説明

トナー用結着樹脂とその製造方法

【課題】 定着性、非ホットオフセット性、保存性に優れたトナーを製造でき、混練時における含有成分の分離も抑制されたトナー用結着樹脂の提供。
【解決手段】 特定の低分子量ビニル系共重合体(a1)と、フィッシャートロプシュワックス(a2)とを含有する低分子量成分(A)と、高分子量ビニル系共重合体(B)とを特定の比率で含み、低分子量ビニル系共重合体(a1)は、アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体からなる構成単位を有し、フィッシャートロプシュワックス(a2)は、DSCによる変曲開始温度が50℃以上、ピーク温度が65〜85℃であり、かつ、低分子量成分(A)中の含有量が5〜15質量%である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真法において静電荷像を現像するトナーに使用されるトナー用結着樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真法において静電荷像を現像するトナーは、一般に着色剤、結着樹脂、荷電制御剤などを主成分とする粒子状のものであって、プリンタ、ファクシミリ、複写機などに使用されている。また、トナーを紙などのシート上に定着させる方法としては定着ロールを使用した定着ロール法が広く普及している。
このようなトナーには、まず、確実にシート上に定着すること(定着性)が求められる。また、定着ロールの温度によっては、定着ロールの表面にトナーが付着し残留してしまうというホットオフセットが生じることがあるが、このような現象ができるだけ広い温度範囲で発生しないこと(非ホットオフセット性)が求められる。
そのため、トナーに使用する結着樹脂として、定着性に優れる低分子量重合体と、非ホットオフセット性に優れる高分子量重合体との混合物を使用することが検討されている(例えば、特許文献1および2参照。)。また、結着樹脂にフィッシャートロプシュワックスのようなワックスを添加して、低温での定着性をより向上させる方法も検討されている(例えば、特許文献3参照。)。
【特許文献1】特公平4−63392号公報
【特許文献2】特許第3109198号公報
【特許文献3】特許第3058829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、これらの特許文献に開示された技術でも、十分な定着性および非ホットオフセット性は達成できていない。また、特許文献3に開示のように、結着樹脂にフィッシャートロプシュワックスを添加すると、結着樹脂の混練時に該ワックスが分離したり、得られたトナーの保存性が低下したりする場合があり、その結果、印刷ができない、印刷品質が低下するといった問題が生じるおそれがあった。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、定着性、非ホットオフセット性、保存性に優れたトナーを製造でき、混練時における含有成分の分離も抑制されたトナー用結着樹脂を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のトナー用結着樹脂は、質量平均分子量の極大値が15000以下にある低分子量ビニル系共重合体(a1)と、フィッシャートロプシュワックス(a2)とを含有する低分子量成分(A)75〜90質量%と、質量平均分子量の極大値が3×10〜5×10にある高分子量ビニル系共重合体(B)25〜10質量%とを含むトナー用結着樹脂であって、前記低分子量ビニル系共重合体(a1)は、アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体からなる構成単位を有し、前記フィッシャートロプシュワックス(a2)は、示差走査熱量分析計による変曲開始温度が50℃以上、ピーク温度が65〜85℃であって、かつ、前記低分子量成分(A)中の含有量が5〜15質量%であることを特徴とする。
前記低分子量ビニル系共重合体(a1)は、スチレン系単量体85〜98質量%と、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体15〜2質量%とからなることが好ましい。
前記低分子量成分(A)には、スチレン含有量が20〜40質量%で、質量平均分子量が3×10〜10×10である水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a3)が、5質量%未満の範囲でさらに含まれることが好ましい。
本発明のトナー用結着樹脂の製造方法は、前記トナー用結着樹脂を製造する際に、前記低分子量ビニル系共重合体(a1)を構成する単量体を、前記フィッシャートロプシュワックス(a2)の存在下、または、前記フィッシャートロプシュワックス(a2)と前記水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a3)との存在下で重合し、前記低分子量成分(A)を含む液を調製する工程(I)を有することを特徴とする。
また、本発明の製造方法において、前記工程(I)を水相での懸濁重合法で行うとともに、前記高分子量ビニル系共重合体(B)を含む液を水相での乳化重合法で調製する工程(II)と、前記低分子量成分(A)を含む液と前記高分子量ビニル系共重合体(B)を含む液とを混合した後、これに凝固処理、加熱処理を順次行い、低分子量成分(A)と高分子量ビニル系共重合体(B)との混合液を調製する工程(III)と、前記混合液から溶媒を除去する工程(IV)とを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、定着性、非ホットオフセット性、保存性に優れたトナーを製造でき、混練時における含有成分の分離も抑制されたトナー用結着樹脂を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のトナー用結着樹脂は、低分子量成分(A)75〜90質量%と、高分子量ビニル系共重合体(B)25〜10質量%とを含む。
[低分子量成分(A)]
(低分子量ビニル系共重合体(a1))
低分子量成分(A)は、アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体からなる構成単位を有する低分子量ビニル系共重合体(a1)を主成分として含有する。
アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体としては、例えば、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ステアリル 、メタクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ステアリルなどが挙げられるが、これらのうちではアクリル酸−2−エチルヘキシルとメタクリル酸ラウリルが好ましい。このような単量体からなる構成単位を有する低分子量ビニル系共重合体(a1)は、後述のフィッシャートロプシュワックス(a2)を重合体中に均一に分散させることができる。よって、このような低分子量ビニル系共重合体(a1)を使用することで、トナー用結着樹脂の混練時におけるフィッシャートロプシュワックス(a2)の分離が抑えられるとともに、非ホットオフセット性の良好なトナーが得られる。
【0008】
低分子量ビニル系共重合体(a1)は、このような(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体からなる構成単位を有するものであればよいが、このような構成単位とともに、スチレン系単量体からなる構成単位を有するものが好ましい。
【0009】
また、その際、スチレン系単量体と(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体との比率は、スチレン系単量体が85〜98質量%で、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体が15〜2質量%の範囲であることが好ましい。これら単量体の比率をこのような範囲とすることで、上述したようなフィッシャートロプシュワックス(a2)の分離がより抑制され、トナーとした際の非ホットオフセット性もより優れるトナー用結着樹脂が得られる。
【0010】
また、低分子量ビニル系共重合体(a1)としては、GPC(ゲルパーミエションクロマトグラフィ)により測定される質量平均分子量の極大値が15000以下にあるものを使用する。質量平均分子量の極大値が15000を超えた範囲にあるものでは、フィッシャートロプシュワックス(a2)との相溶性が低下し、トナー用結着樹脂の混練時においてフィッシャートロプシュワックス(a2)が分離しやすくなったり、得られるトナーの定着性、非ホットオフセット性が低下したりする傾向がある。
【0011】
(フィッシャートロプシュワックス(a2))
低分子量成分(A)に含まれるフィッシャートロプシュワックス(a2)としては、天然ガスを原料としてフィッシャートロプシュ法により製造された天然ガス系フィッシャートロプシュワックスや、石炭を原料としてフィッシャートロプシュ法により製造された石炭系フィッシャートロプシュワックスなどのうち、示差走査熱量分析計による変曲開始温度が50℃以上、ピーク温度が65〜85℃のものを使用できる。
このようなものとしては、例えば、日本精蝋(株)製のHNP−51などが挙げられる。また、変曲開始温度とピーク温度とが上記範囲内となるように、再結晶化処理などの前処理が施されたフィッシャートロプシュワックスを使用することもできる。例えば、変曲開始点が45℃、ピーク温度が78℃であるサゾール公社製のC−77をトルエンとメチルエチルケトンとの混合溶媒に投入し、溶解させた後に析出させる方法で再結晶化すると、変曲開始温度が上昇して52℃となる。本発明においては、このようなものもフィッシャートロプシュワックス(a2)として好適に使用することができる。
【0012】
なお、変曲開始温度およびピーク温度を測定する際には、まず、試料(フィッシャートロプシュワックス(a2))を室温から150℃まで20℃/minで昇温し、150℃で5分間保持し、その後、150℃から0℃まで10℃/minで降温し、0℃で5分間保持するという予備処理を行い、試料に加わっている熱履歴をキャンセルする。そして、このように予備処理された試料を0℃から150℃まで10℃/minで再昇温し、その際の変曲開始温度とピーク温度とを測定する。なお、変曲開始点とは、図1中、Aで示される点であって、吸熱が始まる温度をいう。
【0013】
ここで変曲開始温度が50℃未満である場合や、ピーク温度が65℃未満の場合には、得られるトナーの流動性が低下したり凝集したりして、その保存性が悪くなる。また、トナー用結着樹脂の混練時においてフィッシャートロプシュワックスが分離しやすくなる場合や、得られるトナーの定着性が低下する場合もある。ピーク温度が85℃を超える場合にも、トナー用結着樹脂の混練時におけるフィッシャートロプシュワックスの分離や、得られるトナーの定着性や保存性の低下が認められる傾向にある。
【0014】
また、フィッシャートロプシュワックス(a2)の低分子量成分(A)中の含有量は5〜15質量%である。含有量が5質量%未満であると、トナーの定着性が不十分となり、非ホットオフセット性も低下する。一方15質量%を超えると、トナー用結着樹脂の混練時においてフィッシャートロプシュワックス(a2)が分離しやすくなる。
【0015】
低分子量成分(A)には、必要に応じて、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a3)が含まれてもよい。水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a3)は、低分子量成分(A)と後述の高分子量ビニル系共重合体(B)との相溶化剤として作用するものであって、これを使用することにより、低分子量成分(A)と後述の高分子量ビニル系共重合体(B)との相溶性が高まり、その結果、トナー用結着樹脂の混練時にフィッシャートロプシュワックス(a2)が均一に分散され、トナーの帯電性、流動性が良好となる。また、これは水素添加処理されたものであるため、この水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a3)の存在下で単量体を重合して、低分子量成分(A)を製造した場合でも、この水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a3)は他の成分と反応せず、相溶化剤として安定に作用する。ただし、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a3)の添加が過剰になると、トナーの定着率、非ホットオフセット性などに悪影響を及ぼす可能性があるため、その添加量は低分子量成分(A)の5質量%未満が好ましい。
【0016】
水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a3)としては、構成単位としてスチレンを有し、スチレン含有量が20〜40質量%で、質量平均分子量が3×10〜10×10のものが好適である。このようなものを選択することにより、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a3)の添加効果がより高まる。このような市販品としては、スチレンの他に、エチレンおよびブチレンからなる構成単位を含有するクレイトンポリマージャパン(株)製のクレイトンG1726(水素添加率100%)が例示できる。ここで水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a3)として、質量平均分子量が10×10を超えるものを使用すると、特に、トナー用結着樹脂の混練時においてフィッシャートロプシュワックス(a2)が分離しやすくなったり、得られるトナーの定着性や非ホットオフセット性が低下したりする傾向がある。また、スチレン含有量が20質量%以下のものでは、低分子量ビニル系共重合体(a1)との相溶性が低下する傾向があり、40質量%を超えるものでは、トナー用結着樹脂の混練時においてフィッシャートロプシュワックス(a2)が分離しやすくなったり、得られるトナーの定着性や非ホットオフセット性が低下したりする傾向がある。
【0017】
低分子量成分(A)の製造方法としては、上述の低分子量ビニル系共重合体(a1)と、フィッシャートロプシュワックス(a2)と、必要に応じて使用される水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a3)とをそれぞれ製造して、これらを混合する方法でもよいが、低分子量ビニル系共重合体(a1)を構成する単量体を、フィッシャートロプシュワックス(a2)の存在下、または、フィッシャートロプシュワックス(a2)と水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a3)との存在下で重合し、低分子量成分(A)を含む液を調製する方法(工程(I))が好ましい。このような工程(I)で得られた低分子量成分(A)を使用すると、フィッシャートロプシュワックス(a2)がトナー用結着樹脂の混練時に分離しにくくなり、定着性に優れたトナーが得られやすい。
【0018】
工程(I)は、各種重合法で行えるが、特に、水相での懸濁重合法により行うことが好ましい。
例えば、イオン交換水にノニオン系分散剤を加えた後、低分子量ビニル系共重合体(a1)を構成する単量体に、過酸化ベンゾイル(BPO)、t−ブチルパーベンゾエートなどの重合開始剤を溶解させたものを加えて40℃で10分間撹拌混合し、分散液を調製する。その後、この分散液にフィッシャートロプシュワックス(a2)を加えて、撹拌しながら、100〜140℃で0.5〜5時間程度保持し、重合させればよい。さらに必要に応じて水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a3)を使用する場合には、イオン交換水にノニオン系分散剤を加えた水相に、低分子量ビニル系共重合体(a1)を構成する単量体と、前記重合開始剤と、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a3)とを混合溶解させたものを加えて40℃で10分間撹拌混合し、分散液を調製する。その後、この分散液にフィッシャートロプシュワックス(a2)を加えて、前記条件で重合させればよい。また、その後、必要に応じて、アルカリ水溶液を添加するなどして、pHを調整してもよい。
【0019】
懸濁重合に使用されるノニオン系分散剤としては、ポリビニルアルコール(PVA)、メチルセルロース、エチルセルロース、ゼラチン、ポリエチレンオキサイド(PEO)などが挙げられ、これらのなかでも、特にケン化度が80〜90%、重合度が1500〜3000のPVAや、質量平均分子量が10万〜100万のPEOの使用が好ましい。
なお、このようなノニオン系分散剤を使用すると、アニオン系またはカチオン系分散剤を使用した場合に比べて、高い分散性を安定に付与することができる。
また、ここで使用するノニオン系分散剤の量は、低分子量ビニル系共重合体(a1)を構成する単量体100質量部に対して、0.05〜1質量部程度である。
【0020】
[高分子量ビニル系共重合体(B)]
トナー用結着樹脂に含まれる高分子量ビニル系共重合体(B)は、ビニル系単量体から構成され、質量平均分子量の極大値が3×10〜5×10の範囲にあるものである。
高分子量ビニル系共重合体(B)を構成するビニル単量体としては特に制限はなく、例えば、スチレン(St)、o−、m−、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−エチルスチレン、p−tert−ブチルスチレンなどのスチレン系単量体、ビニルナフタレン類、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどのエチレン系不飽和モノオレフィン類、塩化ビニル、フッ化ビニル、酢酸ビニル、酪酸ビニルなどのビニルエステル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−n−ブチル(BA)、アクリル酸イソブチル、アクリル酸−n−オクチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル(2EHA)、アクリル酸クロルエチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸−n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリルなどのエチレン性モノカルボン酸およびそのエステル類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタアクリロアミドなどのエチレン性モノカルボン酸誘導体、ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル、ビニルイソブチルエーテルなどのビニルエーテル類、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチルなどのエチレン性ジカルボン酸およびその誘導体、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトンなどのビニルケトン類、ビニリデンクロリド、ビニリデンクロルフルオリドなどのビニリデンハロゲン化物、n−ビニルピロール、n−ビニルカルバゾール、n−ビニルインドール、n−ビニルピロリドンなどのn−ビニル化合物類などが挙げられ、これらビニル系単量体の2種以上を使用できる。
【0021】
これらのなかでは、スチレンとアクリル酸−n−ブチルとを併用することが好ましい。また、この際のスチレンとアクリル酸−n−ブチルの好ましい比率は、スチレンとアクリル酸−n−ブチルとの合計中、スチレンが50〜80質量%の範囲である。
【0022】
高分子量ビニル系共重合体(B)の製造方法としては、特に制限はないが、水相での乳化重合法により行う方法(工程(II))が好適である。
例えば、イオン交換水にアニオン系界面活性剤と重合開始剤とビニル系単量体とを加え、撹拌しながら60〜90℃で1〜8時間程度保持すればよい。
このような方法で、質量平均分子量の極大値が3×10〜5×10の範囲にある高分子量ビニル系共重合体(B)を製造する。ここで極大値が3×10未満では、非ホットオフセット性が低下する傾向があり、5×10超えると、混練時、低分子量成分(A)との均一化が困難となる。
【0023】
乳化重合に使用するアニオン系界面活性剤としては、脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩などが挙げられ、高分子量ビニル系共重合体(B)を構成するビニル系単量体100質量部に対して通常1〜10質量部程度使用する。重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム(KPS)、過硫酸アンモニウム、過酸化水素水、4,4−アゾビス(4−シアノ吉草酸)などが適量使用できる。
【0024】
[トナー用結着樹脂とその製造方法]
本発明のトナー用結着樹脂は、低分子量成分(A)75〜90質量%と、高分子量ビニル系共重合体(B)25〜10質量%とを含有する。ここで低分子量成分(A)が75質量%未満の場合や高分子量ビニル系共重合体(B)が25質量%を超える場合には、トナーの定着性が低下する。一方、低分子量成分(A)が90質量%を超える場合や高分子量ビニル系共重合体(B)が10質量%未満の場合には、非ホットオフセット性が低下する。
【0025】
このようなトナー用結着樹脂は次のようにして製造できる。
まず、上述したように、好ましくは水相での懸濁重合法により、低分子量成分(A)を含む液を調整する(工程(I))。一方、上述したように、好ましくは水相での乳化重合法により、高分子量ビニル系共重合体(B)を含む液を調製する(工程(II))。
ついで、低分子量成分(A)を含む液と、高分子量ビニル系共重合体(B)を含む液とを混合し、室温〜50℃で0.5〜2時間程度撹拌混合し、引き続き、凝固処理、加熱処理を順次行うことにより、低分子量成分(A)と高分子量ビニル系共重合体(B)の混合液を得る(工程(III))。この混合液中では、低分子量成分(A)と高分子量ビニル系共重合体(B)とは均一に混合固着されている。
そして、この混合液から、ろ過、洗浄、脱水、乾燥などの方法により溶媒を除去する工程(工程(IV))を行うことにより、トナー用結着樹脂が得られる。
【0026】
工程(III)での凝固処理は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸銅、硝酸カルシウムなど電界質の水溶液からなる塩析剤を使用した通常の方法で行えばよいが、好ましくは、高分子量ビニル系共重合体(B)のガラス転移温度以下の温度条件下で行う。このような温度条件下で行うと、高分子量ビニル系共重合体(B)からなる細かい均一な粒子が生成し、これが低分子量成分(A)からなる粒子の表面に吸着する。
また、加熱処理は、高分子量ビニル系共重合体(B)のガラス転移温度以上の温度条件下で行うことが好ましい。このような温度条件下で行うと、低分子量成分(A)と高分子量ビニル系共重合体(B)が互いに強固かつ均一に混合固着する。
【0027】
以上説明した製造方法においては、低分子量成分(A)の製造にあたって、フィッシャートロプシュワックス(a2)の存在下でビニル系単量体を重合しているので、分子量が小さく、単に混合するだけでは他の樹脂分とは均一に相溶しにくいフィッシャートロプシュワックス(a2)を、トナー用結着樹脂中に容易に均一に分散させ、その分離を抑制することができる。
【0028】
こうして製造されたトナー用結着樹脂は、公知の方法、すなわち、荷電制御剤、着色剤、必要に応じて添加される各種添加剤などとともに、ボールミルなどの混合器で充分混合され、熱ロールニーダー、エクストルーダーなどの熱混練機を用いて混練され、冷却固化後、機械的な粉砕、分級によって、トナー化される方法;結着樹脂溶液中に、荷電制御剤、着色剤、必要に応じて添加される各種添加剤などを分散した後、噴霧乾燥することによりトナー化される方法;着色剤とともに粒子とされ、その粒子表面に負荷電制御剤が固着させ、トナー化される方法などでトナーとされる。
【0029】
荷電制御剤や着色剤としては特に制はなく、公知のものを適宜使用できる。
また、添加剤としては、ステアリン酸亜鉛などの滑剤、酸化セリウム、炭化ケイ素などの研磨剤、酸化アルミニウムなどの流動性付与剤、ケーキング防止剤、カーボンブラック、酸化スズなどの導電性付与剤などが挙げられる。
さらに、トナーには必要に応じて適宜磁性材料が添加され、磁性トナーとされてもよい。
【実施例】
【0030】
以下、本発明について実施例を示して具体的に説明する。
なお、例中「部」とは「質量部」を、「%」とは「質量%」を示す。
【0031】
[フィッシャートロプシュワックス(a2)の示差走査熱量分析]
実施例および比較例で使用した4種のフィッシャートロプシュワックスについて、次のようにして示差走査熱量分析を行い、変曲開始温度とピーク温度とを測定した。結果を表1に示す。
まず、試料(フィッシャートロプシュワックス)をアルミニウム製のセルにおよそ3mg秤量した。ついで、これを室温から150℃まで20℃/minで昇温し、150℃で5分間保持し、その後、150℃から0℃まで10℃/minで降温し、0℃で5分間保持する予備処理を行い、試料に加わっている熱履歴をキャンセルした。
ついで、このように予備処理された試料を0℃から150℃まで10℃/minで再昇温し、その際の変曲開始温度とピーク温度とを測定した。
なお、分析装置として島津製作所製のDSC−60を、標準サンプルとしてα−アルミナを使用した。
【0032】
【表1】

【0033】
なお、表1中の「再結晶C−77」とは、サゾール公社製の「C−77」を再結晶化処理したものである。具体的には、C−77:50gを、トルエン100gとメチルエチルケトン400gからなる混合溶媒500gに投入し、撹拌下で昇温して溶解させた後、冷却して結晶を析出させることにより、再結晶化処理した。
【0034】
[実施例1]
(1)工程(I):低分子量成分(A)を含む液の調製(水相での懸濁重合法)
イオン交換水200部にノニオン系分散剤0.2部を加えたものに対して、スチレン82.3部、メタクリル酸ラウリル6.2部、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(クレイトンポリマージャパン(株)製クレイトンG1726(水素添加率100%))1.8部、重合開始剤として過酸化ベンゾイル13部とt−ブチルパーベンゾエート1部を混合溶解した溶液を加えて分散液とした。この中にフィッシャートロプシュワックス(日本精蝋(株)製HNP−51)9.7部を入れ、130℃、3時間の条件で懸濁重合を行い、冷却した。なお、この液を冷却する際に、25%水酸化ナトリウム水溶液を3部加えて液のpHを5.5以上とし、重合開始剤残渣である安息香酸を中和した。
このようにして低分子量成分(A)を含む液(懸濁液)を調製した。
得られた低分子量成分(A)をテトラヒドロフラン溶液とし、その質量平均分子量をGPCにより測定した。質量平均分子量の極大値は4000であった。なお、GPCは、検出器として昭和電工(株)製 Shodex RI−71、カラムとして昭和電工(株)製 Shodex A−806Mを備えたものを使用した。
使用したビニル系単量体、フィッシャートロプシュワックス、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマーの種類や使用量などを表2にまとめる。量はいずれも質量部である。
【0035】
(2)工程(II):高分子量ビニル系共重合体(B)を含む液の調製(水相での乳化重合法)
イオン交換水150部、アニオン系界面活性剤6部、重合開始剤(過硫酸カリウム)0.02部の存在下で、スチレン70部と、アクリル酸ブチル30部とを80℃、5時間の条件で乳化重合し、高分子量ビニル系共重合体(B)を含む液(エマルション)を製造した。
得られた高分子量ビニル系共重合体(B)をテトラヒドロフラン溶液とし、その質量平均分子量をGPCにより測定した。質量平均分子量の極大値は200万であった。
また、示差走査熱量分析計測定によるガラス転移温度は50℃であった。
【0036】
(3)工程(III):混合液の調製
上記(1)および(2)で製造された低分子量成分(A)を含む懸濁液と高分子量ビニル系共重合体(B)を含むエマルションとを、これらの固形分(樹脂分)比が、表3に示す比86.9/13.1となるように混合撹拌し、40℃に調整した。ついで、塩析剤として、10%硝酸カルシウム水溶液10部をゆっくりと滴下し、滴下後1時間放置することで凝固処理を行った。その後引き続き、70℃で1時間保持して加熱処理を行い、低分子量成分(A)と高分子量ビニル系共重合体(B)とを均一に混合固着させ、低分子量成分(A)と高分子量ビニル系共重合体(B)との混合液を調製した。
(4)工程(IV):混合液からの溶媒の除去
上記(3)で得られた混合液を30℃以下まで冷却し、遠心脱水機で脱水し、50℃、24時間の条件で乾燥させて、トナー用結着樹脂を得た。
【0037】
(トナーの製造)
得られたトナー用結着樹脂95部と、着色剤(三菱化学製、カーボンブラックMA−100)5部と、荷電制御剤(オリエント化学製、ボントロンS−34)1部とを小型粉砕機で混合し、ラボプラストミル(東洋精機製作所製、容量100ml、回転数70回転)により90℃で10分間混練した。その後、混練物を室温まで冷却し、ラボジェットミル(日本ニューマチック製)で粉砕し、風力分級機(日本ニューマチック製)で分級して、粒子径8〜10μmのトナーを得た。
【0038】
(各種測定および評価)
得られたトナー用結着樹脂とトナーについて、以下の測定および評価を実施した。結果を表3に示す。
(a)トナー用結着樹脂の混練性
トナー用結着樹脂を、ラボプラストミル(東洋精機製作所製、容量60ml、回転数70回転)により90℃で混練した際のトナー用結着樹脂の状態変化を目視で観察した。
表中の略号は以下の内容を示す。
○:ワックスの分離が見られず、樹脂の均一性が優れ、光沢がある。
△:ワックスが少量分離し、ミルの壁面への付着が若干認められる。
×:混練初期よりワックスが分離し、樹脂は不均一な状態である。
(b)トナーの定着性
京セラミタ製の市販の複写機を定着ロールの温度を適宜変更できるように改造し、定着機とした。この定着機を使用して、A4サイズの上質紙上にID濃度0.5〜0.7程度になるように調整した均一な画像を形成し、150℃で定着させた。なお、定着性試験時の環境は、20℃−60%湿度の恒温環境とした。
その後、得られた定着画像に対して、堅牢度試験機を使用して荷重500gで10往復の紙擦り試験を行った。紙擦り試験後の試験前に対するID残存率を求め、定着率とし、表3にその値を示した。
定着率80%以上であれば「定着性良好」と判断した。
(c)トナーの非ホットオフセット性
(b)と同様の定着機を使用して、ID1.3以上の黒ベタ文字を作成し、種々の温度(5℃間隔)で定着させた。そして、定着後の文字が定着ロールに残らない温度範囲を表3に示した。
温度の幅が30℃以上であれば「非ホットオフセット性良好」と判断した。
(d)トナーの保存性
トナー10gをサンプル瓶に入れ、50℃で100時間保持した後のトナーの凝集状態を目視で確認した。
表中の略号は以下の内容を示す。
○:凝集が認められない。
△:軽く凝集しているが、少しの負荷を加えることで、凝集が解かれる。
×:強く凝集し、流動性も悪化している。
【0039】
[実施例2〜6および比較例1〜8]
表2に示すように、使用するビニル系単量体、フィッシャートロプシュワックス、水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマーの種類や使用量などを変化させた以外は、実施例1と同様にして、低分子量成分(A)を含む液を調製した。そして、表3に示す固形分比となるようにした以外は実施例1と同様にして高分子量ビニル系共重合体(B)を含む液と混合した。以降の工程も実施例1と同様にして、トナー用結着樹脂およびトナーを製造した。そして、これらについて、実施例1と同様の各種測定と評価を実施した。結果を表3に示す。
【0040】
【表2】

表中の略号は以下の内容を示す。
St:スチレン
LMA:メタクリル酸ラウリル
2EHA:アクリル酸2−エチルヘキシル
G1726:クレイトンポリマージャパン(株)製クレイトンG1726
G1701:クレイトンポリマージャパン(株)製クレイトンG1701
【0041】
【表3】

【0042】
なお、(B)成分は、全ての例で、質量平均分子量の極大値が200万のSt/BA共重合体(質量比:St/BA=70/30)を使用した。
【0043】
表3から明らかなように、各実施例で得られたトナー用結着樹脂は、ラボプラストミルで混練した際に、ワックスの分離が見られず樹脂の均一性が優れ、光沢があり、混練性に優れていた。また、このようなトナー用結着樹脂を使用して得られたトナーは、定着性、非ホットオフセット性、保存性に優れていた。よって、実施例のトナーを使用すると、高い印刷品質が発揮できることが示唆された。
一方、各比較例で得られたトナー用結着樹脂は、ラボプラストミルで混練した際にワックスが分離したり、トナーとした際の定着性、非ホットオフセット性、保存性が低下したりして、その特性が不十分であった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明において好適に使用されるフィッシャートロプシュワックス(a2)の示差走査熱量測定結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量平均分子量の極大値が15000以下にある低分子量ビニル系共重合体(a1)と、フィッシャートロプシュワックス(a2)とを含有する低分子量成分(A)75〜90質量%と、質量平均分子量の極大値が3×10〜5×10にある高分子量ビニル系共重合体(B)25〜10質量%とを含むトナー用結着樹脂であって、
前記低分子量ビニル系共重合体(a1)は、アルキル基の炭素数が8以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体からなる構成単位を有し、
前記フィッシャートロプシュワックス(a2)は、示差走査熱量分析計による変曲開始温度が50℃以上、ピーク温度が65〜85℃であって、かつ、前記低分子量成分(A)中の含有量が5〜15質量%であることを特徴とするトナー用結着樹脂。
【請求項2】
前記低分子量ビニル系共重合体(a1)は、スチレン系単量体85〜98質量%と、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体15〜2質量%とからなることを特徴とする請求項1に記載のトナー用結着樹脂。
【請求項3】
前記低分子量成分(A)には、スチレン含有量が20〜40質量%で、質量平均分子量が3×10〜10×10である水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a3)が、5質量%未満の範囲でさらに含まれることを特徴とする請求項1または2に記載のトナー用結着樹脂。
【請求項4】
請求項1または2に記載のトナー用結着樹脂の製造方法であって、
前記低分子量ビニル系共重合体(a1)を構成する単量体を、前記フィッシャートロプシュワックス(a2)の存在下で重合し、前記低分子量成分(A)を含む液を調製する工程(I)を有することを特徴とするトナー用結着樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項3に記載のトナー用結着樹脂の製造方法であって、
前記低分子量ビニル系共重合体(a1)を構成する単量体を、前記フィッシャートロプシュワックス(a2)と前記水素添加処理スチレン系熱可塑性エラストマー(a3)との存在下で重合し、前記低分子量成分(A)を含む液を調製する工程(I)を有することを特徴とするトナー用結着樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記工程(I)を水相での懸濁重合法で行うとともに、
前記高分子量ビニル系共重合体(B)を含む液を水相での乳化重合法で調製する工程(II)と、
前記低分子量成分(A)を含む液と前記高分子量ビニル系共重合体(B)を含む液とを混合した後、これに凝固処理、加熱処理を順次行い、低分子量成分(A)と高分子量ビニル系共重合体(B)とを含む混合液を調製する工程(III)と、
前記混合液から溶媒を除去する工程(IV)とを有することを特徴とする請求項4または5に記載のトナー用結着樹脂の製造方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−47636(P2007−47636A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−234063(P2005−234063)
【出願日】平成17年8月12日(2005.8.12)
【出願人】(000224123)藤倉化成株式会社 (124)
【Fターム(参考)】