説明

ディーゼルエンジンの補助ブレーキ装置

【課題】制動力を容易に強化できるディーゼルエンジンの補助ブレーキ装置を提供する。
【解決手段】圧縮開放ブレーキに、クランクピン12と連接棒10とが回動自在に接続するマルチリンク11と、マルチリンク11に一端部が回動自在に接続し、かつ他端部が上下に移動可能な揺動節支点14に回動自在に固定された揺動節13とを設置して、動弁手段8の作動と連動して揺動節支点14を移動させることで、ピストン2のストローク長を増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの補助ブレーキ装置に関し、更に詳しくは、制動力を容易に強化できるディーゼルエンジンの補助ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ディーゼルエンジンを搭載したトラックやバスなどの大型車両には、十分な制動力を得るために、通常の摩擦ブレーキに加えて補助ブレーキが装備されている。この補助ブレーキとしては、圧縮開放ブレーキ、排気ブレーキやリターダなどがある。
【0003】
一方、近年の交通安全意識の高まりや車両の大型化及び高速化により、大型車両の制動力を強化することが求められている(例えば、特許文献1を参照)。このことは、補助ブレーキの1つである圧縮開放ブレーキについてもあてはまる。
【0004】
圧縮開放ブレーキは、圧縮行程中の上死点付近で排気弁を開いてシリンダ内の空気を排出し、上死点通過後に排気弁を閉じることでシリンダ内の空気が少ない状態で膨張行程を行わせることで、吸収トルクを発生させて制動力を得るものである。このような圧縮開放ブレーキにおいて、より大きな吸収トルクを発生させて制動力を強化するには、過給圧及び圧縮比の向上などによって圧縮端の圧力を高めて、膨張行程中の負の仕事を増やす必要がある。
【0005】
しかし、過給圧を向上させるにはターボの仕事を増大させる必要があるが、ブレーキ中で燃料を噴射しない場合には十分な排気エネルギーを確保することができない。そのため、ブレーキ中に過給圧を向上させることは困難である。
【0006】
また、圧縮比の向上はピストンの変更で可能であるが、運転中に変更することは困難である。更に、この圧縮比は様々な条件に対して最適なものが選択されており、ブレーキ中のみのために高圧縮比を選択するのは現実的ではない。
【0007】
以上のような事情から、圧縮開放ブレーキの制動力を容易に強化することができる方策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−324658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、制動力を容易に強化できるディーゼルエンジンの補助ブレーキ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成する本発明のディーゼルエンジンの補助ブレーキ装置は、ディーゼルエンジンのクランクピンに連接棒を介して連結するピストンを有するシリンダーと、前記シリンダーの燃焼室に開口する排気口を開閉する排気弁と、前記ピストンが圧縮行程の上死点付近に達したときに前記排気弁を開放し、上死点通過後の膨張行程にあるときは前記排気弁を閉止する動弁手段とを備えたディーゼルエンジンの補助ブレーキ装置において、前記クランクピンと前記連接棒とが回動自在に接続するマルチリンクと、前記マルチリンクに一端部が回動自在に接続し、かつ他端部が上下に移動可能な揺動節支点に回動自在に固定された揺動節とを有し、前記動弁手段の作動と連動させて前記揺動節支点を移動させて、前記ピストンのストローク長を増加させることを特徴とするものである。
【0011】
上記のディーゼルエンジンの補助ブレーキ装置においては、マルチリンクを三節リンクから構成し、クランクピンと連接棒と揺動節とが三節リンクの各頂部にそれぞれ接続するようにする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のディーゼルエンジンの補助ブレーキ装置によれば、従来のディーゼルエンジンに、マルチリンク、揺動節及び揺動節支点を設けて、補助ブレーキの作動時に連動して揺動節支点を移動してピストンのストローク長を増加させて、圧縮比の増加に伴って圧縮端圧力を上昇させることで、膨張行程中の負の仕事量を増加することができるので、制動力を容易に強化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態からなるディーゼルエンジンの補助ブレーキ装置において、ピストンが下死点に位置する場合の構成図である。
【図2】図1のディーゼルエンジンの補助ブレーキ装置において、ピストンが上死点に位置する場合の構成図である。
【図3】ディーゼルエンジンの補助ブレーキ装置の動作を説明する構成図である。
【図4】ピストンのストローク長を変化させたときのクランク角度とシリンダ内の容積との関係を表すグラフである。
【図5】ピストンのストローク長を変化させたときのシリンダ内の容積とシリンダ内の圧力との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態からなるディーゼルエンジンの補助ブレーキ装置を示す。
【0016】
このディーゼルエンジンの補助ブレーキ装置(以下、「補助ブレーキ装置」という。)は圧縮開放ブレーキであり、図1はシリンダ1内を上下に往復動するピストン2が下死点に位置する場合を示している。
【0017】
ディーゼルエンジンのシリンダ1の上部には、シリンダ1内の燃焼室3に開口する吸気口4及び排気口5をそれぞれ開閉する吸気弁6及び排気弁7が取り付けられている。圧縮開放ブレーキの使用時には動弁手段8が作動して、ピストン2が圧縮行程の上死点付近に達したときに排気弁6が開放され、上死点通過後の膨張行程にあるときは排気弁6が閉止されるようになっている。
【0018】
シリンダ1内のピストン2は、ピストンピン9に連結する連接棒10を介してマルチリンクと接続されている。マルチリンクは略三角形状の金属板からなる三節リンク11から構成され、連接棒10の端部が三節リンク11の頂部の1つに回動自在に接続している。
【0019】
そして、三節リンク11の残りの2つの頂部には、クランクピン12と、棒状体からなる揺動節13の一端部とがそれぞれ回動自在に接続している。また、揺動節13の他端部は、上下方向及び左右方向に連続的に移動可能な揺動節支点14に固定されている。
【0020】
このように、連接棒10、クランクピン12及び揺動節13が三節リンク11に回動自在に接続しているため、図2に示すように、ピストン2が上死点に位置する場合でも、三節リンク11を介在して、それぞれが適切な位置に変動するので、ピストン2の往復動を妨げることはない。
【0021】
上記の補助ブレーキ装置を用いて、ディーゼルエンジンを搭載した車両の制動力を強化するには、動弁手段8が作動したときに連動して揺動節支点14を適当な方向へ移動させて、その位置で保持する。
【0022】
図3に示す例では、揺動節支点14を上方へ移動させると、三節リンク11がクランク軸の軸中心であるクランクジャーナル15の回りに回転(図3では時計回りに回転)して、各部材が実線で示す位置から一点鎖線で示す位置へ変位することで、下死点におけるピストン2の位置が下方へ移行するのでピストン2のストローク長が増加する。図3では、ピストン2のストローク長の増加分をWで示している。
【0023】
なお、図3の例では、揺動節支点14を上方に移動させているが、各部の寸法などにより、揺動節支点14を左右方向や円周方向などに移動して、ピストン2のストローク長を増加させる場合もある。
【0024】
図4、5は、ピストン2のストローク長を変化させた場合における、シリンダ1内の容積及びシリンダ1内の圧力の変化をそれぞれ示したものである。
【0025】
図4からは、ピストン2のストローク長が長くなると、膨張行程においてシリンダ1内の容積が増加することが分かる。また、図5からは、ピストン2のストローク長が長くなると、圧縮比の増加に伴って圧縮端圧力が上昇して、膨張行程中の負の仕事量が増加することが分かる。
【0026】
このように、本発明の補助ブレーキ装置を用いてピストン2のストローク長を長くすることで、制動力を強化できることが分かる。また、従来のディーゼルエンジンに、マルチリンク、揺動節13及び揺動節支点14を設けて、揺動節支点14を移動するだけでよいため、本発明を容易に実施することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 シリンダ
2 ピストン
3 燃焼室
4 吸気口
5 排気口
6 吸気弁
7 排気弁
8 動弁手段
9 ピストンピン
10 連接棒
11 三節リンク
12 クランクピン
13 揺動節
14 揺動節支点
15 クランクジャーナル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンのクランクピンに連接棒を介して連結するピストンを有するシリンダーと、前記シリンダーの燃焼室に開口する排気口を開閉する排気弁と、前記ピストンが圧縮行程の上死点付近に達したときに前記排気弁を開放し、上死点通過後の膨張行程にあるときは前記排気弁を閉止する動弁手段とを備えたディーゼルエンジンの補助ブレーキ装置において、
前記クランクピンと前記連接棒とが回動自在に接続するマルチリンクと、前記マルチリンクに一端部が回動自在に接続し、かつ他端部が上下に移動可能な揺動節支点に回動自在に固定された揺動節とを有し、
前記動弁手段の作動と連動させて前記揺動節支点を移動させて、前記ピストンのストローク長を増加させることを特徴とするディーゼルエンジンの補助ブレーキ装置。
【請求項2】
前記マルチリンクが三節リンクであって、前記クランクピンと前記連接棒と前記揺動節とが前記三節リンクの各頂部にそれぞれ接続する請求項1に記載のディーゼルエンジンの補助ブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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