説明

トイレットペーパー及びその製造方法

【課題】水分の裏抜け防止及び水解性が両立するトイレットペーパーを提供する。
【解決手段】3プライからなるトイレットペーパーにおいて、各外層11,12は実質的にサイズ剤又は撥水剤を含有せず、中間層20がアルキルケテンダイマーを、対パルプ乾燥重量に対して固形分重量で0.01〜0.2重量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレットペーパー及びその製造方法に関する。特に、シャワートイレットで使用する耐裏抜け性に優れたトイレットペーパーを得る技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トイレットペーパーにおいては、近年、シャワートイレットの普及に伴って、より一層、水分の裏抜け防止を図ることが課題となっている。
従来、この裏抜け防止のための手法は、3プライとし、各プライについて、主に、パルプ繊維の叩解を進めてパルプ繊維をフィブリル化させてパルプ密度を高めることで対処してきた。
しかし、トイレの排水系統において詰まりの問題が生じることが知見された。
他方、特許文献1には、3プライのティシュが開示され、少なくとも1つのプライが撥水剤(サイズ剤)を有する形態が開示され、その一例として同図3には中層を撥水剤(サイズ剤)で処理することが開示されている。この例は、同図6に示されているように、ヘッドボックスから紙料を噴出させて3層にするものを想定しており、重ね合わせプライではないと思われる。しかし、水解性についての考慮はなく、しかもサイズ剤の種類によって水解性が異なるとの開示はない。
【特許文献1】特表2002−519533号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明が解決しようとする主たる課題は、水分の裏抜け防止及び水解性が両立するトイレットペーパーを提供することにある。他の課題は、嵩高く柔らかいトイレットペーパーとすることが可能とすることにある。他の課題は以下の説明から明らかになろう。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この課題を解決した本発明は、次のとおりである。
〔請求項1記載の発明〕
3プライからなるトイレットペーパーにおいて、
各外層は実質的にサイズ剤又は撥水剤を含有せず、中間層がアルキルケテンダイマーを、対パルプ乾燥重量に対して固形分重量で0.01〜0.2重量%含有することを特徴とするトイレットペーパー。
【0005】
(作用効果)
水分は外層を介して浸透するようになる。浸透して水分は、アルキルケテンダイマーを有する中間層が疎水性を示すので、水分の浸透が抑制でき、他方の外層を介して裏抜けを防止(常に裏抜けがないという意味ではなく、通常の水分量に対して、実用上支障ない程度に裏抜けを抑制又は防止できるとの意味である)できる。
そして、外層は実質的にサイズ剤又は撥水剤を含有しないから、水分の吸収性が良好なものとなる。
さらに、中間層はアルキルケテンダイマーを有し、その含有量は対パルプ乾燥重量に対して固形分重量で0.01〜0.2重量%である。より好ましくは0.05〜0.15重量%である。サイズ剤として種々のものが知られているが、後記実施例及び比較例で示すように、本発明以外のサイズ剤では水解性に問題があることが明らかになった。したがって、本発明によれば、水分の裏抜け防止及び水解性が両立するものとなり、この知見はまったく予想がつかなかったものである。その原理は定かでない。
また、中間層に油性インクにより図柄などを印刷して外層を通して視認可能とする場合、中間層が親油性のアルキルケテンダイマーを含有するから、少ない量の油性インクであっても中間層に良好に浸透し、そのために使用する油性インク量が少なくすることができるために、インク硬化体積が少ないものとなり、トイレットペーパーとしてのソフトネスを高めるものとなる。
【0006】
〔請求項2記載の発明〕
3プライ全体の米坪が30〜75g/m2、各外層がそれぞれ10〜25g/m2、中間層が10〜25g/m2である請求項1記載のトイレットペーパー。
【0007】
(作用効果)
この米坪構成であると、水分の吸収性(吸収量)、水分の裏抜け防止及び水解性に優れたものとなる。
【0008】
〔請求項3記載の発明〕
各プライが単独で抄紙され、かつ、各プライ間が接着されることなく重ね合わされたものである請求項1または2記載のトイレットペーパー。
【0009】
(作用効果)
各プライが単独で抄紙され、かつ、各プライ間が接着されることなく重ね合わされたもの(単に重ね合わせたもののほか、エンボスにより部分的に接合したものなどの形態を含む)であると、たとえばヘッドボックスから紙料を噴出させて3層にするものと比較して、裏抜け防止効果が高く、水解性も高いものとなる。これは、外層と中間層との間に水分が滞留しやすくなるので裏抜け防止効果が高くなり、また、トイレに流した場合、層間に水分が速やかに入り込み水解性が高まるためであると考えられる。さらに、嵩高感を与えるようにもなる。
【0010】
〔請求項4記載の発明〕
各外層の吸水速度(TAPPI No32:2000)が2〜60秒である請求項1〜3のいずれか1項に記載のトイレットペーパー。
【0011】
(作用効果)
この範囲の吸水速度であると、水分吸収性及び水解性が良好であり、かつ、拭き取り時における破断がないものとなる。
【0012】
〔請求項5記載の発明〕
3プライからなるトイレットペーパーの製造に際し、
(1)カナディアンフリーネス(csf)が570〜610mlのパルプスラリーを抄紙し、かつ実質的にサイズ剤又は撥水剤を含有させない外層用の第1及び第2プライを得る工程、
(2)カナディアンフリーネス(csf)が550〜600mlのパルプスラリーに、アルキルケテンダイマーを、対パルプ乾燥重量に対して固形分重量で0.01〜0.2重量%含有する中間層用プライを得る工程、
(3)前記中間層用プライの各外面に第1プライ及び第2プライを、各プライ間を接着されることなく重ね合わる工程、
を有することを特徴とするトイレットペーパーの製造方法。
【0013】
(作用効果)
両外層及び中間層について、パルプ繊維の叩解を進めてパルプ繊維をフィブリル化させてパルプ密度を高めないので、嵩高でかつ柔軟性に富むトイレットペーパーとなる。また、請求項3に関して説明した上記作用効果も奏する。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、要すれば、本発明によると、水分の裏抜け防止及び水解性が両立するトイレットペーパーを提供することができる。また、嵩高く柔らかいトイレットペーパーとすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態を説明する。
本発明のトイレットペーパーは、図1に模式的に示すように、外層をなす第1プライ11、第2プライ12及び中間層20の3プライからなるものである。各外層11及び12は、実質的にサイズ剤又は撥水剤を含有しないパルプ繊維を主体とするものである。中間層20は、パルプ繊維が、対パルプ乾燥重量に対して固形分重量で0.01〜0.2重量%のアルキルケテンダイマー(AKDと称する)を含有する。
【0016】
AKDが少ないと、本発明の裏抜け防止が十分でなく、他方過度に多いと水分を通さずに水をはじいてしまう恐れが生じる。
本発明者らは、多くの撥水剤及びサイズ剤を使用したが、必要な水解性を満足させるものはAKDにはあることを知見した。また、裏抜け防止効果も高い。AKDの添加によって、中間層は疎水性を示すようになる。
AKDの添加方法としては、抄紙段階でパルプ繊維スラリー中に添加することが望ましい。AKDをパルプ繊維層表面にスプレー塗布などでもよいが、水解性を低下させる傾向にある。
また、中間層20に油性インクにより図柄などを印刷して外層を通して視認可能とすることもできる。
【0017】
3プライ全体の米坪(JIS P 8111に規定される条件下におけるJIS P 8124の規定に従って測定される)が30〜75g/m2、各外層11、12がそれぞれ10〜25g/m2、中間層20が10〜25g/m2であるのが望ましい。外層11、12が低い米坪であると水分吸収性(吸収量)が十分でなく、また中間層20の米坪が低いと、裏抜けの原因を招く。過度に高い米坪では、必要以上に厚いものとなり、配管詰まりの原因ともなる。
紙厚(紙厚測定は、JIS P 8111の条件下で、尾崎製作所ダイヤルシックネスゲージ「PEACOCK G型」を用いて測定する。)としては、1プライ当たり110〜205μmが望ましい。
各プライは単独で抄紙し、かつ、各プライ間が接着されることなく重ね合わされたものであるのが望ましい。単に重ね合わせたもののほか、エンボスにより部分的に接合したものであってもよい。エンボス接合による場合、嵩高性を付与できる利点がある。
【0018】
しかるに、各プライを散点状に、例えば、PVA(ポリビニルアルコール)、CMC(カルボキシメチルセルロース)等の水解性の接着成分によって接合することを排除するものではない。また、本出願人が先に提案した特開2007―75510号に示されているように、図柄などのデザインが視認できるように、顔料を含む着色接着剤を、エンボスロールの凸部に付着させながらエンボス接合することも可能である。この種の接着剤を使用したとしても水解性に影響はない。
各外層の吸水速度(TAPPI No32:2000)が2〜60秒であるのが望ましい。吸水速度が遅いと、水分吸収性が十分でない。また、過度に速いと、拭き取り時における破断を生じるものとなる。
【0019】
製造に際しては、(1)カナディアンフリーネス(csf)が570〜610mlのパルプスラリーを抄紙し、かつ実質的にサイズ剤又は撥水剤を含有させない外層用の第1及び第2プライ11、12を得る工程、(2)カナディアンフリーネス(csf)が550〜600mlのパルプスラリーに、アルキルケテンダイマーを、対パルプ乾燥重量に対して固形分重量で0.01〜0.2重量%含有する中間層用プライ20を得る工程、(3)前記中間層用プライ20の各外面に第1プライ及び第2プライ11、12を、各プライ間を接着されることなく重ね合わせる工程を採ることで製造できる。
【0020】
本発明におけるパルプ繊維としては、例えば、木材パルプ、非木材パルプ、合成パルプ、古紙パルプ、などから、より具体的には、砕木パルプ(GP)、ストーングランドパルプ(SGP)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、加圧式砕木パルプ(PGW)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ブリーチケミサーモメカニカルパルプ(BCTMP)等の機械パルプ(MP)、化学的機械パルプ(CGP)、半化学的パルプ(SCP)、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)等のクラフトパルプ(KP)、ソーダパルプ(AP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)等の化学的パルプ(CP)、ナイロン、レーヨン、ポリエステル、ポリビニルアルコール(PVA)等を原料とする合成パルプ、脱墨パルプ(DIP)、ウエストパルプ(WP)等の古紙パルプ、かすパルプ(TP)、木綿、アマ、麻、黄麻、マニラ麻、ラミー等を原料とするぼろパルプ、わらパルプ、エスパルトパルプ、バガスパルプ、竹パルプ、ケナフパルプ等の茎稈パルプ、靭皮パルプ等の補助パルプなどから、一種又は数種を適宜選択して使用することができる。このましくは木材パルプであり、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を使用するのが望ましい。古紙パルプを含有しない、木材パルプ100%であるのが望ましい。
【0021】
各層又はいずれかの層中に、必要により、分散剤、苛性ソーダ、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、蛍光染料、離型剤、耐水化剤、流動変性剤、歩留まり向上剤などの適宜の薬品を添加することができる。
【実施例】
【0022】
次に実施例及び比較例によって本発明の効果を明らかにする。
広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)及び針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を7/3の重量割合のパルプスラリーを紙料として、各層を得て、これらの3プライを重ね合わせて実験に供した。重ね合わせ圧力は4.2kgfとして、平面プレスで5分間圧力を加えたものである。
表1に示す条件において、表2に示す項目の試験を行ったところ、表2に示す結果を得た。「ブランク」とは中間層に添加剤を添加しないことを意味する。なお、薬品Aは脂肪酸誘導体を主成分とするカチオン性のもので、低サイズ効果があるとされるもの、薬品Bは薬品Aに対してさらに高サイズ効果を示す脂肪酸誘導体を添加したカチオン性のもの、薬品Cはノニオン系の脂肪酸誘導体(界面活性効果もある)を主成分とするもの、薬品Dは脂肪酸誘導体を主成分とするカチオン性のもので柔軟効果と共にサイズ効果があるもの(型番「PT8104」)であり、いずれも星光PMC社製(ただし、市販品でなく試作品である。)で、サイズ効果の観点から選定しながら試作を繰り返したものである。
【0023】
試験方法は次記のとおりである。
「水解性試験」: JIS P 4501に基づき行なった。
「浸透枚数試験」: 水1mlを、300mm×400mmのプラスチック板の上に全面に広がるように延ばす。3プライのトイレットペーパーを114mm×114mmの大きさで10組重ねたシートを水の上にのせ、さらにその上から650gの重りで約1秒間のせ外す。浸透した枚数をカウントする。これを5回行い、平均値を採る。
「ドロップ試験」:試験設備は、図2に示す実際のトイレ設備(便器:東陶機器株式会社製CS22BP、タンク:東陶機器株式会社製SH32BAK)を使用する。すなわち、便器30に、下がり長70cm、水平方向長20m及び勾配が1%の外部から視認できるようにした透明アクリルの円形排水管(直径75mm)32を接続し、タンクにある排水コック31により排水するものを使用する。なお、一般住宅から汚水槽までの距離が20mであること、また路勾配が1%若しくは2%であることから、本試験での排水管の長さを20m、勾配を1%として実施した。試験に際しては、トイレットペーパー(3プライ品)を長さ1.1m(幅114mm)で切り、幅の寸法に合わせてほぼ1辺114mmの正方形となるように折りたたむ。これと同じものを3つ重ねたもの(3.3m分)を1度に便器内に投入し1回水を流す(洗浄水量8リットル)。これを1セットとし、60秒間隔で繰り返し行い、4セット目が20m流れるまでに何回水を流さなければならないかを測定する。なお、洗浄水としてはpH7.5、電導度100mS/mのものを使用した。
「乾燥列断長」:JIS P 8113に基づき行った。
「湿潤列断長」:JIS P 8135に基づき行った。
「ソフトネス」:ハンドルオメータ法(JIS L−1096 E法)による。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のトイレットペーパーの構造を模式的示す断面図である。
【図2】ドロップ試験設備の説明図である。
【符号の説明】
【0027】
11…第1プライ(外層)、12…第2プライ(外層)、20…中間層、30…便器、31…排水コック、32…円形配水管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3プライからなるトイレットペーパーにおいて、
各外層は実質的にサイズ剤又は撥水剤を含有せず、中間層がアルキルケテンダイマーを、対パルプ乾燥重量に対して固形分重量で0.01〜0.2重量%含有することを特徴とするトイレットペーパー。
【請求項2】
3プライ全体の米坪が30〜75g/m2、各外層がそれぞれ10〜25g/m2、中間層が10〜25g/m2である請求項1記載のトイレットペーパー。
【請求項3】
各プライが単独で抄紙され、かつ、各プライ間が接着されることなく重ね合わされたものである請求項1または2記載のトイレットペーパー。
【請求項4】
各外層の吸水速度(TAPPI No32:2000)が2〜60秒である請求項1〜3のいずれか1項に記載のトイレットペーパー。
【請求項5】
3プライからなるトイレットペーパーの製造に際し、
(1)カナディアンフリーネス(csf)が570〜610mlのパルプスラリーを抄紙し、かつ実質的にサイズ剤又は撥水剤を含有させない外層用の第1及び第2プライを得る工程、
(2)カナディアンフリーネス(csf)が550〜600mlのパルプスラリーに、アルキルケテンダイマーを、対パルプ乾燥重量に対して固形分重量で0.01〜0.2重量%含有する中間層用プライを得る工程、
(3)前記中間層用プライの各外面に第1プライ及び第2プライを、各プライ間を接着されることなく重ね合わる工程、
を有することを特徴とするトイレットペーパーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−272267(P2008−272267A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−120280(P2007−120280)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】