説明

ディスクブレーキ

【課題】 摩擦パッドをディスクの径方向一側に付勢すると共にディスクから離間させる方向にも付勢することができ、小型、軽量化を図るようにする。
【解決手段】 摩擦パッド5の裏金6には、一対の耳部6Aの近傍にスプリング部材13,14を設ける。スプリング部材13,14には、摩擦パッド5の裏金6にカシメ部6Bを介して固定される固定板部13A,14Aの周縁部から互いに異なる方向に延びた戻しばね部13B,14B、径方向ばね部13C,14C等を一体に形成する。戻しばね部13B,14Bは、先端側が座面板部12の表面に弾性変形状態で当接することにより、摩擦パッド5をディスク1から離れる軸方向に付勢する。径方向ばね部13C,14Cは、ディスク1の径方向内側となる位置に配置され摩擦パッド5をディスク1の径方向外側に向けて付勢する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等の車両に制動力を付与するディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、自動車等の車両に設けられるディスクブレーキは、車両の運転者等がブレーキ操作を行ったときに、キャリパに設けたピストンを外部からの液圧供給によりディスク側に摺動変位させ、摩擦パッドをディスクに押圧する。そして、キャリパは、このときの反力でキャリアに対して摺動変位して爪部とピストンとの間で各摩擦パッドをディスクの両面に押圧し、これによって、車輪と共に回転するディスクに制動力を付与している。
【0003】
また、車両のブレーキ操作を解除したときに、前記各摩擦パッドをディスクの両面から離間させる方向に付勢する戻しばねを備えたものが知られている。この戻しばねは、前記キャリアと摩擦パッドとの間に設けられ該摩擦パッドをディスクから離間する戻し方向に付勢するものである(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
さらに、前記キャリアの腕部には、一対の摩擦パッドとの間に位置して該摩擦パッドをディスクの軸方向に摺動変位可能に案内するためのパッドスプリングを設け、該パッドスプリングには径方向付勢部を一体に形成することにより、前記摩擦パッドをディスクの径方向一側へと常に付勢する構成としたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−308789号公報
【特許文献2】特開2007−146969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上述した特許文献2による従来技術では、摩擦パッドをディスクの軸方向に変位可能に案内するパッドスプリングに径方向付勢部を一体に設け、該径方向付勢部で前記摩擦パッドをディスクの径方向一側に付勢することにより、摩擦パッドのガタツキ等を抑えて姿勢を安定させる構成としている。
【0007】
しかし、パッドスプリングに一体形成した径方向付勢部は、ディスクの軸方向に張出す構成であるため、例えば特許文献1の従来技術で採用している戻しばねと併用しようとすると、径方向付勢部と戻しばねとが干渉し合う虞れがあり、レイアウト設計上の自由度が低下し、ディスクブレーキを小型、軽量化する上で大きな障害になるという問題があった。
【0008】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、摩擦パッドをディスクの径方向一側に付勢すると共にディスクから離間させる軸方向にも付勢することができ、小型、軽量化を図る上での設計上の自由度も確保することができるようにしたディスクブレーキを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために本発明が採用する構成の特徴は、摩擦パッドには、当該摩擦パッドをディスクから離間する軸方向に付勢する戻しばね部と、該戻しばね部とは異なる方向に向けて延び前記摩擦パッドをディスクの径方向一側へと付勢する径方向ばね部とが一体に形成されたスプリング部材を固定して設ける構成としたことにある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スプリング部材の戻しばね部と径方向ばね部とは互いに異なる方向に延びているため、両者が干渉し合うことはなく、ディスクブレーキの小型、軽量化を図る上でレイアウト設計の自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施の形態によるディスクブレーキをアウタ側からみた正面図である。
【図2】図1中の一部を拡大して示す要部拡大図である。
【図3】図2中のパッド案内部材を単体として拡大して示す正面図である。
【図4】図3のパッド案内部材を右側からみた右側面図である。
【図5】パッド案内部材を図4中の矢示V−V方向からみた断面図である。
【図6】図2中のスプリング部材を単体として拡大して示す正面図である。
【図7】図6のスプリング部材を上方からみた平面図である。
【図8】図6のスプリング部材を左側からみた左側面図である。
【図9】図6のスプリング部材を右側からみた右側面図である。
【図10】図1中の回出側に位置するスプリング部材を単体として拡大して示す正面図である。
【図11】図10のスプリング部材を上方からみた平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態によるディスクブレーキを、添付図面に従って詳細に説明する。
【0013】
ここで、図1ないし図11は本発明の実施の形態を示している。図1および図2に示すディスク1は、例えば車両が前進方向に走行するときに、車輪(図示せず)と共に矢示A方向に回転する。取付部材を構成するキャリア2は、車両の非回転部分に取付けられるものである。
【0014】
このキャリア2は、図1に示すように、ディスク1の回転方向(周方向)に離間してディスク1の外周を跨ぐようにディスク1の軸方向に延びた一対の腕部2A,2Aと、該各腕部2Aの基端側を一体化するように接続して設けられ、ディスク1のインナ側となる位置で前記車両の非回転部分に固定される厚肉の支承部2B等とを有している。また、キャリア2には、ディスク1のアウタ側となる位置で腕部2A,2Aの先端側を互いに連結する補強ビーム2Cが図1、図2に示す如く一体に形成されている。
【0015】
キャリア2の各腕部2Aには、ディスクパス部(図示せず)の軸方向両側に位置して基端側(インナ側)と先端側(アウタ側)とに、それぞれパッドガイド3,3,…が設けられている。これらのパッドガイド3は、図1、図2に示す如くディスク1の軸方向に延びて断面コ字形状をなす凹溝として形成されている。また、パッドガイド3は、車両のブレーキ操作時に後述の摩擦パッド5がディスク1から受ける制動トルクを受承するトルク受部を兼用している。
【0016】
キャリア2には、キャリパ4が摺動可能に設けられている。該キャリパ4は、ディスク1の一側(インナ側)に設けられたインナ脚部(図示せず)と、キャリア2の各腕部2A間でディスク1の外周側を跨ぐように前記インナ脚部からディスク1の他側(アウタ側)へと延設されたブリッジ部4Aと、該ブリッジ部4Aの先端側(アウタ側)からディスク1の径方向内向きに延び、先端側が複数の爪部となったアウタ脚部4Bとにより構成されている。
【0017】
そして、キャリパ4の前記インナ脚部には、ピストンが摺動可能に挿嵌されるシリンダ(いずれも図示せず)が形成されている。また、前記インナ脚部には、図1中の左,右方向に突出する一対の取付部4C,4Cが一体に設けられ、これらの取付部4Cは、キャリパ4を摺動ピン(図示せず)を介してキャリア2の各腕部2Aに摺動可能に支持させる支持腕を構成するものである。
【0018】
インナ側,アウタ側の摩擦パッド5,5は、ディスク1の両面に対向して配置されている。これらの摩擦パッド5は、図1、図2に示す如く、ディスク1の周方向(回転方向)に延びる平板状の裏金6と、該裏金6の表面側に固着して設けられディスク1の表面に摩擦接触する摩擦材としてのライニング(図示せず)等とにより構成されている。摩擦パッド5の裏金6は、全体として扇形状をなす平板材により形成され、その長さ方向(ディスク1の周方向)両端側には嵌合部としての耳部6A,6Aが凸形状をなして設けられている。
【0019】
ここで、裏金6の各耳部6Aは、後述するパッド案内部材7の各案内板部11を介してキャリア2の各パッドガイド3内にそれぞれ摺動可能に挿嵌されている。そして、インナ側,アウタ側の摩擦パッド5は、ブレーキ操作時にキャリパ4によってディスク1の両面に押圧され、このときに裏金6の各耳部6Aがパッドガイド3に沿ってディスク1の軸方向に摺動変位するものである。
【0020】
また、摩擦パッド5(裏金6)の各耳部6Aには、後述するスプリング部材13,14の径方向ばね部13C,14Cが弾性的に当接し、これにより摩擦パッド5は、ディスク1の径方向外側へと常時付勢される。また、摩擦パッド5の裏金6には、各耳部6Aの基端(根元)側寄りに位置して左,右のカシメ部6B,6Bが設けられている。そして、後述のスプリング部材13,14は、これらのカシメ部6Bにより摩擦パッド5の裏金6に固定して取付けられる。
【0021】
一方、摩擦パッド5(裏金6)の各耳部6Aのうちディスク1の回出側(回転方向出口側)に位置する耳部6Aは、例えば車両のブレーキ操作時に摩擦パッド5がディスク1から受ける制動トルク(図1中の矢示A方向の回転トルク)により、キャリア2の回出側の腕部2A(パッドガイド3の底部)にパッド案内部材7の案内板部11を介して当接し続け、両者の当接面間でキャリア2によりブレーキ操作時の制動トルクは受承されるものである。
【0022】
また、裏金6の各耳部6Aには、図1、図2に示すようにディスク1の径方向外側(耳部6Aの上側)寄りとなる位置に略L字状をなす切欠き6A1 が形成されている。この切欠き6A1 は、後述するスプリング部材13の周方向ばね部13Dを取付けるための隙間を、パッド案内部材7の案内板部11と裏金6の耳部6Aとの間に形成するものである。なお、このような切欠き6A1 は、一対の耳部6Aのうちディスク1の回入側に位置する耳部6Aに設ければよいものであり、回出側の耳部6Aには設けなくてもよい。
【0023】
パッド案内部材7,7は、キャリア2の各腕部2Aと摩擦パッド5との間に配置され、キャリア2の各腕部2Aにそれぞれ取付けられている。そして、パッド案内部材7,7は、各腕部2Aの間でインナ側,アウタ側の摩擦パッド5を支持すると共に、摩擦パッド5の摺動変位を滑らかにするものである。パッド案内部材7は、図1〜図5に示す如く、ばね性を有するステンレス鋼板を打ち抜いた後にプレス加工等の手段を用いて折曲げることにより一体形成されている。これらの加工により、パッド案内部材7には、連結板部8、一対の案内板部11,11および座面板部12,12等が形成される。
【0024】
連結板部8は、図4に示すようにパッド案内部材7の各案内板部11等を連結している。該連結板部8は、ディスク1の外周側を跨ぐように軸方向に延びて形成され、その長さ方向両端側には、一対の平板部9,9がディスク1の径方向内向きに延びて一体形成されている。係合板部10は、一対の平板部9,9間に位置して連結板部8に一体形成されている。係合板部10は、腕部2Aのパッドガイド3に径方向内側から係合するようにキャリア2に取付けられる。これにより、パッド案内部材7は、キャリア2の腕部2Aに対してディスク1の軸方向で位置決めされる。
【0025】
案内板部11,11は、連結板部8の両端側に各平板部9を介して設けられている。該各案内板部11は、平板部9の先端側から略コ字状に折曲げられることにより形成されている。これらの案内板部11,11のうち一方の案内板部11は、図1、図2に示すようにアウタ側のパッドガイド3内に嵌合して取付けられ、他方の案内板部11は、インナ側のパッドガイド3に嵌合して取付けられるものである。
【0026】
案内板部11は、パッドガイド3の上,下の壁面(ディスク径方向の一側面、他側面)に対向する上面板11A,下面板11Bと、これらの上面板11A,下面板11B間をディスク1の径方向で連結するガイド底板11Cとにより構成されている。このガイド底板11Cは、平坦面状をなしてディスク1の径方向と軸方向とに延び、パッドガイド3の奥側壁面(底部)に当接される。
【0027】
また、案内板部11の下面板11Bは、後述するスプリング部材13の径方向ばね部13Cが弾性変形状態で当接される当接板部を構成している。そして、案内板部11の下面板11Bは、図2に示すように後述の径方向ばね部13Cをディスク1の径方向内側から支承し、これにより径方向ばね部13Cは、摩擦パッド5をディスク1の径方向外側に向けて弾性的に付勢し続けるものである。
【0028】
座面板部12,12は、図3〜図5に示すように基端側が案内板部11のガイド底板11Cに対して垂直となるようにL字状に折曲げられて一体形成されている。座面板部12の先端側は、キャリア2の腕部2Aから僅かに離間してディスク1の周方向外側(左,右方向の外側)に向けて延びる自由端となっている。座面板部12の自由端側は、図2に示すように後述の戻しばね部13Bよりも幅広な平板状に形成され、戻しばね部13Bが弾性変形状態で当接するときの受け座面を提供するものである。
【0029】
スプリング部材13,14は、図1に示す如く摩擦パッド5の裏金6にカシメ部6B,6Bにより固定して設けられている。スプリング部材13,14のうち一方のスプリング部材13は、図2に示す如く矢示A方向に回転するディスク1の回入側(回転方向入口側)に位置する腕部2A側のパッド案内部材7と摩擦パッド5との間に配設されている。他方のスプリング部材14は、図1に示す如く矢示A方向に回転するディスク1の回出側(回転方向出口側)に位置する腕部2A側のパッド案内部材7と摩擦パッド5との間に配設されている。
【0030】
ここで、回入側のスプリング部材13は、図6〜図9に示す如く、ばね性を有するステンレス鋼板を打ち抜いた後にプレス加工等の手段を用いて折曲げることにより一体形成されている。これらの加工により、スプリング部材13には、中央部に円形のカシメ孔13A1 が穿設された平板状の固定板部13Aと、該固定板部13Aの周縁側に一体形成され互いに異なる方向に向けて延びるように折曲げられた戻しばね部13B、径方向ばね部13Cおよび周方向ばね部13Dとが設けられている。
【0031】
スプリング部材13の固定板部13Aは、図2に示すように摩擦パッド5の裏金6にカシメ部6B(カシメ孔13A1 )を介して固定される。また、スプリング部材13の戻しばね部13Bは、固定板部13Aからディスク1の周方向へと斜めに延設され、その途中部分が図7に示すようにV字状に折曲げられている。
【0032】
即ち、スプリング部材13の戻しばね部13Bは、図2、図6〜図9に示すように、固定板部13Aからディスク1の軸方向に離間する方向に折曲げられ径方向ばね部13Cと周方向ばね部13Dとの間を斜めに傾斜して延びた延設部13B1 と、該延設部13B1 の先端側をキャリア2の腕部2A側(即ち、パッド案内部材7の座面板部12)側に向けて略V字状に折返して形成された折返し部13B2 と、該折返し部13B2 の先端側に位置しパッド案内部材7の座面板部12に弾性的に当接する当接部13B3 とにより構成されている。
【0033】
そして、スプリング部材13の戻しばね部13Bは、折返し部13B2 の先端側に位置する当接部13B3 が座面板部12の表面に弾性変形状態で当接することにより、摩擦パッド5(裏金6)をディスク1から離れる軸方向(戻し方向)に付勢し、例えば車両のブレーキ操作を解除したときに摩擦パッド5をディスク1から離れた待機位置まで安定して戻すように構成されている。
【0034】
また、スプリング部材13の径方向ばね部13Cは、固定板部13Aに対してディスク1の径方向内側となる位置に配置され、摩擦パッド5をディスク1の径方向外側(径方向一側)に向けて図2中の矢示B方向に常時付勢するものである。このため、径方向ばね部13Cは、図6〜図9に示す如く固定板部13Aの周縁部からL字状に折曲げて形成されディスク1の軸方向外側へと延びた延出部13C1 と、該延出部13C1 の先端側をディスク1の径方向内側に向けて略U字状または略C字状に折曲げて形成された折曲げ部13C2 と、該折曲げ部13C2 を介して延出部13C1 に一体形成され、該延出部13C1 とほぼ平行になってディスク1の軸方向に延びた径方向付勢部13C3 とにより構成されている。
【0035】
そして、スプリング部材13の径方向ばね部13Cは、径方向付勢部13C3 の自由端となる先端側がパッド案内部材7の案内板部11(下面板11B)に弾性変形状態で当接することにより、固定板部13A、カシメ部6Bを介して摩擦パッド5の耳部6Aをディスク1の径方向外側に向けて弾性的に付勢する。これにより、摩擦パッド5は、耳部6Aが案内板部11の上面板11Aに図2中の矢示B方向へと常に押付けられ、ディスク1の径方向でのガタツキが抑えられるものである。
【0036】
スプリング部材13の周方向ばね部13Dは、固定板部13Aに対してディスク1の周方向外側となる位置に配置され、摩擦パッド5をディスク1の周方向一側(回入側)から回出側に向けて図2中の矢示C方向に常時付勢するものである。このため、周方向ばね部13Dは、図6〜図9に示す如く固定板部13Aの周縁部からディスク1の軸方向外側へとL字状に折曲げると共に略U字状または略C字状に折返して形成され固定板部13Aよりもディスク1の周方向外側となる位置に配置された湾曲部13D1 と、該湾曲部13D1 の先端側に一体形成され固定板部13Aからディスク1の周方向外側に離間した状態でディスク1の軸方向に延びた周方向付勢部13D2 とにより構成されている。
【0037】
この場合、スプリング部材13の周方向ばね部13Dは、摩擦パッド5(裏金6)の耳部6Aに設けた切欠き6A1 内に周方向付勢部13D2 が挿入され、この周方向付勢部13D2 がパッド案内部材7の案内板部11(ガイド底板11C)と耳部6Aとの間をディスク1の軸方向に延びるように配置される。そして、周方向ばね部13Dの周方向付勢部13D2 は、案内板部11のガイド底板11Cに弾性変形状態で当接することにより、固定板部13A、カシメ部6Bを介して摩擦パッド5をディスク1の回転方向(図1、図2中の矢示C方向)へと弾性的に付勢する。これにより、摩擦パッド5は、一対の耳部6Aのうちディスク1の回出側(図1中の右方側)に位置する耳部6Aが案内板部11のガイド底板11Cに図1中の矢示C方向へと常に押付けられ、ディスク1の回転方向(周方向)でのガタツキが抑えられるものである。
【0038】
次に、他方のスプリング部材14は、ディスク1の回出側(図1中の右方側)に位置する腕部2A側のパッド案内部材7と摩擦パッド5との間に配設されている。そして、回出側のスプリング部材14は、図10、図11に示す如く、ばね性を有するステンレス鋼板を打ち抜いた後にプレス加工等の手段を用いて折曲げることにより一体形成され、前述した回入側のスプリング部材13とほぼ同様に構成されている。しかし、回出側のスプリング部材14は、回入側のスプリング部材13に設けた周方向ばね部13Dが廃止されている点で、その構成が異なるものである。
【0039】
即ち、回出側のスプリング部材14は、中央部に円形のカシメ孔14A1 が穿設された平板状の固定板部14Aと、該固定板部14Aの周縁側に一体形成され互いに異なる方向に向けて延びるように折曲げられた戻しばね部14B、径方向ばね部14Cとにより構成されている。そして、スプリング部材14の固定板部14Aは、図1に示すように摩擦パッド5の裏金6にカシメ部6B(カシメ孔14A1 )を介して固定される。また、スプリング部材14の戻しばね部14Bは、回入側のスプリング部材13の戻しばね部13Bと同様に構成され、延設部14B1 、折返し部14B2 および当接部14B3 を有している。
【0040】
また、スプリング部材14の径方向ばね部14Cは、回入側のスプリング部材13の径方向ばね部13Cと同様に構成され、延出部14C1 、折曲げ部14C2 および径方向付勢部14C3 を有している。そして、スプリング部材14の径方向ばね部14Cは、径方向付勢部14C3 の先端側がパッド案内部材7の案内板部11(下面板11B)に弾性変形状態で当接することにより、固定板部14A、カシメ部6Bを介して摩擦パッド5の耳部6Aをディスク1の径方向外側に向けて弾性的に付勢するものである。
【0041】
本実施の形態によるディスクブレーキは、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
【0042】
まず、車両のブレーキ操作時には、キャリパ4のインナ脚部(シリンダ)にブレーキ液圧を供給することによりピストンをディスク1に向けて摺動変位させ、これによってインナ側の摩擦パッド5をディスク1の一側面に押圧する。そして、このときにはキャリパ4がディスク1からの押圧反力を受けるため、キャリパ4全体がキャリア2の腕部2Aに対してインナ側に摺動変位し、アウタ脚部4Bがアウタ側の摩擦パッド5をディスク1の他側面に押圧する。
【0043】
これにより、インナ側とアウタ側の摩擦パッド5は、図1、図2中の矢示A方向に回転しているディスク1を、両者の間で軸方向両側から挟持することができ、ディスク1に制動力を与えることができる。そして、ブレーキ操作を解除したときには、前記ピストンへの液圧供給が停止されることにより、インナ側とアウタ側の摩擦パッド5がディスク1から離間し、再び非制動状態に復帰する。
【0044】
また、このようなブレーキ操作時、解除時(非制動時)に、摩擦パッド5の裏金6は、左,右の耳部6Aがスプリング部材13,14の径方向ばね部13C,14Cによりディスク1の径方向外側(図2中の矢示B方向)へと付勢されている。このため、裏金6の各耳部6Aは、キャリア2の各腕部2Aのうちパッドガイド3の上側壁面に各パッド案内部材7の案内板部11(上面板11A)を介して摺接するように押圧される。
【0045】
また、回入側のスプリング部材13に設けた周方向ばね部13Dは、回入側の腕部2Aに設けたパッドガイド3にパッド案内部材7の案内板部11(ガイド底板11C)を介して弾性変形状態で当接することにより、固定板部13A、カシメ部6Bを介して摩擦パッド5をディスク1の回転方向(図1、図2中の矢示C方向)に向けて常時付勢している。このため、摩擦パッド5(裏金6)の各耳部6Aのうちディスク1の回出側に位置する耳部6Aは、キャリア2の回出側の腕部2A(パッドガイド3の底部)にパッド案内部材7の案内板部11を介して当接し続け、両者の当接面間でキャリア2によりブレーキ操作時の制動トルクは受承される。
【0046】
これにより、摩擦パッド5が車両走行時の振動等でディスク1の径方向および回転方向または周方向にガタ付いたりするのを、スプリング部材13,14に設けた径方向ばね部13C,14Cと前記周方向ばね部13Dとの弾性力(付勢力)により規制することができる。
【0047】
そして、ブレーキ操作時には、摩擦パッド5がディスク1から受ける制動トルク(矢示A方向の回転トルク)を受け、このときには回出側の耳部6Aがキャリア2のパッドガイド3(トルク受部)にパッド案内部材7の案内板部11のガイド底板11Cを介して当接し続けるので、ブレーキ操作時の制動トルクを回出側の腕部2A(トルク受部)により受承することができる。また、ブレーキ操作時には、摩擦パッド5の各耳部6Aをパッドガイド3の上側壁面にパッド案内部材7の案内板部11の上面板11Aを介して摺接させた状態に保持することができると共に、インナ側,アウタ側の摩擦パッド5を案内板部11に沿ってディスク1の軸方向へと円滑に案内することができる。
【0048】
かくして、本実施の形態によれば、摩擦パッド5の裏金6には、一対の耳部6Aの近傍となる位置に夫々のカシメ部6Bにより固定された回入側,回出側のスプリング部材13,14を設け、これらのスプリング部材13,14には、摩擦パッド5の裏金6にカシメ部6Bを介して固定される固定板部13A,14Aの周縁部から互いに異なる方向に延びた戻しばね部13B,14B、径方向ばね部13C,14C等を一体に形成する構成としている。
【0049】
即ち、回入側のスプリング部材13には、図2に示すように摩擦パッド5の裏金6にカシメ部6B(カシメ孔13A1 )を介して固定される固定板部13Aと、該固定板部13Aからディスク1の周方向へと斜めに延設され先端側が座面板部12の表面に弾性変形状態で当接することにより、摩擦パッド5をディスク1から離れる軸方向に付勢する戻しばね部13Bと、固定板部13Aに対してディスク1の径方向内側となる位置に配置され摩擦パッド5をディスク1の径方向外側に向けて常時付勢する径方向ばね部13Cと、固定板部13Aに対してディスク1の周方向外側となる位置に配置され摩擦パッド5をディスク1の回入側から回出側に向けて常時付勢する周方向ばね部13Dとを一体に設ける構成としている。
【0050】
また、回出側のスプリング部材14は、回入側のスプリング部材13に設けた周方向ばね部13Dを除いて、回入側のスプリング部材13と同様に構成された固定板部14A、戻しばね部14Bおよび径方向ばね部14Cを有する構成としている。
【0051】
これにより、スプリング部材13,14の戻しばね部13B,14Bは、折返し部13B2 ,14B2 の先端側に位置する当接部13B3 ,14B3 が座面板部12の表面に弾性変形状態で当接することにより、摩擦パッド5(裏金6)をディスク1から離れる軸方向(戻し方向)に付勢することができ、例えば車両のブレーキ操作を解除したときに摩擦パッド5をディスク1から離れた待機位置まで安定した姿勢で戻すことができる。
【0052】
また、スプリング部材13,14の径方向ばね部13C,14Cは、摩擦パッド5の各耳部6Aをディスク1の径方向外側(図2中の矢示B方向)に向けて常時付勢することができる。これにより、摩擦パッド5の耳部6Aを案内板部11の上面板11Aに常に押付け、ディスク1の径方向での摩擦パッド5のガタツキを抑えることができると共に、摩擦パッド5の姿勢を安定させることができる。
【0053】
また、回入側のスプリング部材13には、固定板部13Aに対してディスク1の周方向外側となる位置に周方向ばね部13Dを一体に設けているため、スプリング部材13の固定板部13A、カシメ部6Bを介して摩擦パッド5をディスク1の回転方向(図1、図2中の矢示C方向)へと弾性的に付勢することができ、摩擦パッド5の一対の耳部6Aのうちディスク1の回出側に位置する耳部6Aを案内板部11のガイド底板11Cに常に押付けることにより、摩擦パッド5がディスク1の回転方向(周方向)でガタ付くのを良好に抑えることができる。
【0054】
そして、回入側のスプリング部材13には、戻しばね部13B、径方向ばね部13Cおよび周方向ばね部13Dを、固定板部13Aの周縁部から互いに異なる方向に延びるように形成しているため、スプリング部材13の戻しばね部13B、径方向ばね部13Cおよび周方向ばね部13Dが互いに干渉し合うことはなくなり、ディスクブレーキの小型、軽量化を図る上でレイアウト設計の自由度を高めることができる。
【0055】
また、回出側のスプリング部材14についても、戻しばね部14Bと径方向ばね部14Cとを固定板部14Aの周縁部から互いに異なる方向に延びるように形成しているため、スプリング部材14の戻しばね部14Bと径方向ばね部14Cとが互いに干渉し合うのを容易に防ぐことができ、ディスクブレーキの小型、軽量化を図る上でレイアウト設計の自由度を高めることができる。
【0056】
しかも、スプリング部材13,14の戻しばね部13B,14Bが弾性変形状態で当接する各座面板部12を、スプリング部材13,14とは別部材のパッド案内部材7に容易に設けることができ、座面板部12をパッド案内部材7に設ける上での設計の自由度を高めることができる。
【0057】
また、パッド案内部材7には、例えば特許文献2の従来技術で用いているパッドスプリングのように、摩擦パッドを径方向に付勢する径方向付勢部等を設ける必要がなくなるので、パッド案内部材7のディスク軸方向での寸法を小さくすることができ、これによっても座面板部12をパッド案内部材7に設ける上での設計の自由度を高めることができる。
【0058】
さらに、パッド案内部材7は、図1にも示すようにキャリア2の回入側の腕部2Aと回出側の腕部2Aとで共通部品として用いることができ、従来技術に比較して誤組付け等の発生を大幅に低減できると共に、部品点数を減らして組立て時の作業性を高めることができる。
【0059】
従って、本実施の形態によれば、ディスクブレーキの小型化を図ることができる上に、レイアウト設計の自由度を高めることができる。また、ブレーキ操作の解除時には、スプリング部材13,14に設けた戻しばね部13B,14Bの付勢力によって摩擦パッド5を待機位置へと円滑に戻すことができ、摩擦パッド5の戻り動作を安定させることができる。これにより、摩擦パッド5の偏摩耗等を低減することができ、パッドの引摺りやブレーキ鳴き等を防止することができる。
【0060】
なお、前記実施の形態では、スプリング部材13,14の戻しばね部13B,14Bをパッド案内部材7の座面板部12に当接させる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばパッド案内部材とは別部材で形成した座面板部をキャリア(取付部材)に固定して設け、この座面板部に対してスプリング部材13,14の戻しばね部13B,14Bを当接させる構成としてもよい。また、座面板部12等を用いることなく、スプリング部材13,14の戻しばね部13B,14Bを取付部材の端面(または、取付部材に形成した戻しばね部用の座面部)等に直接的に当接させる構成としてもよい。
【0061】
また、前記実施の形態では、キャリア2の腕部2Aに凹形状なすパッドガイド3を形成し、裏金6の嵌合部となる耳部6Aを凸形状に形成する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば摩擦パッドの裏金に凹形状をなす嵌合部を設け、取付部材の腕部には凸形状をなすパッドガイドを設ける構成としてもよいものである。
【0062】
また、前記実施の形態では、ディスク1のインナ側とアウタ側とに各平板部9、各案内板部11および各座面板部12等を有した所謂一体型のパッド案内部材7を用いる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばパッド案内部材7をディスク1のインナ側とアウタ側とで切り離したような形状をもつ2個のパッド案内部材を、ディスク1のインナ側、アウタ側にそれぞれ配設する構成としてもよい。
【0063】
上記実施の形態に含まれる発明においては、スプリング部材には、戻しばね部および径方向ばね部とは異なる方向に向けて延び摩擦パッドをディスクの回転方向一側へと付勢する周方向ばね部を一体に形成してなる構成としている。
【0064】
これにより、戻しばね部および径方向ばね部とは異なる方向に向けて延びる周方向ばね部により、摩擦パッドをディスクの回入側から回出側に向けて常に付勢することができる。しかも、スプリング部材の戻しばね部、径方向ばね部および周方向ばね部は互いに異なる方向に延びているため、これらが互いに干渉し合うのを容易に防ぐことができ、ディスクブレーキの小型、軽量化を図る上でレイアウト設計の自由度を高めることができる。
【0065】
上記実施の形態に含まれる発明においては、取付部材の腕部と摩擦パッドとの間には、パッドガイドに嵌合して取付けられ前記摩擦パッドをディスクの軸方向に変位可能に案内するパッド案内部材を設け、該パッド案内部材には、スプリング部材の径方向ばね部が弾性変形状態で当接される当接板部と、前記スプリング部材の戻しばね部が弾性変形状態で当接するときの受け座面となる座面板部とを設けている。
【0066】
これにより、パッド案内部材の当接板部は、スプリング部材の径方向ばね部をディスクの径方向他側(径方向の内側)から支承することができ、径方向ばね部13Cは、パッド案内部材の当接板部と摩擦パッドとの間に弾性変形状態で配置されることにより、摩擦パッドをディスクの径方向他側に向けて弾性的に付勢し続けることができる。また、スプリング部材の戻しばね部は、パッド案内部材の座面板部に弾性変形状態で当接することにより、摩擦パッドをディスクから軸方向に離間する方向の付勢力を発生することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 ディスク
2 キャリア(取付部材)
2A 腕部
3 パッドガイド
4 キャリパ
5 摩擦パッド
6 裏金
6A 耳部(嵌合部)
6B カシメ部
7 パッド案内部材
11 案内板部
11B 下面板(当接板部)
12 座面板部
13,14 スプリング部材
13A,14A 固定板部
13B,14B 戻しばね部
13C,14C 径方向ばね部
13D 周方向ばね部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクの外周側を軸方向に跨ぐ腕部を有し該腕部にパッドガイドが設けられた取付部材と、該取付部材に摺動可能に設けられたキャリパと、前記取付部材の腕部に前記パッドガイドを介して摺動可能に取付けられ該キャリパによりディスクの両面に押圧される一対の摩擦パッドとを備えたディスクブレーキにおいて、
該摩擦パッドには、当該摩擦パッドをディスクから離間する軸方向に付勢する戻しばね部と、該戻しばね部とは異なる方向に向けて延び前記摩擦パッドをディスクの径方向一側へと付勢する径方向ばね部とが一体に形成されたスプリング部材を固定して設ける構成としたことを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項2】
前記スプリング部材には、前記戻しばね部および径方向ばね部とは異なる方向に向けて延び前記摩擦パッドをディスクの回転方向一側へと付勢する周方向ばね部を一体に形成してなる請求項1に記載のディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−94696(P2011−94696A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248889(P2009−248889)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】