ディフレクタ、ボール螺子装置及び電動パワーステアリング装置
【課題】円滑なボールの循環を担保しつつ、製造容易なディフレクタを提供すること。
【解決手段】ディフレクタ21は、一対の掬い上げ部31,32と、これら各掬い上げ部31,32の間を接続する接続部33とを備えてなる。そして、同ディフレクタ21は、同ディフレクタ21を挟んで表面Sa側及び裏面Sb側において平行する一対の仮想平面S1,S2を設定した場合、各掬い上げ部31,32及び接続部33上における任意の点の全てが、これら各仮想平面S1,S2の何れか一方に臨む形状を有する。
【解決手段】ディフレクタ21は、一対の掬い上げ部31,32と、これら各掬い上げ部31,32の間を接続する接続部33とを備えてなる。そして、同ディフレクタ21は、同ディフレクタ21を挟んで表面Sa側及び裏面Sb側において平行する一対の仮想平面S1,S2を設定した場合、各掬い上げ部31,32及び接続部33上における任意の点の全てが、これら各仮想平面S1,S2の何れか一方に臨む形状を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディフレクタ、ボール螺子装置及び電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ボール螺子装置には、ボール螺子ナットの外周にコマ部材(ディフレクタ)を取着することにより、当該ボール螺子ナットとラック軸との間に介在されたボールの還流路を形成するものがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、一対の掬い上げ部とこれらの各掬い上げ部間を接続するトンネル状の通路とを備えたディフレクタを用いる構成が開示されている。即ち、ボール螺子ナットには、同ボール螺子ナットを径方向に貫通する一対の貫通孔と、これらの各貫通孔に連接する凹部とからなる取付部が凹設されている。そして、この取付部に対し、その各掬い上げ部をそれぞれ対応する貫通孔に挿入する態様で上記ディフレクタを取着することにより、その還流路が形成されるようになっている。
【0004】
尚、この従来例では、このようなディフレクタが、ボール螺子ナットの全周に亘って均等角度間隔で複数個(4つ)取着されている。そして、それぞれが隣接する二列の転動路を短絡することにより、複数の還流路が形成されるようになっている。
【0005】
このようなトンネル状の通路を備えたディフレクタを用いることにより、転動路及び還流路において、より円滑にボールを循環させることができる。その結果、振動や音の発生を抑えて高い静粛性を確保することができる。加えて、ディフレクタとリターン孔との間に段差(継ぎ目)が発生しないため、厳格な組付け精度を必要としない。そして、これにより、組付け性の向上を図ることができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−329097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、こうしたトンネル状の通路を有するディフレクタは、必然的に、その形状が複雑なものとなることから、複数の部品に分割して成形する、或いは、その成形に用いる金型を複数に分割して組み合わせる等、その製造工程もまた複雑なものとなりやすい。このため、そのコストダウンが難しいという課題が残されており、その解決が強く望まれていた。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、円滑なボール循環を担保しつつ、製造容易なディフレクタ、及び同ディフレクタを備えたボール螺子装置並びに電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、一対の掬い上げ部と、該各掬い上げ部間を接続する接続部とを備え、ボール螺子ナットの外周に凹設された取付部に取着されることにより該ボール螺子ナットと螺子軸との間に介在された各ボールの還流路を形成するディフレクタであって、平行に配置される一対の仮想平面間において、前記各掬い上げ部及び接続部上における任意の点の全てが前記仮想平面の何れか一方に臨むこと、を要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、簡素な構成にて、転動路及び還流路間において、より円滑に各ボールを循環させることができる。その結果、振動や音の発生を抑えて高い静粛性を確保することができる。また、二つの仮想平面と直交する方向を、金型の接離方向(移動方向)に設定することによって、二個一組の金型を用いて、同ディフレクタを成形することができる。その結果、その製造工程を簡素化して、製造コストを低減することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記掬い上げ部に掬い上げられた各ボールを前記接続部に誘導する側壁を備えるとともに、該側壁上における任意の点の全てが前記各仮想平面の何れか一方に臨むこと、を要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、各掬い上げ部に掬い上げられた各ボールは、各側壁に誘導されつつ各掬い上げ部から接続部へと移動する。その結果、より円滑にボールを循環させることができる。また、例えば、接続部における各ボールとの対向面を表面、非対向面を裏面として、その表面側及び裏面側に、それぞれ上記仮想平面を設定する。そして、その二つの仮想平面と直交する方向を、金型の接離方向に設定することによって、二個一組の金型を用いて上記側壁を備えたディフレクタを成形することができる。その結果、円滑な各ボールの循環を担保しつつ、その製造工程を簡素化して、製造コストを低減させることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記側壁は、前記接続部の長さ方向両端において前記各掬い上げ部から前記接続部に連続するように形成されるとともに、前記側壁から延設されて前記接続部に対向する上壁を備え、且つ該上壁上における任意の点の全てが前記各仮想平面の何れか一方に臨むとともに、前記接続部には、前記側壁及び前記上壁の形成されない平坦部が設けられること、を要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、掬い上げ部に掬い上げられた各ボールは、側壁及び前記上壁に誘導されつつ、各掬い上げ部の一方から接続部へ、更に接続部から他方側の掬い上げ部へと移動する。その結果、より円滑に各ボールを循環させることができる。また、その接続部に設けられた平坦部(の表面又は裏面)上に各側壁及び各上壁と交わることなく延長可能な直線を設定し、この直線と直交するように、同ディフレクタを挟んで上記各仮想平面を設定する。そして、その直線に沿った方向を、金型の接離方向に設定することによって、二個一組の金型を用いて上記側壁及び上壁を備えたディフレクタを成形することができる。その結果、円滑な各ボールの循環を担保しつつ、その製造工程を簡素化して、製造コストを低減させることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のディフレクタを備えたボール螺子装置であること、を要旨とする。
上記構成によれば、円滑なボール循環を担保しつつ、容易に製造可能なディフレクタを提供することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記掬い上げ部及び前記接続部の少なくとも一方が可撓性を有し、前記取付部は、前記ボール螺子ナットの内周に開口して前記ディフレクタの掬い上げ部が挿入される一対の貫通孔を有するとともに、前記各貫通孔は、前記ボール螺子ナットの径方向に対して傾斜する方向に延設されること、を要旨とする。
【0017】
上記構成によれば、掬い上げ部及び接続部の少なくとも一方を撓めることで、ディフレクタを取付部へ取着する際の組付け性を大幅に向上させることができる。そして、これにより、上記のような複雑な形状の取付部を採用することができる。即ち、各掬い上げ部に掬い上げられた各ボールは、各貫通孔の壁面に案内される態様で、各掬い上げ部の先端側から基端側に向かって移動する。その結果、より円滑に各ボールを循環させることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は請求項5に記載のボール螺子装置を備えた電動パワーステアリング装置であること、を要旨とする。
上記構成によれば、その静粛性を損なうことなく、製造容易且つ安価なパワーステアリング装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、円滑なボール循環を担保しつつ、製造容易なディフレクタ、及び同ディフレクタを備えたボール螺子装置並びに電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成を示す断面図。
【図2】ボール螺子装置近傍の拡大断面図。
【図3】ボール螺子ナットの平面図。
【図4】ボール螺子ナットのA−A断面図。
【図5】(a)ディフレクタの平面図、(b)ディフレクタの側面図、(c)ディフレクタの底面図。
【図6】(a)ディフレクタの正面図、(b)ディフレクタのB−B断面図。
【図7】ディフレクタの斜視図。
【図8】取付部にディフレクタを取着したボール螺子ナットの平面図。
【図9】取付部にディフレクタを取着したボール螺子ナットのA−A断面図。
【図10】(a)ディフレクタの素材となる金属材料の平面図、(b)同金属材料の正面図、(c)同金属材料の側面図。
【図11】ディフレクタと金型設計の基礎となる一対の仮想平面との関係を側面から示す説明図。
【図12】ディフレクタと金型設計の基礎となる一対の仮想平面との関係を正面から示す説明図。
【図13】取付部にディフレクタを取着したボール螺子ナットのC−C断面図。
【図14】第2の実施形態におけるディフレクタの斜視図。
【図15】第2の実施形態におけるディフレクタの平面図。
【図16】第2の実施形態におけるディフレクタと金型設計の基礎となる一対の仮想平面との関係を側面から示す説明図。
【図17】第3の実施形態におけるディフレクタの平面図。
【図18】第3の実施形態におけるディフレクタの側面図。
【図19】第3の実施形態におけるディフレクタの斜視図。
【図20】第3の実施形態におけるディフレクタと金型設計の基礎となる一対の仮想平面との関係を平面(表面)から示す説明図。
【図21】取付部にディフレクタを取着した別例のボール螺子ナットの平面図。
【図22】取付部にディフレクタを取着した別例のボール螺子ナットのA−A断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施形態]
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態のEPS1において、略円筒状をなすハウジング2に挿通されたラック軸3は、ラックガイド及び滑り軸受(ともに図示略)に支承されることにより、その軸方向に沿って移動可能に収容支持されている。そして、同ラック軸3は、周知のラック&ピニオン機構を介してステアリングシャフトと連結されることにより、ステアリング操作に伴い軸方向移動するようになっている。
【0022】
また、EPS1は、駆動源としてのモータ4と、同モータ4の回転をラック軸3の軸方向移動に変換するボール螺子装置5とを備えている。そして、本実施形態のEPS1は、これらラック軸3、モータ4及びボール螺子装置5が、ハウジング2内に一体に収容された所謂ラックアシスト型のEPSとして構成されている。
【0023】
詳述すると、本実施形態のモータ4は、中空軸状に形成されたモータ軸6を有しており、同モータ軸6は、ハウジング2の内周に設けられた軸受7に支承されることより、同ハウジング2の軸方向に沿って配置されている。また、本実施形態のモータ4では、このモータ軸6の周面にマグネット8を固着することによりロータ9が形成されている。更に、そのロータ9の径方向外側を包囲するステータ10は、ハウジング2の内周に固定されている。そして、本実施形態のモータ4は、そのモータ軸6内にラック軸3が挿通されることにより、ハウジング2内においてラック軸3と同軸に配置されている。
【0024】
また、本実施形態のラック軸3は、その外周に螺子溝11を螺刻することにより螺子軸として構成されている。そして、本実施形態のボール螺子装置5は、このラック軸3に複数のボール12を介してボール螺子ナット13を螺着することにより形成されている。
【0025】
具体的には、図2に示すように、略円筒状に形成されたボール螺子ナット13の内周には、上記ラック軸3側の螺子溝11に対応する螺子溝14が形成されており、ボール螺子ナット13は、その螺子溝14がラック軸3側の螺子溝11と対向するように同ラック軸3に外嵌されている。そして、各ボール12は、これら二つの螺子溝11,14が対向することにより形成される螺旋状の転動路L1内に配設されている。
【0026】
また、ボール螺子ナット13には、螺子溝14内の二箇所(接続点P1,P2)に開口する還流路L2が形成されている。そして、上記転動路L1は、この還流路L2により、その開口位置に対応する二つの接続点P1,P2間が短絡されている。
【0027】
即ち、ラック軸3とボール螺子ナット13との間の転動路L1内に介在された各ボール12は、ラック軸3に対するボール螺子ナット13の相対回転により、その負荷を受けつつ転動路L1内を転動する。また、転動路L1内を転動した各ボール12は、更に、ボール螺子ナット13に形成された上記還流路L2を通過することにより、その転動路L1に設定された二つの接続点P1,P2間を下流側から上流側へと移動する。そして、ボール螺子装置5は、その転動路L1を転動する各ボール12が還流路L2を介して無限循環することにより、ボール螺子ナット13の回転をラック軸3の軸方向移動に変換する構成となっている。
【0028】
本実施形態では、ボール螺子ナット13の一端(図2中、右側の端部13a)には、その軸線に沿って、外周に雄螺子15が螺刻された螺子軸16が延設されている。また、モータ軸6の軸端(同図中、左側の軸方向端部6a)の内周には、上記ボール螺子ナット13側の雄螺子15に対応する雌螺子17が刻設されている。そして、同ボール螺子ナット13は、これらの雄螺子15及び雌螺子17を螺合させることにより、モータ軸6の軸方向端部6aに連結されている。
【0029】
即ち、駆動源であるモータ4の回転は、そのモータ軸6とともにボール螺子ナット13が一体回転することにより変換手段としてのボール螺子装置5に入力される。そして、本実施形態のEPS1は、そのモータトルクに基づき軸方向移動するラック軸3の押圧力を、ステアリング操作を補助するためのアシスト力として、操舵系に付与する構成となっている。
【0030】
(ボール還流構造)
次に、本実施形態のボール螺子装置におけるボール還流構造、及びその還流路を形成するディフレクタについて説明する。
【0031】
図2に示すように、本実施形態では、ボール螺子ナット13の外周19に凹設された取付部20に対して、同ボール螺子ナット13とラック軸3との間の転動路L1から各ボール12を掬い上げる機能(及び転動路L1への再排出機能)を備えたディフレクタ21が取着される。そして、この取付部20の開口部を蓋部材22により閉塞することによって、上記のような還流路L2が形成されている。尚、同図(及び図1)では、還流路L2を通過する各ボール12の動きを説明する便宜上、ディフレクタ21の一部(後述する掬い上げ部31,32)の記載が省略されている。
【0032】
詳述すると、図3及び図4に示すように、取付部20は、上記のように還流路L2が転動路L1を短絡する二点(接続点P1,P2)に対応する位置において、ボール螺子ナット13の内周23に開口する一対の貫通孔24,25を備えている。具体的には、貫通孔24,25の形成位置は、ボール螺子ナット13の周方向(図3中、上下方向)においては、互いの位置がずれるように設定されている。そして、当該ボール螺子ナット13の軸方向(図4中、左右方向)においては、両者の間に複数列の螺子溝14を挟むよう離間した位置に設定されている。
【0033】
また、取付部20は、これらの各貫通孔24,25に連接する収容凹部26を備えている。尚、本実施形態では、各貫通孔24,25は、その開口形状(ボール螺子ナット13の径方向外側(又は径方向内側)から見た場合の形状)が略小判形となるように形成されている。また、収容凹部26は、両者の最近接位置において各貫通孔24,25を接続するように、ボール螺子ナット13の軸方向に沿って延設されている。そして、当該収容凹部26、及び上記各貫通孔24,25の周縁には、上記蓋部材22を取着するための取付凹部27が形成されている。
【0034】
一方、図5(a)〜(c)、図6(a)(b)、及び図7に示すように、本実施形態のディフレクタ21は、上記各貫通孔24,25に挿入されることにより転動路L1から各ボール12を掬い上げる機能を奏する一対の掬い上げ部31,32と、これら各掬い上げ部31,32の間を接続する接続部33とを備えてなる。
【0035】
具体的には、本実施形態では、各掬い上げ部31,32は、接続部33の長さ方向(図5中、左右方向)両端から、当該接続部33における幅方向(図5中、上下方向)、互いに相反する側に向かって延設される。更に、各掬い上げ部31,32は、それぞれの基端31b,32bにおいて、図5(a)に示される表面Sa側から図5(c)に示される裏面Sb側へ屈曲されている。また、各掬い上げ部31,32及び接続部33は、その表面Sa側が凹(裏面Sb側に凸)となるように、それぞれ幅方向に湾曲して形成されている。尚、各掬い上げ部31,32については、図5中、左右方向が「幅方向」である。そして、接続部33の長さ方向の両端部については、当該接続部33の湾曲形状と各掬い上げ部31,32の湾曲形状が滑らかに連続するように形成されている。
【0036】
図8及び図9に示すように、本実施形態のディフレクタ21は、その表面Saを開口部側(図9中、上側)に向けた状態で取付部20に取着される。そして、各掬い上げ部31,32が対応する各貫通孔24,25に挿入され、接続部33が収容凹部26内に収容されることにより、その表面Saを各ボール12との対向面(接触面)として、取付部20の開口部を閉塞する蓋部材22とともに還流路L2を形成する構成となっている。
【0037】
詳述すると、各掬い上げ部31,32は、それぞれ、その先端31a,32aがボール螺子ナット13とラック軸3との間の転動路L1内に突出する態様で各貫通孔24,25に挿入される。これにより、その転動路L1を転動する各ボール12は、後続のボール12に押し上げられる形で、各掬い上げ部31,32上、即ち表面Sa側に掬い上げられる。そして、その表面Sa側を凹とする湾曲形状に案内される態様で、各ボール12が上記掬い上げ部31,32の一方側から接続部33を介して他方側に移動することにより、上記のように同転動路L1内に設定された二点(接続点P1,P2)間を短絡する還流路L2が形成されるようになっている。
【0038】
ここで、本実施形態のディフレクタ21は、接離方向に直線移動する二個一組の金型を用いて、図10(a)〜(c)に示されるような薄板状の金属材料M1をプレス加工することにより形成される。
【0039】
即ち、図11及び図12に示すように、本実施形態のディフレクタ21は、同ディフレクタ21を挟んで表面Sa側(各図中、上側)及び裏面Sb側(各図中、下側)において平行する一対の仮想平面S1,S2を設定した場合、各掬い上げ部31,32及び接続部33上における任意の点の全てが、これら各仮想平面S1,S2の何れか一方に臨む形状となっている。
【0040】
具体的には、表面Sa上の任意の点は、全て第1の仮想平面S1に臨み、裏面Sb上の任意の点は、全て第2の仮想平面S2に臨む。従って、これら二つの仮想平面S1,S2と直交する方向(各図中、上下方向)を金型の接離方向に設定することで、二個一組の金型を用いたプレス加工により、図5(a)〜(c)、図6(a)(b)、及び図7に示すような形状のディフレクタ21を成形することができる。即ち、図10(a)〜(c)に示される金属材料M1の各部m1〜m3は、それぞれ各掬い上げ部31,32及び接続部33に対応する形状となっている。そして、本実施形態では、これにより、そのディフレクタ21の製造工程を簡素化して、製造コストの低減を図る構成となっている。
【0041】
また、このように薄板状の金属材料M1を素材としたプレス加工により成形される本実施形態のディフレクタ21は、その各掬い上げ部31,32及び接続部33が可撓性を有している。そして、図13に示すように、本実施形態では、このディフレクタ21の可撓性を活かし、上記取付部20において各掬い上げ部31,32が挿入される各貫通孔24,25は、そのボール螺子ナット13の径方向(同図中、一点鎖線N1に示す方向)に対して傾斜する方向(同図中、一点鎖線N2に示す方向)に延設されている。
【0042】
具体的には、各貫通孔24,25は、上記のように接続部33の長さ方向両端から裏面Sb側に屈曲された各掬い上げ部31,32の形状に対応するように、ボール螺子ナット13の径方向に対して傾斜する方向に延設されている。即ち、本実施形態のディフレクタ21は、その接続部33を捻るように撓めた状態で取付部20に組み付けられることにより、その各掬い上げ部31,32が各貫通孔24,25内に挿入される。そして、本実施形態では、各掬い上げ部31,32の表面Saに対向する各貫通孔24,25の壁面36が当該各掬い上げ部31,32に掬い上げられた各ボール12を案内することによって、より円滑に各ボール12を循環させることが可能となっている。
【0043】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)ディフレクタ21は、一対の掬い上げ部31,32と、これら各掬い上げ部31,32の間を接続する接続部33とを備えてなる。そして、同ディフレクタ21は、同ディフレクタ21を挟んで表面Sa側及び裏面Sb側において平行する一対の仮想平面S1,S2を設定した場合、各掬い上げ部31,32及び接続部33上における任意の点の全てが、これら各仮想平面S1,S2の何れか一方に臨む形状を有する。
【0044】
上記構成によれば、簡素な構成にて、転動路L1及び還流路L2において、より円滑にボール12を循環させることができる。また、二つの仮想平面S1,S2と直交する方向を、金型の接離方向に設定することによって、二個一組の金型のみを用いてディフレクタ21を成形することができる。その結果、同ディフレクタ21の製造工程を簡素化して、その製造コストを低減することができる。
【0045】
(2)ディフレクタ21は、その各掬い上げ部31,32及び接続部33が可撓性を有する。これにより、その取付部20への組付け性が向上する。
(3)ディフレクタ21は、薄板状の金属材料M1を素材としたプレス加工により形成される。これにより、容易且つ低コストにて同ディフレクタ21を製造することができるとともに、併せて同ディフレクタ21に可撓性を持たせることができる。
【0046】
(4)各掬い上げ部31,32及び接続部33は、その表面Sa側が凹(裏面Sb側に凸)となるように、それぞれ幅方向に湾曲して形成される。これにより、各ボール12は、その表面Sa側を凹とする湾曲形状に案内される態様で、掬い上げ部31,32の一方側から接続部33を介して他方側に移動する。その結果、より円滑にボール12を循環させることができるようになる。
【0047】
(5)各貫通孔24,25は、接続部33の長さ方向両端から裏面Sb側に屈曲された各掬い上げ部31,32の形状に対応するように、ボール螺子ナット13の径方向に対して傾斜する方向に延設される。このような構成とすることで、各掬い上げ部31,32に掬い上げられた各ボール12は、各貫通孔24,25の壁面36に案内される態様で、各掬い上げ部31,32(の表面Sa)上を、その先端31a,32a側から基端31b,32b側に向かって移動する。その結果、より円滑に各ボール12を循環させることができる。
【0048】
[第2の実施形態]
以下、本発明を具体化した第2の実施形態を図面に従って説明する。尚、説明の便宜のため、上記第1の実施形態と同一の構成については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0049】
図14〜図16に示すように、本実施形態のディフレクタ41は、上記第1の実施形態におけるディフレクタ21と同様に、湾曲板状をなす一対の掬い上げ部31,32及び接続部33を備えている。そして、これら掬い上げ部31,32及び接続部33に加え、その各掬い上げ部31,32に掬い上げられたボールを接続部33に誘導する側壁42,43を備えて構成されている。
【0050】
詳述すると、本実施形態では、各側壁42,43は、接続部33の長さ方向(図15及び図16中、左右方向)両端の外側において、各掬い上げ部31,32の側端(幅方向端部)に立設されている。そして、各側壁42,43は、各掬い上げ部31,32の先端31a,32aから基端31b,32bに向かって延設されるとともに、更に当該各掬い上げ部31,32の基端31b,32bから接続部33の側端(幅方向端部)に連続する湾曲形状を有して構成されている。
【0051】
即ち、各掬い上げ部31,32に掬い上げられた各ボール12は、各側壁42,43に案内される態様で、先端31a,32a側から基端31b,32b側に向かって移動する。そして、各ボール12は、更に、接続部33の長さ方向両端部において各側壁42,43が形成する湾曲面46に案内される態様で、各掬い上げ部31,32から接続部33へと誘導される。
【0052】
さらに詳述すると、図16に示すように、本実施形態のディフレクタ41は、上記第1の実施形態におけるディフレクタ21と同様、その接続部33の表面Sa側及び裏面Sb側において平行する一対の仮想平面S1,S2を設定した場合、各掬い上げ部31,32、接続部33、及び各側壁42,43上における任意の点の全てが何れか一方に臨む形状となっている。
【0053】
即ち、各掬い上げ部31,32及び接続部33と同様、各側壁42,43における各ボール12との対向面を表面Sa、非対向面を裏面Sbとすると、その表面Sa上の任意の点は、全て第1の仮想平面S1に臨み、その裏面Sb上の点は、全て第2の仮想平面S2に臨む。従って、本実施形態のディフレクタ41もまた、その二つの仮想平面S1,S2と直交する方向(図16中、上下方向)において接離する二個一組の金型を用いて形成することができる。
【0054】
尚、本実施形態のディフレクタ41は、このような金型を用いた樹脂成形、又は金属粉末射出成形により製造される。そして、本実施形態では、これにより、より円滑な各ボール12の循環を実現しつつ、ディフレクタ41の製造工程を簡素化し、製造コストの低減を図る構成となっている。
【0055】
[第3の実施形態]
以下、本発明を具体化した第3の実施形態を図面に従って説明する。尚、説明の便宜のため、上記第2の実施形態と同一の構成については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0056】
図17〜図20に示すように、本実施形態においては、上記第1及び第2の実施形態における各ディフレクタ21,41にみられるような各掬い上げ部31,32及び接続部33の湾曲形状は設定されていない。即ち、本実施形態のディフレクタ50では、各掬い上げ部51,52及び接続部53は、それぞれ、その表面Sa及び裏面Sbが幅方向において平坦となる板状に形成されている。そして、本実施形態のディフレクタ50には、更に、接続部53の表面Saと対向するように当該接続部53に並行して各側壁42,43から延びる上壁54,55が設けられている。
【0057】
詳述すると、本実施形態のディフレクタ50において、各側壁42,43は、上記第2の実施形態におけるディフレクタ41と同様、各掬い上げ部51,52の幅方向における一方の端部に形成されている。そして、当該各側壁42,43は、それぞれ接続部53の側端(幅方向端部)にまで延設されている。
【0058】
また、各掬い上げ部51,52、接続部53及び各側壁42,43と同様、各上壁54,55についても、その各ボール12との対向面を表面Saとすると、その接続部53の長さ方向両端部に対応する位置には、当該各上壁54,55と各側壁42,43(の湾曲面46)とが、表面Sa側において滑らかに連続するような湾曲面56が形成されている。即ち、各掬い上げ部51,52に掬い上げられた各ボール12は、この湾曲面56(及び各側壁42,43の湾曲面46)に案内される態様で、各掬い上げ部51,52から接続部53へと誘導される。そして、本実施形態では、その各ボール12が、更に各上壁54,55に案内される態様で、接続部53上を移動することにより、当該各ボール12の円滑な循環が実現されるようになっている。
【0059】
ここで、本実施形態のディフレクタ50は、その接続部53の中央部に、各側壁42,43及び各上壁54,55が形成されない平坦部57を有している。そして、この接続部53に設けられた平坦部57(の表面Sa又は裏面Sb)上に、各側壁42,43及び各上壁54,55と交わることなく延長可能な直線Nを設定し、及び同ディフレクタ50を挟んで平行配置されるとともに上記直線Nと直交する一対の仮想平面S3,S4を設定することが可能となっている。
【0060】
尚、本実施形態のディフレクタ50は、その平坦部57上の点Pを対称中心として点対称となる形状を有しており、図20中、直線Nは、この点Pを通る直線となっている。そして、本実施形態のディフレクタ50は、その各掬い上げ部51,52、接続部53、各側壁42,43、及び各上壁54,55上における任意の点の全てが、これらの各仮想平面S3,S4の何れか一方に臨む形状を有している。
【0061】
即ち、図20中、直線Nよりも左側に位置する掬い上げ部51、側壁42、及び上壁54、及び接続部53の左半分については、その表面Sa上の任意の点は、全て、同図中、下側に位置する仮想平面S4に臨み、その裏面Sb上の任意の点は、全て、同図中、上側に位置する仮想平面S3に望む。同様に、同図中、直線Nよりも右側に位置する掬い上げ部52、側壁43、及び上壁55、及び接続部53の右半分については、その表面Sa上の任意の点は、全て、同図中、上側に位置する仮想平面S3に臨み、その裏面Sb上の任意の点は、全て、同図中、下側に位置する仮想平面S4に望む。従って、本実施形態のディフレクタ50もまた、その二つの仮想平面S3,S4と直交する方向、即ち図20中に示される直線Nに沿って接離する方向に移動する二個一組の金型を用いて形成することができる。そして、本実施形態では、これにより、ディフレクタ50の製造工程を簡素化し、製造コストの低減を図る構成となっている。
【0062】
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記各実施形態では、本発明をEPS用のボール螺子装置5に具体化したが、EPS以外の用途に用いられるものに適用してもよい。そして、EPSに適用する場合においても、そのモータ配置については、特に限定するものではなく、例えば、モータとラック軸とが平行配置される所謂パラレル型や、モータの軸線がラック軸と斜交するように配置されるラッククロス型のEPSに適用してもよい。
【0063】
・上記第1及び第2の実施形態では、各掬い上げ部31,32及び接続部33は、その表面Sa側が凹(裏面Sb側に凸)となるように、それぞれ幅方向に湾曲して形成されることとした。しかし、これに限らず、第3の実施形態における各掬い上げ部51,52及び接続部53と同様、その表面Sa及び裏面Sbが幅方向において平坦となる板状に形成してもよい。
【0064】
このような構成とすることで、その成形用の金型を設計する際に基礎とする各仮想平面を設定する際の自由度が高くなる。具体的には、例えば、図20に示す第3の実施形態における仮想平面S3,S4のように、その表面Sa(又は裏面Sb)上の直線(N)と直交する態様で各仮想平面を設定することが可能になる。そして、これにより、設計自由度が向上するとともに、更なる製造工程の容易化を図ることが可能になる。
【0065】
・上記第2の実施形態では、各側壁42,43は、接続部33の長さ方向(図15及び図16中、左右方向)両端の外側において、各掬い上げ部31,32の側端(幅方向端部)に立設される。そして、各掬い上げ部31,32の先端31a,32aから基端31b,32bに向かって延設されて、当該各掬い上げ部31,32の基端31b,32bから接続部33の側端(幅方向端部)に連続する湾曲形状を有することとした。
【0066】
しかし、これに限らず、上記第2の実施形態と同様、その接続部33の表面Sa側及び裏面Sb側において平行する一対の仮想平面S1,S2を設定した場合に、各掬い上げ部31,32、接続部33、及び各側壁42,43上における任意の点の全てが何れか一方に臨む形状であれば、当該各側壁42,43の形状は、これに限るものではない。即ち、例えば、接続部33の幅方向両端において、その長手方向に沿うように各側壁を延設する。或いは、各掬い上げ部31,32の幅方向両端において、その長手方向に沿うように各側壁を延設する等としてもよい。これにより、より円滑に各ボール12を循環させることができるようになる。
【0067】
・上記各実施形態では、各貫通孔24,25は、接続部33(53)の長さ方向両端から裏面Sb側に屈曲された各掬い上げ部31,32(51,52)の形状に対応するように、ボール螺子ナット13の径方向に対して傾斜する方向に延設されることした。しかし、これに限らず、ボール螺子ナット13の径方向(図13中、一点鎖線N1に示す方向)に沿って各貫通孔を延設する構成であってもよい。
【0068】
・また、図21及び図22に示すボール螺子ナット60のように、当該ボール螺子ナット60の外周19側において、各貫通孔61,62の一部を覆うような鍔部64,65を設ける。尚、この例においては、各鍔部64,65は、取付部63内に取着されたディフレクタ21の各掬い上げ部31,32と接続部33とを接続する湾曲形状に対応した部分を覆う位置に設けられている。そして、この鍔部64,65に各ボール12を案内する湾曲面66を形成することにより、各掬い上げ部31,32に掬い上げられた各ボール12を接続部33に誘導する構成としてもよい。これにより、より円滑に各ボール12を循環させることができる。
【0069】
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想を効果とともに記載する。
(イ)前記掬い上げ部及び前記接続部の少なくとも一方が、前記各ボールとの対向面が凹となるように幅方向に湾曲して形成されること、を特徴とするディフレクタ。
【0070】
上記構成によれば、各ボールは、当該各ボールとの対向側を凹とする湾曲形状に案内される態様で、掬い上げ部の一方側から接続部を介して他方側に移動する。その結果、より円滑にボールを循環させることができる。また、接続部における各ボールとの対向面を表面、非対向面を裏面として、その表面側及び裏面側にそれぞれ仮想平面を設定する。そして、これら二つの仮想平面と直交する方向を、金型の接離方向に設定することによって、二個一組の金型を用いて上記湾曲形状を有したディフレクタを成形することができる。その結果、円滑な各ボールの循環を担保しつつ、その製造工程を簡素化して、製造コストを低減させることができる。
【0071】
(ロ)前記取付部は、前記ボール螺子ナットの内周に開口して前記ディフレクタの掬い上げ部が挿入される一対の貫通孔を有するとともに、前記ボール螺子ナットの外周側において前記各貫通孔の一部を覆うことにより前記掬い上げ部に掬い上げられた各ボールを前記接続部に誘導する鍔部を備えること、を特徴とするボール螺子装置。
【0072】
上記構成によれば、各掬い上げ部に掬い上げられた各ボールは、鍔部に誘導されつつ各掬い上げ部から接続部に向かって移動する。その結果、より円滑に各ボールを循環させることができる。
【符号の説明】
【0073】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、3…ラック軸、4…モータ、5…ボール螺子装置、6…モータ軸、6a…軸方向端部、11…螺子溝、12…ボール、13…ボール螺子ナット、14…螺子溝、19…外周、20…取付部、21…ディフレクタ、23…内周、24,25…貫通孔、26…収容凹部、27…取付凹部、31,32…掬い上げ部、31a,32a…先端、31b,32b…基端、33…接続部、36…壁面、41…ディフレクタ、42,43…側壁、46…湾曲面、50…ディフレクタ、51,52…掬い上げ部、53…接続部、54,55…側壁、56…湾曲面、57…平坦部、60…ボール螺子ナット、61,62…貫通孔、63…取付部、64,65…鍔部、66…湾曲面、L1…転動路、L2…還流路、M1…金属材料、Sa…表面、Sb…裏面、S1〜S4…仮想平面、N…直線。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディフレクタ、ボール螺子装置及び電動パワーステアリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ボール螺子装置には、ボール螺子ナットの外周にコマ部材(ディフレクタ)を取着することにより、当該ボール螺子ナットとラック軸との間に介在されたボールの還流路を形成するものがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、一対の掬い上げ部とこれらの各掬い上げ部間を接続するトンネル状の通路とを備えたディフレクタを用いる構成が開示されている。即ち、ボール螺子ナットには、同ボール螺子ナットを径方向に貫通する一対の貫通孔と、これらの各貫通孔に連接する凹部とからなる取付部が凹設されている。そして、この取付部に対し、その各掬い上げ部をそれぞれ対応する貫通孔に挿入する態様で上記ディフレクタを取着することにより、その還流路が形成されるようになっている。
【0004】
尚、この従来例では、このようなディフレクタが、ボール螺子ナットの全周に亘って均等角度間隔で複数個(4つ)取着されている。そして、それぞれが隣接する二列の転動路を短絡することにより、複数の還流路が形成されるようになっている。
【0005】
このようなトンネル状の通路を備えたディフレクタを用いることにより、転動路及び還流路において、より円滑にボールを循環させることができる。その結果、振動や音の発生を抑えて高い静粛性を確保することができる。加えて、ディフレクタとリターン孔との間に段差(継ぎ目)が発生しないため、厳格な組付け精度を必要としない。そして、これにより、組付け性の向上を図ることができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−329097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、こうしたトンネル状の通路を有するディフレクタは、必然的に、その形状が複雑なものとなることから、複数の部品に分割して成形する、或いは、その成形に用いる金型を複数に分割して組み合わせる等、その製造工程もまた複雑なものとなりやすい。このため、そのコストダウンが難しいという課題が残されており、その解決が強く望まれていた。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、円滑なボール循環を担保しつつ、製造容易なディフレクタ、及び同ディフレクタを備えたボール螺子装置並びに電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記問題点を解決するために、請求項1に記載の発明は、一対の掬い上げ部と、該各掬い上げ部間を接続する接続部とを備え、ボール螺子ナットの外周に凹設された取付部に取着されることにより該ボール螺子ナットと螺子軸との間に介在された各ボールの還流路を形成するディフレクタであって、平行に配置される一対の仮想平面間において、前記各掬い上げ部及び接続部上における任意の点の全てが前記仮想平面の何れか一方に臨むこと、を要旨とする。
【0010】
上記構成によれば、簡素な構成にて、転動路及び還流路間において、より円滑に各ボールを循環させることができる。その結果、振動や音の発生を抑えて高い静粛性を確保することができる。また、二つの仮想平面と直交する方向を、金型の接離方向(移動方向)に設定することによって、二個一組の金型を用いて、同ディフレクタを成形することができる。その結果、その製造工程を簡素化して、製造コストを低減することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記掬い上げ部に掬い上げられた各ボールを前記接続部に誘導する側壁を備えるとともに、該側壁上における任意の点の全てが前記各仮想平面の何れか一方に臨むこと、を要旨とする。
【0012】
上記構成によれば、各掬い上げ部に掬い上げられた各ボールは、各側壁に誘導されつつ各掬い上げ部から接続部へと移動する。その結果、より円滑にボールを循環させることができる。また、例えば、接続部における各ボールとの対向面を表面、非対向面を裏面として、その表面側及び裏面側に、それぞれ上記仮想平面を設定する。そして、その二つの仮想平面と直交する方向を、金型の接離方向に設定することによって、二個一組の金型を用いて上記側壁を備えたディフレクタを成形することができる。その結果、円滑な各ボールの循環を担保しつつ、その製造工程を簡素化して、製造コストを低減させることができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は、前記側壁は、前記接続部の長さ方向両端において前記各掬い上げ部から前記接続部に連続するように形成されるとともに、前記側壁から延設されて前記接続部に対向する上壁を備え、且つ該上壁上における任意の点の全てが前記各仮想平面の何れか一方に臨むとともに、前記接続部には、前記側壁及び前記上壁の形成されない平坦部が設けられること、を要旨とする。
【0014】
上記構成によれば、掬い上げ部に掬い上げられた各ボールは、側壁及び前記上壁に誘導されつつ、各掬い上げ部の一方から接続部へ、更に接続部から他方側の掬い上げ部へと移動する。その結果、より円滑に各ボールを循環させることができる。また、その接続部に設けられた平坦部(の表面又は裏面)上に各側壁及び各上壁と交わることなく延長可能な直線を設定し、この直線と直交するように、同ディフレクタを挟んで上記各仮想平面を設定する。そして、その直線に沿った方向を、金型の接離方向に設定することによって、二個一組の金型を用いて上記側壁及び上壁を備えたディフレクタを成形することができる。その結果、円滑な各ボールの循環を担保しつつ、その製造工程を簡素化して、製造コストを低減させることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のディフレクタを備えたボール螺子装置であること、を要旨とする。
上記構成によれば、円滑なボール循環を担保しつつ、容易に製造可能なディフレクタを提供することができる。
【0016】
請求項5に記載の発明は、前記掬い上げ部及び前記接続部の少なくとも一方が可撓性を有し、前記取付部は、前記ボール螺子ナットの内周に開口して前記ディフレクタの掬い上げ部が挿入される一対の貫通孔を有するとともに、前記各貫通孔は、前記ボール螺子ナットの径方向に対して傾斜する方向に延設されること、を要旨とする。
【0017】
上記構成によれば、掬い上げ部及び接続部の少なくとも一方を撓めることで、ディフレクタを取付部へ取着する際の組付け性を大幅に向上させることができる。そして、これにより、上記のような複雑な形状の取付部を採用することができる。即ち、各掬い上げ部に掬い上げられた各ボールは、各貫通孔の壁面に案内される態様で、各掬い上げ部の先端側から基端側に向かって移動する。その結果、より円滑に各ボールを循環させることができる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は請求項5に記載のボール螺子装置を備えた電動パワーステアリング装置であること、を要旨とする。
上記構成によれば、その静粛性を損なうことなく、製造容易且つ安価なパワーステアリング装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、円滑なボール循環を担保しつつ、製造容易なディフレクタ、及び同ディフレクタを備えたボール螺子装置並びに電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成を示す断面図。
【図2】ボール螺子装置近傍の拡大断面図。
【図3】ボール螺子ナットの平面図。
【図4】ボール螺子ナットのA−A断面図。
【図5】(a)ディフレクタの平面図、(b)ディフレクタの側面図、(c)ディフレクタの底面図。
【図6】(a)ディフレクタの正面図、(b)ディフレクタのB−B断面図。
【図7】ディフレクタの斜視図。
【図8】取付部にディフレクタを取着したボール螺子ナットの平面図。
【図9】取付部にディフレクタを取着したボール螺子ナットのA−A断面図。
【図10】(a)ディフレクタの素材となる金属材料の平面図、(b)同金属材料の正面図、(c)同金属材料の側面図。
【図11】ディフレクタと金型設計の基礎となる一対の仮想平面との関係を側面から示す説明図。
【図12】ディフレクタと金型設計の基礎となる一対の仮想平面との関係を正面から示す説明図。
【図13】取付部にディフレクタを取着したボール螺子ナットのC−C断面図。
【図14】第2の実施形態におけるディフレクタの斜視図。
【図15】第2の実施形態におけるディフレクタの平面図。
【図16】第2の実施形態におけるディフレクタと金型設計の基礎となる一対の仮想平面との関係を側面から示す説明図。
【図17】第3の実施形態におけるディフレクタの平面図。
【図18】第3の実施形態におけるディフレクタの側面図。
【図19】第3の実施形態におけるディフレクタの斜視図。
【図20】第3の実施形態におけるディフレクタと金型設計の基礎となる一対の仮想平面との関係を平面(表面)から示す説明図。
【図21】取付部にディフレクタを取着した別例のボール螺子ナットの平面図。
【図22】取付部にディフレクタを取着した別例のボール螺子ナットのA−A断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[第1の実施形態]
以下、本発明を具体化した第1の実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、本実施形態のEPS1において、略円筒状をなすハウジング2に挿通されたラック軸3は、ラックガイド及び滑り軸受(ともに図示略)に支承されることにより、その軸方向に沿って移動可能に収容支持されている。そして、同ラック軸3は、周知のラック&ピニオン機構を介してステアリングシャフトと連結されることにより、ステアリング操作に伴い軸方向移動するようになっている。
【0022】
また、EPS1は、駆動源としてのモータ4と、同モータ4の回転をラック軸3の軸方向移動に変換するボール螺子装置5とを備えている。そして、本実施形態のEPS1は、これらラック軸3、モータ4及びボール螺子装置5が、ハウジング2内に一体に収容された所謂ラックアシスト型のEPSとして構成されている。
【0023】
詳述すると、本実施形態のモータ4は、中空軸状に形成されたモータ軸6を有しており、同モータ軸6は、ハウジング2の内周に設けられた軸受7に支承されることより、同ハウジング2の軸方向に沿って配置されている。また、本実施形態のモータ4では、このモータ軸6の周面にマグネット8を固着することによりロータ9が形成されている。更に、そのロータ9の径方向外側を包囲するステータ10は、ハウジング2の内周に固定されている。そして、本実施形態のモータ4は、そのモータ軸6内にラック軸3が挿通されることにより、ハウジング2内においてラック軸3と同軸に配置されている。
【0024】
また、本実施形態のラック軸3は、その外周に螺子溝11を螺刻することにより螺子軸として構成されている。そして、本実施形態のボール螺子装置5は、このラック軸3に複数のボール12を介してボール螺子ナット13を螺着することにより形成されている。
【0025】
具体的には、図2に示すように、略円筒状に形成されたボール螺子ナット13の内周には、上記ラック軸3側の螺子溝11に対応する螺子溝14が形成されており、ボール螺子ナット13は、その螺子溝14がラック軸3側の螺子溝11と対向するように同ラック軸3に外嵌されている。そして、各ボール12は、これら二つの螺子溝11,14が対向することにより形成される螺旋状の転動路L1内に配設されている。
【0026】
また、ボール螺子ナット13には、螺子溝14内の二箇所(接続点P1,P2)に開口する還流路L2が形成されている。そして、上記転動路L1は、この還流路L2により、その開口位置に対応する二つの接続点P1,P2間が短絡されている。
【0027】
即ち、ラック軸3とボール螺子ナット13との間の転動路L1内に介在された各ボール12は、ラック軸3に対するボール螺子ナット13の相対回転により、その負荷を受けつつ転動路L1内を転動する。また、転動路L1内を転動した各ボール12は、更に、ボール螺子ナット13に形成された上記還流路L2を通過することにより、その転動路L1に設定された二つの接続点P1,P2間を下流側から上流側へと移動する。そして、ボール螺子装置5は、その転動路L1を転動する各ボール12が還流路L2を介して無限循環することにより、ボール螺子ナット13の回転をラック軸3の軸方向移動に変換する構成となっている。
【0028】
本実施形態では、ボール螺子ナット13の一端(図2中、右側の端部13a)には、その軸線に沿って、外周に雄螺子15が螺刻された螺子軸16が延設されている。また、モータ軸6の軸端(同図中、左側の軸方向端部6a)の内周には、上記ボール螺子ナット13側の雄螺子15に対応する雌螺子17が刻設されている。そして、同ボール螺子ナット13は、これらの雄螺子15及び雌螺子17を螺合させることにより、モータ軸6の軸方向端部6aに連結されている。
【0029】
即ち、駆動源であるモータ4の回転は、そのモータ軸6とともにボール螺子ナット13が一体回転することにより変換手段としてのボール螺子装置5に入力される。そして、本実施形態のEPS1は、そのモータトルクに基づき軸方向移動するラック軸3の押圧力を、ステアリング操作を補助するためのアシスト力として、操舵系に付与する構成となっている。
【0030】
(ボール還流構造)
次に、本実施形態のボール螺子装置におけるボール還流構造、及びその還流路を形成するディフレクタについて説明する。
【0031】
図2に示すように、本実施形態では、ボール螺子ナット13の外周19に凹設された取付部20に対して、同ボール螺子ナット13とラック軸3との間の転動路L1から各ボール12を掬い上げる機能(及び転動路L1への再排出機能)を備えたディフレクタ21が取着される。そして、この取付部20の開口部を蓋部材22により閉塞することによって、上記のような還流路L2が形成されている。尚、同図(及び図1)では、還流路L2を通過する各ボール12の動きを説明する便宜上、ディフレクタ21の一部(後述する掬い上げ部31,32)の記載が省略されている。
【0032】
詳述すると、図3及び図4に示すように、取付部20は、上記のように還流路L2が転動路L1を短絡する二点(接続点P1,P2)に対応する位置において、ボール螺子ナット13の内周23に開口する一対の貫通孔24,25を備えている。具体的には、貫通孔24,25の形成位置は、ボール螺子ナット13の周方向(図3中、上下方向)においては、互いの位置がずれるように設定されている。そして、当該ボール螺子ナット13の軸方向(図4中、左右方向)においては、両者の間に複数列の螺子溝14を挟むよう離間した位置に設定されている。
【0033】
また、取付部20は、これらの各貫通孔24,25に連接する収容凹部26を備えている。尚、本実施形態では、各貫通孔24,25は、その開口形状(ボール螺子ナット13の径方向外側(又は径方向内側)から見た場合の形状)が略小判形となるように形成されている。また、収容凹部26は、両者の最近接位置において各貫通孔24,25を接続するように、ボール螺子ナット13の軸方向に沿って延設されている。そして、当該収容凹部26、及び上記各貫通孔24,25の周縁には、上記蓋部材22を取着するための取付凹部27が形成されている。
【0034】
一方、図5(a)〜(c)、図6(a)(b)、及び図7に示すように、本実施形態のディフレクタ21は、上記各貫通孔24,25に挿入されることにより転動路L1から各ボール12を掬い上げる機能を奏する一対の掬い上げ部31,32と、これら各掬い上げ部31,32の間を接続する接続部33とを備えてなる。
【0035】
具体的には、本実施形態では、各掬い上げ部31,32は、接続部33の長さ方向(図5中、左右方向)両端から、当該接続部33における幅方向(図5中、上下方向)、互いに相反する側に向かって延設される。更に、各掬い上げ部31,32は、それぞれの基端31b,32bにおいて、図5(a)に示される表面Sa側から図5(c)に示される裏面Sb側へ屈曲されている。また、各掬い上げ部31,32及び接続部33は、その表面Sa側が凹(裏面Sb側に凸)となるように、それぞれ幅方向に湾曲して形成されている。尚、各掬い上げ部31,32については、図5中、左右方向が「幅方向」である。そして、接続部33の長さ方向の両端部については、当該接続部33の湾曲形状と各掬い上げ部31,32の湾曲形状が滑らかに連続するように形成されている。
【0036】
図8及び図9に示すように、本実施形態のディフレクタ21は、その表面Saを開口部側(図9中、上側)に向けた状態で取付部20に取着される。そして、各掬い上げ部31,32が対応する各貫通孔24,25に挿入され、接続部33が収容凹部26内に収容されることにより、その表面Saを各ボール12との対向面(接触面)として、取付部20の開口部を閉塞する蓋部材22とともに還流路L2を形成する構成となっている。
【0037】
詳述すると、各掬い上げ部31,32は、それぞれ、その先端31a,32aがボール螺子ナット13とラック軸3との間の転動路L1内に突出する態様で各貫通孔24,25に挿入される。これにより、その転動路L1を転動する各ボール12は、後続のボール12に押し上げられる形で、各掬い上げ部31,32上、即ち表面Sa側に掬い上げられる。そして、その表面Sa側を凹とする湾曲形状に案内される態様で、各ボール12が上記掬い上げ部31,32の一方側から接続部33を介して他方側に移動することにより、上記のように同転動路L1内に設定された二点(接続点P1,P2)間を短絡する還流路L2が形成されるようになっている。
【0038】
ここで、本実施形態のディフレクタ21は、接離方向に直線移動する二個一組の金型を用いて、図10(a)〜(c)に示されるような薄板状の金属材料M1をプレス加工することにより形成される。
【0039】
即ち、図11及び図12に示すように、本実施形態のディフレクタ21は、同ディフレクタ21を挟んで表面Sa側(各図中、上側)及び裏面Sb側(各図中、下側)において平行する一対の仮想平面S1,S2を設定した場合、各掬い上げ部31,32及び接続部33上における任意の点の全てが、これら各仮想平面S1,S2の何れか一方に臨む形状となっている。
【0040】
具体的には、表面Sa上の任意の点は、全て第1の仮想平面S1に臨み、裏面Sb上の任意の点は、全て第2の仮想平面S2に臨む。従って、これら二つの仮想平面S1,S2と直交する方向(各図中、上下方向)を金型の接離方向に設定することで、二個一組の金型を用いたプレス加工により、図5(a)〜(c)、図6(a)(b)、及び図7に示すような形状のディフレクタ21を成形することができる。即ち、図10(a)〜(c)に示される金属材料M1の各部m1〜m3は、それぞれ各掬い上げ部31,32及び接続部33に対応する形状となっている。そして、本実施形態では、これにより、そのディフレクタ21の製造工程を簡素化して、製造コストの低減を図る構成となっている。
【0041】
また、このように薄板状の金属材料M1を素材としたプレス加工により成形される本実施形態のディフレクタ21は、その各掬い上げ部31,32及び接続部33が可撓性を有している。そして、図13に示すように、本実施形態では、このディフレクタ21の可撓性を活かし、上記取付部20において各掬い上げ部31,32が挿入される各貫通孔24,25は、そのボール螺子ナット13の径方向(同図中、一点鎖線N1に示す方向)に対して傾斜する方向(同図中、一点鎖線N2に示す方向)に延設されている。
【0042】
具体的には、各貫通孔24,25は、上記のように接続部33の長さ方向両端から裏面Sb側に屈曲された各掬い上げ部31,32の形状に対応するように、ボール螺子ナット13の径方向に対して傾斜する方向に延設されている。即ち、本実施形態のディフレクタ21は、その接続部33を捻るように撓めた状態で取付部20に組み付けられることにより、その各掬い上げ部31,32が各貫通孔24,25内に挿入される。そして、本実施形態では、各掬い上げ部31,32の表面Saに対向する各貫通孔24,25の壁面36が当該各掬い上げ部31,32に掬い上げられた各ボール12を案内することによって、より円滑に各ボール12を循環させることが可能となっている。
【0043】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)ディフレクタ21は、一対の掬い上げ部31,32と、これら各掬い上げ部31,32の間を接続する接続部33とを備えてなる。そして、同ディフレクタ21は、同ディフレクタ21を挟んで表面Sa側及び裏面Sb側において平行する一対の仮想平面S1,S2を設定した場合、各掬い上げ部31,32及び接続部33上における任意の点の全てが、これら各仮想平面S1,S2の何れか一方に臨む形状を有する。
【0044】
上記構成によれば、簡素な構成にて、転動路L1及び還流路L2において、より円滑にボール12を循環させることができる。また、二つの仮想平面S1,S2と直交する方向を、金型の接離方向に設定することによって、二個一組の金型のみを用いてディフレクタ21を成形することができる。その結果、同ディフレクタ21の製造工程を簡素化して、その製造コストを低減することができる。
【0045】
(2)ディフレクタ21は、その各掬い上げ部31,32及び接続部33が可撓性を有する。これにより、その取付部20への組付け性が向上する。
(3)ディフレクタ21は、薄板状の金属材料M1を素材としたプレス加工により形成される。これにより、容易且つ低コストにて同ディフレクタ21を製造することができるとともに、併せて同ディフレクタ21に可撓性を持たせることができる。
【0046】
(4)各掬い上げ部31,32及び接続部33は、その表面Sa側が凹(裏面Sb側に凸)となるように、それぞれ幅方向に湾曲して形成される。これにより、各ボール12は、その表面Sa側を凹とする湾曲形状に案内される態様で、掬い上げ部31,32の一方側から接続部33を介して他方側に移動する。その結果、より円滑にボール12を循環させることができるようになる。
【0047】
(5)各貫通孔24,25は、接続部33の長さ方向両端から裏面Sb側に屈曲された各掬い上げ部31,32の形状に対応するように、ボール螺子ナット13の径方向に対して傾斜する方向に延設される。このような構成とすることで、各掬い上げ部31,32に掬い上げられた各ボール12は、各貫通孔24,25の壁面36に案内される態様で、各掬い上げ部31,32(の表面Sa)上を、その先端31a,32a側から基端31b,32b側に向かって移動する。その結果、より円滑に各ボール12を循環させることができる。
【0048】
[第2の実施形態]
以下、本発明を具体化した第2の実施形態を図面に従って説明する。尚、説明の便宜のため、上記第1の実施形態と同一の構成については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0049】
図14〜図16に示すように、本実施形態のディフレクタ41は、上記第1の実施形態におけるディフレクタ21と同様に、湾曲板状をなす一対の掬い上げ部31,32及び接続部33を備えている。そして、これら掬い上げ部31,32及び接続部33に加え、その各掬い上げ部31,32に掬い上げられたボールを接続部33に誘導する側壁42,43を備えて構成されている。
【0050】
詳述すると、本実施形態では、各側壁42,43は、接続部33の長さ方向(図15及び図16中、左右方向)両端の外側において、各掬い上げ部31,32の側端(幅方向端部)に立設されている。そして、各側壁42,43は、各掬い上げ部31,32の先端31a,32aから基端31b,32bに向かって延設されるとともに、更に当該各掬い上げ部31,32の基端31b,32bから接続部33の側端(幅方向端部)に連続する湾曲形状を有して構成されている。
【0051】
即ち、各掬い上げ部31,32に掬い上げられた各ボール12は、各側壁42,43に案内される態様で、先端31a,32a側から基端31b,32b側に向かって移動する。そして、各ボール12は、更に、接続部33の長さ方向両端部において各側壁42,43が形成する湾曲面46に案内される態様で、各掬い上げ部31,32から接続部33へと誘導される。
【0052】
さらに詳述すると、図16に示すように、本実施形態のディフレクタ41は、上記第1の実施形態におけるディフレクタ21と同様、その接続部33の表面Sa側及び裏面Sb側において平行する一対の仮想平面S1,S2を設定した場合、各掬い上げ部31,32、接続部33、及び各側壁42,43上における任意の点の全てが何れか一方に臨む形状となっている。
【0053】
即ち、各掬い上げ部31,32及び接続部33と同様、各側壁42,43における各ボール12との対向面を表面Sa、非対向面を裏面Sbとすると、その表面Sa上の任意の点は、全て第1の仮想平面S1に臨み、その裏面Sb上の点は、全て第2の仮想平面S2に臨む。従って、本実施形態のディフレクタ41もまた、その二つの仮想平面S1,S2と直交する方向(図16中、上下方向)において接離する二個一組の金型を用いて形成することができる。
【0054】
尚、本実施形態のディフレクタ41は、このような金型を用いた樹脂成形、又は金属粉末射出成形により製造される。そして、本実施形態では、これにより、より円滑な各ボール12の循環を実現しつつ、ディフレクタ41の製造工程を簡素化し、製造コストの低減を図る構成となっている。
【0055】
[第3の実施形態]
以下、本発明を具体化した第3の実施形態を図面に従って説明する。尚、説明の便宜のため、上記第2の実施形態と同一の構成については、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0056】
図17〜図20に示すように、本実施形態においては、上記第1及び第2の実施形態における各ディフレクタ21,41にみられるような各掬い上げ部31,32及び接続部33の湾曲形状は設定されていない。即ち、本実施形態のディフレクタ50では、各掬い上げ部51,52及び接続部53は、それぞれ、その表面Sa及び裏面Sbが幅方向において平坦となる板状に形成されている。そして、本実施形態のディフレクタ50には、更に、接続部53の表面Saと対向するように当該接続部53に並行して各側壁42,43から延びる上壁54,55が設けられている。
【0057】
詳述すると、本実施形態のディフレクタ50において、各側壁42,43は、上記第2の実施形態におけるディフレクタ41と同様、各掬い上げ部51,52の幅方向における一方の端部に形成されている。そして、当該各側壁42,43は、それぞれ接続部53の側端(幅方向端部)にまで延設されている。
【0058】
また、各掬い上げ部51,52、接続部53及び各側壁42,43と同様、各上壁54,55についても、その各ボール12との対向面を表面Saとすると、その接続部53の長さ方向両端部に対応する位置には、当該各上壁54,55と各側壁42,43(の湾曲面46)とが、表面Sa側において滑らかに連続するような湾曲面56が形成されている。即ち、各掬い上げ部51,52に掬い上げられた各ボール12は、この湾曲面56(及び各側壁42,43の湾曲面46)に案内される態様で、各掬い上げ部51,52から接続部53へと誘導される。そして、本実施形態では、その各ボール12が、更に各上壁54,55に案内される態様で、接続部53上を移動することにより、当該各ボール12の円滑な循環が実現されるようになっている。
【0059】
ここで、本実施形態のディフレクタ50は、その接続部53の中央部に、各側壁42,43及び各上壁54,55が形成されない平坦部57を有している。そして、この接続部53に設けられた平坦部57(の表面Sa又は裏面Sb)上に、各側壁42,43及び各上壁54,55と交わることなく延長可能な直線Nを設定し、及び同ディフレクタ50を挟んで平行配置されるとともに上記直線Nと直交する一対の仮想平面S3,S4を設定することが可能となっている。
【0060】
尚、本実施形態のディフレクタ50は、その平坦部57上の点Pを対称中心として点対称となる形状を有しており、図20中、直線Nは、この点Pを通る直線となっている。そして、本実施形態のディフレクタ50は、その各掬い上げ部51,52、接続部53、各側壁42,43、及び各上壁54,55上における任意の点の全てが、これらの各仮想平面S3,S4の何れか一方に臨む形状を有している。
【0061】
即ち、図20中、直線Nよりも左側に位置する掬い上げ部51、側壁42、及び上壁54、及び接続部53の左半分については、その表面Sa上の任意の点は、全て、同図中、下側に位置する仮想平面S4に臨み、その裏面Sb上の任意の点は、全て、同図中、上側に位置する仮想平面S3に望む。同様に、同図中、直線Nよりも右側に位置する掬い上げ部52、側壁43、及び上壁55、及び接続部53の右半分については、その表面Sa上の任意の点は、全て、同図中、上側に位置する仮想平面S3に臨み、その裏面Sb上の任意の点は、全て、同図中、下側に位置する仮想平面S4に望む。従って、本実施形態のディフレクタ50もまた、その二つの仮想平面S3,S4と直交する方向、即ち図20中に示される直線Nに沿って接離する方向に移動する二個一組の金型を用いて形成することができる。そして、本実施形態では、これにより、ディフレクタ50の製造工程を簡素化し、製造コストの低減を図る構成となっている。
【0062】
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記各実施形態では、本発明をEPS用のボール螺子装置5に具体化したが、EPS以外の用途に用いられるものに適用してもよい。そして、EPSに適用する場合においても、そのモータ配置については、特に限定するものではなく、例えば、モータとラック軸とが平行配置される所謂パラレル型や、モータの軸線がラック軸と斜交するように配置されるラッククロス型のEPSに適用してもよい。
【0063】
・上記第1及び第2の実施形態では、各掬い上げ部31,32及び接続部33は、その表面Sa側が凹(裏面Sb側に凸)となるように、それぞれ幅方向に湾曲して形成されることとした。しかし、これに限らず、第3の実施形態における各掬い上げ部51,52及び接続部53と同様、その表面Sa及び裏面Sbが幅方向において平坦となる板状に形成してもよい。
【0064】
このような構成とすることで、その成形用の金型を設計する際に基礎とする各仮想平面を設定する際の自由度が高くなる。具体的には、例えば、図20に示す第3の実施形態における仮想平面S3,S4のように、その表面Sa(又は裏面Sb)上の直線(N)と直交する態様で各仮想平面を設定することが可能になる。そして、これにより、設計自由度が向上するとともに、更なる製造工程の容易化を図ることが可能になる。
【0065】
・上記第2の実施形態では、各側壁42,43は、接続部33の長さ方向(図15及び図16中、左右方向)両端の外側において、各掬い上げ部31,32の側端(幅方向端部)に立設される。そして、各掬い上げ部31,32の先端31a,32aから基端31b,32bに向かって延設されて、当該各掬い上げ部31,32の基端31b,32bから接続部33の側端(幅方向端部)に連続する湾曲形状を有することとした。
【0066】
しかし、これに限らず、上記第2の実施形態と同様、その接続部33の表面Sa側及び裏面Sb側において平行する一対の仮想平面S1,S2を設定した場合に、各掬い上げ部31,32、接続部33、及び各側壁42,43上における任意の点の全てが何れか一方に臨む形状であれば、当該各側壁42,43の形状は、これに限るものではない。即ち、例えば、接続部33の幅方向両端において、その長手方向に沿うように各側壁を延設する。或いは、各掬い上げ部31,32の幅方向両端において、その長手方向に沿うように各側壁を延設する等としてもよい。これにより、より円滑に各ボール12を循環させることができるようになる。
【0067】
・上記各実施形態では、各貫通孔24,25は、接続部33(53)の長さ方向両端から裏面Sb側に屈曲された各掬い上げ部31,32(51,52)の形状に対応するように、ボール螺子ナット13の径方向に対して傾斜する方向に延設されることした。しかし、これに限らず、ボール螺子ナット13の径方向(図13中、一点鎖線N1に示す方向)に沿って各貫通孔を延設する構成であってもよい。
【0068】
・また、図21及び図22に示すボール螺子ナット60のように、当該ボール螺子ナット60の外周19側において、各貫通孔61,62の一部を覆うような鍔部64,65を設ける。尚、この例においては、各鍔部64,65は、取付部63内に取着されたディフレクタ21の各掬い上げ部31,32と接続部33とを接続する湾曲形状に対応した部分を覆う位置に設けられている。そして、この鍔部64,65に各ボール12を案内する湾曲面66を形成することにより、各掬い上げ部31,32に掬い上げられた各ボール12を接続部33に誘導する構成としてもよい。これにより、より円滑に各ボール12を循環させることができる。
【0069】
次に、以上の実施形態から把握することのできる技術的思想を効果とともに記載する。
(イ)前記掬い上げ部及び前記接続部の少なくとも一方が、前記各ボールとの対向面が凹となるように幅方向に湾曲して形成されること、を特徴とするディフレクタ。
【0070】
上記構成によれば、各ボールは、当該各ボールとの対向側を凹とする湾曲形状に案内される態様で、掬い上げ部の一方側から接続部を介して他方側に移動する。その結果、より円滑にボールを循環させることができる。また、接続部における各ボールとの対向面を表面、非対向面を裏面として、その表面側及び裏面側にそれぞれ仮想平面を設定する。そして、これら二つの仮想平面と直交する方向を、金型の接離方向に設定することによって、二個一組の金型を用いて上記湾曲形状を有したディフレクタを成形することができる。その結果、円滑な各ボールの循環を担保しつつ、その製造工程を簡素化して、製造コストを低減させることができる。
【0071】
(ロ)前記取付部は、前記ボール螺子ナットの内周に開口して前記ディフレクタの掬い上げ部が挿入される一対の貫通孔を有するとともに、前記ボール螺子ナットの外周側において前記各貫通孔の一部を覆うことにより前記掬い上げ部に掬い上げられた各ボールを前記接続部に誘導する鍔部を備えること、を特徴とするボール螺子装置。
【0072】
上記構成によれば、各掬い上げ部に掬い上げられた各ボールは、鍔部に誘導されつつ各掬い上げ部から接続部に向かって移動する。その結果、より円滑に各ボールを循環させることができる。
【符号の説明】
【0073】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、3…ラック軸、4…モータ、5…ボール螺子装置、6…モータ軸、6a…軸方向端部、11…螺子溝、12…ボール、13…ボール螺子ナット、14…螺子溝、19…外周、20…取付部、21…ディフレクタ、23…内周、24,25…貫通孔、26…収容凹部、27…取付凹部、31,32…掬い上げ部、31a,32a…先端、31b,32b…基端、33…接続部、36…壁面、41…ディフレクタ、42,43…側壁、46…湾曲面、50…ディフレクタ、51,52…掬い上げ部、53…接続部、54,55…側壁、56…湾曲面、57…平坦部、60…ボール螺子ナット、61,62…貫通孔、63…取付部、64,65…鍔部、66…湾曲面、L1…転動路、L2…還流路、M1…金属材料、Sa…表面、Sb…裏面、S1〜S4…仮想平面、N…直線。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の掬い上げ部と、該各掬い上げ部間を接続する接続部とを備え、ボール螺子ナットの外周に凹設された取付部に取着されることにより該ボール螺子ナットと螺子軸との間に介在された各ボールの還流路を形成するディフレクタであって、
平行に配置される一対の仮想平面間において、前記各掬い上げ部及び接続部上における任意の点の全てが前記仮想平面の何れか一方に臨むこと、を特徴とするディフレクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のディフレクタにおいて、
前記掬い上げ部に掬い上げられた各ボールを前記接続部に誘導する側壁を備えるとともに、該側壁上における任意の点の全てが前記各仮想平面の何れか一方に臨むこと、
を特徴とするディフレクタ。
【請求項3】
請求項2に記載のディフレクタにおいて、
前記側壁は、前記接続部の長さ方向両端において前記各掬い上げ部から前記接続部に連続するように形成されるとともに、前記側壁から延設されて前記接続部に対向する上壁を備え、且つ該上壁上における任意の点の全てが前記各仮想平面の何れか一方に臨むとともに、前記接続部には、前記側壁及び前記上壁の形成されない平坦部が設けられること、
を特徴とするディフレクタ。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のディフレクタを備えたボール螺子装置。
【請求項5】
請求項4に記載のボール螺子装置において、
前記掬い上げ部及び前記接続部の少なくとも一方が可撓性を有し、
前記取付部は、前記ボール螺子ナットの内周に開口して前記ディフレクタの掬い上げ部が挿入される一対の貫通孔を有するとともに、前記各貫通孔は、前記ボール螺子ナットの径方向に対して傾斜する方向に延設されること、を特徴とするボール螺子装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載のボール螺子装置を備えた電動パワーステアリング装置。
【請求項1】
一対の掬い上げ部と、該各掬い上げ部間を接続する接続部とを備え、ボール螺子ナットの外周に凹設された取付部に取着されることにより該ボール螺子ナットと螺子軸との間に介在された各ボールの還流路を形成するディフレクタであって、
平行に配置される一対の仮想平面間において、前記各掬い上げ部及び接続部上における任意の点の全てが前記仮想平面の何れか一方に臨むこと、を特徴とするディフレクタ。
【請求項2】
請求項1に記載のディフレクタにおいて、
前記掬い上げ部に掬い上げられた各ボールを前記接続部に誘導する側壁を備えるとともに、該側壁上における任意の点の全てが前記各仮想平面の何れか一方に臨むこと、
を特徴とするディフレクタ。
【請求項3】
請求項2に記載のディフレクタにおいて、
前記側壁は、前記接続部の長さ方向両端において前記各掬い上げ部から前記接続部に連続するように形成されるとともに、前記側壁から延設されて前記接続部に対向する上壁を備え、且つ該上壁上における任意の点の全てが前記各仮想平面の何れか一方に臨むとともに、前記接続部には、前記側壁及び前記上壁の形成されない平坦部が設けられること、
を特徴とするディフレクタ。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のディフレクタを備えたボール螺子装置。
【請求項5】
請求項4に記載のボール螺子装置において、
前記掬い上げ部及び前記接続部の少なくとも一方が可撓性を有し、
前記取付部は、前記ボール螺子ナットの内周に開口して前記ディフレクタの掬い上げ部が挿入される一対の貫通孔を有するとともに、前記各貫通孔は、前記ボール螺子ナットの径方向に対して傾斜する方向に延設されること、を特徴とするボール螺子装置。
【請求項6】
請求項4又は請求項5に記載のボール螺子装置を備えた電動パワーステアリング装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2012−112470(P2012−112470A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262800(P2010−262800)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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