説明

ディスクブレーキ

【課題】生産性を向上させることができることができるディスクブレーキの提供。
【解決手段】摩擦パッド6は、ディスクに当接するライニング75と、ライニング75がライニング貼付面76に貼付され押圧手段からの押圧力が押圧力伝達面77に伝達される裏板78とからなり、シム板7の端部のうち、ディスクの半径方向外側寄りに位置する端部には係止爪102が形成され、係止爪102は、先端側に裏板78のライニング貼付面76に沿って延びてライニング貼付面76に当接する当接部117が形成され、基端側に裏板78の押圧力伝達面77から離間する方向に膨らむ膨出部130が形成される構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動を行なうためのディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
車両の制動を行なうためのディスクブレーキには、摩擦パッドの背面に配置されるシム板を摩擦パッドに係止するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−318301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のシム板は、ディスクの半径方向に締め代をもって摩擦パッドに係止されるようになっているため、締め代の精度を管理するシムと摩擦パッドとを製造する必要があり、ディスクブレーキの生産性の向上を図りにくいという問題がある。
【0005】
本発明は、生産性を向上させることができるディスクブレーキの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、シム板の係止爪が、先端側に裏板のライニング貼付面に沿って延びて該ライニング貼付面に当接する当接部が形成され、基端側に前記裏板の押圧力伝達面から離間する方向に膨らむ膨出部が形成される構成とした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ディスクブレーキの生産性を向上させることができることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキを示す平面図である。
【図2】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキを示す正面図である。
【図3】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキを示す側断面図である。
【図4】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキの摩擦パッドおよびシム板の係合状態を示すもので、(a)は平面図を、(b)は正面図を、(c)は(b)のX1−X1断面図を、(d)は背面図をそれぞれ示す。
【図5】本発明に係る第1実施形態のディスクブレーキのシム板を示すもので、(a)は平面図を、(b)は正面図を、(c)は下面図を、(d)は背面図を、(e)は側面図をそれぞれ示す。
【図6】本発明に係る第2実施形態のディスクブレーキの摩擦パッドおよびシム板の係合状態を示すもので、(a)は平面図を、(b)は正面図を、(c)は(b)のX2−X2断面図を、(d)は背面図をそれぞれ示す。
【図7】本発明に係る第2実施形態のディスクブレーキのシム板を示すもので、(a)は平面図を、(b)は正面図を、(c)は下面図を、(d)は背面図を、(e)は側面図をそれぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
「第1実施形態」
本発明に係る第1実施形態を図1〜図5を参照して以下に説明する。
【0010】
第1実施形態のディスクブレーキは、車両用、具体的には自動二輪車用のディスクブレーキである。図1〜図3に示すように、このディスクブレーキ1は、ディスク2と、キャリア3と、ディスク2を跨ぐようにキャリア3に支持されるキャリパ4とを有している。また、ディスクブレーキ1は、図3に示すように、二枚の摩擦パッド5,6と、一対の同形状のシム板7,7と、パッドスプリング9と、ブーツ11とを有しており、さらに、図1に示すようにブーツ12を有している。なお、図1,図2に示す矢印Rは、車両の前進時のディスク2の回転方向を示しており、この回転方向における入口側をディスク回入側、出口側をディスク回出側として以下説明を行う。また、ディスク2の軸線方向をディスク軸方向、ディスク2の半径方向をディスク半径方向、ディスク2の回転方向をディスク回転方向またはディスク周方向とする。
【0011】
図1,図2に示すように、ディスク2は円板状をなしており、ディスクブレーキ1の制動対象である車両の図示略の車輪に設けられて車輪と一体に回転する。
【0012】
キャリア3は、図1〜図3に示すマウンティングブラケット15と、マウンティングブラケット15に一体に固定される図3に示すガイドピン16と、マウンティングブラケット15に一体に固定される図1に示すトルク受けピン17とを有している。
【0013】
マウンティングブラケット15は、図1に示すようにディスク2の一面側であるアウタ側(車輪とは反対側)に配置されて、車両の非回転部(具体的にはフロントフォーク)に固定されるものである。マウンティングブラケット15は、図2に示すように、ディスク回転方向に延在するベース部21と、ベース部21のディスク回出側の端部からディスク半径方向外方に延出する径方向延出部22とを有している。ベース部21には、ディスク回出側の端部に取付穴23が、ディスク回入側の中間位置に取付穴24が、それぞれディスク軸方向に貫通して形成されている。キャリア3は、上記した取付穴23,24において図示略の取付ボルトによって車両の非回転部に固定される。
【0014】
マウンティングブラケット15には、ベース部21のディスク回入側の端部に、ガイドピン取付穴28が、図3に示すようにディスク軸方向に貫通して形成されている。また、マウンティングブラケット15には、図1に示すように、径方向延出部22のディスク半径方向外側の端部にトルク受けピン取付穴29がディスク軸方向に貫通して形成されている。
【0015】
ガイドピン16は、図3に示すように、軸方向一端から順に、固定軸部32と、固定軸部32より大径のフランジ部33と、フランジ部33よりも小径のガイド軸部34とを有している。ガイドピン16は、全体的にディスク2とは反対側(アウタ側)に突出するようにして、その固定軸部32がマウンティングブラケット15のガイドピン取付穴28に嵌合固定されている。このようにマウンティングブラケット15に取り付けられた状態で、ガイドピン16は、ディスク軸方向に沿って、マウンティングブラケット15からディスク2とは反対側に突出する。
【0016】
トルク受けピン17は、図1に示すように、軸方向一端から順に、トルク受け軸部38と、固定軸部39と、ガイド軸部40とを有している。トルク受けピン17は、固定軸部39がマウンティングブラケット15のトルク受けピン取付穴29に嵌合固定されている。このようにマウンティングブラケット15に取り付けられた状態で、トルク受けピン17は、その中心が、ディスク2よりも径方向外側に配置されており、ディスク軸方向に沿う状態で、一方のトルク受け軸部38側がディスク2側にディスク2を跨いで延出し、他方のガイド軸部40側がディスク2とは反対側に延出する。トルク受けピン17は、キャリア3におけるディスク回出側に配置され、図2に示すようにガイドピン16よりもディスク回出側かつディスク半径方向外側に配置されている。
【0017】
キャリパ4は、図1に示すように、トルク受けピン17のガイド軸部40と、図3に示すようにガイドピン16のガイド軸部34とで、キャリア3に対しディスク軸方向に摺動可能に支持されるものであり、いわゆるピンスライド型のキャリパとなっている。キャリパ4は、図2に示すように、キャリパボディ45と、二つのピストン(押圧手段)46,46と、パッドピン47とを有している。
【0018】
キャリパボディ45は、アルミニウム合金等から鋳造により一体成形された後、切削加工されることで形成されるもので、図1〜図3に示すようにディスク2を跨いだ状態で、キャリア3の図1に示すトルク受けピン17および図3に示すガイドピン16に摺動可能に取り付けられている。キャリパボディ45は、キャリア3のアウタ側に配置されるシリンダ部50と、シリンダ部50のディスク半径方向外側からディスク2の径方向外側を越えるようにインナ側に延出するブリッジ部51と、ブリッジ部51のインナ側の端部からシリンダ部50に対向するようにディスク2の径方向内側に延出する爪部(押圧手段)52とを有している。
【0019】
図2に示すように、シリンダ部50には、ディスク周方向の中間位置からディスク半径方向内方に突出するようにして摺動案内部56が形成されており、また、ディスク半径方向外側からディスク回出側に突出するようにして摺動案内部57が形成されている。摺動案内部56には、図3に示すガイドピン支持穴58がディスク軸方向に貫通して形成されており、図1に示す摺動案内部57には、トルク受けピン支持穴59がディスク2側からディスク軸方向の途中位置まで形成されている。
【0020】
図3に示すように、シリンダ部50のガイドピン支持穴58には、上記したブーツ11が嵌合されており、摺動案内部56は、このブーツ11を介してガイドピン16のガイド軸部34に摺動可能に支持される。また、図1に示すように、シリンダ部50のトルク受けピン支持穴59には、トルク受けピン17のガイド軸部40が嵌合されており、摺動案内部57は、このトルク受けピン17のガイド軸部40に摺動可能に支持される。
【0021】
なお、摺動案内部56および摺動案内部57は、ガイドピン16およびトルク受けピン17が内部に挿入されることで摺動案内するものであるが、これに限らず、摺動案内部56および摺動案内部57をピン形状として、キャリア3側にこれらを摺動可能に嵌合させる孔を設けるようにしてもよい。
【0022】
図3に示すブーツ11は、ゴム製であり、ガイドピン16のフランジ部33およびガイド軸部34を覆うものである。ブーツ11は、ガイドピン16のフランジ部33に係止される係止部62と、伸縮自在の蛇腹部63と、ガイドピン支持穴58に嵌合される筒状部64と、ガイド軸部34のフランジ部33とは反対側を覆う蓋部65とを有している。ブーツ11は、筒状部64でキャリパ4のガイドピン支持穴58に嵌合保持されるとともに、筒状部64の内側にキャリア3のガイドピン16のガイド軸部34を摺動可能に嵌合させる。蛇腹部63はキャリパ4の摺動案内部56とマウンティングブラケット15との間で伸縮する。
【0023】
図1に示すブーツ12も、ゴム製であり、トルク受けピン17のガイド軸部40のマウンティングブラケット15とキャリパ4の摺動案内部57との間を覆う。ブーツ12は、伸縮自在となるように蛇腹状をなしている。
【0024】
以上により、キャリパボディ45は、キャリア3に設けられたガイドピン16およびトルク受けピン17によってディスク軸方向に沿って摺動可能に支持されることになる。
【0025】
図2,図3に示すように、シリンダ部50には、爪部52側に向かって開口するようにディスク軸方向に沿って、二つの有底のボア68,68がディスク回転方向に並んで形成されている。図2に示すように、これらボア68,68の間には、これらに連通する配管接続穴69がディスク半径方向に沿って形成されており、この配管接続穴69に図示略のブレーキ配管が接続される。また、シリンダ部50のディスク回出側には、ボア68に連通するエア抜き用のブリーダプラグ70が取り付けられている。
【0026】
ピストン46,46は、図2に示すように、シリンダ部50のボア68,68に摺動可能に嵌合される。この嵌合状態で、ピストン46,46は、キャリパボディ45に対しディスク回転方向に並んで配置される。
【0027】
図1,図2に示すように、シリンダ部50のディスク軸方向のブリッジ部51側には、ディスク半径方向外側においてディスク回入側に突出する回入側突出部71が形成されており、爪部52のディスク軸方向のブリッジ部51側にも、ディスク半径方向外側においてディスク回入側に突出する回入側突出部72が形成されている。
【0028】
パッドピン47は、図1に示すように、キャリパボディ45の回入側突出部71および回入側突出部72に設けられたディスク軸方向に延びる図示略の貫通孔に嵌合されるものであり、この嵌合状態で回入側突出部71および回入側突出部72の間で延在している。パッドピン47は、ディスク軸方向に沿っており、ディスク2よりもディスク半径方向外側かつブリッジ部51よりもディスク回入側において、ディスク2を跨ぐように配置されている。
【0029】
摩擦パッド5,6は、ディスク2の両面に配置されて、トルク受けピン17のトルク受け軸部38とパッドピン47とに支持される。図3に示すように、摩擦パッド5は、ディスク2の一面側であるアウタ側つまりピストン46側に配置されてピストン46により押圧される。摩擦パッド6は、ディスク2の他面側であるインナ側つまり爪部52側に配置されて爪部52により押圧される。摩擦パッド5,6は、いずれも、ディスク2に当接して摩擦抵抗を発生させるライニング75と、このライニング75がライニング貼付面76に貼付され、ピストン46および爪部52の対応する一方からの押圧力がライニング貼付面76とは反対の押圧力伝達面77に伝達される裏板78とを有している。
【0030】
一対のシム板7,7のうちの一方は、キャリパ4に設けられたピストン46と、このピストン46によりディスク2に押圧される一方の摩擦パッド5の押圧力伝達面77との間に位置しており、この一方の摩擦パッド5に係止されている。一対のシム板7,7のうちの他方は、キャリパ4に設けられた爪部52と、この爪部52によりディスク2に押圧される他方の摩擦パッド6の押圧力伝達面77との間に位置しており、この他方の摩擦パッド6に係止されている。シム板7,7には、それぞれの裏板78側にシート材80が貼付されており、シート材80が裏板78の押圧力伝達面77に当接する。
【0031】
上記した摩擦パッド5および摩擦パッド6は、ディスク回転方向に略対称の形状をなす以外は同様の構成であるため、以下においては、一方の爪部52側の摩擦パッド6とこれに係止されるシム板7とを例にとり説明する。
【0032】
摩擦パッド6の裏板78は、図4に示すように、ライニング75が固着される主板部81と、この主板部81のディスク半径方向外側(図4(b)の上側)のディスク回出側(図4(b)の左側)から、ディスク回出側且つディスク半径方向外方に斜めに突出する端部突出部82と、主板部81のディスク半径方向外側のディスク回入側(図4(b)の右側)から、ディスク回入側且つディスク半径方向外方に斜めに突出する端部突出部83とを有している。
【0033】
主板部81のディスク半径方向外側の縁部は、ディスク半径方向外方に凸の円弧状の外側縁面部87となっており、裏板78は、外側縁面部87の端部突出部82側および端部突出部83側からそれぞれ径方向外側に突出する一対の突起部85,85を有している。主板部81のディスク半径方向内側の縁部は、ディスク回転方向の中間部がディスク半径方向外方に凹の円弧状の内側縁面部88となっており、内側縁面部88のディスク回転方向両側は、ディスク回転方向に離れるほどディスク半径方向外側に位置するように傾斜する一対の傾斜面部89,89となっている。これら外側縁面部87、内側縁面部88および傾斜面部89,89は、ディスク軸方向に沿っている。
【0034】
ディスク回出側の端部突出部82には、正方形状に近似する角が丸い角形状の挿通孔94がディスク軸方向に貫通して形成されている。摩擦パッド6のこのディスク回出側の挿通孔94に、トルク受けピン17のトルク受け軸部38が挿通される。
【0035】
端部突出部83には、ディスク周方向に沿って長い係合孔95がディスク軸方向に貫通して形成されている。摩擦パッド6のこのディスク回入側のこの係合孔95に、パッドピン47が挿通されることになる。
【0036】
裏板78は、一定厚さの鋼板がプレス成形によって厚さ方向に打ち抜かれることで形成されるものであり、板厚方向に沿う、上記した外側縁面部87、内側縁面部88および傾斜面部89,89は、プレス成形の剪断面となっている。
【0037】
シム板7は、図5に示すように、そのディスク回転方向(図5(a)〜(d)の左右方向)の中央を通るディスク半径方向の線(以下、中央半径線)を中心とした鏡面対称の形状をなしており、平面状の主板部101と、この主板部101のディスク回転方向の両端部に形成された一対の係止爪102,102と、主板部101のディスク半径方向外側(図5(b),(d)の上側)に、ディスク回転方向に離間して形成された一対の外側規制爪103,103と、主板部101のディスク半径方向内側(図5(b),(d)の下側)に、ディスク回転方向に離間して形成された一対の内側規制爪104,104とを有している。
【0038】
一対の係止爪102,102は全体として、シム板7の端部のうち、ディスク半径方向の外側寄りに位置する端部に形成されている。一対の係止爪102,102は、それぞれ、主板部101のディスク回転方向の対応する側縁部のディスク半径方向の中間位置からディスク回転方向の主板部101とは反対側に主板部101と同一平面内で突出する平面状の基板部114と、基板部114のディスク半径方向の外側の縁部からディスク半径方向外方に、外方ほどディスク軸方向の一側(図5(e)の右側)に位置するように斜めに延出する平面状の延出板部115と、この延出板部115の基板部114とは反対側の端部からディスク軸方向の他側(図5(e)の左側)に延出する平面状の中間板部116と、中間板部116の延出板部115とは反対側の端部からディスク半径方向内方に主板部101と平行に延出する平面状の当接板部(当接部)117と、当接板部117の中間板部116とは反対側の端部からディスク半径方向内方に、内方ほどディスク軸方向の他側に位置するように斜めに延出する平面状の先端板部118とを有している。ディスク軸方向から見た場合、延出板部115、当接板部117および先端板部118は、上記した中央半径線と平行をなす。また、一対の係止爪102,102の中間板部116,116は、同一平面に配置されている。
【0039】
一対の外側規制爪103,103は、それぞれ、主板部101のディスク半径方向外側からディスク半径方向外方に主板部101と同一平面内で突出する外側突出板部121と、外側突出板部121の主板部101とは反対側の端部からディスク軸方向の他側に突出する外側規制板部122とを有している。
【0040】
一対の内側規制爪104,104は、それぞれ、主板部101のディスク半径方向内側からディスク半径方向内方に主板部101と同一平面内で突出する内側突出板部125と、内側突出板部125の主板部101とは反対側の端部からディスク軸方向の他側に突出する内側規制板部126とを有している。
【0041】
ここで、上記した中央半径線の延在方向において、係止爪102の外端位置つまり中間板部116の位置は、外側規制爪103の外端位置つまり外側規制板部122の位置よりもディスク半径方向内側に位置している。また、一対の外側規制爪103,103の間隔は、一対の内側規制爪104,104の間隔よりも広くなっている。
【0042】
このようなシム板7が、図4に示すように、摩擦パッド6に係止される。その際に、一対の係止爪102,102の基板部114,114および延出板部115,115と、当接板部117,117および先端板部118,118との間に裏板78が挿入される。この係止状態で、シム板7は、主板部101および基板部114,114が、摩擦パッド6の主板部81を覆うように裏板78の押圧力伝達面77に対向することになり、主板部101に貼付されたシート材80が押圧力伝達面77に当接する。また、延出板部115,115が、基板部114,114とは反対側ほど押圧力伝達面77からディスク軸方向に離間するように傾斜しつつ押圧力伝達面77に対向することになり、中間板部116,116が裏板78の外側縁面部87に対向することになって、当接板部117,117が裏板78のライニング貼付面76と平行に延びてこのライニング貼付面76に面接触で当接することになる。加えて、先端板部118,118がライニング貼付面76から離間する方向に斜めに延出することになる。
【0043】
また、上記の係止状態で、一対の外側規制爪103,103の外側規制板部122,122が裏板78の外側縁面部87に対向することになり、一対の内側規制爪104,104の内側規制板部126,126が裏板78の内側縁面部88に対向することになって、シム板7のディスク半径方向の移動を規制する。
【0044】
さらに、上記の係止状態で、延出板部115,115および中間板部116,116の延出板部115,115側の一部が、裏板78の押圧力伝達面77から離間する方向に膨らむように折れ曲がる膨出部130,130を構成する。これら膨出部130,130は、一対の係止爪102,102の基端側に形成されており、上記した当接板部117,117は、一対の係止爪102,102の先端側に形成されている。
【0045】
以上に述べた第1実施形態によれば、シム板7は、主板部101に貼付されたシート材80で裏板78の押圧力伝達面77に当接し、係止爪102,102の先端側の当接板部117,117で裏板78のライニング貼付面76に当接することになる。そして、係止爪102,102の基端側の押圧力伝達面77から離間する方向に膨らむ膨出部130,130が、当接板部117,117に適正な付勢力を付与することになる。
【0046】
上記したように、係止爪102,102が、裏板78の寸法精度が比較的高く面粗度も細かいライニング貼付面76および押圧力伝達面77に係止されるため、裏板78の剪断面であって寸法精度が比較的低く面粗度が粗い外側縁面部87および内側縁面部88に係止される場合と比べて、締め代の管理が容易となる。しかも、係止爪102,102の撓み寸法を長くとれるため、ばね定数が小さくなり、この点からも締め代の管理が容易となる。したがって、ディスクブレーキ1の生産性を向上させることができる。また、組み付け性のバラツキを抑えることができる。
【0047】
また、係止爪102,102のばね定数を小さくできるため、破損に対する信頼性が向上する。加えて、ディスク軸方向に締め代をもっているためシム板7の裏板78への密着度を高めることができる。よって、ブレーキ操作のフィーリングを向上できるとともに、引き摺りを低減できる。加えて、先端板部118がライニング貼付面76を基準として延出するため、ライニング75の所定量以上の摩耗時にディスク2に接触して音を発生させる摩耗センサとして正確に機能する。
【0048】
なお、以上では、爪部52側の摩擦パッド6とこれに係止される一方のシム板7とを例にとり説明したが、ピストン46側の摩擦パッド5とこれに係止される他方のシム板7とについても同様である。
【0049】
「第2実施形態」
次に、第2実施形態を主に図6および図7に基づいて第1実施形態との相違部分を中心に説明する。なお、第1実施形態と共通する部位については、同一称呼、同一の符号で表す。
【0050】
第2実施形態においては、第1実施形態と一部相違する二枚の摩擦パッドおよび一対のシム板が用いられている。第2実施形態においても、第1実施形態と同様、爪部52側の一方の摩擦パッド6Aとこれに係止される一方のシム板7Aとを例にとって説明する。
【0051】
図6に示すように、摩擦パッド6Aの裏板78Aは、外側縁面部87の一対の突起部85,85のディスク回転方向の両外側からそれぞれ径方向外側に突出する一対の係止突起部100A,100Aを有している。
【0052】
シム板7Aは、図7に示すように、第1実施形態と同様、中央半径線を中心とした鏡面対称の形状をなしており、第1実施形態と同様の主板部101と一対の外側規制爪103,103と一対の内側規制爪104,104とを有している。第2実施形態のシム板7Aは、主板部101のディスク回転方向の両端部に形成された一対の係止爪102A,102Aが第1実施形態と相違している。
【0053】
一対の係止爪102A,102Aも全体として、シム板7Aの端部のうち、ディスク半径方向の外側寄りに位置する端部に形成されている。一対の係止爪102A,102Aは、それぞれ、主板部101のディスク回転方向の対応する側縁部のディスク半径方向の中間位置からディスク回転方向の主板部101とは反対側に主板部101と同一平面で突出する平面状の基板部114Aと、基板部114Aのディスク半径方向の外側の縁部からディスク半径方向外方に、外方ほどディスク軸方向の一側(図5(e)の右側)に位置するように斜めに延出する延出板部115Aと、この延出板部115Aの基板部114とは反対側の外側規制爪103側の縁部からディスク軸方向の他側(図5(e)の左側)に延出する平面状の中間板部116Aと、中間板部116Aの延出板部115Aとは反対側の端部からディスク回転方向の外側規制爪103側に主板部101と平行に延出する平面状の当接板部(当接部)117Aと、当接板部117Aの中間板部116Aとは反対側の端部からディスク回転方向の外側規制爪103側に、先方ほどディスク軸方向の他側に位置するように斜めに延出する平面状の先端板部118Aとを有している。
【0054】
このようなシム板7Aが、図6に示すように、摩擦パッド6Aに係止される。その際に、一方の係止爪102Aの基板部114Aおよび延出板部115Aと、当接板部117Aとの間に、裏板78の一方の突起部100Aが挿入され、他方の係止爪102Aの基板部114Aおよび延出板部115Aと、当接板部117Aとの間に、裏板78の他方の突起部100Aが挿入される。この係止状態で、シム板7Aは、主板部101および基板部114A,114Aが、摩擦パッド6の主板部81を覆うように裏板78の押圧力伝達面77に対向することになり、主板部101に貼付されたシート材80が押圧力伝達面77に当接する。また、延出板部115A,115Aが、基板部114A,114Aとは反対側ほど押圧力伝達面77からディスク軸方向に離間するように傾斜しつつ押圧力伝達面77に対向することになり、中間板部116A,116Aが裏板78の外側縁面部87を越えることになって、当接板部117A,117Aが裏板78のライニング貼付面76と平行に延びて係止突起部100A,100Aのライニング貼付面76に面接触で当接することになる。加えて、先端板部118A,118Aがライニング貼付面76から離間する方向に斜めに延出する。
【0055】
上記の係止状態で、延出板部115A,115Aおよび中間板部116A,116Aの延出板部115A,115A側の一部が、裏板78の押圧力伝達面77から離間する方向に膨らむように折れ曲がる膨出部130A,130Aを構成する。これら膨出部130A,130Aは、一対の係止爪102A,102Aの基端側に形成されており、上記した当接板部117A,117Aは、一対の係止爪102A,102Aの先端側に形成されている。
【0056】
以上に述べた第2実施形態によれば、シム板7Aは、主板部101に貼付されたシート材80で裏板78の押圧力伝達面77に当接し、係止爪102A,102Aの先端側の当接板部117A,117Aで裏板78の係止突起部100A,100Aのライニング貼付面76に当接することになり、その際に、係止爪102A,102Aの基端側の押圧力伝達面77から離間する方向に膨らむ膨出部130A,130Aが、当接板部117A,117Aに適正な付勢力を付与することになる。このとき、ライニング貼付面76側に配置される係止爪102A,102Aの当接板部117A,117Aおよび先端板部118A,118Aがディスク2よりもディスク半径方向外側に位置することになり、よって、ライニング75が摩耗しても係止爪102A,102Aがディスク2に接触することがなく、ライニング75を有効に使い切ることができる。
【0057】
なお、以上では、爪部52側の摩擦パッド6Aとこれに係止されるシム板7Aとを例にとり説明したが、ピストン46側の摩擦パッドとこれに係止されるシム板7Aとについても同様である。
【0058】
また、以上の第1,第2実施形態においては、自動二輪車用のディスクブレーキを例にとり説明したが、摩擦パッドにシム板を係止するものであれば、四輪自動車用のディスクブレーキ等、他の種々のディスクブレーキにも適用可能である。
【0059】
本実施形態のディスクブレーキは、キャリパに設けられる押圧手段と、該押圧手段によりディスクに押圧される摩擦パッドと、該摩擦パッドと前記押圧手段との間に位置して前記摩擦パッドに係止されるシム板とを有するディスクブレーキにおいて、前記摩擦パッドは、前記ディスクに当接するライニングと、該ライニングがライニング貼付面に貼付され前記押圧手段からの押圧力が押圧力伝達面に伝達される裏板とからなり、前記シム板の端部のうち、前記ディスクの半径方向外側寄りに位置する前記ディスクの回転方向端部には係止爪が形成され、該係止爪は、先端側に前記裏板の前記ライニング貼付面に沿って延びて該ライニング貼付面に当接する当接部が形成され、基端側に前記裏板の前記押圧力伝達面から離間する方向に膨らむ膨出部が形成されている構成となっている。
【0060】
このような構成により、シム板の係止爪の当接部が、裏板において寸法精度が比較的高く面粗度も細かいライニング貼付面に当接して、係止爪の膨出部によって当該当接部がライニング貼付面に押圧されることで、シム板が、ライニング貼付面および押圧力伝達面で係止される。このため、裏板の剪断面であって寸法精度が比較的低く面粗度が粗い外側縁面部および内側縁面部に係止される場合と比べて、シム板の締め代の管理が容易となる。しかも、係止爪の撓み寸法を長くとれるため、ばね定数が小さくなり、この点からも締め代の管理が容易となる。したがって、ディスクブレーキの生産性を向上させることができる。また、組み付け性のバラツキを抑えることができる。
【0061】
本実施形態のディスクブレーキは、前記係止爪が、前記裏板のディスク半径方向外側の縁部を跨いで、前記押圧力伝達面から前記ライニング貼付面に延びて形成されている。
【符号の説明】
【0062】
1 ディスクブレーキ
2 ディスク
4 キャリパ
5,6 摩擦パッド
7 シム板
75 ライニング
76 ライニング貼付面
77 押圧力伝達面
78 裏板
102,102A 係止爪
117,117A 当接板部(当接部)
130,130A 膨出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリパに設けられる押圧手段と、
該押圧手段によりディスクに押圧される摩擦パッドと、
該摩擦パッドと前記押圧手段との間に位置して前記摩擦パッドに係止されるシム板とを有するディスクブレーキにおいて、
前記摩擦パッドは、前記ディスクに当接するライニングと、該ライニングがライニング貼付面に貼付され前記押圧手段からの押圧力が押圧力伝達面に伝達される裏板とからなり、
前記シム板の端部のうち、前記ディスクの半径方向外側寄りに位置する前記ディスクの回転方向端部には係止爪が形成され、
該係止爪は、先端側に前記裏板の前記ライニング貼付面に沿って延びて該ライニング貼付面に当接する当接部が形成され、基端側に前記裏板の前記押圧力伝達面から離間する方向に膨らむ膨出部が形成されていることを特徴とするディスクブレーキ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−113420(P2013−113420A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262868(P2011−262868)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】