説明

デュアル・バンド・アンテナ

【課題】小型で帯域の広いデュアル・バンド・アンテナを提供する。
【解決手段】誘電体基板101の主体面には低周波側の放射素子109の垂直部109aと水平部109b、高周波側の放射素子111、励振素子107、およびグランド素子113が形成されている。水平部109bには、開放端109dを備える水平延長部109が直角に連絡している。放射素子111は垂直部111aと水平部111bを含む。水平部111bは、水平延長部109とグランド素子113により囲まれた領域の中に開放端111cが配置されるようにグランド素子113に平行に延びている。励振素子は、水平部109bと電気的に結合する励振パターン107aと水平部111bと電気的に結合する励振パターン107bで構成され、中央に共通の給電部121aを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線端末装置に搭載が可能なデュアル・バンド・アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
北米における携帯電話用周波数には、PCS(Personal Communications Service )バンドとセルラー・バンドが存在する。PCSバンドでは、2GHz帯として1700MHzから2200MHzまでの周波数帯を使用する。セルラー・バンドではこれまで800MHz帯として820MHzから960MHzまでの周波数帯を使用していた。近年セルラー・バンドで700MHs帯としてLTE(Long Term Evolution)という通信規格に基づく携帯通信サービスが開始されている。
【0003】
米国では、Verizon Wireless社とAT&T社がLTEを使った無線データ通信サービスを提供している。Verizon Wireless社は、747MHzから787MHzまでの周波数帯を使用し、AT&T社は、704MHzから746MHzまでの周波数帯を使用する。携帯電話やスマートフォンでは、いずれか一社の周波数帯に適合するアンテナを装備すればよいが、ノート・ブック型携帯式コンピュータ(以下、ノートPCという。)で米国の携帯電話用周波数帯を利用する上では、両社の周波数帯をカバーする704MHzから787MHzまでの周波数帯域に適合するアンテナを装備することが望ましい。
【0004】
特許文献1は、励振器と2つの1/4波長アンテナで構成されたデュアル・バンド・アンテナを開示する。励振器は基本周波数および高調波共振周波数で共振するダイポール・アンテナで構成されている。一方の1/4波長アンテナは、基本周波数で共振する逆L型ダイポール・アンテナで、他方の1/4波長アンテナはn次高調波共振周波数で共振する逆L型ダイポール・アンテナで構成されている。一方の1/4波長アンテナの開放端は基本周波数の電流分布が最小になる位置で励振器に静電結合され、他方の1/4波長アンテナの開放端はn次高調波共振周波数の電流分布が最小になる位置で励振器に静電結合される。
【0005】
特許文献2は、共通導体と2つの異なる長さの水平導体で構成されたT型モノポール構造のマルチバンド・アンテナを開示する。このアンテナは、共通導体とそれぞれの水平導体で1/4波長の放射素子を構成し、2つの周波数で共振して直列共振モードで動作する。このアンテナは、低周波側の周波数が800MHz帯に適合することが記載されている。
【0006】
特許文献3は、複数のアンテナの相互間の静電結合を低減させることが可能なマルチバンド・アンテナ装置を開示する。支持基材は平面部と平面部に直交する外周端面を備える。同一の給電部から分岐された第1のアンテナ素子を外周端面に沿って配置し、第2のアンテナ素子は平面部において外周端部に沿って設けることで、アンテナ素子の先端同士を直交した状態でかつ対向しない位置に配置する。このアンテナは、低周波側の周波数が800MHz帯に適合することが記載されている。
【0007】
特許文献4は、逆L型の励振素子、第1の放射導体、および第2の放射導体で構成された携帯端末用の多周波共用アンテナを開示する。1つの折り返し部を有する第1の放射導体と、2つの折り返し部を有する第2の放射導体はグラウンドに接続された共通導体から反対方向に分岐している。第1の放射導体は部分的に励振素子の水平部と平行に配置され容量結合している。第2の放射導体は第1の放射導体の一部と部分的に平行に配置され容量結合している。このアンテナは、低周波側の周波数が900MHz帯に適合することが記載されている。
【0008】
非特許文献1は、図6(A)に示すような携帯端末に内蔵できる寸法で超広帯域特性を有する非対象モノポール・アンテナを開示する。このアンテナはT字型の給電素子と給電素子の共通部の左右両側に、平行に走る分岐導体をそれぞれ備える逆L型の無給電素子で構成されている。無給電素子で高域に新たな2共振を発生させて1.9GHz帯から5GHx帯での広帯域化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4121799号公報
【特許文献2】特開2010−288175号公報
【特許文献3】特開2007−214961号公報
【特許文献4】特開2009−135633号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】非励振素子付き広帯域モノポール・アンテナの検討、平成20年度電子情報通信学会東京支部学生会研究発表会、杉本他
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
アンテナは共振周波数が低下するほど長くなるため、低い周波数に適合するためには大きなスペースが必要となる。これまでのノートPCには、図6(B)に示すような構造の逆F型のデュアル・バント・アンテナを搭載していた。ノートPCには携帯電話回線に加えてWLANやWiMAXなどの無線通信のためにディスプレイ筺体に複数のアンテナを搭載する必要がある。しかし新たなアンテナに図6(B)のアンテナ構造を採用して低周波側を700MHz帯に適合させようとすれば、素子の長さが長くなって所定のスペースに収納することができないという問題が生じてきた。
【0012】
また、新たなアンテナをノートPCに搭載するためには、これまでのアンテナに与えられたスペースの範囲で米国の両社の周波数帯域をカバーできるような広帯域化を実現する必要がある。さらに、ノートPCでは狭いスペースに複数のアンテナを実装する必要があるため取り付け状態で相互の距離を十分に確保できない。したがって、新たなアンテナは他のアンテナとの間で電波干渉が生じにくい構造にする必要がある。
【0013】
特許文献1に記載されたデュアル・バンド・アンテナでは、アンテナ・パターンの長手方向において2つの1/4波長アンテナの水平部分の長さの合計以上のスペースが必要になる。非特許文献1に記載されているようなT字型の非対象モノポール・アンテナでは、逆L型の2つの無給電素子の開放端が反対方向に広がるように延びるのでやはりアンテナ・パターンの長手方向において大きなスペースが必要になる。さらに、上記の先行技術文献に記載されたアンテナはいずれも700MHz帯に適合するものではないため、ノートPCに設けられた狭いスペースに収納が可能な新たな構造のアンテナを開発する必要がある。
【0014】
そこで本発明の目的は、無線端末装置に搭載が可能な小型のデュアル・バンド・アンテナを提供することにある。さらに本発明の目的は、700MHz帯での周波数帯域が広いデュアル・バンド・アンテナを提供することにある。さらに本発明の目的は、隣接して配置されたアンテナとの間での電波干渉を低減することができるデュアル・バンド・アンテナを提供することにある。さらに本発明の目的はそのようなデュアル・バンド・アンテナを搭載した無線端末装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、誘電体基板上のパターンで形成されたアンテナ素子を含み第1の基本周波数と第2の基本周波数で使用するデュアル・バンド・アンテナを提供する。第1の放射素子は、グランドの縁の一方の端部に連絡し、開放端を備えグランドの縁に平行に延びる水平部パターンを含む。第2の放射素子は、グランドの縁の他方の端部に連絡し、開放端を備えその開放端が第1の放射素子の水平部パターンとグランドの縁により囲まれた領域に入り込むようにグランドの縁に平行に延びている水平部パターンを含む。
【0016】
励振素子は、第1の放射素子の水平部パターンに沿って延びている第1の励振パターンと第2の放射素子の水平部パターンに沿って延びている第2の励振パターンを含み共通の給電部を備えている。第2の放射素子の水平部パターンの少なくとも開放端側の一部は第1の放射素子がグランドの縁との間に形成した領域に配置され、さらに励振素子から第1の放射素子と第2の放射素子に間接的に給電するように構成しているため、本発明にかかるアンテナは2つの基本周波数に適合するアンテナを小さなスペースに形成することができる。
【0017】
第1の放射素子の水平部パターンは、励振素子が形成されている平面と直角に交差する平面上に配置され開放端を備える水平延長部パターンを含むようにすることもできる。このような構造にすることで、水平延長部パターンの開放端が第2の放射素子および隣接して配置される他のアンテナとの間で生ずる可能性のある電磁波干渉を軽減することができる。さらに、アンテナ・パターンの短手方向の長さを短くすることができる。第1の放射素子と第1の励振パターンは、ともに1/4波長モノポール・アンテナで構成することができる。
【0018】
この場合、第1の励振パターンは第1の基本周波数に対するm次高調波周波数に1/4波長で共振し、第1の放射素子は第1の励振パターンから誘起された電磁波によりm次高調波周波数に所定の波長で共振しさらに第1の基本周波数に1/4波長で共振するように構成することができる。第1の放射素子は高調波共振をした励振素子と静電結合および電磁結合をして高調波共振をし、さらに第1の基本周波数に共振することで広い周波数帯域を実現することができる。このときmを3または5にすると小型化を実現しながら良好な特性を得ることができる。第1の基本周波数の周波数帯域は704MHzから787MHzの範囲に設定することができる。第1の放射素子の水平部パターンは、グランドの縁に向かって台形状に膨らんだインピーダンス調整部を含むように構成することができる。
【0019】
第2の放射素子と第2の励振パターンはともに1/4波長モノポール・アンテナで構成することができる。そして第2の励振パターンは第2の基本周波数に対するn次高調波周波数に1/4波長で共振し、第2の放射素子は第2の励振パターンから誘起された電磁波によりn次高調波周波数に所定の波長で共振しさらに第2の基本周波数に1/4波長で共振するように構成することができる。アンテナの大きさは大部分が第1の放射素子の大きさで決まるので、その大きさに収まる場合は第2の放射素子を第2の基本周波数の1/4波長で共振させるようにしてもよい。第2の基本周波数の周波数帯域は1700MHzから2200MHzの範囲に設定することができる。第1の放射素子と第2の放射素子は、逆L型モノポール・アンテナとすることができる。励振素子は、中央に給電部を備える直線アンテナまたはT型モノポール・アンテナとすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、無線端末装置に搭載が可能な小型のデュアル・バンド・アンテナを提供することができた。さらに本発明により、700MHz帯での周波数帯域が広いデュアル・バンド・アンテナを提供することができた。さらに本発明により、隣接して配置されたアンテナとの間での電波干渉を低減することができるデュアル・バンド・アンテナを提供することができた。さらに本発明により、そのようなデュアル・バンド・アンテナを搭載した無線端末装置を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本実施の形態にかかるデュアル・バンド・アンテナの基本構造を示す全体の斜視図である。
【図2】図1のアンテナからグランド・プレーンと誘電体基板を除いたアンテナ・パターンの平面図である。
【図3】低周波側の放射素子と励振パターンに発生する定在波の電流分布を示す図である。
【図4】実際に製作したアンテナ・パターンを示す図である。
【図5】ノートPCにアンテナを取り付けた状態を示す平面図である。
【図6】従来のアンテナ構造の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[アンテナの構造]
図1は、本実施の形態にかかるデュアル・バンド・アンテナ(以下、単にアンテナという。)100の基本構造を示す全体の斜視図で、図2は、アンテナ100からグランド・プレーン115と誘電体基板101を除いたアンテナ・パターンの平面図である。図1に示すようにアンテナ・パターンの水平延長部パターン109cが存在する平面は水平部パターン109bが存在する平面と90度で交差するが、図2では説明の都合上両者が同一平面に存在するように描いている。なお、本発明は、水平延長部パターン109cが水平部パターン109bと同一平面上に配置されている場合も含む。
【0023】
アンテナ100は、704MHzから787MHzまでの周波数帯域で使用する低周波側の周波数帯と、1700MHzから2200MHzまでの周波数帯域で使用する高周波側の周波数帯に適応する。いま、低周波側の周波数帯域のほぼ中央の周波数である746MHzを低周波側の基本周波数fとしその波長をλとする。また、高周波側の周波数帯域のほぼ中央の周波数である1950MHzを高周波側の基本周波数fとしその波長をλとする。アンテナ100は、印刷回路基板に対してフォト・リソグラフィとエッチング処理を行い、誘電体基板101の主体面103に形成したアンテナ・パターンと、主体面103上のアンテナ・パターンにそれぞれ半田で接続される水平延長部パターン109cとグランド・プレーン115の3つの部材で構成している。
【0024】
誘電体基板101の形状は、アンテナ・パターンを形成する領域を提供する主体面103と、4つの側面105を有する薄板状の直方体となっている。主体面103には、励振素子107、低周波側の放射素子109、高周波側の放射素子111、およびグランド素子113のパターンが形成されている。ただし、低周波側の放射素子109は、誘電体基板101上には形成しない水平延長部パターン109cも含む。グランド素子113はグランド・プレーン115の1つの直線状の縁に平行に延びる直線状のパターンでグランド・プレーン115を接続する領域を提供する。グランド素子113には、長手方向のほぼ中央部にグランド側の給電部121bが定義されている。
【0025】
励振素子107は、直線状に形成された接地型の1/4波長モノポール・アンテナでグランド素子113に平行に配置され、ほぼ中央部に電圧側の給電部121aが定義されている。励振素子107には、給電部121aを境界にして一方の開放端107cまで長さX2の低周波側の励振パターン107aが構成され、他方の開放端107dまで長さy2の高周波側の励振パターン107dが構成されている。
【0026】
励振パターン107a、107bは、開放端107c、107bが反対方向を向くようにグランド素子113に平行に延びておりそれぞれ直線アンテナを構成する。給電部121a、121bには高周波発振器を含む無線モジュールに接続された同軸ケーブルが接続されて高周波電力が供給される。励振パターン107a、107bは、それぞれ基本周波数f、fの3倍、5倍といった奇数の次数の高調波に所定の波長で共振する。励振素子107は、1/4波長T型モノポール・アンテナで構成することもできる。
【0027】
グランド素子113の一方の端部には放射素子109の垂直部パターン109aが連絡している。垂直部パターン109aは、主体面103上をグランド素子113に対して垂直に延びている。垂直部パターン109aには水平部パターン109bが連絡している。水平部パターン109bは、グランド素子113に平行に端部109eまで延びている。水平部パターン109bは、点線119を境界にして主体面103に対して90度で交差する平面上に配置された水平延長部パターン109cを含む。なお、交差角度の90度はノートPCに収納する際の最も好ましい例であり、本発明の範囲には、水平部延長パターン109cが水平部パターン109bと他の角度で交差する平面上に配置される場合も含む。
【0028】
水平延長部パターン109cは平坦な薄板状の導体で形成され、側面105に沿って配置されている。水平延長部パターン109cは、水平部パターン109bに半田で接続されている。水平延長部パターン109cは、グランド素子113に平行に水平部パターン109bの端部109eよりさらに先にある開放端109dまで延びている。本実施例では水平延長部パターン109cは水平部パターン109bとは別の部材として製作しておき両者を半田で接続するが、一体化したパターンとして形成して点線119で折り曲げるようにしてもよい。低周波側の放射素子109は逆L型1/4波長モノポール・アンテナとして所定の周波数に共振して電磁波を放射する。
【0029】
放射素子109は、波長λの1/4波長で共振するようにグランド素子113から開放端109dまでの長さx1が調整されている。長さx1の放射素子109はまた、基本周波数fに対する高調波でも共振する。水平部パターン109bは励振パターン107aの少なくとも一部と主体面103上で平行になるように配置されており静電結合および電磁結合をして励振パターン107aから電磁波エネルギーを受け取る。水平部パターン109bと励振パターン107aが電気的に結合して電磁波エネルギーの送受が可能なように同一平面上に平行に配置されていることをオーバーラップしているということにする。
【0030】
グランド素子113の他方の端部には放射素子111の垂直部パターン111aが連絡している。垂直部パターン111aは、主体面103上をグランド素子113に対して垂直に延びている。垂直部パターン111aには水平部パターン111bが連絡している。水平部パターン111bは、グランド素子113に平行に開放端111cが端部109eに対向する方向に延びている。端部109eと開放端111cの間には、相互間での電磁波の干渉を低減するように所定の間隔を設けている。
【0031】
水平部パターン111bは、開放端111cが垂直部パターン109aに向かって励振パターン107bに平行に延びるようにしてもよい。水平部パターン111cは、開放端111cが、開放端109dからグランド素子113に引いた垂線と、グランド素子113と放射素子109により囲まれた領域の中に存在するように配置されている。放射素子111は逆L型1/4波長ダイポール・アンテナとして所定の周波数に共振し電磁波を放射する。
【0032】
放射素子111は、波長λの1/4波長で共振するようにグランド素子113から開放端111cまでの長さy1が調整されている。長さy1の放射素子111はまた、基本周波数fに対する高調波でも共振する。水平部パターン111bは励振パターン107bの少なくとも一部とオーバーラップして静電結合および電磁結合をする。オーバーラップの意味は先に説明したのと同じである。
【0033】
ここで、図2では高周波側の水平部パターン111bは同一平面上で低周波側の水平延長部パターン109cの内側に入り込んでいるようにみえるが。実際には図1に示すように両者が90度で交差する平面上に存在するため両者間に電波干渉が発生しないようになっている。さらに水平部パターン111bの少なくとも一部が水平延長部パターン109cと励振パターン107bとの間のスペースに入り込むように配置されているため、アンテナ・パターンのグランド素子113に平行な長手方向の長さを短くすることができるようになっている。さらに水平延長部パターン109cを主体面103に対して90度で交差する平面に配置する構造を採用するために、アンテナ・パターンのグランド素子113に垂直な短手方向の長さも短くすることができるようになっている。
【0034】
[アンテナ・パターンの決定方法]
ノートPCの内部に所定の取り付けスペースが与えられたときに、アンテナ100のパターンは以下の手順で決定することができる。最初に低周波側の基本周波数fに対して1/4波長で共振する放射素子109の長さx1をλ/4として決定する。放射素子109の長さおよび形状がアンテナ100の大きさの大部分を決定する。放射素子109が共振する物理的な長さは、周囲の誘電率の影響や導体内部を進行する電磁波の速度によりλ/4より短くなるため1/4波長で共振する最適な長さは実験により決めることができる。
【0035】
つぎに垂直部パターン109aと水平延長部パターン109cの長さの割合を決定する。その割合は、与えられたスペースにアンテナ100が収まるように決定するが、さらに放射素子109とグランド素子113により囲まれた放射素子109の内側のスペースに、励振素子107を形成できるように決定する。放射素子109は、基本周波数の波長λの1/4波長で共振するときに、高調波にmλ/4の波長で共振する。ここにmは奇数でλは、第m次高調波の波長である。
【0036】
基本周波数に対する高調波で共振する現象を高調波共振といい、そのときの周波数を高調波共振周波数fということにする。励振パターン107aを高調波共振周波数fの波長λの1/4波長で共振させるとすれば、理論的にはm=x1/x2の関係になる。このとき、励振パターン107aが共振する物理的な長さは、放射素子109と同じ理由でλ/4より短くなる。したがって、実際の長さx1、x2から計算したmは整数にならない場合もある。つづいて放射素子109が共振する複数の高調波共振周波数fmの定在波の中から、励振パターン107aから電磁波エネルギーを受け取るために利用する高調波共振周波数fを決定する。
【0037】
電磁波エネルギーの伝達効率を高めるためには、高調波共振周波数fの次数mは小さいほうがよい。ただし、次数mが小さいと所定のx1の長さに対するx2の長さが長くなるので、励振パターン107aが、放射素子109と放射素子111で囲まれた領域に収まるかどうかを検討する。そして次数mは励振素子107に与えられたスペースが許す範囲でできるだけ低い値を選定する。
【0038】
つぎに、高周波側の基本周波数fについて同様の手順で放射素子111のパターンと励振パターン107bの長さを決定する。図2から明らかなように放射素子111は大部分が放射素子109とグランド素子113で決定されたスペースの中に配置されるため、図2のような構造を採用する限り放射素子111と励振パターン107bの長さは全体のサイズに大きな影響を与えない。ちなみに本実施の形態では低周波側は次数mを3または5にすることが望ましい。高周波側は、励振パターン107bの長さを所定のスペースに納めることができる場合には、高調波共振をさせないで基本周波数fにλ/4の波長で共振させることもできる。
【0039】
[動作説明]
つぎにアンテナ100の動作を説明する。図3は、放射素子109と励振パターン107aに発生する定在波の電流分布を示す図である。図3は定在波を説明することを目的にしているため放射素子109を直線アンテナとして描いている。給電部121a、121bに同軸ケーブルから基本周波数fの高周波電圧を給電する。長さx2の励振パターン107aは、波長がλ/3の第3次高調波共振周波数に1/4波長で共振して定在波155が発生する。なお、励振パターン107aは、基本周波数の第3次高調波で共振するので、同軸ケーブルから基本周波数fの3倍の周波数の高周波電圧を供給してもよい。
【0040】
励振パターン107aにおいて定在波155は、給電部121aの位置で電流が最大となり電圧が最小となる。また定在波155は、開放端107cで電流が最小になり電圧が最大になる。高周波側の励振パターン107bは、基本周波数fでは高調波共振をしないようになっているので、励振パターン107bは基本周波数fでは共振しない。励振パターン107aに発生した定在波155は、放射素子109の水平部パターン109bの一部と電磁結合および静電結合をして、放射素子109に同じ周波数の電磁波を誘起する。放射素子109の長さx1と、水平部パターン109bの長さ方向に対する励振パターン107aの相対位置は、放射素子109が第3次高調波共振をするように決定されている。
【0041】
たとえば図に点線で描いたように、励振パターン107aの相対位置が、水平部パターン109bに沿って開放端109d側またはその反対側にずれると、放射素子109には第3次高調波の定在波が発生しなくなる。放射素子109に誘起された電流および電圧は、第3次高調波の定在波153として分布する。定在波153は開放端109dで電流が最小になり電圧が最大になる。また、励振パターン107aに対向する水平部パターン109bのそれぞれの位置では、電流分布と電圧分布が励振パターン107a上の定在波155と一致する。
【0042】
放射素子109は、基本周波数fに対して1/4波長で共振するために、定在波153によりさらに波長λの定在波151が発生する。定在波151は開放端109dで電流が最小になり電圧が最大になる。また定在波151は、グランドへの連絡部では、電流が最大になり電圧が最小になる。よって、放射素子109からは基本周波数fの電磁波が放射される。
【0043】
高周波側では、同様に給電部121a、121bに基本周波数fの高周波電圧を供給すると励振パターン107bが高調波共振をして、励振パターン107bと放射素子111の水平部111bが静電結合および電磁結合をする。励振パターン107bから電磁波エネルギーを受け取った放射素子111は、低周波側と同じ原理で基本周波数fの電磁波を放射する。励振パターン107bが高調波共振をしない場合は、励振パターン107bと放射素子111は、いずれも基本周波数fに1/4波長で共振する。
【0044】
[実際の導体パターン]
図4は、実際に製作して704MHzから787MHzまでの低周波側の周波数帯と、1700MHzから2200MHzまでの高周波側の周波数帯での利用可能性が確認できたアンテナの導体パターンを示す図である。図4に示すアンテナ・パターンは、図2のアンテナ・パターンに対応する。図4(A)に示すアンテナ200は、励振素子207、低周波側の放射素子209、高周波側の放射素子211、およびグランド素子213を含み、給電部221a、221bから給電することで電磁波を放射する。放射素子211は、長さ調整部パターン211aを設けるために逆L型の基本構造から変形しており、基本周波数fの1/4波長で共振するように長さが調整されている。長さ調整部パターン211aは、アンテナ・パターンの全体のサイズが拡大しないように励振素子207とグランド素子213との間のスペースに形成されている。
【0045】
アンテナ200は、特に低周波側の基本周波数fに対して広い周波数帯域幅を実現できるが、その理由は以下のように考えられる。放射素子209は、基本周波数fの電圧が直接給電されないで励振素子との静電結合および電磁結合により間接的に給電される無給電素子である。そして、給電素子である励振素子207が基本周波数fに対して高周波共振をし、高調波共振をした電磁波により放射素子209に誘起された電磁波により放射素子209が基本周波数に共振するように構成した点にあると考えられる。
【0046】
図4(B)に示すアンテナ300は、励振素子307、低周波側の放射素子309、高周波側の放射素子311、およびグランド素子313を含み、給電部321a、321bから給電することで電磁波を放射する。励振素子307の励振パターン307aには、周波数帯域幅を広げるための帯域拡大部パターン307cが形成されている。帯域拡大部パターン307cは、励振パターン307aに流れる電流の伝搬経路を2つ設けることで放射素子307から放射する電磁波の周波数帯域幅を広くする役割を果たしている。
【0047】
また、アンテナ素子309は、長さ調整部パターン309fとインピーダンス調整部パターン309gを含んでいる。長さ調整部パターン309fは、長さ調整部パターン211aと同じように放射素子309が基本周波数fの1/4波長で共振するための長さを調整する役割を果たす。インピーダンス調整部パターン309gは水平部パターン309bが、グランド素子313に向かって台形状に拡大するように形成されており放射素子309のインピーダンスを調整して、同軸ケーブルとの間でのインピーダンス・マッチングを図る役割を果たす。
【0048】
[アンテナの取り付け方法]
図5は、ノートPCにアンテナ200を取り付けた状態を示す平面図である。ディスプレイ筐体401は内部に液晶ディスプレイ(LCD)403を収納する。ディスプレイ筐体401の上縁401aとLCD403の間には、長手方向の長さL1と短手方向の長さL2で確保されたスペースに合計5個のアンテナを設けている。アンテナの構造はそれぞれ異なるものになっているが、少なくとも1つにはアンテナ200が含まれている。アンテナ200は、主体面上のアンテナ・パターンがディスプレイ筐体401の底面に平行になるように配置され、グランド・プレーンはLCD403とディスプレイ筐体401の底面の間に配置される。
【0049】
アンテナ200は、主体面103の短手方向の長さがL2に収まるように形成されている。また、長さL1の中に5個のアンテナを配置すると相互間の間隔を十分に確保できないため、電界強度が最大になる放射素子および励振素子の開放端が、隣接するアンテナに近いと電波干渉をもたらす場合がある。しかし、低周波側の放射素子209の開放端は、隣接するアンテナの主体面上のアンテナ・パターンに対して90度で交差する平面上にあるため電波干渉を低減することができる。
【0050】
また、高周波側の放射素子211の開放端は、内側に向いているので隣接するアンテナに対して電波干渉をもたらすことはない。さらに、励振素子207の両側の開放端は、高周波側の放射素子211と低周波側の放射素子209に囲まれているので、隣接するアンテナに対して電波干渉をもたらすことはない。したがって、アンテナ200は、限られたスペースに複数のアンテナを配置する場合に適した構造になっている。
【0051】
これまで本発明について図面に示した特定の実施の形態をもって説明してきたが、本発明は図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する限り、これまで知られたいかなる構成であっても採用することができることはいうまでもないことである。
【符号の説明】
【0052】
100、200、300…デュアル・バンド・アンテナ
101…誘電体基板
103…主体面
105…側面
107、207、307…励振素子
109、209、309…低周波側の放射素子
111、211、311…高周波側の放射素子
107a、307a…低周波側の励振パターン
107b…高周波側の励振パターン
109a、111a…垂直部パターン
109b、111b…水平部パターン
109c…水平延長部パターン
113、213、313…グランド素子
115…グランド・プレーン
121a、221a、321a…電圧側の給電部
121b、221b、321b…グランド側の給電部
107c、107d、109d、111c…開放端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板上のパターンで形成されたアンテナ素子を含み第1の基本周波数と第2の基本周波数に適合するデュアル・バンド・アンテナであって、
グランドの縁の一方の端部に連絡し、開放端を備え前記グランドの縁に平行に延びる水平部パターンを含む第1の放射素子と、
前記グランドの縁の他方の端部に連絡し、開放端を備え該開放端が前記第1の放射素子の水平部パターンと前記グランドの縁により囲まれた領域に入り込むように前記グランドの縁に平行に延びている水平部パターンを含む第2の放射素子と、
前記第1の放射素子の水平部パターンに沿って延びている第1の励振パターンと前記第2の放射素子の水平部パターンに沿って延びている第2の励振パターンを含み共通の給電部を備える励振素子と
を有するデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項2】
前記第1の放射素子の水平部パターンは前記励振素子が形成されている平面と直角に交差する平面上に配置され前記開放端を備える水平延長部パターンを含む請求項1に記載のデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項3】
前記第1の放射素子と前記第1の励振パターンが1/4波長モノポール・アンテナである請求項1または請求項2に記載のデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項4】
前記第1の励振パターンは前記第1の基本周波数に対するm次高調波周波数に1/4波長で共振し、前記第1の放射素子は前記第1の励振パターンから誘起された電磁波により前記m次高調波周波数に所定の波長で共振しさらに前記第1の基本周波数に1/4波長で共振する請求項3に記載のデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項5】
前記mが3または5である請求項4に記載のデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項6】
前記第1の基本周波数の周波数帯域が704MHzから787MHzの範囲である請求項1から請求項5のいずれかに記載のデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項7】
前記第1の放射素子の水平部パターンが前記グランドの縁に向かって台形状に膨らんだインピーダンス調整部を含む請求項1から請求項6のいずれかに記載のデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項8】
前記第2の放射素子と前記第2の励振パターンが1/4波長モノポール・アンテナである請求項1から請求項7のいずれかに記載のデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項9】
前記第2の励振パターンは前記第2の基本周波数に対するn次高調波周波数に1/4波長で共振し、前記第2の放射素子は前記第2の励振パターンから誘起された電磁波により前記n次高調波周波数に所定の波長で共振しさらに前記第2の基本周波数に1/4波長で共振する請求項8に記載のデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項10】
前記第2の基本周波数の周波数帯域が1700MHzから2200MHzの範囲である請求項7から請求項9のいずれかに記載のデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項11】
前記第1の放射素子と前記第2の放射素子が逆L型モノポール・アンテナである請求項1から請求項10のいずれかに記載のデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項12】
前記励振素子が中央に給電部を備える直線アンテナである請求項1から請求項10のいずれかに記載のデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項13】
前記励振素子がT型モノポール・アンテナである請求項1から請求項10のいずれかに記載のデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項14】
誘電体基板上のパターンで形成されたアンテナ素子を含み第1の基本周波数と第2の基本周波数に適合するデュアル・バンド・アンテナであって、
主体面を備える誘電体基板と、
前記主体面に形成されグランド・プレーンを接続するグランド素子と、
前記主体面に形成され共通の給電部を有し前記第1の基本周波数に高調波共振をする第1の励振パターンと前記第2の基本周波数に共振をする第2の励振パターンとを含む励振素子と、
前記主体面に形成され開放端が前記励振素子を囲むように前記グランド素子の一方の端から延びており前記第1の励振パターンと電気的に結合されて前記第1の励振パターンにより誘起された電磁波により前記第1の基本周波数に共振する第1の放射素子と、
前記主体面に形成され開放端が前記第1の放射素子と前記第2の励振パターンとの間に入り込むように前記グランド素子の他方の端から延びており前記第2の励振パターンと電気的に結合される第2の放射素子と
を有するデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項15】
前記第1の放射素子の開放端は、前記主体面と異なる平面上に配置されている請求項14に記載のデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項16】
前記第1の励振パターンが前記第1の基本周波数の高調波周波数に1/4波長で共振する請求項14または請求項15に記載のデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項17】
誘電体基板上のパターンで形成されたアンテナ素子を含み第1の基本周波数と第2の基本周波数に適合するデュアル・バンド・アンテナであって、
主体面を備える誘電体基板と、
前記主体面に形成されグランド・プレーンを接続するグランド素子と、
前記主体面に形成され、共通の給電部を有しそれぞれ前記グランド素子に平行な領域を含む第1の励振パターンと第2の励振パターンとを含む給電素子と、
前記主体面に形成され、前記グランド素子の一方の端部に垂直に連絡する垂直部パターンと該垂直部パターンに連絡し前記グランド素子に平行に延びる水平部パターンを含む第1の無給電素子と、
前記主体面に形成され、前記グランド素子の他方の端部に垂直に連絡する垂直部パターンと該水直部パターンに連絡し開放端が前記第1の無給電素子の垂直部パターンに向かって前記グランド素子に平行に延びる水平部パターンとを含む第2の無給電素子と
を有するデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項18】
前記水平部パターンは、前記主体面と直角に交差する平面上に配置され開放端を備える水平延長部パターンを含む請求項17に記載のデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項19】
前記第1の励振パターンは前記第1の基本周波数に対して高調波共振をし、前記第1の無給電素子は前記高調波共振により誘起された電磁波により前記第1の基本周波数に対して1/4波長で共振する請求項17または請求項18に記載のデュアル・バンド・アンテナ。
【請求項20】
請求項1から請求項19のいずれかに記載されたデュアル・バンド・アンテナを備える無線端末装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−165223(P2012−165223A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24597(P2011−24597)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(505205731)レノボ・シンガポール・プライベート・リミテッド (292)
【復代理人】
【識別番号】100106699
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 弘道
【復代理人】
【識別番号】100077584
【弁理士】
【氏名又は名称】守谷 一雄
【Fターム(参考)】