説明

テンタオーブン

【課題】
本発明の課題は、多孔板の開口率を調整することにより、排気口へのフィルム屑のつまり防止の効果以外に、噴き出しエアを安定させる効果を多孔板に付与させたテンタオーブンを提供することである。
【解決手段】
ウェブにエアを噴き付けるための2本以上のノズルと、
隣接する前記ノズルの間に設けられた排気口と、
前記排気口の前に設けられ、隣接する前記ノズル間を塞ぐ多孔板とを備え、
前記多孔板は、隣接する前記ノズル間のウェブ搬送方向距離を100(無名数)とした場合に、ウェブ搬送方向位置0から50へ向かう間、及びウェブ搬送方向位置100から50へ向かう間に、それぞれ1ヶ所以上で開口率が高くなっているテンタオーブン。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテンタオーブンにおいて、ノズルから噴き出されるエアが安定してウェブに到達するように構成されたテンタオーブンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性フィルムを製造する際に、延伸や熱処理を行う装置はテンタオーブンと呼ばれている。このテンタオーブンを例にして説明すると、一般的にはフィルム長手方向に複数のゾーンが連結して構成され、各ゾーン内を所定の温度に保持しながら、前記フィルムに対して予熱、延伸、熱セット、冷却等の処理を行っている。また、前記ゾーンは、フィルム長手方向に1つまたは複数の室に区画されており、各室で温度設定が行うことが出来るようになっている。
【0003】
一般的なテンタオーブンの一例を図3に示す。フィルム進行方向は、図中の左から右とする。ノズル3には、フィルム1に向けてエア噴出口が設けられている。ここで、破れ等で発生するフィルム屑が排気口につまってしまわないように、一般的にはノズル間には多孔板が設置されている。
【0004】
ここで、特にエア噴出口の形状がスリット状のスリットノズルである場合、噴き出したエアは不安定になることが多い。これにより、フィルムのばたつき、熱伝達率の低下、物性むらなど様々な問題が発生する。
【0005】
一方、テンタオーブン以外の技術分野において、排気口に向かうエアの流れを整流化させてオリゴマーの発生を防ぐために多孔板を設けることが開示されている(特許文献1)。また、エアの通過流量を調節するために、多孔板の開口率を場所によって変化させる技術も開示されている(特許文献2)。ここで、開口率とは多孔板の面積における開口面積の割合のことをいう。
【特許文献1】特開2002−361730号公報
【特許文献2】特開2001−54927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1,2の技術は、排気口に向かうエアの流れを制御するものの、ノズルからの噴き出しエアの流れを安定させる効果は有していない。
【0007】
本発明の課題は、多孔板の開口率を調整することにより、排気口へのフィルム屑のつまり防止の効果以外に、噴き出しエアを安定させる効果を多孔板に付与させたテンタオーブンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】

本発明のテンタオーブンは、かかる課題を解決するために以下のような構成をとるものである。すなわち、本発明のテンタオーブンは、
ウェブにエアを噴き付けるための2本以上のノズルと、
隣接する前記ノズルの間に設けられた排気口と、
前記排気口の前に設けられ、隣接する前記ノズル間を塞ぐ多孔板とを備え、
前記多孔板は、隣接する前記ノズル間のウェブ搬送方向距離を100(無名数)とした場合に、ウェブ搬送方向位置0から50へ向かう間、及びウェブ搬送方向位置100から50へ向かう間に、それぞれ1ヶ所以上で開口率が高くなっているテンタオーブン、である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のテンタオーブンによれば、ノズルから噴き出されるエアの流れを安定させることができる。その結果、搬送するウェブへのエアの当たり方が安定するので、ウェブの加熱斑等がなくなり、ウェブの品質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の最良の実施形態を、図面を参照しながら説明する。テンタオーブン内では、予熱、延伸、熱処理、冷却を行う手段が設けられているのが一般的だが、本形態におけるテンタオーブンとしては、それらの手段は任意に設けられていてよい。
【0011】
図1は本形態のテンタオーブンにおける、ノズル間に設置した多孔板の概略図である。本実施形態においては、隣接するノズル間のウェブ搬送方向距離を100(無名数)とした場合に、ウェブ搬送方向位置0から50へ向かう間の約25の位置、及びウェブ搬送方向位置100から50へ向かう約75の位置で、開口率が高くなっている。つまり、ウェブ搬送方向位置0〜25の範囲内、及びウェブ搬送方向位置75〜100の範囲内での開口率に比べ、ウェブ搬送方向位置25〜75の範囲内の開口率が高くなっている。
【0012】
もちろん、この開口率が高くなる位置は、ウェブ搬送方向位置25と75に限ったものではなく、他の位置であってもよい。ここで、多孔板全体としての平均開口率をある値に固定した場合、開口率の異なる領域においては、その開口率の差をなるべく大きくすることが好ましい。
【0013】
また、この開口率が高くなる位置は、ウェブ搬送方向位置0から50へ向かう間、及びウェブ搬送方向位置100から50へ向かう間で、それぞれ1ヶ所のみである必要はなく、それぞれ2ヶ所以上であってもよい。
【0014】
また、開口部の形状は丸穴に限ったものではなく、楕円、四角など他の形状であってもよい。
【0015】
また、開口率を変化させる手段として、図1のように穴の直径を変化させるのではなく、図9のように穴の数を変化させても良いし、両方を変化させても良い。
さらに、開口率を変化させる手段として、開口率は一定である多孔板に図10のように板7を取り付けて列を間引いたり、穴の一部を塞いだりしても良い。
【0016】
ノズル3からウェブに向かって噴き出されたエアは、ウェブにぶつかり方向を変え、多孔板4を図1中下向きに通って排気される。また、ノズルから噴き出されるエアは随伴流を伴うので、ノズル先端のエア噴出口付近では、多孔板へ向かうエアの一部が多孔板を通過せずにさらに方向を変え図1中上向きに随伴流として流れる。
【0017】
より具体的に、図2に本発明による多孔板付近のエア流れを示す。本発明では、多孔板端部(ウェブ搬送方向位置0と100の近辺)の開口率を低くしているため、多孔板端部では、エアが多孔板を通りにくくなっている。そのため、多孔板端部を通って排気口へ向かおうとしていたエアは、多孔板にぶつかって方向を変え、ノズルからの噴き出しエアの随伴流となる成分が多くなる。こうすることで、ノズルの両側面からの随伴流によって、ノズルから噴き出すエアが支えられる状態となり、噴き出しエアが曲がることなく安定してウェブまで到達する。
【実施例】
【0018】
本発明を実施例に基づいて説明する。
【0019】
図4のように、テンタオーブンの1室のウェブ上側半分で、ノズルが3つあり、その外側に大きな開口部を設けた構成のテンタオーブンを解析モデルとし、市販の汎用熱流体解析ソフト(株式会社シー・ディー・アダプコ・ジャパン製「STAR−CD」)により流体解析を行うことで、時間によるウェブ表面の圧力変動を算出した。
【0020】
上記ソフトは流体の運動方程式であるナヴィエ・ストークス方程式を有限体積法により解析するものである。もちろん、上記ソフト以外であっても、同様の解析ができるものであれば、どのような熱流体解析ソフトを用いてもよい。
【0021】
エア噴出口とウェブ間の距離は150mm、各ノズル間のピッチは340mm、各ノズルのエア噴出口は幅12mmのスリットノズルである。また、エア噴出口でのエアの速度は15m/sである。また、ノズル間には多孔板を設置している。また、ノズルからのエア噴き出しと同じ流量だけ排気口6からエアが出て行くとする。
【0022】
この構成での、ウェブ面で、かつノズル直下の位置での圧力変動を図5、圧力振動幅を表1に示す。ここで、設置してある多孔板の条件としては、図6に示すように多孔板を3つの領域に分け、ウェブ搬送方向に30mm幅(領域A)、60mm幅(領域B)、30mm幅(領域C)とし、それぞれの領域の開口率を表1のように設定した。開口率の条件は6水準としたが、多孔板全体としてのエアの通りやすさは変化させないよう、多孔板全体での開口率の平均値は40%で統一してある。また、以下全ての実施例において開口率や領域の長さはウェブ搬送方向位置50を中心に左右対称としている。この結果より、多孔板端部の領域(領域A、C)での開口率を下げ、中央部の領域での開口率を上げていくと、ノズル真下の位置での圧力変動が小さくなる、つまり、ノズルからの噴き出しエアが安定することがわかる。この理由としては、図2で示したように、多孔板端部の開口率が低い場合は、多孔板端部で流れ方向を変えたエアがノズルからの噴き出しエアの随伴となるが、多孔板端部の開口率がより低い方が、この効果が大きくなるためであると考えられる。
【0023】
また、同様に多孔板全体としての開口率の平均値を40%に統一し、かつ、多孔板端部領域(領域A、C)での開口率を最低まで下げ、中央部の領域(領域B)での開口率を最大まで上げた状態で、表2に示すようにウェブ搬送方向の各領域の長さを変えて計算した場合の、フィルム面におけるノズル直下の圧力変動を図7に示す。これより、領域の長さによっても噴き出しエアの安定性はあまり変化がないことが分かる。
【0024】
また、同様に多孔板全体としての開口率の平均値を40%に統一し、かつ、開口率をウェブ搬送方向位置50で80%、ウェブ搬送方向位置0と100で0%と直線的に変化させた場合の、ノズル直下の圧力変動を図8のケース8に示す。これより、開口率を漸次変化させた場合でも、領域を分割して、その領域ごとに開口率を指定する場合と同じ程度に噴き出しエアは安定する。
【0025】
また、多孔板の開口率は60%だが、図11のように領域A、Cの部分に幅10mmの板を5mm間隔で設置した場合の、ノズル直下の圧力変動を図12のケース10に示す。この場合、領域A、Cの開口率は20%となり、開口率だけを見ると表1の領域A、Cの開口率20%、領域Bの開口率60%と同じであるため、両者を比較する。これより、板を設置して、開口部を塞ぐことで開口率を調整するより、図1のように領域A、Cと領域Bはそれぞれの領域において開口率が均一である方が、噴出しエアは安定する。
【0026】
【表1】

【0027】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の多孔板をノズル間に設置した上面図及び側面図である。
【図2】本発明の多孔板付近のエア流れを示す図である。
【図3】一般的なテンタオーブンの側面図である。
【図4】実施例の解析モデルの側面図である。
【図5】開口率を変化させた場合の解析結果である。
【図6】多孔板の領域分割を示す図である。
【図7】領域の長さを変化させた場合の解析結果である。
【図8】開口率を漸次変化させた場合の解析結果である。
【図9】多孔板の開口率を変化させる方法の例を示す図である。
【図10】多孔板の開口率を変化させる方法の例を示す図である。
【図11】実施例の一例を示す図である。
【図12】多孔板に板を取り付けた場合の解析結果である。
【符号の説明】
【0029】
1 ウェブ
2 プレナムチャンバー
3 ノズル
4 多孔板
5 随伴流
6 排気口
7 開口部を塞ぐ板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェブにエアを噴き付けるための2本以上のノズルと、
隣接する前記ノズルの間に設けられた排気口と、
前記排気口の前に設けられ、隣接する前記ノズル間を塞ぐ多孔板とを備え、
前記多孔板は、隣接する前記ノズル間のウェブ搬送方向距離を100(無名数)とした場合に、ウェブ搬送方向位置0から50へ向かう間、及びウェブ搬送方向位置100から50へ向かう間に、それぞれ1ヶ所以上で開口率が高くなっているテンタオーブン。
【請求項2】
前記多孔板が、ウェブ搬送方向位置0から50へ向かうにつれて、及びウェブ搬送方向位置100から50へ向かうにつれて開口率が高くなっている請求項1に記載のテンタオーブン。
【請求項3】
前記多孔板が、ウェブ搬送方向に並ぶ複数の領域に分割されており、1つの領域内では開口率が一定であり、ウェブ搬送方向位置50に近い領域ほど開口率が高くなっている、請求項1に記載のテンタオーブン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−30463(P2008−30463A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162164(P2007−162164)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】