説明

トナー用樹脂組成物の製造方法、トナー用樹脂組成物及びトナー

【課題】 低温定着性及び耐高温オフセット性に優れるトナー用樹脂組成物の製造方法、トナー用樹脂組成物及びトナーを提供することを目的とする。
【解決手段】 架橋ポリエステルと低分子量線状ポリエステルとが均一に混合されてなるトナー用樹脂組成物の製造方法であって、押出混練機に、数平均分子量が2000〜5000である分岐状ポリエステルと1分子中に2個以上のイソシアネート化合物とを投入して架橋反応を開始する工程と、前記架橋反応が完了する以前に更に低分子量線状ポリエステルを投入して混練する工程を有するトナー用樹脂組成物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温定着性及び耐高温オフセット性に優れるトナーを得ることが可能なトナー用樹脂組成物の製造方法、トナー用樹脂組成物及びトナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真等において静電荷像を現像する方式として、乾式現像方式が多用されている。乾式現像方式において、通常、トナーはキャリアと呼ばれる鉄粉、ガラスビーズ等との摩擦によって帯電し、これが感光体上の静電潜像に電気的引力によって付着し、次に用紙上に転写され、加熱ローラ等によって定着されて永久可視像となる。
【0003】
定着の方法としては、トナーに対して離型性を有する材料で表面を形成した熱定着ローラの表面に、被定着シートのトナー画像を圧接触させながら通過せしめることにより行う加熱ローラ法が汎用されている。
【0004】
この熱定着ローラ法を用いる場合は、消費電力等の経済性を向上させるため、及び、複写速度を上げるため、より低温で定着可能なトナーが求められている。
しかしながら、上記の低温定着性を改善しようとすると、トナーの一部が熱定着ローラ表面に付着し、それが紙に再転写するといったオフセット現象が起こりやすくなったり、樹脂同士が様々な環境を通して受ける熱によってトナーが凝集するブロッキング現象が起こりやすくなったりするといった問題がある。
【0005】
従来のポリエステル系トナーでは、通常3官能以上の多官能モノマーを共重合することによって、ポリマー内に化学的架橋構造を形成させ、耐高温オフセット性を保持させていた。しかし、このような方法では、低分子量のポリマーから分子量の高い架橋ポリマーまでが存在することとなり、分子量分布が広くなるため、耐高温オフセット性と低温定着性とを両立させることが困難であった。
【0006】
特許文献1には、トナーのバインダー樹脂として、テレフタル酸と炭素数2〜6の直鎖型アルキレングリコールから導かれる単位とを全使用モノマー単位に対して50モル%以上含む結晶性ポリエステル樹脂を用いることが提案されている。
しかしながら、この技術では、結晶性ポリエステル樹脂のみを用いているので、定着可能な温度幅が狭く、低温定着性を損なうことなく、耐高温オフセット性及び耐ブロッキング性を保つことが困難であった。
【0007】
特許文献2には、トナーのバインダー樹脂として、3価以上の多価単量体、芳香族ジカルボン酸、及び、分岐鎖を持つ脂肪族アルコールを50モル%以上含む脂肪族アルコールを重合してなる非結晶性ポリエステル樹脂を用いることが提案されている。
しかしながら、この技術においても、3価以上の多価単量体、ジカルボン酸、ジオール等を用いることから、得られる非結晶性ポリエステルの分子量分布が広くなり、特に低温定着性が充分ではなかった。
【0008】
また、特許文献3には、2塩基のカルボン酸、ジオール及びトリオールを反応してなり、水酸基価が6〜100のポリエステルと、所定量のイソシアネートとの反応によって得られ、ゲル分率が所定範囲内であるバインダー樹脂の製造方法が開示されている。しかしながら、このような製造方法では、低分子量のポリエステルから、高分子量であるウレタン変成ポリエステルまでの分子量分布の広いポリエステルが作製されるため、低温定着性と耐高温オフセット性とを両立することができなかった。
【0009】
これらの問題に対して、低温定着性、耐高温オフセット性の何れにも優れたトナーを実現するため、特許文献4には、テトラヒドロフラン不溶分を15重量%以上有し、軟化点の高い非線状ポリエステルと、軟化点の低いポリエステルとを含有するトナーバインダーが開示されている。
このようなトナーバインダーでは、軟化点の高い非線状ポリエステルと、軟化点の低いポリエステルとを別々に製造し、粉体混合法や溶融混合法等を用いてこれらを混練する工程を行う。しかしながら、このような混練方法では、軟化点の高い非線状ポリエステルと、軟化点の低いポリエステルとが均一に混合されず、得られるトナーの耐高温オフセット性又は低温定着性が不充分となることがあった。
【特許文献1】特許第2988703号公報
【特許文献2】特許第2704282号公報
【特許文献3】特許第2986820号公報
【特許文献4】特開2001−265056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、低温定着性及び耐高温オフセット性に優れるトナーを得ることが可能なトナー用樹脂組成物の製造方法、トナー用樹脂組成物及びトナーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、架橋ポリエステルと低分子量線状ポリエステルとが均一に混合されてなるトナー用樹脂組成物の製造方法であって、押出混練機に、数平均分子量が2000〜5000である分岐状ポリエステルと1分子中に2個以上のイソシアネート化合物とを投入して架橋反応を開始する工程と、前記架橋反応が完了する以前に更に低分子量線状ポリエステルを投入して混練する工程を有するトナー用樹脂組成物の製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0012】
本発明者らは鋭意検討の結果、押出混練機を用いたトナー用樹脂組成物の製造において、分岐状ポリエステルとイソシアネート化合物との架橋反応が開始されてから完了するまでの間に低分子量線状ポリエステルを投入することにより、架橋ポリエステルの製造、及び、架橋ポリエステルと低分子量線状ポリエステルとの混錬を連続した工程で行うことができ、更に、架橋ポリエステルと低分子量線状ポリエステルとを均一に混合できることから、低温定着性と耐高温オフセット性とを両立させたトナーを作製することが可能なトナー用樹脂組成物を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
本発明のトナー用樹脂組成物の製造方法では、まず、押出混練機に、数平均分子量が2000〜5000である分岐状ポリエステル(以下、単に分岐状ポリエステルともいう)と、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(以下、単にイソシアネート化合物ともいう)とを投入して架橋反応を開始する工程を行う。
上記分岐状ポリエステルとイソシアネート化合物とを架橋させた場合、多価単量体と、ジカルボン酸やジオールとを共重合させて架橋構造を形成する場合と比較して、架橋密度が適度に抑えられ、より均一な架橋が形成されることから、得られる架橋ポリエステルの分子量分布が広くなり過ぎず、低温定着性と耐高温オフセット性のバランスに優れるトナーを作製することができるトナー用樹脂組成物とすることができる。
【0014】
上記押出混練機としては特に限定されないが、架橋ポリエステルと低分子量線状ポリエステルとの混練を良好に行うことができ、連続生産が可能である等の理由から、一軸又は二軸方式の押出混練機が好ましく、二軸押出混練機がより好ましい。
【0015】
本発明のトナー用樹脂組成物の製造方法に用いられる押出混練機の一例を図1に示す。
図1に示すように、押出混練機1は、内部にスクリューを有する(図示せず)とともに、原材料投入口を2箇所有しており、本発明に用いる場合は、ホッパー(A)から分岐状ポリエステル及びイソシアネート化合物を投入して架橋反応を開始し、更に架橋反応の途中で、低分子量線状ポリエステルをサイドフィーダー(B)から投入することができる。
【0016】
上記押出混練機として、スクリューを内蔵するものを用いる場合、スクリューの直径(D)に対する長さ(L)の比(L/D)の好ましい下限は20、好ましい上限は100である。20未満であると、スクリューの長さが短く、混練が不充分となることがあり、100を超えると、加熱時間が長くなり、生成した架橋ポリエステルが熱分解や熱劣化することから、耐高温オフセット性を改善できないことがある。なお、特殊な押出混練機を用いた場合はこの限りではない。
【0017】
また、上記押出混練機内での滞留時間の好ましい下限は3分、好ましい上限は30分である。3分未満であると、架橋反応や低分子量線状ポリエステルの分散性が不充分となることがあり、30分を超えると、生成した架橋ポリエステルが熱分解や熱劣化することにより、耐高温オフセット性を改善できないことがある。より好ましい下限は5分、より好ましい上限は20分である。
【0018】
上記押出混練機を用いて混練を行う場合、混練温度としては、分岐状ポリエステルとイソシアネート化合物との架橋反応が充分に進行して、架橋ポリエステルを得ることができ、かつ、架橋ポリエステルと低分子量線状ポリエステルとを充分に溶融混練することができる温度であれば、特に限定されず、好ましい下限が100℃、好ましい上限は230℃である。100℃未満であると、架橋反応が進行しにくく、上記架橋ポリエステルの生成が不充分となったり、架橋ポリエステルと低分子量線状ポリエステルとを均一に混合できないことがあり、230℃を超えると、生成した架橋ポリエステルが熱分解や熱劣化することにより、耐高温オフセット性を改善できないことがある。
【0019】
本発明のトナー用樹脂組成物の製造方法では、上記分岐状ポリエステルと、イソシアネート化合物とを水分の存在下で反応させてもよい。このような方法を用いることで、分子内にウレア結合を多く有する架橋ポリエステルを製造することができる。これにより、得られる架橋ポリエステルは、耐熱性に優れ、混練時にも熱分解しにくいため、物性の安定した樹脂となる。
なお、上記水分の存在下で反応させる方法としては、特に限定されず、例えば、原料として水を含む分岐状ポリエステルを用いる方法や、原料と同時に水を投入する方法等が挙げられる。
【0020】
本発明のトナー用樹脂組成物の製造方法は、上記分岐状ポリエステルと上記イソシアネート化合物との架橋反応が完了する以前に更に低分子量線状ポリエステルを投入して混練する工程を有する。
上記低分子量線状ポリエステルを投入することにより、得られるトナーの低温定着性を向上させることができる。また、架橋反応が完了する以前に上記低分子量線状ポリエステルを投入することにより、架橋反応完了後に低分子量線状ポリエステルを投入する場合と比較して、上記低分子量線状ポリエステルを均一に混合することができ、このようなトナー用樹脂組成物を用いてトナーを製造することにより、耐高温オフセット性と低温定着性とを両立したトナーを得ることができる。
なお、本明細書において、線状ポリエステルとは、エステル構造が直鎖状に存在するポリエステルのことをいう。但し、上記線状ポリエステルは、末端部がカルボン酸等で酸変性されたものであってもよい。
【0021】
本発明のトナー用樹脂組成物の製造方法において、上記分岐状ポリエステルと上記イソシアネート化合物との架橋反応が完了する以前とは、上記分岐状ポリエステルと上記イソシアネート化合物とを投入した後の混合物のゲル分率が10〜30%の範囲内にある場合のことをいう。10%未満であると、架橋が不充分であるため、上記低分子量線状ポリエステルを投入、混練した後に得られるトナー用樹脂組成物の分子量分布が広いものとなり、30%を超えると、得られるトナー用樹脂組成物における低分子量線状ポリエステルの分散性が低下する。
【0022】
本発明では、分岐状ポリエステルとイソシアネート化合物とを投入して架橋反応を開始する工程及び/又は低分子量線状ポリエステルを投入して混練する工程において、更に多価アルコールを投入することが好ましい。これにより、所望の架橋密度を有する架橋ポリエステルを得ることができる。
【0023】
上記多価アルコールとしては特に限定されず、例えば、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトラロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ショ糖、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタトリオール、グリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼン等が挙げられる。なお、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
上記多価アルコールの添加量の好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は3.0重量%である。0.01重量%未満であると、上記多価アルコールの添加効果が充分に発揮されず、3.0重量%を超えると、架橋密度が上がりすぎ、低分子量線状ポリエステルの分散性が低下することがある。
【0025】
本発明の別の態様として、架橋ポリエステルと低分子量線状ポリエステルとが均一に混合されてなるトナー用樹脂組成物の製造方法であって、押出混練機に、数平均分子量が2000〜5000である分岐状ポリエステル、数平均分子量が2000〜1万である線状ポリエステル及び1分子中に2個以上のイソシアネート化合物を投入して架橋反応を開始する工程と、前記架橋反応が完了する以前に更に低分子量線状ポリエステルを投入して混練する工程を有するトナー用樹脂組成物の製造方法がある。
【0026】
上記線状ポリエステルの添加量の好ましい下限は、上記分岐状ポリエステル100重量部に対して10重量部、好ましい上限は900重量部である。10重量部未満であると、架橋密度を適度なものに調整する効果を発揮できないことがあり、900重量部を超えると、架橋密度が不充分なものとなる。
また、別の態様の本発明では、上記分岐状ポリエステル、線状ポリエステル及びイソシアネート化合物を水分の存在下で反応させてもよい。
なお、別の態様の本発明は、上記線状ポリエステルを、分岐状ポリエステル及びイソシアネート化合物と同時に投入する以外は、本発明のトナー用樹脂組成物と同様であるため、その説明を省略する。
【0027】
本発明のトナー用樹脂組成物の製造方法を用いることにより、架橋ポリエステルと低分子量線状ポリエステルとが均一に混合された、低温定着性と耐高温オフセット性とを両立したトナー用樹脂組成物を得ることができる。
架橋ポリエステルと低分子量線状ポリエステルとを含有するトナー用樹脂組成物であって、テトラヒドロフランに浸漬し、常温で16時間振とうした後、200メッシュの金網フィルターで濾過する方法により測定した膨潤率が500〜4000%、フロー軟化点が100〜160℃、かつ、170℃の条件下で450%の剪断ひずみを与えたときに、下記式(1)で表される剪断ひずみを与えて0.02秒後から0.1秒後の緩和弾性率曲線の勾配Kが5〜26であるトナー用樹脂組成物もまた本発明の1つである。このようなトナー用樹脂組成物も本発明のトナー用樹脂組成物の製造方法により製造することができる。
【0028】
【数1】

【0029】
本発明のトナー用樹脂組成物は、テトラヒドロフランに浸漬し、常温で16時間振とうした後、200メッシュの金網フィルターで濾過する方法により測定した膨潤率の下限が500%、上限が4000%である。
上記膨潤率は、架橋ポリエステルの架橋密度と関連性があることから、間接的にトナー用樹脂組成物中における架橋ポリエステルと線状ポリエステルとの混合の均一性を示す指標となる。
従って、膨潤率が上記範囲内であると、架橋構造が適度な密度で形成され、かつ、架橋ポリエステルと線状ポリエステルとが均一に混合されていると考えられることから、得られるトナーは、低温定着性と耐高温オフセット性とを両立したものとすることができる。
500%未満であると、架橋密度が高くなりすぎ、耐高温オフセット性は向上するが、低温定着性が低下する。4000%を超えると、架橋密度が低くなりすぎ、これに伴って、耐高温オフセット性が不充分となる。好ましい下限は700%、好ましい上限は3500%である。
【0030】
本発明のトナー用樹脂組成物は、テトラヒドロフランに浸漬することにより、GPC測定が可能な可溶分(THF可溶分)と、不可溶分(ゲル分)とに分けられ、上記THF可溶分はGPC測定での重量平均分子量が4万未満の成分と、GPC測定での重量平均分子量が4万以上の成分とから構成されるが、上記GPC測定での重量平均分子量が4万以上の成分の含有量の好ましい下限は5重量%、好ましい上限は40重量%である。5重量%未満であると、耐高温オフセット性が低下することがあり、40重量%を超えると、低温定着性が不充分となることがある。
【0031】
本発明のトナー用樹脂組成物は、ゲル分率の好ましい下限が2%、好ましい上限が40%である。2%未満であると、耐高温オフセット性が低下することがあり、40%を超えると、低温定着性が不充分となることがある。
なお、本明細書において、上記ゲル分率とは、ゲル分の含有量のことをいい、例えば、トナー用樹脂組成物をテトラヒドロフランに浸漬した後、乾燥させたものの重量と、浸漬前のトナー用樹脂組成物の重量との比を測定することにより求めることができる。
【0032】
本発明のトナー用樹脂組成物は、フロー軟化点の下限が100℃、上限が160℃である。100℃未満であると、耐高温オフセット性が不充分となり、160℃を超えると、低温定着性が低下する。好ましい上限は150℃であり、より好ましい上限は145℃である。
なお、本明細書においてフロー軟化点とは、例えば、高化式フローテスター(例えば、島津製作所社製の「CFT−500型」等)を用い、荷重20kg/cm、オリフィス1mmφ×1mm、予備温度60℃、予備時間5分、チャート速度20mm/分、プランジャー1.0cm、昇温速度6±0.5℃/minの条件下で、目開き1.19mmのJIS標準篩を通過する1.0gの測定試料を溶融流出させ、プランジャー降下量と温度との関係を求めたときに、樹脂の流出開始時におけるプランジャー降下量と、樹脂の流出停止時におけるプランジャー降下量との中間のプランジャー降下量h/2を与えるときの温度Tfを意味する。
図2に、等速昇温法によりフロー軟化点Tfを求める際のプランジャー降下量と時間(温度)との関係を示す図を示した。
【0033】
本発明のトナー用樹脂組成物は、170℃の条件下で450%の剪断ひずみを与えたときに、上記式(1)で表される剪断ひずみを与えて0.02秒後(0.02秒後から0.1秒後の間に緩和弾性率曲線のピーク位置がある場合はその位置の時間)から0.1秒後の緩和弾性率曲線の勾配Kの下限が5、上限が26である。
【0034】
式中、G(T)は、剪断ひずみを与えてT秒後の緩和弾性率を表す。Tは0.02秒後から0.1秒後の間に緩和弾性率曲線のピーク位置がある場合はその位置の時間を表す。なお、0.02秒以前に緩和弾性率曲線のピーク位置がある場合はTを0.02とする。また、G(0.1)は、剪断ひずみを与えて0.1秒後の緩和弾性率を表す。
【0035】
上記緩和弾性率曲線の勾配Kは、物質の弾性挙動を表し、0に近づくほどゴム弾性に近い性質を有することを示す。従って、上記緩和弾性率曲線の勾配Kが上記範囲内であることは、充分な架橋構造を形成してゴムライクな性質が発現していることを意味すると考えられる。よって、上記緩和弾性率曲線の勾配Kが5〜26である本発明のトナー用樹脂組成物は、良好な耐高温オフセット性を発現する。上記緩和弾性率曲線の勾配Kが5未満又は26を超えると、架橋構造の形成が不充分であると考えられ、耐高温オフセット性についても不充分なものとなる。好ましい上限は20であり、より好ましい上限は18である。
なお、上記緩和弾性率は、例えば、本発明のトナー用樹脂組成物を溶融した後に所定の大きさの円盤状に成形したものを試験用試料とし、緩和弾性率測定装置(例えば、レオメトリックス社製RMS−800等)を用いて測定することができる。
【0036】
本発明のトナー用樹脂組成物は、170℃の条件下で450%の剪断ひずみを与えたときに、上記剪断ひずみを与えてから0.1秒後の緩和弾性率G170℃(0.1)の好ましい下限が100Pa、好ましい上限が1500Paである。
本発明者らは鋭意検討の結果、トナーにおけるオフセット現象は、溶融したトナーの凝集力が、トナーと熱定着ローラとの接着力よりも小さい場合に発生し、トナーの耐高温オフセット性は、トナー用樹脂組成物の凝集力の大きさと、大変形下でのトナー用樹脂組成物の緩和弾性率に関係があることを見出した。そして、本発明者らは更に鋭意検討した結果、一定の緩和弾性率を有するトナー用樹脂組成物を用いれば、トナーの耐高温オフセット性を維持しつつ、低温定着性を改善できることを見出した。
【0037】
本発明のトナー用樹脂組成物は、架橋ポリエステルを含有する。
上記架橋ポリエステルを含有することにより、得られるトナーの耐高温オフセット性が向上する。
【0038】
上記架橋ポリエステルは、数平均分子量が2000〜5000である分岐状ポリエステルと1分子中に2個以上のイソシアネート化合物とを反応させてなるものであることが好ましい。このようにして得られる架橋ポリエステルは、多価単量体と、ジカルボン酸やジオールとを共重合させて架橋構造を形成する場合と比較して、架橋密度が適度に抑えられ、より均一な架橋が形成されることから、分子量分布が広くなり過ぎず、低温定着性と耐高温オフセット性のバランスに優れるトナーを作製することができるトナー用樹脂組成物とすることができる。
【0039】
上記分岐状ポリエステルは、ジカルボン酸、ジオール及びトリカルボン酸を反応させてなるものであることが好ましい。
上記トリカルボン酸を用いることにより、得られる分岐状ポリエステルの架橋反応点である水酸基の相互間距離が広がり、立体障害が少なくなることから、イソシアネート化合物との反応性に優れる分岐状ポリエステルとすることができる。また、架橋反応後に得られる架橋ポリエステルについても、架橋密度が適度に広いものとなることから、低分子量線状ポリエステルを投入、混練した後に得られるトナー用樹脂組成物は、架橋ポリエステルと低分子量線状ポリエステルとが均一に混合されたものとなる。
なお、本明細書において、分岐状ポリエステルとは、ポリエステル骨格中に分岐構造を有するポリエステルのことをいう。
【0040】
上記ジカルボン酸としては、例えば、o−フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、オクチルコハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、デカメチレンカルボン酸、これらの無水物及び低級アルキルエステル等が挙げられる。なかでも、結晶性を付与するために、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、及び、これらの無水物及び低級アルキルエステルが好適に用いられる。
【0041】
上記ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール(2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジオール)、1,2−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール等の脂肪族ジオール類;2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂環族ジオール類等が挙げられる。
【0042】
上記トリカルボン酸としては、例えば、トリメリット酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸及びこれらの酸無水物等が挙げられる。
【0043】
上記トリカルボン酸の添加量の好ましい下限は、ジカルボン酸の添加量に対して0.5モル%、好ましい上限は20モル%である。0.5モル%未満であると、得られる分岐状ポリエステルの分岐部分が少なくなるため、イソシアネート化合物との反応性が低下することがある。また、イソシアネート化合物と反応させても充分な架橋密度を有する架橋ポリエステルが得られず、耐高温オフセット性が不充分となることがある。20モル%を超えると、架橋密度が上がり、耐高温オフセット性は向上するが、低温定着性が低下することがある。
【0044】
上記トリカルボン酸のほかに、更に、3価以上の多価カルボン酸、3価以上の多価アルコールを添加してもよい。
上記3価以上の多価カルボン酸としては、上記トリカルボン酸のほか、ピロメリット酸、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸及びこれらの酸無水物等が挙げられる。
【0045】
上記3価以上の多価アルコールとしては例えば、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトラロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、庶糖、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタトリオール、グリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼン等が挙げられる。なお、これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0046】
上記分岐状ポリエステルは、数平均分子量の下限が2000、上限が5000である。2000未満であると、得られるトナーの耐オフセット性及び耐久性が不充分となることがあり、5000を超えると、得られるトナーが低温定着性に劣るものとなる。好ましい上限は4000である。
【0047】
上記分岐状ポリエステルは、分岐度の好ましい下限が2.1、好ましい上限が7.0である。2.1未満であると、上記分岐状ポリエステルの架橋反応点が減少することから、得られる架橋ポリエステルの架橋密度が低くなって、耐高温オフセット性が低下することがあり、7.0を超えると、上記分岐状ポリエステルの架橋反応点が増え、架橋密度が上がり、耐高温オフセット性は向上するが、低温定着性が低下することがある。
本明細書において、分岐度とは、下記式(2)に示すように、分岐状ポリエステル1g当たりの水酸基数(NOH)を、分岐状ポリエステル1g当たりの分子数(N)で割ったもののことをいう。なお、NOHは、数平均分子量(Mn)を用いて、NOH=1/Mnで表され、Nは、分岐状ポリエステルの水酸基価(OHV)を用いて、N=OHV×10−3/56.1で表される。従って、上記分岐度は、Mn及びOHVを用いて下記式(3)で表すことができる。
ここで、全ての分子の両末端が水酸基である場合は、分岐度は2.0となることから、分岐度が2.0より大きくなるほど、分岐が多いことを示している。
【0048】
【数2】

【0049】
【数3】

【0050】
上記分岐状ポリエステルの水酸基価の好ましい下限は20、好ましい上限は80である。
20未満であると、上記分岐状ポリエステルの架橋反応点が減少することから、得られる架橋ポリエステルの架橋密度が低くなり、耐高温オフセット性が不充分となることがあり、80を超えると、上記分岐状ポリエステルの架橋反応点が増え、架橋密度が上がり、耐高温オフセット性は向上するが、低温定着性が低下することがある。
【0051】
上記分岐状ポリエステルのガラス転移温度の好ましい下限は30℃、好ましい上限は80℃である。30℃未満であると、高温耐オフセット性や耐ブロッキング性が充分に得られず、80℃を超えると、低温定着性が劣る。より好ましい下限は50℃、より好ましい上限は65℃である。
【0052】
上記分岐状ポリエステルのガラス転移温度については、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸はガラス転移温度を向上させる働きがあり、セバシン酸やアジピン酸等の長鎖の脂肪族ジカルボン酸はガラス転移温度を低下させる働きがあるのでこれらのジカルボン酸を適宜組み合わせることにより目的のガラス転移温度を達成することができる。しかし、芳香族ジカルボン酸と長鎖の脂肪族ジカルボン酸とを適宜組み合わせることによって目的のガラス転移温度を達成することができたとしても、軟化温度が高くなりすぎる傾向がある。
そこで、上記分岐状ポリエステルは、屈曲した分子構造を分子鎖中に導入できる2価の屈曲モノマー又は分岐鎖を有する2価のモノマーのいずれかを少なくとも含有する多価カルボン酸と多価アルコールを含むモノマー混合物を重合させてなることが好ましい。
これら2価の屈曲モノマーや分岐鎖を有する2価のモノマーを含有するモノマー混合物を重合してなるポリマーは、目的のガラス転移温度と低い軟化温度をより容易に両立させることができる。
【0053】
上記2価の屈曲モノマーとしては、オルト位又はメタ位がカルボキシル基で置換された芳香族ジカルボン酸、オルト位又はメタ位がヒドロキシル基で置換された芳香族ジオール、非対称位置にカルボキシル基を有する多環芳香族ジカルボン酸、非対称位置にヒドロキシル基を有する多環芳香族ジオール等ポリマーの分子鎖に屈曲した分子構造を導入できるモノマーであればジカルボン酸やジオールに限定されず、例えば、ジカルボン酸の無水物や低級エステル、モノヒドロキシモノカルボン酸等であってもよく、例えば、無水フタル酸、o−フタル酸、イソフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸等のジカルボン酸及びこれらの無水物や低級エステル;サリチル酸、3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸等のモノヒドロキシモノカルボン酸;カテコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等のジオールが挙げられる。
【0054】
また、分岐鎖を有する2価のモノマーは、分岐鎖の立体障害によりポリマーの結晶化を効果的に抑制する。結晶化を効果的に抑制できる分岐鎖を有するモノマーとしては、分岐アルキル鎖を有する脂肪族ジオールや、分岐アルキル鎖を有する脂環式ジオール等が挙げられる。なお、脂環式ジオールとしては、複数の脂環式ジオールが分岐アルキレン鎖により連結された脂環式ジオールが好ましい。
上記分岐鎖を有する2価のモノマーとしては特に限定されず、例えば、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール(2,2‐ジメチルプロパン−1,3−ジオール)、1,2−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチルー1,3−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,4−ジエチル−1,5−ペンタンジオール等の脂肪族ジオール;2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンのアルキレンオキサイド付加物等の脂環族ジオール類等が挙げられる。
【0055】
上記分岐状ポリエステルは、例えば、上記ジカルボン酸、ジオール及びトリカルボン酸を反応釜に一括投入して、エステル交換反応及び縮合反応させる方法等により得ることができる。なお、この方法では、トリカルボン酸の添加量が多くなると、反応が早く進行しすぎて分子量が上昇してしまうことがある。このような場合は、最初にジカルボン酸とジオールとのエステル交換反応を行い、エステル交換反応がほぼ終了した時点でトリカルボン酸を投入し、反応させることで、望ましい物性の分岐状ポリエステルを得ることができる。
【0056】
上記イソシアネート化合物は、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する。上記イソシアネート基が1分子中に2個未満であると、架橋ポリエステルの生成が不充分となり、耐高温オフセット性が低下する。好ましくは、1分子中に3個以上である。
【0057】
上記イソシアネート化合物において、イソシアネート基の含有量の好ましい下限は上記分岐状ポリエステル1モルに対して0.3モル、好ましい上限は3モルである。0.3モル未満であると、架橋ポリエステルの生成が不充分となり、耐高温オフセット性が低下する。3モルを超えると、架橋に関与しない余剰のイソシアネート化合物が増加し、イソシアネート化合物自体の物性に近くなることから、低温定着性等の物性が低下する。
【0058】
上記イソシアネート化合物は1分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、イソホロンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、水添MDI、ポリメリックMDI、1,5−ナフタレンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添XDI、リジンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオフォスフェート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、1,6,10−ウンデカントリイソシアネート等が挙げられる。
【0059】
上記架橋ポリエステルは、数平均分子量が2000〜5000である分岐状ポリエステル、数平均分子量が2000〜1万である線状ポリエステル及び1分子中に2個以上のイソシアネート化合物を反応させてなるものであってもよい。
上記数平均分子量が2000〜1万である線状ポリエステル(以下、単に線状ポリエステルともいう)を、分岐状ポリエステル及びイソシアネート化合物と同時に投入することにより、架橋後に得られる架橋ポリエステルの架橋密度を適度なものとすることができ、架橋ポリエステルと線状ポリエステルとを均一に混合することができる。
【0060】
上記線状ポリエステルとしては、例えば、ジカルボン酸とジオールとを縮重合させることにより得られるものを用いることができる。
なお、上記ジカルボン酸及びジオールとしては、上述した分岐状ポリエステルと同様のものを用いることができる。
【0061】
上記線状ポリエステルの数平均分子量の下限は2000、上限は1万である。2000未満であると、トナーの耐ブロッキング性が不充分となることがあり、1万を超えると、低温定着性が低下することがある。好ましい下限は2500、好ましい上限は6000である。
【0062】
上記架橋ポリエステルは、上記分岐状ポリエステルや線状ポリエステルのポリエステルと、イソシアネート化合物とを水分の存在下で反応させることにより、製造することが好ましい。このような方法で架橋ポリエステルを製造した場合、架橋ポリエステルの分子内にウレア結合が多く形成される。上記架橋ポリエステルは、このようなウレア結合を有することで、耐熱性に優れ、混練時にも熱分解しにくいため、物性の安定した樹脂となる。
【0063】
上記水分の存在下で反応させる方法としては、特に限定されず、例えば、原料として水を含む分岐状ポリエステルや線状ポリエステルを用いる方法や、原料と同時に水を投入する方法等が挙げられる。
原料として水を含むポリエステルを用いる場合、水分量の好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は1.0重量%である。0.01重量%未満であると、充分なウレア結合を形成することができず、1.0重量%を超えると、ポリエステルが加水分解を起こして分子量が大きく低下することがある。
【0064】
本発明のトナー用樹脂組成物は、低分子量線状ポリエステルを含有する。
上記低分子量線状ポリエステルを含有することにより、得られるトナーの低温定着性を向上させることができる。また、本発明のトナー用樹脂組成物は、上記架橋ポリエステルと上記低分子量線状ポリエステルとが均一に混合していることから、耐高温オフセット性と低温定着性とを両立したトナーを得ることができる。
【0065】
上記低分子量線状ポリエステルとして特に限定されず、例えば、ジカルボン酸とジオールとを縮重合させることにより得られるものを用いることができる。
なお、上記ジカルボン酸及びジオールとしては、上述した分岐状ポリエステルと同様のものを用いることができる。
【0066】
上記低分子量線状ポリエステルの数平均分子量の好ましい下限は2000、好ましい上限は5000である。2000未満であると、得られるトナーの耐ブロッキング性が不充分となることがあり、5000を超えると、低温定着性が劣ることがある。
【0067】
上記低分子量線状ポリエステルのガラス転移温度の好ましい下限は30℃、好ましい上限は80℃である。30℃未満であると、耐ブロッキング性が充分に得られないことがあり、80℃を超えると、上記線状ポリエステルの添加により低温定着性を向上させる効果が充分に発揮されないことがある。
【0068】
上記低分子量線状ポリエステルの酸価の好ましい下限は20、好ましい上限は80である。20未満であると、イソシアネート化合物との反応性が低くなりすぎ、架橋ポリエステルと低分子量線状ポリエステルとの混合性が悪化することがあり、80を超えると、上記低分子量線状ポリエステルの流動性が損なわれることから、得られるトナーの低温定着性が低下することがある。
【0069】
上記低分子量線状ポリエステルの含有量の好ましい上限は、トナー用樹脂組成物全体に対して90重量%である。90重量%を超えると、低温定着性が低下したり、架橋ポリエステルとの混練不良が発生し、トナーの定着領域の無い全域オフセットが起きたりすることがある。
【0070】
本発明のトナー用樹脂組成物の酸価としては特に限定されないが、好ましい下限が1、好ましい上限が30である。このような酸価は、上記架橋ポリエステルや上記線状ポリエステルの末端の官能基、具体的には例えばカルボキシル基等に起因するものである。酸価がこの範囲にあると、得られるトナーが低温定着性に優れることに加え、紙との親和性も向上する。
【0071】
本発明のトナー用樹脂組成物をバインダー樹脂として用いて、必要に応じて、離型剤、着色剤、電荷制御剤、磁性体、ゴム状ポリマー、スチレン−アクリル酸エステル共重合体からなるトナー用樹脂、キャリア、クリーニング性向上剤等と混合することにより、トナーを製造することができる。このようなトナーもまた、本発明の1つである。
なお、本発明のトナーは、本発明のトナー用樹脂組成物を用いることにより低温定着性及び耐高温オフセット性の両方に優れていることから、離型剤を含有していなくてもよい。
【0072】
上記離型剤としては特に限定されず、例えば、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス、酸化ポリエチレンワックス等のオレフィン系ワックスやパラフィン系ワックス;カルナバワックス、サゾールワックス、モンタン酸エステルワックス等の脂肪族エステル系ワックス;脱酸カルナバワックス;バルチミン酸、ステアリン酸、モンタン酸等の飽和脂肪族酸系ワックス;プラシジン酸、エレオステアリン酸、バリナリン酸等の不飽和脂肪族酸系ワックス;ステアリルアルコール、アラルキルアルコール、ベヘニルアルコール、カルナウビルアルコール、セリルアルコール、メリシルアルコール等の飽和アルコール系ワックスや脂肪族アルコール系ワックス;ソルビトール等の多価アルコール系ワックス;リノール酸アミド、オレイン酸アミド、ラウリン酸アミド等の飽和脂肪酸アミド系ワックス;メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、ヘキサメチレンビスステアリン酸アミド等の飽和脂肪酸ビスアミド系ワックス;エチレンビスオレイン酸アミド、ヘキサメチレンビスオレイン酸アミド、N,N’−ジオレイルアジピン酸アミド、N,N’−ジオレイルセバシン酸アミド等の不飽和酸アミド系ワックス;m‐キシレンビスステアリン酸アミド、N,N’−ジステアリルイソフタル酸アミド等の芳香族ビスアミド系ワックス;ステアリン酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸金属塩;スチレンやアクリル酸等のビニル系モノマーをポリオレフィンにグラフト重合させたグラフト変性ワックス;ベヘニン酸モノグリセリド等の脂肪酸と多価アルコールとを反応させた部分エステルワックス;植物性油脂を水素添加して得られるヒドロキシル基を有するメチルエステルワックス;エチレン成分の含有割合が高いエチレン−酢酸ビニル共重合体ワックス;アクリル酸等の飽和ステアリルアクリレートワックス等の長鎖アルキルアクリレートワックス;ベンジルアクリレートワックス等の芳香族アクリレートワックス等が挙げられる。なかでも、長鎖アルキルアクリレートワックスや芳香族アクリレートワックスは、トナー用樹脂組成物との相溶性に優れ透明性の高いトナーが得られることから好適である。これらの離型剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよいが、特に融点が30℃以上異なる2種以上の離型剤を併用することが好ましい。
上記離型剤のトナー中における大きさとしては特に限定されないが、長径が2μm以下であることが好ましい。
【0073】
上記着色剤としては特に限定されず、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック、アニリンブラック、フタロシアニンブルー、キノリンイエローランプブラック、ローダミン−B、アゾ系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、アントラキノン系顔料、ジオキサジン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、スレン系顔料、インジコ系顔料、キノフタロン、ジケトピロロピロール、キナクリドン等が挙げられる。
これらの着色剤の配合量の好ましい下限は、通常、トナー用樹脂組成物100重量部に対して1重量部、好ましい上限は10重量部である。
【0074】
上記電荷制御剤には、正帯電用と負帯電用との2種類がある。上記正帯電用電荷制御剤としては、例えば、ニグロシン染料、アンモニウム塩、ピリジニウム塩、アジン等が挙げられ、負帯電用電荷制御剤としては、例えば、クロム錯体、鉄錯体等が挙げられる。なかでも、酸変性荷電制御剤が好適であり、サリチル酸変性であるとトナー用樹脂組成物と架橋してゴム弾性を発現する。ジ−tert−ブチルサリチル酸クロム錯体ジ−tert−ブチルサリチル酸亜鉛錯体等のアルキル置換サルチル酸の金属錯体は、無色又は淡色であるためトナーの色調に影響を与えないので好ましい。また、上記電荷制御剤としては、荷電制御樹脂(CCR)も好適に用いることができる。上記荷電制御樹脂としては、例えば、4級アンモニウム塩を含むモノマー、有機フッ素系モノマー、スルホン酸基含有モノマー、フェニルマレイミド系モノマー等を共重合したスチレンアクリルポリマー等が挙げられる。
これらの電荷制御剤の配合量の好ましい下限は、通常、トナー用樹脂組成物100重量部に対して0.1重量部、好ましい上限は10重量部である。
【0075】
上記磁性体としては、例えば、商品名「TAROX BLシリーズ」(チタン工業社製)、商品名「EPTシリーズ」、商品名「MATシリーズ」、商品名「MTSシリーズ」(いずれも戸田工業社製)、商品名「DCMシリーズ」(同和鉄粉社製)、商品名「KBCシリーズ」、商品名「KBIシリーズ」、商品名「KBFシリーズ」、商品名「KBPシリーズ」(いずれも関東電化工業社製)、商品名「Bayoxide Eシリーズ」(Bayer AG社製)等が挙げられる。
なお、従来のトナーでは、上記磁性体を添加した場合、トナー中の樹脂の比率が非磁性トナーに比べて低下することや、定着ローラのニップ圧を高めることにより、耐高温オフセット性が発現しにくい傾向になるが、本発明のトナーでは、磁性体を添加した場合であっても、良好な耐高温オフセット性を発現させることが可能となる。このように磁性体を添加した場合でも優れた耐高温オフセット性を実現できる理由の1つとしては、本発明のトナー用樹脂組成物では、イソシアネート基が樹脂中に高分散しており、これに伴い、トナーに添加した極性基を有する離型剤についても良好に分散されることが挙げられる。
このように本発明の樹脂組成物は、通常用いられるトナーの中でも、トナー全体に占める樹脂の比率が最も低いと考えられる磁性一成分トナーにおいて、良好な耐高温オフセット性を発現させることができることから、あらゆるトナーに適応することができる。
【0076】
上記ゴム状ポリマーとしては、例えば、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、ニトリルゴム(アクリロニトリル−ブタジエン共重合体)、クロロプレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ポリウレタンエラストマー、シリコーンゴム、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、クロロスルフィン化ポリエチレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、塩素化ポリエチレン、エピクロロヒドリンゴム、ニトリルイソプレンゴム等の合成ゴム、ポリエステルエラストマー、ウレタンエラストマー等のエラストマー、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレンブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレンプロピレン−スチレンブロック共重合体等の芳香族炭化水素と共役ジエン系炭化水素とのブロック共重合体が挙げられる。なお、ブロック共重合体にはスチレン−ブタジエンブロック共重合体やスチレン−イソプレンブロック共重合体等が混合されてあってもよく、これらの水素添加物が混合されてあってもよい。
また、末端に水酸基、カルボキシル基、アルデヒド基、スルホニル基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン基等の極性基を有する芳香族炭化水素と共役ジエンとのブロック共重合体からなるゴム状ポリマーは、トナーとの親和性に優れるので好ましい。これら末端に極性基を有するブロック共重合体はリビング重合により得ることができる。
ゴム状ポリマーは、トナーに含まれる樹脂の樹脂強度を向上させることができる。よって、ゴム状ポリマーを含有するトナーは、トナーのフィルミング現象を防止することができ、また、高い樹脂強度が必要な非磁性1成分トナーに好適なトナーが得られる。
【0077】
上記キャリアとしては、例えば、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、コバルト、マンガン、クロム、希土類等の金属単体、合金、酸化物、フェライト等が挙げられる。キャリアは表面が酸化されていてもよい。また、キャリア表面がポリテトラフルオロエチレン、モノクロロトリフルオロエチレンポリマー、ポリフッ化ビニリデン、シリコーンポリマー、ポリエステル、ジ−tert−ブチルサリチル酸の金属錯体、スチレン系ポリマー、アクリル系ポリマー、ポリアミド、ポリビニルブチラール、ニグロシン塩基性染料、シリカ粉末、アルミナ粉末等で被覆されていてもよい。キャリアを被覆することにより好ましい摩擦帯電性をキャリアに付与することができる。
【0078】
上記クリーニング性向上剤としては、トナー粒子と混合することによりトナーの流動性が向上するものであれば特に限定されない。トナーの流動性が向上するとトナーがクリーニングブレードに付着しにくくなる。例えば、フッ化ビニリデンポリマー等のフッソ系ポリマー粉末、アクリル酸エステルポリマー等のアクリル系ポリマー粉末、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸鉛等の脂肪酸金属塩粉末、酸化亜鉛粉末、酸化チタン粉末等の金属酸化物粉末、微粉末シリカ粉末、シランカップリング剤やチタンカップリング剤やシリコンオイル等により表面処理が施されたシリカ粉末、ヒュームドシリカ等が挙げられる。また、上記クリーニング性向上剤としては、アクリル系ポリマーやスチレン系ポリマー等からなる粒径0.05〜0.5μmの球体も好適に用いることができる。
【0079】
本発明のトナーは、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィーで測定したときに、重量平均分子量が2000以下の位置にピークが認められることが好ましい。これにより定着性が向上する。また、本発明のトナーは、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィーで測定したときに、重量平均分子量が1万以上の位置にピークが認められることが好ましい。これにより耐水性が向上する。
【0080】
本発明のトナーの粒径としては特に限定されないが、5μm以下である場合には特に高い画質が得られる。
本発明のトナーの含水分量としては特に限定されないが、好ましい下限は0.01重量%、好ましい上限は0.2重量%である。0.01重量%未満であると、製造上の問題から製造が困難となり、0.2重量%を超えると、充分な帯電安定性が得られないことがある。
本発明のトナーの安息角としては特に限定されないが、23℃、湿度60%における安息角の好ましい下限は1度、好ましい上限は30度である。1度未満であると、トナーのハンドリングが困難となることがあり、30度を超えると、トナーの流動性が不足することがある。なお、上記トナーの安息角は、例えば、パウダーテスター(例えば、ホソカワミクロン社製PT−N型等)等により測定することができる。
【0081】
本発明のトナーの表面粗さとしては特に限定されないが、好ましい下限は0.01μm、好ましい上限は2μmである。0.01μm未満であると、印字を行うことが困難となることがあり、2μmを超えると得られる画像の表面光沢が不充分となることがある。なお、上記表面粗さは、本発明のトナーを用いて印字した画像の印字部をJIS B 0601に算術平均粗さ(Ra)の測定方法として規定される方法により測定することができる。
【0082】
本発明のトナーは、低温から高温にわたる広い範囲で良好な定着性を発現することができ、低温定着性と耐高温オフセット性、耐ブロッキング性との両方に優れることから、スイッチをいれてから印刷が可能になるまでの時間を短縮することができるので、経済的であり、更に、ローラの温度が下がっても画像の鮮明性を維持することができるので、印刷の高速化を図ることができる。本発明のトナーは、画像再現性に優れる。
【0083】
また、本発明のトナーは、離型オイルが塗布された定着ローラにより定着されてもよいが、定着ローラに離型オイルが塗布されていなくても良好な定着性を発現することができる。
【発明の効果】
【0084】
本発明は、低温定着性及び耐高温オフセット性に優れるトナーを得ることが可能なトナー用樹脂組成物の製造方法、トナー用樹脂組成物及びトナーである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0085】
本発明を更に詳しく説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0086】
(実施例1)
(1)分岐状ポリエステルの製造
60Lの反応容器に蒸留塔、水分離装置、窒素ガス導入管、温度計及び攪拌措置を常法に従い設置し、窒素ガス雰囲気下にて、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸90モル、屈曲モノマー成分としてイソフタル酸5モル、無水フタル酸5モル、3価以上の多価単量体として、トリメリット酸2.5モル、分岐モノマー成分としてネオペンチルグリコール100モル、他のジオールとしてエチレングリコール100モル、エステル化縮合触媒としてチタンテトラブトキシド(TBB)0.05モルを仕込み、200℃で、生成する水を蒸留塔より留出させながらエステル化反応を行った。蒸留塔より水が留出しなくなった時点でエステル化反応を終了した。
エステル化反応終了後、60Lの反応容器の蒸留塔への開口部を閉鎖すると共に、真空ポンプからのラインを開き、反応系内を5mmHg以下に減圧し、240℃、攪拌回転数60rpmで縮合反応を行なうとともに縮合反応で生じた遊離ジオールを反応系外へ留出させて、分岐状ポリエステルを得た。
なお、得られた分岐状ポリエステルの水酸基価を測定したところ、40であった。
【0087】
(2)低分子量線状ポリエステルの製造
60Lの反応容器に蒸留塔、水分離装置、窒素ガス導入管、温度計及び攪拌措置を常法に従い設置し、窒素ガス雰囲気下にて、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸ジメチル90モル、屈曲モノマー成分としてイソフタル酸ジメチル10モル、ネオペンチルグリコール100モル、他のジオールとしてエチレングリコール100モル、エステル化縮合触媒としてチタンテトラブトキシド(TBB)0.05モルを仕込み、200℃で、生成する水及びメタノールを蒸留塔より留出させながらエステル化反応を行った。蒸留塔より水が留出しなくなった時点でエステル化反応を終了した。
エステル化反応終了後、60Lの反応容器の蒸留塔への開口部を閉鎖すると共に、真空ポンプからのラインを開き、反応系内を5mmHg以下に減圧し、240℃、攪拌回転数60rpmで縮合反応を行うとともに縮合反応で生じた遊離ジオールを反応系外へ留出させて、低分子量線状ポリエステルを得た。なお、得られた低分子量線状ポリエステルの酸価を測定したところ、2であった。
【0088】
(3)トナー用樹脂組成物の製造
1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリメリック型MDI(44V20、住化バイエルウレタン社製)3.2重量部と、得られた分岐状ポリエステル96.8重量部とを定量フィーダーを用いて二軸押出機(池貝社製、L/D=37)に連続的に供給し、バレル温度170℃で溶融混練した後、分岐状ポリエステル及びポリメリック型MDIを供給してからの滞留時間が3分間となる位置に設けたサイドフィーダーから、得られた低分子量線状ポリエステル100重量部を供給し、更に5分間溶融混練を行うことにより、トナー用樹脂組成物を得た。
なお、本実施例で用いた押出混練機を用い、上記と同様の条件で別途分岐状ポリエステルとポリメリック型MDIとを混練したところ、供給してからの滞留時間が3分となる時点における分岐状ポリエステル及びポリメリック型MDIの混合物のゲル分率は15%、10分後となる時点におけるゲル分率は40%であった。従って、供給してから3分後となる時点では、分岐状ポリエステルとポリメリック型MDIとの架橋反応が行われている途中であるということができる。
【0089】
(4)トナーの製造
得られたトナー用樹脂組成物100重量部に荷電制御剤(S−34、オリエント化学社製)1重量部、カーボンブラック5重量部(MA−100、三菱化学社製)、カルナバワックス3.5重量部(融点83℃)をヘンシェルミキサーで充分に混合した後、130℃で溶融混練し、冷却、粗粉砕した。その後、ジェットミル(ラボジェット、日本ニューマチック社製)で微粉砕して、平均粒径約8〜12μmのトナー粉末を得た。更に、このトナー粉末を分級機(MDS−2、日本ニューマチック社製)で分級して、平均粒径約10μmのトナー微粉末を得た。このトナー微粉末100重量部に、疎水性シリカ(R972、日本アエロジル社製)1.0重量部を均一に混合(外添)してトナーを製造した。
【0090】
(実施例2)
トナー用樹脂組成物の製造において、分岐状ポリエステルの添加量を97重量部、ポリメリック型MDI(44V20、住化バイエルウレタン社製)の添加量を3重量部とした以外は、実施例1と同様にしてトナー用樹脂組成物及びトナーを製造した。
【0091】
(実施例3)
トナー用樹脂組成物の製造において、分岐状ポリエステルの添加量を96.5重量部、ポリメリック型MDI(44V20、住化バイエルウレタン社製)の添加量を3.5重量部とした以外は、実施例1と同様にしてトナー用樹脂組成物及びトナーを製造した。
【0092】
(実施例4)
トナー用樹脂組成物の製造において、分岐状ポリエステルの添加量を97重量部とし、イソシアネート化合物として、ポリメリック型MDI(MR200、日本ポリウレタン社製)3重量部を用い、更に低分子量線状ポリエステルの添加量を54重量部とした以外は、実施例1と同様にしてトナー用樹脂組成物及びトナーを製造した。
【0093】
(実施例5)
(1)低分子量線状ポリエステルの製造
60Lの反応容器に蒸留塔、水分離装置、窒素ガス導入管、温度計及び攪拌措置を常法に従い設置し、窒素ガス雰囲気下にて、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸ジメチル90モル、屈曲モノマー成分としてイソフタル酸ジメチル10モル、ネオペンチルグリコール100モル、他のジオールとしてエチレングリコール100モル、エステル化縮合触媒としてチタンテトラブトキシド(TBB)0.05モルを仕込み、200℃で、生成する水及びメタノールを蒸留塔より留出させながらエステル化反応を行った。蒸留塔より水が留出しなくなった時点でエステル化反応を終了した。
エステル化反応終了後、60Lの反応容器の蒸留塔への開口部を閉鎖すると共に、真空ポンプからのラインを開き、反応系内を5mmHg以下に減圧し、240℃、攪拌回転数60rpmで縮合反応を行うとともに縮合反応で生じた遊離ジオールを反応系外へ留出させて、ポリエステルを得た。
得られたポリエステルの全量に対して無水トリメリット酸13モルを加え、200℃で約1 時間反応させることにより、低分子量線状ポリエステルを得た。なお、得られた低分子量線状ポリエステルの酸価を測定したところ、53であった。
【0094】
次いで、トナー用樹脂組成物の製造において、分岐状ポリエステルの添加量を96.8重量部とし、イソシアネート化合物として、ポリメリック型MDI(44V20、住化バイエルウレタン社製)3.2重量部を用い、得られた低分子量線状ポリエステルの添加量を100重量部とした以外は、実施例1と同様にしてトナー用樹脂組成物及びトナーを製造した。
【0095】
(実施例6)
(1)線状ポリエステルの製造
60Lの反応容器に蒸留塔、水分離装置、窒素ガス導入管、温度計及び攪拌措置を常法に従い設置し、窒素ガス雰囲気下にて、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸ジメチル90モル、屈曲モノマー成分としてイソフタル酸ジメチル10モル、ネオペンチルグリコール100モル、他のジオールとしてエチレングリコール100モル、エステル化縮合触媒としてチタンテトラブトキシド(TBB)0.05モルを仕込み、200℃で、生成する水及びメタノールを蒸留塔より留出させながらエステル化反応を行った。蒸留塔より水が留出しなくなった時点でエステル化反応を終了した。
エステル化反応終了後、60Lの反応容器の蒸留塔への開口部を閉鎖すると共に、真空ポンプからのラインを開き、反応系内を5mmHg以下に減圧し、240℃、攪拌回転数60rpmで縮合反応を行うとともに縮合反応で生じた遊離ジオールを反応系外へ留出させて、線状ポリエステルを得た。
【0096】
(2)トナー用樹脂組成物及びトナーの製造
1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリメリック型MDI(44V20、住化バイエルウレタン社製)3.5重量部、実施例1で得られた分岐状ポリエステル67.5重量部、及び、線状ポリエステル29重量部を定量フィーダーを用いて二軸押出機(池貝社製、L/D=37)に連続的に供給し、バレル温度170℃で溶融混練した後、分岐状ポリエステル及びポリメリック型MDIを供給してからの滞留時間が3分となる位置に設けたサイドフィーダーから、実施例1で得られた低分子量線状ポリエステル100重量部を投入し、更に5分間溶融混練した以外は実施例1と同様にして、トナー用樹脂組成物及びトナーを製造した。
【0097】
(実施例7)
実施例1で得られたトナー用樹脂組成物100重量部に、磁性体(BL−62、チタン工業社製)100重量部、荷電制御剤(N−01、オリエント化学社製)1重量部、酸変性PPワックス3.5重量部(融点145℃)をヘンシェルミキサーで充分に混合した後、130℃で溶融混練し、冷却、粗粉砕した。その後、ジェットミル(ラボジェット、日本ニューマチック社製)で微粉砕して、平均粒径約8〜12μmのトナー粉末を得た。更に、このトナー粉末を分級機(MDS−2、日本ニューマチック社製)で分級して、平均粒径約10μmのトナー微粉末を得た。このトナー微粉末100重量部に、疎水性シリカ(RA200HS、日本アエロジル社製)1.0重量部を均一に混合(外添)してトナーを製造した。
【0098】
(実施例8)
分岐状ポリエステルの製造において、トリメリット酸の添加量を4.3モルとした以外は実施例1と同様にして分岐状ポリエステルを得た。得られた分岐状ポリエステルの水酸基価を測定したところ、74であった。また、得られた分岐状ポリエステルの分岐度は4.07であった。次いで、トナー用樹脂組成物の製造において、分岐状ポリエステルの添加量を96.6重量部、ポリメリック型MDI(44V20、住化バイエルウレタン社製)の添加量を3.4重量部とした以外は、実施例1と同様にしてトナー用樹脂組成物及びトナーを製造した。
【0099】
(実施例9)
トナー用樹脂組成物の製造において、1分子中に2個以上のイソシアネート基を有するポリメリック型MDIの添加量を4.0重量%とし、水分量が0.6重量%の分岐状ポリエステルを用いた以外は実施例1と同様にしてトナー用樹脂組成物及びトナーを製造した。
【0100】
(実施例10)
トナー用樹脂組成物の製造において、更に多価アルコールとしてペンタエリスリトール0.1重量部を添加した以外は実施例1と同様にしてトナー用樹脂組成物及びトナーを製造した。
【0101】
(比較例1)
トナー用樹脂組成物の製造において、低分子量線状ポリエステルを投入しなかった以外は、実施例1と同様にしてトナー用樹脂組成物及びトナーを得た。
【0102】
(比較例2)
トナー用樹脂組成物の製造において、分岐状ポリエステル、ポリメリック型MDI及び低分子量線状ポリエステルとを一括して押出混練機に投入し、8分間溶融混練した以外は、実施例1と同様にしてトナー用樹脂組成物及びトナーを得た。
【0103】
(比較例3)
トナー用樹脂組成物の製造において、分岐状ポリエステル及びポリメリック型MDIを供給してからの滞留時間が10分間(ゲル分率40%)となる位置に設けたサイドフィーダーから、得られた低分子量線状ポリエステル100重量部を投入し、更に5分間溶融混練した以外は、実施例1と同様にしてトナー用樹脂組成物及びトナーを得た。
【0104】
(評価)
実施例1〜10及び比較例1〜3で作製したトナー用樹脂組成物又はトナーについて、以下の方法により評価を行った。結果を表1に示した。なお、実施例7で作製したトナーについては、高温オフセット温度及び低温オフセット温度の測定のみを行った。
【0105】
[ポリエステル及びトナー用樹脂組成物の分子量の測定]
GPC測定装置として、日本ミリポアリミテッド社製のHTR−Cを用い、カラムには昭和電工社製のKF−800P(1本)、KF−806M(2本)、KF−802.5(1本)を直列につないで使用し、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定した。測定条件は、温度は40℃、試料は0.2重量%THF溶液(0.45μmのフィルターを通過したもの)、注入量は100μL、キャリア溶媒はTHF、校正試料として標準ポリスチレンを用いた。
【0106】
[ガラス転移温度(Tg)の測定]
トナー用樹脂組成物について、示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、DSC−6200R)を用いて、昇温速度10℃/分で、JIS K 7121に準拠して測定し、該規格(9.3「ガラス転移温度の求め方」)に記載されている中間ガラス転移温度を求めた。
【0107】
[膨潤率の測定]
得られたトナー用樹脂組成物0.3gをサンプル瓶に秤取し、これにTHF30gを入れ、常温にて16時間振とうした後、200メッシュ金網フィルターで濾過し、不溶分を3回共洗いすることにより、得られた残留物の重量(膨潤体重量)を測定した。次いで、得られた残留物を80℃で1時間、1Torrで減圧乾燥し、乾燥後の重量(乾燥体重量)を測定した。このようにして得られた膨潤体重量及び乾燥体重量から、以下の式により、膨張率を求めた。
膨張率=(膨潤体重量/乾燥体重量)×100
【0108】
[フロー軟化温度の測定]
高化式フローテスター(島津製作所社製、CFT−500型)を用い、荷重20kg/cm、オリフィス1mmφ×1mm、予備温度60℃、予備時間5分、チャート速度20mm/分、プランジャー1.0cm、昇温速度6±0.5℃/minの条件下で、目開き1.19mmのJIS標準篩を通過する1.0gの測定試料を溶融流出させ、図1に示すように、樹脂の流出開始時におけるプランジャー降下量と、樹脂の流出停止時におけるプランジャー降下量との中間のプランジャー降下量h/2を与えるときの温度Tfを測定した。
【0109】
[緩和弾性率の測定]
トナー用樹脂組成物を溶融後、直径25mm、高さ1mmの円盤状に成形し、これを試験用試料とした。これを直径25mmの円盤−円盤治具に取り付け、緩和弾性率測定装置(レオメトリックス社製、RMS−800)を用いて170℃、初期剪断ひずみ450%の条件で、剪断ひずみを与えてからの時間を横軸に、緩和弾性率を縦軸にとり緩和弾性率曲線を描き、G(0.1)及びG(T)を求め、上記式(1)により緩和弾性率の勾配Kを算出した。
【0110】
[ブロッキング性の評価]
トナー10gを100mLサンプル瓶に取り、50℃の恒温槽中に8時間放置した後、パウダーテスター(ホソカワミクロン社製)を用いて250μmのフィルターでふるいにかけフィルター上に凝集物が残存するかを観察し、凝集物がある場合には、トナー重量に対する凝集物の重量(重量%)を求めた。
【0111】
[フィルミング評価]
1万枚印刷を行い、感光体ローラにトナーが付着していないかを目視で観察し、トナーの付着が見られないものをフィルミングなしと評価した。
【0112】
[高温オフセット温度及び低温オフセット温度の測定]
実施例1〜6及び比較例1〜3で得られたトナー6.5重量部を平均粒径50〜80μmの鉄粉キャリア93.5重量部と混合して現像剤を作製した。電子写真複写機としてコニカ社製のUBIX4160AFを熱定着ローラの設定温度が最大250℃まで変えられるように改造したものを用いた。
熱定着ローラの設定温度を段階的に変化させて、各設定温度の熱定着ローラによって未定着トナー像を転写紙に定着させた複写物を得た。
得られた複写物の余白部分や定着画像がトナーにより汚されているか否かを観察し、汚れが生じない温度領域を非オフセット温度領域とした。また、非オフセット温度領域の最大値を高温オフセット温度とし、最小値を低温オフセット温度とした。
なお、実施例7のトナーについては、鉄粉キャリアとの混合を行わず、トナー100重量部を現像剤として、プリンター(京セラミタ社製、ES−6020)で絵だしを行い、定着させる直前で機械を停止させ、定着前画像を得た。そして得られた定着前画像について、UBIX4160AFの熱定着ローラを用いて、上述と同様の操作を行い、複写物を得ることにより、高温オフセット温度及び低温オフセット温度の測定を行った。
【0113】
[トナーの最低定着温度の測定]
電子写真複写機の熱定着ローラの設定温度を段階的に変えて複写を行い、余白部分や定着画像にかぶりが発生することなく余白部分や定着画像がトナーにより汚されておらず、得られた複写物の定着画像をタイプライター用メンパットで擦ったとき、定着画像の濃度の低下が10%未満である場合を定着良好と判定し、その時の最低温度を求めた。
なお、画像の濃度はマクベス光度計を用いて測定した。
【0114】
[画質(カブリの有無)の確認]
高温オフセット温度及び低温オフセット温度の測定の試験と同様に未定着画像を形成し、100枚目の画像を定着させ目視により画質(カブリの有無)を確認した。カブリの発生が問題のないレベルである場合をカブリなしとし、問題となるようなカブリが発生している場合をカブリありとした。
【0115】
【表1】

【0116】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明によれば、低温定着性及び耐高温オフセット性に優れるトナー用樹脂組成物、トナー及びトナー用樹脂組成物の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】本発明のトナー用樹脂組成物の製造方法に用いる押出混練機の一例を示す模式図である。
【図2】等速昇温法によりフロー軟化点Tfを求める際のプランジャー降下量と時間(温度)との関係を示す模式的フローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋ポリエステルと低分子量線状ポリエステルとが均一に混合されてなるトナー用樹脂組成物の製造方法であって、
押出混練機に、数平均分子量が2000〜5000である分岐状ポリエステルと1分子中に2個以上のイソシアネート化合物とを投入して架橋反応を開始する工程と、前記架橋反応が完了する以前に更に低分子量線状ポリエステルを投入して混練する工程を有する
ことを特徴とするトナー用樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
架橋ポリエステルと低分子量線状ポリエステルとが均一に混合されてなるトナー用樹脂組成物の製造方法であって、
押出混練機に、数平均分子量が2000〜5000である分岐状ポリエステル、数平均分子量が2000〜1万である線状ポリエステル及び1分子中に2個以上のイソシアネート化合物を投入して架橋反応を開始する工程と、前記架橋反応が完了する以前に更に低分子量線状ポリエステルを投入して混練する工程を有する
ことを特徴とするトナー用樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
架橋ポリエステルと低分子量線状ポリエステルとを含有するトナー用樹脂組成物であって、
テトラヒドロフランに浸漬し、常温で16時間振とうした後、200メッシュの金網フィルターで濾過する方法により測定した膨潤率が500〜4000%、フロー軟化点が100〜160℃、かつ、170℃の条件下で450%の剪断ひずみを与えたときに、下記式(1)で表される剪断ひずみを与えて0.02秒後から0.1秒後の緩和弾性率曲線の勾配Kが5〜26であることを特徴とするトナー用樹脂組成物。
【数1】

【請求項4】
架橋ポリエステルは、数平均分子量が2000〜5000である分岐状ポリエステルと1分子中に2個以上のイソシアネート化合物とを反応させてなるものであることを特徴とする請求項3記載のトナー用樹脂組成物。
【請求項5】
架橋ポリエステルは、数平均分子量が2000〜5000である分岐状ポリエステル、数平均分子量が2000〜1万である線状ポリエステル及び1分子中に2個以上のイソシアネート化合物を反応させてなるものであることを特徴とする請求項3記載のトナー用樹脂組成物。
【請求項6】
数平均分子量が2000〜5000である分岐状ポリエステルは、ジカルボン酸、ジオール及びトリカルボン酸を反応させてなるものであることを特徴とする請求項4又は5記載のトナー用樹脂組成物。
【請求項7】
数平均分子量が2000〜5000である分岐状ポリエステルは、水酸基価が20〜80であることを特徴とする請求項3、4、5又は6記載のトナー用樹脂組成物。
【請求項8】
低分子量線状ポリエステルは、数平均分子量が2000〜5000であることを特徴とする請求項3、4、5、6又は7記載のトナー用樹脂組成物。
【請求項9】
低分子量線状ポリエステルは、酸価が20〜80であることを特徴とする請求項3、4、5、6、7又は8記載のトナー用樹脂組成物。
【請求項10】
請求項3、4、5、6、7、8又は9記載のトナー用樹脂組成物を用いてなることを特徴とするトナー。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−25622(P2007−25622A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352548(P2005−352548)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】