説明

ディジタルビームフォーミング信号処理装置

【課題】 コーナーターン処理を用いたDBF信号処理装置によりビームを形成する場合、単一故障によって機能を失うことになる部分については冗長構成が必須であるが、冗長構成をとることにより、装置の大型化、消費電力の増大、費用の増加につながるという問題があった。
【解決手段】 出力側スイッチ回路に接続される素子アンテナを素子アンテナ配列上で分散させることによってコーナーターンを構成することにより、周囲の素子が同時に使用不可能とならないようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のアンテナ素子によって得られた受信信号に基づいて、マルチビームを形成するディジタルビームフォーミング信号処理装置(以下、DBF信号処理装置)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、捜索、または追尾レーダにおいて、PRI(Pulse Repetition Interval)内の任意の処理レンジビン数に対し、コーナーターン処理を施しリアルタイムにアンテナビームを形成するDBF信号処理装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−306258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のコーナーターンを使用するDBF信号処理装置は、複数の素子アンテナのデータが1つの出力側スイッチ回路に集約される。このため、出力側スイッチ回路が故障した場合、接続されている素子アンテナの全てのデータが得られなくなるという問題があった。
【0005】
例えば、単一素子アンテナからのデータが得られなくなっても、周囲の素子アンテナを使用することによりビーム形成を維持できるが、周囲の素子も使用不可となった場合、ビーム形成が維持できなくなる。
【0006】
特に、人工衛星に搭載されるレーダ装置の場合、単一故障によって機能を失うことになる部分については冗長構成が必須であるので、出力側スイッチ回路の冗長構成を取ることによって、装置の大型化、消費電力の増大、費用の増加につながるという問題があった。
【0007】
この発明は、係る課題を解決するためになされたものであり、出力側スイッチ回路の冗長構成を取ることなく、単一故障時であってもビーム形成を維持することのできる、DBF信号処理装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明によるDBF(ディジタルビームフォーミング)信号処理装置は、同一のビームを形成するm個(mは2以上の整数)の素子アンテナ群が、異なるビームを形成するn系統(nは2以上の整数)配列されて構成されるアンテナアレイと、n系統の出力側スイッチ回路と、各系統の出力側スイッチ回路がそれぞれ接続されたn系統の入力側スイッチ回路を有したコーナーターンと、同一ビームを形成する上記素子アンテナの属する系統毎に、各素子アンテナをそれぞれ異なる系統の上記出力側スイッチ回路に接続するアナログディジタル変換器と、系統毎に上記入力側スイッチ回路に接続される複数の積和演算回路と、を備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、出力側スイッチ回路に接続される素子アンテナを配列上で分散させることにより、万一、出力側スイッチ回路が故障しても、周囲の素子が同時に使用不可能とならないようにすることができるので、アンテナ全体の機能を損なうことがなく、出力側スイッチ回路の冗長構成を取る必要がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明に係る実施の形態1によるDBF信号処理装置の構成を示した図である。
【図2】この発明に係る実施の形態1による演算装置の内部構成を示した図である。
【図3】この発明に係る実施の形態1による25素子アンテナで構成したDBF信号処理装置の詳細構成を示した図である。
【図4】この発明に係る実施の形態1による素子アンテナ配列を示した図である。
【図5】この発明に係る実施の形態1において、コーナーターンの出力側スイッチ回路が故障した場合を示した図である。
【図6】この発明に係る実施の形態2による25素子アンテナで構成したDBF信号処理装置の詳細構成を示した図である。
【図7】この発明に係る実施の形態2による素子アンテナ配列を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1によるDBF(ディジタルビームフォーミング)信号処理装置の基本構成を示す図である。
図において、DBF信号処理装置は、無線周波数信号を受信するN個(Nは2以上の整数)の素子アンテナ1と、各素子アンテナ1に各々接続されてフィルタ回路や変調回路等を構成するN個のアナログ回路2と、各アナログ回路2に接続されたN個のアナログ−ディジタル変換器(A/Dコンバータ)3と、各A/Dコンバータ3に接続されたN個のディジタル回路4と、N個のディジタル回路4に接続されたマルチビームを形成するための演算装置5を備えて構成される。
【0012】
各素子アンテナ1にて受信したアナログ信号は、それぞれアナログ回路2によるフィルタを通り、場合によっては中間周波数に変調された後、それぞれのA/Dコンバータ3にてディジタル信号に変換され、続くディジタル回路4にて検波されてから、演算装置5に入力される。
【0013】
次に、演算装置5の構成について説明する。図2は、演算装置5の内部における接続構成を示す図である。演算装置5は、コーナーターン6と、積和演算回路7と、コーナーターン8を備えている。コーナーターン6は、N個の素子アンテナ1からの素子アンテナ軸方向のデータを得て、得られたデータを時間軸方向に並べ直し、時間別にN個の積和演算回路7に入力する。N個の積和演算回路7は、入力された時間毎の素子アンテナデータに素子アンテナ毎の重み係数を掛け合わせることで、入力された時間毎にM個(Mは2以上の整数)のビームのデータ(ビームデータ)を生成する。N個の積和演算回路7にて生成されたM個のビームデータは、時分割に出力される。N個の積和演算回路7から出力されたM個のビームデータは、再度コーナーターン8により時間軸とビーム軸を入れ替える形で並べ直される。コーナーターン6は出力側スイッチ回路と入力側スイッチ回路で構成し、各スイッチ回路はLSI回路で実現する。
【0014】
図3は、25個の素子アンテナ1を用いた時の素子アンテナ1からコーナーターン6までの接続構成を例示する図である。コーナーターン6は、出力側スイッチ回路9、及び入力側スイッチ回路10の入出力数を5系統ずつとし、出力側及び入力側で、それぞれ5個のスイッチ回路を用いてコーナーターンを構成する。25個の素子アンテナ1のデータは、25クロックかけて時間別に積和演算回路7に入力される。
【0015】
図4は、図3の構成における25個の素子アンテナの配列例を示す図である。図中の丸は素子アンテナを表し、同丸中の数字は素子アンテナの番号を表する。また、以下の説明では、同番号を#1〜#25の符号を用いて説明する(例えば、1番の素子アンテナを♯1、N番の素子アンテナを♯Nと表現する)。ここで、例えば、#1〜#5で1ビームを形成する場合、式(1)において、#1〜#5に対する重みwiに値を設定し、それ以外の素子アンテナに対する重みは0とすることでビーム形成を行う。
【0016】
このとき、素子アンテナ配列が図4に示すようなものであるとすると、周囲の素子アンテナ1が同じ系統の出力側スイッチ回路9に接続されないように、各々接続が行われる。すなわち、図3の接続構成例において、同一ビームを構成する素子アンテナ1の素子群(#1〜#5)について、各素子がそれぞれ異なる系統の出力側スイッチ回路9に分配されるように、各素子アンテナ1と各A/Dコンバータ3とが接続される。また、出力側スイッチ回路9からの各アンテナ素子1に対応した出力は、それぞれ異なる系統の入力側スイッチ回路9に分配されるように、各出力側スイッチ回路9と各入力側スイッチ回路10とが接続される。つまり、#1の積和演算回路1には時間1の全素子アンテナのデータを、#2の積和演算回路には時間2の全素子アンテナのデータを、というように、#25の積和演算回路まで入力していく。
【0017】
各ビームの形成は、各ビームを形成する各素子アンテナ1の信号に対し、素子アンテナ位置とビームの方向による光路長差を打ち消す重み係数を掛け合わせることによって行う。具体的には、アンテナ素子アンテナ数をN、i番目のアンテナ素子アンテナの信号をei、i番目のアンテナ素子アンテナの信号に与える重み係数をwiとすると、式(1)で計算できる。図3の構成では、N=25である。
【0018】
【数1】

【0019】
次に、素子アンテナ1が何らかの原因で故障した場合について説明する。
例えば#1〜#5で1ビームを形成する場合、式(1)において、#1〜♯5に対する重みwiに値を設定し、それ以外の素子アンテナに対する重みは0とすることでビーム形成を行う。ここで、例えば♯1の素子アンテナ1が故障したとする。アレイアンテナでは一般的に素子アンテナ数が多いほどビームの指向性が高くなる。#1の素子アンテナ1が故障すると、システムとして必要な利得を満足出来なくなる可能性があるが、DBF処理では、重みwiを自由に変更できるため、例えば#6や#7等の近傍の素子アンテナを使用することで、#2が故障してもビーム形成機能を維持できる。
【0020】
次いで、出力側スイッチ回路9の1系統が故障した場合について説明する。
図3の構成例において、出力側スイッチ回路9の1系統が故障した場合、素子アンテナ配列が図4に示す構成であれば、図5に示すように、データを得ることの出来なくなる素子アンテナ1が分散される。この場合では、#1、#8、#16、#18、#20のデータが得られなくなるが、いずれも周囲の素子が使用可能であるため、ビーム形成を維持できる。
【0021】
このように、出力側スイッチ回路9に接続される素子アンテナ1を配列上で分散させることにより、万一、出力側スイッチ回路9が故障した場合でも、アンテナ全体としての機能を損なうことがないので、故障した出力側スイッチ回路9や素子アンテナ1などの機器の交換を行わずに、製品の信頼性を向上させることができる。
【0022】
また、衛星搭載機器においては、出力側スイッチ回路が故障しても、周囲の素子が同時に使用不可能とならないようにすることができるので、アンテナ全体としての機能を損なうことがないため、出力側スイッチ回路の冗長構成を取る必要がなくなる。よって、アンテナ全体としての小型化、低消費電力化、及び低コスト化に寄与することができる。
【0023】
なお、上記は受信DBFの場合を例として説明を行った。
送信の場合は、図3での信号の向きが逆となり、コーナーターンの構成も逆となる。つまり、入力側スイッチ回路と出力側スイッチ回路の位置が入れ替わり、入力側スイッチ回路と素子アンテナが接続される。このとき、入力側スイッチ回路と素子アンテナの接続を素子アンテナ配列上で分散させることにより、送信DBFにおいても同様の効果が得られることは謂うまでもない。
【0024】
実施の形態2.
実施の形態1では、素子アンテナ1の配列をそのままに、素子アンテナ1と出力側スイッチ回路9の接続に関し、同一ビーム毎に異なる系統の出力側スイッチ回路9に接続することで、出力側スイッチ回路9に接続される素子アンテナ1を素子アンテナ配列上で分散させた。この実施の形態2では、逆に、素子アンテナ1と出力側スイッチ回路9の接続を図6のように入れ替え、素子アンテナ配列を図7のように入れ替えることによっても、同様の効果が得られる。図6においては、同一ビームを形成する各アンテナ素子1に接続された各アナログ回路2と各A/Dコンバータ3と各ディジタル回路4を直列的に接続しているところが、図3とは異なる。また、図7においては、同一ビームを形成する各アンテナ素子1が、互いに隣接しないように配置されているところが、図4とは異なる。
【0025】
例えば、図7の構成で、#1〜#5の素子アンテナが接続されている出力側スイッチ回路が故障したとする。図7では、#1〜#5の素子が使用不可能となるが、素子#1〜#5のいずれも周囲の素子が使用可能であるため、ビーム形成を維持することが可能となる。よって、この場合でも、小型化、低消費電力化、及び低コスト化に寄与することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 素子アンテナ、2 アナログ回路、3 A/Dコンバータ、4 ディジタル回路、5 演算装置、6 コーナーターン、7 積和演算回路、8 コーナーターン、9 出力側スイッチ回路、10 入力側スイッチ回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一のビームを形成するm個(mは2以上の整数)の素子アンテナ群が、異なるビームを形成するn系統(nは2以上の整数)配列されて構成されるアンテナアレイと、
n系統の出力側スイッチ回路と、各系統の出力側スイッチ回路がそれぞれ接続されたn系統の入力側スイッチ回路を有したコーナーターンと、
同一ビームを形成する上記素子アンテナの属する系統毎に、各素子アンテナをそれぞれ異なる系統の上記出力側スイッチ回路に接続するアナログディジタル変換器と、
系統毎に上記入力側スイッチ回路に接続される複数の積和演算回路と、
を備えたディジタルビームフォーミング信号処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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