説明

データ記録装置及びその取扱い方法

【課題】高温熱処理、液体中への浸漬工程を含むラインにおいて、その環境に係る温度、雰囲気等のデータの記録を可能としたデータ記録装置及びその取扱い方法を提供する。
【解決手段】プローブ11が接続されたデータ記録装置本体12及びこの装置本体12を装置外に取出し可能に収納し、装置使用時の内部温度を装置本体12の耐熱温度未満とする断熱ケース13を備えたデータ記録装置において、断熱ケース13を内,外断熱ケース14,15の2重構造とする。装置本体12を、プローブ11からの信号値を記録可能に内断熱ケース14内に収納する。内断熱ケース14には、その内部への液体浸入を阻止する液体シールを施して防水性をもたせた。外断熱ケース15は、装置使用時、液体シールの温度がその耐熱温度未満となる構成とし、液体シールに安価なゴム系シール材16の使用を可能とした。装置本体12の装置外への取出しを酸欠雰囲気中で行えるようにして、上記液体が引火性を有しても安全に取り扱えるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温熱処理工程及び液体中への浸漬工程を含む高温熱処理ラインにおいて、その全工程に亘る温度、雰囲気等のデータの収集、記録に好適なデータ記録装置及びその取扱い方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高温熱処理炉、例えば連続ガス浸炭焼入れ炉は、熱処理治具にセットされた数個のワーク(浸炭焼入れ対象物)を内部に送って浸炭焼入れ処理する炉である。
図4に、その概略を示す。
図示するように、連続ガス浸炭焼入れ炉は、プッシャを備えた入口41、装入室42、スキットレール43、ピアーレンガ44、アーチレンガ45及び断熱材46を備える。また、ハースローラ47、仕切り扉48、焼入れ室49、出口扉50、エレベータ51、焼入れ油槽52、油槽出口扉53及び出口54を備える。
ワークは熱処理治具61に複数個セットされ、入口41から装入室42を経て炉内に搬送される。そして、予熱、浸炭及び拡散工程を経て焼入れ室49に入り、焼入れされた後、油槽52内で冷却され、油槽出口扉53を経て出口54に至り、浸炭焼入れを完了する。なお、図中の折れ線アは、各工程における温度の変化を示す。
【0003】
このような連続ガス浸炭焼入れ炉等の高温熱処理炉においては、焼入れ特性等、熱処理の結果に大きな影響を及ぼす温度を適正に管理するため、炉立上り初期時や年数回の点検時等において、熱処理治具61にセットされたワークの温度(ひいては炉内の温度)の測定が行われる。なお、熱処理治具61には複数個のワークがセットされているので各ワークについて温度測定することによって、熱処理治具61内の配置位置を異にしたワークの温度分布も測定可能である。
この温度(温度分布)の測定は、炉の長さ以上に長い熱電対を取り回して熱処理治具にセットされたワーク数個に取り付けることにより行われていた。
しかしこの方法は、極めて長い熱電対を必要とするため、事前、事後の作業に長時間を要し、また作業員も比較的多人数必要とした。
【0004】
ところで近年、データロガと称される履歴データ記録装置を備えた温度履歴データ記録装置を使用して高温熱処理炉内の温度を測定する技術が開発されている(特許文献1参照)。
これは、連続焼鈍炉へ搬送される鋼板に着脱可能なサンプル鋼板と、サンプル鋼板の温度履歴を測定する熱電対及びデータロガと、データロガを覆い連続焼鈍炉を通過するときに内部温度をデータロガの耐熱温度未満に維持する断熱ケースとを備えた鋼板温度履歴測定装置である。
このような温度履歴測定装置は、連続焼鈍炉を連続ガス浸炭焼入れ炉に置き換え、サンプル鋼板をワークに置き換えて、連続ガス浸炭焼入れ炉における上記温度測定に応用可能である。したがって、このような温度履歴測定装置を熱処理治具(ワーク)にセットし、ワークと共に炉内に搬送して温度測定を行うようにすれば、長い熱電対が不要となるので、簡単かつ人手をかけずに炉内の温度状況を知ることが可能となる。
【0005】
【特許文献1】特開2005−274297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記温度履歴測定装置では、装置(データロガ)をそのまま液体中に浸漬させる必要のあるラインにおいては使用できなかった。液体が装置内に浸入してデータロガを故障させるからである。特に、連続ガス浸炭焼入れ炉内の温度測定に適用した場合には、油槽内への温度履歴測定装置の浸漬時に、その断熱ケースが熱で歪んで装置内への焼入れ油の浸入が顕著になり、データロガに与えるダメージはより大きくなった。
したがって、高温熱処理炉による熱処理、特に図4に示す連続ガス浸炭焼入れ炉による浸炭焼入れにおいて、焼入れ後の油槽内での冷却に至るまで、すなわち、浸炭焼入れの全工程に亘っての測定に用いることができず、従来、この点についての改善が望まれていた。
【0007】
本発明は、上記のような要望に鑑みなされたもので、高温熱処理下のみならず、液体中への浸漬下においてもその環境に係る温度、雰囲気等のデータの記録を可能としたデータ記録装置、特に、連続ガス浸炭焼入れ炉による浸炭焼入れにおいて、全工程に亘って温度データの記録を可能としたデータ記録装置を提供することを課題とする。
また、上記のようなデータ記録装置を、高温熱処理工程から引火性のある液体中への浸漬工程に至る高温熱処理ラインに通され、そのライン環境に係るデータの記録に用いられた場合においても、データ記録装置本体の装置外への取出しを安全に行うことのできるデータ記録装置の取扱い方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題は、データ記録装置及びその取扱い方法を下記各態様の構成とすることによって解決される。
各態様は、請求項と同様に、項に区分し、各項に番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載する。これは、あくまでも本発明の理解を容易にするためであり、本明細書に記載の技術的特徴及びそれらの組合わせが以下の各項に記載のものに限定されると解釈されるべきではない。また、1つの項に複数の事項が記載されている場合、それら複数の事項を常に一緒に採用しなければならないわけではなく、一部の事項のみを取り出して採用することも可能である。
【0009】
以下の各項のうち、(1)項が請求項1に、(2)項が請求項2に、(3)項が請求項3に、(4)項が請求項4に、(7)項が請求項5に、(9)項が請求項6に、各々対応する。(5)項、(6)項及び(8)項は請求項に係る発明ではない。
【0010】
(1) 装置外部に検知部が延出されるプローブと、このプローブからの信号を受けてその値を記録するデータ記録装置本体と、このデータ記録装置本体を装置外に取出し可能に収納し、装置使用時の内部温度をそのデータ記録装置本体の耐熱温度未満に保持させる断熱ケースとを備えてなるデータ記録装置において、前記断熱ケースは内断熱ケースと外断熱ケースとの2重構造をなし、前記データ記録装置本体は、前記外断熱ケースの外部に検知部が延出される前記プローブからの信号を受けてその値を記録可能に前記内断熱ケース内に収納され、前記内断熱ケースには、前記プローブが挿通される箇所を含めて、内部への液体の浸入を阻止する液体シールが施され、前記外断熱ケースは、装置使用時の前記内断熱ケースとで形成される空間内の温度を前記液体シールの耐熱温度未満に保持可能に構成されたことを特徴とするデータ記録装置。
プローブは、針状、棒状、短冊状等の形状を有し、通常、その先端部分が検知部となっているので、装置外部にはその先端部分が延出される。プローブと称する場合には、データ記録装置本体への導通線(検知信号伝送線)として機能する部分も含む。
またプローブとしては、温度、特に高温を検知する場合には熱電対が用いられる。温度以外の検知対象としては、湿度や特定の気体の濃度等の雰囲気の検知が挙げられるが、この場合には湿度や気体のセンサがプローブとして用いられる。
断熱ケースは、耐熱性をも有する。
断熱ケースを2重構造にしたのは、内部への液体の浸入を阻止する液体シールに用いるシール材(液体シール材)の耐熱温度が一般的には余り高くないからである。外断熱ケースによって温度を下げ、内断熱ケース内にデータ記録装置本体を収納し、その内断熱ケースに液体シールを施すようにすれば、高温熱処理下のみならず、液体中への浸漬下においてもその環境に係る温度、雰囲気等のデータの記録をとりたい場合に、それを確実に行うことができる。また、前記液体シールに一般的な液体シール材が使用可能となって、液体シールに費やすコストの低減を図ることができる。
(2) 前記内断熱ケース及び外断熱ケース相互間に断熱材を介在させたことを特徴とする(1)項に記載のデータ記録装置。
内断熱ケース及び外断熱ケース相互間には断熱材を介在させれば、外断熱ケース側の熱を内断熱ケース側に直接伝達させことを防止できる。特に、内外断熱ケースの周囲や対向面が熱伝導率の高い材質で形成、例えば金属張りとされている場合でも、外断熱ケース側の熱を内断熱ケース側に直接伝達させることはない。
(3) 前記内断熱ケース及び外断熱ケースは各々上下に2分割されてなり、それら内外各断熱ケースの上下合わせ面の上下方向位置を、前記プローブの挿通箇所を除いて相違させ、前記内断熱ケースの上下合わせ面には液体シール材が全周に亘って設けられていることを特徴とする(1)項又は(2)項に記載のデータ記録装置。
内外各断熱ケースの上下合わせ面の上下方向位置を、プローブの挿通箇所を除いて相違させれば、プローブをデータ記録装置本体から真っ直ぐに延出できる利点(データ記録装置本体へのプローブの取付け易さ)を確保しつつ、内断熱ケースのプローブが挿通される液体シール材を設けた箇所の温度を低くさせ得る。
液体シール材が内断熱ケースの上下合わせ面に全周に亘って設けられていることによれば、内外断熱ケースによって形成される空間内に液体が浸入しても、その液体がデータ記録装置本体を収納した内断熱ケース内に浸入することはなく、データ記録装置本体は上記液体から防護される。
(4) 前記内断熱ケースの上下合わせ面の上下方向位置を、前記プローブの挿通箇所とそれ以外の箇所とで相違させたことを特徴とする(3)項に記載のデータ記録装置。
内断熱ケースのプローブ挿通箇所を外断熱ケースのプローブ挿通箇所に合わせて設定でき、プローブの取付けが容易になる。
(5) 前記外断熱ケースは、前記内断熱ケースとで形成される空間内の温度を装置使用時において300℃未満に保持可能に構成され、前記液体シール材にはゴム系シール材が用いられ、前記プローブは、その前記内断熱ケースの挿通箇所において前記ゴム系シール材により上下両側から挟み込まれることを特徴とする(3)項又は(4)項に記載のデータ記録装置。
内断熱ケースとで形成される空間内の温度を装置使用時において300℃未満に保持可能に外断熱ケースを構成すれば、液体シール材に一般的なゴム系シール材を使用できる。一般的なゴム系シール材は、安価でありながらシール効果は大きく、費用対効果は大である。
(6) 前記プローブは熱電対であって、前記データ記録装置本体は温度データを記録することを特徴とする(1)項〜(5)項のいずれかに記載のデータ記録装置。
プローブに熱電対を用い、データ記録装置本体に温度データを記録するデータ記録装置本体を用いれば、高温熱処理炉、特に連続ガス浸炭焼入れ炉(焼入れ油槽を含む)内の温度データの収集、記録に好適なデータ記録装置を提供できる。
(7) (1)項〜(6)項のいずれかに記載のデータ記録装置が、高温熱処理工程から引火性のある液体中への浸漬工程に至る高温熱処理ラインに通され、そのライン環境に係るデータを記録した後に、その断熱ケースに収納されたデータ記録装置本体が装置外に取り出されるときの該データ記録装置の取扱い方法において、前記データを記録したデータ記録装置が、酸素以外のガスを主体とした雰囲気中に搬送され、該雰囲気中にてその断熱ケースに収納されたデータ記録装置本体が装置外に取り出されることを特徴とするデータ記録装置の取扱い方法。
引火性のある液体中への浸漬工程としては、例えば連続ガス浸炭焼入れ等の高温熱処理ラインにおける焼入れ後の冷却工程が挙げられるが、この場合、引火性のある液体は焼入れ油となる。
データ記録装置がライン環境に係る温度、雰囲気(特定の気体の濃度)等のデータを記録した後に、断熱ケースに収納されたデータ記録装置本体が装置外に取り出される際、内外断熱ケースによって形成される空間内に浸入した、あるいは外断熱ケース表面に付着した焼入れ油に引火する虞がある。焼入れ油に引火すると、データ記録装置本体の損傷や作業員の火傷、更には火災発生の危険もあり、焼入れ油への引火を阻止することは大きな課題である。
そこで、データ記録後のデータ記録装置を、酸素以外のガスを主体とした雰囲気(酸欠雰囲気)中に搬送し、該雰囲気中で外断熱ケース、内断熱ケースを開けるようにすれば焼入れ油への引火は発生せず、データ記録装置本体の装置外への取出しは安全に行われる。
なお、酸素以外のガスを主体とした雰囲気は、例えばデータ記録装置を収容可能の筐体内(あるいは室内)に、ドライアイスや液体窒素を入れておくことで生成できる。筐体内は、ドライアイスを入れておけば炭酸ガス、液体窒素を入れておけば窒素ガスの雰囲気となる。したがって、このような筐体内にデータ記録後のデータ記録装置を搬送し、データ記録装置本体の装置外への取出しを行えば、断熱ケースを開けてデータ記録装置本体を装置外へ取り出す際、内外断熱ケースによって形成される空間内に浸入した、あるいは内外断熱ケース表面に付着した焼入れ油への引火は生じなく、データ記録装置本体の装置外への取出しは安全に行われる。
(8) (1)項〜(6)項のいずれかに記載のデータ記録装置が、高温熱処理工程から引火性のある液体中への浸漬工程に至る高温熱処理ラインに通され、そのライン環境に係るデータを記録した後に、その断熱ケースに収納されたデータ記録装置本体を装置外に取り出すときの該データ記録装置の取扱い方法において、前記データを記録したデータ記録装置が、酸素以外のガスを主体とした雰囲気中に搬送され、該雰囲気中に置かれることを特徴とするデータ記録装置の取扱い方法。
本項によれば、(7)項のデータ記録装置の取扱い方法におけるデータ記録装置本体の装置外への取出しを自動ではなく手動で(人為的に)行う場合でも、同項の取扱い方法に準じた作用、効果が得られる。
(9) (1)項〜(6)項のいずれかに記載のデータ記録装置が、高温熱処理工程から引火性のある液体中への浸漬工程に至る高温熱処理ラインに通され、そのライン環境に係るデータを記録した後に、その断熱ケースに収納されたデータ記録装置本体が装置外に取り出されるときの該データ記録装置の取扱い方法において、内外断熱ケースによって形成される空間内を酸素以外のガスで満たすことを特徴とするデータ記録装置の取扱い方法。 本項によれば、内外断熱ケースによって形成される空間内を酸素以外のガスで満たすので、外断熱ケース、内断熱ケースを開ける際に焼入れ油が引火することはなく、データ記録装置本体の装置外への取出しは安全に行われる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温熱処理下のみならず、液体中への浸漬下においてもその環境に係る温度、雰囲気等のデータの記録を可能としたデータ記録装置、特に、連続ガス浸炭焼入れ炉による浸炭焼入れにおいて、全工程に亘って温度データの記録を可能としたデータ記録装置を提供できる。
また、上記データ記録装置が、高温熱処理工程から引火性のある液体中への浸漬工程に至る高温熱処理ラインに通され、そのライン環境に係るデータの記録に用いられた場合においても、データ記録装置本体の装置外への取出しを安全に行うことのできるデータ記録装置の取扱い方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。なお、各図間において、同一符号は同一又は相当部分を示す。
図1は、本発明によるデータ記録装置の一実施形態を一部切断して示す正面図、図2は、図1に示すデータ記録装置の外断熱ケースの上ケース部を一部切断して示す平面図、図3は、図1に示すデータ記録装置の外断熱ケースの上,下ケース部の左側面板部分を一部切断して示す左側面図である。
本実施形態は、浸炭焼入れ炉内の全工程に亘るワーク(浸炭焼入れ対象物)の温度データを収集、記録するデータ記録装置に係るものである。
【0013】
各図に示すように、図示実施形態に係るデータ記録装置は、プローブ、ここでは温度を検知する熱電対11と、データ記録装置本体12と断熱ケース13とを備えてなる。
熱電対11は、ワークあるいはその近傍の温度を検知可能に、装置外部に検知部(先端部分)11aが延出されている。また、データ記録装置本体12は、熱電対11からの信号を受けてその値を記録するデータ記録装置本体である。
【0014】
断熱ケース13は、データ記録装置本体12を装置外に取出し可能に収納し、装置使用時の内部温度をそのデータ記録装置本体12の耐熱温度未満に保持するように構成されている。
ここでは、断熱ケース13は内断熱ケース14と外断熱ケース15との2重構造を有している。また、内,外断熱ケース14,15は各々上下に2分割されてなり、それら内,外各断熱ケース14,15の上下合わせ面の上下方向位置は熱電対11の挿通箇所を除いて相違させられている。
また、内断熱ケース14の上下合わせ面には液体シール材、ここではゴム系シール材16が全周に亘って貼着されており、上記熱電対11は、その内断熱ケース14の挿通箇所においてはゴム系シール材16により上下両側から挟み込まれている。
【0015】
内断熱ケース14の上下合わせ面の上下方向位置は、熱電対11の挿通箇所とそれ以外の箇所とで相違させられている。
断熱ケース13(内断熱ケース14、外断熱ケース15)は、耐熱性も併せもつもので、蓄熱量の大きな耐火煉瓦等によって作られ、また、内断熱ケース14及び外断熱ケース15相互間には断熱材17を介在させている。
【0016】
内,外断熱ケース14,15の各上下ケース部14a,14b;15a,15bは、本実施形態ではボルトやバンド等の緊締具を用いず、下ケース部14b,15bの上に上ケース部14a,15aを載置するだけ、つまり上ケース部14a,15aの自重のみによって組み合わされ、内,外断熱ケース14,15を形成している。
上下ケース部14a,14b;15a,15bは共に重量が大きく、下ケース部14b,15bの上に上ケース部14a,14bを載置するだけでも安定し、かつ、内断熱ケース14の上下合わせ面のゴム系シール材16による液体シール機能も発揮できるからである。
上下ケース部14a,14b;15a,15bを、特に内断熱ケース14の上下ケース部14a,14bは、緊締具を用いて一体に連結するようにしてもよい。
【0017】
断熱ケース13は、上述したように装置使用時の内部温度(内断熱ケース14内の温度)をそのデータ記録装置本体12の耐熱温度未満に保持するように構成されているが、外断熱ケース15については、内断熱ケース14とで形成される空間内の温度が、装置使用時において300℃未満に保持可能に構成されている。上記ゴム系シール材16を、その耐熱温度を超える高温から保護するためである。
データ記録装置本体12は、外断熱ケース15の外部に検知部11aが延出される熱電対11からの信号を受けてその値を記録可能に内断熱ケース14内に収納されていることは勿論である。
【0018】
以上述べたように本実施形態によれば、データ記録装置本体12を液体シールが施された断熱ケース13(内断熱ケース14)内に収納したので、高温熱処理下のみならず、液体中への浸漬下においてもその温度データの記録が可能となる。
しかもこの場合、断熱ケース13を2重構造にし、その外断熱ケース15によって内部の温度を下げ、内断熱ケース14内にデータ記録装置本体12を収納し、この内断熱ケース14に液体シールを施すようにした。
したがって本実施形態によれば、高温熱処理下のみならず、液体中への浸漬下においても温度データの記録をとりたい場合において、それを確実に行うことができる。また、液体シールに一般的なゴム系シール材16が使用可能となって、液体シールに費やすコストの低減を図ることができる。
【0019】
また、内断熱ケース14及び外断熱ケース15相互間に断熱材17を介在させたので、外断熱ケース15側の熱を内断熱ケース14側に直接伝達させことを防止できる。したがって、例えば内,外断熱ケース14,15の周囲や対向面が熱伝導率の高いステンレス等の金属張りとされている場合でも、外断熱ケース15側の熱を内断熱ケース14側に直接伝達させることはない。
【0020】
更に、内,外各断熱ケース14,15の上下合わせ面の上下方向位置を、熱電対11の挿通箇所を除いて相違させたので、熱電対11をデータ記録装置本体12から真っ直ぐに延出できる利点(データ記録装置本体12への熱電対11の取付け易さ)を確保しつつ、内断熱ケース14の熱電対11が挿通されるゴム系シール材16貼着箇所の温度を低くさせることが可能である。
また、内断熱ケース14の上下合わせ面の上下方向位置を、熱電対11の挿通箇所とそれ以外の箇所とで相違させたので、内断熱ケース14の熱電対挿通箇所を外断熱ケース15の熱電対挿通箇所に合わせて設定でき、熱電対11の取付けが容易になる。
【0021】
次に、以上のようなデータ記録装置を用いた連続ガス浸炭焼入れラインの全工程(焼入れ油中への浸漬を含む)における温度データの記録と、同データ記録後、データ記録装置本体12を装置外に取り出すときの同上データ記録装置の取扱い方法の一実施形態を、図1〜図4を参照して説明する。
【0022】
図4に示す連続ガス浸炭焼入れ炉において、図1〜図3に示すデータ記録装置は、熱処理治具61にセットされたワークあるいはその近傍の温度を検知可能に熱処理治具61に置かれる。
そしてこのデータ記録装置は、連続ガス浸炭焼入れラインの各工程において連続して、又は一定時間間隔で、温度データを記録する。すなわち、その熱電対11が検知する温度信号をデータ記録装置本体12に送り、データ記録装置本体12は、送られてきた信号の値(温度データ)を記録して行く。
この間、断熱ケース13、詳しくは内,外断熱ケース14,15、の断熱、耐熱作用によって内断熱ケース14内の温度、つまりデータ記録装置本体12の温度は自身の耐熱温度未満となっており、このデータ記録装置本体12が熱暴走したり、熱破壊する等、故障することはない。
焼入れ油中への浸漬工程においては、焼入れ油が、外断熱ケース15の上下ケース部15a,15bの隙間(上下合わせ面の隙間)や外断熱ケース15の熱電対挿通箇所から、内,外断熱ケース14,15によって形成される空間内に浸入しても、その焼入れ油は内断熱ケース14のゴム系シール材16によってシールされる。
したがって、内断熱ケース14内には上記焼入れ油が浸入することはなく、焼入れ油が内断熱ケース14へに浸入することによるデータ記録装置本体12の故障の発生は防げる。
【0023】
断熱ケース13に収納されたデータ記録装置本体12は、連続ガス浸炭焼入れラインにおいて、全工程を通して温度データを記録した後、装置外に取り出されるが、本実施形態ではデータ記録装置本体12は次のようにして取り出される。
すなわち、温度データの記録を終えたデータ記録装置は、酸素以外のガスを主体とした雰囲気中に搬送される。そして、このような雰囲気中で、外断熱ケース15及び内断熱ケース14が開けられ、内断熱ケース14内に収納されたデータ記録装置本体12が装置外に取り出される。
【0024】
焼入れ後、データ記録装置が熱処理治具61(ワーク)と共に浸漬される焼入れ油は、本実施形態では引火性を有する。このため、温度データ記録後に、断熱ケース13に収納されたデータ記録装置本体12が装置外に取り出される際、内,外断熱ケース14,15間の空間に浸入した、あるいは外断熱ケース15表面に付着した焼入れ油に引火する虞がある。特に、前記空間に浸入した焼入れ油はふき取ることができないので、この焼入れ油への引火の危険は大きい。
焼入れ油に引火すると、データ記録装置本体12の損傷や作業員の火傷、更には火災発生の危険もあり、焼入れ油への引火を阻止することが大きな課題となる。
【0025】
そこで、データ記録後のデータ記録装置を、酸素以外のガスを主体とした雰囲気、例えば炭酸ガスや窒素ガス中に搬送し、その雰囲気(酸欠雰囲気)中で外断熱ケース15、内断熱ケース14を開けるようにすれば焼入れ油への引火は生じない。したがって、データ記録装置本体12の装置外への取出しは安全に行われる。
酸素以外のガスを主体とした雰囲気は、例えばデータ記録装置を収容可能の筐体内(あるいは室内)に、ドライアイスあるいは液体窒素を入れておくことで生成できる。筐体内は、ドライアイスを入れておけば炭酸ガス、液体窒素を入れておけば窒素ガスの雰囲気となる。いずれにしても、筐体内は酸欠状態となる。したがって、このような筐体内にデータ記録後のデータ記録装置を搬送し、データ記録装置本体12の装置外への取出しを行えば、断熱ケース13を開けてデータ記録装置本体12を装置外へ取り出す際、内,外断熱ケース14,15による空間内に浸入した焼入れ油への引火は生じなく、データ記録装置本体12の装置外への取出しは安全に行われる。外断熱ケース15表面に付着した焼入れ油についても同様である。
なお、酸素以外のガスを主体とした雰囲気中に搬送され、その雰囲気中に置かれたデータ記録装置のデータ記録装置本体12の装置外への取出しを、自動ではなく手動で、つまり人為的に行ってもよく、この場合も上記とほぼ同様の効果が得られる。
【0026】
以上述べたように本実施形態によれば、データ記録装置が、連続ガス浸炭焼入れラインにおいて予熱から引火性のある焼入れ油にワークと共に浸漬される浸炭焼入れ完了に至るまでの温度データの記録に用いられた場合において、その断熱ケース13に収納されたデータ記録装置本体12の装置外への取出しを安全に行うことができる。
【0027】
なお上述実施形態では、連続ガス浸炭焼入れライン(焼入れ油中への浸漬工程を含む)において温度データを記録する場合のデータ記録装置の取扱い方法について、本発明を適用した場合について述べたが、その他の高温熱処理工程及び引火性のある液体中への浸漬工程を含む高温熱処理ラインにおいて、そのライン環境に係る温度や雰囲気等のデータを記録する場合に本発明を適用してもよい。
特定のガス、例えば炭酸ガス、窒素ガス等の濃度(ガス濃度)等や、湿度等のデータを記録する場合には、プローブにはそれらの雰囲気等を検知できるセンサが使用される。
データ記録装置が浸漬される液体は、焼入れ油に限らず、また浸漬する目的は焼入れ後の冷却に限らない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明によるデータ記録装置の一実施形態を一部切断して示す正面図である。
【図2】図1に示すデータ記録装置の外断熱ケースの上ケース部を一部切断して示す平面図である。
【図3】図1に示すデータ記録装置の外断熱ケースの上,下ケース部の左側面板部分を一部切断して示す左側面図である。
【図4】連続ガス浸炭焼入れ炉の概略を示す全体構成図である。
【符号の説明】
【0029】
11:熱電対(プローブ)、11a:検知部、12:データ記録装置本体、13:断熱ケース、14:内断熱ケース、15:外断熱ケース、14a:内断熱ケースの上ケース部、14b:内断熱ケースの下ケース部、15a:外断熱ケースの上ケース部、15b:外断熱ケースの下ケース部、16:ゴム系シール材(液体シール材)。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
装置外部に検知部が延出されるプローブと、このプローブからの信号を受けてその値を記録するデータ記録装置本体と、このデータ記録装置本体を装置外に取出し可能に収納し、装置使用時の内部温度をそのデータ記録装置本体の耐熱温度未満に保持させる断熱ケースとを備えてなるデータ記録装置において、
前記断熱ケースは内断熱ケースと外断熱ケースとの2重構造をなし、
前記データ記録装置本体は、前記外断熱ケースの外部に検知部が延出される前記プローブからの信号を受けてその値を記録可能に前記内断熱ケース内に収納され、
前記内断熱ケースには、前記プローブが挿通される箇所を含めて、内部への液体の浸入を阻止する液体シールが施され、
前記外断熱ケースは、装置使用時の前記内断熱ケースとで形成される空間内の温度を前記液体シールの耐熱温度未満に保持可能に構成されたことを特徴とするデータ記録装置。
【請求項2】
前記内断熱ケース及び外断熱ケース相互間に断熱材を介在させたことを特徴とする請求項1に記載のデータ記録装置。
【請求項3】
前記内断熱ケース及び外断熱ケースは各々上下に2分割されてなり、それら内外各断熱ケースの上下合わせ面の上下方向位置を、前記プローブの挿通箇所を除いて相違させ、前記内断熱ケースの上下合わせ面には液体シール材が全周に亘って設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のデータ記録装置。
【請求項4】
前記内断熱ケースの上下合わせ面の上下方向位置を、前記プローブの挿通箇所とそれ以外の箇所とで相違させたことを特徴とする請求項3に記載のデータ記録装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のデータ記録装置が、高温熱処理工程から引火性のある液体中への浸漬工程に至る高温熱処理ラインに通され、そのライン環境に係るデータを記録した後に、その断熱ケースに収納されたデータ記録装置本体が装置外に取り出されるときの該データ記録装置の取扱い方法において、
前記データを記録したデータ記録装置が、酸素以外のガスを主体とした雰囲気中に搬送され、該雰囲気中にてその断熱ケースに収納されたデータ記録装置本体が装置外に取り出されることを特徴とするデータ記録装置の取扱い方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のデータ記録装置が、高温熱処理工程から引火性のある液体中への浸漬工程に至る高温熱処理ラインに通され、そのライン環境に係るデータを記録した後に、その断熱ケースに収納されたデータ記録装置本体が装置外に取り出されるときの該データ記録装置の取扱い方法において、
内外断熱ケースによって形成される空間内を酸素以外のガスで満たすことを特徴とするデータ記録装置の取扱い方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2008−292421(P2008−292421A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140959(P2007−140959)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】