説明

デジタル信号による移動体位置検知システム

【課題】車上の列車位置検知用の信号の送信系の装置の共通化と、地上装置の受信系の装置の構成を単純化して、移動体位置検知システムを低コストで且つ容易に構築することができる移動体位置検知システムを提供する。
【解決手段】移動体101の車上の列車位置検知用信号の送信系であるTD用CPU111は、位置検知信号を先頭であることの識別情報を組み込んだデジタル電文、及び位置検知信号を後尾であることの識別情報を組み込んだデジタル電文を作成し、単一の共通した搬送波をデジタル変調してそれぞれ先頭アンテナ121、後尾アンテナ122からタイミングをずらして送信する。信号送信において信号の混在発生は防止され、送信系の先頭用と後尾用で共通化及び単純化が達成される。また、TD受信器151等やTD地上装置141側でも、単一の受信フィルタでの位置検知信号の受信が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モノレールや新交通システムの列車位置の検知に用いられる移動体位置検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
モノレールにおける列車位置検知については、列車にゴムタイヤを採用しているため、車軸による電気的な回路短絡による列車位置検知ができない。そこで、従来では、モノレールにおける列車位置検知をアナログ信号により実施している。アナログ信号による列車位置検知では、先頭から送信する列車位置検知用の信号と後尾から送信する列車位置検知用の信号の周波数を違えており、この周波数の違いにより、列車の先頭位置と後方位置を地上の列車位置検知装置で認識し、列車の在線位置を認識している。
【0003】
モノレール等のゴムタイヤを採用している列車の在線検知には、軌道回路境界部分に受信アンテナを設置し、車上の送信器が送信する列車位置検知用の信号を、先頭波、後尾波の順に地上装置で受信することで、列車の軌道回路への進入と進出を検知するチェックイン・チェックアウト方式や、受信アンテナを軌道回路単位にループ線で構築した連続検知方式が実用化されている。いずれの方式も、先頭波と後尾波の周波数は異なっている。
【0004】
モノレールにおけるアナログ方式による列車位置検知方式は、列車の先頭から送信する位置検知信号と後尾から送信する位置検知信号とで搬送波が異なるので、列車検知用の信号を送信するために使用する無線周波数が複数波必要である。更に、列車検知用の信号を受信する地上装置においても、複数の周波数に対応した受信フィルタが必要となる。またアナログ信号を単純にデジタル電文化しただけでは、同様に受信フィルタが複数必要となるという課題は解決されない。
【特許文献1】特開2000−225946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、列車位置検知のために使用する無線の使用周波数を一波にして、車上の列車位置検知用の信号の送信系の装置の共通化と、地上装置の受信系の装置の構成を単純化する点で解決すべき課題がある。
【0006】
この発明の目的は、車上が送信する前後の在線位置信号の搬送波を共通周波数とすることで、車上の列車位置検知用の信号の送信系の装置の共通化と、地上装置の受信系の装置の構成を単純化して、移動体位置検知システムを低コストで且つ容易に構築することができる移動体位置検知システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、この発明による移動体位置検知システムは、ループ線が敷設された軌条と、この軌条を移動し、先頭と後尾にそれぞれ位置検知用信号を送信する通信子を有する移動体と、前記移動体から送信された当該位置検知用信号を受信して前記移動体の軌条上における占有位置を検知する地上装置とを備えた移動体位置検知システムにおいて、前記位置検知用信号は前記移動体の前記先頭と前記後尾とを区別する識別データを含むデジタル電文であり、前記デジタル電文の搬送に使用する搬送波周波数は共通であることを特徴としている。
【0008】
この移動体位置検知システムによれば、まず、列車位置検知用の信号はアナログ信号ではなく、デジタル電文である。車上の列車位置検知用のデジタル電文を作成する装置において、列車の先頭から送信する列車位置検知用の信号を作成する場合には、列車の先頭を示すデータをデジタル電文中に設定し、列車の後尾から送信する列車位置検知用の信号を作成する場合には、列車の後尾を示すデータをデジタル電文中に設定する。列車の先頭を示すデータを設定したデジタル電文を、列車の先頭に設置された車上アンテナから、搬送波に載せ送信する。移動体の先頭側及び後尾側の各通信子から送信するデジタル電文の搬送に使用する搬送波周波数は共通である。先頭からのデジタル電文の送信が完了後、列車の後尾を示すデータを設定したデジタル電文を、列車の後尾に設置された車上アンテナから送信する。地上装置では、先頭から送信された列車位置検知用のデジタル電文と、後尾から送信された列車位置検知用のデジタル電文を、区別して受信することが可能となり、列車の在線位置を検知することが可能となる。移動体の先頭側及び後尾側の各通信子から送信されるデジタル電文は同じ周波数の搬送波に載せて送信されるので、信号の送信系の装置について共通化を図ることができる。
【0009】
この移動体位置検知システムにおいて、前記各通信子からの送信タイミングをずらせたことができる。先頭からのデジタル電文の送信と、後尾からのデジタル電文は同じ周波数の搬送波に載せて送信されるが、送信タイミングをずらすことによって、双方の信号が混在して信号が壊れることはない。例えば、両通信子からの送信を一定周期で繰り返すことで、順次、移動体の位置が検知される。
【0010】
この移動体位置検知システムにおいて、前記地上装置は、前記ループ線毎に設けられて前記デジタル電文を受信し復調するTD受信器と、前記各TD受信器に接続されたTD地上装置とを備えており、前記TD受信器は前記搬送波周波数に相当した一つの共通周波数用の受信フィルタを備えることができる。TD受信器がデジタル電文を受信し復調する際の受信フィルタとして一つの共通周波数用のフィルタを採用しているため、地上装置側においても、信号の受信系の装置についても共通化を図ることができる。
【0011】
TD受信器とTD地上装置とを備えた上記移動体位置検知システムにおいて、前記TD受信器は、復調した前記位置検知用信号を解析することなく前記TD地上装置に送信し、前記TD地上装置が前記位置検知用信号を解析して前記移動体の前記軌条における占有位置を検知することができる。また、前記TD受信器は、復調した前記位置検知用信号を解析して前記識別データを含む解析情報を前記TD地上装置に送信し、前記TD地上装置は前記解析情報に基づいて前記移動体の前記軌条における占有位置を検知することができる。即ち、この移動体位置検知システムにおいて、地上側では、TD受信器とTD地上装置とで、受信・復調と、信号解析の役割を分担し合うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明による移動体位置検知システムによれば、先頭から送信する位置検知信号をデジタル電文とし先頭電文である識別情報を組込み、同様に後尾から送信する位置検知信号をデジタル電文とし後尾電文である識別情報を組込み、移動体の車上から送信される信号に先頭側と後尾側とを区別する識別データを含んでおり、地上装置側への位置検知用信号の送信を単一の搬送波で行うこととしているので、車上の列車位置検知用信号の送信系の装置において先頭用と後尾用で共通化及び単純化を達成することができる。また、地上装置の受信系の装置においても、共通の搬送波について受信・復調を行えばよく、受信フィルタを1種類とすることができるので、受信系の装置の構成の共通化及び単純化を達成することができる。その結果、移動体位置検知システムを低コストで且つ容易に構築することができる。更に、先頭電文と後尾電文との送信タイミングを時間的にずらしているので、単一の搬送波での信号送信において信号の混在発生を防止し、受信側の地上装置でも単一の受信フィルタにて位置検知信号の受信を可能にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付した図面を参照して、この発明による移動体位置検知システムの実施形態を説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は、本発明である移動体位置検出システムをモノレールのようなタイヤで走行する軌条車両のシステムに適用した列車在線位置検知システムの構成図である。モノレール車両のような移動体101に実装されたTD(train detection)用CPU111は、移動体101の位置検知信号として、列車位置検知用のデジタル電文を先頭電文、後尾電文の順に定周期で作成して出力するCPU装置である。先頭電文には先頭を示すデジタル情報が、また後尾電文には後尾を示すデジタル情報がそれぞれ組み込まれる。移動体101は、TD用CPU111に関連して、移動体101の先頭から位置検知信号を送信するためにデジタル変調処理を実施する送信器112と、移動体101の後方から位置検知信号を送信するためにデジタル変調処理を実施する送信器113とを備えている。
【0015】
TD用CPU111は、先頭電文を作成すると、TD送信器前112に対し先頭電文を送信する。TD送信器前112は、TD用CPU111から先頭電文を受信すると、予め決められている搬送波にて、デジタル変調処理を実施し、移動体101の先頭部に配設されている先頭アンテナ121に送信する。
【0016】
TD用CPU111は、送信タイミングを異ならせるため、例えば一定時間後に後尾電文を作成し、TD送信器後113対し後尾電文を送信する。TD送信器後113は、TD用CPU111からの後尾電文を受信すると、先頭電文を送信する搬送波と同一の搬送波にて、デジタル変調処理を実施し、移動体101の後尾部に配設されている後尾アンテナ122に送信する。
【0017】
地上側では、軌条路に沿ってループアンテナ161,162,163…が順に設置されており、各ループアンテナ161,162,163…にはTD受信器151,152,153…が接続されている。TD受信器151,152,153…は、各ループアンテナ161,162,163…が受信した電文を取り込んで、移動体101から送信された電文をデジタル復調する。TD受信器151,152,153…はTD地上装置141に接続されている。TD地上装置141は、先頭電文及び受信した受信器番号、並びに後尾電文及び受信した受信器番号から、移動体101の位置を検出する装置である。受信・復調を行うTD受信器151等と移動体101の位置を検出するTD地上装置141との間では、識別データの解析の機能をどちらで行うかについて役割分担を図ることができる。
【0018】
先頭アンテナ121から送出された先頭電文は、地上に設置されているループアンテナ162で受信される。TD受信器152は、ループアンテナ162で受信された先頭電文を取込み、デジタル復調処理を実施し、TD地上装置141に送信する。TD地上装置141では、TD受信器152から電文が送信されたことと、先頭電文であることから、移動体101の先頭が、ループアンテナ162上に在ると認識する。
【0019】
引き続いて、後尾アンテナ123から送信された後尾電文は、地上に設置されているループアンテナ163で受信され、TD受信器153が電文を取込み、デジタル復調処理を実施し、TD地上装置141に送信する。TD地上装置141では、TD受信器153から電文が送信されたことと、後尾電文であることから、移動体101の後尾が、ループアンテナ163上に在ると認識する。
【0020】
TD地上装置141は、先頭電文を受信したループアンテナ162と後尾電文を受信したループアンテナ163間上に移動体101が在線していると列車位置検知する。
【0021】
次に、列車位置検知用の電文の流れを図2にて説明する。TD用CPU111で作成された先頭電文201は、デジタル変調され先頭アンテナ121から地上に送信される。地上に送信された先頭電文201は、ループアンテナ162で受信され、TD受信器152に取込まれて復調された後、TD地上装置141に送信される。先頭電文201の送信が完了するまで、次の電文である後尾電文202は送信されない。
【0022】
後尾電文202は、後尾アンテナ122がループアンテナ163上にある時に送信された電文である。ループアンテナ163に後尾電文202が送信されており、ループアンテナ163で受信され、TD受信器153に取込まれて復調された後、TD地上装置141に送信される。TD地上装置141は、異なるTD受信器152,153から先頭電文203と後尾電文204を受信することになり、移動体101はループアンテナ162と163に跨がって存在していることが判る。
【0023】
次に、同様にして、先頭アンテナ121がループアンテナ162上にあるときに先頭電文203が送信され、TD地上装置141が先頭電文203を受信完了後に、後尾電文204が送信されるとする。後尾電文204は、移動体101が移動して、後尾アンテナ122がループアンテナ162上に移動した時に送信された電文である。
【0024】
ループアンテナ162に、先頭電文203と後尾電文204が送信されているが、先頭電文203の送信完了後に、後尾電文204が送信されているため、先頭電文203と後尾電文204が混在し電文が壊れることはなく、TD地上装置141で、先頭電文203と後尾電文204を受信することができる。TD地上装置141は、同じTD受信器152から先頭電文203と後尾電文204とを受信することができ、移動体101はループアンテナ162内に存在していることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】移動体の位置検知システムの構成図である。
【図2】列車位置検知電文の送信タイムチャートである。
【符号の説明】
【0026】
101 移動体 111 CPU装置
112 送信器 113 送信器
121 送信用のアンテナ 122 送信用のアンテナ
141 地上装置 151〜153 受信器
161〜163 地上のアンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ループ線が敷設された軌条を移動する移動体の先頭と後尾にそれぞれ位置検知用信号を送信する通信子を有し、地上装置で前記移動体から送信された当該位置検知用信号を受信することで、前記移動体の占有位置を検知する移動体位置検知システムにおいて、
前記位置検知用信号は前記移動体の前記先頭と前記後尾とを区別する識別データを含むデジタル電文であり、前記デジタル電文の搬送に使用する搬送波周波数は共通であることを特徴とする移動体位置検知システム。
【請求項2】
前記移動体の先頭側及び後尾側の前記各通信子から送信する前記デジタル電文の送信タイミングをずらせたことを特徴とする請求項1に記載の移動体位置検知システム。
【請求項3】
前記地上装置は、前記ループ線毎に設けられて前記デジタル電文を受信し復調するTD受信器と、前記各TD受信器に接続されたTD地上装置とを備えており、前記TD受信器は前記搬送波周波数に相当した一つの共通周波数用の受信フィルタを備えていることを特徴とする請求項2に記載の移動体位置検知システム。
【請求項4】
前記TD受信器は、復調した前記位置検知用信号を解析することなく前記TD地上装置に送信し、前記TD地上装置が前記位置検知用信号を解析して前記移動体の前記軌条における占有位置を検知することを特徴とする請求項3に記載の移動体位置検知システム。
【請求項5】
前記TD受信器は、復調した前記位置検知用信号を解析して前記識別データを含む解析情報を前記TD地上装置に送信し、前記TD地上装置は前記解析情報に基づいて前記移動体の前記軌条における占有位置を検知することを特徴とする請求項3に記載の移動体位置検知システム。

【図1】
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【図2】
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