説明

トイレ用手摺

【課題】設置に際して補強工事等を生じることがなく、使用者の邪魔にならず、且つ安全性を高めたトイレ用手摺を提供する。
【解決手段】トイレ用手摺1は、床面21に取り付けられる床面固定具11と壁面22に取り付けられる壁面固定具のいずれか一方又はその両方と、一端側が床面固定具11及び/又は壁面固定具に保持された状態で便器3の横の片側又はその両側に設置される半円状のガイド部材12と、ガイド部材12に沿って往復移動するようにガイド部材12に取り付けられた半円状の可動部材13と、可動部材13の端部に取り付けられ、使用者が便器3を使用する際に水平状態となって使用者の腕を介在させるために使用される腕掛けアーム14とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレ用手摺、特に、高齢者、身障者等の体の不自由な人が洋式の便器に座るときや立ち上がるとき等に使用されるトイレ用手摺に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、高齢者や身障者あるいは病人などが使用するトイレは、これらの人が便器に座るとき及び立ち上がるときの負担を軽減するように手摺が設置されている。例えば、使用者の正面(洋風便器の正面)の壁にU字状の可動部を設け、この可動部を必要に応じて水平位置と垂直位置の一方を選択できるようにしたトイレ用手摺(例えば、特許文献1参照)や、便器の両側に肘掛け部材を備えた手摺部をロータンクの近傍に立設された支柱に回動可能に取り付け、水平位置と垂直位置の一方を選択できるようにしたトイレ用手摺が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−102119号公報
【特許文献2】特開2004−313734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述した特許文献1のトイレ用手摺は、その操作時に使用者の体重がかかるため、固定部が取り付けられている壁の部分にモーメントが集中し、固定部及び壁を損傷させたり使用者が怪我をするおそれがある。また、手摺を取り付ける前に、固定部を取り付けるための壁の補強が必要になることがある。この場合、設置コスト及び工事期間の増大を招く。
【0005】
また、特許文献2のトイレ用手摺は、手摺部を垂直位置にすると、手摺部がロータンクの両側に立設された状態になり、手洗い時に邪魔になることがある。また、支柱を床面で支える脚部が便器の両側に存在するため、足を引っ掛けたり、体の向き変えようとしたとき等に邪魔になる可能性がある。さらに支柱13が真っ直ぐに立設されているため狭いトイレ空間では圧迫感を与える。
【0006】
更に、いずれの手摺も、垂直位置から水平位置へ動かす際、可動部が自然落下する如くに回動して使用者を殴打する可能性があり、使用者が高齢者や小児である場合の安全性が懸念される。
【0007】
従って、本発明の目的は、手摺部が垂直状態から一挙に水平状態になる動きにならないようにすることで、使用者に対する安全性を高めると共に設置に際して大がかりな補強工事等を必要とせず、しかも使用者の邪魔にならず、安全性を高めたトイレ用手摺を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の本発明は、トイレに設置された腰掛け式の便器の横の片側又はその両側に設置されるトイレ用手摺において、床面に取り付けられる床面固定具と壁面に取り付けられる壁面固定具のいずれか一方又はその両方と、一端側が床面固定具及び/又は壁面固定具に保持された状態で便器の横の片側又はその両側に設置される半円状のガイド部材と、ガイド部材に沿って往復移動するようにガイド部材に取り付けられた半円状の可動部材と、可動部材の端部に取り付けられ、使用者が便器を使用する際に水平状態となって使用者の腕を介在させるために使用される腕掛けアームとを備えたことを特徴とするトイレ用手摺を提供する。
【0009】
上記目的を達成するため、請求項2に記載の本発明は、請求項1に記載のトイレ用手摺において、床面固定具は、ガイド部材の下端部を保持することにより単独で又は壁面固定具と共に使用されることを特徴とする。
【0010】
上記目的を達成するため、請求項3に記載の本発明は、請求項1に記載のトイレ用手摺において、壁面固定具は、壁に取り付けられる台座と、台座に立設されてガイド部材の下端寄りを保持する保持部材とを備え、単独で又は床面固定具と併用されることを特徴とする。
【0011】
上記目的を達成するため、請求項4に記載の本発明は、請求項1から3のいずれか1項に記載のトイレ用手摺において、壁面固定具は、所定の面積を有して取り付けるべき前記壁面に密接される台座と、台座に立設されてガイド部材の下端寄りの複数ヶ所を所定の距離を隔てて保持する複数の保持部材とを備えてなることを特徴とする。
【0012】
上記目的を達成するため、請求項5に記載の本発明は、請求項1から4のいずれか1項に記載のトイレ用手摺において、可動部材の内部にはガイド部材との間に摩擦を生じさせる緩衝部材であって可動部材の長さ方向に沿って形成された長溝を備えた緩衝部材が内蔵され、ガイド部材は、緩衝部材に形成された長溝に整合する形状の断面形状を有し、ガイド部材の表面と緩衝部材とが接触しつつ可動部材をガイドするようにされたことを。
【0013】
上記目的を達成するため、請求項6に記載の本発明は、請求項1から5のいずれか1項に記載のトイレ用手摺において、可動部材は、中空状の断面形状を有し、ガイド部材は、可動部材の内側面と上下及び左右の四方で接触する複数のローラを備え、複数のローラうちの上下又は左右のうちの少なくとも一方側のローラは弾性部材によって可動部材の内側面に付勢された状態で取り付けられ、それによって、複数のローラがガタつきなく常に可動部材の内側面と接触して可動部材を案内するようにされたことを特徴とする。
【0014】
上記目的を達成するため、請求項7に記載の本発明は、請求項1から6のいずれか1項に記載のトイレ用手摺において、可動部材又は腕掛けアームのいずれかと、ガイド部材、壁面又は壁面固定具のいずれかとの間にロック機構が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るトイレ用手摺によれば、設置に際して大がかりな補強工事等を行う必要がないという効果がある。
また、本発明に係るトイレ用手摺によれば、可動部材及びガイド部材を半円状としたので使用者の邪魔にならず、且つ、あまり身体の自由きかない使用者に対する安全性を高めることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るトイレ用手摺の第1の実施の形態における側面図である。
【図2】図1に示すトイレ用手摺の断面を示し、(a)はA−A線断面図、(b)はB−B線断面図である。
【図3】本発明に係るトイレ用手摺の第2の実施の形態における側面図である。
【図4】本発明に係るトイレ用手摺の第3の実施の形態における側面図である。
【図5】本発明に係るトイレ用手摺の第4の実施の形態における側面図である。
【図6】本発明に係るトイレ用手摺の第5の実施の形態における側面図である。
【図7】第5の実施の形態に係るロック機構の詳細を示す図であり、(a)はロック状態を示し、(b)はアンロック状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明に係るトイレ用手摺の第1の実施の形態における側面図、図2は、図1に示すトイレ用手摺の断面を示し、(a)はA−A線断面図、(b)はB−B線断面図である。
【0018】
(トイレ用手摺の構成)
図示されたトイレ用手摺(以下、単に「手摺」という)1は、概略として、洋式便器(腰掛け式の便器)3及びロータンク4が設置されたトイレ2内に設置されている。具体的には、洋式便器3の横の片側又は両側であり、洋式便器3に対して前後方向に設置される。この手摺1は、トイレ2の床21に取り付けられた床面固定具11と、全体が半円状をなすと共にその一端(下端)が床面固定具11によって保持され、更に図2に示すような断面形状を有するガイドレール(ガイド部材)12と、全体が半円状をなし、ガイドレール12上を往復移動可能なようにしてガイド部材12に組み付けられた可動部材13と、可動部材13の一端(上端)から中間部に介在するようにネジ等によって可動部材13の上側に取り付けられた腕掛けアーム14と、を備えて構成されている。
【0019】
床面固定具11は、側面形状が略逆T字状を成した金属金具であり、床21に固定される平板状の取付部11bと、取付部11bに立設されるようにして設けられた嵌入穴11aが形成されており、図示しない木ネジ等の固定部材によって取付部11bを床21に固定するようになっている。また、嵌入穴11aにガイドレール12の下端を嵌入し、図示しないネジ等の固定部材によってしっかりと締着することによってガイドレール12の下端部が床面固定具11に取り付けられる。
【0020】
ガイドレール12は、鉄、真鍮等の金属製材料によって形成されており、全体が所定の曲率半径(例えば、300cm)を有し、その断面形状は、図2(a)に示すように、カタカナの略エ字状(或いはアルファベットの「H」字状)を有している。これをさらに詳述すると、ガイドレール12は、アルファベットのI字形部121と、このI字形部121の一端に設けられた「−」(マイナス)字形部122と、I字形部121の他端に設けられた「−」(マイナス)字形部123を有し、I字形部121と「−」字形部122とによりアルファベットのT字形部120が形成され、このT字形部120が可動部材13に介在するように組み付けられる。
【0021】
可動部材13は、ガイドレール12と同一の曲率半径を有し、図2の(b)に示すように、断面がカタカナの略ロ字状を有し、その一辺側(下側片)には、ガイドレール12のI字形部121を介在させるための長溝13aがほぼ全長にわたって設けられている。更に、可動部材13は、その他端及び中央寄りの2ヶ所に緩衝部材15A,15Bを内蔵している(図3、図4参照)。なお、緩衝部材15Aの断面形状が図2の(b)に示されている。この緩衝部材15A,15Bは、可動部材13を手で移動させた際に可動部材13が敏感に動くのを防止し、また、手を離した際に可動部材13が自重によって動いてしまうのを防止するブレーキとして機能する。緩衝部材15A,15Bは、ガイドレール12に対して摩擦力を持つ素材からなり、例えば、プラスチック、合成又は天然ゴム等を用いて形成されている。なお、ガイドレール12の上端、可動部材13の四隅及び両端は、人との接触に対する安全性の向上のため、丸みを持たせた加工を施すのが望ましい。
【0022】
腕掛けアーム14は、使用者が、洋式便器3に着座する際、および、立ち上がる際に、手で掴んだり手を載せるために用いられる木製又は樹脂製の部材であり、使用時においては水平状態になるようにして可動部材13に取り付けられている。更に、腕掛けアーム14は、持ち易く、且つ、滑り難い形状にされると共に、所定の加工(凹凸、すべり防止処理等)が施されている。
【0023】
(手摺の使用法)
次に、手摺1の使用法について説明する。トイレ2は、体の不自由な人や健常者によって共用される。従って、手摺1の可動部材13及び腕掛けアーム14は、通常、図1の破線で示した位置がホームポジションになっている。この状態にあるとき、トイレ2を使用する人が健常者である場合、健常者は手摺1に触れることなく洋式便器3を使用する。
【0024】
次に、体の不自由な人がトイレ2を使用する場合、使用者又はその介護者が腕掛けアーム14を手で持って手前に引くと、可動部材13がガイドレール12に沿って移動し、それによって腕掛けアーム14が図1の破線で示す位置から実線で示す位置まで移動する。このとき、腕掛けアーム14が実線の位置になる前に腕掛けアーム14から手を離したとしても、緩衝部材15A,15Bがガイドレール12に接触しているため、緩衝部材15A,15Bとガイドレール12との間に適度の摩擦力が生じているので可動部材13は移動することがない。
【0025】
そして、腕掛けアーム14が図1に示す実線の位置まで移動すれば、使用者が手摺1を用いて着座できる状態になる。そこで、使用者は、腕掛けアーム14を手で握るなどして体を支えながら洋式便器3に着座する。また、使用者は、用便後に立ち上がる際、腕掛けアーム14を手で持って立ち上がることにより、体に負担をかけることなく容易に立ち上がることができる。使用後、次の使用者の便宜を考慮し、使用者は、腕掛けアーム14を持って壁22に向かって押し込むと、可動部材13がガイドレール12に沿って移動し、腕掛けアーム14は元の位置(図1の破線位置)に戻される。
【0026】
(第1の実施の形態の効果)
第1の実施の形態によれば、可動部材13及び腕掛けアーム14がガイドレール12にガイドされながら床方向へスライドする構成であるため、健常者にとって手摺1の存在が邪魔にならず、また、体の不自由な人達には手摺1を使用位置にセットしできると共に初期位置に戻すという操作を安全、且つ、容易に行うことができる。
【0027】
更に、ガイドレール12と可動部材13との間に緩衝部材15A,15Bが設けられているため、可動部材13が移動途中で自重等により勝手に移動するのを防止することができる。
【0028】
また、手摺1は、壁22よりもモーメントの集中に耐えられる床21に取り付けられた床面固定具11によって支持されているため、手摺1に大きな荷重が加わっても建造物に負担をかけることなく手摺1を保持することができる。従って、使用者が怪我する等の事故を防止することができると共に、建造物に損傷が及ばないようにすることができる。
【0029】
[第2の実施の形態]
図3は、本発明に係るトイレ用手摺の第2の実施の形態の側面図である。本実施の形態は、第1の実施の形態において、ガイドレール12の建造物への取り付け先をトイレ2の床21から壁22に変更し、ガイドレール12の壁22への取り付けを壁面固定具16によって行うようにしたものであり、その他の構成は第1の実施の形態と同様である。なお、本実施の形態においては、ガイドレール12は第1の実施の形態よりも長さを短くすることができる。
【0030】
一般に、木造家屋等における壁22は床21に比べて十分な強度を備えていない。そこで、壁面固定具16は、壁22の小さな領域に過大なモーメントが付与されないように取り付け面積を十分に広くした台座161と、この台座161に所定の距離を隔てて立設されると共に、ガイドレール12を少なくとも2ヶ所で保持する保持部材162A,162Bとを有する構成にしている。この壁面固定具16は、鉄、真鍮等の金属製素材によって構成し、必要な強度を確保している。
【0031】
台座161は、図示しない複数ヶ所(例えば、2〜6ヶ所)に図示しないネジ穴を有し、このネジ穴を通して木ネジにより壁22に取り付けられる。保持部材162A,162Bは、可動部材13の回動を妨げないように、可動部材13に接触しない構成になっている。例えば、全体がU字状を成し、そのU字部(又はコ字部)の内側がガイドレール12の内側を固定する構成になっている。なお、保持部材162Aと保持部材162Bとは、できるだけ離すことが望ましい。
【0032】
なお、第2の実施の形態に係る手摺1の使用法は、第1の実施の形態と同様であるので、その説明は省略する。
【0033】
第2の実施の形態によれば、手摺1を床21に設置できないときや設置したくない場合でも、壁22の狭い領域にモーメントを集中させることなく取り付けることができる。また、床面固定具11を必要としないので、床面に突起物を設けない構成にすることができる。その他、第1の実施の形態と同様の効果を有している。
【0034】
[第3の実施の形態]
図4は、本発明に係るトイレ用手摺の第3の実施形態における側面図である。本実施の形態は、ガイドレール12を床21と壁22の両方で支えるようにしたものである。すなわち、第1の実施の形態におけるガイドレール固定手段と第2の実施の形態におけるガイドレール固定手段とを併せ持つ構成にしたものであり、その他の構成は第1及び第2の実施の形態と同様である。
【0035】
本実施の形態におけるガイドレール12は、第1の実施の形態に示したガイドレール12と同じ長さを有している。ガイドレール12は、その下端が第1の実施の形態と同様に床面固定具11によって保持され、中間部は壁面固定具17によって第2の実施の形態と同様にして壁22に取り付けられる。壁面固定具17は、図3の第2の実施の形態に示した壁面固定具16の台座161を長さ方向(縦方向)の略中間位置で切断して略1/2の大きさの台座171とし、上記切断によって得られた台座171に第2の実施の形態に示した保持部材162Aが残るようにした形状を有している。なお、本実施の形態においては、壁面固定具17が図3に示す保持部材162Aと保持部材162Bとの中間位置でガイドレール12を保持するため、壁面固定具17の保持部材162Aの先端面には、図3に示したような傾斜は設けられていない。
【0036】
なお、第3の実施の形態に係る手摺1の使用法は、第1及び第2の実施の形態と同様であるので、その説明は省略する。
【0037】
第3の実施の形態によれば、手摺1が床21と壁22との2面において支持されているため、上記各実施の形態に比べ、手摺1を更に安定且つ強固に設置することができる。その他、第1及び第2の実施の形態と同様の効果を有している。
【0038】
[第4の実施の形態]
図5は、本発明に係るトイレ用手摺の第4の実施形態における断面図である。ここで、図5では一部のローラを断面図で示している。なお、図5に示す断面図は、図1に示すB−B線の断面位置に相当する。本実施の形態は、図1に示す第1の実施の形態において、緩衝部材15A,15Bを緩衝機構30に代えたものであり、その他の構成は第1の実施の形態と同様である。図5においては、緩衝部材15Aに代替した緩衝機構30の構成を示し、緩衝部材15B側の構成は緩衝部材15Aと同じであるので、ここでは緩衝部材15B側の図示及び説明を省略する。
【0039】
(スライド機構の構成)
スライド機構30は、I字形部121の中央部を貫通するように取り付けられた軸31と、軸31の両側に取り付けられたローラ保持体32A,32Bと、ローラ保持体32A側の軸31に外嵌された弾性部材であるゴムリング33と、I字形部121に平行させてローラ保持体32A,32Bに取り付けられた軸34A,34Bと、軸34A,34Bに回転自在に軸支されたローラ35A,35Bと、「−(マイナス)」字形部123に平行させてI字形部121の一端(図5の下端)に取り付けられた軸36と、可動部材13の内面131に接する外径を有して軸36の両側に回転自在に取り付けられたローラ37A,37Bと、「−(マイナス)」字形部122に平行させてI字形部122の他端(図5の上端)にネジ38A,38Bによって取り付けられた軸39と、可動部材13の内面132に接する外径を有して軸39の両側に回転自在に取り付けられたローラ40A,40Bと、ネジ38A,38Bに外嵌させてI字形部122と軸39の下側との間に設けられたゴムリング41A,41Bと、を備えている。
【0040】
(スライド機構の動作)
次に、スライド機構30の動作を説明する。スライド機構30は、予めガイドレール12に取り付けられている。可動部材13の内面に可動部材13のローラ35A,35B,37A,37B,40A,40Bが接触するようにしてガイドレール12に可動部材13を外嵌させると、図5に示す状態になる。
【0041】
トイレの使用者が、腕掛けアーム14を手に持って図1に示す右方向に引くと、ローラ35A,35B,37A,37B,40A,40Bは可動部材13の内面との接触度合いに応じて、両者間に摩擦力が生じる。また、ローラ35A,37A,37B,40A,40Bは、取付面にゴムリング33,38,41A,41Bが介在しているため、各ローラは付勢され可動部材13に対して押圧が生じており、ガイドレール12の内面に接触し易くなっている。このため、トイレの使用者が可動部材13を最後まで引き出さずに途中で手を離しても、その後に可動部材13は自重により動き出すことはない。
【0042】
可動部材13が可動を継続している間、ローラ35A,35B,37A,37B,40A,40Bはガイドレール12の内面に摺動しながら回転する。したがって、使用者は軽い操作力によって可動部材13を引き出すことができる。
【0043】
第4の実施の形態によれば、ガイドレール12と可動部材13の4つの内面との間にローラ35A、35B,37A,37B,40A,40Bを介在させ、且つ、ローラ35A、35B,37A,37B,40A,40Bが可動部材13の内面に適度の追う圧力で接する様にしたため、可動部材13が適度な摩擦力で摺動させることができる。このため、使用者が高齢者等であっても、手摺1を支障なく使用することができる。その他の効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0044】
[第5の実施の形態]
図6は、本発明に係るトイレ用手摺の第5の実施形態における側面図である。本実施の形態は、第1の実施の形態において、可動部材13にロック機構40を設けたものであり、その他の構成は第1の実施の形態と同様である。
【0045】
(ロック機構の構成)
図7は、図6に示すロック機構40の詳細を示す図であり、(a)はロック状態を示し、(b)はアンロック状態を示している。ロック機構40は、壁22に取り付けられた保持部材41と、保持部材41の先端部に軸42によって軸支されたカム43と、カム43を取り囲むように設けられた突堤状のガイド44と、カム43を図7の反時計方向へ付勢するスプリング45と、腕掛けアーム14に立設されたシリンダ状のピン保持部46と、ピン保持部46に内挿された長板状で一端(図7の左側端)にピン471が立設されているピン部材47と、ピン部材47を腕掛けアーム14側へ引き込むスプリング48と、を備えている。なお、ガイド44には蓋が設けられるが、図7においては図示を省略している。また、軸42は、上記ガイド44の蓋の内面に設けられている。
【0046】
ピン部材47は、ピン471の先端部を露出させると共にピン471の往復移動をガイドする長穴472と、を備えている。
【0047】
カム43は、略3角形状を成し、下端には半円状の凹部431が設けられており、この凹部431には図7の上方から移動してきたピン471が嵌入する。
【0048】
(ロック機構の動作)
次に、ロック機構40の動作について説明する。腕掛けアーム14を立ち上げ状態にあるとき、ピン保持部46及びピン471は、図7の(a)に示すようにガイド44側へ移動しており、ピン471がカム43の凹部431に嵌入している。カム43はスプリング45によって反時計方向へ回動する付勢力が付与され、ピン471をガイド44に押さえ付けているため、ピン471はガイド44内から抜け出すことができず、使用者が腕掛けアーム14を引こうとしても引くことができない。即ち、可動部材13はロックされている。
【0049】
次に、使用者が一旦腕掛けアーム14を壁22の方向へ押すと、ピン保持部46及びピン471が腕掛けアーム14と共に図7の(a)の下方向へ移動し、ピン471が凹部431から離れ、これによってカム43がスプリング45の付勢力により反時計方向へ回動し、カム43の下端が図7の(b)に示すようにガイド44の右側の内壁に当接して停止する。一方、ピン471は、凹部431から外れることによりアンロックされ、使用者が腕掛けアーム14を引く様にすると、ピン471はカム43の周面432に沿い、且つ、ガイド44の内面にガイドされながら上昇する。このとき、ピン471は図7の左右方向に移動しながら上昇するが、ピン部材47がピン保持部46内を移動できるため、ピン471は自由に動くことができる。
【0050】
使用者によって腕掛けアーム14を引く操作が継続されることにより、やがて、ピン471は図7の(b)に示すようにガイド44から完全に抜け、可動部材13及び腕掛けアーム14は、最終的に図6に示す実線で示す位置まで移動する。
【0051】
次に、トイレ2の使用が済んだ使用者が腕掛けアーム14を押すと、図6の鎖線で示す位置に戻され、ピン471はガイド44の右上端に到達する。可動部材13の移動と共にピン471はガイド44に乗り上げ、ガイド44に沿って下降し、最終的に凹部431に嵌入する。ここで、使用者が腕掛けアーム14から手を離すと、可動部材13はその位置でロックされる。
【0052】
第5の実施の形態によれば、使用前の手摺1は、ロック機構40によって可動部材13及び腕掛けアーム14がロックされた状態にあるため、使用者が高齢者や体の不自由な人であって、使用者の意志に反して体が腕掛けアーム14を引き出す方向に向けて腕掛けアーム14に力が加わっても、可動部材13及び腕掛けアーム14は動かないため、怪我等の事故の発生を防止することができる。その他の効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0053】
なお、第5の実施の形態において、ロック機構40のピン保持部46及びピン保持部46は腕掛けアーム14の端部に取り付けたが、可動部材13に設けてもよい。また、保持部材41、軸42、カム43、ガイド44及びスプリング45は、ガイドレール12に設けられていてもよい。
【0054】
また、図7に示した構成とは逆の組み合わせ、即ち、保持部材41、軸42、カム43、ガイド44及びスプリング45を可動側(可動部材13、腕掛けアーム14)に設け、ピン保持部46及びピン保持部46を固定側(ガイドレール12、壁22等)に設ける構成であってもよい。
【0055】
また、ロック機構40は、図7に示した構成に限定されるものではなく、可動部材13又は腰掛けアーム14を引くのみのときには可動部材13及び腰掛けアーム14の移動がロックされ、且つ、可動部材13及び腰掛けアーム14を押した後に引くという2段階の操作によってアンロックされる機能を有しさえすれば、どの様な構成であってもよい。
【0056】
[他の実施の形態]
上記第1〜第3の実施の形態において、緩衝部材15A,15Bは可動部材13に設けたが、ガイドレール12に設ける構成であってもよい。また、緩衝部材15A,15Bにより2カ所に設けたが2ヶ所以上にしてもよいし、1カ所に所定の長さ(例えば、緩衝部材15Aの位置から緩衝材15Bの位置まで)にわたって連続的に設けてもよい。
【0057】
また、第1の実施の形態に示したガイドレール12と可動部材13との間のスライド機構は、図2に示した構成に限定されるものではなく、使用者による適度の力で動かすことができ、且つ「可動部材13+腕掛けアーム14+緩衝部材15A,15B」の重さによってこれらが動き出さない構成を有するなら、どのようなスライド機構であってもよい。更に、緩衝部材15A,15Bに代えて、板バネ等を用いた構成も可能である。
【0058】
また、上記実施の形態においては、手摺1を一般住宅のトイレに設置する例を示したが、住宅以外の建造物のトイレに設置することも可能である。
【0059】
また、上記実施の形態においては、ロータンク4を有するトイレ2を対象にしたが、トイレがロータンクを有しない場合又はトイレの外にロータンクが設置されている場合等にも本発明を適用可能である。
【0060】
また、第4の実施の形態に示したスライド機構30は、第2,第3及び第5の実施の形態にも適用可能である。
【0061】
また、第5の実施の形態に示したロック機構40は、上記第2〜第3の実施の形態にも適用可能であることは言うまでもない。
【0062】
また、第4の実施の形態と第5の実施の形態との組み合わせも可能である。
【符号の説明】
【0063】
1 手摺(トイレ用手摺)
2 トイレ
3 洋式便器
4 ロータンク
11 床面固定具
11a 嵌入穴
11b 取付部
12 ガイドレール(ガイド部材)
13 可動部材
13a 長溝
14 腕掛けアーム
15A 緩衝部材
15B 緩衝部材
16 壁面固定具
17 壁面固定具
21 床
22 壁
30 スライド機構
31 軸
32A ローラ保持体
32B ローラ保持体
33 ゴムリング
34A 軸
34B 軸
35A ローラ
35B ローラ
36 軸
37A ローラ
37B ローラ
38A ネジ
38B ネジ
39 軸
40 ロック機構
40A ローラ
40B ローラ
41 保持部材
41A ゴムリング
41B ゴムリング
42 軸
43 カム
44 ガイド
45 スプリング
46 ピン保持部
47 ピン部材
48 スプリング
120 T字形部
121 I字形部
122 マイナス字形部
123 マイナス字形部
131 内面
132 内面
161 台座
162A 保持部材
162B 保持部材
171 台座
431 凹部
432 周面
471 可動部材
471 ピン
472 長穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トイレに設置された腰掛け式の便器の横の片側又はその両側に設置されるトイレ用手摺において、
床面に取り付けられる床面固定具と壁面に取り付けられる壁面固定具のいずれか一方又はその両方と、
一端側が前記床面固定具及び/又は前記壁面固定具に保持された状態で前記便器の横の片側又はその両側に設置される半円状のガイド部材と、
前記ガイド部材に沿って往復移動するように前記ガイド部材に取り付けられた半円状の可動部材と、
前記可動部材の端部に取り付けられ、使用者が前記便器を使用する際に水平状態となって前記使用者の腕を介在させるために使用される腕掛けアームと、
を備えたことを特徴とするトイレ用手摺。
【請求項2】
請求項1に記載のトイレ用手摺において、
前記床面固定具は、前記ガイド部材の下端部を保持することにより単独で又は前記壁面固定具と共に使用されることを特徴とするトイレ用手摺。
【請求項3】
請求項1に記載のトイレ用手摺において、
前記壁面固定具は、壁に取り付けられる台座と、
前記台座に立設されて前記ガイド部材の下端寄りを保持する保持部材と、
を備え、
単独で又は前記床面固定具と併用されることを特徴とするトイレ用手摺。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載のトイレ用手摺において、
前記壁面固定具は、
所定の面積を有して取り付けるべき前記壁面に密接される台座と、
前記台座に立設されて前記ガイド部材の下端寄りの複数ヶ所を所定の距離を隔てて保持する複数の保持部材と、
を備えてなることを特徴とするトイレ用手摺。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のトイレ用手摺において、
前記可動部材の内部には前記ガイド部材との間に摩擦を生じさせる緩衝部材であって当該可動部材の長さ方向に沿って形成された長溝を備えた緩衝部材が内蔵され、
前記ガイド部材は、前記緩衝部材に形成された長溝に整合する形状の断面形状を有し、当該ガイド部材の表面と前記緩衝部材とが接触しつつ前記可動部材をガイドするようにされたことを特徴とするトイレ用手摺。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のトイレ用手摺において、
前記可動部材は、中空状の断面形状を有し、
前記ガイド部材は、前記可動部材の内側面と上下及び左右の四方で接触する複数のローラを備え、前記複数のローラうちの上下又は左右のうちの少なくとも一方側のローラは弾性部材によって前記可動部材の内側面に付勢された状態で取り付けられ、それによって、前記複数のローラがガタつきなく常に前記可動部材の内側面と接触して前記可動部材を案内するようにされたことを特徴とするトイレ用手摺。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載のトイレ用手摺において、
前記可動部材又は前記腕掛けアームのいずれかと、前記ガイド部材、前記壁面又は前記壁面固定具のいずれかとの間にロック機構が設けられていることを特徴とするトイレ用手摺。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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