説明

テルビナフィンおよびヒドロコルチゾンを含んでいる局所組成物

本発明は、テルビナフィンおよびヒドロコルチゾンを含んでいる局所医薬組成物に関する。前記組成物は、特に皮膚糸状菌に対して有利な抗真菌特性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗真菌活性、より特定すれば抗皮膚糸状菌活性、および抗酵母活性を有する局所医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚糸状菌は、ケラチンを利用するこれらの能力によって、皮膚、毛髪、および爪の感染を引起こすことがある菌類である。この菌は、ケラチン組織をコロニー化し、菌類感染、例えば感染した体の部分と関連した白癬またはタムシとして公知の感染を引起こす。この菌は、感染した宿主(ヒトまたは動物)との直接接触、またはくし、ヘアブラシ、衣服、家具、劇場の座席、帽子、寝具類、タオル、ホテルのじゅうたん、およびロッカー室の床における感染した剥離皮膚もしくは毛髪との直接もしくは間接接触によって伝染する。この菌は、種によって、15ヶ月までの間、環境中に生存可能なことがある。皮膚に既往の傷害など、例えば傷跡、火傷、疲労、高温、多湿環境がある場合、感染への感受性が高まる。
【0003】
カンジダ種は、皮膚糸状菌とは異なって、酵母菌である。これらは普通は、ヒトに存在し、通常、多くの場合局部的要因、例えば免疫抑制によって誘発された過剰成長の場合にのみ病原性になる。カンジダのような酵母菌は、日和見作用物質であり、通常、全身的に病原性になるには補助因子が必要である。
【0004】
菌類感染、例えば真菌症、特に皮膚糸状菌によって引起こされた真菌性皮膚疾患、例えば水虫(=足白癬)、いんきん(=股部白癬)、タムシもしくは爪甲真菌症、および酵母菌によって引起こされた皮膚真菌症、例えばあせも(sweat rashes)もしくは脂漏性皮膚炎の治療におけるテルビナフィンの局所使用は、当分野において公知である。
【発明の開示】
【0005】
ヒドロコルチゾンと一緒にテルビナフィンを局所使用することによって、抗真菌特性が意外にも改良されることが、今や驚くべきことに発見された。このことは、局所ヒドロコルチゾンが、低い有効性を有するコルチコステロイドであることが知られているので、特に意外である。驚くべきことに、本発明の組合わせは、皮膚糸状菌との闘いにおいて特に有利である。既に上に概略が示されているように、皮膚糸状菌は、ヒトにおいて頻繁に発生する表面真菌症、例えば水虫、いんきん、またはタムシの主な原因である。前記表面真菌症の治療は一般に改良され、本発明の特定の組合わせの使用によって、より迅速な治癒が達成される。このことは、テルビナフィンが、単独で使用された時でさえ、皮膚糸状菌の撲滅および治療においてかなり効果的であると知られているという事実から考えて、まったく驚くべきことである。この点に関して、ヒドロコルチゾンの追加は、テルビナフィンの抗真菌活性にマイナスの介入をしないことが、驚くべきことに発見された。
【0006】
本発明の組合わせを用いて、表面真菌症、例えば水虫の治癒は一般に、より迅速に達成され、典型的な症状、例えば痒み、紅斑、小嚢、火傷、またはヒビワレのより迅速な緩和が観察される。
【0007】
したがって本発明は、テルビナフィンまたは局所的に許容しうるこの塩、およびヒドロコルチゾンまたは局所的に許容しうるこのエステルもしくは塩を、少なくとも1つの局所的に許容しうるキャリヤーとともに含んでいる、局所投与に適した医薬組成物に関する。
【0008】
テルビナフィンは公知であり、例えばザ・メルク・インデックス(The Merk Index)、第12版、1996年において、No.9299として記載されている。これは、商標ラミシル(LAMISIL)で市販されている。局所的に許容しうるこれの塩は、例えば塩酸テルビナフィン、乳酸テルビナフィン、またはアスコルビン酸テルビナフィンである。好ましくはテルビナフィン(=遊離塩基)および塩酸テルビナフィンである。
【0009】
本発明の局所組成物において、テルビナフィンは典型的には、重量ベースで総組成物の0.1から10%まで、特に0.2から5%まで、とりわけ0.5から2%までの量で存在する。この文献において示されているすべてのパーセンテージは、ほかの指摘がなければ重量%(w/w)である。
【0010】
ヒドロコルチゾンは公知であり、例えばザ・メルク・インデックス、第12版、1996年において、No.4828として記載されている。局所的に許容しうるこのエステルおよび塩は、例えば酢酸ヒドロコルチゾン、例えば21−アセテート;酪酸ヒドロコルチゾン、例えば17−ブチレート;吉草酸ヒドロコルチゾン、例えば17−バレレート;ヒドロコチゾン21−ホスフェート二ナトリウム塩、またはヒドロコルチゾン21−ナトリウムスクシネートである。好ましくは、ヒドロコルチゾン(=遊離アルコール)および酢酸ヒドロコルチゾンである。
【0011】
典型的には、本発明による局所医薬組成物は、ヒドロコルチゾン成分を、総組成物の0.1から1.5%まで、特に0.2から1.2%まで、とりわけ0.25から1%までの量で含んでいる。
【0012】
広く用いられている局所的に許容しうるキャリヤーは、関与する局所組成物の種類による(下記参照)。これらは、例えば水相、油相、またはエマルジョンを包含するが、他方ではまた、例えば包帯材料、経皮パッチ環境、または皮膜形成溶液の典型的な成分も包含する。
【0013】
本発明の局所組成物は、貴重な薬理学的特性を有する。特にこれらは、皮膚糸状菌によって引起こされた感染、例えば水虫(=足白癬)、いんきん(=股部白癬)、タムシもしくは爪甲真菌症、およびまた酵母菌によって引起こされた感染の治療において有利である。
【0014】
本発明の局所組成物の投与後、患者は、表面真菌症にともなう症状、例えば痒み、紅斑、小嚢、火傷、またはヒビワレがより迅速に緩和され、前記表面真菌症は一般に、より迅速に治癒される。
【0015】
本発明の局所組成物の有利な特性は、例えば次のテストにおいて証明されうる。
【0016】
(1)モルモットにおける実験的皮膚糸状菌症モデル:これは、[例えばT.Itoyamaら、J Antimicrobial Chemotherapy 40(1997)441−444参照]に示されている。前記動物モデルにおいて、モルモットの変性T.mentagrophytes感染した足を用いて、テルビナフィン対テルビナフィンとヒドロコルチゾンとの組合わせをテストする。各グループ10匹ずつのT.mentagrophytes感染したすべてのモルモットの足は、ヒトにおける自然感染した足白癬の症状と類似した典型的な症状を示す。感染の経過が本発明の局所組成物によって非常に効果的に停止されるという事実とは別に、既にテルビナフィンとヒドロコルチゾンとの組合わせで処理されたグループにおいて4日後、炎症症状および鱗屑形成の顕著な減少が見られる。前記の効果は、テルビナフィン単独で処理されたグループに見られる効果よりも明らかに優れている。
【0017】
(2)確立した足白癬の約480人の患者を包含する、管理(controlled)二重盲検比較調査であって、これらの患者を、無作為に約160人ずつの3つのグループに分け、それぞれが、テルビナフィン/ヒドロコルチゾン(1.0%/0.5%)、テルビナフィン単独(1.0%)、またはプラシーボ(ビヒクル)のいずれかの治療を受ける。効能、すなわち臨床的および菌学的治癒を、治療の開始後5日目、7日目、および6週目に測定する。
【0018】
(3)確立した足白癬の約640人の患者を包含する、管理二重盲検比較調査であって、これらの患者を、無作為に約160人ずつの4つのグループに分け、それぞれが、テルビナフィン/ヒドロコルチゾン(1.0%/0.25%)、テルビナフィン単独(1.0%)、ヒドロコルチゾン単独(0.25%または0.5%)、またはプラシーボ(ビヒクル)のいずれか治療を受ける。7日間の全治療期間の間、1、2、および3時間後、24時間後、ついで毎日の症状の緩和を測定する。
【0019】
(4)確立した股部白癬の約540人の患者を包含する、管理二重盲検比較調査であって、これらの患者を、無作為に約180人ずつの3つのグループに分け、それぞれが、テルビナフィン/酢酸ヒドロコルチゾン(1.0%/0.25%)、テルビナフィン単独(1.0%)、またはプラシーボ(ビヒクル)のいずれか治療を受ける。7日間の全治療期間の間、1、2、および3時間後、24時間後、ついで毎日の症状の緩和を測定する。
【0020】
典型的には、本発明による局所投与医薬組成物は、テルビナフィンおよびヒドロコルチゾンの両方を、薬理学的に有効な量で含んでいる。
【0021】
これらの活性成分の一日の投薬量は、様々な要因、例えば患者の性、年齢、体重、および個々の状態に応じてもよい。例えばエマルジョン−ジェル、ジェル、またはクリームの形態にある局所医薬組成物は、一日1回、2回、または3回塗布されてもよい。しかしながらより頻繁な毎日の塗布も可能である。パッチ、包帯、および皮膜形成溶液は、例えば一日1回または2回使用されてもよい。
【0022】
本発明はさらに、真菌感染症、特に皮膚糸状菌によって引起こされた皮膚糸状菌症の予防または治療のための(局所投与に適した医薬組成物の製造のための)、テルビナフィンまたは局所的に許容しうるこの塩、およびヒドロコルチゾンまたは局所的に許容しうるこのエステルまたは塩の使用にも関する。
【0023】
さらには本発明は、真菌感染症の治療方法であって、これを必要としている哺乳動物へ、テルビナフィンまたは局所的に許容しうるこの塩と、ヒドロコルチゾンまたは局所的に許容しうるこのエステルまたは塩との混合物の治療的有効量を局所投与することを含む方法に関する。
【0024】
局所投与に適した医薬組成物は、例えばエマルジョン−ジェル、ジェル、フォームジェル、クリーム、ローション、溶液、マイクロエマルジョン、軟膏、脂肪軟膏、シャンプー、ペースト、フォーム、チンキ、皮膜形成溶液、マニュキア(ワニス)、包帯、パッチ、および経皮治療系である。好ましくは、エマルジョン−ジェル、ジェル、フォームジェル、クリーム、ローション、溶液、シャンプー、皮膜形成溶液、およびマニュキアである。このような局所医薬組成物の製造および組成物は、当分野において公知である(例えば第WO98/00168A1号、ページ8から15、または米国特許第5,681,849号参照)。皮膜形成溶液の概念は、当分野において公知であり、例えば第WO98/23291A1号に開示されている。マニュキア(ワニス)の概念は、当分野において公知であり、例えば第EP515,312A2号に開示されている。
【0025】
特に好ましくは、エマルジョン−ジェルまたはジェルにおけるテルビナフィン(遊離塩基)とヒドロコルチゾン(遊離アルコールまたは酢酸塩)との組合わせである。同様に好ましくは、クリーム(=水中油エマルジョン)における塩酸テルビナフィンと酢酸ヒドロコルチゾンとの組合わせである。
【0026】
本発明の局所組成物は典型的には、溶解または懸濁形態において2つの活性物質を含んでいる。
【0027】
次の実施例は、本発明を例証するためのものである。
【実施例1】
【0028】
1%塩酸テルビナフィンおよび0.25%ヒドロコルチゾン(遊離アルコール)を含んでいるジェルを、次のように製造する。
【0029】
【表1】

【0030】
(i)EとHとの混合物中にAおよびBを溶解する。
(ii)I中に、C、D、およびGを溶解する。
(iii)室温で(i)と(ii)とを混合し、Fを添加する。
【実施例2】
【0031】
1%テルビナフィン(遊離塩基)および0.25%ヒドロコルチゾン(遊離アルコール)を含んでいるエマルジョン−ジェルを、次のように製造する。
【0032】
【表2】

【0033】
(i)Hを、ロータ−ステータホモジナイザを用いて、Kの一部分中に分散する。
(ii)C中のB、I、J、およびDの溶液、ならびに残りのKをこれに添加し、均一に分配する。
(iii)脂肪相を形成するために、E、G、およびFを、75℃でともに融解する。Aを脂肪相へ添加し、ついで全脂肪相を、既に形成されたジェル(ii)へゆっくりと添加し、乳化する。
【実施例3】
【0034】
1%テルビナフィン(遊離塩基)および0.56%酢酸ヒドロコルチゾン(0.5%ヒドロコルチゾンに相当する)を含んでいるエマルジョン−ジェルを、次のように製造する。
【0035】
【表3】

【0036】
(i)A、J、C、E、G、およびHを、固体粒子全部が溶解されるまで、わずかに温めつつ互いに混合する。
(ii)攪拌機およびホモジナイザを含んでいる適切な容器またはプロセッサにおいて、Kの約半分を60から70℃に加熱し、Bをこの中に懸濁する。
(iii)適切な小滴サイズを有する均質エマルジョンが得られるまで、攪拌および均質化しつつ、(i)を(ii)へゆっくりと添加する。ついで濃縮されたエマルジョンを室温に冷ます。
(iv)別個の容器において、I、およびKのあとの半分の中にカルボマーFを分散し、Dで中和することによって、塩基性カルボマージェルを調製する。
【0037】
(v)塩基性エマルジョン(iii)を、この塩基性ジェルへ添加し、全体を、均質エマルジョンジェルが得られるまで室温で攪拌する。
【実施例4】
【0038】
1%塩酸テルビナフィンおよび0.56%酢酸ヒドロコルチゾンを含んでいるクリームを、次のように製造する。
【0039】
【表4】

【0040】
(i)C、D、E、F、G、H、およびIを、75℃でともに融解する。
(ii)Aを、Kの過半部分の中に分散し、75℃に加熱する。
(iii)油相(i)を、(ii)へ添加し、乳化する。
(iv)Kの小さい部分の中に溶解されたJを添加することによって、pH値を調節し、クリームを冷ます。
(v)Bを、Kの小さい部分の中に懸濁し、クリームへ添加し、クリームの中に均質に分散する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テルビナフィンまたは局所的に許容しうるこの塩、およびヒドロコルチゾンまたは局所的に許容しうるこのエステルもしくは塩を、少なくとも1つの局所的に許容しうるキャリヤーとともに含んでいる、局所投与に適した医薬組成物。
【請求項2】
テルビナフィンまたは塩酸テルビナフィンを含んでいる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ヒドロコルチゾンまたは酢酸ヒドロコルチゾンを含んでいる、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
テルビナフィン成分が、0.1%から10%までの重量割合で存在し、ヒドロコルチゾンが、総組成物の0.1%から1.5%までの重量割合で存在する、請求項1から3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
エマルジョン−ジェル、ジェル、フォームジェル、クリーム、ローションもしくは溶液、シャンプー、皮膜形成溶液、またはマニュキアの形態にある、請求項1から4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項6】
エマルジョン−ジェルまたはジェルの形態にあり、活性物質としてテルビナフィン(遊離塩基)およびヒドロコルチゾン(遊離アルコールまたは酢酸塩)を含んでいる、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
クリームの形態にあり、活性物質として塩酸テルビナフィンおよび酢酸ヒドロコルチゾンを含んでいる、請求項5に記載の組成物。
【請求項8】
真菌感染症の予防または治療のための(局所投与に適した医薬組成物の製造のための)、ヒドロコルチゾンまたは局所的に許容しうるこのエステルもしくは塩と共に用いる、テルビナフィンまたは局所的に許容しうるこの塩の使用。
【請求項9】
製造された医薬組成物が、皮膚糸状菌との闘いにおいて有用である、請求項8に記載の使用。

【公表番号】特表2007−501832(P2007−501832A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522980(P2006−522980)
【出願日】平成16年8月11日(2004.8.11)
【国際出願番号】PCT/EP2004/008994
【国際公開番号】WO2005/013955
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(500332168)ノバルテイス・コンシユーマー・ヘルス・エス・アー (2)
【Fターム(参考)】