説明

デバイス製造支援装置、そのシミュレーション方法、デバイス製造装置

【課題】本発明は、製造プロセスをシミュレーションすることで、デバイス製造のための最適のパラメータを決定するデバイス製造支援装置を提供することを目的とする。
【解決手段】
製造プロセスを模擬するプロセスシミュレータで形状ばらつきを持った形状モデルを作成し、その結果をデバイスシミュレータに入力する。そして、デバイスの特性ばらつきを評価し、パラメータの最適値と許容範囲を推定し、そのパラメータで再度シミュレータを行なう。これを繰り返してパラメータの最適値と許容範囲を決定するデバイス製造支援装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、MEMSデバイス、HDDヘッド、電子デバイスなどのマイクロ/ナノデバイスに対しての製造に関連して行うシミュレーション技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス等のデバイスの製造に際し、その素子性能を向上させ、製造ばらつきを減らして歩留まりを向上させるための各種製造パラメータの調整が必要である。従来、その方法として、さまざまな製造パラメータを設定したウエハを実際に製造しそれを評価し、繰り返し製造パラメータを調整し試作するという方法が行われており、そのコスト及び試作期間の長さが問題となっている。例えば、新規性の高いデバイスの製造においては、製造パラメータが決定されるまで、数10回以上の試作が必要となる場合もあり、この試作回数の削減は急務となっている。
【0003】
この試作回数を減らす方式としては、製造装置のプロセスデータと製造プロセスの検査装置の検査結果との因果関係を計算することで、製造パラメータを調整する方法が提案されている。
(特許文献1)。
【特許文献1】特開2000−252179(段落0108〜111、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この方法は、プロセスデータと検査装置の検査結果との因果関係について、実験計画法に基づく統計的処理を行なうための必要な実測データが必要となるため、統計的評価ができる程度の試作が必要となる。
【0005】
そのため、更に試作回数を減少させるためには、製造装置のみを用いるのではなくシミュレーション技術を併用することが求められている。
【0006】
本発明は、製造プロセスをシミュレーションすることで、デバイス製造のための最適のパラメータを決定するデバイス製造支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のデバイス製造支援装置は、パラメータをシミュレータに設定する設定部と、設定されたパラメータを用いて、デバイスの製造プロセスをシミュレーションするプロセスシミュレータと、製造プロセスのシミュレーション結果を用いて、デバイスの特性をシミュレーションするデバイスシミュレータと、デバイスの特性のシミュレーション結果を評価する評価部と、評価した結果に基づき、パラメータを決定する決定部と、を有する構成である。
この構成により、プロセスシミュレータのパラメータをプロセスシミュレータの評価結果に基づき決定するため、最適の特性値を取得できるように、プロセスパラメータを決定できる。
【0008】
また、本発明のデバイス製造支援装置は、複数の製造プロセスの実測結果を基に、シミュレータのパラメータを変更するキャリブレータを有する構成である。
この構成により、試作結果に基づき製造するので、プロセスシミュレータのパラメータ決定を容易にできる。
【0009】
本発明のデバイス製造支援装置は、シミュレータは、デバイスの3次元形状モデルによりシミュレーションする構成である。
この構成により、3次元形状モデルを用いるので、例えば磁気ヘッドの構造に近似できるので、特性評価の精度が高まり、パラメータの決定が容易になる。
【0010】
本発明のデバイス製造支援装置は、プロセスシミュレータは、入力形状を出力形状に図形演算で変換する変換手段を有する構成である。
この構成により、物理特性のシミュレーションが困難なものに関して、形状の変化のみに着目したシミュレーションが可能となる。
【0011】
本発明のデバイス製造支援装置の評価部は、デバイスの特性のシミュレーション結果が所定の最適値と一致しているか否かを判断する構成である。
この構成により、デバイスの特性を所定値に収束させることができる。
【0012】
本発明のデバイス製造支援装置の評価部は、デバイスの特性のシミュレーション結果が所定の範囲値内に含まれているか否かを判断する構成である。
この構成により、デバイスの特性のばらつきを含めた値に収束させることができる。
【0013】
本発明のデバイス製造支援装置の決定部は、デバイスの特性のシミュレーション結果が最適値と不一致の場合には、パラメータを変更する構成である。
この構成により、最適値と評価結果が異なる場合は、パラメータを最適値に収束するまで、変更を行うことができる。
【0014】
本発明のデバイス製造支援装置の決定部は、デバイスの特性のシミュレーション結果が所定の範囲内に含まれていない場合には、パラメータを変更する構成である。
この構成により、最適値に対する許容範囲内のパラメータを取得することができる。
【0015】
本発明のデバイス製造装置は、パラメータをシミュレータに設定するパラメータ設定部と、設定されたパラメータを用いて、デバイスの製造プロセスをシミュレーションするプロセスシミュレータと、製造プロセスのシミュレーション結果を用いて、デバイスの特性をシミュレーションするデバイスシミュレータと、デバイスの特性のシミュレーション結果を評価する評価部と、評価した結果に基づき、パラメータを決定する決定部とを有するデバイス製造支援装置によって決定されたパラメータを用いてデバイスを製造する構成である。
この構成により、新たなデバイスの製造を行うにあたって、デバイスの製造について最適のパラメータで製造できるので、実物での試作の繰り返しを防止できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、実測測定をシミュレーションのキャリブレーションのみに使用し、ばらつきを与えたパラメータにより、シミュレーションで行なうことで、コストのかかる実機の製作を最小限にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(実施例)
図1に、デバイス製造支援システムの構成図を示す。
デバイス製造支援システム3は、試作製造装置2とデバイス製造支援装置1からなる。
【0018】
試作製造装置2は、磁気ヘッドの試作を製造する装置である。試作製造装置2は、プロセス工程部21と組立工程部22とからなる。
【0019】
デバイス製造支援装置1は、設定部11、プロセスシミュレータ12、デバイスシミュレータ13、プロセスキャリブレータ14、デバイスキャリブレータ15、評価部16、決定部17を有する。
【0020】
試作製造装置2のプロセス工程部21は、投入されたウエハをもとに、デポジション、イオンミリング等の工程を経て、スライダを複数搭載したウエハを形成する工程である。
【0021】
ウエハに形成されるCPP型再生ヘッドは、下電極層と上電極層の間に磁気抵抗効果素子を配置している。また、下電極層と上電極層の間に磁気抵抗効果素子を両側方から挟む磁区制御層を備える。下電極層および上電極層はともにNiFe等の軟磁性材からなり、磁気シールド層として作用する。
【0022】
図2に、磁気ヘッドのプロセス工程のレシピを示す。
レシピには、番号、工程名、製造内容を示すタイプ名、製造装置名、使用するマスクファイルの名称、各種パラメータを格納する設定ファイルの名称が記載されている。番号順に製造が行われる。
【0023】
再生ヘッドの製造方法は、次のとおりである。アルチック(AlTiC)より成るウエハ上に、再生ヘッドを形成する。
【0024】
このため、まず、めっきによりNiFeを形成することで、下電極層を形成する。レシピ201番の処理である。
【0025】
次に、めっき後、CMP(Chemical Mechanical Polishing)により下電極層の表面を平坦化する。レシピ202番の処理である。
【0026】
次に、下電極層の表面に磁気抵抗効果膜を形成する。レシピ203番の処理である。
【0027】
次に、磁気抵抗効果膜をエッチングして磁気抵抗効果素子を形成するために、感光レジストを被着させ、露光、現像により、T字型の形状のリフトオフパターンを形成する。レシピ204番の処理である。
【0028】
次に、リフトオフパターンをマスクとして、イオンミリングにより磁気抵抗効果膜をエッチングすることにより、磁気抵抗効果素子の側面が傾斜面にエッチングされる。レシピ205番の処理である。
【0029】
次に、磁気抵抗効果素子の上にリフトオフパターンが形成されている状態で、バイアス層を成膜する。レシピ206番の処理である。
【0030】
次に、リフトオフをする。レシピ207番の処理である。
【0031】
次に、磁気抵抗効果素子の表面に上電極層をめっきで形成する。レシピ208番の処理である。これで再生ヘッドが完成する。図3に形成された再生ヘッドを示す。
【0032】
そして、磁気ヘッドは、上述した再生ヘッドの上層に、記録ヘッドを形成して得られる。
【0033】
図1の試作製造装置2の組立工程部22は、形成されたウエハからラッピング、特性計測等を経て1つ1つのスライダ製品に組立てる工程である。
例えば、組立工程部22は、スライダを複数搭載したウエハを一方向に切断して、スライダ部分が一列に配列されたロウバーと呼ばれるブロックを形成し、このバーに対して、機能試験を行い、その後、バーを切断して各スライダに分離することによって製造される。バーの媒体対向面に対して研磨等の加工を施すことで、磁気ヘッド薄膜の磁気抵抗層やギャップの高さ等が一定にされる。そして、磁気特性、電気特性、物理特性などの特性が測定され、特性を充足するウエハをスライダとして出荷する。
【0034】
次に、図1のデバイス製造支援装置1の設定部11は、シミュレーションおよび製造のためのデータをプロセスシミュレータ12、デバイスシミュレータ13、試作製造装置2に設定する。例えば、マスクデータ、製造データ、環境データ、パラメータ等である。そのため、設定部11は、これらのデータおよびレシピを格納するメモリを有している。
プロセスシミュレータ12は、磁気ヘッドの各プロセスをシミュレーションするためのシミュレータである。デポジションシミュレータ、メッキシミュレータ、CMP(Chemical Mechanical Polishing)シミュレータ、イオンミリングシミュレータ、など各プロセスを模擬するシミュレータを使用する。
デバイスシミュレータ13は、磁気特性、電気特性等の磁気ヘッドの特性をシミュレーションするものである。
プロセスキャリブレータ14は、プロセス工程からの出力データを取得し、メモリに記憶する。次に、プロセス工程からの出力データに一致するようにプロセスシミュレータ12のパラメータを設定するものである。
デバイスキャリブレータ15は、組立工程での磁気特性、電気特性等の磁気ヘッドの各種特性を測定した結果を取得しメモリに記憶する。次に、組立工程からの出力データに一致するようにパラメータを設定するものである。
評価部16は、キャリブレーションが終了した時点のパラメータをもとに、プロセスシミュレーション、デバイスシミュレーションをすることで、最適の特性値を取得しているか否かを評価する。
決定部17は、最適の特性値が得られない場合には、パラメータを変更し、シミュレーションを繰り返す決定を行う。また、最適の特性値が得られた場合には、シミュレーションを終了する。
【0035】
図3に、キャリブレーション処理の流れ図を示す。
まず、レシピからマスクファイル、設定ファイルを取得して、各種データを試作製造装置2、プロセスシミュレータ12、デバイスシミュレータ13に設定する(S1ステップ)。
【0036】
次に、試作製造装置2において試作を行い、各プロセス工程のデバイスの形状データ、特性データを取得する。この取得したデータは、各プロセスキャリブレータ14のメモリに格納する(S2ステップ)。
【0037】
次に、組立工程におけるデバイスの特性値の検査結果のデータを取得する。この取得した検査結果のデータをデバイスキャリブレータ15のメモリに格納する。
プロセス工程で取得したデータを基にプロセスキャリブレータ14は、プロセスシミュレータ12をキャリブレーションする(S3ステップ)。次に、組立工程で取得したデータを基にデバイスキャリブレータ15は、デバイスシミュレータ13のキャリブレーションを行う(S4ステップ)。キャリブレーションにより、シミュレータのパラメータを確定する。
【0038】
例えば、プロセスの試作工程で、バイアス膜のデポジションを行う場合について説明する。
この工程では、まず、レシピの番号209のマスクファィルCu.dxf、設定ファィルCu.cfを取得する。そして、取得されたファィルのデータをプロセス工程部2の製造装置DP0-4-3に、設定する。
マスクファィルCu.dxfには、バイアス膜の成膜範囲のデータが含まれている。
設定ファィルCu.cfには、製造データとして材料データ、環境条件、内部のガス条件、イオン化率等が格納されている。
【0039】
次に、試作製造装置2により、スパッタリング法で、磁気抵抗効果素子の上にバイアス膜を形成する例を示す。このプロセス工程の動作は、次のようである。
【0040】
図4にデポジションの説明図を示す。
試作製造装置2は、レーザビーム65を試料板A61に放射する。次に、レーザビーム65が試料板A61に衝突すると、試料板A61からイオンAの粒子62が放出される。次に、放出されたイオンAの粒子62は、内部ガスのイオンB気体63と衝突する。イオンAの粒子62とイオンB気体63との衝突により、イオンBの粒子64が飛び出す。その結果、イオンBの粒子64が下部電極51上の磁気抵抗効果素子52等に付着する。図4(a)参照。その後、イオンBの粒子64が蓄積していき、バイアス膜53が所定の厚さに積層する。図4(b)参照。
【0041】
図5に膜厚の説明図を示す。
下部電極51の上に磁気抵抗効果素子52が形成されている上に、バイアス膜53、レジスト54が形成された図を示す。
【0042】
形成された形状データNを測定することで、積層されたバイアス膜の膜厚X1、X2を取得する。X1は、付着率に依存する値であり、X2は、イオン発散角に依存する値である。そして、これらの測定結果のデータをプロセスキャリブレーション部に格納する。
【0043】
次に、プロセスシミュレータ12で、バイアス膜のデポジションのシミュレーションを行う。
【0044】
図6に、バイアス膜のデポジションシミュレータの説明図を示す。
バイアス膜のデポジションシミュレータ71は、成膜動作シミュレーション部72と形状モデル生成部73とを有する。
【0045】
入力としては、マスクファイル、設定ファィル、入力形状モデルがある。また、出力としては、出力形状モデルがある。
マスクファィルCu.dxfには、バイアス膜の成膜範囲のデータが含まれている。
設定ファィルCu.cfには、シミュレーションデータとしてイオン化率、イオン発散角、付着率等のパラメータの値が格納されている。
【0046】
入力形状モデルは、バイアス膜の前のプロセスの出力形状モデルN−1である。形状モデルN−1は、前のプロセス工程で形成された下部電極51上の磁気抵抗効果素子52の上にT字型レジスト54が形成された形状である。
【0047】
成膜動作シミュレーション部72は、図5に示すイオン粒子の衝突と飛散、付着を個々の粒子の運動挙動を所定の計算式により計算することでシミュレートする。
【0048】
形状モデル生成部73は、入力形状モデルと成膜動作シミュレーション部72のイオン動作のシミュレーションを基に形状を計算し、出力形状モデルを形成する。このとき、図5のX1の値に対応するSX1、X2に対応するSX2の値も出力される。
【0049】
次に、プロセスキャリブレータ14で、バイアス膜のデポジションのキャリブレーションを行う。
デポジションシミュレータ71によりシミュレーションを行った結果、プロセス工程で測定したX1に相当する部分のSX1の値を取得する。
【0050】
そして、SX1とX1とを比較する。相違する場合には、SX1は、付着率に依存する値のため、SX1が試作結果のX1と等しくなるまで、順次付着率を変更し、シミュレーションを行う。この結果、最終的に必要な付着率Aを求めることができる。
【0051】
次に、求められた付着率Aを固定し、試作測定結果X2とシミュレーション結果のSX2の値が合うようにイオン発散角を調整しながらシミュレーションを継続する。この結果、最終的に必要なイオン発散角Bを求めることができる。
【0052】
この結果、付着率とイオン発散角というシミュレータ上の未定パラメータを決定することができる。付着率、イオン発散角が固定された時点の形状モデルNのデータを取得し、付着率、イオン発散角の特性パラメータとともに、設定部11の設定ファィルに格納する。
【0053】
一方、この未定パラメータSX1、SX2を求めるときに、複数の試作製造を行う。このとき、イオン化率等を変動させて複数の試作製造を行うことにより、環境条件、部品ばらつき等による製造上のばらつきが発生する。
【0054】
そして、X1の実測値の平均値を求め、その値をもとに所定の標準偏差内に納まる値を求める。その値がX11〜X1Nとする。次に、X2の実測値の中からは、選択したX11〜X1Nに対応する値を抽出する。例えば、X21〜X2Nとする。そして、この選択されたX11〜X1N、X21〜X2Nに対応する付着率A1〜AN、イオン発散角B1〜BN、形状データN1〜NNを求める。付着率、イオン発散角(A1、B1)〜(AN、BN)が、パラメータのばらつきとなる。このとき付着率、イオン発散角に対応するイオン化率の値も設定ファィルに格納しておく。この結果、イオン化率のばらつきも取得できる。
【0055】
一方、一部のプロセスでは、上記のデポジションのようなイオン粒子の衝突と飛散、付着を個々の粒子の運動挙動を生ずる物理法則のシミュレーションにより計算するのではなく、図形的演算による3次元シミュレーションのモデル生成を使用することもできる。これは、例えば、平坦化処理などの処理のように、物理挙動のシミュレーションを行うのは困難だが、プロセス工程による結果と入力形状モデルの関係が試作から類推できる場合に使用する。
【0056】
例えば、下部電極の平坦化処理後の膜厚、成膜範囲を実測する。測定された成膜範囲と膜厚に合わせこむように下部電極の形状モデルを再生成する図形演算を行うキャリブレーションである。下部電極の形状が直方体の場合には、基板モデル上の下部電極の形状モデルを測定された成膜範囲と膜厚による直方体の形状に下部電極の形状モデルを入れ替える図形演算を行えばよい。
【0057】
次に、デバイスシミュレータ13のキャリブレーションを行う。
そのため、試作工程の組立工程の中の検査工程での磁気特性等の特性値を測定する。
【0058】
例えば、磁性特性の場合は、印加磁界と磁気抵抗の変化率の関係が所定の出力特性を有するか否か等を測定する。
【0059】
次に、その測定結果に一致するように、デバイスキュリブレータ15により、デバイスシミュレータ13のキャリブレーションを行う。
【0060】
デバイスシミュレータ13の入力データとしては、形状モデル、物性データ、パラメータがあげられる。デバイスシミュレータ13は、例えば、マイクロマグネティックスに基づいて磁性体を微小磁性体に分割して磁化分布を求めることによって,磁性体全体の挙動を求めるシミュレータである。形状モデルはプロセスシミュレータ12からの出力または試作の測定結果を使用する。また、物性データは、材料物性リストなどから取得する。パラメータは、たとえば、磁化スピンのダンピング定数などの未定パラメータがある。
【0061】
そして、シミュレーション結果が実測値と同じになるように未定パラメータの合わせこみを行う。次に、複数の試作を製造し、再生ヘッドの特性の複数の実測値を求める。そして、実測値の標準偏差内のデータに合わせ込むように、パラメータを決定する。
【0062】
図7に、最適値の決定処理の流れ図を示す。
プロセスシミュレータ12、デバイスシミュレータ13の各キャリブレーションが終了した後、パラメータの最適値を求めるためのシミュレーションを行う。キャリブレーションにより、各シミュレータは、試作した磁気ヘッドとの対応がとれるようになったが、試作した磁気ヘッドは、必ずしも磁気ヘッドとして最適とする特性が出力されているとは限らない。そのため、磁気ヘッドの最適の特性を得るためのシミュレーションを行う。
そのため、シミュレーションは、試作製造装置2からのフィードバックは行わずに、プロセスシミュレータ14、デバイスシミュレータ15のみで行う。
【0063】
すなわち、キャリブレーションにより取得したパラメータを設定した後(S11ステップ)、プロセス工程に従いプロセスシミュレーションを行なう(S12ステップ)。このとき、形状モデルを使用し、3次元の形状のシミュレーションを行う。
次に、磁性特性の解析等のデバイスシミュレーションを行う(S13ステップ)。
次に、シミュレーション結果が最適値か否かの評価を行う(S14ステップ)。
最適値の場合には、そのパラメータを設定部11に格納する(S15ステップ)。
次に、すべての処理が完了か否かをチェックする(S16ステップ)。
完了であれば、処理を終了し、未完了であれば、パラメータを変更して(S18ステップ)してS11ステップに戻る。
最適値でない場合には、許容範囲の変動か否かを判定する(S17ステップ)。
許容範囲外であれば、パラメータを変更して(S18ステップ)してS11ステップに戻る。
許容範囲内であれば、パラメータを設定部11に格納し(S19ステップ)、パラメータを変更して(S18ステップ)してS11ステップに戻る。
処理の完了は、最適値と、許容範囲の変動値のパラメータが確定した時点で終了する。
【0064】
また、パラメータは、多変数パラメータのため、その中から注目しているパラメータを変更し、再度プロセスシミュレーションからデバイスシミュレーションを行うことで、デバイスシミュレーション結果が最適値となるのパラメータを求める。パラメータの変更は、キャリブレーションで求めたパラメータのばらつきの範囲で変更する。この複数のパラメータの変更は、感度解析等の最適化手法を使用する。例えば、感度解析とは、パラメータを変化させたときに、シミュレーション結果がどの程度変化するか調べることをいう。パラメータの小さな変化で結果データが大きく変化することを感度が高い、その反対を感度が低いという。感度が高いものは影響が大きいのでそのパラメータを注目パラメータとして収束していく手法である。
【0065】
図8にパラメータ収束の説明図を示す。
パラメータの最適化に関して、前述のバイアス膜のデポジションの例を説明する。
【0066】
デポジションのパラメータの1つとして、イオンB気体63のイオン化率がある。磁気特性に影響を与える注目パラメータである。イオン化率、イオン発散角、付着率等のデータは、キャリブレーション時の結果のばらつきあるデータを使用する。
【0067】
プロセスシミュレーションは、イオン化率を変化させた複数のバイアス膜のデポジションのシミュレーションを行う。
【0068】
バイアス膜のデポジションのシミュレーションが完了すると、このシミュレーション結果をモデルとして、残りの工程のプロセスシミュレーションを行い、イオン化率に対応したウエハモデルを作成する。その複数のウエハモデルを使用し、磁気ヘッドの磁化特性の解析を行い、出力の大きさや磁気媒体の磁場の正負に対する対称性等の出力特性を解析する。これによりイオン化率と出力特性の関係が類推できる。
【0069】
すなわち、イオン化率と出力特性との関係から最適とする特性の得られると考えられるイオン化率を決定する。そして、その決定したイオン化率の値に設定しなおし、プロセスシミュレーションおよび磁気特性の解析のためのデバイスシミュレーションを行う。これを出力特性が最適値に収束するまで繰り返す。そして、収束することで、最適となるイオン化率のパラメータを取得できる。また、この過程で、許容範囲のイオン化率も求める。
【0070】
例えば、図8に示すように、バイアス膜のデポジションのキャリブレーション結果がイオン化率60%〜90%とする。目標とする最適値は、3000μVで、許容範囲は、20%の2400μVとする。
【0071】
この場合、60%から5%ずつ変動させてデバイスシミュレーション結果を取得する。この結果、60%、65%では、1800μV、2450μVが得られるので、イオン化率を増加させれば、最適の出力が得られると類推できる。そこで、さらに、70%、75%、80%、85%、90%と変動させると、2800μV、3000μV、2800μV、2400μV、1500μVの出力が得られる。したがって、そこで、出力の変化内容から75%が最適値であり、許容範囲は63%〜85%と推定しうる。これらのイオン化率を設定部11の設定ファィルに格納する。
【0072】
また、他のパラメータも同様に行い、パラメータを収束させる。この結果、最適のパラメータおよび許容範囲のパラメータが決定される。決定されたパラメータは、設定部11の設定ファィルに格納される。
【0073】
設定されたパラメータをもとに試作製造装置2に製造条件を設定し、試作品を製造して、所定の特性が出ているのか否かを試作品で最終確認を行う。
【0074】
このようにパラメータを収束させていくことで、適切なパラメータを取得できる。このため、デバイス製造装置で、新たな磁気ヘッドの製造を行うにあたって、この適切なパラメータを用いて製造できるので、磁気ヘッドの適切な製造パラメータを見つけるための実物での試作回数を減少させることができる。これは、実物の試作を最適のパラメータが求まるまで、繰り返すことを行う必要がなくなるためである。
【0075】
以上の実施形態に関し、以下の付記を開示する。
(付記1)パラメータをシミュレータに設定する設定部と、設定されたパラメータを用いて、デバイスの製造プロセスをシミュレーションするプロセスシミュレータと、製造プロセスのシミュレーション結果を用いて、デバイスの特性をシミュレーションするデバイスシミュレータと、デバイスの特性のシミュレーション結果を評価する評価部と、
評価した結果に基づき、パラメータを決定する決定部と、を有するデバイス製造支援装置。
(付記2) 複数の製造プロセスの実測結果を基に、シミュレータのパラメータを変更するキャリブレータを有する付記1記載のデバイス製造支援装置。
(付記3)シミュレータは、デバイスの3次元形状モデルによりシミュレーションすることを特徴とする付記1記載のデバイス製造支援装置。
(付記4)プロセスシミュレータは、入力形状を出力形状に図形演算で変換する変換手段を有する付記1記載のデバイス製造支援装置。
(付記5)評価部は、デバイスの特性のシミュレーション結果が所定の最適値と一致しているか否かを判断することを特徴とする付記1記載のデバイス製造支援装置。
(付記6)評価部は、デバイスの特性のシミュレーション結果が所定の範囲値内に含まれているか否かを判断することを特徴とする付記1記載のデバイス製造支援装置。
(付記7)決定部は、デバイスの特性のシミュレーション結果が最適値と不一致の場合には、パラメータを変更することを特徴とする請求項1記載のデバイス製造支援装置。
(付記8)決定部は、デバイスの特性のシミュレーション結果が所定の範囲内に含まれていない場合には、パラメータを変更することを特徴とする請求項1記載のデバイス製造支援装置。
(付記9)パラメータをシミュレータに設定する設定部と、設定されたパラメータを用いて、磁気ヘッドの製造プロセスをシミュレーションするプロセスシミュレータと、製造プロセスのシミュレーション結果を用いて、磁気ヘッドの特性をシミュレーションするデバイスシミュレータと、磁気ヘッドの特性のシミュレーション結果を評価する評価部と、評価した結果に基づき、パラメータを決定する決定部と、を有する磁気ヘッド製造支援装置。
(付記10) 複数の製造プロセスの実測結果を基に、シミュレータのパラメータを変更するキャリブレータを有する付記9記載の磁気ヘッド製造支援装置。
(付記11)デバイスの製造プロセスをシミュレーションするプロセスシミュレータと、製造プロセスのシミュレーション結果を用いて、デバイスの特性をシミュレーションするデバイスシミュレータとを備えるデバイス製造支援装置のシミュレーション方法であって、パラメータを各シミュレータに設定するステップと、設定されたパラメータを用いて、デバイスの製造プロセスをプロセスシミュレータによりシミュレーションするステップと、製造プロセスのシミュレーション結果を用いて、デバイスの特性をデバイスシミュレータによりシミュレーションするステップと、デバイスの特性のシミュレーション結果を評価するステップと、評価した結果に基づき、パラメータを決定する決定ステップと、を有することを特徴とするデバイス製造支援装置のシミュレーション方法。
(付記12)デバイスを製造するデバイス製造装置であって、パラメータをシミュレータに設定するパラメータ設定部と、設定されたパラメータを用いて、デバイスの製造プロセスをシミュレーションするプロセスシミュレータと、製造プロセスのシミュレーション結果を用いて、デバイスの特性をシミュレーションするデバイスシミュレータと、デバイスの特性のシミュレーション結果を評価する評価部と、評価した結果に基づき、パラメータを決定する決定部とを有するデバイス製造支援装置によって決定されたパラメータを用いてデバイスを製造することを特徴とするデバイス製造装置。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】デバイス製造支援システムの構成図
【図2】磁気ヘッドのプロセス工程のレシピ
【図3】キャリブレーション処理の流れ図
【図4】デポジションの説明図
【図5】膜厚の説明図
【図6】バイアス膜のデポジションシミュレータの説明図
【図7】最適値の決定処理の流れ図
【図8】パラメータ収束の説明図
【符号の説明】
【0077】
1 デバイス製造支援装置
2 試作製造装置
3 デバイス製造支援システム
11 設定部
12 プロセスシミュレータ
13 デバイスシミュレータ
14 プロセスキャリブレータ
15 デバイスキャリブレータ
16 評価部
17 決定部
21 プロセス工程部
22 組立工程部
51 下部電極
52 磁気抵抗効果素子
53 バイアス膜
54 レジスト
61 試料板A
62 イオンAの粒子
63 イオンB気体
64 イオンB気体の粒子
65 レーザ
71 バイアス膜デポジションシミュレータ
72 成膜シミュレーション
73 形状モデル生成部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラメータをシミュレータに設定するパラメータ設定部と、
設定されたパラメータを用いて、デバイスの製造プロセスをシミュレーションするプロセスシミュレータと、
製造プロセスのシミュレーション結果を用いて、デバイスの特性をシミュレーションするデバイスシミュレータと、
デバイスの特性のシミュレーション結果を評価する評価部と、
評価した結果に基づき、パラメータを決定する決定部と、
を有するデバイス製造支援装置。
【請求項2】
複数の製造プロセスの実測結果を基に、シミュレータのパラメータを変更するキャリブレータを有する請求項1記載のデバイス製造支援装置。
【請求項3】
シミュレータは、デバイスの3次元形状モデルによりシミュレーションすることを特徴とする請求項1記載のデバイス製造支援装置。
【請求項4】
プロセスシミュレータは、入力形状を出力形状に図形演算で変換する変換手段を有する請求項1記載のデバイス製造支援装置。
【請求項5】
評価部は、デバイスの特性のシミュレーション結果が所定の最適値と一致しているか否かを判断することを特徴とする請求項1記載のデバイス製造支援装置。
【請求項6】
評価部は、デバイスの特性のシミュレーション結果が所定の範囲値内に含まれているか否かを判断することを特徴とする請求項1記載のデバイス製造支援装置。
【請求項7】
決定部は、デバイスの特性のシミュレーション結果が最適値と不一致の場合には、パラメータを変更することを特徴とする請求項1記載のデバイス製造支援装置。
【請求項8】
決定部は、デバイスの特性のシミュレーション結果が所定の範囲内に含まれていない場合には、パラメータを変更することを特徴とする請求項1記載のデバイス製造支援装置。
【請求項9】
デバイスの製造プロセスをシミュレーションするプロセスシミュレータと、製造プロセスのシミュレーション結果を用いて、デバイスの特性をシミュレーションするデバイスシミュレータとを備えるデバイス製造支援装置のシミュレーション方法であって、
パラメータを各シミュレータに設定するステップと、
設定されたパラメータを用いて、デバイスの製造プロセスをプロセスシミュレータによりシミュレーションするステップと、
製造プロセスのシミュレーション結果を用いて、デバイスの特性をデバイスシミュレータによりシミュレーションするステップと、
デバイスの特性のシミュレーション結果を評価するステップと、
評価した結果に基づき、パラメータを決定する決定ステップと、
を有することを特徴とするデバイス製造支援装置のシミュレーション方法。
【請求項10】
デバイスを製造するデバイス製造装置であって、
パラメータをシミュレータに設定するパラメータ設定部と、設定されたパラメータを用いて、デバイスの製造プロセスをシミュレーションするプロセスシミュレータと、製造プロセスのシミュレーション結果を用いて、デバイスの特性をシミュレーションするデバイスシミュレータと、デバイスの特性のシミュレーション結果を評価する評価部と、評価した結果に基づき、パラメータを決定する決定部とを有するデバイス製造支援装置によって決定されたパラメータを用いてデバイスを製造することを特徴とするデバイス製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−34714(P2008−34714A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208201(P2006−208201)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】