、被測定物114にて反射されたテラヘルツ波とにより、光伝導アンテナにて生じた電流を計測して、テラヘルツ波の電場時間波形を測定する。
【0052】
このように、本実施形態では、複屈折性の偏光保持光ファイバ(PMF)の高速軸および低速軸の一方に第1の直線偏光であるテラヘルツ波発生用光パルスを入射させ、他方に第1の直線偏光と直交する第2の直線偏光であるテラヘルツ波検出用光パルスを入射させることにより、テラヘルツ波発生用光パルスの伝送用光ファイバとテラヘルツ波検出用光パルスの伝送用光ファイバとを1本の光ファイバに共用化している。従って、温度変化が起こり、光ファイバが該温度変化に応じて伸張しても、テラヘルツ波発生用光パルスを伝送させるための光ファイバおよびテラヘルツ波検出用光パルスを伝送させるための光ファイバは共に同一のファイバ伝送部108であるので、該ファイバ伝送部108中を通過する、テラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスの双方は共に同一のファイバ伸張を経験する。よって、環境変化に対する、テラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスの相対的な時間差を安定にすることができる。
【0053】
また、テラヘルツ波発生用光パルスの伝送用光ファイバおよびテラヘルツ波検出用光パルスの伝送用光ファイバを1つのPMFで共用化する際、該PMFの同一軸に入射すると、該PMFからテラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスを取り出す際に、時間的に分波する装置が必要となり、システムが複雑化する。しかしながら、本実施形態では、PMFの直交する複屈折軸(高速軸、低速軸)の一方にテラヘルツ波発生用光パルスを入射させ、他方にテラヘルツ波検出用光パルスを入射させているので、パッシブな部品(偏光ビームコンバイナ、偏光ビームスプリッタ)により装置を構成することができる。よって、装置を簡素化することができる。
【0054】
また、本実施形態では、上述のように、ファイバ伝送部108の直交する複屈折軸の各々に、テラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスのいずれか一方ずつを入射させつつ、テラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスのいずれか一方に一定の遅延時間を付与して意図的に遅らせることにより、ファイバ伝送部108内においてテラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスとが時間的に重ならないようにしている。従って、テラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスとを共用化されたファイバ伝送部108にて伝播する際に、これら2つの光パルスの作用によるXPMの発生を抑制することができ、ファイバ伝送部108を伝播する光パルスの時間波形、および/またはスペクトル波形の変形を防止、ないしは低減することができる。
【0055】
また、本実施形態では、ファイバ伝送部108中をテラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスの双方を光ソリトンとして伝送させている。従って、ファイバ伝送部108中を比較的長距離(例えば、>10m)に亘ってパルス歪みを起こさずにテラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスを伝播させることができる。従って、ファイバ伝送部108を、コントローラと光学ヘッドとをつなぐファイバケーブルとすることができる。よって、テラヘルツ波発生部111およびテラヘルツ波検出部112を、ファイバ伝送部108の、光パルスの進行方向前段の光学系と分離することができる。すなわち、光学ヘッドを用いる形態に適用する場合、該光学ヘッドは、偏光ビームスプリッタ109、パルス時間間隔補正部110、テラヘルツ波発生部111、テラヘルツ波検出部112、および伝播モジュール113を少なくとも含むように構成すれば良い。よって、光学ヘッドの構成部品の低減、小型化、軽量化を行うことができる。
【0056】
さらに、ファイバレーザ101からテラヘルツ波発生部111およびテラヘルツ波検出部112の近くまで光ファイバを用いてフェムト秒レーザ光パルスをデリバリしているので、空間光学系を用いたテラヘルツ波発生検出装置と比べて、振動等の環境変化による位置ずれ等に対して堅牢な構成とすることができる。
【0057】
なお、本発明において重要なことの1つは、テラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスの伝送用として共用化されたファイバ伝送部内において、XPMの影響を低減することにあり、そのために、上記ファイバ伝送部において、テラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスとを時間的に重ならないようにすることが必要である。そして、これを実現するために、テラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスのいずれか一方に一定の遅延時間を付与することが重要となる。上記実施形態では、テラヘルツ波検出用光パルスに一定の遅延時間を付与する形態であるので、第2の経路にパルス時間間隔調整部105を設けているが、テラヘルツ波発生用光パルスに一定の遅延時間を付与する場合は、第1の経路にパルス時間間隔調整部105を設ければ良い。あるいは、第1の経路および第2の経路の双方にパルス時間間隔調整部105を設けても良い。この場合は、第1の経路に設けられるパルス時間間隔調整部の遅延時間の付与量と、第2の経路に設けられるパルス時間間隔調整部の遅延時間の付与量とを異ならせれば良い。
【0058】
同様に、上述のように、ファイバ伝送部108中における意図的に設けた時間差を解消することも必要であり、そのために、パルス時間間隔補正部110を設けている。従って、ファイバ伝送部108中において時間的に重ならないようにされたテラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスとを、時間的に重なるようにすることができるのであれば、パルス時間間隔補正部110を第4の経路に設けても良いことは言うまでも無い。あるいは、第3の経路および第4の経路の双方にパルス時間間隔補正部110を設けても良い。この場合は、ファイバ伝送部108を伝送してきたテラヘルツ波発生用光パルスとテラヘルツ波検出用光パルスとが時間的に重なるように、第3の経路に設けられるパルス時間間隔補正部の補正量と第4の経路に設けられるパルス時間間隔補正部の補正量とを調整すれば良い。
【0059】
(第2の実施形態)
図4は、本実施形態に係るテラヘルツ波発生検出装置の概略構成図である。
図4において、テラヘルツ波発生検出装置400は、コントローラに組み込まれた光学ユニット401と、光学ヘッド402と、光学ユニット401と光学ヘッド402とを接続するファイバ伝送部108とを備える。光学ユニット401は、ファイバレーザ発振器403と、ビームスプリッタ102と、ON/OFF変調器404と、強度変調器103と、遅延ラインスキャナ104と、パルス時間間隔調整部105と、強度変調器106と、偏光ビームコンバイナ107とを有する。また、光学ヘッド402は、ファイバ増幅器406と、ファイバ圧縮器407と、偏光ビームスプリッタ109と、パルス時間間隔補正部110と、テラヘルツ波発生部111と、テラヘルツ波検出部112と、伝播モジュール113とを有する。
【0060】
なお、第2の実施形態においては、テラヘルツ波発生用光パルスは、テラヘルツ波発生部111に入射すべきフェムト秒レーザの光パルスであって、テラヘルツ波発生部111での所望のテラヘルツ波発生のために設定された、パワーおよびパルス幅を有する光パルスとして説明する。また、テラヘルツ波検出用光パルスについても、テラヘルツ波検出部112に入射すべきフェムト秒レーザの光パルスであって、テラヘルツ波検出部112でのテラヘルツ波検出のために設定された、パワーおよびパルス幅を有する光パルスとして説明する。
【0061】
さて、本実施形態は、ファイバレーザ発振器403からは、テラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスの種光パルスを発振し、後述するファイバ圧縮器407からの出射時に、所定の変調済みのテラヘルツ波発生用光パルス、およびテラヘルツ波検出用光パルスとするものである。
【0062】
ファイバレーザ発振器403は、受動モード同期ファイバレーザであり、最終的にファイバ圧縮器407から出力する光パルスであるテラヘルツ波発生用光パルスのパワーよりも低いパワーを有し、該テラヘルツ波発生用光パルスのパルス幅よりも広いパルス幅の光パルスであって、第1の偏光方向を有する光パルスを発振する。すなわち、ファイバレーザ発振器403は、テラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスの種光パルスを発振する。本実施形態では、ファイバレーザ発振器403からは、パルス幅500fs、平均強度40mW、繰り返し周波数100MHzのフェムト秒光パルス列が出力される。
【0063】
第1の経路には、ON/OFF変調器404が挿入されており、ビームスプリッタ102の一方の出射端とON/OFF変調器404の入射端とがPMFにより接続され、ON/OFF変調器404の出射端と強度変調器103とがPMFにより接続されている。該ON/OFF変調器404は、ファイバ圧縮器407からの出射時にはテラヘルツ波発生用光パルスとなる光パルスに所定の変調(例えば、テラヘルツ波検出感度向上のためのロックイン検出用の変調など)をかけるためのものである。すなわち、ON/OFF変調器404は、テラヘルツ波発生用光パルスのパワーよりも低く、かつ該パルスのパルス幅よりも広い光パルス(種光パルス)に対して変調をかけるものであり、本実施形態では、該ON/OFF変調器404により、テラヘルツ波発生用光パルスとして持つべきパワーおよびパルス幅に整える前に、該テラヘルツ波派生用パルスとなる種光パルスに対して予め変調をかける。従って、テラヘルツ波発生用光パルスを変調済みの光パルスとすることができる。
【0064】
本実施形態では、ON/OFF変調器404として、AOMを用いているが、EOMを用いても良い。本実施形態では、AOMであるON/OFF変調器404は、入射された、テラヘルツ波発生用の種光パルス列に対して、90kHzの変調をかけるように構成されている。この変調周波数は、例えばロックインアンプを用いる場合、該ロックインアンプの帯域上限に基づいて設定すれば良く、機器によってはより高速な変調をかけても良い。
【0065】
このように、本実施形態では、ファイバレーザ発振器403は、テラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスの種光パルスを発振するので、上記第1の経路および第2の経路には、種光パルスが伝播することになる。すなわち、ビームスプリッタ102は、ファイバレーザ発振器403から出射された種光パルスが入射されると、一方の出射端からテラヘルツ波発生用光パルスの種光パルスを出射し、他方の出射端からテラヘルツ波発生用光パルスの種光パルスを出射する。よって、ビームスプリッタ102の一方の出射端から出射したテラヘルツ波発生用光パルスの種光パルスは第1の経路を伝播して偏光ビームコンバイナ107の一方の入射端に入射し、他方の出射端から出射したテラヘルツ波検出用光パルスの種光パルスは第2の経路を伝播して偏光ビームコンバイナ107の他方の入射端に入射する。
【0066】
図4において、符号405は、テラヘルツ波発生用の種光パルスおよびテラヘルツ波検出用の種光パルスの双方を伝送させるための共用ファイバである。該共用ファイバ405は、入射端が偏光ビームコンバイナ107の出射端に接続されたファイバ伝送部108と、入射端がファイバ伝送部108の出射端に接続されたファイバ増幅器406と、入射端がファイバ増幅器406の出射端に接続されたファイバ圧縮器407とを有している。このファイバ圧縮器407の出射端は、偏光ビームスプリッタ109の入射端に接続されている。従って、偏光ビームコンバイナ107から入射された、テラヘルツ波発生用の種光パルスおよびテラヘルツ波検出用の種光パルスの双方は、ファイバ伝送部108、ファイバ増幅器406、およびファイバ圧縮器407中を通過して偏光ビームスプリッタ109へと入射される。
【0067】
ファイバ増幅器406は、複屈折を有する、分散特性が正常分散値を有するエルビウム添加ファイバである。このように、正常分散のエルビウム添加ファイバを増幅ファイバとして用いることにより、パルス分裂などの測定性能に悪影響を及ぼす非線形効果を低減することができる。ファイバ増幅器406は、不図示の励起レーザからの励起光が注入されることにより、テラヘルツ波発生用の種光パルスおよびテラヘルツ波検出用の種光パルスを増幅することができる。なお、ファイバ増幅器406としては、エルビウムの他に、イッテルビウム、ツリウム、またはネオジウムなどが添加されたファイバ増幅器を用いることができる。本実施形態では、ファイバ増幅器406は、入射された、テラヘルツ波発生用の種光パルスおよびテラヘルツ波検出用の種光パルスのパワーを500mWまで増幅するように構成されている。すなわち、ファイバ増幅器406により、テラヘルツ波発生用の種光パルスおよびテラヘルツ波検出用の種光パルスのパワーを、最終的に出力される光パルスであるテラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスとして持つべきパワーまで増幅させる。
【0068】
ファイバ圧縮器407は、複屈折を有する、大口径の定偏波フォトニッククリスタルファイバであり、入射された、テラヘルツ波発生用の種光パルスおよびテラヘルツ波検出用の種光パルスのパルス幅を50fsに圧縮するように構成されている。
【0069】
ファイバ増幅器406から出力された光パルス(テラヘルツ波発生用の種光パルスおよびテラヘルツ波検出用の種光パルス)は、ファイバ増幅器406の非線形効果と正常分散の影響とにより、スペクトルが広がると同時に正の単調なチャープを有している。本実施形態では、ファイバ圧縮器406として大口径のフォトニッククリスタルファイバを用いているので、このチャープを補償することができる。このフォトニッククリスタルファイバはモードフィールド径が20ミクロン以上であるが、光パルスのシングルモード伝搬が可能である。そのため、増幅により高ピーク強度化した光パルスの伝搬においても、過剰な非線形効果を抑制することができ、シングルピークの高ピーク強度短パルスを生成することができる。本実施形態では、ファイバ増幅器406中で生じる光スペクトル広がりと、ファイバ圧縮器407としてのフォトニッククリスタルファイバ中で生じるソリトン圧縮とにより、テラヘルツ波発生用の種光パルスおよびテラヘルツ波検出用の種光パルスのパルス幅は50fs以下に圧縮される。すなわち、ファイバ圧縮器407により、テラヘルツ波発生用の種光パルスおよびテラヘルツ波検出用の種光パルスのパルス幅を、最終的に出力される光パルスであるテラヘルツ波発生用光パルスおよびテラヘルツ波検出用光パルスとして持つべきパルス幅まで細くする。
【0070】
このように、共用ファイバ405に入射された、テラヘルツ波発生用の種光パルスおよびテラヘルツ波検出用の種光パルスは、ファイバ増幅器406およびファイバ圧縮器407にて所定の増幅およびパルス圧縮を施され、該ファイア圧縮器407から、変調済みのテラヘルツ波発生用光パルス(パルス幅:50fs、パワー:500mW)、およびテラヘルツ波検出用光パルス(パルス幅:50fs、パワー:500mW)として出射する。
【0071】
なお、本実施形態では、1つの経路である共用光ファイバ405にて、テラヘルツ波発生用の種光パルスおよびテラヘルツ波検出用の種光パルスといった2種類の光パルスを伝播させることが特徴の1つである。この共用光ファイバ405の構成要素の1つであるファイバ伝送部108においては、高速軸にテラヘルツ波発生用の種光パルスが入射し、低速軸にテラヘルツ波検出用の種光パルスが入射しており、独立した2つの直線偏光が伝播可能である。本実施形態では、ファイバ増幅器406の高速軸にファイバ伝送部108の高速軸から出射したテラヘルツ波発生用の種光パルスが入射し、低速軸にファイバ伝送部108の低速軸から出射したテラヘルツ波検出用の種光パルスが入射するように、ファイバ伝送部108とファイバ増幅器406とが接続されている。同様に、ファイバ圧縮器407の高速軸にファイバ増幅器406の高速軸から出射したテラヘルツ波発生用の種光パルスが入射し、低速軸にファイバ増幅器406の低速軸から出射したテラヘルツ波検出用の種光パルスが入射するように、ファイバ増幅器406とファイバ圧縮器407とが接続されている。従って、ファイバ増幅器406およびファイバ圧縮器407の双方においても、独立した2つの直線偏光が伝播可能である。
【0072】
上述のように、本実施形態では、第1の実施形態に対して、ファイバ増幅器406およびファイバ圧縮器407が共用ファイバとして追加されている。従って、パルス時間間隔補正部110は、パルス時間間隔調整部105にて付与された時間差、およびファイバ伝送部108の複屈折による時間差に加えて、ファイバ増幅器406の複屈折による時間差およびファイバ圧縮器407の複屈折による時間差を補償するように構成されている。
【0073】
このように、本実施形態では、種光の段階でテラヘルツ波発生用の光パルスに所定の変調をかけ、その後に必要な値までパワーを上げ、かつ必要な値までパルス幅を狭めているので、変調済みであり、高いパワー(例えば、500mW)を有し、細いパルス幅(例えば、50fs)のフェムト秒レーザ光パルスをテラヘルツ波発生部111に入射することができる。従って、高強度であり、かつ広帯域なテラヘルツ波を生成することができる。
【0074】
従来では、例えば、高速変調を狙ってAOM(またはEOM)を強度変調器として用いる場合、フェムト秒レーザ発生装置とテラヘルツ波発生部との間にAOMを設けているので、該AOMの波長分散の効果によりパルス幅が広がってしまっていた。この場合、チャープ補償器をフェムト秒レーザ発生装置やAOMの後段に組み入れ、テラヘルツ波発生部でパルス幅が最小となるようにする工夫が必要であった。また、変調器の透過率は100%ではないため、変調器でのロスを補償する高パワー光増幅器が必要となるが、高パワーになると時間歪みやスペクトル変形を引き起こす非線形光学効果が発生するため、従来では、変調を行いつつ、高パワーを有し、細いパルス幅のフェムト秒レーザ光パルスを出射することは困難であった。
【0075】
これに対し、本実施形態では、テラヘルツ波発生部111に入射すべきテラヘルツ波発生用光パルスに必要なパワーおよびパルス幅にする前に、テラヘルツ波発生用の光パルス(種光パルス)に所定の変調をかけ、該変調をかけた後に、テラヘルツ波発生用の光パルスを所望のパワーにし、かつ所望のパルス幅にしている。すなわち、テラヘルツ波発生用光パルスの種光の段階で変調をかけ、その後に増幅器によりパワーを必要な値まで大きくし、かつパルス圧縮器により必要な値までパルス幅を狭くする。
【0076】
従って、AOMやEOMであるON/OFF変調器404により、テラヘルツ波発生用の種光パルスに変調をかける際に、該ON/OFF変調器404の波長分散の効果によりパルス幅が広がったとしても、変調後に上記テラヘルツ波発生用の種光パルスのパルス幅をファイバ圧縮器407にて細くしているので、結果としては、変調済みにも関わらず、パルス幅の細いきれいなフェムト秒レーザの光パルスを出射することができる。よって、テラヘルツ波発生部111に対して細いパルス幅のフェムト秒レーザ光を入射することができ、発生するテラヘルツ波を広帯域にすることができる。すなわち、本実施形態では、テラヘルツ波発生用の光パルスの伝播経路において、ON/OFF変調器404を設け、さらに、該ON/OFF変調器404の、光パルスの進行方向に対して後段にファイバ圧縮器407を設けることで、広帯域テラヘルツ波を発生させるときに致命的となる波長分散の影響を回避することができる。
【0077】
また、高強度テラヘルツ波発生のために発生用光パルスの高強度化を行う必要があるが、テラヘルツ波発生用の種光パルスを変調した後に、最終出力とすべき値にパワーを増幅しているので、低パワーの光パルスをON/OFF変調器404に入射させても、最終出力時には所望の高パワーを有するテラヘルツ波発生用光パルスを得ることができる。さらには、増幅前に変調を行うことで、レーザ最終出力を変調する場合に比べて励起レーザのエネルギーを効率的に活用し高強度化を行うことができる。
【0078】
また、本実施形態では、2つの直交する複屈折軸の一方にテラヘルツ波発生用の種光パルスが入射され、かつ他方にテラヘルツ波検出用の種光パルスが入射される共用ファイバ405に、ファイバ増幅器406およびファイバ圧縮器407を設けている。従って、1つのファイバ増幅器および1つのファイバ圧縮器によって、2つの独立した光パルスであるテラヘルツ波発生用の種光パルスおよびテラヘルツ波検出用の種光パルスの双方に同一の増幅およびパルス圧縮を施すことができる。
【0079】
ところで、一般的にフェムト秒レーザ光パルスの発生には、ドライバ等の比較的大型のコントローラが必要となるため、ロボットアーム等に搭載するような可搬型のテラヘルツ波発生検出装置を実現するためには、軽量化、コンパクト化のため光学ヘッドはコントローラと分離した構成とする場合が多い。一方50fs程度のパルス幅を光ファイバで発生させる際には、各モジュール(発振器、増幅器、圧縮器)間のファイバ長は、一般的に数十cm〜数m程度と短いため、フェムト秒レーザ光パルスをテラヘルツ発生部、テラヘルツア波検出部のすぐ近くまで光ファイバでデリバリを行う構成の場合には、モジュールの一部をコントローラ側におくようなことは難しい。よって、必然的にフェムト秒レーザ光生成部は、光学ヘッドに入れ込む必要がある。この場合、光学ヘッドの軽量化、コンパクト化が困難になる。
【0080】
本実施形態では、光ファイバ中の非線形光学効果の一つである“ソリトン伝播”を利用することで、ファイバレーザ発振器403、遅延ラインスキャナ104など比較的大型なモジュールを光学ヘッド402より分離してコントローラ側に収納する構成を取っている。上記ソリトン伝播を用いれば、光ファイバ中を比較的長距離(>10m)にわたってパルス歪を起こさずないしはパルス歪みを低減して伝播させることができるため、光学ヘッド402とコントローラの光学ユニット401との間をつなぐファイバケーブルを実現できる。よって、光学ヘッド402に収納すべきモジュール(部品)を減らすことができる。
【符号の説明】
【0081】
100、400 テラヘルツ波発生検出装置
101 ファイバレーザ
102 ビームスプリッタ
103、106 強度変調器
104 遅延ラインスキャナ
105 パルス時間間隔調整部
107 偏光ビームコンバイナ
108 ファイバ伝送部
109 偏光ビームスプリッタ
110 パルス時間間隔補正部
111 テラヘルツ波発生部
112 テラヘルツ波検出部
403 ファイバレーザ発振器
404 ON/OFF変調器
405 共用ファイバ
406 ファイバ増幅器
407 ファイバ圧縮器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光パルスを発振するレーザ発振手段と、
2つの出射端を有し、前記レーザ発振手段から発振された光パルスを2つに分岐する分岐手段と、
2つの入射端を有し、該2つの入射端のうち一方から入射された第1の直線偏光と、他方から入射された、前記第1の直線偏光と直交する第2の直線偏光とを合成して出射する合成手段と、
前記分岐手段の2つの出射端の一方と前記合成手段の入射端の一方とを光学的に接続する第1の経路であって、前記分岐手段の2つの出射端の一方から出射された光パルスを伝播させ、前記合成手段の一方の入射端に前記第1の直線偏光である光パルスを入射する第1の経路と、
前記分岐手段の2つの出射端の他方と前記合成手段の入射端の他方とを光学的に接続する第2の経路であって、前記分岐手段の2つの出射端の他方から出射された光パルスを伝播させ、前記合成手段の他方の入射端に前記第2の直線偏光である光パルスを入射する第2の経路と、
前記第1の経路および前記第2の経路の少なくとも一方に設けられた遅延手段であって、該遅延手段が設けられた経路を通過する光パルスを所定の遅延時間だけ遅延させる遅延手段と、
前記第1の経路および前記第2の経路の少なくとも一方に設けられた調整手段であって、前記合成手段にて前記第1の直線偏光である光パルスと前記第2の直線偏光である光パルスとが合成される際に、該合成された第1の直線偏光である光パルスと前記合成された第2の直線偏光である光パルスとが時間的に重ならないように、前記調整手段が設けられた経路を通過する光パルスを一定の遅延時間だけ遅延させる調整手段と、
一方端が前記合成手段の出射端に接続された複屈折を有する偏光保持ファイバであって、前記第1の直線偏光である光パルスが前記偏光保持ファイバの高速軸および低速軸の一方に入射し、前記第2の直線偏光である光パルスが前記高速軸および低速軸の他方に入射するように、前記合成手段に接続されることにより、前記第1の直線偏光である光パルスおよび前記第2の直線偏光である光パルスの双方が伝播する偏光保持ファイバと、
2つの出射端を有し、前記偏光保持ファイバの他方端に接続され、該偏光保持ファイバの他方端から入射された前記第1の直線偏光である光パルスおよび前記第2の直線偏光である光パルスの一方を、前記2つの出射端の一方から出射し、前記偏光保持ファイバの他方端から入射された前記第1の直線偏光である光パルスおよび前記第2の直線偏光である光パルスの他方を前記2つの出射端の他方から出射する偏光分岐手段と、
前記偏光分岐手段の2つの出射端の一方から出射された光パルスによりテラヘルツ波を発生するテラヘルツ波発生手段と、
前記偏光分岐手段の2つの出射端の他方から出射した光パルスと、前記テラヘルツ波発生手段から発生したテラヘルツ波が入射された被測定物から出射されたテラヘルツ波とが入射されるように構成され、前記出射されたテラヘルツ波の検出を行うテラヘルツ波検出手段と、
前記偏光分岐手段の2つの出射端の一方と前記テラヘルツ波発生手段とを光学的に接続する第3の経路と、
前記偏光分岐手段の2つの出射端の他方と前記テラヘルツ波検出手段とを光学的に接続する第4の経路と、
前記第3の経路および前記第4の経路の少なくとも一方に設けられ、前記時間的に重ならない前記第1の直線偏光である光パルスおよび前記第2の直線偏光である光パルスが時間的に重なるようにする補正部と
を備えることを特徴とするテラヘルツ発生検出装置。
【請求項2】
前記第3の経路および前記第4の経路からは、同一の偏光方向の光パルスが出射されることを特徴とする請求項1に記載のテラヘルツ波発生検出装置。
【請求項3】
前記偏光保持ファイバと前記偏光分岐手段との間に設けられ、複屈折を有し、自身の高速軸および低速軸に入射した光パルスのパルス幅を細くするファイバ圧縮器であって、前記偏光保持ファイバの高速軸から出射した光パルスが前記ファイバ圧縮器の高速軸に入射し、かつ前記偏光保持ファイバの低速軸から出射した光パルスが前記ファイバ圧縮器の低速軸に入射するように設けられたファイバ圧縮器をさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載のテラヘルツ波発生検出装置。
【請求項4】
前記偏光保持ファイバと前記偏光分岐手段との間に設けられ、複屈折を有し、自身の高速軸および低速軸に入射した光パルスのパワーを増幅するファイバ増幅器であって、前記偏光保持ファイバの高速軸から出射した光パルスが前記ファイバ増幅器の高速軸に入射し、かつ前記偏光保持ファイバの低速軸から出射した光パルスが前記ファイバ増幅器の低速軸に入射するように設けられたファイバ増幅器をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のテラヘルツ波発生検出装置。
【請求項5】
前記テラヘルツ波発生検出装置は、前記第1の経路から出射した前記第1の直線偏光である光パルスが前記テラヘルツ波発生手段に入射するように構成されており、
前記第1の経路に設けられ、該第1の経路を通過する光パルスに所定の変調をかける変調手段をさらに備えることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のテラヘルツ波発生検出装置。
【請求項6】
前記偏光保持ファイバの高速軸に入射した光パルスおよび低速軸に入射した光パルスは共にソリトン伝播することを特徴とする請求項1乃至5にいずれか一項に記載のテラヘルツ波発生検出装置。
【請求項7】
前記第1の経路に設けられ、該第1の経路から出射した前記第1の直線偏光である光パルスが前記偏光保持ファイバにおいて前記ソリトン伝播するように、前記第1の経路を伝播する光パルスに変調をかける変調手段と、
前記第2の経路に設けられ、該第2の経路から出射した前記第2の直線偏光である光パルスが前記偏光保持ファイバにおいて前記ソリトン伝播するように、前記第2の経路を伝播する光パルスに変調をかける変調手段と
をさらに備えることを特徴とする請求項6に記載のテラヘルツ波発生検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−68525(P2013−68525A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207418(P2011−207418)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】