説明

ディスクドライブ用のスライダ、ディスクドライブおよびその製造方法

【課題】ディスクドライブ用のスライダ空気軸受を提供する。
【解決手段】複数の浮上媒体において浮上高シグマを低減するように設計されたスライダが提供される。スライダは、空気軸受面、空気軸受面よりも深い第1の位置レベルにある前方浅ステップパッドおよび後方浅ステップパッドを含む。スライダはさらに、空気軸受面よりも深い第2の位置レベルにある第1の後方サイドポケット、および空気軸受面よりも深い第2の位置レベルにある第1の後方サイドポケットに対して非対称的である第2の非対称的な後方サイドポケットを含み、第1のサイドポケットは実質的に多角形形状であり、第2のサイドポケットは実質的に多角形形状であり、第2の非対称的な後方サイドポケットは第1の後方サイドポケットよりも大きな容積を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ディスクドライブ用のスライダ、ディスクドライブおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にデータは、ディスクドライブを用いて記憶する。ディスクドライブは、特に、直接アクセス記憶装置(DASD)またはハードディスクドライブ(HDD)とすることができ、かつ1つ以上のディスクと、ディスクに関する操作を管理するディスクコントローラとを含み得る。ディスクの中心にスピンドルを配置することによって、ディスクをスピンドルに垂直に積み重ねることができる。スピンドルは、モータによって3000〜15000毎分回転数の範囲の速度で回転させることができる。スピンドルに最も近いディスクの部分は、一般に内径(ID)と呼ばれ、スピンドルから最も遠いディスクの部分は、一般に外径(OD)と呼ばれる。
【0003】
読み取り書き込みヘッドを使用して、ディスクに対してデータの読み取りおよび書き込みを行うことができる。読み取り書き込みヘッドはスライダと関連している。スライダは、読み取り書き込みヘッドに対する機械的な支持、およびヘッドとドライブとの間の電気的接続を行う。スライダは、サスペンションに取り付けてヘッドジンバルアセンブリ(HGA)を形成することができる。HGAを、アクチュエータアセンブリの一部であるアクチュエータアームに取り付けて、HGAを動かしかつ支持することができる。さらに、スライダは、スライダがディスクの上を所望の高さでエアクッションで「浮上する」ことを可能にする、スライダの空気軸受面(ABS)上の成形パッドパターンを含む。
【0004】
図1に、スライダの母集団の浮上高を示す。垂直軸は周波数を示し、水平軸は浮上高を示す。母集団の標準偏差σ(「浮上高シグマ」としても公知)を使用して、同じ空気軸受設計を共有する部分の群の浮上高の広がりを測定できる。例えば、σ1は、この母集団の浮上高が、σ2を有する別の母集団の浮上高よりも広がっていることを示す。
【0005】
製造者は、ほぼ同じ浮上高を有するスライダを作り出す試みを可能な限り行っている。スライダの母集団の浮上高がより近いほど、予測可能に動作するディスクドライブの製造が簡単になり、かつ、製造者が廃棄せざるを得ないスライダが少数になる。それゆえ、スライダの製造者は、浮上高シグマが可能な限り小さいスライダの設計方法を常に探している。なぜなら、これにより、品質が優れていてコストが削減されたディスクドライブの製造をより迅速にできるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6771468号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ディスクドライブ用のスライダの浮上高シグマを低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態は、複数の浮上媒体(fly media)において浮上高シグマを低減するように設計されたスライダを提供することを含む。一実施形態では、スライダは、空気軸受面、空気軸受面よりも深い第1の位置レベルにある前方浅ステップパッドおよび後方浅ステップパッドを含む。スライダはさらに、空気軸受面よりも深い第2の位置レベルにある第1の後方サイドポケット、および空気軸受面よりも深い第2の位置レベルにある第1の後方サイドポケットに対して非対称的である第2の非対称的な後方サイドポケットを含み、第1のサイドポケットは実質的に多角形形状であり、第2のサイドポケットは実質的に多角形形状であり、第2の非対称的な後方サイドポケットは、第1の後方サイドポケットよりも大きな容積を有する。
【0009】
本明細書に組み込まれ、その一部を形成する添付の図面は、本発明の実施形態を示し、説明と共に本発明の原理を説明する働きをする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ディスクドライブ用のスライダの浮上高シグマを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】スライダの母集団の浮上高の分布を示す。
【図2】従来のスライダを示す。
【図3】一実施形態による、浮上高シグマを低減するように設計されたスライダを示す。
【図4】一実施形態による、ディスクの表面を滑動するスライダを示す。
【図5】一実施形態による、IDおよびODに位置決めされたスライダを示す。
【図6】一実施形態による、ほぼIDおよびODからスライダに向かう空気の流れに対するスライダを示す。
【図7】一実施形態による、後方浅ステップパッドに関する様々な寸法を示す。
【図8】一実施形態による、後方ABSパッドに関する様々な寸法を示す。
【図9】一実施形態による、スライダの様々なエッチレベルを示す。
【図10】一実施形態による、ハードディスクドライブを製造する例示的な方法のフロー図を示す。
【図11】本発明の種々の実施形態の説明を容易にするディスクドライブの平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の代替的な実施形態、ハードディスクドライブ用のスライダ空気軸受について詳細に説明する。本発明を代替的な実施形態と併せて説明するが、本発明をこれらの実施形態に限定することを意図するものではないことは理解される。それどころか、本発明は、添付の特許請求の範囲で規定される本発明の趣旨および範囲内に含まれるであろう代替例、変更例および均等物を網羅するものである。
【0013】
さらに、以下の本発明の詳細な説明では、多くの具体的な詳細を説明して本発明が完全に理解されるようにする。しかしながら、当業者には、これらの具体的な詳細を用いずとも本発明を実施し得ることは理解される。他の例では、本発明の態様を不必要に曖昧にしないようにするために、周知の方法、手順、構成要素、および回路を詳細には説明していない。
【0014】
概要
本発明の実施形態は、ヘリウム浮上媒体および周囲の空気浮上媒体の双方で製品速度(10,000〜15,000RPM)で動作するハードディスクドライブ用のスライダを提供する。さらに、本発明のスライダは、ヘリウムと空気との混合物中で動作することができる。その上、本発明のスライダは、空気およびヘリウムの双方の浮上媒体において、6,000RPM未満のサーボトラックの書き込み速度での動作に好適である。サーボトラックはヘリウム環境で書き込まれ、トラックの登録を誤るという誤り(track misregistration error)を削減する。
【0015】
図2に従来のスライダ200を示す。従来のスライダ200は、前方ABSパッド210、前方浅ステップパッド220、後方浅ステップパッド240、後方ABSパッド250、およびスライダ200の後方隅部付近に配置されたランディングパッド230などの様々な構造部を含む。構造部210〜250の形状は直線に基づきかつ曲線断面を含まないため、構造部210〜250の形状は実際は矩形状多角形の変形である。自然な空気の流れの流線に適合する流線形構造は空気軸受の性能を改善するのに役立ち得る。特に従来のスライダ200に関連する構造部210〜250の幾何学的性質は、スライダ200の設計をどのような流線形とし得るかを制限する。
【0016】
対照的に、図3には、周囲の空気浮上媒体およびヘリウム浮上媒体の双方において、動作速度およびサーボトラック書き込み速度の双方で浮上高シグマを低くしかつ他の性能パラメータを改善させるように設計された、一実施形態によるスライダ300を示す。スライダ300は、サイドレール360およびランディングパッド390まで継続的に延在する前方ABSパッド310、浅ステップパッド320、後方浅ステップパッド330、後方ABSパッド340、サイドレール360、チャネル370、チャネル取入口350および後方サイドポケット380を含む。
【0017】
後方浅ステップパッド330は、それ(330)に関連するいくつかの曲線を有し、従来のスライダ設計ではもたらされない滑らかな空気の流れの特性をもたらす。側部側に位置しスライダ300の後方に向かっているポケット380は、ABSよりも深い第2の位置レベルにある。特に、ポケット380によって、スライダ300は、複数の浮上媒体および動作速度において一貫性のある動作特性を有することができる。前方ABSパッド310はスライダピッチの剛性を高めるような形状にされている。後方ABSパッド340は、浮上高の、ヘリウムおよび/または空気/ヘリウムの浮上媒体などの様々な浮上媒体に関連する空気圧の損失効果を低減するような形状にされている。
【0018】
浮上高シグマに影響を及ぼす要因
浮上高の変化は、製造パラメータにおける不可避な変化ならびに動作速度および浮上媒体により発生する。これらの変化により、スライダの浮上高、ピッチおよびロールに影響を及ぼす望ましくない力が生じ、そのため、様々な速度および浮上媒体におけるスライダの浮上高が広がる(浮上高シグマの増大)。そのような浮上高の広がりを低減させる良い方法は、空気軸受の剛性を高めることによるか、または目標値からの浮上高の逸脱が最小限となるように、製造パラメータに対する浮上高の感受性を低減させることによるかである。本発明の実施形態は、様々な浮上媒体ならびに様々な動作速度またはサーボトラック書き込み速度で使用されるときにも浮上高の広がりが小さいスライダを提供する。
【0019】
図4に、一実施形態による、スライダ(400)がディスク450の表面を滑動するときのスライダ400を示す。スライダ400がディスク450の表面を滑動するとき、スライダ400とディスク450の表面との間で空気が動く。この空気によりスライダ400が上方に持ち上げられる。上方への持ち上げに対抗するために、サスペンション410がスライダ400に、予圧と呼ばれる力420を下方へと加える。その撓みによりまた、上方ピッチモーメント440を生じ、かつロールモーメント430をわずかに生じるかまたは全く生じない。予圧またはピッチモーメントまたはロールモーメントのいずれかの変化が、浮上高の姿勢に影響を及ぼす。高い予圧力はスライダの浮上高を低くする。高いピッチモーメントはスライダピッチを増加させ、かつ浮上高を低減させる。ロールモーメントの変化は、浮上高の増大または損失のいずれかを引き起こし得る。
【0020】
浮上高シグマに影響を及ぼす環境要因
地球上の異なる場所でディスクドライブを使用できることが望まれている。例えば、海上でコンピュータを使用したいと考えたり、その後、同じコンピュータを山で使用したいと考えたりする場合がある。空気圧は、高度の高い場所よりも海上で高くなる。空気圧は、スライダがどの程度の高さを浮上するかに影響を及ぼす。共通に言える周囲の空気圧効果は、空気圧が低いほどスライダの浮上位置が低くなるということである。
【0021】
スライダ下でのディスクの速度の程度はスライダの浮上姿勢に影響を及ぼす。図5に、一実施形態による、IDおよびODに位置決めされたスライダ500を示す。ディスクの半径がIDにおいて最小であるため、スライダ500の速度はIDにおいて最低である。スライダ500の速度は、ディスクの半径が増大するためスライダ500がODの方へ移動するにつれて連続的に増加する。また、ディスクドライブは、サーボ書き込み速度(例えば、約4,000〜8,000毎分回転数)よりも製品速度(例えば、約15,000毎分回転数)で実行するときに高速で動作する。その上、本発明のスライダは、様々な浮上媒体での動作およびサーボトラック書き込みの双方に好適である。
【0022】
スライダに対するディスクの方向および速度は、スライダ浮上高に影響を及ぼす。より高速のディスク速度は、スライダ下の加圧を増大させかつその浮上高を増大させる傾向がある。ディスク接線速度とスライダ長との間の角度をスキューと呼ぶ。図5を参照すると、線510は、スライダ500がID付近にあるときの、そこ(500)に向かう空気の流れの方向を示し、および線520は、スライダ500がOD付近にあるときの、そこ(500)に向かう空気の流れの方向を示す。
【0023】
空気軸受の減衰
構成要素が動作するとき、いずれかの励振源によって励振される場合に構成要素が振動する傾向がある。減衰は、この振動する傾向に構成要素が対抗する能力である。構成要素は、その共振で動作するとき振動増幅を含むのに十分な減衰作用を有する場合には、動的安定性を有する。種々の実施形態はまた、浮上高シグマを低減させ得る動的安定性を提供する。
【0024】
一実施形態によれば、スライダ300は矩形形状を有する。例えば、スライダ300をフェムト−Lタイプのものとし得、ここでは、長さは約1.25ミリメートルであり、かつ幅は約0.7ミリメートルである。矩形形状のスライダは、正方形のスライダよりもローリングしやすい。しかしながら、本発明の種々の実施形態を使用して、フェムト−Lのような矩形形状のスライダがローリングする確率を低減することができ、それゆえ浮上高シグマを低減することができる。
【0025】
前方ABSパッド
図6に、一実施形態による、ほぼIDおよびODからスライダ600に向かう空気の流れ510、520に対するスライダ600を示す。図3および図6を参照するとより明確になるように、前方ABSパッド310は、とりわけ、スキュー510、520の効果を減少させるような形状にされている。前方ABSパッド310は、パッド(310)の種々の縁部612、614、622、および624が、スライダ600に向かう方向の空気の流れ510、520と整列するような形状にされている。例えば、図6に示すように、スライダ600のID側に向かう内側縁部614および外側縁部612は、スライダ600のOD側に向かう空気の流れの方向520とほぼ整列されている。スライダ600のOD側の内側縁部624は、スライダ600のID側に向かう空気の流れの方向510とほぼ整列されている。サイドレール360およびランディングパッド390を遮断することなく連続的に延在させることによって、パッド310は、空気軸受面およびディスクを傷つける原因となり得る異物を吸い込まないように、空気軸受に対して保護を提供する。この構成の別の利点は、種々のパッドを分離する切取部またはレリーフなどの特徴部が回避されることである。通常、これらの特徴部の縁部は、スライダ動作中にディスクの表面またはディスク潤滑材にあるデブリが収集され、かつ浮上高の変更またはディスクへの再堆積を引き起こし得る箇所となる。
【0026】
一実施形態によれば、OD側の外側縁部622は、スライダ600のID側に向かう空気の流れの方向510とは整列していない。これは、例えば、スライダのシミュレーションの結果によるものである。シミュレーションの結果では、一実施形態によれば、縁部622は、ID側からの空気の流れの方向510と整列している必要はないことが示されている。これについて考えられる1つの理由は、方向520からの空気の流れが、方向510からの空気の流れよりも強い傾向があることが挙げられる。
【0027】
後方浅ステップパッド
図3を参照すると、後方浅ステップパッド330は、後方浅ステップパッド330の前方のほぼ中心に位置決めされる突起部332(本明細書では「後方浅ステップパッド突起部」とも称す)を含む。後方浅ステップパッド330はまた、突起部332の両側に凹部334、336(本明細書では「後方浅ステップパッド凹部」とも称す)を含む。
【0028】
一実施形態によれば、後方浅ステップパッド330は非幾何学的および非多角形形状を有する。例えば、後方浅ステップパッド330は、それ(330)と関連するいくつかの曲面を有し得る。突起部332は湾曲しており、凹部334、336は湾曲しており、および後方浅ステップパッド330の側面338、339は湾曲している。突起部332は、スライダ300がローリングする確率を低くする。これは、例えば、突起部332は空気の流れの向きを変えることができるためである。突起部332は、空気圧の変化を補償するのに寄与し、かつ動的安定性に寄与する。スライダ300のOD側に向かう突起部332の曲面は、OD側から流れる空気が強まるのを補償するのに役立つ。一実施形態によれば、凹部334、336は、空気圧の変化が浮上高に与える影響を低減させる。突起部332を含む後方浅ステップパッド330の形状により、空気圧の変化に対する感受性が低くなり、減衰を増大させることにより動的安定性がより良好になり、かつまた、空気軸受剛性を高くしおよび浮上高シグマを低減する。
【0029】
図7に、一実施形態による後方浅ステップパッド330に関連した様々な寸法を示す。図3および図7を参照すると、突起部332の長さ710を約150〜500ミクロンの範囲とし得る。一実施形態によれば、突起部332の長さ710は約300ミクロンである。突起部332の幅701を約100ミクロン以下とし得る。一実施形態によれば、突起部332の幅701は約30ミクロンである。一実施形態によれば、突起部332の幅701は、製造工程においてそれ(701)を製造できる程度に狭い。
【0030】
後方浅ステップパッドの凹部334、336の幅702、704は約10〜100ミクロンである。一実施形態によれば、後方浅ステップパッド凹部334、336の幅702、704は約35ミクロンである。一実施形態によれば、ID側の凹部336はOD側の凹部334よりも若干深い。例えば、凹部336を凹部334よりも数ミクロン深くすることができる。
【0031】
一実施形態によれば、突起部332はOD側に向かってわずかに湾曲している。例えば、突起部332は、突起部332の中心に沿った軸線708に対して約60ミクロン湾曲706し得る。
【0032】
後方ABSパッド
一実施形態によれば、後方ABSパッドの前方は凹面状である。後方ABSパッドの形状により、空気軸受の剛性が高まり、減衰を増大させ、および高度感受性を低減する。
【0033】
図8に、一実施形態による後方ABSパッド340に関連した様々な寸法を示す。後方ABSパッド340の長さ812を約100〜400ミクロンの範囲とし得る。一実施形態によれば、後方ABSパッド340の長さ812は約250ミクロンである。後方ABSパッド340の前方の凹部342の長さ814は約20〜100ミクロンの範囲とし得る。一実施形態によれば、凹部342の長さ814は約30ミクロンである。
【0034】
後方サイドポケット
一実施形態によれば、スライダの後方に向かうサイドポケットにより、ヘリウムおよび空気などの複数の浮上媒体においてスライダを動作させることが可能となる。本発明のスライダはまた、様々な動作速度で動作することができ、かつサーボ書き込み速度でうまく機能する。後方サイドポケットは、とりわけ空気軸受のロール剛性を高め、かつスライダのローリングの確率を低減させる。一実施形態によれば、ポケットはランディングパッドのごく近傍にある。ポケット380は、空気軸受面より深い第2の位置レベルにある。一実施形態では、サイドポケットは多角形形状である。一実施形態では、サイドポケットは、スライダABSの多角形形状特徴部にすぎない。一実施形態では、サイドポケットの形状は非対称的である。
ポケット380、381の前方には、チャネル370が設けられている。チャネル370を通る空気の流れが、当該チャネル370から後方のポケット380、381にそれぞれ流れる。
【0035】
図9に、一実施形態によるスライダの様々なエッチレベルを示す。例えば、浅ステップパッド320、330、およびチャネル370は、空気軸受面よりも深い第1の位置レベルにある。ポケット380および381は、前方浅ステップパッド320、後方浅ステップパッド330、およびチャネル370よりも深い別の位置レベルにある。空気がスライダの前方に当たるため、空気の圧力が増大する。この説明は、この点における空気圧を空気圧レベルAと称することを目的としている。空気圧は、空気がチャネル取入口350に、およびチャネル370まで下方に流れるにつれて減少する。空気圧は、空気がポケット380および381に当たるときに空気圧レベルAよりも高いレベルまで増大する。スライダの両側において空気圧が高まることによって、スライダがロールする確率が低くなる。それゆえ、一実施形態によれば、チャネルまたはポケット、またはそれらの組み合わせが、スライダのローリングの確率を低減させるのに役立つ。一実施形態では、ポケット380および381は同じレベルにあるが、一方の容積は他方の容積よりも大きい。
【0036】
前方ABSパッド、後方浅ステップパッド、後方ABSパッド、およびポケットの各セクションは、これらの構造部の設計の様々な合理的な説明をするものであった。スライダの設計に関する合理的な説明は、設計により浮上高シグマを低減させる理由のいくつかを提供する。説明は、設計により浮上高シグマが低減される理由の全てを提供するものではない。
【0037】
スライダのエッチレベル
図9を参照すると、第1の位置レベルはABSよりも約0.05〜0.40ミクロン深く、第2の位置レベルはABSよりも約1〜4ミクロン深く、および第3の位置レベルはABSよりも、初めの2つの位置レベルの合計である約1.05〜4.4ミクロン深い。一実施形態によれば、第1の位置レベルはABSよりも約0.18ミクロン深く、および第2の位置レベルはABSよりも約2.0ミクロン深い。前方ABSパッド310、後方ABSパッド340、サイドレール360、およびランディンングパッド390はABSの位置レベルにあるので、ディスクに最も近い。前方浅ステップパッド320、後方浅ステップパッド330、チャネル取入口350、およびチャネル370はABSの位置レベルよりも1レベル深い(第1の位置レベル)。ポケット380および381はABSよりも2レベル深い(第2の位置レベル)。白地で示す領域は、ABSよりも3レベル深い(第3の位置レベル)。
【0038】
ハードドライブの製造の例示的な方法
図10は、本発明の一実施形態に従ってハードディスクドライブを製造する例示的な方法1000のフロー図である。
【0039】
1010において、方法1000は、ディスクドライブスライダに空気軸受面を設ける工程を含む。
【0040】
1020において、方法1000は、空気軸受面よりも深い第1の位置レベルにある前方浅ステップパッドおよび後方浅ステップパッドを形成する工程を含む。
【0041】
1030において、方法1000は、空気軸受面よりも深い第2の位置レベルにある第1の後方サイドポケット(ポケット381)を形成する工程を含み、第1のサイドポケットは実質的に多角形形状である。
【0042】
1040において、方法1000は、空気軸受面よりも深い第2の位置レベルにある第1の後方サイドポケットに対して非対称的である第2の後方サイドポケット(ポケット380)を形成することを含み、第2の後方サイドポケットは実質的に多角形形状であり、第2の非対称的な後方サイドポケットは、第1の後方サイドポケットよりも容積が大きい。
【0043】
一実施形態では、非対称的なサイドポケットによって、様々な浮上媒体および動作速度で動作するときにスライダのシグマを低くすることが可能となる。
【0044】
例示的なディスクドライブ
図11に、本発明の種々の実施形態の説明を容易にするディスクドライブの平面図を示す。ディスクドライブ1110は、ベース鋳物1113、モータハブアセンブリ1130、ディスク1138、アクチュエータシャフト1132、アクチュエータアーム1134、サスペンションアセンブリ1137、ハブ1140、ボイスコイルモータ1150、磁気ヘッド1156、およびスライダ1155を含む。
【0045】
構成要素およびサブアセンブリに付着点および位置合わせ点を提供するベース鋳物1113に、構成要素を組み込む。複数のサスペンションアセンブリ1137(1つを示す)を、櫛状のアクチュエータアーム1134(1つを示す)に取り付けることができる。複数のトランスデューサヘッドまたはスライダ1155(1つを示す)をそれぞれサスペンションアセンブリ1137に取り付けることができる。スライダ1155をディスク1138の表面1135の近傍に配置して、磁気ヘッド1156(1つを示す)を用いてデータに対して読み取りおよび書き込みを行う。
【0046】
ポケット381がポケット380よりもディスクの半径方向内側に配置されるように、スライダ1155が配置される。すなわち、空気軸受面において、ポケット381よりも容積が大きいポケット380がディスクの半径方向外側に配置される。
【0047】
ロータリーボイスコイルモータ1150はアクチュエータアーム1134をアクチュエータシャフト1132の周りで回転させて、サスペンションアセンブリ1137をディスク1138上の所望の半径方向位置に動かす。アクチュエータシャフト1132、ハブ1140、アクチュエータアーム1134、およびボイスコイルモータ1150を集合的にロータリーアクチュエータアセンブリと称し得る。
【0048】
データは、データトラック1136として知られている同心円のパターンでディスクの表面1135に記録される。ディスクの表面1135はモータ−ハブアセンブリ1130によって高速で回転させられる。データトラック1136は、回転するディスク表面1135に、一般的にスライダ1155の端部にある磁気ヘッド1156によって記録される。
【0049】
ディスクドライブ内をヘリウム雰囲気とし、ヘリウム環境でサーボトラックは書き込まれる。これにより、トラックの登録を誤るという誤り(track misregistration error)の削減をすることができる。
【0050】
本発明に係るスライダは、サーボトラックが5,000〜6,000毎分回転数の速度で書き込まれる動作に好適である。また、本発明のスライダは、ディスクドライブが11,000〜12,000毎分回転数の速度での動作においても好適である。
サーボディスクへの書き込みが終了した後、ディスクドライブ内のヘリウム雰囲気を周囲の空気雰囲気に取りかえ、サーボトラックに基づいてディスクドライブを動作させることができる。
【0051】
図11の平面図には、1つのみのヘッド、スライダおよびディスク表面の組み合わせを示す。当業者であれば、1つのヘッド−ディスクの組み合わせに関する説明が、ディスクスタック(図示せず)などの複数のヘッド−ディスクの組み合わせにも当てはまることを理解する。しかしながら、簡潔および明瞭にするために、図1には1つのヘッドおよび1つのディスク表面のみを示す。
【0052】
結論
種々の実施形態は、複数の浮上媒体において浮上高シグマを低減させることに関するものであるが、浮上高シグマを低減させるために種々の実施形態を互いに別々に使用してもよいし、または組み合わせて使用してもよい。
【0053】
上述の本発明の特定の実施形態の説明は、例示および説明を目的として提示した。それらは、包括的であることまたは説明した正確な形態に本発明を限定することを意図しておらず、上述の教示を考慮すると多くの変更形態および変形形態も可能である。本明細書で説明した実施形態は、本発明の原理およびその実際の応用を最もよく説明するために選択されかつ説明され、それにより、当業者が、意図する特定の使用に好適なものとして様々な変更形態を用いて本発明および種々の実施形態を最もよく利用することが可能となる。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲およびそれらの均等物によって規定されることを意図する。
【符号の説明】
【0054】
200 スライダ
210 前方ABSパッド
220 前方浅ステップパッド
230 ランディングパッド
240 後方浅ステップパッド
250 後方ABSパッド
300 スライダ
310 前方ABSパッド
320 浅ステップパッド
330 後方浅ステップパッド
332 突起部
334、336 凹部
338、339 後方浅ステップパッドの側面
340 後方ABSパッド
342 凹部
350 チャネル取入口
360 サイドレール
370 チャネル
380 後方サイドポケット
381 ポケット
390 ランディングパッド
400 スライダ
410 サスペンション
420 予圧
430 ロールモーメント
440 上方ピッチモーメント
450 ディスク
500 スライダ
510 スライダのID側に向かう空気の流れ
520 スライダのOD側に向かう空気の流れ
600 スライダ
612 外側縁部
614 内側縁部
622 外側縁部
624 内側縁部
701 突起部の幅
702、704 凹部の幅
706 湾曲
708 軸線
710 突起部の長さ
812 後方ABSパッドの長さ
814 凹部の長さ
1000 ハードディスクドライブを製造する例示的な方法
1010 ディスクドライブスライダに空気軸受面を設ける工程
1020 空気軸受面よりも深い第1の位置レベルにある前方浅ステップパッドおよび後方浅ステップパッドを形成する工程
1030 空気軸受面よりも深い第2の位置レベルにある第1の後方サイドポケットを形成する工程(第1のサイドポケットは実質的に多角形形状である)
1040 空気軸受面よりも深い第2の位置レベルにある第1の後方サイドポケットに対して非対称的である第2の後方サイドポケットを形成する工程(第2の後方サイドポケットは実質的に多角形形状であり、第2の非対称的な後方サイドポケットは、第1の後方サイドポケットよりも容積が大きい)
1110 ディスクドライブ
1113 ベース鋳物
1130 モータハブアセンブリ
1132 アクチュエータシャフト
1134 アクチュエータアーム
1135 ディスクの表面
1136 データトラック
1137 サスペンションアセンブリ
1138 ディスク
1140 ハブ
1150 ボイスコイルモータ
1155 スライダ
1156 磁気ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の浮上媒体において浮上高シグマを低減するように設計されたスライダであって、
空気軸受面と、
前記空気軸受面よりも深い第1の位置レベルにある前方浅ステップパッドおよび後方浅ステップパッドと、
前記空気軸受面よりも深い第2の位置レベルにある第1の後方サイドポケットであって、多角形形状である第1の後方サイドポケットと、
前記空気軸受面よりも深い前記第2の位置レベルにある前記第1の後方サイドポケットに対して非対称的な第2の非対称的な後方サイドポケットであって、多角形形状であり、前記第1の後方サイドポケットよりも容積が大きい第2の非対称的な後方サイドポケットと、
を含むスライダ。
【請求項2】
前記第1および第2の後方サイドポケットの前方のチャネルをさらに含み、
前記チャネルを通る空気の流れが、当該チャネルから後方の前記第1および第2の後方サイドポケットに流れる請求項1に記載のスライダ。
【請求項3】
前記空気軸受面において、前記第1の後方サイドポケットが前記第2の後方サイドポケットよりもディスクの半径方向内側に配置された請求項1又は2に記載のスライダ。
【請求項4】
前記第1の位置レベルが前記空気軸受面よりも約0.05〜0.40ミクロン深い範囲にあり、
前記第2の位置レベルが前記空気軸受面よりも約1.0〜4.0ミクロン深い範囲にある請求項1〜3のいずれか1項に記載のスライダ。
【請求項5】
前記第1および第2の後方サイドポケットが、スライダに関連したランディングパッドの近傍にある請求項1〜4のいずれか1項に記載のスライダ。
【請求項6】
前記空気軸受面をヘリウムおよび周囲の空気の双方の媒体で使用する請求項1〜5のいずれか1項に記載のスライダ。
【請求項7】
前記第1および第2の後方サイドポケットが矩形形状である請求項1〜6のいずれか1項に記載のスライダ。
【請求項8】
浮上高シグマを低減させるディスクドライブであって、
ディスクと、
前記ディスクにデータを書き込みかつ前記ディスクからデータを読み取るヘッドを含むスライダとを含み、
前記スライダは、
空気軸受面と、
前記空気軸受面よりも深い第1の位置レベルにある前方浅ステップパッドおよび後方浅ステップパッドと、
前記空気軸受面よりも深い第2の位置レベルにある第1の後方サイドポケットであって、多角形形状である第1の後方サイドポケットと、
前記空気軸受面よりも深い前記第2の位置レベルにある前記第1の後方サイドポケットに対して非対称的である第2の非対称的な後方サイドポケットであって、多角形形状であり、前記第1の後方サイドポケットよりも大きな容積を有する第2の非対称的な後方サイドポケットとを含むディスクドライブ。
【請求項9】
前記スライダが、
前記第1および第2の後方サイドポケットの前方のチャネルをさらに含み、
前記チャネルを通る空気の流れが、当該チャネルから後方の前記第1および第2の後方サイドポケットに流れる請求項8に記載のディスクドライブ。
【請求項10】
前記空気軸受面において、前記第1の後方サイドポケットが前記第2の後方サイドポケットよりもディスクの半径方向内側に配置された請求項8又は9に記載のディスクドライブ。
【請求項11】
前記第1の位置レベルが前記空気軸受面よりも約0.05〜0.40ミクロン深く、
前記第2の位置レベルが前記空気軸受面よりも約1.0〜4.0ミクロン深い請求項8〜10のいずれか1項に記載のディスクドライブ。
【請求項12】
前記後方サイドポケットが、スライダに関連したランディングパッドの近傍にある請求項8〜11のいずれか1項に記載のディスクドライブ。
【請求項13】
前記空気軸受面をヘリウムおよび周囲の空気の双方の媒体で使用する請求項8〜12のいずれか1項に記載のディスクドライブ。
【請求項14】
前記第1および第2の後方サイドポケットが矩形形状である請求項8〜13のいずれか1項に記載のディスクドライブ。
【請求項15】
ディスクドライブの製造方法であって、
ディスクドライブスライダに空気軸受面を設ける工程と、
空気軸受面よりも深い第1の位置レベルにある前方浅ステップパッドおよび後方浅ステップパッドを形成する工程と、
空気軸受面よりも深い第2の位置レベルにある第1の後方サイドポケットを形成する工程であって、前記第1のサイドポケットは多角形形状である工程と、
空気軸受面よりも深い前記第2の位置レベルにある前記第1の後方サイドポケットに対して非対称的である第2の後方サイドポケットを形成する工程であって、前記第2のサイドポケットは多角形形状であり、前記第2の非対称的な後方サイドポケットは前記第1の後方サイドポケットよりも大きな容積を有する工程とを含む方法。
【請求項16】
前記ディスクドライブ内にヘリウム雰囲気をもたらす工程と、
前記ディスクドライブ内のディスク上にサーボトラックを書き込む工程とをさらに含む請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記サーボトラックが5,000〜6,000毎分回転数の速度で書き込まれる請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ディスクドライブが11,000〜12,000毎分回転数の速度で動作する請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記ディスクドライブ内の前記ヘリウム雰囲気を周囲の空気雰囲気に取りかえる工程と、
前記サーボトラックに基づいて前記ディスクドライブを動作させる工程とをさらに含む請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記空気軸受面において、前記第1の後方サイドポケットが前記第2の後方サイドポケットよりもディスクの半径方向内側に配置される請求項15〜19のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−282716(P2010−282716A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127502(P2010−127502)
【出願日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【出願人】(503116280)ヒタチグローバルストレージテクノロジーズネザーランドビーブイ (1,121)
【Fターム(参考)】