説明

デミスター装置

【課題】機械加工時に切削液から発生するオイルミストを捕集する簡易な構造のデミスター装置を提供すること。
【解決手段】入口側の一端1aを開放し出口側の他端1bに多数の小孔3が形成された隔壁板2を設けると共に配管用ホースを両端に挿入可能とした円筒部材1内に、電石機能を有する超極細繊維からなる不織布8が網目状補強材を重ねた状態で心材10にロール状に巻きつけられたデミスター材7を緩めに圧入して装着し、ミスト捕集装置の吸入用配管経路等にインライン形式で設置可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工室内で金属材料や合成樹脂材料からなる被加工物に穴あけ、研磨加工等を行なう際に使用される切削液や洗浄液から発生するオイルミストの捕集等に用いられるデミスター装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンタ、CNC旋盤等の工作機械では、ほぼ密閉された加工室内でプログラムに基づいて自動的に作動する切削工具によって金属材料や合成樹脂材料からなる被加工物に穴あけ、ネジ切り、研磨等の機械加工が行なわれるが、加工時に切削液から発生するオイルミストは加工室に付設されるミスト捕集装置により捕集される。オイルミストとしては、鉱物性オイルミストと水分を含んだ水溶性オイルミストの2種類に大別される。
【0003】
ミスト捕集装置については、フィルタ方式、デミスター方式、衝突板方式、電気集塵方式等の各種構造のものが知られている。例えば、特許文献1に本件出願人にかかる工作機械におけるミスト捕集装置が開示されている。そのミスト捕集装置は、メッシュ0.3〜3μmの不織布を用いた回転式フィルタをケース内に配置してモータにより同フィルタを回転させるように設けた捕集ユニットと、その捕集ユニットの吸入側を負圧状態とするルーツ式ブロワーとからなり、加工室内のミストを含む空気をルーツ式ブロワーの運転によって捕集ユニット内へ吸引し、その空気中のミストを回転式フィルタにより除去して同フィルタを通過した空気を外部へ排出させるように設けられている。
【0004】
特許文献1には、ミスト捕集装置の吸入管側にデミスター装置を設置する点が開示されている。そのデミスター装置は、微細ミストを大きな粒子に成長させる機能があり、ミスト捕集装置の回転式フィルタの目詰まりを防止するために使用されている。何れにしても、上記ミストを効率的に処理しなければ、ミストが加工室や工場内に拡散して作業環境の快適化や作業者の健康面での安全を図ることは困難であると言えよう。
【特許文献1】特開2007−21321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、機械加工時に切削液から発生するオイルミストを捕集する簡易な構造のデミスター装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために請求項1に記載した発明は、入口側の一端を開放し出口側の他端に多数の小孔が形成された隔壁板を設けると共に配管用ホースを両端に挿入可能とされた円筒部材内に、電石機能を有する超極細繊維からなる不織布が網目状補強材を重ねた状態で心材にロール状に巻きつけられたデミスター材を装着したことを特徴とする。
【0007】
同様の目的を達成するために請求項2に記載した発明は、入口側の一端を開放し出口側の他端に多数の小孔が形成された隔壁板を設けると共に配管用ホースを両端に挿入可能とされた円筒部材内に、多数の所定長さのワイヤブラシが短い軸部の外周に放射状に植設された複数個のフィルタ用ブラシと、電石機能を有する超極細繊維からなる不織布が網目状補強材を重ねた状態で心材にロール状に巻きつけられたデミスター材とを同ブラシを前記隔壁板側にして順に装着したことを特徴とする。
【0008】
同様の目的を達成するために請求項3に記載した発明は、請求項1又は2に記載のデミスター装置において、前記円筒部材の両端に、取付け穴を備えたフランジが夫々一体状に設けられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
(請求項1の発明)
このデミスター装置は、電石機能を有する不織布を用いたデミスター材を採用しているので、吸入されるミストの約99%を回収することが可能であり、圧力損失も少ない。加えて、ミスト捕集装置の吸入用配管経路にインライン形式で設置可能であり、点検や洗浄等の保守作業についても行ない易い。
【0010】
(請求項2の発明)
このデミスター装置は、電石機能を有する不織布を用いたデミスター材とフィルタ用ブラシを組み合わせた構成としているので、吸入したミストをより大きな粒子に成長させる機能があり、回収性能に優れると共に圧力損失も少ない。
【0011】
(請求項2の発明)
このデミスター装置はフランジを備えているので、フランジ形式の配管に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に、本発明の最良の形態例を図面に基づいて説明する。図1は第1実施形態のデミスター装置の説明図、図2は図1の一部の拡大図、図3は不織布の上に網目状補強材を重ねた状態を示す説明図、図4は第2実施形態のデミスター装置の斜視図、図5は第3実施形態のデミスター装置の斜視図、図6はフィルタ用ブラシの斜視図である。
【0013】
(実施形態例1)
本発明に係る第1実施形態のデミスター装置Aを図1に示す。このデミスター装置Aは、円筒部材1の内部にデミスター材7を緩めに圧入して装着した構造とされている。
【0014】
円筒部材1は、図1に示すように、直径5〜6インチ、長さ200mm程度の大きさであり、入口側の一端1aを開放し出口側の他端1bに多数の小孔3が形成された隔壁板2を一体状に設けている。そして、円筒部材1の一端1aと他端1bには、図示しない配管用ホースを挿入可能に設けられている。
【0015】
デミスター材7は、厚さ約1mm、幅200mmの電石機能を有する超極細繊維からなる公知の不織布8に、メッシュ1mmのプラスチック製網目状補強材9を重ねて直径10mmの心材10にロール状に適宜の力で巻きつけた形態とされている(図2、図3)。
【0016】
しかして、円筒部材1の内部にデミスター材7を緩めに圧入することにより第1実施形態のデミスター装置Aが構成される。
【0017】
なお、デミスター材7の圧入程度はミストの捕集性能に大きく影響するが、真空抵抗が−5〜8kPa、風速は約3〜4m/秒が好ましい。また、デミスター材7は、円筒部材1の隔壁板2に内端部が接するか、僅かな隙間を生じる程度に圧入するものとする。
【0018】
(実施形態例2)
本発明に係る第2実施形態のデミスター装置Bを図4に示す。このデミスター装置Bは、円筒部材11の両端に、取付け穴15を備えたフランジ14が夫々一体状に設けられている。その他の構成については、第1実施形態のデミスター装置Aの構成と同じであるので図面に同一符号を付して説明を省く。
【0019】
(実施形態例3)
本発明に係る第3実施形態のデミスター装置Cを図5に示す。このデミスター装置Cは、円筒部材21の内部に複数個のフィルタ用ブラシ30とデミスター材7とを同ブラシ30を隔壁板22側にして順に装着した構造とされている。その他の構成については、第1実施形態のデミスター装置Aの構成と同じであるので図面に同じ符号を付して説明を省く。
【0020】
フィルタ用ブラシ30は、図6に示すように、多数の所定長さのワイヤブラシ32が短い軸部31の外周に放射状に植設された形態とされている。このブラシ30の外径寸法については、円筒部材21の内径に合わせた大きさとする。
【0021】
しかして、円筒部材21の内部に2〜3個のフィルタ用ブラシ30とデミスター材7とを同ブラシ30を隔壁板22側にして順に挿入することにより第3実施形態のデミスター装置Cが構成される。
【0022】
なお、円筒部材21の長さ寸法については、フィルタ用ブラシ30を入れる分だけ(約60mm)長く設けられている。また、このデミスター装置Cについても、第2実施形態のデミスター装置Bと同様に、円筒部材の両端にフランジを一体状に設ける構成とすることもできる。
【0023】
本発明に係るデミスター装置は、単独又はミスト捕集装置と組み合わせて利用することができる。そこで、本発明に係るデミスター装置を公知のミスト捕集装置と組み合わせたミスト捕集システムをマシニングセンタの加工室に適用する場合について説明する。
【0024】
図7において、マシニングセンタ40は、ベッド41に前後方向に移動自在に設けられたコラム42の中心部に回転自由に支持される主軸43にドリル等の切削工具45が自動的に装着されるようにされている。ベッド41の一端側に配置されたガイド部46には、被加工物wを固定保持するための四面イケール48を設けたキャリッジ47が載せられていて、図示しない駆動手段によってキャリッジ47を前後方向に移動自在に設けている。
【0025】
50は昇降自在な開閉扉51を備えた加工室である。この加工室50は、上記ベッド41、コラム42及び被加工物wを加工する際に所定位置にセットされるキャリッジ47等を収容する内部空間sをほぼ密閉状に設けられている。52は加工室50の天部に設けられたミストを吸引するための吸込みフードである。
【0026】
ミスト捕集装置60は、メッシュ0.3μmの不織布を用いた回転式フィルタ64をケース62内に配置してモータ65により同フィルタを回転させるように設けた捕集ユニット61と、捕集ユニット61の吸入側を負圧状態とするルーツ式ブロワー66とから構成されている。
【0027】
ミスト捕集装置60の吸入口63と上記吸込みフード52とは、吸入管53により接続されている。その吸入管53は管路の途中で2つに分岐されており、その分岐部53aに第1実施形態のデミスター装置Aを、分岐部53bに第3実施形態のデミスター装置Cを夫々介装する。
【0028】
以上により、ミスト捕集装置60のルーツ式ブロワー66の運転によって吸込みフード52から本発明に係る2つのデミスター装置A及びCを通過させて捕集ユニット61内へ加工室50内のミストを含む空気を吸引し、その空気中のミストを回転式フィルタ64により除去して同フィルタを通過したドライな空気を外部へ排出させるミスト捕集システムが構成される。
【0029】
なお、この実施例のようにミスト捕集装置60の風量が大きい場合には、複数のデミスター装置を並列して使用することが好適である。
【0030】
(実験1)
本発明に係る第1実施形態のデミスター装置Aと第3実施形態のデミスター装置Cに関する捕集性能について、下記条件下で実験を行なった。その結果を図8のグラフに示す。
デミスター材:直径150mm、長さ220mm
マシニングセンタの加工室内の水溶性オイルミスト発生量:0.5〜9.62mg/m
吸引空気量:約2.2m/分
【0031】
実験の結果、第1実施形態のデミスター装置Aでは、30時間に1度の頻度で数分間だけ加工機側の切削油量の増加により排気側オイルミスト濃度の変化が見られるが、平均で0.05〜0.04mg/mという優れた性能が確認された。また、第3実施形態のデミスター装置Cについても、30時間に1度の頻度で数分間だけ排気側オイルミスト濃度の多少の変化が見られるが、平均で0.04〜0.03mg/mという優れた性能が確認された。
【0032】
(実験2)
本発明に係る第1実施形態のデミスター装置Aとミスト捕集装置60、第3実施形態のデミスター装置Cとミスト捕集装置60とを組み合わせたミスト捕集システムに関する捕集性能について、上記実験1と同じ条件下で実験を行なった。その結果を図9のグラフに示す。
【0033】
実験の結果、第1実施形態のデミスター装置A、第3実施形態のデミスター装置Cを用いた何れのミスト捕集システムにおいても、排気側オイルミスト濃度は0.01mg/mという優れた性能が得られた。また、圧力損失については、700時間経過後で約−8kPaという安定した値を示し、約2ヶ月経過後でも−9.8kPaという好結果が得られた。
【0034】
以上に述べた通り、このデミスター装置は、電石機能を有する不織布を用いたデミスター材を採用しているので、吸入されるミストの約99%を回収することが可能であり、圧力損失も少ないという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】第1実施形態のデミスター装置の説明図
【図2】図1の一部の拡大図
【図3】不織布の上に網目状補強材を重ねた状態を示す説明図
【図4】第2実施形態のデミスター装置の斜視図
【図5】第3実施形態のデミスター装置の斜視図
【図6】フィルタ用ブラシの斜視図
【図7】本発明に係るデミスター装置を公知のミスト捕集装置と組み合わせたミスト捕集システムをマシニングセンタの加工室に適用した場合の説明図
【図8】本発明に係るデミスター装置の捕集性能を示すグラフ
【図9】本発明に係るデミスター装置とミスト捕集装置を組み合わせたシステムにおける捕集性能を示すグラフ
【符号の説明】
【0036】
A・・・第1実施形態のデミスター装置
1・・・円筒部材
2・・・隔壁板
3・・・小孔
7・・・デミスター材
8・・・不織布
9・・・網目状補強材
10・・・心材
B・・・第2実施形態のデミスター装置
11・・・円筒部材
14・・・フランジ
C・・・第3実施形態のデミスター装置
21・・・円筒部材
22・・・隔壁板
30・・・フィルタ用ブラシ
32・・・ワイヤブラシ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入口側の一端を開放し出口側の他端に多数の小孔が形成された隔壁板を設けると共に配管用ホースを両端に挿入可能とされた円筒部材内に、電石機能を有する超極細繊維からなる不織布が網目状補強材を重ねた状態で心材にロール状に巻きつけられたデミスター材を装着したことを特徴とするデミスター装置。
【請求項2】
入口側の一端を開放し出口側の他端に多数の小孔が形成された隔壁板を設けると共に配管用ホースを両端に挿入可能とされた円筒部材内に、多数の所定長さのワイヤブラシが短い軸部の外周に放射状に植設された複数個のフィルタ用ブラシと、電石機能を有する超極細繊維からなる不織布が網目状補強材を重ねた状態で心材にロール状に巻きつけられたデミスター材とを同ブラシを前記隔壁板側にして順に装着したことを特徴とするデミスター装置。
【請求項3】
前記円筒部材の両端に、取付け穴を備えたフランジが夫々一体状に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のデミスター装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−66531(P2009−66531A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−237978(P2007−237978)
【出願日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【出願人】(000127123)株式会社アンレット (41)
【Fターム(参考)】