説明

デンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の製造方法及びデンドライト的構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体を含む酸素還元電極

本発明は、優れた酸素還元特性(酸素還元触媒性能)を有する酸素還元電極を提供することを主な目的とする。 本発明は、下記の発明に係る;(1)一次粒子が凝集してなるデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を製造する方法であって、 不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスを雰囲気ガスとし、前記雰囲気ガス中の酸素ガスの割合は質量流量比で0.05%以上0.5%以下であり、 前記雰囲気ガス中において、マンガン酸化物からなるターゲット板にレーザ光を照射することによって、ターゲット板の構成物質を脱離させ、前記ターゲット板にほぼ平行に対向する基板上にその脱離した物質を堆積させることによって、前記デンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を得る工程を含む製造方法、及び(2)一次粒子が凝集してなるデンドライト的構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体を含む酸素還元電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の製造方法及びデンドライト的構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体を含む酸素還元電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微細構造を有する材料は、金属、合金、化合物等の複合材料を急速に凝固することにより得られ、数ミクロンレベルの粒子サイズを有しているものが殆どである。他方、近年では、材料サイズをミクロンレベルからナノメートルレベルに小さくする研究が活発化している。こうしたナノ粒子を中心としたナノ構造体の特徴は、粒子境界(表面)に存在する原子の割合が高いことであり、例えば、5nmのナノ粒子で40%に達する。ナノ構造体は、同一の化学組成を有するミクロンレベルの材料と比較した場合、化学的及び物理的特性が大きく異なり、優れた特性を示すことが多い。
【0003】
例えば、マンガン酸化物(MnOx)は、現在ナノ構造体として入手することは困難である。通常、市販用に合成された遷移金属酸化物の粒子サイズはミクロンレベルである。そして、ミクロンレベルのマンガン酸化物の酸素還元触媒としての特性は報告されている。例えば、特許文献1によれば、マンガン酸化物の酸化状態(価数)の異なる材料では触媒活性が異なり、三価のマンガン化合物であるMn及びMnOOHの酸素還元触媒活性は、価数の異なるMn及びMnと比較して高く、酸素還元電位が各々−0.3V付近と−1.0V付近に観測されている。
【0004】
一方、ナノ構造体の作製方法としては、二酸化マンガン(MnO)を例に挙げると、過マンガン酸カリウム(KMnO)水溶液を硫酸マンガン(MnSO)の溶解した硫酸水溶液に噴霧し、合成反応を生じさせ、析出後、加熱処理する方法が知られている(特許文献1、第42頁、第2図)。
【0005】
さらに、マンガン酸化物を応用した酸素還元電極を例に挙げると、ミクロンレベルの粉末体である四酸化三マンガンと二酸化マンガンとの混合体を酸素還元電極として使用した空気亜鉛電池の例がある(特許文献2、第8頁、第2図)。
【0006】
その他、本発明に関連する文献として、特許文献3、4、非特許文献1、2等を挙げることができる。
【特許文献1】特表2000−505040号公報
【特許文献2】特開平10−302808号公報
【特許文献3】特開2000−144387号公報(特に[0015]段落)
【特許文献4】特開2003−306319号公報
【非特許文献1】Journal of The Electrochemical Society,149(4)A504−A507(2002)
【非特許文献2】レーザ研究Volume28,Number6,2000年6月 348−353頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ナノ構造を有する大表面積材料は、活性部位が仲介する化学反応が重要な役割を果たす用途(触媒的な用途)において特に有益である。この材料は、触媒反応においては周囲環境(気体、液体等)との接触面積が大きいほどよい。このため、触媒材料をナノ構造体化することには明確な利点がある。
【0008】
さらに、遷移金属酸化物を酸素還元電極の触媒材料として用いる場合には、酸素還元電極電位は小さいほどよく、コスト的な観点からは担持量が少量であるほどよい。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、優れた酸素還元特性(酸素還元触媒性能)を有する酸素還元電極を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の微細構造を有する材料を酸素還元電極として用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、下記のデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の製造方法及びデンドライト的構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体を含む酸素還元電極に係る。
【0012】
1.一次粒子が凝集してなるデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を製造する方法であって、
不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスを雰囲気ガスとし、前記雰囲気ガス中の酸素ガスの割合は質量流量比で0.05%以上0.5%以下であり、
前記雰囲気ガス中において、マンガン酸化物からなるターゲット板にレーザ光を照射することによって、ターゲット板の構成物質を脱離させ、前記ターゲット板にほぼ平行に対向する基板上にその脱離した物質を堆積させることによって、前記デンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を得る工程を含む製造方法。
【0013】
2.前記マンガン酸化物ナノ構造体を作用極とし、白金を対極とし、銀/塩化銀を参照極とし、且つ、濃度0.1mol/L及びpH13の水酸化カリウム水溶液を電解液とする三極セルを用いたサイクリックボルタンメトリー法によるサイクリックボルタモグラムにおいて、−0.2V付近に酸素還元電位を示す、上記項1に記載の製造方法。
【0014】
3.前記不活性ガスが、ヘリウムガスである、上記項1に記載の製造方法。
【0015】
4.前記雰囲気ガスにエネルギーを与えることにより活性化する、上記項1に記載の製造方法。
【0016】
5.前記雰囲気ガスが、13.33Pa以上1333Pa以下の圧力を有する、上記項1に記載の製造方法。
【0017】
6.前記レーザ光が、5ns以上20ns以下のパルス幅を有するパルスレーザ光である、上記項1に記載の製造方法。
【0018】
7.前記レーザ光が、0.5J/cm以上2J/cm以下のエネルギー密度を有する、上記項1に記載の製造方法。
【0019】
8.前記ターゲット板が、マンガン酸化物の焼結体である、上記項1に記載の製造方法。
【0020】
9.得られたマンガン酸化物ナノ構造体をさらに加熱する工程を有する、上記項1に記載の製造方法。
【0021】
10.前記雰囲気ガスの圧力を変化させる、上記項1に記載の製造方法。
【0022】
11.前記工程に先立って、予めターゲット板及び基板を互いに平行に対向するように反応系内に設置する工程を有する、上記項1に記載の製造方法。
【0023】
12.前記ターゲット板にビーム光を照射することによって前記ターゲット板近傍に形成される高温高圧領域のサイズを制御するために、1)雰囲気ガスの圧力及び2)前記ターゲット板と基板との距離の少なくとも一方を調整する工程を含む、上記項1に記載の製造方法。
【0024】
13.一次粒子が凝集してなるデンドライト的構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体を含む酸素還元電極。
【0025】
14.前記遷移金属がマンガンである、上記項13に記載の酸素還元電極。
【0026】
15.前記一次粒子が、2nm以上20nm以下の平均粒径を有する、上記項13に記載の酸素還元電極。
【0027】
16.前記デンドライト的構造が、1μm以上20μm以下の平均高さを有する、上記項13に記載の酸素還元電極。
【0028】
17.前記一次粒子が2nm以上20nm以下の平均粒径を有し、且つ、前記デンドライト的構造が1μm以上20μm以下の平均高さを有する、上記項13に記載の酸素還元電極。
【0029】
18.前記酸素還元電極を作用極とし、白金を対極とし、銀/塩化銀を参照極とし、且つ、濃度0.1mol/L及びpH13の水酸化カリウム水溶液を電解液とする三極セルを用いたサイクリックボルタンメトリー法によるサイクリックボルタモグラムにおいて、−0.2V付近に酸素還元電位を示す、上記項13に記載の酸素還元電極。
【0030】
19.前記遷移金属がマンガンである、上記項18に記載の酸素還元電極。
【0031】
20.前記遷移金属酸化物ナノ構造体が、一酸化遷移金属、四酸化三遷移金属、三酸化二遷移金属及び二酸化遷移金属からなる群から選択された少なくとも1種の遷移金属酸化物である、上記項13に記載の酸素還元電極。
【0032】
21.前記遷移金属酸化物ナノ構造体が、一酸化マンガン、四酸化三マンガン、三酸化二マンガン及び二酸化マンガンからなる群から選択された少なくとも1種のマンガン酸化物である、上記項13に記載の酸素還元電極。
【0033】
22.前記遷移金属酸化物ナノ構造体が、導電性基材上に形成されている、上記項13に記載の酸素還元電極。
【0034】
23.前記サイクリックボルタモグラムが、−0.25V以上0V以下の範囲内に酸素還元電位を示す、上記項18に記載の酸素還元電極。
【0035】
24.前記遷移金属がマンガンである、上記項23に記載の酸素還元電極。
【発明の効果】
【0036】
本発明の製造方法は、いわゆるon−axisでレーザアブレーションすることにより遷移金属酸化物ナノ構造体を作製するので、(高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される)一次粒子が凝集してなるデンドライト的構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体を製造することができる。
【0037】
また、本発明の製造方法によれば、レーザ光の照射によりターゲット材から射出した物質(主に原子・イオン・クラスター)と雰囲気ガスとの相互作用(衝突、散乱、閉じ込め効果)の最適化により遷移金属酸化物に含まれる遷移金属の価数及びナノメートルサイズの微細構造を制御することができる。
【0038】
本発明の酸素還元電極は、(高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される)一次粒子が凝集してなるデンドライト的構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体を含むことにより、多大な比表面積を有し優れた触媒活性を呈するため、優れた酸素還元触媒能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
[図1]本発明の実施の形態1における、高い結晶性を有する一次粒子が凝集したデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の走査電子顕微鏡写真である。
[図2]本発明の実施の形態1における、高い結晶性を有する一次粒子が凝集したデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の透過電子顕微鏡写真である。
[図3]本発明の実施の形態における、マンガン酸化物ナノ構造体の作製方法に使用するナノ構造体作製装置を示す構成図である。
[図4]本発明の実施の形態2における、高い結晶性を有する一次粒子が凝集したデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の走査電子顕微鏡写真である。
[図5]本発明の実施の形態2における、高い結晶性を有する一次粒子が凝集したデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の透過電子顕微鏡写真である。
[図6]本発明の実施の形態3における、高い結晶性を有する一次粒子が凝集したデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の走査電子顕微鏡写真である。
[図7]本発明の実施の形態3における、高い結晶性を有する一次粒子が凝集したデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の透過電子顕微鏡写真である。
[図8]本発明の比較例1における、柱状構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の走査電子顕微鏡写真である。
[図9](a)「on−axis状態」を示す図である。(b)「off−axis状態」を示す図である。
[図10]本発明の比較例2における、綿菓子構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の走査電子顕微鏡写真である。
[図11]実施例1において用いたマスクの模式図である。
[図12]実施例1において用いた電極の模式図である。
[図13]実施例1において測定した電流密度のグラフである。
【符号の説明】
【0040】
301 反応室
302 超高真空排気系
303a、303b マスフローコントローラ
304 ガス導入ライン
305 ガス排気系
306 ターゲットホルダー
307 ターゲット
308 パルスレーザ光源
309 堆積基板
310 レーザ導入窓
311 スリット
312 レンズ
313 反射鏡
314 プルーム
【発明を実施するための最良の形態】
【0041】
1.酸素還元電極
本発明の酸素還元電極は、一次粒子が凝集してなるデンドライト的構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体を含むことを特徴とする。なお、「デンドライト」とは、枝が特定の結晶学的方向に平行に直線状に枝分かれした結晶成長構造と定義され、いわゆる樹枝状晶と同様の構造であるが、本明細書における「デンドライト的構造」とは、「外観」がデンドライト状(即ち樹状)の凝集体を意味する。従って、「デンドライト的構造」は、デンドライト結晶成長とは異なる。
【0042】
本発明の酸素還元電極では、少なくとも電極材料(特に電極活物質(触媒材料))として一次粒子が凝集してなるデンドライト的構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体を用いる。前記一次粒子は、粒子状の最小構成単位であり、特に結晶格子が明瞭に確認できる結晶性の高い粒子が好ましい。遷移金属酸化物をナノ構造化することにより微小な一次粒子により多大な触媒活性点を持たせることができ、一般のバルク材料にはない優れた酸素還元触媒能を発現し得る。
【0043】
本発明の電極は、電極材料として上記遷移金属酸化物ナノ構造体を用いるほかは、公知の酸素還元電極の構成要素を用いることができる。例えば、前記遷移金属酸化物ナノ構造体を導電性基材上に形成した状態で使用できる。
【0044】
前記一次粒子の平均粒径は限定的ではないが、通常2nm以上20nm以下の範囲内であることが好ましく、特に3nm以上7nm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0045】
また、前記一次粒子が凝集してなるデンドライト的構造(二次構造)の平均高さも限定的ではないが、通常1μm以上20μm以下の範囲内であることが好ましく、特に5μm以上15μm以下の範囲内であることが好ましい。なお、デンドライト的構造の高さとは、樹枝状晶の枝の長さを意味する。デンドライト的構造の枝(樹枝状柱)の直径も限定的ではないが、通常0.5μm以上5μm以下の範囲内であることが好ましい。デンドライト的構造体の形状は限定的ではないが、例えば、フィルム状にして用いることができる。
【0046】
本発明の酸素還元電極は、この電極を作用極とし、白金を対極とし、銀/塩化銀を参照極とし、且つ、濃度0.1mol/L及びpH13の水酸化カリウム水溶液を電解液とする三極セルを用いたサイクリックボルタンメトリー法によるサイクリックボルタモグラムにおいて、−0.2V付近(好ましくは−0.25V以上0V以下)に酸素還元電位を示すことが好ましい。かかる本発明電極は、従来品に比してより低い電圧で酸素還元性能を発揮できる。
【0047】
上記サイクリックボルタンメトリー法は、より具体的には後記の実施例1のような条件とすればよい。特に、試験電極として、グラッシーカーボン501(直径3mm×高さ3mm)の上面の円の中心部に遷移金属酸化物ナノ構造体(直径2mm・厚さ7μm)を形成し、これを銅製ロッドに固定したものを使用すればよい。
【0048】
本発明の酸素還元電極は、電極材料として上記遷移金属酸化物ナノ構造体を用いる他は、電極の他の構成要素、組立て方法等は限定されない。即ち、例えば、次項に示す製造方法により製造される遷移金属酸化物ナノ構造体と公知の他の構成要素とを使用し、公知の組立て方法に従って本発明の酸素還元電極を製造すればよい。
【0049】
2.デンドライト的構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体の製造方法
一次粒子が凝集してなるデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体は;
不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスを雰囲気ガスとし、前記雰囲気ガス中の酸素ガスの割合は質量流量比で0.05%以上0.5%以下であり、
前記雰囲気ガス中において、マンガン酸化物からなるターゲット板にレーザ光を照射することによって、ターゲット板の構成物質を脱離させ、前記ターゲット板にほぼ平行に対向する基板上にその脱離した物質を堆積させることによって、前記デンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を得る工程を含むことを特徴とする製造方法によって好適に製造できる。
【0050】
実施の形態及び実施例においても説明するが、本発明の製造方法では、雰囲気ガス中の酸素ガスの割合は、不活性ガス(例えば、実施の形態ではHeガスを例示)に対する質量流量比で表して、0.05%以上0.5%以下となるように設定する。
【0051】
質量流量比が0.05%未満の場合には、柱状構造に凝集したナノ構造体が得られるが、目的のナノ構造体(デンドライト的構造を有するナノ構造体)とは異なる。また、質量流量比が0.5%を超える場合には、綿菓子状に凝集したナノ構造体が得られるが、これも目的のナノ構造体とは異なる。
【0052】
ターゲット板と基板とは実質的に平行に配置する。これは「on−axis」状態と呼ばれる。平行に配置されていない場合、即ち「off−axis」状態では、目的のデンドライト的構造を有するナノ構造体は得られない。
【0053】
ナノ構造体を得るための出発原料であるマンガン酸化物は、レーザ光のターゲット材になり得るものであれば限定的でなく、各種のマンガン酸化物を用いることができる。例えば、一酸化マンガン(MnO)、四酸化三マンガン(Mn)、三酸化二マンガン(Mn)及び二酸化マンガン(MnO)の少なくとも1種を好適に用いることができる。この場合、目的とするマンガン酸化物ナノ構造体と同じ酸化物を選択することが望ましい。例えば、四酸化三マンガンのナノ構造体を作製しようとする場合には、四酸化三マンガンの焼結体からなるターゲット板を用いることが好ましい。
【0054】
マンガン酸化物は、結晶質又は非晶質のいずれであってもよい。また、結晶質の場合は、多結晶又は単結晶のいずれも使用することができる。従って、例えば、マンガン酸化物の焼結体等を好適に用いることができる。
【0055】
マンガン酸化物からなるターゲット板の形状は、レーザ光の照射に適した形状であれば限定的ではない。例えば、厚み0.5mm以上10mm以下程度のマンガン酸化物をターゲット板として好適に用いることができる。ターゲット板は、適当な支持体の上にマンガン酸化物を積層したものでもよい。なお、ターゲット板の大きさは、レーザアブレーション法の条件等に応じて適宜設定すればよい。
【0056】
基板は、特に限定されず、例えば、Si、SiO等の各種の材質からなる基板を用いることができる。
【0057】
本発明では、前記ターゲット板にビーム光を照射することにより、ターゲット板の構成物質を脱離させ、前記ターゲット板にほぼ平行に対向する基板上にその脱離した物質を堆積させる。即ち、本発明ではレーザアブレーション法(好ましくはパルスレーザアブレーション法)を用いる。レーザアブレーション法は、既存の反応装置等を利用して実施できる。
【0058】
レーザアブレーション法とは、高いエネルギー密度(特に0.5J/cm以上、好ましくは0.5J/cm以上2J/cm以下)のレーザ光をターゲットに照射し、ターゲット表面を溶融・脱離させる方法である。パルスレーザアブレーション法は、レーザ光としてパルスレーザ光を用いる方法である。
【0059】
レーザアブレーション法の特徴は、非熱平衡性及び無質量性プロセスであることにある。非熱平衡性の具体的効果としては、空間的・時間的選択励起が可能であることが挙げられる。特に、空間的選択励起性という点で有利である。即ち、従来の熱プロセス又はプラズマプロセスにおいては、反応槽のかなり広い領域或いは反応槽全体が熱、イオン等に晒されるのに対して、レーザアブレーション法では必要な物質源のみを励起できるため、不純物混入が抑制されたクリーンなプロセスとなる。
【0060】
また、無質量性とは、同じ非熱平衡性のイオンプロセスに比較して、格段に低ダメージ性であることを意味する。レーザアブレーションにおいて脱離する物質は、主にイオン及び中性粒子である原子・分子・クラスター(数個から数十個程度の原子から構成される)であり、その運動エネルギーはイオンでは数十eV、中性粒子では数eVのレベルに達する。これは、加熱蒸発原子よりはるかに高エネルギーであるが、イオンビームよりはるかに低エネルギーの領域である。
【0061】
このようにクリーンでダメージの少ないレーザアブレーションプロセスは、不純物の混入・組成・結晶性等が制御されたナノ構造体の作製に適している。この場合、レーザアブレーション法を用いてナノ構造体を作製するためには、ターゲット材料が、光源であるレーザ光の波長域で吸収があることが望ましい。
【0062】
本発明の製造方法において、レーザ光としてパルスレーザ光を用いる場合のパルス幅は、特に5ns以上20ns以下とすることが好ましい。また、波長は、一般に150nm以上700nm以下とすることが好ましい。パルスエネルギーは、通常は10mJ以上500mJ以下とすることが好ましい。また、繰り返し周波数は、通常は5Hz以上1KHz以下とすることが好ましい。
【0063】
レーザ光のレーザ媒体(レーザの種類)は特に限定されず、例えば、エキシマレーザ等の気体レーザのほか、YAGレーザ等の固体レーザを採用することができる。特にエキシマレーザ(とりわけハロゲンガスと希ガスとをレーザ媒体としたもの)を用いることが望ましい。例えば、フッ素ガスとアルゴンとをレーザ媒体とするArFエキシマレーザを好適に用いることができる。
【0064】
特に、本発明では、前記ターゲット板から脱離した物質を堆積させるに際し、ターゲット板にほぼ平行に対向する基板上で前記物質を堆積させる(図3)。換言すれば、ターゲット板と基板とを互いにほぼ平行にした状態で、脱離した物質を基板上に堆積させる。この方式は、いわゆるon−axisの状態を採用したものであり、いわゆるoff−axis(ターゲット板と基板が互いにほぼ垂直に配置された状態で基板に堆積させる方法)の状態を採用するものとは異なる。本発明では、on−axisの状態で前記物を堆積させることによって、最終的に得られるマンガン酸化物ナノ構造体がoff−axisの状態を採用した場合に比して、優れた酸素還元特性を発揮する。
【0065】
従って、on−axisの状態によるレーザアブレーション法を既存の反応装置等を用いて実施する場合には、予め前記ターゲット板と基板とを互いに平行に対向するように反応系内に設置しておくことが望ましい。
【0066】
また、反応装置を用いる場合は、前記ターゲット板にビーム光を照射することによって前記ターゲット板近傍に形成される高温高圧領域のサイズを制御するために、1)雰囲気ガスの圧力及び2)前記ターゲット板と基板との距離の少なくとも一方を調整することもできる。これにより、効率的にマンガン酸化物ナノ構造体を基板上に形成できる。
【0067】
本発明の製造方法では、雰囲気ガスとして、不活性ガスと反応性ガス(酸素ガス)との混合ガスを用いる。この方法によれば、不活性ガスのみを用いた場合に比べて、チャンバ等に残存する反応性ガス種の影響を無視することができる。
【0068】
不活性ガスとしては、例えば、Ar、He、N等を用いることができる。この中でも、Heガスが好ましい。
【0069】
雰囲気ガス(前記混合ガス)中の酸素ガスの割合は、質量流量比で0.05%以上0.5%以下、好ましくは0.1%以上0.3%以下の範囲となるように設定すればよい。
【0070】
雰囲気ガスの圧力は、雰囲気ガスの組成等に応じて適宜設定することができる。特に、ターゲット材と同一組成のマンガン酸化物ナノ構造体を好適に作製できるという点では、13.33Pa以上1333Pa以下の範囲内になるように調整することが好ましい。
【0071】
本発明では、必要に応じて雰囲気ガスの圧力を変化させることもできる。これにより、ナノ構造体の堆積方向における構造(デンドライト的構造)を制御し、マンガン酸化物ナノ構造体の物性を制御することができる。
【0072】
また、雰囲気ガスにエネルギーを与えることにより、雰囲気ガスを活性化することもできる。これにより、マンガンの価数を増加させることができる。雰囲気ガスにエネルギーを与える方法としては、例えば、紫外光照射、電子線照射等が挙げられる。
【0073】
このようにして、ターゲット板から脱離した物質を基板上に堆積させることにより、最終的に基板上で一次粒子が凝集してなるデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を形成できる。一般的に、レーザアブレーション法によりターゲット板から脱離した物質(原子、分子、イオン、クラスター等)は、凝集又は成長しながら基板上に堆積し、最終的には一次粒子が凝集した二次構造(デンドライト的構造)を有するマンガン酸化物ナノ構造体が基板上に形成される。
【0074】
本発明では、必要に応じて、上記マンガン酸化物ナノ構造体をさらに加熱することもできる。加熱することにより、マンガン酸化物の酸化数を上げることができる。例えば、マンガン酸化物ナノ構造体が四酸化三マンガン(Mn)である場合、酸化性雰囲気中で加熱することにより三酸化二マンガン(Mn)が得られる。加熱温度は特に限定されないが、通常は600℃以上とすればよく、上限値は適宜設定できる。
【0075】
本発明の製造方法で得られるマンガン酸化物ナノ構造体は、一次粒子が凝集した二次構造(デンドライト的構造)を有する。このように、微小な一次粒子により多大な触媒活性点を持たせることができ、二次構造のサイズにより反応物質の効果的な拡散を促すことができる。
【0076】
二次構造を構成する一次粒子の平均粒径、二次構造の形状・大きさ等は前記した通りである。
【0077】
以下、実施の形態に分けて、具体的に図面を参照しながらマンガン酸化物ナノ構造体の製造方法を説明する。
【0078】
(実施の形態1)
実施の形態1では、マンガン酸化物(MnOx)からなるナノ構造体及びその作製方法について説明する。
【0079】
図1は、実施の形態1におけるマンガン酸化物ナノ構造体の走査電子顕微鏡写真である。マンガン酸化物ナノ構造体は、図1の上面図から明らかなように、一次粒子が凝集し、数百nmの二次構造を形成していることが分かる。図1の断面図から明らかなように、二次構造は高さ約7.5μmのデンドライト的構造を有していることが分かる。さらに図2の透過電子顕微鏡写真から明らかなように、一次粒子は結晶格子が明瞭に確認できる結晶性の非常に高い数nmの粒子であることが分かる。
【0080】
続いて、図1に示したデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体の作製方法を説明する。
【0081】
実施の形態1では、ガス雰囲気中におけるレーザアブレーションを用いて基板上にマンガン酸化物を堆積させる。なお、レーザアブレーション法とは、高いエネルギー密度(パルスエネルギー:1.0J/cm程度又はそれ以上)のレーザ光をターゲット材に照射し、被照射ターゲット材の表面を溶融・脱離させる方法である。
【0082】
レーザアブレーション法の特徴は、非熱平衡性及び無質量性プロセスであることにある。非熱平衡性の具体的効果としては、空間的・時間的選択励起が可能であることが挙げられる。特に、空間的選択励起性という点で有利である。即ち、従来の熱プロセス又はプラズマプロセスにおいては、反応槽のかなり広い領域或いは反応槽全体が熱、イオン等に晒されるのに対して、レーザアブレーション法では必要な物質源のみを励起できるため、不純物混入が抑制されたクリーンなプロセスとなる。
【0083】
また、無質量性とは、同じ非熱平衡性のイオンプロセスに比較して、格段に低ダメージ性であることを意味する。レーザアブレーションにおいて脱離する物質は、主にイオン及び中性粒子である原子・分子・クラスター(数個から数十個程度の原子から構成される)であり、その運動エネルギーはイオンでは数十eV、中性粒子では数eVのレベルに達する。これは、加熱蒸発原子よりはるかに高エネルギーであるが、イオンビームよりはるかに低エネルギーの領域である。
【0084】
このようにクリーンでダメージの少ないレーザアブレーションプロセスは、不純物の混入・組成・結晶性等が制御されたナノ構造体の作製に適している。この場合、レーザアブレーション法を用いてナノ構造体を作製するためには、ターゲット材料が、光源であるレーザ光の波長域で吸収があることが望ましい。
【0085】
図3は、本発明のマンガン酸化物ナノ構造体の作製に使用する、ナノ構造体作製装置を示す図である。ここでは、一酸化マンガン焼結体ターゲットを用いて、Heと酸素(O)との混合ガスを雰囲気ガスとしてレーザアブレーションを行うことにより、図1に示すようなデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を作製する場合について説明する。
【0086】
図3において、参照符号301はターゲットが配置される金属製の反応室を示す。反応室301の底部には、反応室301内を排気して反応室301内を超高真空にする超真空排気系302が設けられている。反応室301には、反応室301へ雰囲気ガスを供給するガス導入ライン304が取り付けられている。このガス導入ライン304には、反応室301へ供給する雰囲気ガスの流量を制御するマスフローコントローラ303a、303bが取り付けられている。また、反応室301の底部には、反応室301内の雰囲気ガスを差動排気するガス排気系305が設けられている。
【0087】
反応室301内には、ターゲット307を保持するターゲットホルダー306が配置されている。このターゲットホルダー306には、回転シャフトが取り付けられており、この回転シャフトが図示しない回転制御部の制御で回転することにより、ターゲット307が回転する(8回転/分)ようになっている。このターゲット307の表面に対向するようにして堆積基板309が配置されている。この堆積基板309には、レーザ光の照射により励起されたターゲット307から脱離・射出された物質が堆積される。ここでは、ターゲットとして、一酸化マンガン(MnO)多結晶焼結体ターゲット(純度99.9%)を用いる。
【0088】
実施の形態1では、ターゲット307と堆積基板309とがon−axisな状態となっている。これは後述する実施の形態2、3においても同様である。ここで、「on−axis」と「off−axis」とを、図9を参照しながら説明する。図9(a)は「on−axis」状態であり、図9(b)が「off−axis」状態である。図9(a)に示されるように、「on−axis」状態では、ターゲット307と堆積基板309とが平行な状態である。換言すれば、「on−axis」状態では、ターゲット307の法線307a(即ち、平板状のターゲット307の表面に垂直な線)と堆積基板309の法線309a(平板状の堆積基板309の表面に垂直な線)とが平行になる。
【0089】
一方、図9(b)に示されるように、「off−axis」状態では、ターゲット307と堆積基板309とが平行な状態ではない。換言すれば、「off−axis」状態では、ターゲット307の法線307a(即ち、平板状のターゲット307の表面に垂直な線)と堆積基板309の法線309a(平板状の堆積基板309の表面に垂直な線)とが平行にならない。
【0090】
本発明に係るデンドライト的構造を有するナノ構造体を得るためには、「on−axis」状態であることが必要である。後述する比較例3においても説明されているように、「off−axis」状態からは、目的とするデンドライト的構造を有するナノ構造体は得られない。
【0091】
反応室301の外側には、ターゲット307にエネルギービームとしてのレーザ光を照射するパルスレーザ光源308が配置されている。反応室301の上部には、レーザ光を反応室301内に導入するレーザ導入窓310が取り付けられている。パルスレーザ光源308から出射したレーザ光の光路上には、レーザ光源308から近い順にスリット311,レンズ312,及び反射鏡313が配置されており、パルスレーザ光源308から出射したレーザ光がスリット311により整形され、レンズ312で集光され、反射鏡313で反射されて、レーザ導入窓310を通って反応室301内に設置されたターゲット307に照射される。
【0092】
上記構成を有するナノ構造体作製装置の動作について説明する。反応室301の内部を、ターボ分子ポンプを主体とする超高真空排気系302により到達真空1.0×10−6Pa程度まで排気後、マスフローコントローラ303a及び303bを経由して、ガス導入ライン304より、Heガス及びOガスの導入を行う。なお、質量流量としてHeガスは495.5sccm、Oガスは0.5sccmで導入する(従って、OガスのHeガスに対する質量流量比は0.1%となる)。ここで、スクロールポンプ又はヘリカル溝ポンプを主体としたガス排気系305の動作と連動することにより、反応室101内の雰囲気希ガス圧力を13.33〜1333Pa程度の範囲の一圧力値に設定する。
【0093】
この状態で、自転機構を有するターゲットホルダー306に配置された、純度:99.9%のMnO多結晶焼結体ターゲット307の表面に対して、パルスレーザ光源308からレーザ光を照射する。ここでは、アルゴン弗素(ArF)エキシマレーザ(波長:193nm、パルス幅:12ns、パルスエネルギー:50mJ、エネルギー密度:1J/cm、繰返し周波数:10Hz)を用いる。このとき、MnOターゲット307表面では、レーザアブレーション現象が発生し、Mn,O,MnO等のイオン又は中性粒子(原子、分子、クラスター等)が脱離し、当初はイオンで50eV、中性粒子で5eVのオーダーの運動エネルギーを有し、主にターゲット法線方向に分子、クラスターレベルの大きさを維持して射出して行く。そして、脱離物質は、雰囲気希ガス原子と衝突することにより、飛行方向が乱雑になるとともに運動エネルギーが雰囲気に散逸されて、約35mm離れて対向した堆積基板309上にナノ構造体として堆積される。なお、基板及びターゲット温度とも積極的な制御は行っていない。
【0094】
ここでは雰囲気ガスとして、OガスとHeガスとの混合ガスを用いているが、Heに代えてAr,Kr,Xe,N等の他の不活性ガスを用いてもよい。この場合、気体密度がHeとOと混合ガスの場合と同等になるように圧力を設定すればよい。
【0095】
上記の方法により雰囲気ガスであるHeとOとの混合ガスの圧力をHeガス667Paと同質量である662Paとして1000秒間堆積したマンガン酸化物について、微細構造の評価を行った。
【0096】
堆積されたマンガン酸化物は、図1、図2に示すように、最小構成単位が数nmの高い結晶性を有する一次粒子が高さ約7.5μmのデンドライト的構造に凝集したナノ構造体を形成していることが分かる。
【0097】
以上のように、実施の形態1のマンガン酸化物ナノ構造体の作製方法により、(高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成される)一次粒子が凝集してなるデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を作製できる。
【0098】
なお、ターゲット材料は一酸化マンガン多結晶焼結体に限定されず、三酸化二マンガン、四酸化三マンガン等の価数の異なるものを用いても良いし、単結晶ターゲットを用いても構わない。
【0099】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1とは異なる条件(具体的には、質量流量および混合ガスの圧力が異なる)によって得られるマンガン酸化物(MnOx)からなるナノ構造体及び、その作製方法ついて説明する。
【0100】
図4は、実施の形態2におけるマンガン酸化物ナノ構造体の走査電子顕微鏡写真である。マンガン酸化物ナノ構造体は、図4の上面図から明らかなように、一次粒子が凝集し、数百nmの二次構造を形成していることが分かる。図4の断面図から明らかなように、二次構造は高さ約14μmのデンドライト的構造を有していることが分かる。さらに図5の透過電子顕微鏡写真から明らかなように、一次粒子は結晶格子が明瞭に確認できる結晶性の非常に高い数〜10nm程度の粒子であることが分かる。
【0101】
図4に示したデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体は、以下の点を除き、実施の形態1と同様の作製方法により得られる。即ち、実施の形態2では、質量流量としてHeガスは499sccm、Oガスは1.0sccmで導入する(従って、OガスのHeガスに対する質量流量比は0.20%となる)。また、HeとOの混合ガスの圧力をHeガス667Paと同質量である657Paとする。
【0102】
堆積されたマンガン酸化物は、図4、図5に示すように、(最小構成単位が数〜10nmの高い結晶性を有する)一次粒子が高さ約14μmのデンドライト的構造に凝集したナノ構造体を形成していることが分かる。
【0103】
(実施の形態3)
実施の形態3では、実施の形態1及び実施の形態2とは異なる条件(具体的には、質量流量および混合ガスの圧力が異なる)によって得られるマンガン酸化物(MnOx)からなるナノ構造体及び、その作製方法ついて説明する。
【0104】
図6は、本実施の形態におけるマンガン酸化物ナノ構造体の走査電子顕微鏡写真である。マンガン酸化物ナノ構造体は、図6の上面図から明らかなように、一次粒子が凝集し、数μm程度の二次粒子を形成していることが分かる。図6の断面図から明らかなように、二次構造は高さ約2.5μmのデンドライト的構造を有していることが分かる。さらに図7の透過電子顕微鏡写真から明らかなように、一次粒子は結晶格子が明瞭に確認できる結晶性の非常に高い数〜10nm程度の粒子であることが分かる。
【0105】
図6に示したデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体は、以下の点を除き、実施の形態1と同様の作製方法により得られる。即ち、実施の形態3では、質量流量としてHeガスは497.5sccm、Oガスは2.5sccmで導入する(従って、OガスのHeガスに対する質量流量比は0.50%となる)。また、Heガスの圧力をHeガス667Paと同質量である644Paとする。
【0106】
堆積されたマンガン酸化物は、図6、図7に示すように、最小構成単位が数〜10nmの高い結晶性を有する一次粒子が高さ約2.5μmのデンドライト的構造に凝集したナノ構造体を形成していることが分かる。
【実施例】
【0107】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をより詳細に説明する。
【0108】
[実施例1]
図4に示す高い結晶性を有する粒子状の最小構成単位から形成されるデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を触媒材料として用いて、試験電極を作製した。
【0109】
試験電極の作製は、次の手順で行った。先ず、実施の形態1で説明した方法で、図11に模式的に示したようにφ3mmのグラッシーカーボン上にφ2mmの開口を有するマスクを介してデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を厚さ(高さ)約14μmで直接堆積(坦持)した。試験電極の触媒坦持部は、図12に示すように、鏡面研磨されたφ3mmのグラッシーカーボンを周囲に6mmのオネジを切ったPEEK材に圧入した構造である。次に、デンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を直接坦持した触媒坦持部を図12に示すように電極本体にねじ込むことで電気的な接触とパッキン材による撥水を行った。試験電極からの電流の取り出しは電極本体のφ1.6mmの真鍮棒を介して行った。
【0110】
上記の方法で作製した試験電極を用いて、三極セルによるサイクリックボルタンメトリー法により酸素還元触媒能の評価を行った。評価は、試験電極を作用極とし0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液(pH13)中に酸素を飽和溶存させ、酸素雰囲気下で行った。ここで、対極には白金線を、参照極には銀/塩化銀電極を用いた。
【0111】
図13にサイクリックボルタモグラムを示す。図13において、破線で示したマンガン酸化物ナノ構造体を坦持していないグラッシーカーボンのみの比較電極1と、点線で示したミクロンサイズの四酸化三マンガン粉末体を坦持した比較電極2とを比較すると、実線で示したデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を坦持した試験電極では、電流密度が最大値で約5.8倍(対比較電極1)、約2.4倍(対比較電極2)増加していた。また、比較電極1及び2における−0.4V付近の最大電流密度を示す酸素還元電位に対して、約0.2V小さい過電圧である−0.2V付近に最大電流密度を示す酸素還元電位が観測された。
【0112】
上記の結果は、触媒としてのマンガン酸化物を、高い結晶性を有する一次粒子が凝集したデンドライト的構造を有する本発明のマンガンナノ構造体としたことにより発現したと考えられる。約14μmという非常に薄い触媒層にもかかわらず、高い酸素還元触媒能を発現している。
【0113】
比較例1
(デンドライト的構造以外のナノ構造体の作製)
図8は、比較例1におけるマンガン酸化物ナノ構造体の走査電子顕微鏡写真である。
【0114】
図8に示したマンガン酸化物ナノ構造体は、以下の点を除き、実施の形態1と同様の作製方法により得た。即ち、比較例1では、質量流量としてHeガスは500.0sccm、Oガスは0.0sccmで導入した(従って、OガスのHeガスに対する質量流量比は0.00%となる)。また、Heガスの圧力667Paとした。
【0115】
堆積されたマンガン酸化物は、図8に示したように、一次粒子が高さ約650nmの柱状構造に凝集したナノ構造体を形成していることが分かった。即ち、Oガスを導入しない場合には、on−axis状態であっても、デンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体は得られなかった。
【0116】
また、実施例1と同様の条件のサイクリックボルタンメトリー法によるサイクリックボルタモグラムにおいて、0.4V付近に酸素還元電位が観測された。
【0117】
比較例2
質量流量としてHeガスは495.0sccm、Oガスは5.0sccmで導入した(従って、OガスのHeガスに対する質量流量比は1.00%となる)こと、及びHeとOとの混合ガスの圧力を、Heガス667Paと同質量である623Paとしたこと以外は、実施の形態1と同様にしてマンガン酸化物ナノ構造体を得た。得られたマンガン酸化物ナノ構造体は、図10に示すように、綿菓子のような構造を有しており、デンドライト的構造を有していなかった。
【0118】
また、実施例1と同様の条件のサイクリックボルタンメトリー法によるサイクリックボルタモグラムにおいて、0.4V付近に酸素還元電位が観測された。
【0119】
比較例3
ターゲット307と堆積基板309との関係をoff−axis状態(図9(b)参照)にしたこと以外は、実施の形態1と同様にしてマンガン酸化物ナノ構造体を得ようとしたが、堆積基板309には、マンガン酸化物からなる単なる薄膜が形成され、目的のデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体は得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明の製造方法は、優れた酸素還元触媒能を有し、酸素還元電極、ガスセンサ等に適用し得る、デンドライト的構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体を提供できる。
【0121】
本発明の酸素還元電極は、優れた酸素還元触媒能を有し、例えば、空気亜鉛電池、燃料電池等の酸素極として有用である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次粒子が凝集してなるデンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を製造する方法であって、
不活性ガスと酸素ガスとの混合ガスを雰囲気ガスとし、前記雰囲気ガス中の酸素ガスの割合は質量流量比で0.05%以上0.5%以下であり、
前記雰囲気ガス中において、マンガン酸化物からなるターゲット板にレーザ光を照射することによって、ターゲット板の構成物質を脱離させ、前記ターゲット板にほぼ平行に対向する基板上にその脱離した物質を堆積させることによって、前記デンドライト的構造を有するマンガン酸化物ナノ構造体を得る工程を含む製造方法。
【請求項2】
前記マンガン酸化物ナノ構造体を作用極とし、白金を対極とし、銀/塩化銀を参照極とし、且つ、濃度0.1mol/L及びpH13の水酸化カリウム水溶液を電解液とする三極セルを用いたサイクリックボルタンメトリー法によるサイクリックボルタモグラムにおいて、−0.2V付近に酸素還元電位を示す、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記不活性ガスが、ヘリウムガスである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記雰囲気ガスにエネルギーを与えることにより活性化する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
前記雰囲気ガスが、13.33Pa以上1333Pa以下の圧力を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記レーザ光が、5ns以上20ns以下のパルス幅を有するパルスレーザ光である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記レーザ光が、0.5J/cm以上2J/cm以下のエネルギー密度を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ターゲット板が、マンガン酸化物の焼結体である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
得られたマンガン酸化物ナノ構造体をさらに加熱する工程を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記雰囲気ガスの圧力を変化させる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
前記工程に先立って、予めターゲット板及び基板を互いに平行に対向するように反応系内に設置する工程を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項12】
前記ターゲット板にビーム光を照射することによって前記ターゲット板近傍に形成される高温高圧領域のサイズを制御するために、1)雰囲気ガスの圧力及び2)前記ターゲット板と基板との距離の少なくとも一方を調整する工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項13】
一次粒子が凝集してなるデンドライト的構造を有する遷移金属酸化物ナノ構造体を含む酸素還元電極。
【請求項14】
前記遷移金属がマンガンである、請求項13に記載の酸素還元電極。
【請求項15】
前記一次粒子が、2nm以上20nm以下の平均粒径を有する、請求項13に記載の酸素還元電極。
【請求項16】
前記デンドライト的構造が、1μm以上20μm以下の平均高さを有する、請求項13に記載の酸素還元電極。
【請求項17】
前記一次粒子が2nm以上20nm以下の平均粒径を有し、且つ、前記デンドライト的構造が1μm以上20μm以下の平均高さを有する、請求項13に記載の酸素還元電極。
【請求項18】
前記酸素還元電極を作用極とし、白金を対極とし、銀/塩化銀を参照極とし、且つ、濃度0.1mol/L及びpH13の水酸化カリウム水溶液を電解液とする三極セルを用いたサイクリックボルタンメトリー法によるサイクリックボルタモグラムにおいて、−0.2V付近に酸素還元電位を示す、請求項13に記載の酸素還元電極。
【請求項19】
前記遷移金属がマンガンである、請求項18に記載の酸素還元電極。
【請求項20】
前記遷移金属酸化物ナノ構造体が、一酸化遷移金属、四酸化三遷移金属、三酸化二遷移金属及び二酸化遷移金属からなる群から選択された少なくとも1種の遷移金属酸化物である、請求項13に記載の酸素還元電極。
【請求項21】
前記遷移金属酸化物ナノ構造体が、一酸化マンガン、四酸化三マンガン、三酸化二マンガン及び二酸化マンガンからなる群から選択された少なくとも1種のマンガン酸化物である、請求項13に記載の酸素還元電極。
【請求項22】
前記遷移金属酸化物ナノ構造体が、導電性基材上に形成されている、請求項13に記載の酸素還元電極。
【請求項23】
前記サイクリックボルタモグラムが、−0.25V以上0V以下の範囲内に酸素還元電位を示す、請求項18に記載の酸素還元電極。
【請求項24】
前記遷移金属がマンガンである、請求項23に記載の酸素還元電極。

【国際公開番号】WO2005/080254
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【発行日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515309(P2006−515309)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002349
【国際出願日】平成17年2月16日(2005.2.16)
【特許番号】特許第3873197号(P3873197)
【特許公報発行日】平成19年1月24日(2007.1.24)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】