説明

ディスクブレーキのブレーキキャリパのための複数の部材によって形成されたピストン

本発明は、液圧的および/または機械的および/または電気機械的に操作可能なディスクブレーキのブレーキキャリパのための複数の部材からなるピストン(1)であって、このピストンが実質的に、片側が開放したポット状の中空円筒体として形成され、ピストンが底部(6)と、この底部と一体の壁部(5)とを備え、底部(6)がポット内部(8)からブレーキ圧力で付勢可能であり、それによって底部(6)の外向きの接触面(9)がブレーキパッド(10)に押し付け可能であり、ポット内部(8)が駐車ブレーキ機構に付設された少なくとも1個のスラスト部材(17)を収容している、上記ピストンに関する。いろいろな適用で使用するためのピストンモジュールシステムのような簡単な製作のために、スラスト部材(17)と底部(6)がブレーキ圧力を伝達するための互いに向き合った円錐面(18)を有することが提案される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧的および/または機械的および/または電気機械的に操作可能なディスクブレーキのブレーキキャリパのための複数の部材によって形成されたピストンであって、このピストンが実質的に、片側が開放したポット状の中空円筒体として形成され、ピストンが底部と、この底部と一体の壁部とを備え、底部がポット内部からブレーキ圧力で付勢可能であり、それによって底部の外向きの接触面がブレーキパッドに押し付け可能であり、ポット内部がスラスト部材を収容している、上記ピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンを備えた、液圧的および機械的に操作可能な組み合わせ式ブレーキキャリパは、特許文献1によって知られている。その際、壁部は円錐面を有し、この円錐面は別個の円錐体および別個に設けられたナットと協働する。このナットはねじ軸によって駆動される。この公知の装置は基本的に、駐車ブレーキ装置を備えたディスクブレーキにおいて使用するためにブレーキパッド摩耗を補償することができる。ディスクブレーキのきわめて低コスト構造に関する指摘は、この特許文献1から明らかではない。
【0003】
公知の装置はさらに、電気機械的に操作可能なブレーキアクチュエータに対する適応が欠けている。この適応では、駐車ブレーキ装置が伝動装置によってブレーキピストンに作用する。この場合、伝動装置はアクチュエータの回転運動を並進運動に変換し、駐車ブレーキ過程を実施するためにブレーキピストンの操作を行い、そして操作された位置に保持する。この場合、伝動装置はねじ軸とナットを備えている。
【0004】
それとは関係なく勿論、駐車ブレーキ機能を有していない自動車ディスクブレーキの構造のための解決策を提示することが大切である。
【0005】
従って、異なるように形成された自動車ブレーキとそのアクチュエータは基本的には異なるように形成された構成要素を必要とする。これは、自動車ブレーキの製作においても、例えば交換部品供給のような後続のロジスティックスにおいても、コストが高くつく。基本的には、これと同じことがブレーキパッド摩耗補償装置を備えているかまたは備えていない自動車ブレーキについても当てはまる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0396231A1号明細書
【特許文献2】国際公開第2007/051809A1号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の根底をなす基本的な課題は、すべての自動車ブレーキのための製作においておよび後続のロジスティックスにおいて、できるだけ広範囲に及ぶ同一部品供給を可能にし、製作コストを低減することである。これは、所望なモジュールシステムを提供するという問題提起を伴う。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題は請求項1の特徴によって解決される。本発明では、動力伝達経路内に統合されたスラスト部材と底部が、ブレーキ圧力を伝達するための互いに向き合った円錐面を備えている。スラスト部材を介しての圧力伝達が、内向きに突出した底部のビードを介して底部に直接行われることにより、ある意味ではアダプタとして作用する適合したスラスト部材と共に、薄板材料から特に変形技術的な低コストのピストン製作が、ピストンモジュールシステムによって可能になる。駐車ブレーキ装置またはパッド摩耗補償装置を備えていないディスクブレーキのためにピストンを使用するために、スラスト部材は簡単に取り除くことができる。特別に適応させるピストンの製作が省略される。
【0009】
軸方向の長さを短縮するために、スラスト部材は同心的な貫通穴を備えている。
【0010】
ピストン、スラスト部材およびナットの間の収容部は、相対回転が防止されるように形成されている。
【0011】
すべての円錐面が一致する円錐角を有すると有利であり、それによって基本的には1個の工具で済む。
【0012】
スラスト部材の切欠きは肩部を収容可能である。切欠きのエア抜きを改善するために、少なくとも1つの通路が推奨される。
【0013】
スラスト部材は一般的に、軸方向におよび相対回転しないようにピストン内に固定可能である(変形技術的な押圧)か、あるいは相対回転しないようにかつ軸方向に摺動可能にピストン内に配置することができる。
【0014】
本発明の他の詳細は、図に基づく実施例の説明から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】分解図である。
【図2】ピストン装置の断面図である。
【図3】図2のピストン装置の他の詳細の拡大図である。
【図4】切欠きと通路を有する変形例の斜視図である。
【図5】図4の部分を有するスラスト部材の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図から、部分的に概略的にかつ拡大して示した、自動車用ディスクブレーキの一部が明らかである。ピストン1と、このピストンに少なくとも一部を統合した、駐車ブレーキ装置のナット3を有するねじ軸2とが詳細に示してある。このピストンとねじ軸は、いわゆる電気機械的に操作可能な組み合わせ式自動車ブレーキ(EPB)において回転体的な駆動装置回転運動を並進体的なピストン摺動運動に変換するために、伝動装置として作用する。電気機械的に操作可能な組み合わせ式自動車ブレーキの機能および適合条件については、本出願人の特許文献2の開示内容が参照される。
【0017】
ピストンは基本的に縦軸線4に関して回転対称であり、壁部5とこの壁部に一体に配置された底部6とを有する片側が開放した中空円筒体として形成され、そしてハウジング7内で軸方向に摺動可能に案内されている。ハウジング7とピストン1の相対回転を防止するためには大抵いわゆる保護キャップで十分である。さらに、半径方向外側から壁部5に弾性的に接触する図示していないシール要素が、ハウジング7とピストン1の相対回転を防止する働きをする。底部6は基本的にはポット内部8から圧力媒体で付勢可能である。その結果、底部6のほぼ円環状の外向きの接触面9が、ブレーキパッド10に押し付けられる。このブレーキパッド10は背板11と、図示していないブレーキディスクを付勢する摩擦材12とを備えている。概略的な図からは詳細には明らかではないが、背板11に対する接触面9が、壁部5の平均直径よりも小さな平均直径を有すると有利である。応力の観点から、接触面9は壁部5の最も弱い個所の最も小さな壁部横断面よりも大きく形成されるように採寸されている。強度上の理由から並びに接触面9を介しての一定の再現可能な力作用のために、底部6は基本的に、背板11にそれ以上直接接触しないように、背板11から後退している。これは、接触面9に隣接してリング状の周方向のビード13が設けられ、このビードに隣接して円形の面14が設けられていることによって達成される。この場合例えば円形の面14は少なくとも少しだけ、例えば10分の数ミリメートルだけ、接触面9から後退している。ビード13は図2から明らかなように、2つの脚部がなす鈍角の開放角度βを有する。この脚部のうち、半径方向内側の脚部は円錐面18によって力を加えるために設けられている。
【0018】
さらに、半径方向外側からかつ底部6に対して軸方向にずらして、周溝15が、半径方向内側に周方向の肩部16が形成されるように、半径方向外側から壁部5に穿設されている。周溝15には、基本的に、図示していない保護キャップが装着されている。
【0019】
上記の特徴部が、例えば深絞り、プレスおよび/または圧延加工によって非切削形成されると、金属的な鋼板材料に関連して、有利な加工硬化が得られるので、焼き入れプロセスを必要とせずに、耐荷重能力を有する工作物が比較的に少ない材料コストによって生じる。理解されるように、この有利な硬化は、例えば比較的に小さな直径のピストン1の製作のために、冷間鍛造が選択されるときにも達成可能である。
【0020】
図から明瞭にわかるように、ナット3はスラスト部材17を介して底部6の円錐面18に間接的に支持されている。その際、底側の円錐面18は少なくとも基本的にはビード13の型押しによって得られる。互いに向き合う両円錐面18は軸方向において、好ましくは縦軸線Aに対して約60°の角度αをなしている。それによって、センタリングされた一定の、スラスト部材17の接触が保証される。ナット3とスラスト部材17との間には、基本的に同じ構造の円錐面が設けられている。この場合、すべての円錐面が一致し、開放角度が一致する円錐性を有するときわめて有利である。
【0021】
軸方向の必要スペースを小さくするために、スラスト部材17はねじ軸2を収容するための同心的な貫通穴19を有する。これは、電気機械式システムの場合の非操作状態でもまた、比較的に新品のブレーキパッド10と関連して伸縮可能なブレーキパッド調整装置を使用する場合でも、省スペース的なねじ軸収容のためにきわめて有利である。さらに、ねじ軸2がピストン1とスラスト部材17の大部分を通って延在することができる。さらに、伝動装置機能のためには、ハウジング7、ピストン1、スラスト部材17およびナット3が相対回転しないように形成されていることが重要である。これはナット3とスラスト部材17の間と、スラスト部材17とピストン1の間の、然るべく形成された収容部および回転防止手段によって次のように達成される。スラスト部材17とナット3間の回転防止のために、保持要素22を設けることができる。この保持要素はピン23を備え、このピンはナット3とスラスト部材17間の相対回転を係合連結的に防止する。
【0022】
他の実施の形態では、スラスト部材17とナット3の間の収容部20が円筒形とは異なる、関連部品の相対回転を防止する成形部を有することが考えられる。これは例えば、キー面あるいは異なるように形成された構造的係合連結形状(突起、歯、平面、フェザーキー等)を収容部20に一体的に設けることにより行うことができる。
【0023】
スラスト部材17と壁部5の間には、例えば歯状部、キー面状の平坦部等を設けることができる。図示していない保護キャップがピストン1とハウジング7間の回転防止の働きをしてもよい。
【0024】
スラスト部材17が底側の端部に、肩部16を収容するための外周側の周方向切欠き24を有するので、肩部16はこの切欠きに収容される。このような切欠き24を妥当なコストで圧力媒体充填の範囲内でエア抜きできるようにするために、この切欠きは少なくとも1つの通路25を介してポット内部8に接続されている。通路25の具体的な形成のために、スラスト部材17が切り込みを有しているかあるいは内壁が溝状の凹部を有していると有利である。特別な他の通路横断面のために、上記特徴を組み合わせて設けることもできる。
【0025】
スラスト材17が、異なる全長と異なる外径とそれぞれ同一の一致する円錐面18および統一形成されたナット3用の収容部20、21を有するアダプタ部材のように形成されていることにより、大多数の同一部品を使用して、異なるピストン直径のためのピストンモジュールシステムが簡単かつ低コストで可能になる。なぜなら、実質的に、直径が異なるように採寸されたピストンポットとそれに適合するスラスト部材17とハウジング7しか必要としないからである。
【符号の説明】
【0026】
1 ピストン
2 ねじ軸
3 ナット
4 ころがり要素
5 壁部
6 底部
7 ハウジング
8 ポット内部
9 接触面
10 ブレーキパッド
11 背板
12 摩擦材
13 ビード
14 面
15 溝
16 肩部
17 スラスト部材
18 円錐面
19 貫通穴
20 収容部
21 収容部
22 保持要素
23 ピン
24 切欠き
25 通路
A 縦軸線
α 角度
β 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧的および/または機械的および/または電気機械的に操作可能なディスクブレーキのブレーキキャリパのための複数の部材によって形成されたピストン(1)であって、このピストンが実質的に、片側が開放したポット状の中空円筒体として形成され、ピストンが底部(6)と、この底部と一体の壁部(5)とを備え、前記底部(6)がポット内部(8)からブレーキ圧力で付勢可能であり、それによって前記底部(6)の外向きの接触面(9)がブレーキパッド(10)に押し付け可能であり、前記ポット内部(8)が少なくとも1個のスラスト部材(17)を収容し、このスラスト部材が特に駐車ブレーキ機構の動力伝達経路内に組み込まれている、上記ピストンにおいて、スラスト部材(17)と底部(6)が力を伝達するための互いに向き合った円錐面(18)を有することを特徴とするピストン。
【請求項2】
前記スラスト部材(17)がねじ軸(2)を収容するための同心的な貫通穴(19)を有することを特徴とする請求項1に記載のピストン。
【請求項3】
前記ピストン(1)の内壁が前記スラスト部材(17)のための収容部(21)を有することを特徴とする請求項1に記載のピストン。
【請求項4】
前記スラスト部材(17)が成形部によって相対回転しないように前記ピストン(1)内に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のピストン。
【請求項5】
スラスト部材(17)がナット(3)によって力を伝達するための円錐面と収容部(20)を備えていることを特徴とする請求項1に記載のピストン。
【請求項6】
すべての円錐面(18)が同一の円錐性を有することを特徴とする請求項1および5に記載のピストン。
【請求項7】
成形部が設けられていることにより、ナット(3)が収容部(20)と相対的な回転を防止されていることを特徴とする請求項5または6に記載のピストン。
【請求項8】
保持要素(22)が設けられていることにより、ナット(3)が収容部(20)と相対的な回転を防止されていることを特徴とする請求項5または7に記載のピストン。
【請求項9】
スラスト部材(17)が底側の端部と外周部に、ビード(13)を収容するための切欠き(24)を備えていることを特徴とする請求項1に記載のピストン。
【請求項10】
スラスト部材(17)に切り込みが設けられ、および/または内壁に凹部が設けられていることにより、ポット内部(8)と切欠き(24)の間に少なくとも1つの通路(25)が設けられていることを特徴とする請求項9に記載のピストン。
【請求項11】
スラスト部材(17)がモジュールシステムを形成するために、異なる全長と異なる外径とそれぞれ同一の一致する円錐面(18)および統一形成されたナット(3)用の収容部(20)を有するアダプタ部材として形成されていることを特徴とする請求項5に記載のピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2011−524505(P2011−524505A)
【公表日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−513997(P2011−513997)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【国際出願番号】PCT/EP2009/057175
【国際公開番号】WO2009/153201
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(399023800)コンティネンタル・テーベス・アクチエンゲゼルシヤフト・ウント・コンパニー・オッフェネ・ハンデルスゲゼルシヤフト (162)
【出願人】(510331375)エルドリッヒ・ベタイリグングス・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング (1)
【Fターム(参考)】