説明

デジタル画像拡大・縮小方法、デジタル画像拡大・縮小装置、及びデジタル画像拡大・縮小プログラム

【課題】画質を劣化させずにデジタル画像の拡大及び縮小を行えるとともに、方向性を持った拡大及び縮小のデジタル画像を生成することができる。
【解決手段】画像変換装置1は、画像入力手段11、画像蓄積手段12、拡大・縮小速度場参照手段13、偏微分方程式解法手段14、表示手段15を備えており、画像入力手段11から被写体とする画像・映像を入力し、画像蓄積手段12に入力された画像・映像を蓄積し、拡大・縮小速度場参照手段13において所望の拡大率又は縮小率に対応する速度場が参照され、偏微分方程式解法手段14において、該速度場を用いて、流体力学における移流・拡散方程式から所望の拡大又は縮小された画像を生成し、表示手段15において、生成された所望の拡大又は縮小された画像を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル画像を拡大及び縮小する画像拡大・縮小技術に関し、特に、デジタルカメラやデジタルビデオなどにおける静止画及び動画に好適に適用できる技術である。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭からプロ仕様まで幅広く普及しているデジタルカメラ及びデジタルビデオにおいては、様々な画像処理機能が標準装備されているが、最も頻繁に使用される機能は、被写体へのズームイン(拡大)及びズームアウト(縮小)機能である。ズームイン(拡大)及びズームアウト(縮小)機能は、操作ボタンと連動しており、一定の拡大及び縮小を行う場合は、まず、レンズによる光学的調整又はレンズ交換によって行われる。そのため、この光学的な拡大及び縮小の限界は、そのレンズの仕様である焦点距離fに一意に依存している。
【0003】
さらなる拡大及び縮小をするには、デジタル処理による画像変換が不可欠である。この場合、拡大処理の場合は、1画素から次の高い解像度での画像をつくるために4画素以上を複製するようになっている。また、縮小処理の場合は逆に、4画素以上から次の低い解像度の1画素へつくりだすようになっている。そして、上述した拡大や縮小などのデジタル処理機能は、デジタルカメラ及びデジタルビデオにおいてはハードウェア化(ICチップ等)されているため、高速処理が可能であり、ボタン操作と拡大率及び縮小率を連動させることにより実現している。
【0004】
尚、この出願に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【非特許文献1】田村秀行,「コンピュータ画像処理入門」,総研出版,日本工業技術センター編
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上述した従来法によるデジタル処理の拡大・縮小機能の基本原理を図8を用いて説明する。従来からの拡大の方法(以下、ブロック処理ともいう)は、1つの画素のもつ画像強度(通常8ビット階調)を別の演算層において、4つの画素に同じ値を書き込んでいくことを繰り返す。換言すれば、これは、一つのブロックにAという文字200があり、それと同じ文字Aを別に用意された箱4個210に単純に複製する方法である。一方、従来からの縮小の方法は、逆に、4画素以上から次の低い解像度の1画素を作りだすようになっている(図8において、画像210から画像200を作成する)。そのため、拡大・縮小を繰り返すと、特に輪郭部においてジグザグ感が顕著となる問題が生じる。即ち、第1の問題点として、拡大・縮小処理において、画像中の被写体や背景に発現するジグザグ状のパターンが画質を大きく劣化させるという問題がある。図9は従来法によるデジタルズームイン(拡大)の例である。図8で示した原理に従っている。カメラ入力された三日月状のパターンを被写体とするデジタル画像300をデジタルズームインし続けていくとデジタル画像310を経て、三日月の輪郭線が階段状のジグザグ状となったデジタル画像320が得られるようになる。このように、最終的に得られるデジタル画像が、初期のデジタル画像300とは印象がかなり異なり、画質劣化するという問題が知られている。
【0006】
また、第2の問題点として、正面方向(紙面に垂直な方向)の拡大と縮小しかできないという問題がある。その理由は、上述した拡大・縮小の方法では、1つの画素から複数の画素をつくるときに方向性をもたせることができないからである。
【0007】
さらに、第3の問題点として、第1の問題点として挙げた輪郭部のジグザク感を滑らかにする補間処理を行うと、輪郭部や模様(テクスチャ)表面の画像強度分布を滑らかに補間することによってジグザグ感は緩和されるが逆に、ぼけが顕著となるという問題がある。これは、被写体内部の模様(テクスチャ)まで画像強度の分布が凸凹になるため、単純に画像補間による補正では、かえってぼけてしまうことによる。
【0008】
本発明は上記の問題を解決するためになされたものであり、画質を劣化させずにデジタル画像の拡大及び縮小を行えるとともに、方向性を持った拡大及び縮小のデジタル画像を生成することができるデジタル画像拡大・縮小方法、デジタル画像拡大・縮小装置、及びデジタル画像拡大・縮小プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1記載の本発明は、移流・拡散方程式を用いて画像特徴量を演算して、デジタル画像を拡大・縮小するコンピュータによるデジタル画像拡大・縮小方法であって、デジタル画像を入力し、入力されたデジタル画像の画素単位に速度場を与え、入力されたデジタル画像の画素単位の画像強度を初期値とし、該画像強度の時空間的な変化量を変数とし、予め定められた拡散係数と前記速度場を用い、前記移流・拡散方程式の数式表現に基づいて数値計算を行って、変換されたデジタル画像の画像強度を求め、数値計算された変換後のデジタル画像を入力されたデジタル画像として、拡大率及び縮小率に応じた回数、前記数値計算を繰り返すことにより、所望の拡大・縮小されたデジタル画像を出力することを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の本発明は、移流・拡散方程式を用いて画像特徴量を演算して、デジタル画像を拡大・縮小するデジタル画像拡大・縮小装置であって、デジタル画像を入力する手段と、入力されたデジタル画像の画素単位に速度場を与えられると、入力されたデジタル画像の画素単位の画像強度を初期値とし、該画像強度の時空間的な変化量を変数とし、予め定められた拡散係数と前記速度場を用い、前記移流・拡散方程式の数式表現に基づいて数値計算を行って、変換されたデジタル画像の画像強度を求める演算を、該演算により求められたデジタル画像を入力されたデジタル画像として、拡大率及び縮小率に応じた回数、繰り返し処理する演算手段と、前記演算手段により得られたデジタル画像を、所望の拡大・縮小されたデジタル画像として出力する出力手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の本発明は、請求項2記載の発明において、前記速度場は、放射状に設定された基本速度場として記憶部に記憶されていることを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の本発明は、請求項3記載の発明において、前記基本速度場は、速度の大きさが異なる複数の速度場を有することを特徴とする。
【0013】
請求項5記載の本発明は、請求項3又は4記載の発明において、前記演算手段は、前記基本速度場にアフィン変換を施した速度場を適用することを特徴とする。
【0014】
前記移流・拡散方程式は、拡散項、移流項、及び時間項を含み、
請求項6記載の本発明は、請求項2乃至5のいずれか1項に記載の発明において、前記拡散項は、拡散係数と前記画像強度の空間二次微分の積で構成され、前記移流項は、前記速度場と前記画像強度の空間一次微分のベクトル内積で構成され、前記時間項は、前記画像強度の時間微分で構成され、前記時間項は、前記拡散項から前記移流項を引いた差に等しいことを特徴とする。
【0015】
請求項7記載の本発明は、移流・拡散方程式を用いて画像特徴量を演算して、デジタル画像を拡大・縮小するコンピュータが読み取り可能なデジタル画像拡大・縮小プログラムであって、前記コンピュータを、デジタル画像を入力する手段と、入力されたデジタル画像の画素単位に速度場を与えられると、入力されたデジタル画像の画素単位の画像強度を初期値とし、該画像強度の時空間的な変化量を変数とし、予め定められた拡散係数と前記速度場を用い、前記移流・拡散方程式の数式表現に基づいて数値計算を行って、変換されたデジタル画像の画像強度を求める演算を、該演算により求められたデジタル画像を入力されたデジタル画像として、拡大率及び縮小率に応じた回数、繰り返し処理する演算手段と、前記演算手段により得られたデジタル画像を、所望の拡大・縮小されたデジタル画像として出力する出力手段と、して機能させることを特徴とする。
【0016】
請求項8記載の本発明は、請求項7記載の発明において、前記速度場は、放射状に設定された基本速度場として前記記憶部に記憶されていることを特徴とする。
【0017】
請求項9記載の本発明は、請求項8記載の発明において、前記基本速度場は、速度の大きさが異なる複数の速度場を有することを特徴とする。
【0018】
請求項10記載の本発明は、請求項8又は9記載の発明において、前記演算手段は、前記基本速度場にアフィン変換を施した速度場を適用することを特徴とする。
【0019】
請求項11記載の本発明は、請求項7乃至10のいずれか1項に記載の発明において、前記移流・拡散方程式は、拡散項、移流項、及び時間項を含み、前記拡散項は、拡散係数と前記画像強度の空間二次微分の積で構成され、前記移流項は、前記速度場と前記画像強度の空間一次微分のベクトル内積で構成され、前記時間項は、前記画像強度の時間微分で構成され、前記時間項は、前記拡散項から前記移流項を引いた差に等しいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、移流・拡散方程式を介した画素単位での連続した内挿法と外挿法を実現することで、ブロック処理を一切不要とすると同時に、1画素よりも小さい単位の画像を生成していく原理に基づいて画像を拡大及び縮小するので、画質を劣化させずに自然な拡大・縮小を実現することができる。即ち、拡大・縮小処理に過程の画像中の被写体や背景に発現するジグザグ状のパターンが画質を大きく劣化させることなく、拡大・縮小した画像を生成できる。
【0021】
また、本発明によれば、放射状の速度場の他、様々な速度場を適用することができるので、正面方向の拡大と縮小に加えて、さまざまな方向の拡大・縮小画像を生成することができる。
【0022】
さらに、本発明によれば、移流・拡散方程式のもつ、拡散効果と移流効果という数理的な連続表現による、近傍の画素の画像強度が自然と混ざり合い、移動することにより、拡大や縮小の変換が実現できるため、輪郭部や模様(テクスチャ)表面の画像強度分布にジグザグ感がなくかつ、ぼけがほとんど生じないという効果を有することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0024】
図1は、本発明の実施の形態に係る画像変換装置1の概略構成図である。図1に示す画像変換装置1は、本発明のデジタル画像拡大・縮小装置の一例で、画像入力手段11、画像蓄積手段12、拡大・縮小速度場参照手段13、偏微分方程式解法手段14、表示手段15を備えており、画像入力手段11から被写体とする画像・映像を入力し、画像蓄積手段12に入力された画像・映像を蓄積し、拡大・縮小速度場参照手段13において所望の拡大率又は縮小率に対応する速度場が参照され、偏微分方程式解法手段14において、該速度場を用いて、流体力学における移流・拡散方程式から所望の拡大又は縮小された画像を生成し、表示手段15において、生成された所望の拡大又は縮小された画像を表示するようになっている。
【0025】
尚、画像変換装置1は、例えば、ICチップなどにハードウェア化された装置として、デジタルカメラ、デジタルビデオ、デジタルテレビなどに組み込まれる形態が好適であるが、これ以外の用途あるいは単体の装置として機能する装置であってもよい。即ち、画像変換装置1は、少なくとも演算機能および制御機能を備えた中央演算装置(CPU)、プログラムやデータを格納する機能を有するRAM等からなる主記憶装置(メモリ)を有する電子的な装置から構成されていればよい。
【0026】
また、本実施の形態に係る各種処理を実行するプログラムは、前述した主記憶装置に格納されているものである。そして、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク、CD−ROM、MO、DVD−ROMなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録することも、通信ネットワークを介して配信することも可能である。
【0027】
ここで、本実施の形態に係る画像変換装置1を用いて拡大処理を行うときの、必要な速度場と生成される画像の関係を図2に示す。速度場は、図2において矢印に示すような放射状の2次元ベクトルとして表されている。この方法は、図2に示すように、ある目のようなパターン400があったときに、ズームインをしようとすると、この速度場から放射状の動きを知覚することができ、これにより、拡大された目410を得ることができるようになっている。即ち、流体力学における移流・拡散方程式において、この動きの知覚にあたる部分を、連続する時系列画像としてみなし、隣接する画像間で放射状の速度場を逐次与えて、元の画像の各画素を移動させていけば、最終的に所望の拡大画像が得られるものである。
【0028】
また、本実施の形態に係る画像変換装置1を用いて縮小処理を行うときの、必要な速度場と生成される画像の関係を図3に示す。速度場は、図3において矢印に示すような放射状の2次元ベクトルとして表されている。この方法は、図3に示すように、ある目のようなパターン500があったときに、ズームアウトをしようとすると、この速度場から放射状の動きを知覚することができ、これにより、縮小された目510を得ることができるようになっている。即ち、流体力学における移流・拡散方程式において、この動きの知覚にあたる部分を、連続する時系列画像としてみなし、隣接する画像間で放射状の速度場を逐次与えて、元の画像の各画素を移動させていけば、最終的に所望の縮小画像が得られるものである。
【0029】
ここで、偏微分方程式解法手段14に用いられる移流・拡散方程式は、式(1)の通りである。
【数1】

【0030】
式(1)において、I(x,y,t)は、画素(x,y)の時刻tにおける画像強度であり、λは、拡散係数であり、uは、上述した速度場であり、2次元速度ベクトルである。尚、式(1)の左辺は、時間項、右辺の第一項は、拡散項、右辺の第二項は、移流項である。
【0031】
計算方法は、式(1)を差分法に従って離散化し、2次元画像面および離散時間軸に沿って積分を繰り返せばよい。式(2)は、式(1)を差分法に従って離散化した結果である。但し、nは、離散化された時間、I(x,y,n)は、入力される画像強度(既知量)、I(x,y,n+1)は、計算の結果、出力される画像強度である。
【数2】

【0032】
I(x,y,n)の初期値を、画像入力手段11から入力されたときの画像とし、式(2)を繰り返し計算することで、所望の拡大又は縮小された画像の画像強度が得られる。即ち、所定の積分回数を設定し、積分回数だけ式(2)を計算することで、必要なだけのズームインもしくはズームアウトした画像出力される。尚、拡散係数λ、時間間隔Δt及び積分回数の値により、拡大率や縮小率が決定されるが、演算の安定条件から時間間隔Δtは小さくとり、その分積分回数を多くするのがよい。
【0033】
図4は、本発明によるズームアウトの画像の生成例である。入力した元の画像800から、式(2)の出力に従って、階的に拡大していく様子を示しており、画像810を介して、最終的に画像820までを容易に得ることができる。図4に示すように、生成されていく画像の輪郭線や内部の模様(テクスチャ)にはジグザグ状のパターンが生成されることがなく、画質の劣化が抑止できている。
【0034】
次に、本実施の形態に係る画像変換装置1の動作を図5を用いて説明する。
【0035】
まず、画像入力手段11から画像dを入力し、画像dのズームイン・ズームアウトをする領域を設定するために、ズームインもしくはズームアウトとなる中心点を設定する(ステップS10,S20)。
【0036】
次に、拡大・縮小速度場参照手段13において、拡大率もしくは縮小率が、速度場変換過程と連動して設定される(ステップS30,S40)。上述したように、拡大の場合は中心点から外向きの発散系、縮小の場合は、中心点に向かって、内向きの収束系の速度場が対応しており、発散系及び収束系の速度場は入力画像dの画素の数だけ事前に与えられているものとする。
【0037】
次に、偏微分方程式解法手段14は、この速度場及び入力画像dの各画素の画像強度を既知量として、上述した移流・拡散系方程式(1)の積分計算を行う(ステップS50)。そして、偏微分方程式解法手段14は、拡大率又は縮小率に対応した積分回数を設定し、設定された積分回数分、移流・拡散系方程式(1)の演算を繰り返して、表示手段15を介して所望の拡大又は縮小された画像を出力する(ステップS60,S70)。
【0038】
尚、速度場を図2又は図3に示すように中心点から等方的に発散又は中心点に等方的に収束するように設定するときには、正面方向の拡大又は縮小となるが、本実施の形態に係る拡大及び縮小はこれに限定されるものではなく、速度場を異方的に与えることにより、正面方向以外の拡大及び縮小を可能とするものである。
【0039】
図6は、異方的な変形(正面方向以外の拡大及び縮小)を行うときの、必要な速度場と生成される画像の関係を示すものである。速度場は、図6において矢印に示すような2次元ベクトルとして表されている。このような異方的な速度場を与えることにより、従来のブロック処理にはおいては不可能であった、任意の変形、異方的な変形を可能とすることができる。図6においては、画像600の目の形状をまぶたと眼球とを同時に変形させる場合、図6に示すような速度場を与えてそれに従って画像600の画素を移動すれば、異方的な変形をされた画像610を容易に得ることができる。
【0040】
尚、このような異方的な速度場は、予め画像変換装置1に設定されていてもよいが、予め与えられた放射状の基本速度場(上述した正面方向の拡大及び縮小に対応する速度場であり、複数の速度の大きさが設定可能である)にアフィン(Affine)変換を施すことで、例えば、歪みや射影拡大・縮小を可能とする異方的な速度場を生成することが可能である。
【0041】
図7は、画像変換装置1により生成された画像の画質に対する主観評価実験の結果である。さまざまな被写体に対して、ズームインを施した場合の画質評価について5段階で行った(評価が良好なほど評価値は低い)。従来法による画素の単純な補間法(ブロック処理による方法)と本発明による方法の比較である。デジタルカメラとデジタルビデオを用いて、光学式で5倍まで拡大した後(5倍までは画質の劣化はほとんど知覚されず、評価値は1と良好であった)、デジタル式でさらに拡大を行った。従来法においては、倍率を50倍までデジタル式で拡大した画像をつくっていくと、被写体の境界部やテクスチャ部で従来法だとジグザグパターンが顕著となるために、評定値は指数関数的に悪化し、5まで達した。
【0042】
これに対して、本発明においては、全体的に1乃至1.5の評価値となり、評価は良好であった。尚、倍率50あたりで1.5とやや悪くなったが、これは数値計算における誤差拡散によるもので、その影響によるが、実際はほとんど気になることがないものであった。
【0043】
以上、本実施の形態によれば、移流・拡散方程式を介した画素単位での連続した内挿法と外挿法を実現することで、ブロック処理を一切不要とすると同時に、1画素よりも小さい単位の画像を生成していく原理に基づいて画像を拡大及び縮小するので、画質を劣化させずに自然な拡大・縮小を実現することができる。即ち、拡大・縮小処理に過程の画像中の被写体や背景に発現するジグザグ状のパターンが画質を大きく劣化させることなく、拡大・縮小した画像を生成できる。
【0044】
また、本発明によれば、放射状の速度場の他、様々な速度場を適用することができるので、正面方向の拡大と縮小に加えて、さまざまな方向の拡大・縮小画像を生成することができる。
【0045】
さらに、本発明によれば、移流・拡散方程式のもつ、拡散効果と移流効果という数理的な連続表現による、近傍の画素の画像強度が自然と混ざり合い、移動することにより、拡大や縮小の変換が実現できるため、輪郭部や模様(テクスチャ)表面の画像強度分布にジグザグ感がなくかつ、ぼけがほとんど生じないという効果を有することができる。
【0046】
この結果、本実施の形態に係るデジタル画像拡大・縮小技術は、ブロードバンド時代の新たな画像変換技術の中核となるものであり、デジタルカメラ、デジタルビデオ、デジタルテレビを始めとするデジタル画像機器において、家庭からプロ仕様まで幅広く、利用されることが考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の実施の形態に係る画像変換装置の概略構成図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る画像変換装置において、拡大を行うときに必要な速度場と生成される画像の関係を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る画像変換装置において、縮小を行うときに必要な速度場と生成される画像の関係を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る画像変換装置により生成される拡大画像の一例である。
【図5】本発明の実施の形態に係る画像変換装置の動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態に係る画像変換装置において、異方的に変形させた場合の例を示す図である。
【図7】本発明の実施の形態に係る画像変換装置により生成された画像の画質に対する主観評価実験の結果を示す図である。。
【図8】従来法によるデジタルズームイン・アウトの基本原理を示す図である。
【図9】従来法によるデジタルズームインの例である。
【符号の説明】
【0048】
1 画質変換装置(デジタル画像拡大・縮小装置の一例)
11 画像入力手段
12 画像蓄積手段
13 拡大・縮小速度場参照手段
14 偏微分方程式解法手段
15 表示手段



【特許請求の範囲】
【請求項1】
移流・拡散方程式を用いて画像特徴量を演算して、デジタル画像を拡大・縮小するコンピュータによるデジタル画像拡大・縮小方法であって、
デジタル画像を入力し、
入力されたデジタル画像の画素単位に速度場を与え、
入力されたデジタル画像の画素単位の画像強度を初期値とし、該画像強度の時空間的な変化量を変数とし、予め定められた拡散係数と前記速度場を用い、前記移流・拡散方程式の数式表現に基づいて数値計算を行って、変換されたデジタル画像の画像強度を求め、
数値計算された変換後のデジタル画像を入力されたデジタル画像として、拡大率及び縮小率に応じた回数、前記数値計算を繰り返すことにより、所望の拡大・縮小されたデジタル画像を出力することを特徴とするデジタル画像拡大・縮小方法。
【請求項2】
移流・拡散方程式を用いて画像特徴量を演算して、デジタル画像を拡大・縮小するデジタル画像拡大・縮小装置であって、
デジタル画像を入力する手段と、
入力されたデジタル画像の画素単位に速度場を与えられると、入力されたデジタル画像の画素単位の画像強度を初期値とし、該画像強度の時空間的な変化量を変数とし、予め定められた拡散係数と前記速度場を用い、前記移流・拡散方程式の数式表現に基づいて数値計算を行って、変換されたデジタル画像の画像強度を求める演算を、該演算により求められたデジタル画像を入力されたデジタル画像として、拡大率及び縮小率に応じた回数、繰り返し処理する演算手段と、
前記演算手段により得られたデジタル画像を、所望の拡大・縮小されたデジタル画像として出力する出力手段と、
を有することを特徴とするデジタル画像拡大・縮小装置。
【請求項3】
前記速度場は、放射状に設定された基本速度場として記憶部に記憶されていることを特徴とする請求項2記載のデジタル画像拡大・縮小装置。
【請求項4】
前記基本速度場は、速度の大きさが異なる複数の速度場を有することを特徴とする請求項3記載のデジタル画像拡大・縮小装置。
【請求項5】
前記演算手段は、前記基本速度場にアフィン変換を施した速度場を適用することを特徴とする請求項3又は4記載のデジタル画像拡大・縮小装置。
【請求項6】
前記移流・拡散方程式は、拡散項、移流項、及び時間項を含み、
前記拡散項は、拡散係数と前記画像強度の空間二次微分の積で構成され、
前記移流項は、前記速度場と前記画像強度の空間一次微分のベクトル内積で構成され、
前記時間項は、前記画像強度の時間微分で構成され、
前記時間項は、前記拡散項から前記移流項を引いた差に等しいことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載のデジタル画像拡大・縮小装置。
【請求項7】
移流・拡散方程式を用いて画像特徴量を演算して、デジタル画像を拡大・縮小するコンピュータが読み取り可能なデジタル画像拡大・縮小プログラムであって、
前記コンピュータを、
デジタル画像を入力する手段と、
入力されたデジタル画像の画素単位に速度場を与えられると、入力されたデジタル画像の画素単位の画像強度を初期値とし、該画像強度の時空間的な変化量を変数とし、予め定められた拡散係数と前記速度場を用い、前記移流・拡散方程式の数式表現に基づいて数値計算を行って、変換されたデジタル画像の画像強度を求める演算を、該演算により求められたデジタル画像を入力されたデジタル画像として、拡大率及び縮小率に応じた回数、繰り返し処理する演算手段と、
前記演算手段により得られたデジタル画像を、所望の拡大・縮小されたデジタル画像として出力する出力手段と、
して機能させることを特徴とするデジタル画像拡大・縮小プログラム。
【請求項8】
前記速度場は、放射状に設定された基本速度場として記憶部に記憶されていることを特徴とする請求項7記載のデジタル画像拡大・縮小プログラム。
【請求項9】
前記基本速度場は、速度の大きさが異なる複数の速度場を有することを特徴とする請求項8記載のデジタル画像拡大・縮小プログラム。
【請求項10】
前記演算手段は、前記基本速度場にアフィン変換を施した速度場を適用することを特徴とする請求項8又は9記載のデジタル画像拡大・縮小プログラム。
【請求項11】
前記移流・拡散方程式は、拡散項、移流項、及び時間項を含み、
前記拡散項は、拡散係数と前記画像強度の空間二次微分の積で構成され、
前記移流項は、前記速度場と前記画像強度の空間一次微分のベクトル内積で構成され、
前記時間項は、前記画像強度の時間微分で構成され、
前記時間項は、前記拡散項から前記移流項を引いた差に等しいことを特徴とする請求項7乃至10のいずれか1項に記載のデジタル画像拡大・縮小プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−146373(P2006−146373A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−332475(P2004−332475)
【出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(399035766)エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社 (321)
【Fターム(参考)】