説明

トラフィック予測装置、トラフィック予測方法およびトラフィック予測プログラム

【課題】通信事業者を考慮した、地域間の交流トラフィックを予測する。
【解決手段】複数の地域間で発生する交流トラフィック21と、折り返し比率22とにもとづいて、同一地域内で発着される折り返しトラフィクを算出する手段12と、通信事業者毎のシェア情報23と、交流トラフィック21とにもとづいて自通信事業者内の地域間で発生する内部交流トラフィックを算出する手段13と、折り返しトラフィックが複数の通信事業者間で交流する比重と、交流トラフィック21と、折り返しトラフィックと、通信事業者毎のシェア情報23とにもとづいて、自通信事業者と他通信事業者との間で発生する内外交流トラフィックを算出する手段14と、比重と、交流トラフィック21と、折り返しトラフィックと、通信事業者毎のシェア情報23とにもとづいて、他通信事業者間で発生する外部交流トラフィックを算出する手段15と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の地域間で発生するトラフィック予測技術に関し、特に、通信事業者毎のトラフィック予測技術に関する。
【背景技術】
【0002】
通信事業者において、IP(Internet Protocol)バックボーンネットワークの機能配備・設置のアーキテクチャを検討するためには、ネットワーク設計の基礎データとなる将来の地域間交流トラフィックを適切に予測する必要がある。
【0003】
ここで、トラフィックの予測には大きく2つの方式がある。1つはミクロ的な予測である。これは、既存のネットワークの利用率などを定常的に監視・記録しておき、そのデータをもとに、将来のトラフィックを推定予測するものである。このミクロ的な予測は、すでに構築されたネットワークにおける装置やケーブルの増設などに適用される。
【0004】
もう1つは、マクロ的な予測である。これは、人口、トレンド、社会的要因などから将来のトラフィックを推定予測するものである。新規にIPバックボーンネットワークの機能配備・設置などを行う場合は、このようなマクロ的な予測を適用し、将来の地域間交流トラフィックを予測することが望ましい。
【0005】
マクロ的な予測を用いた地域間交流トラフィック予測は、ユーザの生成に関わる要因(ユーザによるアクセスサービスの選択行動、ユーザ特性、地域特性など)と、トラフィックの生成に関わる要因(トラフィック生成に関連するユーザのアプリケーション利用動向、アクセスサービスとトラフィックの関連、ユーザ特性、地域特性など)とを用いて、地域間の発着トラフィックのボリュームを予測する。
【0006】
このような地域間交流トラフィックの予測については、例えば非特許文献1に記載されている。非特許文献1では、日本において分析の対象となるIPネットワークを想定し、そのIPネットワークにおいて地域間の交流トラフィックがどのように変化するのかを予測する技術である。
【非特許文献1】Shimogawa, S., and Shinno, M., “Mechanism of Diffusion of Fixed-Line Broadband Access Service in Japan and its Application to Long-Term Growth Prediction - Rapid Information and Internet Poricy”, Arlington, Virginia, sept. 28-30, 2007、[online]、[平成20年6月5日検索]、インターネット<URL: http://web.si.umich.edu/tprc/papers/2007/755/shinsuke-shimogawa.pdf>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1などで用いられるネットワークモデルを図1に示す。図示するネットワークモデルは、日本国内91では、複数の国内IP網91、92と、PSTN(公衆電話回線網)94と、携帯電話網95とが存在する。また日本国外では、国際IP網95が存在する。国内IP網91、92は、IX(Internet eXchange)などとピアリング(Peering)することで国際IP網96と、また、GW(ゲートウェイ装置)を介することでPSTN94や携帯電話網95などの異種ネットワークと接続される。
【0008】
非特許文献1では、このようなネットワークモデルにおいて、国内IP網91、92の間で交流(発信および着信)する国内IP網間の交流トラフィックaと、国内IP網91、92と国際IP網96との間で交流する交流トラフィックbと、国内IP網91、92とPSTN94との間で交流する交流トラフィックcと、国内IP網91、92と携帯電話網95との間で交流する交流トラフィックdとを、予測の対象としている。このため、交流トラフィックの端点としては、エッジノード、IX、GWを想定し、これら端点相互における交流トラフィックを予測する。
【0009】
このように、非特許文献1では、単一のIP網(すなわち、1つの通信事業者によって提供されるIP網)で構築されていると仮定している。しかしながら、インターネットのような実際のIP網では、複数の異なる通信事業者のIP網が相互に接続して構築される集合体である。
【0010】
そのため、各通信事業者は、非特許文献1などで予測される通信事業者を考慮しない地域間の交流トラフィックをそのまま用いて、自通信事業者のIPバックボーンネットワークの機能配備・設置のアーキテクチャを検討(例えば、ピアリングの場所の検討、トランジットを考慮した設備設計など)することができない。
【0011】
すなわち、非特許文献1などで予測される地域間の交流トラフィックには、端点にロケーション情報(例えば、東京都発−大阪府着など)はあるが、通信事業者情報(例えば、東京都の通信事業者A発−大阪府の通信事業者B着など)がないため、通信事業者毎に端点が存在する実際のIP網において、通信事業者を考慮した交流トラフィックの端点を決定できない。
【0012】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、通信事業者を考慮した、地域間の交流トラフィックを予測することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、入力された複数の地域間で発生する交流トラフィックと、予め記憶手段に記憶された交流トラフィックに対応した折り返し比率とにもとづいて、同一地域内で発着される折り返しトラフィクを算出する手段と、あらかじめ記憶手段に記憶された通信事業者毎のシェア情報と、前記交流トラフィックとにもとづいて、自通信事業者内の複数の地域間で発生する内部交流トラフィックを算出する手段と、前記折り返しトラフィックが複数の通信事業者間で交流する比重と、前記交流トラフィックと、前記折り返しトラフィックと、前記通信事業者毎のシェア情報とにもとづいて、自通信事業者と他通信事業者との間で発生する内外交流トラフィックを算出する手段と、前記比重と、前記交流トラフィックと、前記折り返しトラフィックと、前記通信事業者毎のシェア情報とにもとづいて、他通信事業者間で発生する外部交流トラフィックを算出する手段と、を有するトラフィック予測装置。
【0014】
また、本発明は、トラフィック予測装置が行うトラフィック予測方法であって、入力された複数の地域間で発生する交流トラフィックと、予め記憶部に記憶された交流トラフィックに対応した折り返し比率とにもとづいて、同一地域内で発着される折り返しトラフィクを算出するステップと、あらかじめ記憶部に記憶された通信事業者毎のシェア情報と、前記交流トラフィックとにもとづいて、自通信事業者内の複数の地域間で発生する内部交流トラフィックを算出するステップと、前記折り返しトラフィックが複数の通信事業者間で交流する比重と、前記交流トラフィックと、前記折り返しトラフィックと、前記通信事業者毎のシェア情報とにもとづいて、自通信事業者と他通信事業者との間で発生する内外交流トラフィックを算出するステップと、前記比重と、前記交流トラフィックと、前記折り返しトラフィックと、前記通信事業者毎のシェア情報とにもとづいて、他通信事業者間で発生する外部交流トラフィックを算出するステップと、を有する。
【0015】
また、本発明は、トラフィック予測装置が実行するトラフィック予測プログラムであって、前記トラフィック予測装置に、入力された複数の地域間で発生する交流トラフィックと、予め記憶部に記憶された交流トラフィックに対応した折り返し比率とにもとづいて、同一地域内で発着される折り返しトラフィクを算出するステップと、あらかじめ記憶部に記憶された通信事業者毎のシェア情報と、前記交流トラフィックとにもとづいて、自通信事業者内の複数の地域間で発生する内部交流トラフィックを算出するステップと、前記折り返しトラフィックが複数の通信事業者間で交流する比重と、前記交流トラフィックと、前記折り返しトラフィックと、前記通信事業者毎のシェア情報とにもとづいて、自通信事業者と他通信事業者との間で発生する内外交流トラフィックを算出するステップと、前記比重と、前記交流トラフィックと、前記折り返しトラフィックと、前記通信事業者毎のシェア情報とにもとづいて、他通信事業者間で発生する外部交流トラフィックを算出するステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、通信事業者を考慮しない地域間交流トラフィックを、通信事業者を考慮した地域間交流トラフィックに変換し、通信事業者毎のトラフィック需要予測データを取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0018】
図2は、本発明の一実施形態が適用されたトラフィック予測装置1の構成を示すブロック図である。
【0019】
トラフィック予測装置1は、入力部11と、折り返しトラフィック算出部12と、内部交流トラフィック算出部13と、内外交流トラフィック算出部14と、外部交流トラフィック算出部15と、外部網交流トラフィック算出部16と、交流トラフィック記憶部21と、折り返し比情報記憶部22と、通信事業者シェア情報記憶部23と、通信事業者間の交流トラフィック記憶部24とを有する。
【0020】
入力部11は、複数の地域間の交流トラフィックを入力し、交流トラフィック記憶部21に記憶する。折り返しトラフィック算出部12は、折り返し比情報記憶部22を参照し、交流トラフィックから折り返しトラフィックを算出する。内部交流トラフィック算出部13は、通信事業者シェア情報記憶部23を参照し、交流トラフィックを用いて、内部交流トラフィックを算出する。
【0021】
内外交流トラフィック算出部14は、通信事業者シェア情報記憶部23を参照し、交流トラフィックと折り返しトラフィックとを用いて、内外交流トラフィックを算出する。外部交流トラフィック算出部15は、通信事業者シェア情報記憶部23を参照し、交流トラフィックと折り返しトラフィックとを用いて、外部交流トラフィックを算出する。外部網交流トラフィック算出部16は、通信事業者シェア情報記憶部23を参照し、交流トラフィックを用いて外部網交流トラフィックを算出する。
【0022】
内部交流トラフィック算出部13、内外交流トラフィック算出部14、外部交流トラフィック算出部15および外部網交流トラフィック算出部16は、算出した算出結果を通信事業者毎の交流トラフィック記憶部24に記憶する。各記憶部21〜24に記憶されるデータ・情報については後述する。
【0023】
上記説明したトラフィック予測装置1は、CPUと、メモリと、入力装置と、出力装置と、外部記憶装置とを備えた汎用的なコンピュータを用いることができる。このコンピュータおいて、CPUがメモリ上にロードされたトラフィック予測装置1用のプログラムを実行することにより、トラフィック予測装置1の各機能が実現される。
【0024】
次に、本実施形態のトラフィック予測装置1が、通信事業者別の交流トラフィックを算出する処理について説明する。
【0025】
以下に述べる処理では、説明をわかり易くするため、図3に示す簡易なネットワークモデルを用いることとする。図3では、図1に示す国内IP網として東京、大阪、福岡と、国際IP網との4地域(拠点、ノードなど)のみとする。国際IP網は、日本以外のIP網を抽象的に示したものである。国際IP網のような特別なトラフィックの端点は、図1に示すように、PSTNおよび携帯網もあるが、国際IP網と同様の方法でトラフィック予測を取得できるため、図3では省略する。
【0026】
図4は、トラフィック予測装置1の処理を示すフローチャートである。
【0027】
入力部11は、地域間の交流トラフィックの予測データ(以下、「入力トラフィック」)を入力し、交流トラフィック記憶部21に記憶する(S11)。入力トラフィックは、通信事業者(以下、「事業者」)を区別していない、複数の地域間で発生する交流トラフィックの予測データであって、例えば非特許文献1などにより算出されたデータを用いることが考えられる。
【0028】
図5は、交流トラフィック記憶部21に記憶された、入力トラフィックの具体例を示したものである。図示する入力トラフィックは、図3の各矢印が示す地域間の交流トラフィックの方向および交流トラフィック量を、表にしたものである。具体的には、東京発で大阪着の交流トラフィックは「160Mbps」で、大阪発で東京着の交流トラフィックは「100Mbps」であることを示している。
【0029】
そして、折り返しトラフィック算出部12は、交流トラフィック記憶部21に記憶された入力トラフィックから、折り返しトラフィックを算出する(S12)。折り返しトラフィックは、例えば東京発−東京着のように、発信地域と着信地域とが同じ地域のトラフィックである。
【0030】
図5に示すような入力トラフィックの場合、異なる地域の間の交流トラフィック予測を対象としているため、同一地域内に閉じた交流トラフィック(すなわち、折り返しトラフィック)は対象外で予測されていない。
【0031】
しかしながら、本実施形態では、発着が同じ地域であっても事業者が異なる交流トラフィック(例えば東京の事業者A発−東京の事業者B着のような、同じ地域間であっても異なる事業者を使用する交流トラフィック)を算出する必要がある。そのため、折り返しトラフィックを算出する。
【0032】
所定の地域Aについて折り返しトラフィックを算出する場合、地域Aを発信および着信とするトラフィックの総量を算出し、当該総量に比例した値が、折り返しトラフィックとして地域Aに存在すると仮定する。
【0033】
地域Aを発着するトラフィックの総量が多いということは、地域A内にそれだけトラフィックを吐き出したり(発信したり)、吸い込んだり(着信したり)している端末が多く存在することになる。そのような端末が多く存在する地域A内部では、同様に多くの折り返しトラフィックが存在すると予測されるからである。すなわち、地域A内部では、地域Aを発着とするトラフィック総量に、ある程度の相関を有する折り返しトラフィックが存在すると予測されるからである。
【0034】
具体的には、折り返しトラフィック算出部12は、入力トラフィック(図5参照)を読み出し、下記の式により折り返しトラフィックを算出する。
【0035】
地域Aの折り返しトラフィック=
(地域A発の交流トラフィック合計+地域A着の交流トラフィック合計)×折り返し比
折り返し比は、地域間の交流トラフィックに対する、地域内の交流トラフィックの比率である。本実施形態の折り返し比は、対象の地域を発着とする交流トラフィックの総量に比例した所定の値を用いるものとする。
【0036】
図6は、発着トラフィック総量と折り返し比とを対応付けた折り返し比情報の一例を示す図である。図示する折り返し比情報は、発着トラフィック総量が大きいほど、折り返し比も大きくなると推定したものである。これは、発着トラフィック総量が多い地域内には、トラフィック発着量が多いエッジノード(ヘビーユーザの端末など)が多く存在する可能性が高いこと、また、エッジノードが多く存在する地域(人口が多い地域など)である可能性が高いことが推定できる。前者の可能性は、単一交流トラフィック量の増加に影響し、後者の可能性は、地域間の交流トラフィックの発着点となる地点数の増大による内部交流トラフィック数の増加に影響するからである。
【0037】
折り返し比情報は、あらかじめトラフィック予測装置1に入力され、折り返し比情報記憶部22に記憶されているものとする。折り返しトラフィック算出部12は、折り返し比情報記憶部22を参照し、折り返しトラフィックを算出する。そして、折り返しトラフィック算出部12は、算出した折り返しトラフィックを、交流トラフィック記憶部21に記憶する。
【0038】
図7は、図5の入力トラフィックから、図6の折り返し比情報を用いて算出される、各地域の折り返しトラフィックを具体的に説明したものである。図7(a)は、各地域(東京、大阪、福岡)の折り返しトラフィックの算出式を示す。図示する例では、各地域の発着トラフィック総量は、いずれも1000Mを超えるため、折り返し比は80%となる。なお、国際IP網の折り返しトラフィックについては、本実施形態では算出しないものとする。
【0039】
図7(b)は、図5の入力トラフィックに、折り返しトラフィックを追加し、更新したものである。なお、折り返しトラフィックは、発信と着信とが同じ地域のため、トラフィックの方向は意識できない。
【0040】
次に、内部交流トラフィック算出部13は、通信事業者シェア情報を用いて、交流トラフィック記憶部21に記憶された入力トラフィック(図7参照)から、発信地域および着信地域が自事業者である交流トラフィック(以下、「内部交流トラフィック」)を算出する(S13)。
【0041】
通信事業者シェア情報は、各事業者の各地域におけるシェア(市場占有率)を示すものである。通信事業者シェア情報は、各事業者の地域毎の売り上げ金額、加入者数などの各種統計データを統計処理することにより取得されるものとする。また、通信事業者シェア情報は、あらかじめトラフィック予測装置1に入力され、通信事業者シェア情報記憶部23に記憶されているものとする。
【0042】
図8は、通信事業者シェア情報の一例を示すものである。図示する通信事業者シェア情報は、自事業者および他事業者(ISP−A、ISP−B、ISP−C)の、各地域におけるシェアが設定されている。
【0043】
内部交流トラフィック算出部13は、具体的には以下の式により、自事業者内の地域s発、地域d着の内部交流トラフィックを算出する。
【0044】
地域s発、地域d着の内部交流トラフィック
=地域s発、地域d着の交流トラフィック×
(地域sの自事業者シェア×地域dの自事業者シェア)
内部交流トラフィック算出部13は、通信事業者シェア情報記憶部23に記憶された通信事業者シェア情報を参照して、入力トラフィックから内部交流トラフィックを算出し、算出した内部交流トラフィックを、事業者毎の交流トラフィック記憶部24に記憶する。
【0045】
図9は、図7の入力トラフィックから、図8の通信事業者シェア情報を用いて算出される、内部交流トラフィックを具体的に説明したものである。図9(a)は、東京発−福岡着および東京発−国際IP網の内部交流トラフィックの算出式を示す。発着地域のいずれかが国際IP網の場合、国際IP網側の自事業者シェアは100%とする。
【0046】
図9(b)は、事業者毎の交流トラフィック記憶部24に記憶される、事業者を区別した地域間の交流トラフィックデータであって、内部交流トラフィックのみが設定されている。
【0047】
次に、内外交流トラフィック算出部14は、発信地域または着信地域のいずれかが自事業者であり、他方の地域が他事業者の場合の交流トラフィック(以下、「内外交流トラフィック」)を算出する(S14)。
【0048】
すなわち、内外交流トラフィック算出部14は、通信事業者シェア情報(図8参照)を用いて、交流トラフィック記憶部21に記憶された入力トラフィックおよび折り返しトラフィック(図7参照)から、自事業者の地域s発で、他事業者のいずれかの地域着の場合の内外交流トラフィックを、以下の式により算出する。
【数1】

【0049】
また、他事業者のいずれかの地域発で、自事業者の地域s着の場合の内外交流トラフィックは、以下の式により算出される。
【数2】

【0050】
内外交流トラフィック算出部14は、算出した内外交流トラフィックを、事業者毎の交流トラフィック記憶部24に記憶する。
【0051】
なお、上記2つの式における「地域i」には、国際IP網を含まない。また、「地域i」と「地域s」とが同じ地域の場合は折り返しトラフィックとなるため、「地域i」=「地域s」とはならないものとする。
【0052】
また、上記2つの式における「比重」は、折り返しトラフィックが、事業者間で交流する比率である。「比重」の設定方法としては、以下の3パターンが考えられる。
【0053】
第1のパターンは、発信と着信とが半分づつと推定し、比重=0.5とする。
【0054】
第2のパターンは、着信量が事業者のシェアに比例すると推定した場合、すなわちシェアが大きな事業者がより多く吸い込むと推定した場合、以下の式により比重を設定する。
【0055】
事業者X発→事業者Y着の比重
=事業者Yのシェア/(事業者Xのシェア+事業者Yのシェア)
事業者Y発→事業者X着の比重
=事業者Xのシェア/(事業者Xのシェア+事業者Yのシェア)
第3のパターンは、発信量が事業者のシェアに比例すると推定した場合、すなわちシェアが大きな事業者がより多く吐き出すと推定した場合、以下の式により比重を設定する。
【0056】
事業者X発→事業者Y着の比重
=事業者Xのシェア/(事業者Xのシェア+事業者Yのシェア)
事業者Y発→事業者X着の比重
=事業者Yのシェア/(事業者Xのシェア+事業者Yのシェア)
第2のパターンおよび第3のパターンの比重について、さらに説明する。この比重は、折り返しトラフィックを、各事業者のシェア(図8参照)にもとづいて、事業者毎のトラフィックに変換するために使用されるパラメータである。
【0057】
ここで、折り返しトラフィックは、図7で説明したように、トラフィックの方向(発信側、着信側)がなく、対象となる地点の内部に存在するトラフィックの総量で算出されるものである。本実施形態では、このような折り返しトラフィックに対して、方向を考慮した形式(発信側と着信側とで事業者が異なり、方向が考慮される形式)で、各事業者のシェアを用いて変換(分割・配分)する。この場合、発信側の事業者のシェアおよび着信側の事業者のシェアと、一定の相関を持った値でトラフィックを吐き出し(発信し)、また吸い込む(着信する)ことが考えられる。そこで、着信量がシェアに比例する場合(第2のパターン)と、発信量がシェアに比例する場合(第3のパターン)とを用意し、比重が着信量または発信量に比例して増加するようにした。
【0058】
なお、ユーザは、第1から第3のいずれのパターンの比重を用いるかの指示情報を、あらかじめトラフィック予測装置に入力し、内外交流トラフィック算出部14は、指示情報で指示されたパターンの比重を用いることとする。
【0059】
図10および図11は、図7の入力トラフィックおよび折り返しトラフィックから、図8の通信事業者シェア情報を用いて算出される、内外交流トラフィックを具体的に説明したものである。なお、比重については、第2のパターンの比重を用いた。
【0060】
図10(a)は、自事業者の東京発で他事業者ISP−A着の内外交流トラフィックの算出式を示す。図10(b)は、図10(a)の算出式の内訳(着信側であるISP−Aの各地域)を表にしたものである。
【0061】
図11(a)は、他事業者ISP−B発で自事業者の福岡着の内外交流トラフィックの算出式を示す。図11(b)は、図11(a)の算出式の内訳(発信側であるISP−Bの各地域)を表にしたものである。
【0062】
図12は、図9に示す事業者毎の交流トラフィックに、内外交流トラフィックを記憶し、更新したものである。図示するように、図10および図11で算出した値(141.12M、38.04M)が対応する箇所に設定されている。それ以外の箇所(図12中の「○○M」で表されている箇所)の内外交流トラフィックについても、図10または図11と同様に算出される。
【0063】
次に、外部交流トラフィック算出部15は、発信地域および着信地域のいずれもが他事業者である交流トラフィック(以下、「外部交流トラフィック」)を算出する(S15)。すなわち、外部交流トラフィック算出部15は、通信事業者シェア情報(図8参照)を用いて、交流トラフィック記憶部21に記憶された入力トラフィックおよび折り返しトラフィック(図7参照)から、他事業者Aのいずれかの地域発で、他事業者Bのいずれかの地域着の外部交流トラフィックを、以下の式により算出する。
【数3】

【0064】
外部交流トラフィック算出部15は、算出した外部交流トラフィックを、事業者毎の交流トラフィック記憶部24に記憶する。なお、上記式における「地域i」には、国際IP網を含まない。また、「地域i」と「地域s」とが同じ地域の場合は折り返しトラフィックとなるため、「地域i」=「地域s」とはならないものとする。
【0065】
図13は、図7の入力トラフィックおよび折り返しトラフィックから、図8の通信事業者シェア情報を用いて算出される、外部交流トラフィックを具体的に説明したものである。なお、比重については、第2のパターンの比重を用いた。図13(a)は、他事業者であるINS−A発で他事業者ISP−B着の外部交流トラフィックの算出式を示す。図13(b)は、図13(a)の算出式の内訳を表にしたものである。
【0066】
図14は、図12に示す事業者毎の交流トラフィックに、外部交流トラフィックを記憶し、更新したものである。図示するように、図13で算出した値(77.52M)が対応する箇所に設定されている。それ以外の箇所(図14中の「△△M」で表されている箇所)の外部交流トラフィックについても、図13と同様に算出される。
【0067】
次に、外部網交流トラフィック算出部16は、発信地域または着信地域のいずれかが外部(異種)網であって、他方の地域が他事業者である交流トラフィック(以下、「外部網交流トラフィック」)を算出する(S16)。なお、外部網は、国際IP網、PSTN、携帯網などである。
【0068】
この外部網交流トラフィックを算出する理由は、例えば、国際IP網などの外部網から自事業者の所定の地域を通過し、他事業者へ到達するようなトラフィックの流れが存在する可能性があり、このようなトラフィックも自事業者内の機能配備・設備の際に考慮する必要があるからである。
【0069】
外部網交流トラフィック算出部16は、通信事業者シェア情報(図8参照)を用いて、交流トラフィック記憶部21に記憶された入力トラフィック(図7参照)から、外部網発で、他事業者Aのいずれかの地域着の外部網交流トラフィックを、以下の式により算出する。
【数4】

【0070】
また、他事業者Aのいずれかの地域発で、外部網着の場合の外部網交流トラフィックについては、以下の式により算出される。
【数5】

【0071】
外部網交流トラフィック算出部16は、算出した外部網交流トラフィックを、事業者毎の交流トラフィック記憶部24に記憶する。
【0072】
図15は、外部網交流トラフィックを具体的に説明したものである。図15(a)は、国際IP網(外部網)発で他事業者A着の外部網交流トラフィックと、他事業者B発で国際IP網(外部網)着の外部網交流トラフィックの算出式を示す。
図15(b)は、図14に示す事業者毎の交流トラフィックに、図15(a)で算出した外部網交流トラフィックを記憶し、更新したものである。図示するように、図15(a)で算出した値(348M、330M)が対応する箇所に設定されている。それ以外の箇所(図15(b)中の「□□M」で表されている箇所)の外部網交流トラフィックについても、図15(a)と同様に算出され、記憶される。
【0073】
この図15(b)に示す事業者間の交流トラフィックが、本実施形態での最終算出結果(出力トラフィックデータ)である。すなわち、図示する事業者間の交流トラフィックには、内部交流トラフィック、内外交流トラフィック、外部交流トラフィックおよび外部網交流トラフィックが設定されている。
【0074】
図16は、図15(b)に示す事業者間の交流トラフィックのネットワークモデルを示したものである。なお、図が煩雑になるため、両方向に存在するトラフィックを一本の両方向矢印で示している。このように、本実施形態では、図3および図5に示す事業者を区別しない交流トラフィックを、図15(b)および図16に示す事業者を区別した交流トラフィックに変換する。
【0075】
以上説明した本実施形態では、事業者を区別しない地域間交流トラフィックを、通信事業者シェア情報を用いて事業者を区別した地域間交流トラフィックに変換する。これにより、本実施形態では、複数の事業者間のトラフィック需要予測データを取得することができる。すなわち、実際のIP網のように複数の異なる事業者のIP網が相互接続してできた集合体のネットワークにおいて、ネットワーク全体(事業者)を考慮した機能配備、設備のアーキテクチャ、事業者間接続の設計(例えば、ピアリング、トランジットのための接続ポイント、IXの配置場所など)をシミュレートし、検討することができる。
【0076】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】ネットワークモデルの一例を示す図である。
【図2】本発明の一実施形態が適用されたトラフィック予測装置のブロック図である。
【図3】簡易なネットワークモデルの一例を示す図である。
【図4】通信事業者別のトラフィック予測処理のフローチャートである。
【図5】入力トラフィックの一例を示す図である。
【図6】折り返し比情報の一例を示す図である。
【図7】折り返しトラフィックの算出を説明するための説明図である。
【図8】通信事業者シェア情報の一例を示す図である。
【図9】内部交流トラフィックの算出を説明するための説明図である。
【図10】内外交流トラフィックの算出を説明するための説明図である。
【図11】内外交流トラフィックの算出を説明するための説明図である。
【図12】通信事業者毎の交流トラフィックの一例を示す図である。
【図13】外部交流トラフィックの算出を説明するための説明図である。
【図14】通信事業者毎の交流トラフィックの一例を示す図である。
【図15】外部網交流トラフィックの算出を説明するための説明図である。
【図16】通信事業者毎のネットワークモデルの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
1:トラフィック予測装置
11:入力部
12:折り返しトラフィック算出部
13:内部交流トラフィック算出部
14:内外交流トラフィック算出部
15:外部交流トラフィック算出部
16:外部網交流トラフィック算出部
21:交流トラフィック記憶部
22:折り返し比情報記憶部
23:通信事業者シェア情報記憶部
24:通信事業者毎の交流トラフィック記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された複数の地域間で発生する交流トラフィックと、予め記憶手段に記憶された交流トラフィックに対応した折り返し比率とにもとづいて、同一地域内で発着される折り返しトラフィクを算出する手段と、
あらかじめ記憶手段に記憶された通信事業者毎のシェア情報と、前記交流トラフィックとにもとづいて、自通信事業者内の複数の地域間で発生する内部交流トラフィックを算出する手段と、
前記折り返しトラフィックが複数の通信事業者間で交流する比重と、前記交流トラフィックと、前記折り返しトラフィックと、前記通信事業者毎のシェア情報とにもとづいて、自通信事業者と他通信事業者との間で発生する内外交流トラフィックを算出する手段と、
前記比重と、前記交流トラフィックと、前記折り返しトラフィックと、前記通信事業者毎のシェア情報とにもとづいて、他通信事業者間で発生する外部交流トラフィックを算出する手段と、を有すること
を特徴とするトラフィック予測装置。
【請求項2】
請求項1記載のトラフィック予測装置であって、
前記比重は、発信側の通信事業者のシェア情報に比例した値、着信側の通信事業者のシェア情報に比例した値、および、発信側および着信側の通信事業者のシェア情報に比例しない所定の値のいずれかであること
を特徴とするトラフィック予測装置。
【請求項3】
トラフィック予測装置が行うトラフィック予測方法であって、
入力された複数の地域間で発生する交流トラフィックと、予め記憶部に記憶された交流トラフィックに対応した折り返し比率とにもとづいて、同一地域内で発着される折り返しトラフィクを算出するステップと、
あらかじめ記憶部に記憶された通信事業者毎のシェア情報と、前記交流トラフィックとにもとづいて、自通信事業者内の複数の地域間で発生する内部交流トラフィックを算出するステップと、
前記折り返しトラフィックが複数の通信事業者間で交流する比重と、前記交流トラフィックと、前記折り返しトラフィックと、前記通信事業者毎のシェア情報とにもとづいて、自通信事業者と他通信事業者との間で発生する内外交流トラフィックを算出するステップと、
前記比重と、前記交流トラフィックと、前記折り返しトラフィックと、前記通信事業者毎のシェア情報とにもとづいて、他通信事業者間で発生する外部交流トラフィックを算出するステップと、を有すること
を特徴とするトラフィック予測方法。
【請求項4】
トラフィック予測装置が実行するトラフィック予測プログラムであって、
前記トラフィック予測装置に、
入力された複数の地域間で発生する交流トラフィックと、予め記憶部に記憶された交流トラフィックに対応した折り返し比率とにもとづいて、同一地域内で発着される折り返しトラフィクを算出するステップと、
あらかじめ記憶部に記憶された通信事業者毎のシェア情報と、前記交流トラフィックとにもとづいて、自通信事業者内の複数の地域間で発生する内部交流トラフィックを算出するステップと、
前記折り返しトラフィックが複数の通信事業者間で交流する比重と、前記交流トラフィックと、前記折り返しトラフィックと、前記通信事業者毎のシェア情報とにもとづいて、自通信事業者と他通信事業者との間で発生する内外交流トラフィックを算出するステップと、
前記比重と、前記交流トラフィックと、前記折り返しトラフィックと、前記通信事業者毎のシェア情報とにもとづいて、他通信事業者間で発生する外部交流トラフィックを算出するステップと、を実行させること
を特徴とするトラフィック予測プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−11025(P2010−11025A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167382(P2008−167382)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、総務省、「次世代バックボーンに関する研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(399035766)エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社 (321)
【Fターム(参考)】