説明

データセンターにおける局部循環空調システム

【課題】
データセンターの空調システムにおいて、空調および、その送風機のエネルギーを削減し、空調施設のスペースを増加せず、温度ムラやエネルギー消費の無駄を省く空調システムを提供する。
【解決手段】
ICT装置等の発熱体を有する電子装置を収納した複数のラック列が並列に配置され、対向するラック列間の空間が冷却空間領域と排熱空間領域とに交互に配置され、床下空間が連結されて、各ラック列の上部が天井で実質的に密封された施設において、 前記冷却空間領域の床下には金網を介して冷却コイルと送風ファンを設けて冷気をグリル床から上方の前記冷却空間領域に送風し、該冷却空間領域の冷気で発熱体を有する電子装置の熱負荷を処理して隣接する前記排熱空間領域に排気し、該排熱空間領域の暖気をグリル床から吸気して前記冷却コイルに循環させるデータセンターにおける局部循環空調システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、データセンターのコンピュータ室のようなサーバやルータなどのICT(Information and Communication Technology)装置のような発熱体を有する電子装置である高発熱装置が設置された施設において、冷房空気を循環させるデータセンターにおける局部循環空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のデータセンターでは、特許文献1に開示されているように、空気調和機からの冷気を床下からサーバ等のラックに送風し、ラックからの排気を天井を介して空気調和機に還気している。近時、CPUの処理能力の向上、ブレードサーバの普及等に伴い、これらサーバやルータなどのICT装置のような発熱体を有する電子装置等の高発熱を伴う装置も急激に高性能・大容量化し、コンピュータシステムが必要とする冷却空気量が急激に増加しており、より大容量の冷気の送風が求められている。
この従来のデータセンターでの冷房空調システムを、図1に示して説明する。
データセンターaに隣接して、冷熱源として、フィルターb冷却コイルcと送風ファンdからなる冷水型空調機や直膨型室内機等の冷房空調装置eを配置し、年間を通じて冷房を行うものであるが、図1において、冷房空調装置eからの冷気Cをグリル床fからサーバg2等のラックgの前面パネルg1に送風し、サーバg2の発熱を処理したラックgで暖まった暖気Hは、サーバ内蔵ファンg3によってラックgの背面パネルg4から排気され、この暖機Hは天井吸込口hから通風路iを介して冷房空気調和機eに還気する循環冷却システムである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−232312公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述した従来のデータセンターにおける循環冷却システムにおいて、サーバ等は年間を通して非常に大きな発熱があり、サーバ等の熱負荷を処理するため、莫大なエネルギーが消費されるため、冷却するための空調エネルギーの削減が求められていた。
また、データセンター(電計室等)のICT(Information and Communication Technology)装置等の発熱体を有する電子装置の熱負荷は年々増加傾向にあり、高発熱化に対処するために空調機器設置のスペースが不足するという問題点があった。
さらに、サーバの稼働状態によっては、サーバ室内の負荷にばらつきが生じ、温度ムラやエネルギー消費の無駄が生じてしまうという問題点があった。
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたもので、データセンターの空調システムにおいて、空調および、その送風機のエネルギーを削減し、空調施設のスペースを増加せず、かつ、サーバーラックスペースおよび、サーバーラックの数を減ずることなく温度ムラやエネルギー消費の無駄を省く空調システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、発熱体を有する電子装置を収納した複数のラック列が並列に配置され、対向するラック列間の空間が冷却空間領域と排熱空間領域とに交互に配置され、床下空間が連結されて、各ラック列の上部が天井で実質的に密封された施設において、 前記冷却空間領域の床下には冷却コイルと送風ファンを設けて冷気をグリル床から上方の前記冷却空間領域に送風し、該冷却空間領域の冷気で発熱体を有する電子装置の熱負荷を処理して隣接する前記排熱空間領域へ排気し、該排熱空間領域の暖気をグリル床から吸気して前記冷却コイルに循環させるようにしたことを特徴とするデータセンターにおける局部循環空調システムである。
請求項2の発明は、前記送風ファンの送風量は、隣接するラック列内の負荷を検知し、他の送風ファンとは独立して制御するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のデータセンターにおける局部循環空調システムである。
請求項3の発明は、前記送風ファンとグリル床との間に金網のフィルターを介在させたことを特徴とする請求項1又は2に記載のデータセンターにおける局部循環空調システムでる。
請求項4の発明は、前記金網は網目が200乃至10メッシュのフィルターであることを特徴とする請求項3に記載のデータセンターにおける局部循環空調システムである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のデータセンターの空調システムによれば、ラック列間の空間が冷却空間領域と排熱空間領域とに交互に配置させて、隣り合うラック列間で局部的に空気を循環させるので、従来システムに比べて空調搬送動力を削減し、空調および、その送風機のエネルギーを削減することができる。また、冷却コイルや送風ファン等を床下に収納したので、サーバ室用の空調施設のフロアーが不要となり、サーバーラックスペースおよび、サーバーラックの数を減ずる必要もなく、空調施設のスペースを別途増加する必要もない。更に、各床下の送風ファンは、局部毎にサーバの稼働状況に応じてきめ細かくファンの風量制御ができるので、温度ムラやエネルギー消費の無駄を省くことができ、サーバ室の熱環境向上や省エネが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】従来のデータセンターにおける空調システムの説明図、
【図2】本発明のデータセンターにおける局部循環空調システムの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本実施例では、データセンターにおいて、各床下に冷却コイルや送風ファン等を配置して、局部的に冷房空気を循環させることで、空調エネルギーを削減し、空調施設のスペースを増加せず、温度ムラやエネルギー消費の無駄を省く空調システムを実現した。
【実施例】
【0009】
本発明の好適なデータセンターにおける局部循環空調システムの実施例を、図面に沿って説明する。
図2のデータセンターにおける局部循環空調システムの概要に示すように、データセンター1の内部は、内蔵ファンを有するサーバ24やルータなどのICT(Information and Communication Technology)装置等の発熱体を有する電子装置を収納した複数のラック2列が並列に配置され、対向するラック2列間の空間が冷却空間領域C1と排熱空間領域H1とに交互に配置されており、ラック2列間の床には貫通した長孔を有するグリル床3が敷き詰められ、グリル床3の床下空間4は互いに連結されていてチャンバー(空気通路)を形成している。
また、排熱空間領域H1の天井5'は、吊り天井としてラック2の上部とほぼ同じ高さにし、冷却空間領域C1の天井5''はラック2の上部よりも高し、本来の基礎天井部をを利用している。勿論、天井5''も吊り天井としてもよい。要は、各ラック2列の天井が実質的に密封状態、すなわち、各空間領域をチャンバー化して、空気を発散されることなく、循環させるようにして冷却効率を高めるようにすればよい。
【0010】
冷却空間領域のラック2間のグリル床3の下面には、冷房空調施設6が設けられるが、グリル床3の直下にはフィルターの作用をする金網61で覆い、金網61の下方には送風ファン62が設けられ、更にその下方にはノン結露のドライコイルである冷却コイル63が設けられ、冷却コイルの下方は床下空間4の排熱空間領域H1からの暖気を吸い込む吸込開口64が形成されている。
送風ファン62は高効率である直流(DC)モータ(図示せず)で駆動され、送風ファン62の隣接又は近傍するラック列2の上部に設けた温度センサー65の検出値に基づいて、高い温度値であれば早く、低い温度値であれば遅く回転するように制御される。
ここで、送風ファン62を制御するファクターとしてサーバ24の負荷を検知するものであれば良く、本実施例では、ラック2内の温度としたが、各サーバの消費電流に基づいて送風ファン62を制御してもよく、両者を組み合わせて制御するようにしてもよく、他の送風ファン62の制御するファクターとしても良いことは勿論である。
【0011】
ところで、データセンター1内は、所謂居住空間ではないので、本実施例では、従来のようなフィルターは配備していない。不織布等の通常のフィルターはどうしても空気搬送の大きな抵抗となり空調エネルギーを消費するので、本実施例では従来のフィルターの代わりに空気搬送抵抗の小さな金網61を設け、大きな浮遊ゴミ等を除去するようにしている。
したがって、金網61の網の目(メッシュ)は、金網の網目が30メッシュ(1インチ(25.4mm)間の目数)程度が良いが、200メッシュ以下だと空気抵抗(圧力損失)が大きくなり、10メッシュ以上だと空気中の浮遊ゴミを補足できないからである。
【0012】
以上のようなデータセンター(電算室)1の構成であり、次に、この構成における空気の流れを説明する。
図2において、本実施例の冷房空調施設6は、金網61、送風ファン62、冷却コイル63、吸込開口64、温度センサ65から構成させるが、冷房空調装置6からの冷気Cをグリル床3(吹出しグリル床31)からサーバ24を収納したラック2のラック前面パネル21に送風し、サーバ24の発熱を処理した暖まった暖気Hは、サーバ内蔵ファン241等によってラック背面パネル22から排気され、この暖気Hは排熱空間領域H1の下部のグリル床3(吸込みグリル床32)の貫通長孔から床下空間4を通過して、吸込開口64に吸い込まれ循環する。
ここで、サーバ24のラック2の前面パネル側をサーバ24に冷風を供給するための給気チャンバーとして囲い冷却空間領域C1を構成し、サーバ24のラック2の背面パネル側をサーバ24からの排熱を排出する排熱空間領域H1を形成することで、給・排気の温度差を確保し、搬送動力の低減を図っている。
【0013】
ここで、ほぼ同じICT装置(発熱体を有する電子装置)の熱負荷を処理する場合での従来システムと本発明のシステムの圧力損失を比較する。
従来システムは、図1での1つのグリル床を用い他を閉鎖した状態で計算し、本発明システムも図2での1つの吹き出しグリル床31と、隣り合う2つの吸込みグリル床32を用い他のグリル床を閉鎖した状態で算出した。

[従来システム] [本発明システム]
風量 25,000 m3/h 1,500 m3/h
コイル面速 2.9 m/s 1.6 m/s

機外損失 損失
空調機吹き出し 37 Pa 金網 3 Pa
グリル床(吹出し) 7 Pa グリル床(吹き出し) 6 Pa
前面パネル 2 Pa 前面パネル 2 Pa
背面パネル 2 Pa 背面パネル 2 Pa
天井チャンバー吸込み 3 Pa グリル床(吸い込み) 6 Pa
ファン吸い込み 3 Pa

機内損失 ドライコイル 25 Pa
吸込圧損 32 Pa
プレフィルター 144 Pa
冷水コイル 91 Pa
全圧力損失 318Pa(全圧Pt) 47Pa(全圧Pt)

このように、従来のシステム全体での圧力損失が318Pa(全圧Pt)であったのに対して、本発明のシステム全体での圧力損失は47Pa(全圧Pt)と劇的に減少することが判る。
【0014】
ところで、本発明の実施例のシステムは、前記のように空調搬送動力を著しく削減できる他に、サーバ室の床下空間をチャンバーとて利用するので、スペース的に有利であるが、この床下スペースにファン、コイル、冷水配管等を配置してサーバ室の有効スぺースを確保することができる。
さらに、この床下スペースにトラス構造を採用して、データセンター(サーバ室)内の柱をなくすことにより、サーバ室のフレキシビリティを確保すようにしても良い。
【0015】
以上のように、本発明の実施例では、ラック列間の空間が冷却空間領域と排熱空間領域とに交互に配置させて、隣り合うラック列間で局部的に空気を循環させるので、空調搬送抵抗を削減し、空調および、その送風機のエネルギーを削減することができる。また、冷却コイルや送風ファン等をデータセンター1のサーバ24室の床下に収納したので、サーバ室用の空調施設のフロアーが不要となり、サーバーラックスペースおよび、サーバーラックの数を減ずる必要がなく、空調施設のスペースを別途増加する必要もない。更に、各床下の送風ファン62は、局部毎にサーバの稼働状況に応じてきめ細かくファンの風量制御ができるので、温度ムラやエネルギー消費の無駄を省くことができ、サーバ室の熱環境向上や省エネが可能となる。
なお、本発明の特徴を損うものでなければ、上記の実施例に限定されるものでないことは勿論である。
【符号の説明】
【0016】
C・・冷気、C1・・冷却空間領域、
H・・暖気、H1・・排熱空間領域
1・・ データセンター、
2・・ラック、21・・ラック前面パネル、22・・ラック背面パネル、
23・・ラック上部、
24・・サーバ、241・・サーバ内蔵ファン
3・・グリル床、31・・吹出しグリル床、32・・吸い込みグリル床、
4・・床下空間(チャンバー)
5、5’、5’’・・天井、
6・・冷房空調施設、61・・金網、62・・送風ファン、
63・・冷却コイル、64・・吸込開口、65温度センサ、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体を有する電子装置を収納した複数のラック列が並列に配置され、対向するラック列間の空間が冷却空間領域と排熱空間領域とに交互に配置され、床下空間が連結されて各ラック列の上部が天井で実質的に密封された施設において、
前記冷却空間領域の床下には冷却コイルと送風ファンを設けて冷気をグリル床から上方の前記冷却空間領域に送風し、該冷却空間領域の冷気で電子装置の熱負荷を処理して隣接する前記排熱空間領域に排気し、該排熱空間領域の暖気をグリル床から吸気して前記冷却コイルに循環させるようにしたことを特徴とするデータセンターにおける局部循環空調システム。
【請求項2】
前記送風ファンの送風量は、隣接するラック列内の負荷を検知し、他の送風ファンとは独立して制御するようにしたことを特徴とする請求項1に記載のデータセンターにおける局部循環空調システム。
【請求項3】
前記送風ファンとグリル床との間に金網のフィルターを介在させたことを特徴とする請求項1又は2に記載のデータセンターにおける局部循環空調システム。
【請求項4】
前記金網は網目が200乃至10メッシュのフィルターとしたことを特徴とする請求項3に記載のデータセンターにおける局部循環空調システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−133129(P2011−133129A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290653(P2009−290653)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(509329844)株式会社アルモ設計 (2)
【出願人】(390003333)新晃工業株式会社 (46)
【Fターム(参考)】