説明

ディンプル成形バニシング工具

【課題】ディンプルの形状を簡単に調整することができるディンプル成形バニシング工具を提供する。
【解決手段】後端側を加工機に装着して回転させるマンドレル(30)と、このマンドレルの先端側に回転自在に外嵌され、マンドレルの回転に従動する転動体(41)および押圧体(42)を保持する筒状のフレーム(40)とを有し、フレームをワークの内周面に挿入して、マンドレルを回転させることにより、ワークの内周面にディンプルを成形するディンプル成形バニシング工具において、マンドレルは、転動体をフレームの径方向へ出没させることなく回転させる転動体回転部(33b)と、押圧体をフレームの径方向へ出没させつつ回転させる押圧体出没回転部(33a)とから成るディンプル調整機構を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバニシング工具に関し、特にディンプルを成形するバニシング工具に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、エンジンやハードディスクドライブに代表される流体軸受面等の回転数が高く、しかも高温となるような過酷な条件で使用される摺動部材には、潤滑性能を向上させるために、摺動面に微細な溝やディンプルを成形して摺動面の摩擦抵抗を低減する技術が知られている。従来、摺動面にディンプルを成形する技術としては、いわゆるWPC処理(微粒子ショットピーニング)やレーザ加工、あるいはバレル研磨などを利用したものがある。
【0003】
一方、バニシング加工は、ワークに対して転圧ローラを押圧しながら回転させて、ワークの加工表面を押し潰すように変形させることで、表面硬度および面粗さを向上させる塑性加工の一種である。摺動面にバニシング加工を施すことで、耐久性、耐磨耗性、および信頼性を大幅に向上させることができる。
【0004】
ここで、ワークの内周面にディンプルを成形しながらバニシング加工を行うことができる工具として、例えば、特許文献1に記載の技術が公知である。この特許文献1に記載のディンプル成形バニシング工具は、加工機に装着して回転させるマンドレルと、このマンドレルに対して回転自在に外嵌されたリテーナ(フレーム)とを備えている。このリテーナは、複数のローラ(転動体)および複数のボール(押圧体)を回転自在、かつ、リテーナの外周面から径方向に出没自在に保持している。そして、マンドレルが回転すると、マンドレルの外周面に形成された凸部がローラおよびボールと係合して、ローラおよびボールがワークの内周面に対して振動しながら転動する。こうして、ワークの内周面にディンプルが成形されるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−301645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、マンドレルの断面形状が多角形を成しているため、マンドレルが回転すると、ローラとボールの両方が同時にリテーナの外周面から径方向に出没し、ディンプルの形状(溝幅、溝長さ、溝深さなど)を調整することが困難であるという課題が残されていた。特に、ワーク内周面に正確に工具が配置されていないと、ディンプル成形の開始時におけるローラおよびボールの径方向に出没する移動量が変化してしまうため、安定した成形加工を行うことができず、益々ディンプルの形状を調整するのは難しくなる。さらに、特許文献1に記載の工具では、ワークの内周面を加工した後に工具を引き戻す際に、ツール径が縮小しないため、工具を引き戻す工程(所謂、ツール戻し時)においてもディンプルが成形されるといった課題も残されていた。
【0007】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、その目的は、ディンプルの形状を簡単に調整することができるディンプル成形バニシング工具を提供することにある。加えて、工具をワークから引き戻す際に、ディンプルが成形されることのないディンプル成形バニシング工具を提供することも、本発明の別の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、後端側を加工機に装着して回転させるマンドレルと、このマンドレルの先端側に回転自在に外嵌され、前記マンドレルの回転に従動する転動体および押圧体を保持する筒状のフレームとを有し、前記フレームをワークの内周面に挿入して、前記マンドレルを回転させることにより、前記ワークの内周面にディンプルを成形するディンプル成形バニシング工具において、前記マンドレルは、前記転動体を前記フレームの径方向へ出没させることなく回転させる転動体回転部と、前記押圧体を前記フレームの径方向へ出没させつつ回転させる押圧体出没回転部とから成るディンプル調整機構を備えたことを特徴としている。
【0009】
本発明によれば、マンドレルが転動体回転部と押圧体出没回転部とから成るディンプル調整機構を備えているので、転動体がフレームの径方向へ出没することなく回転して、ワーク内周面のバニシング加工を安定して行うことができる。さらに、押圧体がフレームの径方向へ出没しながら回転して、所望のディンプルを成形することができる。このように、本発明によれば、マンドレルが回転しても、転動体が押圧体と同時に径方向へ出没することを防止でき、従来に比べて、ディンプルの形状(溝幅、溝長さ、溝深さなど)の調整を簡単に行うことができる。
【0010】
ここで、複数の押圧体としてボールを用いると、コンロッドの油穴や交差穴等のようなワークの内周面に交差する方向に穴や溝が形成されている場合には、油穴等の周囲のエッジ部にボールが衝突ないし押圧されるため、油穴等のエッジ部のバリ取りをも同時に行うことができるといった利点がある。また、複数の転動体としてローラを用いると、転圧加工時の押圧面積を拡大することができ、面粗度の良好な仕上げ面を得ることができるといった利点がある。
【0011】
また、上記構成において、前記フレームの同一円周上には、前記転動体としての複数のローラと、前記押圧体としての複数のボールとが交互に間隔を空けて配置されると共に、前記ローラは、その軸心が前記フレームの軸心方向を向くようにして配置され、前記ローラの長さは、前記ボールの直径を超えるものであり、前記マンドレルは、その先端側に、先端に行くほど縮径したテーパ部が形成され、前記テーパ部は、その外周面に、前記押圧体出没回転部としての第1領域と、この第1領域を挟んで前記マンドレルの軸心方向の両側に形成された、前記転動体回転部としての第2領域とを有し、前記第1領域には、円周方向に間隔を空けて複数の平坦部が形成されていて、その断面が多角形形状を成す一方、前記第2領域の断面は円形状を成しており、前記平坦部の長さは、前記ボールの直径を超え、かつ、前記ローラの長さ未満であり、前記マンドレルに前記フレームを装着すると、前記ローラは、前記第1領域の前記平坦部と接触することなく前記第2領域と接触する一方、前記ボールは、前記第1領域とだけ接触するよう構成されているのが好ましい。
【0012】
本発明の押圧体出没回転部としての第1領域は、複数の平坦部が形成されており、断面が多角形形状であるため、仮に、ローラが第1領域のみと接触する場合であれば、ローラは、マンドレルの回転により、第1領域にある平坦部と平坦部の間の部分(多角形断面の角の部分)と接触するときにフレームの径方向に押し出され、平坦部(多角形断面の辺の部分)と接触するときにフレームの径方向に沈んでいくことになる。ところが、本発明では、ローラは第1領域の平坦部と接触することなく転動体回転部としての第2領域と接触しており、第2領域は表面に凹凸のないテーパ形状であるので、マンドレルの回転により、ローラは、第1領域に形成された平坦部の影響を受けることなく、回転することができる。つまり、本発明のローラは、第1領域の平坦部と接触することなく第2領域と接触しているので、第1領域に平坦部があっても、径方向に沈むことなくマンドレルの回転に従動して回転することができるのである。一方、本発明のボールは、第1領域とだけ接触するので、マンドレルの回転に従動して回転しながら、径方向に出没する。
【0013】
よって、本発明によれば、ボールがディンプル成形を行う際に、ローラが径方向に出没しないので、ディンプル形状の調整が簡単である。しかも、ローラとボールとを同一円周上に配置できるため、ローラとボールとをフレームの軸心方向に離して配置するのに比べて、工具をコンパクトにすることができる。
【0014】
また、上記構成において、前記フレームの同一円周上には、前記転動体としての複数のローラと、前記押圧体としての複数の特殊ローラとが交互に間隔を空けて配置され、かつ、前記ローラおよび前記特殊ローラは、それぞれの軸心が共に前記フレームの軸心方向を向くようにして配置され、前記特殊ローラは、軸心回りに回転するリングと、このリングを保持するピンとを有して成ると共に、前記リングは、その外周面が尖った先鋭形状を成し、前記ローラの長さは、前記リングの厚さを超えるものであり、前記マンドレルは、その先端側に、先端に行くほど縮径したテーパ部が形成され、前記テーパ部は、その外周面に、前記押圧体出没回転部としての第1領域と、この第1領域を挟んで前記マンドレルの軸心方向の両側に形成された、前記転動体回転部としての第2領域とを有し、前記第1領域には、円周方向に間隔を空けて複数の平坦部が形成されていて、その断面が多角形形状を成す一方、前記第2領域の断面は円形状を成しており、前記平坦部の長さは、前記リングの厚さを超え、かつ、前記ローラの長さ未満であり、前記マンドレルに前記フレームを装着すると、前記ローラは、前記第1領域の前記平坦部と接触することなく前記第2領域と接触する一方、前記リングは、前記第1領域とだけ接触するよう構成されているのが好ましい。
【0015】
本発明の押圧体出没回転部としての第1領域は、複数の平坦部が形成されており、断面が多角形形状であるため、仮に、ローラが第1領域のみと接触する場合であれば、ローラは、マンドレルの回転により、第1領域にある平坦部と平坦部の間の部分(多角形断面の角の部分)と接触するときにフレームの径方向に押し出され、平坦部(多角形断面の辺の部分)と接触するときにフレームの径方向に沈んでいくことになる。ところが、本発明では、ローラは第1領域の平坦部と接触することなく転動体回転部としての第2領域と接触しており、第2領域は表面に凹凸のないテーパ形状であるので、マンドレルの回転により、ローラは、第1領域に形成された平坦部の影響を受けることなく、回転することができる。つまり、本発明のローラは、第1領域の平坦部と接触することなく第2領域と接触しているので、第1領域に平坦部があっても、径方向に沈むことなくマンドレルの回転に従動して回転することができるのである。一方、本発明のリングは、第1領域とだけ接触するので、マンドレルの回転に従動して回転しながら、径方向に出没する。
【0016】
よって、本発明によれば、リングがディンプル成形を行う際に、ローラが径方向に出没しないので、ディンプル形状の調整が簡単である。しかも、ローラとリングとを同一円周上に配置できるため、ローラとリングとをフレームの軸心方向に離して配置するのに比べて、工具をコンパクトにすることができる。加えて、本発明では、押圧体としてリングが用いられており、このリングは軸心回りに回転すると共に、外表面が尖った先鋭形状を成しているので、押圧体としてボールを用いる場合に比べて、ディンプルの幅を細くすることができる。
【0017】
また、上記構成において、前記複数のローラの外周を結んだ第1包絡円の直径であるツール径を調整するツール径調整機構を備える構成にすると、ワーク内周面の加工寸法の調整を行えるので便利である。さらに、このツール径調整機構は、ワークの内周面からディンプル成形バニシング工具を引き抜く際に、当該バニシング工具がワークの内周面から抵抗を受けることにより、フレームとマンドレルとが軸心方向に相対的に移動してツール径を自動的に縮径する機構を備えるのが望ましい。ディンプル成形バニシング工具をワークの内周面から引き戻す際に、ディンプルが重複して成形されることを防止できるからである。
【0018】
また、上記構成において、前記フレームの第1円周上には、前記転動体としての複数のローラが互いに間隔を空けて配置される共に、前記ローラは、その軸心が前記フレームの軸心方向を向くようにして配置され、前記第1円周から前記フレームの軸心方向に離れた前記フレームの第2円周上には、前記押圧体としての複数のボールが互いに間隔を空けて配置され、前記マンドレルは、先端に行くほど縮径して成り、前記転動体回転部としてのテーパ部と、このテーパ部より一段低くなった段差軸部とを有し、前記段差軸部には、前記マンドレルの回転に従動する複数の回転体を保持した、前記押圧体出没回転部としてのリテーナが外嵌され、前記リテーナは、前記複数の回転体を、同一円周上に互いに間隔を空け、かつ、それぞれの前記回転体の一部が前記リテーナの外表面から突出するように保持し、前記マンドレルに前記フレームを装着すると、前記ローラは前記テーパ部と接触し、前記ボールは前記複数の回転体を保持したリテーナと接触するよう構成されているのが好ましい。
【0019】
本発明では、転動体回転部としてのテーパ部とローラとが接触しているので、マンドレルの回転に従動してローラは回転するものの、ローラが径方向へ出没動作することはない。その一方で、押圧体出没回転部としてのリテーナには、複数の回転体が保持されており、ボールはリテーナと接触するので、リテーナが回転すると、ボールはリテーナに保持された回転体に接触するときにフレームの径方向に押し出され、リテーナに保持された回転体と回転体の間に接触するときにフレームの径方向に沈んでいくことになる。
【0020】
このように、本発明では、ボールがディンプル成形を行う際に、ローラが径方向に出没しないので、ディンプル形状の調整が簡単である。しかも、ローラとボールとはフレームの軸心方向に間隔を空けて(前後にずらして)配置されているので、ワーク内周面に切り欠き部があっても、ローラが切り欠き部と接触することができるから、フレームの遊星運動が維持され、ディンプルの加工が安定するといった利点もある。
【0021】
また、上記構成において、前記複数のローラの外周を結んだ第1包絡円の直径であるツール径を調整するツール径調整機構と、前記複数のボールの外周を結んだ第2包絡円が前記第1包絡円より前記フレームの径方向にはみ出した量である出代量を調整する出代量調整機構とを備え、前記出代量調整機構は、同一の前記ツール径において、前記出代量を異なる値に調整することができるように形成されているのが好ましい。
【0022】
本発明によれば、ツール径調整機構を備えているので、ツール径を所望の値に調整することができるうえ、出代量調整機構が、同一のツール径において、出代量を異なる値に調整することができるため、ディンプル深さを調整することができる。つまり、本発明では、ワークの内周面の仕上がり径が同じであっても、異なる深さのディンプルを成形することができるから、使用条件に合致した最適な潤滑特性および滑らかな仕上げ面を形成することができる。さらに、このツール径調整機構は、ワークの内周面からディンプル成形バニシング工具を引き抜く際に、当該バニシング工具がワークの内周面から抵抗を受けることにより、フレームとマンドレルとが軸心方向に相対的に移動してツール径を自動的に縮径する機構を備えるのが望ましい。ディンプル成形バニシング工具をワークの内周面から引き戻す際に、ディンプルが重複して成形されることを防止できるからである。
【0023】
なお、本発明における出代量は、複数のボールの外周を結んだ第2包絡円が複数のローラの外周を結んだ第1包絡円よりフレームの径方向にはみ出した量であることから、出代量は、(第2包絡円の直径−第1包絡円の直径)/2で求められることは言うまでもない。
【0024】
また、上記構成において、前記ツール径調整機構は、前記複数のローラおよび前記複数のボールを前記径方向に同時に移動させることにより、前記出代量を変えることなく、前記ツール径の調整を行うことができるように形成されているのが好ましい。
【0025】
本発明によれば、ツール径を調整する際に出代量が変わらない構成であるため、ツール径を縮径させると、それに伴って複数のボールの外周を結んだ第2包絡円の直径も同時に小さくなり、ツール径を拡径させると、それに伴って当該第2包絡円の直径も同時に大きくなるということになる。従って、例えば、本発明に係るディンプル成形バニシング工具によりワークの内周面の加工が行われ、当該バニシング工具を元の位置まで戻す場合に、ツール径調整機構によりツール径を縮径させると、それに伴って第2包絡円の直径も同時に小さくなるから、バニシング工具を戻す過程で、ワークの内周面にディンプルが重複して成形されることがなくなる。
【0026】
また、上記構成において、前記出代量調整機構は、前記段差軸部に外嵌され、前記リテーナの軸心方向の位置を所定位置になるよう調整する複数のアジャストリングを有し、前記回転体は、その外周面が先端側に向かうにつれて縮径されたテーパ形状を成し、前記複数の回転体の外周を結んだ第3包絡円の直径は、前記リテーナの軸心方向の位置に応じて変化するものであり、さらに、前記リテーナの軸心方向の位置を変えることにより、前記出代量の調整が行われるよう構成されているのが好ましい。
【0027】
この構成によれば、アジャストリングを並べ替えて、リテーナの軸方向の位置を所定位置に設定するだけの簡単な作業で、ボールの出代量を調整することができる。より詳細に言えば、本発明は、リテーナの軸方向の位置を変えると、軸方向における同一位置(例えば、ボールの中心点からリテーナの中心軸に垂線を引いたときに、その垂線がリテーナの中心軸と交わる点の位置)において第3包絡円の直径が変化する。第3包絡円の直径が変化すると、ボールと回転体とが径方向において係合する位置が変化する。つまり、第3包絡円の直径が大きくなるほど、ボールと回転体とが係合する位置は径方向の外方に移動する(別言すれば、ボールが径方向に飛び出す量が増す)。よって、リテーナの軸方向の位置を調整すれば、ボールの出代量を調整することができるのである。
【0028】
また、ボールは回転体と係合することにより、径方向へ出没動作する構成となっているので、従来のような多角形断面を有するマンドレルの凸部により押圧体を径方向へ出没動作させる構成に比べて、押圧体を押し付ける長さを短くすることができる。そのため、ディンプル長さを短くすることも可能になる。
【0029】
また、上記構成において、前記テーパ部のテーパ角と、前記回転体のテーパ角とは同一角度に設定されているのが好ましい。
【0030】
この構成によれば、テーパ角が同一角度であるから、ツール径調整機構がツール径を調整する際に、複数のローラの外周を結んだ第1包絡円の直径と複数のボールの外周を結んだ第2包絡円の直径が同じ値で増減することとなる。そのため、ツール径の調整が簡単である。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、転動体をフレームの径方向へ出没させることを防止しつつ、押圧体のみをフレームの径方向へ出没させることができるようなディンプル調整機構を備えているので、ディンプルの形状を簡単に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施の形態例に係るディンプル成形バニシング工具の全体構成を示す図であって、その一部を断面図で表した図である。
【図2】図1に示すディンプル成形バニシング工具をワークの内周面に挿入した状態における、図1のA−A断面図である。
【図3】図1のB−B断面のうち要部を拡大した要部拡大断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態例に係るディンプル成形バニシング工具の全体構成を示す図であって、その一部を断面図で表した図である。
【図5】図4に示すディンプル成形バニシング工具をワークの内周面に挿入した状態における、図4のC−C断面図である。
【図6】図4に示す特殊ローラの詳細を示す図である。
【図7】ディンプルの形状を示した図であって、(a)は、図4に示すディンプル成形バニシング工具によって成形されたディンプルの形状を示した図であり、(b)は、従来のディンプル成形バニシング工具によって成形されたディンプルの形状を示した図である。
【図8】本発明の第3の実施の形態例に係るディンプル成形バニシング工具の全体を示す正面図である。
【図9】図8に示すディンプル成形バニシング工具のうち、一部を断面図で表した全体構成図である。
【図10】図8に示すディンプル成形バニシング工具をワークの内周面に挿入した状態における、図8のD−D断面図である。
【図11】図8に示すディンプル成形バニシング工具をワークの内周面に挿入した状態における、図8のE−E断面図である。
【図12】ディンプルの形状を示した図であって、(a)は、図8に示すディンプル成形バニシング工具によって成形されたディンプルの形状を示した図であり、(b)は、従来のディンプル成形バニシング工具によって成形されたディンプルの形状を示した図である。
【図13】変形例1に係るディンプル成形バニシング工具の全体を示す正面図である。
【図14】変形例2に係るディンプル成形バニシング工具の全体を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態例に係るディンプル成形バニシング工具について、適宜図面を参照しながら詳細に説明するが、便宜上、以下の説明において、ディンプル成形バニシング工具のことを、単に「バニシング工具」ということにする。まず、本発明の第1の実施の形態例に係るバニシング工具について図1〜図3を参照しながら説明する。第1の実施の形態例に係るバニシング工具1は、図1に示すように、図示しない旋盤等の加工機に装着して回転させるマンドレル30と、マンドレル30に外嵌されたフレーム40と、ツール径を調整するツール径調整機構10とを備えて構成されている。
【0034】
マンドレル30は、図1に示すように、全体として丸棒形状に構成されており、後端側には旋盤等の加工機(不図示)に装着されるシャンク32を有し、先端側にはテーパ部33を有し、略中央部には本体部31を有している。テーパ部33は、先端側(図1における左側)に向かうにつれて縮径したテーパ形状を成している。テーパ部33は、その略中央の部分に形成された第1領域33aと、この第1領域33aを挟んでマンドレル30の軸心方向の前後(図1における左右)に形成された第2領域33bとを有している。
【0035】
第2領域33bは、任意の断面が円形状を成す、円錐台の如き形状であり、その外周面には何ら凹凸はない。これに対して、第1領域33aの外周面には、表面が平らであって、外周面から僅かに窪んだ平坦部36が複数形成されている。具体的には、平坦部36は、マンドレルの円周方向に沿って、僅かな間隔を空けて16個設けられている。そのため、第1領域33aの外周面は、平坦部36の部分がやや窪み、平坦部36と平坦部36の間の部分が、平坦部36からやや突出した凸部35となっている。よって、第1領域33aの断面は、図2に示すように、凸部35を頂点とし平坦部36を辺とする多角形(具体的には、略正十六角形)になっている。なお、平坦部36から凸部35にかけて、ボール42が円滑に転動できるようになだらかな曲率の面が形成されている。
【0036】
なお、詳しくは後述するが、マンドレル30にフレーム40を外嵌すると、ローラ(転動体)41は、第1領域33aと第2領域33bとに跨って配置されることにより、ローラ41が平坦部36と接触することなく第2領域33bと接触するようになっているのに対して、ボール(押圧体)42は、第1領域33aのみと接触するようになっている。また、シャンク32は、本実施形態のようなストレート形状の他、テーパ形状等、装着される加工機に適合できるように種々の形状が採用される。
【0037】
次に、フレーム40は、円筒形状を成しており、複数のローラ41を回転自在に保持していると共に、複数のボール42を回転自在、かつ、フレーム40の外周面から径方向に出没自在に保持している。具体的には、フレーム40には、同一円周上に、8個のローラ41と8個のボール42とが交互に間隔を空けて配置されている。なお、ローラ41の軸心方向がフレーム40の軸心方向と同一の方向となるようにして、ローラ41はフレーム40に取り付けられている。
【0038】
ここで、ローラ41の長さL1は、ボール42の直径D1より大きい。平坦部36の長さL2は、ボール42の直径D1より大きい。ローラ41の長さL1は、平坦部36の長さL2より大きい。つまり、D1<L2<L1の関係が成り立っている。そのため、図3に示すように、ローラ41の両端部が第2領域33bと接触しており、ローラ41の略中央部と平坦部36との間に若干の隙間CLが形成された状態となる。つまり、ローラ41の両端部が第2領域33bに支持された形となり、ローラ41の中央部が平坦部36の表面と接触しないようになっているのである。
【0039】
なお、ローラ41の長さL1は、ツール径調整機構10によりマンドレル30とフレーム40との軸心方向における相対位置が変化(詳しくは後述)しても、常に平坦部36を跨ぐような長さとなっている。つまり、ツール径調整機構10を操作しても、常に、ローラ41が平坦部36の表面に接触することはないのである。また、ローラ41は、一端(図3において左端)から他端(図3において右端)に向かうにつれて僅かに縮径したテーパ形状を成している。つまり、ローラ41は、左端部の直径D2の方が右端部の直径D3より僅かに大きくなっている。ここで、ローラ41をフレーム40に取り付ける向きは、ローラ41の一端(径の大きい端)がバニシング工具の先端側、他端(径の小さい端)がバニシング工具の後端側である。
【0040】
そして、バニシング工具1をワークWに挿入すると、図2に示すように、マンドレル30のテーパ部33の外周面とワークWの内周面との間にローラ41およびボール42が介在した状態となる。
【0041】
なお、マンドレル30、ローラ41、ボール42、およびフレーム40には耐久性が要求されるため、特殊合金鋼を使用し、熱処理をして硬度および靭性を向上させている。また、使用条件によっては、DLC、TIN、TICN等の表面コーティング処理をしてさらに耐久性を向上させることもできる。
【0042】
次に、ツール径調整機構10は、ローラ41の外周を結んだ第1包絡円の直径(図2における直径DA)を調整するためのものであって、図1に示すように、ハウジング13、フロントキャップ14、および大アジャストリング12で覆われた内部に、アジャストナット11、キー26、ベアリング25、スプリング21等を設けて構成されている。アジャストナット11は、ネジ部31aに係合すべく内ネジ11aが設けられると共に、外周には外設歯17が設けられており、前端部はベアリング25と当接する当接面が形成されている。大アジャストリング12は、アジャストナット11にスナップリング15によって回転可能かつ離脱不能に支持されていて、マンドレル30の本体部31に所定隙間をもって遊嵌されていると共に、外周にはアジャストナット11の外設歯17と同様の外設歯18が設けられている。なお、大アジャストリング12はキー26によってマンドレル30の円周方向への移動が規制されている。
【0043】
ハウジング13は、円筒状に形成されていると共に、内側には前記外設歯17および外設歯18に係合する内設歯19および内設歯20が設けられている。また、ハウジング13の前部には、フロントキャップ14が配設されている。スプリング21は、フレーム40の後端部近傍に装着したストップリング24とフロントキャップ14の内側との間に介装して成る。なお、符号22,23はスプリング座であり、スプリング21を効果的に保持するためのものである。また、符号16はスラストリングであり、ハウジング13を回転したとき、スプリング座23とフロントキャップ14との間の摺動を滑らかにするように配設されているものである。
【0044】
このように構成されたツール径調整機構10によりツール径の調整を行うには、まず、ハウジング13を把持して、スプリング21の押圧力に抗して後方に移動する。すると、ハウジング13の内設歯19および20は、アジャストナット11の外設歯17および大アジャストリング12の外設歯18にそれぞれ噛み合ったまま移動し、更に移動すると内設歯20と外設歯18との係合が外れる。この状態において、内設歯19の歯幅を広く設けてあるから、外設歯17は依然として内設歯19に噛み合ったままの状態が維持される。
【0045】
次いで、ハウジング13を後方に押圧したまま回転させる。内設歯19と外設歯17とは依然として噛み合っており、かつ内設歯20は外設歯18との噛み合いがはずれて自由に回転し得るので、該ハウジング13を回動するとハウジング13とアジャストナット11とが一体となって回転し、アジャストナット11はマンドレル30のネジ部31aに対してネジのリードに沿って前あるいは後ろに移動する。この時、アジャストナット11と大アジャストリング12とはスナップリング15によって回動自在に係止されているので、アジャストナット11が回転しながら前後に移動するのにつれて大アジャストリング12はキー26によってマンドレル30に沿って移動する。
【0046】
アジャストナット11が前後に移動することは相対的にマンドレル30を前後に移動させることと等しく、従って、該移動によってマンドレル30のテーパ部33とローラ41との接触位置がバニシング工具1の先端部あるいは根元部(後端部)に移動することになり、該テーパ部33の径の変化に応じてローラ41の外周を結ぶ第1包絡円の直径(図2における直径DA)が所望の値に変化する。
【0047】
ローラ41が所望の値に設定されたらハウジング13を放す。すると、それまで圧縮されていたスプリング21が伸張してフロントキャップ14を前方に押圧することによりハウジング13も一体的に前方へ移動させ、ハウジング13が大アジャストリング12に当接して停止する。この状態において、ハウジング13の内設歯19および20はそれぞれアジャストナット11の外設歯17および大アジャストリング12の外設歯18に係合しており、かつ大アジャストリング12はキー26とキー溝によって回り止めされているので、ハウジング13がマンドレル30に対して相対的に回転することはない。このようにして、ツール径の調整が完了するのである。
【0048】
続いて、上記のように構成されたバニシング工具1を用いて、ワークWの内周面にディンプルを成形するための作業工程を説明する。
<調整工程>
調整工程では、まず、ローラ41のツール径を調整する。具体的には、ハウジング13をマンドレル30の駆動側、即ち、シャンク32側へ移動させ、右回転させると拡径し、左回転させると縮径するので、所望のツール径となるようにハウジング13を左右何れかに回転させて、ツール径の調整を行う。所望のツール径となる位置までハウジング13を回転させた後には、ハウジング13から手を離せばスプリング21の付勢力によりハウジング13が初期位置まで戻ってハウジング13の回転が自動的にロックされる。これによりツール径がセットされる。そして、ローラ41の先端部をマイクロメータで測定し、ツール径が正しくセットされているかを確認する。
【0049】
<加工工程>
加工工程では、まず、加工機にシャンク32を装着する。そして、ワークWの内周面のうちディンプルを成形するべき箇所までバニシング工具1を移動させる。なお、バニシング工具1によるワークWの加工長さは、加工機のストローク制御の設定を変更するだけで、任意に設定可能である。次に、加工機を駆動すると、マンドレル30が回転を開始する。例えば、マンドレル30を先端側から見て時計回りに回転させると、マンドレル30の外周面に沿ってローラ41は反時計回りに回転(自転)する。このとき、ワークWは固定されているから、ローラ41が反時計回りに自転すると、ローラ41はワークWの内周面およびマンドレル30のテーパ部33の外周面に沿って時計回りに公転する。
【0050】
ここで、ローラ41は、上述したように、平坦部36を跨いで第2領域33bの外周面と接触するように配置されているため、マンドレル30の回転位置が如何なる位置であっても、ローラ41が第1領域33aの平坦部36と接触することはない。よって、ローラ41は、マンドレル30の回転に従動して自転するものの、フレーム40の径方向に対して移動することはないから、作業者は、ローラ41によるワークWの内周面のバニシング加工を安定して行うことができる。
【0051】
一方、ボール42については、マンドレル30の回転に伴う動作が、ローラ41と若干異なっている。ボール42も、ローラ41と同様に、マンドレル30の回転に伴い、マンドレル30のテーパ部33の外周面に沿って反時計回りに自転しながら時計回りに公転する。ところが、ボール42がワークWの内周面とテーパ部33の外周面との間で挟まれた状態で、マンドレル30の周りに自転しながら公転すると、ボール42は第1領域33aに形成された平坦部36と凸部35とを交互に通過して進む。このため、ボール42は、平坦部36と凸部35との高低差(図3の隙間CL)により、フレーム40の径方向に振動しながらワークWの内周面に沿って転動する。このボール42の径方向の出没動作により、ワークWの内周面にディンプルが成形されていくことになる。
【0052】
なお、第1領域33aは、ボール42をフレーム40の径方向に出没させつつ回転させる機能を備えているから、この第1領域33aは本発明の押圧体出没回転部に相当し、第2領域33bは、ローラ41をフレーム40の径方向に出没させることなく回転させる機能を備えているから、この第2領域33bは本発明の転動体回転部に相当する。そして、第1領域33aと第2領域33bを有するテーパ部33は、本発明のディンプル調整機構に相当することになる。
【0053】
<工具戻し/取り外し工程>
工具戻し/取り外し工程においては、まず、バニシング工具1をワークWの内周面から外れる位置まで移動させる。その際、バニシング工具1は、ワークWの内周面との摩擦力(抵抗)によりスプリング21が撓み、相対的にフレーム40がマンドレル30の前方へ動く。すると、ローラ41の外周を結ぶ第1包絡円の直径DAの値、即ち、ツール径が自動的に縮径する。よって、バニシング工具1を元の位置に戻す工程において、ディンプルが重複して成形されることはない。そして、バニシング工具1が元の位置まで戻されると、加工機から当該バニシング工具1を取り外せば、ディンプル成形に係る作業工程は終了となる。
【0054】
このように、第1の実施の形態例に係るバニシング工具1によれば、ローラ41がフレーム40の径方向に移動しないため、ローラ41のワークW内での回転運動は安定したものとなる。よって、ディンプルの成形において、ボール42の形状、加工条件等を適宜調整するだけで、使用条件に合致した適切なディンプル形状を成形することができる。その結果、ワークWの内周面は、好適な潤滑特性が得られるようになる。
【0055】
また、第1の実施の形態例に係るバニシング工具1によれば、ピーニング効果により、ワークWの内周面の表面硬度を上昇させるとともに、加工表面に圧縮残留応力を付与することができるため、加工表面の疲労強度が向上する。加えて、押圧体としてボール42を用いた構成としたことで、例えば、ワークWの内周面に交差する方向に油穴が形成されている場合には、油穴の周囲のエッジ部にボール42が衝突ないし押圧されるため、油穴のエッジ部に形成されたバリ取りをも同時に行うことが可能となる。
【0056】
また、第1の実施の形態例に係るバニシング工具1によれば、ボール42とローラ41を同一円周上に配置することができるため、工具をコンパクトにすることができる。
【0057】
続いて、本発明の第2の実施の形態例に係るバニシング工具101について、図4〜図7を参照しながら説明するが、先に述べた第1の実施の形態例に係るバニシング工具1と同じ構成の部分については、同一符号を付すこととし、ここでの説明は省略することにする。
【0058】
第2の実施の形態例に係るバニシング工具101は、押圧体としてボールの代わりに特殊ローラ142が用いられている点が主な特徴である。図4に示すように、バニシング工具101は、円筒状のフレーム140の同一円周上に、ローラ(転動体)141と特殊ローラ(押圧体)142とを交互に配置して構成されている。具体的には、図5に示すように、8個のローラ141と8個の特殊ローラ142とが交互に等間隔でフレーム140に回転自在に保持されている。さらに、ローラ141と特殊ローラ142は、共に軸心方向がフレーム140の軸心方向と同じ方向に向けられており、ローラ141と特殊ローラ142と共に同じ長さL3である。
【0059】
特殊ローラ142は、図6に示すように、一対のピン142bとリング142aとを同軸上に配置して構成されており、リング142aは当該軸回りに回転自在に支持されている。リング142aは、貫通穴142a−2が設けられていると共に、その外周面が尖った先鋭形状142a−1となっている。なお、フレーム140をマンドレル30に装着すると、リング142aは、マンドレル30の第1領域33aと対応する位置に配置されるようになっている。よって、リング142aは、マンドレル30の回転に伴って回転しながら、平坦部36と凸部35と交互に係合して、フレーム140の径方向に出没動作する。そして、リング142aが径方向に出没することにより、ワークWの内周面にディンプルが成形されることになる。
【0060】
ここで、リング142aの厚さT1は、ローラ141の長さL3より小さく、かつ、マンドレル30の第1領域33aに形成された平坦部36の長さL2より小さい。ローラ141の長さL3は、平坦部36の長さL2より大きい。つまり、T1<L2<L3の関係が成り立っている。そのため、ローラ141の両端部は、図示しないが、第1の実施の形態例と同様に、マンドレル30のテーパ部33の第2領域33bと接触しており、ローラ141の略中央部と平坦部36との間に若干の隙間CL(図3参照)が形成された状態となる。つまり、ローラ141の両端部が第2領域33bに支持された形となり、ローラ141の中央部が平坦部36の表面と接触しないようになっているのである。よって、ローラ141は、マンドレル30の回転に従動して回転するが、フレーム140の径方向に出没動作することはない。
【0061】
なお、ローラ141の長さL3は、ツール径調整機構10によりマンドレル30とフレーム140との軸心方向における相対位置が変化しても、常に平坦部36を跨ぐような長さとなっている。つまり、ツール径調整機構10を操作しても、常に、ローラ141が平坦部36の表面に接触することはないのである。また、ローラ141は、一端(図4において左端)から他端(図4において右端)に向かうにつれて僅かに縮径したテーパ形状を成している。
【0062】
そして、バニシング工具101をワークWに挿入すると、図5に示すように、マンドレル30のテーパ部33の外周面とワークWの内周面との間にローラ141およびリング142aが介在した状態となる。
【0063】
なお、マンドレル30、ローラ141、リング142a、ピン142b、およびフレーム140には耐久性が要求されるため、特殊合金鋼を使用し、熱処理をして硬度および靭性を向上させている。また、使用条件によっては、DLC、TIN、TICN等の表面コーティング処理をしてさらに耐久性を向上させることもできる。
【0064】
このように構成されたバニシング工具101は、上記したバニシング工具1と同様の作業工程によりディンプルを成形することができる。そして、実際に成形されたディンプルの形状を示したものが、図7(a)である。これに対して、図7(b)は従来のバニシング工具により成形されたディンプルの形状を示したものである。この図7(a)と(b)を比較しても明らかなように、バニシング工具101によれば、リング142aの先鋭形状142a−1がワークWの内周面を押圧することによりディンプルが成形されるため、ボールでディンプルを成形する場合に比べて、ディンプルの幅を小さくすることができる。つまり、リング142aを採用するだけで、ディンプル幅を好適なものに調整することができるのである。
【0065】
続いて、本発明の第3の実施の形態例に係るバニシング工具201について、図8〜図12を参照しながら説明する。第3の実施の形態例に係るバニシング工具201は、図8に示すように、図示しない旋盤等の加工機に装着して回転させるマンドレル230と、マンドレル230に外嵌されたフレーム240と、ツール径を調整するツール径調整機構210と、出代量を調整する出代量調整機構203とを備えて構成されている。以下、バニシング工具201の各構成について、図9〜図11を参照しながら詳しく説明する。
【0066】
マンドレル230は、図9に示すように、全体として丸棒形状に構成されており、後端側には旋盤等の加工機(不図示)に装着されるシャンク232を有し、先端側には順に第1テーパ部233a、段差軸部234、第2テーパ部233bを有し、略中央部には本体部231を有している。第1テーパ部233aおよび第2テーパ部233bは、互いに同一の形状から成り、その形状は、先端側に向かうにつれて縮径したテーパ形状であって、外周面は凹凸のない滑らかな面で形成されている。
【0067】
一方、段差軸部234は、第1テーパ部233aおよび第2テーパ部233bの直径よりもさらに小さい直径の中実な丸棒形状から成り、第1テーパ部233aおよび第2テーパ部233bに対して一段低い段差を形成している。また、本体部231は、その外周面にネジ部231aが形成されており、キー226が嵌まり込むためのキー溝が軸心方向に沿って設けられている。
【0068】
なお、詳しくは後述するが、マンドレル230にフレーム240を外嵌すると、第1テーパ部233aおよび第2テーパ部233bはローラ(転動体)241に対応する位置に配置され、段差軸部234はボール(押圧体)242に対応する位置に配置される。また、シャンク232は、本実施形態のようなストレート形状の他、テーパ形状等、装着される加工機に適合できるように種々の形状が採用される。
【0069】
フレーム240は、円筒形状を成しており、複数のローラ241と複数のボール242を回転自在に保持している。具体的には、フレーム240には、軸心方向に沿って、2つのローラ241と1つのボール242とが、先端側からローラ241、ボール242、ローラ241の順に互いに間隔を空けて1列に並べられる。この1列に並べられた2つのローラ241と1つのボール242を1組とし、この組がフレーム240の円周方向に均等に12組配置されている。なお、ローラ241は、一端から他端に向かうにつれて縮径したテーパ形状から成る。ローラ241をフレーム240に取り付ける向きは、ローラ241の一端(径の大きい端)がバニシング工具の先端側、他端(径の小さい端)がバニシング工具の後端側である。
【0070】
そして、バニシング工具201をワークWに挿入すると、図10に示すように、マンドレル230の段差軸部234に外嵌されたリテーナ204(詳しくは後述する)の外周面とワークWの内周面との間にボール242が介在し、図11に示すように、マンドレル230の第1テーパ部233aの外周面とワークWの内周面との間にローラ241が介在し、図示は省略するが、マンドレル230の第2テーパ部233bの外周面とワークWの内周面との間にローラ241が介在した状態となっている。
【0071】
なお、マンドレル230、ローラ241、ボール242、およびフレーム240には耐久性が要求されるため、特殊合金鋼を使用し、熱処理をして硬度および靭性を向上させている。また、使用条件によっては、DLC、TIN、TICN等の表面コーティング処理をしてさらに耐久性を向上させることもできる。
【0072】
次に、ツール径調整機構210は、ローラ241の外周を結んだ第1包絡円の直径(図11における直径DA)を調整するためのものであって、図9に示すように、ハウジング213、フロントキャップ214、および大アジャストリング212で覆われた内部に、アジャストナット211、キー226、ベアリング225、スプリング221等を設けて構成されている。アジャストナット211は、ネジ部231aに係合すべく内ネジ211aが設けられると共に、外周には外設歯217が設けられており、前端部はベアリング225と当接する当接面が形成されている。大アジャストリング212は、アジャストナット211にスナップリング215によって回転可能かつ離脱不能に支持されていて、マンドレル230の本体部231に所定隙間をもって遊嵌されていると共に、外周にはアジャストナット211の外設歯217と同様の外設歯218が設けられている。なお、大アジャストリング212はキー226によってマンドレル230の円周方向への移動が規制されている。
【0073】
ハウジング213は、円筒状に形成されていると共に、内側には前記外設歯217および外設歯218に係合する内設歯219および内設歯220が設けられている。また、ハウジング213の前部には、フロントキャップ214が配設されている。スプリング221は、フレーム240の後端部近傍に装着したストップリング224とフロントキャップ214の内側との間に介装して成る。なお、符号222,223はスプリング座であり、スプリング221を効果的に保持するためのものである。また、符号216はスラストリングであり、ハウジング213を回転したとき、スプリング座223とフロントキャップ214との間の摺動を滑らかにするように配設されているものである。
【0074】
このように構成されたツール径調整機構210によりツール径の調整を行うには、まず、ハウジング213を把持して、スプリング221の押圧力に抗して後方に移動する。すると、ハウジング213の内設歯219および220は、アジャストナット211の外設歯217および大アジャストリング212の外設歯218にそれぞれ噛み合ったまま移動し、更に移動すると内設歯220と外設歯218との係合が外れる。この状態において、内設歯219の歯幅を広く設けてあるから、外設歯217は依然として内設歯219に噛み合ったままの状態が維持される。
【0075】
次いで、ハウジング213を後方に押圧したまま回転させる。内設歯219と外設歯217とは依然として噛み合っており、かつ内設歯220は外設歯218との噛み合いがはずれて自由に回転し得るので、該ハウジング213を回動するとハウジング213とアジャストナット211とが一体となって回転し、アジャストナット211はマンドレル230のネジ部231aに対してネジのリードに沿って前あるいは後ろに移動する。この時、アジャストナット211と大アジャストリング212とはスナップリング215によって回動自在に係止されているので、アジャストナット211が回転しながら前後に移動するのにつれて大アジャストリング212はキー226によってマンドレル230に沿って移動する。
【0076】
アジャストナット211が前後に移動することは相対的にマンドレル230を前後に移動させることと等しく、従って、該移動によってマンドレル230の第1テーパ部233aとローラ241との接触位置、および、第2テーパ部233bとローラ241の接触位置がバニシング工具201の先端部あるいは根元部(後端部)に移動することになり、該第1テーパ部233aおよび第2テーパ部233bの径の変化に応じてローラ241の外周を結ぶ第1包絡円の直径(図11における直径DA)が所望の値に変化する。なお、ボール242の外周を結んだ第2包絡円の直径(図10における直径DB)も、マンドレル230の前後移動に伴って同時に変化するが、この点については後ほど詳しく説明する。
【0077】
ローラ241が所望の値に設定されたらハウジング213を放す。すると、それまで圧縮されていたスプリング221が伸張してフロントキャップ214を前方に押圧することによりハウジング213も一体的に前方へ移動させ、ハウジング213が大アジャストリング212に当接して停止する。この状態において、ハウジング213の内設歯219および220はそれぞれアジャストナット211の外設歯217および大アジャストリング212の外設歯218に係合しており、かつ大アジャストリング212はキー226とキー溝によって回り止めされているので、ハウジング213がマンドレル230に対して相対的に回転することはない。このようにして、ツール径の調整が完了するのである。
【0078】
一方、出代量調整機構203は、ボール242の外周を結んだ第2包絡円の直径が、ローラ241の外周を結んだ第1包絡円の直径よりも径方向にはみ出した量である出代量を調整するためのものであって、図9および図10に示すように、12個の回転体205を回転自在に保持するリテーナ204と、リテーナ204の軸心方向の位置を調整するための小アジャストリング(本発明のアジャストリングに相当)206a,206b,206cと、回り止めピン207と、スペーサ208とを備えて構成されている。
【0079】
リテーナ204は、マンドレル230の段差軸部234の直径よりやや大きい直径の円筒状部材で構成されており、その外周面には、12個の回転体205が円周方向に均等に12個並べて配置されている。回転体205は、先端側に向かうにつれて縮径したテーパ形状を成している。そのため、リテーナ204を段差軸部234上で軸方向に移動させると、図9の位置Pにおいて、回転体205の外周を結ぶ第3包絡円の直径(図10における直径DC)が変化する。具体的には、リテーナ204をバニシング工具201の先端側(図9における左側)に移動させると位置Pにおける直径DCは大きくなり、リテーナ204をバニシング工具201の後端側(図9における右側)に移動させると位置Pにおける直径DCは小さくなる。なお、位置Pは、ボール242の中心点からリテーナ204の中心軸に向かう垂線と引いたときに、その垂線がリテーナ204の中心軸と交わる位置である。
【0080】
ここで、リテーナ204に保持されている回転体205は、図10からも明らかなように、フレーム240に保持されているボール242と係合する構成であるため、回転体205の外周を結んだ第3包絡円の直径DCが大きくなると、回転体205によってボール242が径方向に飛び出す(押し上げられる)量が大きくなる。これにより、ボール242の外周を結んだ第2包絡円の直径DBが大きくなる。その一方で、ローラ241の外周を結んだ第1包絡円の直径DAは変わらないから、直径DCが大きくなることにより、直径DAと直径DBの差が大きくなる。つまり、ボール242の出代量が大きくなる。逆に、直径DCが小さくなると、回転体205によるボール242の径方向への押し上げが少なくなるから、直径DBが小さくなり、直径DAと直径DBの差が小さくなっていく。そのため、ボール242の出代量が小さくなる。このようにして、ボール242の出代量が調整されるのである。
【0081】
なお、回転体205のテーパ角度は、第1テーパ部233aおよび第2テーパ部233bのテーパ角度と同じに形成されている。そのため、マンドレル230を軸方向に移動させると、ローラ241の外周を結ぶ第1包絡円の直径DAと、ボール242の外周を結んだ第2包絡円の直径Bとは、同じ数値で同時に変化することとなる。また、リテーナ204は、段差軸部234に回り止めピン207を介して一体的に取り付けられており、マンドレル230が回転すると、その回転に伴ってリテーナ204はフレーム240の内側で回転するように構成されている。
【0082】
そして、リテーナ204の軸方向の位置は、小アジャストリング206a,206b,206cの取り付け位置を入れ替えることにより変更が可能である。なお、本実施形態において、小アジャストリング206aはリング幅t=1mmであり、小アジャストリング206bはリング幅t=1.5mmであり、小アジャストリング206cはリング幅2mmである。例えば、ボール242の出代量、即ち、(直径DB−直径DA)/2で求められる数値を20μmにしたい場合には、t=1mmの小アジャストリング206aをリテーナ204の後端側に取り付け、それ以外の小アジャストリング206b,206cをリテーナ204の先端側に取り付けると良い。
【0083】
また、ボール242の出代量を22.5μmにしたい場合には、t=1.5mmの小アジャストリング206bをリテーナ204の後端側に取り付け、それ以外の小アジャストリング206a,206cをリテーナ204の先端側に取り付けると良い。また、ボール242の出代量を25μmにしたい場合には、t=2mmの小アジャストリング206cをリテーナ204の後端側に取り付け、それ以外の小アジャストリング206a,206bをリテーナ204の先端側に取り付けると良い。
【0084】
また、ボール242の出代量を27.5μmにしたい場合には、t=1.0mmの小アジャストリング206aとt=1.5mmの小アジャストリング206bをリテーナ204の後端側に取り付け、それ以外の小アジャストリング206cをリテーナ204の先端側に取り付けると良い。また、ボール242の出代量を30μmにしたい場合には、t=1.0mmの小アジャストリング206aとt=2mmの小アジャストリング206cをリテーナ204の後端側に取り付け、それ以外の小アジャストリング206bをリテーナ204の先端側に取り付けると良い。なお、小アジャストリングの数やリング幅は要求仕様に応じて適宜設定することができることは言うまでもない。
【0085】
以上のように構成された本実施形態に係るバニシング工具201を用いて、ワークWの内周面にディンプルを成形するための作業工程を説明する。
<調整工程>
調整工程では、まず、ボール242の出代量を調整するために、リテーナ204の軸方向の位置を調整する。具体的には、ボール242の出代量を上記した20μm、22.5μm、25μm、27.5μm、30μmの何れにするかによって、小アジャストリング206a,206b,206cの位置を適宜リテーナ204の軸方向の前後に配置する。この工程により、ボール242の出代径の調整が完了する。
【0086】
次に、ローラ241のツール径を調整する。具体的には、ハウジング213をマンドレル230の駆動側、即ち、シャンク232側へ移動させ、右回転させると拡径し、左回転させると縮径するので、所望のツール径となるようにハウジング213を左右何れかに回転させて、ツール径の調整を行う。所望のツール径となる位置までハウジング213を回転させた後には、ハウジング213から手を離せばスプリング221の付勢力によりハウジング213が初期位置まで戻ってハウジング213の回転が自動的にロックされる。これによりツール径がセットされる。そして、ローラ241の先端部をマイクロメータで測定し、ツール径が正しくセットされているかを確認する。
【0087】
<加工工程>
加工工程では、まず、加工機にシャンク232を装着する。そして、ワークWの内周面のうちディンプルを成形するべき箇所までバニシング工具201を移動させる。なお、バニシング工具201によるワークWの加工長さは、加工機のストローク制御の設定を変更するだけで、任意に設定可能である。次に、加工機を駆動すると、マンドレル230が回転を開始する。例えば、マンドレル230を先端側から見て時計回りに回転させると、マンドレル230の外周面に沿ってローラ241は反時計回りに回転(自転)する。このとき、ワークWは固定されているから、ローラ241が反時計回りに自転すると、ローラ241はワークWの内周面およびマンドレル230の外周面に沿って時計回りに公転する。このとき、第1テーパ部233aおよび第2テーパ部233bの外周面に凹凸はないから、ローラ241はフレーム240の径方向に出没動作することはない。よって、作業者は、ローラ241によるワークWの内周面のバニシング加工を、安定して行うことができる。
【0088】
一方、ボール242は、マンドレル230の回転に伴う動作が、ローラ241と若干異なっている。ボール242は、リテーナ204の外周面に沿って(別言すると、回転体205の外周を結んだ第3包絡円に沿って)反時計回りに自転しながら時計回りに公転する。ボール242がワークWの内周面とリテーナ204の外周面との間で挟まれた状態で、マンドレル230の周りに自転しながら公転すると、ボール242はリテーナ204に保持された回転体205とリテーナ204の外周面とを交互に通過して進む。このため、ボール242は、リテーナ204の外周面と回転体205との高低差により、フレーム240の径方向に振動しながらワークWの内周面に沿って転動する。このボール242の径方向の出没動作により、ワークWの内周面にディンプルが成形されていくことになる。
【0089】
なお、複数の回転体205が保持されたリテーナ204は、ボール242をフレーム240の径方向に出没させつつ回転させる機能を備えているから、本発明の押圧体出没回転部に相当し、第1テーパ部233aおよび第2テーパ部233bは、ローラ241をフレーム240の径方向に出没させることなく回転させる機能を備えているから、本発明の転動体回転部に相当する。そして、本実施形態において、回転体205が保持されたリテーナ204と、第1テーパ部233aおよび第2テーパ部233bとにより、本発明のディンプル調整機構が構成されていることになる。
【0090】
<工具戻し/取り外し工程>
工具戻し/取り外し工程においては、まず、バニシング工具201をワークWの内周面から外れる位置まで移動させる。その際、バニシング工具201は、ワークWの内周面との摩擦力(抵抗)によりスプリング221が撓み、相対的にフレーム240がマンドレル230の前方へ動く。すると、ローラ241の外周を結ぶ第1包絡円の直径DAの値、即ち、ツール径が自動的に縮径する。よって、バニシング工具201を元の位置に戻す工程において、ディンプルが重複して成形されることはない。そして、バニシング工具201が元の位置まで戻されると、加工機から当該バニシング工具201を取り外せば、ディンプル成形に係る作業工程は終了となる。
【0091】
このようにして成形されたディンプルの形状を示したものが図12(a)である。これに対して、図12(b)には従来のバニシング工具を用いて成形されたディンプルの形状が示されている。この図12(a)および(b)を比較すると明らかなように、第3の実施の形態例に係るバニシング工具201によれば、同一のツール径であっても、ボール242の出代量を調整することができるから、ディンプルの深さを調整することができる。
【0092】
つまり、第3の実施の形態例に係るバニシング工具201によれば、ボール242の出代量を調整することにより、使用条件に合致した適切なディンプル形状を成形することができるのである。そのため、ワークWの内周面を、好適な潤滑特性が得られるようにすることができる。
【0093】
また、第3の実施の形態例に係るバニシング工具201によれば、ピーニング効果により、ワークWの内周面の表面硬度を上昇させるとともに、加工表面に圧縮残留応力を付与することができるため、加工表面の疲労強度が向上する。加えて、押圧体としてボール242と用いた構成としたことで、例えば、ワークWの内周面に交差する方向に油穴が形成されている場合には、油穴の周囲のエッジ部にボール242が衝突ないし押圧されるため、油穴のエッジ部に形成されたバリ取りも同時に行うことができる。
【0094】
また、第3の実施の形態例に係るバニシング工具201によれば、ボール242を挟んで先端側と後端側にローラ241を設けているため、ワークWの内周面に切欠けがあるような場合であっても、先端側のローラ241または後端側のローラ241の少なくとも何れかがワークWの内周面に接触することができるため、フレーム240の遊星運動が維持され、ディンプルを成形できる。
【0095】
次に、第3の実施の形態例に係るバニシング工具201の変形例1〜2について説明するが、バニシング工具201と同じ構成の部分については、同一符号を付すこととし、ここでの説明は省略することにする。まず、図13は変形例1に係るバニシング工具301である。この変形例301の特徴は、ボール242より先端側にローラ241を設けていない構成としている点である。この構成であっても、ワークWの内周面に切欠けがあるような場合に、ボール242より後端側に配置されたローラ241がワークWの内周面に接触することができるため、フレーム240の遊星運動が維持され、ディンプルを成形できる。
【0096】
また、図14には変形例2に係るバニシング工具401が示されている。この変形例2の特徴は、ボール242より後端側にローラ241を設けていない構成としている点である。この構成であっても、ワークWの内周面に切欠けがあるような場合に、ボール242より先端側に配置されたローラ241がワークWの内周面に接触することができるため、フレーム240の遊星運動が維持され、ディンプルを成形できる。
【0097】
以上、本発明の実施の形態例および変形例について説明したが、本発明は上記した実施の形態例および変形例に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0098】
1,101,201,301,401…バニシング工具
10,210…ツール径調整機構
30,230…マンドレル
33…テーパ部
33a…第1領域
33b…第2領域
36…平坦部
40,140,240…フレーム
41,141,241…ローラ(転動体)、
42,242…ボール(押圧体)、
142…特殊ローラ(押圧体)
142a…リング
142a−1…先鋭形状
142b…ピン
203…出代量調整機構
204…リテーナ204
205…回転体
206a,206b,206c…小アジャストリング(アジャストリング)
233a…第1テーパ部(テーパ部)
233b…第2テーパ部(テーパ部)
234…段差軸部
W…ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後端側を加工機に装着して回転させるマンドレルと、このマンドレルの先端側に回転自在に外嵌され、前記マンドレルの回転に従動する転動体および押圧体を保持する筒状のフレームとを有し、前記フレームをワークの内周面に挿入して、前記マンドレルを回転させることにより、前記ワークの内周面にディンプルを成形するディンプル成形バニシング工具において、
前記マンドレルは、
前記転動体を前記フレームの径方向へ出没させることなく回転させる転動体回転部と、
前記押圧体を前記フレームの径方向へ出没させつつ回転させる押圧体出没回転部とから成るディンプル調整機構を備えた
ことを特徴とするディンプル成形バニシング工具。
【請求項2】
請求項1の記載において、
前記フレームの同一円周上には、前記転動体としての複数のローラと、前記押圧体としての複数のボールとが交互に間隔を空けて配置されると共に、前記ローラは、その軸心が前記フレームの軸心方向を向くようにして配置され、
前記ローラの長さは、前記ボールの直径を超えるものであり、
前記マンドレルは、その先端側に、先端に行くほど縮径したテーパ部が形成され、
前記テーパ部は、その外周面に、前記押圧体出没回転部としての第1領域と、この第1領域を挟んで前記マンドレルの軸心方向の両側に形成された、前記転動体回転部としての第2領域とを有し、
前記第1領域には、円周方向に間隔を空けて複数の平坦部が形成されていて、その断面が多角形形状を成す一方、前記第2領域の断面は円形状を成しており、
前記平坦部の長さは、前記ボールの直径を超え、かつ、前記ローラの長さ未満であり、
前記マンドレルに前記フレームを装着すると、前記ローラは、前記第1領域の前記平坦部と接触することなく前記第2領域と接触する一方、前記ボールは、前記第1領域とだけ接触するよう構成される
ことを特徴とするディンプル成形バニシング工具。
【請求項3】
請求項1の記載において、
前記フレームの同一円周上には、前記転動体としての複数のローラと、前記押圧体としての複数の特殊ローラとが交互に間隔を空けて配置され、かつ、前記ローラおよび前記特殊ローラは、それぞれの軸心が共に前記フレームの軸心方向を向くようにして配置され、
前記特殊ローラは、軸心回りに回転するリングと、このリングを保持するピンとを有して成ると共に、前記リングは、その外周面が尖った先鋭形状を成し、
前記ローラの長さは、前記リングの厚さを超えるものであり、
前記マンドレルは、その先端側に、先端に行くほど縮径したテーパ部が形成され、
前記テーパ部は、その外周面に、前記押圧体出没回転部としての第1領域と、この第1領域を挟んで前記マンドレルの軸心方向の両側に形成された、前記転動体回転部としての第2領域とを有し、
前記第1領域には、円周方向に間隔を空けて複数の平坦部が形成されていて、その断面が多角形形状を成す一方、前記第2領域の断面は円形状を成しており、
前記平坦部の長さは、前記リングの厚さを超え、かつ、前記ローラの長さ未満であり、
前記マンドレルに前記フレームを装着すると、前記ローラは、前記第1領域の前記平坦部と接触することなく前記第2領域と接触する一方、前記リングは、前記第1領域とだけ接触するよう構成される
ことを特徴とするディンプル成形バニシング工具。
【請求項4】
請求項2または3の記載において、
前記複数のローラの外周を結んだ第1包絡円の直径であるツール径を調整するツール径調整機構を備えたことを特徴とするディンプル成形バニシング工具。
【請求項5】
請求項1の記載において、
前記フレームの第1円周上には、前記転動体としての複数のローラが互いに間隔を空けて配置される共に、前記ローラは、その軸心が前記フレームの軸心方向を向くようにして配置され、
前記第1円周から前記フレームの軸心方向に離れた前記フレームの第2円周上には、前記押圧体としての複数のボールが互いに間隔を空けて配置され、
前記マンドレルは、先端に行くほど縮径して成り、前記転動体回転部としてのテーパ部と、このテーパ部より一段低くなった段差軸部とを有し、
前記段差軸部には、前記マンドレルの回転に従動する複数の回転体を保持した、前記押圧体出没回転部としてのリテーナが外嵌され、
前記リテーナは、前記複数の回転体を、同一円周上に互いに間隔を空け、かつ、それぞれの前記回転体の一部が前記リテーナの外表面から突出するように保持し、
前記マンドレルに前記フレームを装着すると、前記ローラは前記テーパ部と接触し、前記ボールは前記複数の回転体を保持したリテーナと接触するよう構成される
ことを特徴とするディンプル成形バニシング工具。
【請求項6】
請求項5の記載において、
前記複数のローラの外周を結んだ第1包絡円の直径であるツール径を調整するツール径調整機構と、
前記複数のボールの外周を結んだ第2包絡円が前記第1包絡円より前記フレームの径方向にはみ出した量である出代量を調整する出代量調整機構と
を備え、
前記出代量調整機構は、同一の前記ツール径において、前記出代量を異なる値に調整することが可能に形成される
ことを特徴とするディンプル成形バニシング工具。
【請求項7】
請求項6の記載において、
前記ツール径調整機構は、前記複数のローラおよび前記複数のボールを前記径方向に同時に移動させることにより、前記出代量を変えることなく、前記ツール径の調整を行うことが可能に形成されている
ことを特徴とするディンプル成形バニシング工具。
【請求項8】
請求項6または7の記載において、
前記出代量調整機構は、前記段差軸部に外嵌され、前記リテーナの軸心方向の位置を所定位置になるよう調整する複数のアジャストリングを有し、
前記回転体は、その外周面が先端側に向かうにつれて縮径されたテーパ形状を成し、
前記複数の回転体の外周を結んだ第3包絡円の直径は、前記リテーナの軸心方向の位置に応じて変化するものであり、
さらに、前記リテーナの軸心方向の位置を変えることにより、前記出代量の調整が行われるよう構成される
ことを特徴とするディンプル成形バニシング工具。
【請求項9】
請求項8の記載において、
前記テーパ部のテーパ角と、前記回転体のテーパ角とは同一角度に設定されている
ことを特徴とするディンプル成形バニシング工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−135837(P2012−135837A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290191(P2010−290191)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000132161)株式会社スギノマシン (144)
【Fターム(参考)】