説明

ディスク記録再生装置

【課題】 光ディスクの取り外しおよび再搭載を行っても、接触ピンとディスク電極との接続信頼性を十分確保することができるディスク記録再生装置を実現する。
【解決手段】 多層光ディスクと、ディスク表面に設けた複数のディスク電極と、ディスクを保持するディスク保持部と、ディスク電極と電気的に接触するためにディスク保持部表面に設けた複数のディスク保持部電極とを有し、ディスク電極とディスク保持部電極の接触面を清浄に保つために必要な振動力をディスクまたはディスク保持部に発生させるための振動手段を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ディスクの記録再生装置に関し、特に層選択型多層光ディスクなどの電力供給を必要とする光ディスクに好適なディスク記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来光ディスクの高記録密度化は、光の短波長化により光スポットを小さくすることで達成されてきた。しかし近年、光源の短波長化は限界に近づいている。そこで光の直進性と透過性とを活かした多層光記録方式が検討されている。
【0003】
例えば特許文献1には、エレクトロクロミック材料を用いた層選択型多層光ディスクが開示されている。記録または再生を行いたい層に所定の電流を供給すると、記録層が透明状態から着色状態に変化し、記録光または再生光に対する光の吸収および反射が増加して、記録または再生が可能になる。
【0004】
また、特許文献2でも、エレクトロクロミック材料を用いた層選択型多層光ディスクを用いれば、光記録装置の高記録密度化を実現できることが開示されている。ポリカーボネート基板上において、記録層を透明電極ではさんだ構造を複数積層した光ディスクの記録または読み出しを行いたい層に所定の電圧を印加すると、記録層が透明状態から着色状態に変化し、記録光、再生光に対する吸収及び反射が増加して、記録や再生が可能になる。光が照射された場所は変質して透明状態となり、情報として記録される。電圧を印加した層以外は全て透明なので、電圧を印加した特定の層のみの記録・再生が可能になる。
【0005】
【特許文献1】特開2003−346278号公報
【特許文献2】特開2004−310912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図9に従来の層選択型多層光ディスクの記録再生装置の断面図を示す。
【0007】
ディスク1の内周領域には、記録層に電流を供給するための引き出し電極が形成されている。固定盤3の表面には、上記引き出し電極に対応する位置に上下方向に伸縮可能なバネ性を有する複数の接触ピン4が設置されている。
【0008】
図10にディスク1表面のディスク電極と接触ピン4との接続構造を示す。ディスク1の内部には透明電極層30、32、34、および固体電解質を含むエレクトロクロミック材料からなる記録層31、33が形成されている。透明電極層30、32、34の端部にニッケル/金などの金属から構成されたディスク電極35、36、37が形成されている。ここでは2つの記録層からなる光ディスクを示しているが、3つ以上の記録層で構成されていても良い。
【0009】
一方、固定盤3の下面には回路基板6が設置されている。回路基板6には電流源回路と切り替え回路が設けられており、伸縮可能なバネ性を有する接触ピン41、42、43がディスク電極35、36、37と接触することで、所望のエレクトロクロミック材料からなる記録層31、33に電流を供給することができる。
【0010】
図11に、接触ピンとディスク電極とが正しく接触しているときの電気的等価回路を示す。電流源回路は直流電圧V1およびV2を生成し、切り替え回路によりスイッチS1およびS2を開閉することで、所望の記録層の負荷抵抗L1またはL2に電流を供給する。
【0011】
光ディスクによる記録方式はディスクの取り外しが可能であることが大きな特徴である。安価な媒体のみを交換することにより、大容量データを低コストで保存することができる。しかし給電を必要とする光ディスクでは、ディスクを交換するたびに接触ピン41、42、43の表面が外部に露出する。
【0012】
一般に光ディスクの記録再生装置は、外部から浸入した塵埃がディスクに多少付着しても記録再生できる方式なので、気密封止されていない場合が多い。このため外部から浸入した塵埃が接触ピン41、42、43の表面に付着する可能性が高い。新たにディスクを搭載する場合、接触ピンに付着した塵埃が電気的絶縁体として働くため、接触ピン41、42、43とディスク電極35、36、37との接点で導通不良が発生する可能性がある。
【0013】
また、外部から侵入した水蒸気や酸化性ガスが、接触ピン41、42、43の表面の金属と反応して酸化物層を生成することもある。酸化物層も電気的絶縁体として働くため、ディスク電極35、36、37との接点で導通不良が発生する可能性がある。
【0014】
この結果、層選択に必要な電流を供給することができなくなり、記録再生が不可能となる場合がある。
【0015】
本発明の目的は、光ディスクの取り外しおよび再搭載を行っても、接触ピンとディスク電極との接続信頼性を十分確保することができるディスク記録再生装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のディスク記録再生装置は、複数の記録層を有するディスクと、記録層に電力を供給するために前記ディスク表面に設けた複数のディスク電極と、ディスクを保持するディスク保持部と、ディスク電極と電気的に接触するためにディスク保持部表面に設けた複数のディスク保持部電極と、ディスク保持部を回転可能に支持する回転体と、回転体を回転軸の周りに回転駆動するディスク駆動部と、前記ディスクの所望の記録層に対して記録再生を行う記録再生ヘッドと、記録再生ヘッドを駆動する記録再生ヘッド駆動部とを有し、前記ディスク電極とディスク保持部電極の接触面を清浄に保つために必要な振動力をディスクまたはディスク保持部に発生させるための振動手段を有する。
【0017】
これによりディスク電極とディスク保持部電極に一度付着した塵埃や酸化物層が接触面から除去されるので、清浄な接触面により低抵抗で安定した電気的接触を実現できる。
【0018】
また上記の振動力を必要最小限に制御する制御手段を有することにより、過度の摺動に伴うディスク電極やディスク保持部電極の損傷を最小限に抑えられる。
【0019】
またディスク電極とディスク保持部電極とを密着させるための保持力を発生するディスク保持手段とディスク保持力を制御する手段を設けても良い。これにより電極の接触面の摺動に必要な振動力を必要最小限にすることができ、装置の消費電力を低減できる。
【0020】
またディスクおよびディスク保持部を振動させるために、ディスク駆動部が発生する回転モーメントの加速または減速を利用しても良い。あるいは記録再生ヘッド駆動部の加速または減速を利用しても良い。新たな振動子やその駆動回路を追加する必要がないので装置の低コスト化と高信頼化に寄与する。
【0021】
また回転軸に対して固定された非可動部と、ディスクを保持し前記非可動部に対して移動可能な可動部と、前記可動部を前記非可動部に対して移動させるアクチュエータを有し、
前記アクチュエータによりディスク保持部を振動させるディスク振動手段を用いても良い。これによりディスク電極とディスク保持部電極との接点の近傍に振動手段を設置できるので、振動に必要な運動エネルギーが最小限となり、装置の低消費電力化に寄与する。
【0022】
またディスク電極とディスク保持部電極の間の接触抵抗を測定する回路を有し、その接触抵抗測定結果を用いて前記振動力および前記ディスク保持力を制御しても良い。このような制御により、接触抵抗が十分低い場合に不必要に摺動を加えて電極表面を損傷することがなくなり、装置の高信頼化と低消費電力化に寄与する。
【0023】
また上記接触抵抗を測定する回路として4端子法を用いれば、高精度で接触抵抗を評価できる。微小な接触抵抗の上昇を感知して振動力およびディスク保持力を制御できるので、装置の信頼性を向上できる。
【0024】
またディスクをディスク記録再生装置から取り外して非稼動状態としている間に、ディスク保持部電極の表面に塵埃の付着を防止するための電極カバーを設置しても良い。これによりディスクを再度搭載する際にディスク保持部電極の表面を清浄に保つことができるので、装置の高信頼化に寄与する。
【0025】
また上記電極カバーの表面に導電性部材を設け、導電性部材とディスク保持部電極との間にアーク放電を発生させるために、ディスク保持部電極に電流を印加しても良い。アーク放電により発生する熱により電極表面の塵埃や酸化膜層などの汚染物質が破壊されるので、装置の高信頼化に寄与する。
【0026】
特に上記の電流を印加する際に、電極カバーをディスク保持部電極に近接させ、電極カバーの導電性部材とディスク保持部電極とを振動させて電極間の間隔を変動させても良い。これによりアーク放電の発生確率が高くなり、上記汚染物質を効率的に除去できる。
【0027】
また前記導電性部材とディスク保持部電極との間の接触抵抗を測定した結果を用いて、電極カバーおよびディスク保持部の振動力を制御しても良い。このような制御により、接触抵抗が十分低い場合に不必要に摺動を加えて電極表面の損傷をすることがなくなり、装置の高信頼化と低消費電力化に寄与する。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ディスク電極とディスク保持部電極との接触面を清浄に保つことができるので、低抵抗で安定した電気的接触が可能になり、ディスク電極の接続信頼性を十分確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0030】
図1は、本発明の第一の実施例を示すディスク記録再生装置の断面図である。図2は本発明の第一の実施例におけるディスク1と接触ピンと4の接触構造を示す。
【0031】
ディスク1は、固体電解質を含むエレクトロクロミック材料からなる複数の記録層31、33と、透明電極層30、32、34とを積層して成る層選択型多層光ディスクである。本実施例では2つの記録層31、33からなる光ディスクを示しているが、3つ以上の記録層で構成されていても良い。ディスクの製法と内部構造とに関しては、特許文献1または特許文献2に開示されているので説明は省略する。
【0032】
ディスク1の内周領域には、記録層31、33に電流を供給するためのディスク電極35、36、37がニッケル/金などのメッキ技術により形成されている。電極の形状は回転軸2に対して同心円となるリング状に形成してもよいし、突起電極となるように形成しても良い。
【0033】
固定盤3の上面には、上記ディスク電極35、36、37に対応する位置に、上下方向に伸縮可能なバネ性を有する複数の接触ピン41、42,43が設置されている。
【0034】
固定盤3の下面には、電流源回路と切り替え回路を含む電流制御回路基板6が設けられている。回路基板6の配線は半田50などの接続方法を用いて接触ピン41、42,43と接続されている。これらの接触ピン41、42、43がディスク電極35、36、37と接触することで、所望の記録層31、33に電流を供給することができる。
【0035】
固定盤3の上面の外周部には、複数のアクチュエータ22a、22bが設置されている。アクチュエータは電子回路によって制御可能であれば良いので、コイルと磁石からなる電磁アクチュエータでもよいし、対向電極に電圧を加えて駆動する静電アクチュエータでもよい。
【0036】
アクチュエータ22a、22bの上面には、固定盤3に対して面内方向または垂直方向に移動可能な可動部23が設けられている。接触ピン41、42、43は、その一端が半田50により回路基板6に固定されており、他方が接着剤51により可動部23に固定されている。
【0037】
接触ピン41、42、43は伸縮可能なバネ性を有するので、アクチュエータ22a、22bが面内方向に変形するように駆動すれば、接触ピンをF1方向に振動させることができる。またアクチュエータ22a、22bが垂直方向に変形するように駆動すれば、接触ピンをF2方向に振動させることができる。
【0038】
このような構成により、接触ピン41、42、43とディスク電極35、36、37との接点面を互いに摺動させることが可能になり、電極に付着した塵埃や酸化物を接触面から除去することができる。
【0039】
なお摺動効果としては、F2方向よりもF1方向へ駆動する方が効果大であるが、F2方向のみでも塵埃や酸化物を除去する効果は期待できる。
【0040】
また本実施例では2つのアクチュエータを用いた例を記載したが、振動を誘起することのできる構成であれば良いので、アクチュエータは1つでも良いし、3つ以上の構成であっても良い。
【0041】
またディスク保持手段5はディスク1を接触ピン4に密着させるための保持力を発生する。この保持力は電子回路によって制御可能であり、アクチュエータ22a、22bと同様に電磁アクチュエータや静電アクチュエータから構成されている。
【0042】
ディスク保持手段5の保持力を適切な範囲に制御すれば、接触ピンとディスク電極との摺動に必要なアクチュエータの駆動力を必量最小限に限定することができる。このような制御により、電極に付着した塵埃や酸化物を除去するとともに、過度な摺動による電極表面の損傷を低減できるので、装置の高信頼化と低消費電力化に寄与する。
【0043】
なおディスク1へ供給する電力や各種アクチュエータの駆動電力、および回路基板6で消費される電力は、全てロータリトランス100を用いた電磁誘導方式により、ベース20側の回路基板19から回転体側に供給される。
【0044】
上記実施例では、複数のアクチュエータ22a、22bを固定盤3に設置することでディスク電極と接触ピンの摺動を実現したが、固定盤3やディスク1を振動させる他の手段で実現しても良い。
【0045】
例えば図1において、ロータ磁石11、モータ巻線17、モータステータコア18からなるモータに適切な駆動電流を印加すれば、回転するハブ10を加速または減速させることができる。このハブの動きによりディスク回転方向に滑るような力が発生し、図1の紙面に垂直方向にディスク電極と接触ピンとが摺動するように振動させることができる。
【0046】
もう一つの手段として、光ピックアップ26に適切な駆動電流を印加して振動させても、その振動がハブ10を含む固定盤3に伝播し、接触ピン4が振動してディスク電極35、36、37との接点面を摺動させることができる。
【0047】
上記2つの手段は、アクチュエータ22a、22bとその駆動回路が不要となることから、装置の小形化や低消費電力化、低コスト化に効果がある。
【0048】
図3は、図2のA−A’切断面から見た接触ピン41とディスク電極35との接触構造の第二の実施例を示す断面図である。
【0049】
ディスク電極は複数の電極351、352から構成されており、共通の透明電極層30に接している。接触ピンは複数のピン411、412から構成されており、それぞれ相対する電極351および352と接触する位置に設けられている。
【0050】
接触ピン411および412は、さらに2つの端子411a、411bと、412a、412bに分岐しており、それぞれ半田50と接着剤51とを用いて回路基板6と可動部23とに固定されている。
【0051】
回路基板6に設けた電流源(I)は、図3に示すようにピン411aと412bとに接続されている。電流源(I)により電流を印加しながら、接触ピン411bと412aの間の電圧を測定すれば、ディスク電極351、352と接触ピン411、412との接触部の電気抵抗を4端子法により高精度に測定することができる。
【0052】
図4に、アクチュエータ22の振動力およびディスク保持手段5の保持力の調整フローを示す。ここではアクチュエータ22の振動により電極表面の摺動を実現するが、図1の説明で述べたように別の手段、例えば駆動モータの振動や光ピックアップの振動に置き換えても同様の効果を発揮する。
【0053】
最初に光ディスク1を記録再生装置の可動部23に搭載する(S101)。次にディスク保持手段5の保持力をある初期値Faに設定して、ディスク1を接触ピン4に密着させて保持する(S102)。
【0054】
図3に示した4端子法による接触抵抗測定を行う(S103)。接触抵抗が許容値内かどうか判定する(S104)。許容値内であれば、不必要な振動を加えることはせずにそのまま終了する。
【0055】
接触抵抗が許容値を満足しない場合は、アクチュエータ22に電力を印加して可動部23を加振する(S105)。続いて4端子法による接触抵抗測定を行う(S106)。
【0056】
接触抵抗が前回と比べて変化しているか判定する(S106)。変化していれば、許容値内かどうか再度判定する(S104)。
【0057】
接触抵抗が変化していなければ、ディスク保持力の条件を変えてディスクを保持し(S108)、再度アクチュエータ22による加振を行う(S105)。ディスク保持力の変え方は、摺動が発生して接触抵抗が変化するところまでディスク保持力を下げるように変化させる(S108)。
【0058】
このようなフローにより、接触抵抗の測定結果を元にアクチュエータ22の振動力およびディスク保持手段5の保持力を調整する。接触抵抗が十分に低くなれば、振動を加える必要がないと判定できる。不必要な摺動による電極表面の損傷を最小限に抑えられるので、装置の高信頼化と低消費電力化に寄与する。
【0059】
また、図4のフローより接触部の接触抵抗を十分小さくすれば、図11に示した各記録層の抵抗L1、L2を高精度に測定できる。
【0060】
図12は、横軸にある記録層の抵抗を、縦軸に記録再生エラー率を示したグラフである。記録層の抵抗が高いと十分な着色が行なわれず記録再生エラーが増加する。また記録層の抵抗が低い場合は記録層の内部で短絡が発生しており、これも十分な着色が行われず記録再生エラーが増加する。
【0061】
図13(a)に示すように、ディスク1の内周部には、コントロールデータが記録されたコントロールトラック領域が設けられている。そして図13(b)に示すように、コントロールデータには例えばメディアの世代情報、メディアのベンダー情報、ディスクの記録再生特性情報、フォーマット情報などが含まれている。ディスクの製造工程において、第0層から第n層までの各層の抵抗値を測定して図12のような情報を取得しておき、抵抗値の許容範囲をあらかじめ抵抗情報として記録しておく。
【0062】
このようなディスクを記録再生装置に搭載し、図4のフローより接触抵抗を十分低減した後に、各記録層の抵抗を測定する。この測定結果と図12の抵抗情報とを比較し、許容範囲内であれば記録再生を実行し、許容範囲を超えていればディスク不良と判断し、ディスクを排出する。
【0063】
上記の抵抗情報を備えていれば、メディアのメーカが異なった場合や、媒体性能が変化した場合でも、目標とする品質の記録再生が可能かどうか判断することができる。
【0064】
なお上記の抵抗情報は、例えばバーストカッティングエリアに記録しておけば、光ピックアップのトラッキング調整を行わなくても読み出すことが可能になる。また抵抗情報をディスクではなく記録再生装置の制御部に記録しておいても良い。
【0065】
図5は、記録再生装置が非稼動状態となっている間に電極カバーを設置した第三の実施例である。ディスク1を記録再生装置から取り外して非稼動状態としている間に、接触ピン411および412の表面に、塵埃の付着を防止するための電極カバー60を設置した。電極カバー60は、少なくとも全ての接触ピン4を全て覆い尽くす外径を有している必要がある。また最大の外径は、ディスク1の外径と同等かそれ以下であることが望ましい。また図示は省略するが、電極カバー60は図1に示すディスク1と同様に、ディスク保持手段5の保持力によって接触ピン4に密着している。このような構成により、ディスクを再度搭載する際に、接触ピン411および412の表面を清浄に保つことができる。
【0066】
図6は、図5の実施例において電極カバー60の表面に導電性部材61を配置した第四の実施例である。導電性部材61を含む接触ピン411および412の表面の接触抵抗を4端子法で測定できる。これにより接触ピンの表面に塵埃や酸化膜などの絶縁体が付着しているかどうかを判別できる。
【0067】
図7は、図6において接触ピンに絶縁体が付着しているときに、アーク放電を発生させて絶縁体を除去する方法を示す図である。4端子法による測定で接触抵抗が許容値より高いと判断された場合、可動部23をアクチュエータなどの手段で駆動力ベクトルF1、F2の方向に加振させる。このとき同時に電流源(I)を用いて接触部に電流を印加する。
【0068】
図1で述べた第一の実施例と同様に、接触ピン411、412は伸縮可能なバネ性を有するので、固定盤3と可動部23の間に配置したアクチュエータ22a、22bが面内方向に変形するように駆動すれば、接触ピンをF1方向に振動させることができる。またアクチュエータ22a、22bが垂直方向に変形するように駆動すれば、接触ピンをF2方向に振動させることができる。
【0069】
このアクチュエータの加振力と、ディスク保持手段の保持力のつりあいにより、電極カバー60と接触ピン411および412はF1方向またはF2方向に振動する。
【0070】
図7に示すように、加振力が保持力を上回る条件では、導電性部材61と接触ピンとの間に、瞬間的に微小な隙間が発生する。この微小な隙間がアーク放電の条件に合致した瞬間に、導電性部材61と接触ピンとの間にアーク放電が発生する。アーク放電で局所的に発生する熱により、接触ピン表面の塵埃や酸化膜が破壊され、接触面を清浄に保つことができる。
【0071】
なお、アーク放電を発生させる効果としては、F1方向よりF2方向の方が微小な間隔を発生させる方向なので効果大である。またF1方向やF2方向のいずれにしても、可動部23がたわむような周波数で加振し、接触ピン411、412が180度の位相差で振動するように周波数を調整すれば、微小な間隔を発生させる効果はさらに高まる。
【0072】
図8にアーク放電により接触ピン表面を清浄化するフローを示す。ここではアクチュエータ22の振動により電極カバー60を振動させるが、別の振動手段、例えば駆動モータの振動や光ピックアップの振動に置き換えても同様の効果を発揮する。
【0073】
最初に、電極カバー60を記録再生装置の可動部23に搭載する(S201)。次にディスク保持手段5の駆動力をある初期値Faに設定して、電極カバー60を接触ピン4に密着させて保持する(S202)。
【0074】
図6に示した4端子法による接触抵抗測定を行う(S203)。接触抵抗が許容値内かどうか判定する(S204)。許容値内であれば、不必要な振動を加えることはせずにそのまま終了する。
【0075】
接触抵抗が許容値を満足しない場合は、回路基板6の電流源によりアーク放電のための電流を印加し(S205)、同時にアクチュエータ22に電力を印加して可動部23を加振する(S206)。
【0076】
印加電流をモニタして(S207)、アーク放電が発生したかどうか判別する(S208)。アーク放電が発生していなければ、アクチュエータの加振力を増加し、ディスク保持力を低減して(S209)、再度加振する(S206)。
【0077】
アーク放電が発生したと判別されたら、4端子法による接触抵抗測定を行う(S210)。接触抵抗が前回と比べて変化しているか判定する(S211)。変化していれば、許容値内かどうか再度判定する(S204)。
【0078】
接触抵抗が変化していなければ、アクチュエータの加振力を増加し、ディスク保持力を低減して(S209)、再度加振する(S206)。
【0079】
このようなフローにより、アーク電流をモニタしながらアクチュエータ22の振動力およびディスク保持手段5の保持力を調整する。
【0080】
接触抵抗が十分に低くなれば、振動を加える必要がないと判定できる。不必要な摺動による電極表面の損傷を最小限に抑えられるので、装置の高信頼化と低消費電力化に寄与する。
【0081】
なおアーク放電による塵埃や絶縁体の除去は、ディスク1を記録再生装置に搭載した状態で行っても同様の効果を発揮できる。この場合、ディスク1の表面に導電性部材61と同様の電気的短絡パターンを設けておけば良い。
【0082】
上記実施例では、電極表面を清浄化するために振動力を印加したり、あるいはアーク放電を発生させたが、他の清浄化手段を組み合わせても良い、例えば静電気の引力により塵埃を除去する方法や、還元剤により化学的に除去する方法や、電流印加による電気分解で酸化膜を除去する方法などが考えられる。
【0083】
また、以上に述べた実施例は、いずれも回転体又はディスクに電力を供給する必要がある記憶装置一般に適用可能である。例えばエレクトロクロミック材料に電力を印加することでディスク表面に任意のパターンを表示させるような装置にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】第一の実施例を示すディスク記録再生装置の断面図。
【図2】第一の実施例におけるディスク1と接触ピン4の接触構造を示す図。
【図3】第二の実施例における接触ピン41とディスク電極35の接触構造を示す図。
【図4】アクチュエータ22の振動力およびディスク保持手段5の保持力の調整フロー。
【図5】第三の実施例における電極カバーを設置した記録再生装置の断面図。
【図6】第四の実施例における電極カバーを設置した記録再生装置の断面図。
【図7】第四の実施例においてアーク放電を発生させて絶縁体を除去する方法を示す図。
【図8】アーク放電により接触ピン表面を清浄化するフロー。
【図9】従来の層選択型多層光ディスクの記録再生装置の断面図。
【図10】従来の層選択型多層光ディスクにおける、ディスク1表面のディスク電極と接触ピン4の接続構造を示す図。
【図11】接触ピンとディスク電極が正しく接触しているときの電気的等価回路を示す図。
【図12】多層光ディスクの記録層の抵抗と記録発生エラー率の関係を示すグラフ。
【図13】多層光ディスクにおける接触抵抗の許容値情報の記録領域を示す図。
【符号の説明】
【0085】
1…ディスク、2…回転軸、3…固定盤、4…接触ピン、5…ディスク保持手段、6…電流制御回路基板、、10…ハブ、11…ロータ磁石、17…モータ巻線、18…モータステータコア、19…回路基板、20…ベース、21…キャップ、22a、22b…アクチュエータ、23…可動部、26…光ピックアップ、30、32、34…透明電極層、31、33…エレクトロクロミック材料からなる記録層、35、36、37…ディスク電極、41、42、43…接触ピン、50…半田、51…接着剤、60…電極カバー、100…ロータリートランス、351、352…ディスク電極、411、412…接触ピン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の記録層を有するディスクと、
前記記録層に電力を供給するために前記ディスク表面に設けた複数のディスク電極と、
前記ディスクを保持するディスク保持部と、
前記ディスク電極と電気的に接触するために前記ディスク保持部表面に設けた複数のディスク保持部電極と、
前記ディスク保持部を回転可能に支持する回転体と、
前記回転体を回転軸の周りに回転駆動するディスク駆動部と、
前記ディスクの所望の記録層に対して記録再生を行う記録再生ヘッドと、
前記記録再生ヘッドを駆動する記録再生ヘッド駆動部と、
前記ディスクまたは前記ディスク保持部に振動力を発生させるための振動手段と、
を有することを特徴とするディスク記録再生装置。
【請求項2】
前記振動手段は、
前記ディスク電極とディスク保持部電極の接触面を清浄に保つために必要かつ十分な振動力を発生させるための制御手段を有することを特徴とする請求項1記載のディスク記録再生装置。
【請求項3】
前記ディスク保持部は、
前記ディスク電極と前記ディスク保持部電極との間にディスク保持力を発生するディスク保持手段を有し、
前記ディスク保持手段は、
前記ディスク電極と前記ディスク保持部電極の接触面を清浄に保つために必要かつ十分なディスク保持力制御手段を有することを特徴とする請求項1記載のディスク記録再生装置。
【請求項4】
前記振動手段は、
前記ディスク駆動部を用いて前記回転体を加速または減速させることで前記ディスクおよび前記ディスク保持部を振動させるディスク振動手段であることを特徴とする請求項1記載のディスク記録再生装置。
【請求項5】
前記振動手段は、
前記記録再生ヘッド駆動部を加速または減速させることでディスクおよびディスク保持部を振動させる記録再生ヘッド振動手段であることを特徴とする請求項1記載のディスク記録再生装置。
【請求項6】
前記ディスク保持部は、
前記回転軸に対して固定された非可動部と、
ディスクを保持し前記非可動部に対して移動可能な可動部と、
前記可動部を前記非可動部に対して移動させるアクチュエータとを有し、
前記振動手段は、
前記アクチュエータにより前記ディスク保持部を振動させるディスク振動手段であることを特徴とする請求項1記載のディスク記録再生装置。
【請求項7】
前記ディスク電極と前記ディスク保持部電極との間の接触抵抗を測定する回路を有し、
前記接触抵抗測定結果を用いて前記振動力および前記ディスク保持力を制御する制御回路を有することを特徴とする請求項1記載のディスク記録再生装置。
【請求項8】
前記接触抵抗を4端子法により高精度に測定するために、
電流印加端子と電圧測定端子とからなる少なくとも2つの端子を前記ディスク保持部電極ごとに設置したことを特徴とする請求項7記載のディスク記録再生装置。
【請求項9】
前記ディスク保持部電極の表面に電極カバーを設置することを特徴とする請求項1記載のディスク記録再生装置。
【請求項10】
前記電極カバーの表面に導電性部材を有し、
前記導電性部材と前記ディスク保持部電極との間にアーク放電を発生させるために、
前記ディスク保持部電極に電流を印加する回路を有することを特徴とする請求項9記載のディスク記録再生装置。
【請求項11】
前記導電性部材と前記ディスク保持部電極との間にアーク放電を発生させるために、
前記電極カバーおよび前記ディスク保持部を振動させる振動手段を有することを特徴とする請求項10記載のディスク記録再生装置。
【請求項12】
前記電極カバーの導電性部材と前記ディスク保持部電極との間の接触抵抗を測定する回路を有し、
前記接触抵抗測定結果を用いて前記電極カバーおよび前記ディスク保持部の振動力を制御する制御回路を有することを特徴とする請求項11記載のディスク記録再生装置。

【図4】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−210486(P2008−210486A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−48334(P2007−48334)
【出願日】平成19年2月28日(2007.2.28)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】