説明

トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物

【課題】トランクピストン・エンジンを潤滑下に作動させる潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、主要量の一種以上のI種基油と一種以上の分散添加剤を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物であって、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物中の一種以上の分散添加剤の濃度が、活性分に基づき約0.2−0.6質量%である潤滑油組成物、およびトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の製造方法及び使用方法を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物に関するものであり、特には、トランクピストン・エンジンを潤滑にする潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トランクピストン・エンジンは一般に、様々な種類や品質のディーゼル燃料および重油を用いて作動させる。しかし、重油と従来の潤滑油組成物がトランクピストン・エンジンの種々の温度領域で混ざり合うと、黒色スラッジ(例えば、アスファルテン堆積物または他の堆積物)や、他のアスファルテン誘導堆積物(例えば、下向き王冠状堆積物)が生成しがちである。そのような黒色スラッジ又は堆積物生成は、トランクピストン・エンジンの点検間隔や維持費に悪影響を及ぼしうる。
【0003】
重油で作動するトランクピストン・エンジン内での性能が改善された潤滑油組成物を開発しようと、何度も試みられてきた。例えば、特許文献1には、潤滑粘度の油、過塩基性金属清浄剤および耐摩耗性添加剤を含む分散剤無しの潤滑油組成物、ただし、組成物は分散剤による分散効果を実質的に示さない限り、少量の分散剤成分を含んでいてよいことが記述されている。同様に特許文献2には、潤滑粘度の油、過塩基性金属清浄剤および耐摩耗性添加剤を含む分散剤無しの潤滑油組成物、ただし、組成物は分散剤を1質量%以下で含んでいてよいこと、が記述されている。
【0004】
【特許文献1】欧州特許第1154012号明細書
【特許文献2】欧州特許第1209218号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、重油を使用するトランクピストン・エンジン内の黒色スラッジ生成も低減させ、かつ酸化に基づく粘度増加に抗するように粘度も安定した、I種基油を含む改善されたトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物への要求は、依然として存続している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一つの態様では、本発明は、主要量の一種以上のI種基油、および一種以上の分散添加剤を含む、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物に関する。ただし、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物中の一種以上の分散添加剤の濃度は、活性分に基づき約0.2−0.6質量%であり、そして該組成物の全塩基価は少なくとも約12である。
【0007】
別の態様では、本発明は、主要量の一種以上のI種基油、および一種以上の分散添加剤を含む、黒色スラッジを最小限に抑えるトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物に関する。ただし、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物中の一種以上の分散添加剤の濃度は、活性分に基づき約0.2−0.6質量%であり、該組成物の全塩基価は少なくとも約12であり、そしてトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、分散剤を含まない潤滑油組成物に比べて、エンジン内の黒色スラッジ生成を少なくとも約5%低減させる。
【0008】
別の態様では、本発明は、主要量の一種以上のI種基油、および一種以上の分散添加剤を含む、粘度の安定したトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物に関する。ただし、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物中の一種以上の分散添加剤の濃度は、活性分に基づき約0.2−0.6質量%であり、該組成物の全塩基価は少なくとも約12であり、そして組成物の酸化に基づく粘度増加は、分散剤を含まない潤滑油組成物に比べて少なくとも約5%低い。
【0009】
別の態様では、本発明は、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物を製造する方法であって、主要量の一種以上のI種基油、および一種以上の分散添加剤を混合することを含む方法に関する。ただし、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物中の一種以上の分散添加剤の濃度は、活性分に基づき約0.2−0.6質量%であり、そして該組成物の全塩基価は少なくとも約12である。
【0010】
別の態様では、本発明は、エンジン内の黒色スラッジ及び堆積物生成を低減させる方法であって、主要量の一種以上のI種基油、および一種以上の分散添加剤を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物を用いて、エンジンを潤滑にすることを含む方法に関する。ただし、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物中の一種以上の分散添加剤の濃度は、活性分に基づき約0.2−0.6質量%であり、そして該組成物の全塩基価は少なくとも約12である。
【0011】
別の態様では、本発明は、トランクピストン・エンジンを作動させる方法であって、一種以上のI種基油、および一種以上の分散添加剤を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物を用いて、トランクピストン・エンジンを潤滑にすることを含む方法に関する。ただし、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物中の一種以上の分散添加剤の濃度は、活性分に基づき約0.2−0.6質量%であり、そして該組成物の全塩基価は少なくとも約12である。
【0012】
上記の本発明の態様を含む本発明の幾つかの態様について、以下に更に詳しく記載する。一般に、これらの態様の各々は特に断らない限り、他の態様や実施態様と様々に特定して組み合わせて利用することができる。
【発明の効果】
【0013】
ここに開示する潤滑油組成物、すなわちトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物およびトランクピストン・エンジン油(TPEO)(まとめて「潤滑油組成物」)は、任意のトランクピストン・エンジンまたは舶用圧縮着火(ディーゼル)エンジン、例えば四サイクル・トランクピストン・エンジン、または舶用四サイクル・ディーゼルエンジンを潤滑下に作動させるために使用することができる。
【0014】
潤滑油組成物は、例えば(アスファルテン含有重油又は未燃焼アスファルテン含有重油のような)重油と混ざり合ったり一緒になったときに、驚くべきことには、粘度が安定化し、黒色スラッジが最小限に抑えられ、堆積物の生成が少なくなり、堆積を低減され、堆積物が最小限に抑えられ、アスファルテン堆積物又は他の堆積物が最小限に抑えられ、アスファルテンが安定化し、酸化熱ひずみが安定化し、またそれらの組合せが達成できることを発見した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本明細書に開示する内容の理解を容易にするために、本明細書で使用する多数の用語、略語または他の省略表現について、以下に定義する。定義されない用語、略語または省略表現は如何なるものであれ、本出願の開示と同時代にある当該分野の熟練者が使用している通常の意味を有すると解釈する。
【0016】
「主要量」の基油は、潤滑油組成物中の基油の濃度が少なくとも約40質量%であることを意味する。ある態様では「主要量」の基油は、潤滑油組成物中の基油の濃度が少なくとも約50質量%、少なくとも約60質量%、少なくとも約70質量%、少なくとも約80質量%、又は少なくとも約90質量%であることを意味する。
【0017】
「活性分に基づき」とは、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物全体における特別な添加剤の濃度又は量を決定するときに、その特別な添加剤の活性成分(群)だけを考慮することを意味する。希釈油のような添加剤の希釈剤および他の如何なる不活性成分も除外される。特に断らない限り、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の説明において、一種以上の分散添加剤について規定する濃度は、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物中の分散剤(であって、希釈油など分散添加剤中の如何なる不活性成分でもない)の濃度を表す。
【0018】
以下の記述において開示する数値は全て、それに関連して「約」又は「およそ」を用いているか否かにかかわらず、おおよその値である。数値は1パーセント、2パーセント、5パーセント、又はときには10乃至20パーセントも変わることがある。下限RLと上限RUで数値範囲を開示するときは常に、該範囲内の如何なる数値も明確に開示している。特に、次の範囲内の数値を明確に開示している:R=RL+k*(RU−RL)、ただし、kは1パーセント乃至100パーセントの範囲で1パーセントずつ増加する変数である、すなわち、kは1パーセント、2パーセント、3パーセント、4パーセント、5パーセント、・・・50パーセント、51パーセント、52パーセント、・・・95パーセント、96パーセント、97パーセント、98パーセント、99パーセント、又は100パーセントである。さらに、上に定義したように二つの数値Rで規定した如何なる数値範囲も明確に開示している。
【0019】
ここに開示する潤滑油組成物、すなわちトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物およびトランクピストン・エンジン油(TPEO)(まとめて「潤滑油組成物」)は、任意のトランクピストン・エンジンまたは舶用圧縮着火(ディーゼル)エンジン、例えば四サイクル・トランクピストン・エンジン、または舶用四サイクル・ディーゼルエンジンを潤滑下に作動させるために使用することができる。
【0020】
潤滑油組成物は、例えば(アスファルテン含有重油又は未燃焼アスファルテン含有重油のような)重油と混ざり合ったり一緒になったときに、驚くべきことには、粘度が安定化し、黒色スラッジが最小限に抑えられ、堆積物の生成が少なくなり、堆積が低減し、堆積物が最小限に抑えられ、アスファルテン堆積物又は他の堆積物が最小限に抑えられ、アスファルテンが安定化し、酸化熱ひずみが安定化し、またそれらの組合せの効果が得られることを発見した。この点に関して潤滑油組成物は、(アスファルテン含有重油のような)重油と混合又は併用可能で、例えばトランクピストン・エンジン(ピストンの冷却通路、ピストンリング・グルーブ域、燃焼室または他の冷却領域など)の種々の温度領域(例えば約300℃以下、約280℃以下、約260℃以下、約240℃以下、約220℃以下、約200℃以下、約180℃以下、約160℃以下、約140℃以下、約100℃以下、約80℃以下、約60℃以下、又は約40℃以下の温度の領域)において、黒色スラッジ生成(アスファルテン堆積物または他の堆積物など)が少ない、最小限であるもしくは無い混合物又は系を形成する。ある好ましい態様では、該潤滑油組成物は、分散剤を含まない潤滑油組成物に比べて、(重油、例えばアスファルテン含有重油を使用するエンジンのような)エンジン内での黒色スラッジ(または黒色スラッジ堆積物)生成を、少なくとも約5%、少なくとも約10%以上、少なくとも約15%以上、少なくとも約20%以上、少なくとも約30%以上、少なくとも約40%以上、少なくとも約50%以上、少なくとも約60%以上、少なくとも約70%以上、少なくとも約80%以上、又は少なくとも約90%以上も低減させる。別の好ましい態様では該潤滑油組成物は、分散剤を0.6質量%より多く、0.7質量%より多く、0.8質量%より多く、0.9質量%より多く、又は1.0質量%よりも多く含む潤滑油組成物に比べて、エンジン内の黒色スラッジ生成(アスファルテン又は他の堆積物など)を、少なくとも約5%、少なくとも約10%以上、少なくとも約15%以上、少なくとも約20%以上、少なくとも約30%以上、少なくとも約40%以上、少なくとも約50%以上、少なくとも約60%以上、少なくとも約70%以上、少なくとも約80%以上、又は少なくとも約90%以上も低減する。黒色スラッジ生成の低減量は、任意の好適な方法で測定することができるが、好ましくは、(実施例1及び3に記載するような)黒色スラッジ堆積物(BSD)試験により測定できる。
【0021】
ある好ましい態様では、潤滑油組成物は、(アスファルテン含有重油又は未燃焼アスファルテン含有重油のような)重油と(例えばエンジン内で)混ざり合ったときに、分散剤を含まない潤滑油組成物に比べて、黒色スラッジ(アスファルテン又は他の堆積物など)を約5%少なく、約10%少なく、約15%少なく、約20%少なく、約30%少なく、約40%少なく、約50%少なく、約60%少なく、約70%少なく、約80%少なく、又は約90%も少なく生成させる。別の好ましい態様では潤滑油組成物は、(アスファルテン含有重油又は未燃焼アスファルテン含有重油のような)重油と混ざり合ったときに、約1質量%より多く、約0.9質量%より多く、約0.8質量%より多く、約0.7質量%より多く、又は約0.6質量%よりも多く含む潤滑油組成物に比べて、黒色スラッジ(アスファルテン又は他の堆積物など)を約5%少なく、約10%少なく、約15%少なく、約20%少なく、約30%少なく、約40%少なく、約50%少なく、約60%少なく、約70%少なく、約80%少なく、又は約90%も少なく生成させる。
【0022】
別の態様では好ましい潤滑油組成物は、粘度の安定したトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物である。好ましい態様では該潤滑油組成物は、分散剤を含まない潤滑油組成物に比べて、酸化に基づく粘度増加が少なくとも約5%、少なくとも約10%低い、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、又は少なくとも約90%も低い。
【0023】
別の好ましい態様では潤滑油組成物は、分散剤を含まない潤滑油組成物に比べて、酸化に基づく粘度増加、酸化熱ひずみまたはそれらの組合せに対して少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約25%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、又は少なくとも約90%も安定である、または安定化している。酸化に基づく粘度増加、酸化熱ひずみおよびそれらの組合せに対する粘度の安定化及び安定性は、任意の好適な方法で測定することができ、例えば(実施例2に記載するような)改定英国石油協会48(MIP48)試験により測定できる。
【0024】
潤滑油組成物の全塩基価(TBN)は、トランクピストン・エンジンに使用するのに適していれば何れであってもよい。例えば、ある態様では潤滑油組成物のTBNは、少なくとも約12、少なくとも約14、少なくとも約16、又は少なくとも約18である。別の態様では潤滑油組成物のTBNは、少なくとも約20、少なくとも約25、少なくとも約30、少なくとも約35、少なくとも約40、少なくとも約50、又は少なくとも約60ですらある。別の態様では潤滑油組成物のTBNは、約100未満、約90未満、約80未満、約70未満、約60未満、約50未満、又は約40未満である。別の態様では潤滑油組成物のTBNは、約12乃至約70の範囲、例えば約20乃至約70の範囲、約12乃至約60の範囲、約20乃至約60の範囲、約12乃至約50の範囲、約20乃至約50の範囲、約30乃至約60の範囲、約30乃至約50の範囲にある。潤滑油組成物のTBNは、任意の好適な方法により、例えばASTM D2896により測定することができる。
【0025】
潤滑油組成物の粘度は、トランクピストン・エンジンに使用するのに適していれば何れであってもよい。[一態様では潤滑油組成物の粘度は、100℃で少なくとも約5、少なくとも約10、少なくとも約15、又は少なくとも約20cStである。別の態様では潤滑油組成物の粘度は、100℃で約5.6−21.9cSt、例えば約5.6−9.3、約9.3−12.5、約12.5−16.3、又は約16.3−21.9cStである]。潤滑油組成物の粘度は、任意の好適な方法により、例えばASTM D2270により測定することができる。
【0026】
ここに開示する潤滑油組成物は、当該分野の熟練者に知られている任意の潤滑油製造方法によって製造することができる。ある態様では、一種以上のI種基油を一種以上の分散剤とブレンドまたは混合することができる。任意に、一種以上の分散剤の外に一種以上の他の添加剤を加えることができる。一種以上の分散剤と任意の添加剤は、一種以上のI種基油に別々に加えてもよいし、あるいは同時に加えてもよい。ある態様では、一種以上の分散剤と任意の添加剤を一種以上のI種基油に別々に一回以上の添加で加えるが、添加は任意の順序であってよい。別の態様では、一種以上の分散剤と添加剤を一種以上のI種基油に同時に加えるが、任意に添加剤濃縮物の形であってよい。ある態様では、混合物を約25℃乃至約200℃、約50℃乃至約150℃、又は約75℃乃至約125℃の温度に加熱することによって、一種以上の分散剤でも如何なる固形添加剤でも、一種以上のI種基油に可溶化するのを助けることができる。
【0027】
成分をブレンド、混合または可溶化するのに適した任意の混合装置または分散装置を用いることができる。ブレンダ、撹拌器、分散機、ミキサ(例えば、遊星形ミキサおよび二段遊星形ミキサ)、ホモジナイザ(例えば、ガウリン・ホモジナイザおよびラニー・ホモジナイザ)、微粉砕機(例えば、コロイドミル、ボールミルおよびサンドミル)、もしくは当該分野で知られている他の任意の混合又は分散装置を用いて、ブレンド、混合または可溶化を行うことができる。
【0028】
また、ここに開示する潤滑油組成物は、任意の好適な潤滑油組成物の使用方法に使用することもできる。一つの好ましい態様では、トランクピストン・エンジンを作動させる方法であって、記載する潤滑油組成物の何れかを用いてトランクピストン・エンジンを潤滑にすることを含む方法を提供する。別の好ましい態様では、エンジン内の黒色スラッジ生成を低減させる方法であって、記載する潤滑油組成物の何れかを用いてエンジンを潤滑にすることを含む方法を提供する。これらの方法の態様によっては、(例えばアスファルテン含有重油などの重油を使用するエンジンの使用又は作動過程で)、例えばエンジン又はトランクピストン・エンジンの種々の温度領域(ピストンの冷却通路または他の冷却領域)で、例えば約300℃以下、約280℃以下、約260℃以下、約240℃以下、約220℃以下、約200℃以下、約180℃以下、約160℃以下、約140℃以下、約100℃以下、約80℃以下、約60℃以下、又は約40℃以下の温度の領域で、該エンジン又はトランクピストン・エンジン内の黒色スラッジ生成(アスファルテン又は他の堆積など)が最小限である、少ない、もしくは無いことが好ましい。
【0029】
前記方法の別の好ましい態様では、(例えば重油を使用するエンジン又はトランクピストン・エンジンの使用又は作動過程で)、(例えばエンジン又はトランクピストン・エンジンの低温領域で)、エンジン又はトランクピストン・エンジン内の黒色スラッジ生成が、分散剤を含まない潤滑油組成物を使用する同じ方法に比べて少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、又は少なくとも約90%も低減される。該方法の別の好ましい態様では、(例えば重油を使用するエンジンの使用又は作動過程で)、(例えばエンジン又はトランクピストン・エンジンの低温領域で)、エンジン又はトランクピストン・エンジン内の黒色スラッジ生成が、分散剤を0.6質量%より多く、0.7質量%より多く、0.8質量%より多く、0.9質量%より多く、又は1.0質量%よりも多く含む潤滑油組成物を使用する同じ方法に比べて少なくとも約5%、少なくとも約10%、少なくとも約15%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、又は少なくとも約90%も低減する。
【0030】
[基油]
好ましい態様では基油は、I種基油、もしくは二種以上の異なるI種基油のブレンドである。I種基油は、米国石油協会(API)公報1509、第14版、1996年12月(すなわち、客車用モーター油及びディーゼルエンジン油のためのAPI基油互換性ガイドライン)で規定された、如何なる石油から誘導された潤滑粘度の基油であってもよく、それも全て参照内容として本明細書の記載とする。APIガイドラインは、基材油を各種の異なる方法を用いて製造することができる潤滑剤成分として規定している。これに関してI種基油は、全硫黄分が(ASTM D2270で決定して)約0.03質量%以上、飽和含量が(ASTM D2007で決定して)約90質量%未満、かつ粘度指数(VI)が(ASTM D4294、ASTM D4297又はASTM D3120で決定して)約80−120の鉱油である。
【0031】
I種基油は、減圧蒸留カラムからの軽質塔上留油とより重質な側留油を含んでいてもよく、また例えば軽質ニュートラル、中質ニュートラル及び重質ニュートラル基材油も含まれる。また、石油誘導基油には残渣油、塔底油、例えばブライトストックも含まれる。ブライトストックは、従来より残渣油または塔底油から生成して高度に精製および脱ろうされた高粘度の基油である。ブライトストックの動粘度は、40℃で約180cStより高く、又は40℃で約250cStよりも高く、又は40℃で約500乃至約1100cStの範囲にもありうる。
【0032】
別の好ましい態様では、基油は、分子量や粘度の異なるI種基油の二種以上、三種以上、又は四種以上ものブレンド又は混合物であってよく、ブレンドを任意の好適な方法で処理して、トランクピストン・エンジンに使用するのに適した性状(例えば、上述した粘度値およびTBN値)を有する基油を生成させる。一態様では基油は、エクソンモービル(ExxonMobil)CORE100、エクソンモービルCORE150、エクソンモービルCORE600、エクソンモービルCORE2500(何れも商品名)、またはそれらの組合せ又は混合物からなる。これに関して本出願の実施例1−2には例えば、三種類のI種基油の12個の異なるブレンドを記載していて(具体的には、エクソンモービルCORE150、エクソンモービルCORE600、エクソンモービルCORE2500)、最終ブレンド組成物の各々は粘度が40℃で約145cStで、TBNが約41である。
【0033】
[分散添加剤]
分散添加剤(「分散剤」)は、任意の好適な形状であってよい。一態様では分散剤を、任意の好適なプロセス油又は希釈油(例えば、任意のI種油、II種油またはそれらの組合せ又は混合物)と分散剤とを含む分散液又は懸濁液の形で、潤滑油組成物に混合又はブレンドする。一態様ではプロセス油又は希釈油は、潤滑油組成物の基油(I種基油など)とは異なる油、例えば異なるI種基油、II種基油またはそれらの組合せ又は混合物である。別の態様ではプロセス油又は希釈油は、潤滑油組成物の基油(I種基油など)と同じ油である。
【0034】
分散剤は、潤滑エンジン油に使用するのに適した任意の分散剤または複数の分散剤の混合物であってよい。一態様では分散剤は、無灰分散剤であり、例えばアルケニル又はアルキルコハク酸イミドまたはその誘導体、例えばポリアルキレンコハク酸イミド(好ましくは、ポリイソブテンコハク酸イミド)を含む無灰分散剤である。別の態様では分散剤は、アルカリ金属又は混合アルカリ金属、アルカリ土類金属のホウ酸塩、水和アルカリ金属ホウ酸塩の分散物、アルカリ土類金属ホウ酸塩の分散物、ポリアミド無灰分散剤、ベンジルアミン、マンニッヒ型分散剤、リン含有分散剤、またはそれらの組合せ又は混合物である。これら及び他の好適な分散剤については、モーティア(Mortier)、外著、「潤滑剤の化学と技術(Chemistry and Technology of Lubricants)」、第2版、ロンドン、スプリンガー(Springer)、第3章、p.86−90(1996年)、およびレスリー・R.ルドニック(Leslie R.Rudnick)著、「潤滑油添加剤:化学と用途(Lubricant Additives: Chemistry and Applications)」、ニューヨーク、マーセル・デッカー(Marcel Dekker)、第5章、p.137−170(2003年)に記載されていて、それら両方とも全て参照内容として本明細書の記載とする。好ましい態様では分散剤はコハク酸イミドまたはその誘導体である。別の態様では分散剤は、ポリブテニルコハク酸無水物とポリアミンとの反応により得られたコハク酸イミドまたはその誘導体である。別の態様では分散剤は、ポリブテニルコハク酸無水物とポリアミンとの反応により得られたコハク酸イミドまたはその誘導体であって、ポリブテニルコハク酸無水物は、ポリブテンと無水マレイン酸から(例えば、塩素も塩素原子含有化合物も用いない熱反応法により)生成させる。別の好ましい態様では分散剤は、ポリイソブテニルコハク酸無水物(PIBSA)と一種以上のアルキレンポリアミンとの縮合反応の、コハク酸イミド反応生成物である。この態様のPIBSAは、高メチルビニリデンポリイソブテン(PIB)と無水マレイン酸の熱反応生成物であってよい。別の好ましい態様では分散剤は、数平均分子量(Mn)が約500−3000、例えば約600−2800、約700−2700、約800−2600、約900−2500、約1000−2400、約1100−2300、約1200−2200、約1300−2100、又は約1400−2000のPIBから誘導された、主としてビスコハク酸イミド反応生成物である。別の好ましい態様では分散剤は、Mnが少なくとも約600、少なくとも約800、少なくとも約1000、少なくとも約1100、少なくとも約1200、少なくとも約1300、少なくとも約1400、少なくとも約1500、少なくとも約1600、少なくとも約1700、少なくとも約1800、少なくとも約1900、少なくとも約2000、少なくとも約2100、少なくとも約2200、少なくとも約2300、少なくとも約2400、少なくとも約2500、少なくとも約2600、少なくとも約2700、少なくとも約2800、少なくとも約2900、少なくとも約3000のPIBから誘導された、主としてビスコハク酸イミド反応生成物である。好ましい一態様では例えば分散剤は、Mn1000のPIBから誘導された主としてビスコハク酸イミド反応生成物であり、別の好ましい態様ではそのコハク酸イミドを次にホウ酸化して、コハク酸イミド中のホウ素濃度を約0.1−3質量%(例えば約1−2質量%、例えば1.2質量%)にする。別の好ましい態様では分散剤は、Mn1300のPIBから誘導された主としてビスコハク酸イミド反応生成物であり、別の好ましい態様ではそのコハク酸イミドを次にホウ酸化して、コハク酸イミド中のホウ素濃度を約0.1−3質量%(例えば約1−2質量%、例えば1.2質量%)にする。別の好ましい態様では分散剤は、Mn2300のPIBから誘導された主としてビスコハク酸イミド反応生成物であり、別の好ましい態様ではそのコハク酸イミドを次にエチレンカーボネートと反応させる。
【0035】
別の好ましい態様では、分散剤は、高分子量アルケニル又はアルキル置換コハク酸無水物と、分子当り窒素原子数4−10(平均値)、好ましくは窒素原子数5−7(平均値)のポリアルキレンポリアミンとの反応により製造されたコハク酸イミドである。これに関してアルケニル又はアルキルコハク酸イミド化合物のアルケニル又はアルキル基は、数平均分子量が約900−3000、例えば約1000−2500、約1200−2300、又は約1400−2100のポリブテンから誘導することができる。態様によってはポリブテニルコハク酸無水物製造のためのポリブテンと無水マレイン酸との反応を、塩素を用いる塩素化法により行うことができる。従って、態様によっては、得られたポリブテニルコハク酸無水物、並びにポリブテニルコハク酸無水物から生成したポリブテニルコハク酸イミドは、塩素分がおよそ2000乃至3000ppm(質量)の範囲にある。反対に、塩素を用いない熱的方法では、塩素分が例えば30ppm(質量)未満の範囲にあるポリブテニルコハク酸無水物およびポリブテニルコハク酸イミドを与える。従って、態様によっては潤滑油組成物中の塩素分を少なくするために、熱的方法により生成したコハク酸無水物から誘導されたコハク酸イミドが好ましい。
【0036】
別の好ましい態様では、分散剤は、ホウ酸、アルコール、アルデヒド、ケトン、アルキルフェノール、環状カーボネート(例えばエチレンカーボネート)、有機酸、スクシンアミド、コハク酸エステル、コハク酸エステル−アミド、ペンタエリトリトール、フェネート−サリチレート、およびそれらの後処理誘導体等、またはそれらの組合せ又は混合物から選ばれた化合物で後処理された、変性アルケニル又はアルキル−コハク酸イミドを含んでいる。好ましい変性コハク酸イミドは、ホウ酸化アルケニル又はアルキル−コハク酸イミド、例えばホウ酸又はホウ素含有化合物で後処理されたアルケニル又はアルキル−コハク酸イミドである。別の態様では分散剤は、後処理されていないアルケニル又はアルキル−コハク酸イミドを含んでいる。
【0037】
潤滑油組成物中の一種以上の分散剤の活性分に基づく濃度は、約1.0質量%未満、約0.9質量%未満、約0.8質量%未満、約0.7質量%未満、約0.6質量%未満、約0.5質量%未満、約0.4質量%未満、約0.3質量%未満、又は約0.2質量%未満であることが好ましい。別の好ましい態様では潤滑油組成物中の一種以上の分散剤の活性分に基づく濃度は、約0.1−1質量%、約0.2−0.9質量%、0.1−0.8質量%、約0.2−0.8質量%、約0.3−0.8質量%、0.1−0.7質量%、0.2−0.7質量%、約0.3−0.7質量%、約0.4−0.7質量%、約0.1−0.6質量%、約0.2−0.6質量%、約0.3−0.6質量%、約0.4−0.6質量%、約0.5−0.6質量%、約0.1−0.5質量%、約0.2−0.5質量%、約0.1−0.4質量%、0.2−0.4質量%、0.3−0.6質量%、又は約0.3−0.5質量%である。
【0038】
[清浄添加剤]
潤滑油組成物は、任意の好適な清浄添加剤(「清浄剤」)も一種以上(例えば二種以上、三種以上、又は四種以上でも)含有することができ、例えば非過塩基性清浄剤、過塩基性清浄剤、過塩基性金属清浄剤、過塩基性カルボキシレート含有清浄剤(例えば、過塩基性カルボキシレート含有金属清浄剤)、またはそれらの組合せ又は混合物がある。過塩基性清浄添加剤は、塩基原料(例えば石灰)や酸性過塩基化化合物(例えば二酸化炭素)の添加などの方法によって、添加剤のTBNを高くした任意の清浄添加剤であってよい。
【0039】
清浄剤は、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸の過塩基性塩などの塩を含んでいることが好ましい。好ましい態様では清浄剤は、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸のアルカリ土類塩(例えば、カルシウムまたはマグネシウム)であってよい。ある態様では、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸のアルキル基の約75%より多く(好ましくは約80%より多く、約85%より多く、約90%より多く、又は約95%よりも多く)が、炭素数20以上、例えば炭素数22以上、24以上、26以上、28以上、又は30以上の線状アルファオレフィンの残基である。好ましい態様では一種以上の清浄剤は、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸とアルキル置換フェノールとの混合物の過塩基性塩(例えば、過塩基性アルカリ土類金属塩)を含んでいる。これに関して例えば一種以上の清浄剤は、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸の過塩基性塩とアルキル置換フェノールの過塩基性塩との混合物を含むことができる。別の好ましい態様では潤滑油組成物は、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸の過塩基性塩を含む一種以上の清浄剤を含有し、そして潤滑油組成物は(分散剤の塩以外の)他の過塩基性塩を含まない。別の好ましい態様では潤滑油組成物の清浄剤は、基本的にアルキル置換ヒドロキシ安息香酸の塩からなる。別の好ましい態様では潤滑油組成物の清浄剤は油溶性スルホン酸の塩を含まない。別の好ましい態様では潤滑油組成物の清浄剤はアルキルフェネートを含まない。別の好ましい態様では潤滑油組成物の清浄剤は、油溶性スルホン酸の塩もアルキルフェネートも含まない。態様によっては清浄剤は、アルキルフェネートとアルキル置換ヒドロキシ安息香酸の過塩基性塩とを含んでいる。
【0040】
別の好ましい態様では、潤滑油組成物は、下記の物質を含むカルボキシレート含有清浄剤を含んでいる:
(a)例えば米国特許出願公開第2004/0235686号明細書の実施例1に記載されている方法により製造された、多重界面活性で未硫化、非炭酸化、非過塩基性のカルボキシレート含有添加剤、ただし、その内容も全て参照内容として本明細書の記載とする、または
(b)例えば米国特許出願公開第2007/0027043号明細書の実施例1に記載されている方法により製造された、過塩基性カルシウムアルキルヒドロキシベンゾエート添加剤、ただし、その内容も全て参照内容として本明細書の記載とする、または
それらの組合せ又は混合物。好ましい一態様では潤滑油組成物は(a)と(b)の混合物を含んでいる。
【0041】
好適な金属清浄剤の制限的でない例としては、硫化又は未硫化アルキル又はアルケニルフェネート類、アルキル又はアルケニル芳香族スルホネート類、ホウ酸化スルホネート類、多ヒドロキシアルキル又はアルケニル芳香族化合物の硫化又は未硫化金属塩類、アルキル又はアルケニルヒドロキシ芳香族スルホネート類、硫化又は未硫化アルキル又はアルケニルナフテネート類、アルカノール酸の金属塩類、アルキル又はアルケニル多酸の金属塩類、およびそれらの化学的及び物理的混合物を挙げることができる。好適な金属清浄剤の他の制限的でない例としては、金属スルホネート類、フェネート類、サリチレート類、ホスホネート類、チオホスホネート類、およびそれらの組合せが挙げられる。金属は、スルホネート、フェネート、サリチレート又はホスホネート清浄剤を製造するのに適した任意の金属であってよい。好適な金属の制限的でない例としては、アルカリ金属、アルカリ金属および遷移金属が挙げられる。ある態様では金属は、Ca、Mg、Ba、K、NaまたはLi等である。
【0042】
一般に清浄剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.001質量%乃至約5質量%、約0.05質量%乃至約3質量%、又は約0.1質量%乃至約1質量%である。好適な清浄剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第3章、p.75−85(1996年)、およびレスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第4章、p.113−136(2003年)に記載されていて、それら両方とも全て参照内容として本明細書の記載とする。
【0043】
[潤滑油添加剤]
任意に、潤滑油組成物は更に、潤滑油組成物の任意の所望の特性を付与または改善することができる、少なくとも一種の添加剤または調整剤(以下、「添加剤」と呼ぶ)を含有していてもよい。任意の好適な添加剤を開示する潤滑油組成物に使用することができる。好適な添加剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー(1996年)、およびレスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー(2003年)に記載されていて、それら両方とも参照内容として本明細書の記載とする。ある態様では添加剤は、酸化防止剤、耐摩耗性添加剤、清浄剤、さび止め添加剤、抗乳化剤、摩擦緩和剤、多機能添加剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、消泡剤、金属不活性化剤、分散剤、腐食防止剤、潤滑性向上剤、熱安定性向上剤、防曇剤、氷結防止剤、染料、マーカー、静電放散剤、殺生剤およびそれらの組合せ及び混合物からなる群より選ぶことができる。一般に、添加剤の各々が存在する場合に潤滑油組成物中でのその濃度は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.001質量%乃至約10質量%、約0.01質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約2.5質量%の範囲であってよい。さらに、潤滑油組成物中の添加剤の総量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.001質量%乃至約20質量%、約0.01質量%乃至約10質量%、又は約0.1質量%乃至約5質量%の範囲であってよい。
【0044】
開示する潤滑油組成物は任意に、摩擦および過剰な摩耗を低減させることができる耐摩耗性添加剤を含むことができる。任意の好適な耐摩耗性添加剤を潤滑油組成物に使用することができる。好適な耐摩耗性添加剤の制限的でない例としては、ジチオリン酸亜鉛、ジチオリン酸塩の金属(例えばPb、SbおよびMo等)塩類、ジチオカルバメートの金属(例えばZn、Pb、SbおよびMo等)塩類、脂肪酸の金属(例えばZn、PbおよびSb等)塩類、ホウ素化合物、リン酸エステル類、亜リン酸エステル類、リン酸エステル又はチオリン酸エステルのアミン塩類、ジシクロペンタジエンとチオリン酸の反応生成物、およびそれらの組合せを挙げることができる。耐摩耗性添加剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約5質量%、約0.05質量%乃至約3質量%、又は約0.1質量%乃至約1質量%で変えることができる。好適な耐摩耗性添加剤は、レスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第8章、p.223−258(2003年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0045】
ある態様では耐摩耗性添加剤は、二炭化水素ジチオリン酸金属塩、例えばジアルキルジチオリン酸亜鉛化合物、ジアリールジチオリン酸亜鉛またはそれらの組合せ又は混合物であるか、あるいはそれを含んでいる。二炭化水素ジチオリン酸金属塩の金属は、アルカリ又はアルカリ土類金属であっても、あるいはアルミニウム、鉛、スズ、モリブデン、マンガン、ニッケルまたは銅であってもよい。ある態様では金属は亜鉛である。別の態様では、二炭化水素ジチオリン酸金属塩のアルキル基は、炭素原子数約3−約22、炭素原子数約3−約18、炭素原子数約3−約12、又は炭素原子数約3−約8であり、線状でも分枝していてもよい。
【0046】
開示する潤滑油組成物中のジアルキルジチオリン酸亜鉛塩を含む二炭化水素ジチオリン酸金属塩の量は、そのリン分で量られる。ある態様では、ここに開示する潤滑油組成物のリン分は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約0.12質量%、約0.01質量%乃至約0.10質量%、約0.02質量%乃至約0.08質量%、又は約0.02質量%乃至約0.05質量%である。
【0047】
一態様では、本潤滑油組成物のリン分は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01乃至0.08質量%、例えば約0.02乃至約0.07質量%、約0.02乃至約0.06質量%、又は約0.02乃至約0.05質量%である。別の態様では本潤滑油組成物のリン分は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.05乃至0.12質量%である。
【0048】
二炭化水素ジチオリン酸金属塩は、まず、通常はアルコールおよびフェノール化合物のうちの一種以上をP25と反応させることで、二炭化水素ジチオリン酸(DDPA)を生成させ、次いで生成したDDPAを金属化合物、例えば金属の酸化物、水酸化物又は炭酸塩で中和することにより製造することができる。ある態様では、第一級及び第二級アルコールの混合物をP25と反応させることにより、DDPAを製造することができる。別の態様では、二種以上の二炭化水素ジチオリン酸を製造することができて、一種類のジチオリン酸の炭化水素基は全く第二級の性質であるが、残りのジチオリン酸の炭化水素基は全く第一級の性質である。亜鉛塩は、二炭化水素ジチオリン酸から亜鉛化合物と反応させることにより製造することができる。ある態様では、塩基性又は中性の亜鉛化合物を使用する。別の態様では亜鉛の酸化物、水酸化物又は炭酸塩を使用する。
【0049】
ある態様では、(II)式で表されるジアルキルジチオリン酸から、油溶性のジアルキルジチオリン酸亜鉛を生成させることができる。
【0050】
【化1】

【0051】
式中、R3およびR4の各々は独立に、線状又は分枝アルキル、または線状又は分枝置換アルキルである。ある態様ではアルキル基は、炭素原子数約3−約30、又は炭素原子数約3−約8である。
【0052】
(II)式のジアルキルジチオリン酸は、アルコールR3OHおよびR4OH(ただし、R3およびR4は上に定義した通りである)を、P25と反応させることにより製造することができる。ある態様ではR3とR4は同じである。別の態様ではR3とR4は異なっている。更なる態様ではR3OHとR4OHを同時にP25と反応させる。それ以上の態様ではR3OHとR4OHを順次P25と反応させる。
【0053】
ヒドロキシルアルキル化合物の混合物も使用することができる。これらヒドロキシルアルキル化合物は、モノヒドロキシルアルキル化合物である必要はない。ある態様では、モノ、ジ、トリ、テトラ及び他のポリヒドロキシアルキル化合物または前者の二種以上の混合物から、ジアルキルジチオリン酸を製造する。別の態様では、第一級アルキルアルコールのみから誘導するジアルキルジチオリン酸亜鉛を、単一の第一級アルコールから誘導する。更なる態様ではその単一第一級アルコールは、2−エチルヘキサノールである。ある態様では、第二級アルキルアルコールのみから、例えば第二級アルキルアルコールの混合物からジアルキルジチオリン酸亜鉛を誘導する。更なる態様では第二級アルコールの混合物は、2−ブタノールと4−メチル−2−ペンタノールの混合物である。
【0054】
ジアルキルジチオリン酸の生成工程に使用される五硫化リン反応体は、P23、P43、P47又はP49のうちの一種以上をある量含んでいることがある。組成物それ自体が少量の遊離硫黄を含んでいることもある。ある態様では五硫化リン反応体は、P23、P43、P47及びP49の何れも実質的に含まない。ある態様では五硫化リン反応体は遊離硫黄を実質的に含まない。
【0055】
本発明において、全潤滑油組成物の硫酸灰分は、ASTM D874によって測定したときに、約5質量%未満、約4質量%未満、約3質量%未満、約2質量%未満、又は約1質量%未満ですらある。
【0056】
任意に、開示する潤滑油組成物は更に、基油の酸化を低減または防止することができる追加の酸化防止剤を含有している。任意の好適な酸化防止剤を潤滑油組成物に使用することができる。好適な酸化防止剤の制限的でない例としては、アミン系酸化防止剤(例えば、アルキルジフェニルアミン類、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル又はアラルキル置換フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化p−フェニレンジアミン類、およびテトラメチル−ジアミノジフェニルアミン等)、フェノール系酸化防止剤(例えば、2−tert−ブチルフェノール、4−メチル−2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、4,4’−メチレンビス−(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、および4,4’−チオビス(6−ジ−tert−ブチル−o−クレゾール)等)、硫黄系酸化防止剤(例えば、ジラウリル−3,3’−チオジプロピオネート、および硫化フェノール系酸化防止剤等)、リン系酸化防止剤(例えば、亜リン酸エステル等)、ジチオリン酸亜鉛、油溶性銅化合物、およびそれらの組合せを挙げることができる。酸化防止剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。好適な酸化防止剤は、レスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第1章、p.1−28(2003年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0057】
開示する潤滑油組成物は任意に、可動部分間の摩擦を小さくすることができる摩擦緩和剤を含有することができる。任意の好適な摩擦緩和剤を潤滑油組成物に使用することができる。好適な摩擦緩和剤の制限的でない例としては、脂肪カルボン酸類;脂肪カルボン酸の誘導体(例えば、アルコール、エステル、ホウ酸化エステル、アミドおよび金属塩等);モノ、ジ又はトリアルキル置換リン酸又はホスホン酸類;モノ、ジ又はトリアルキル置換リン酸又はホスホン酸の誘導体(例えば、エステル、アミドおよび金属塩等);モノ、ジ又はトリアルキル置換アミン類;モノ又はジアルキル置換アミド類;およびそれらの組合せを挙げることができる。ある態様では摩擦緩和剤は、脂肪族アミン類、エトキシル化脂肪族アミン類、脂肪族カルボン酸アミド類、エトキシル化脂肪族エーテルアミン類、脂肪族カルボン酸類、グリセロールエステル類、脂肪族カルボン酸エステル−アミド類、脂肪イミダゾリン類、脂肪第三級アミン類(ただし、脂肪族又は脂肪基は、化合物を好適に油溶性にするために炭素原子を約8個より多く含んでいる)からなる群より選ばれる。別の態様では摩擦緩和剤は、脂肪族コハク酸又は無水物をアンモニアまたは第一級アミンと反応させることで生成した脂肪族置換コハク酸イミドを含んでいる。摩擦緩和剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。好適な摩擦緩和剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.183−187(1996年)、およびレスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第6章及び第7章、p.171−222(2003年)に記載されていて、それら両方とも参照内容として本明細書の記載とする。
【0058】
開示する潤滑油組成物は任意に、潤滑油組成物の流動点を下げることができる流動点降下剤を含有することができる。任意の好適な流動点降下剤を潤滑油組成物に使用することができる。好適な流動点降下剤の制限的でない例としては、ポリメタクリレート類、アルキルアクリレート重合体、アルキルメタクリレート重合体、ジ(テトラパラフィンフェノール)フタレート、テトラパラフィンフェノールの縮合物、塩素化パラフィンとナフタレンの縮合物、およびそれらの組合せを挙げることができる。ある態様では流動点降下剤は、エチレン・酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとフェノールの縮合物、またはポリアルキルスチレン等を含んでいる。流動点降下剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。好適な流動点降下剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.187−189(1996年)、およびレスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第11章、p.329−354(2003年)に記載されていて、それら両方とも参照内容として本明細書の記載とする。
【0059】
開示する潤滑油組成物は任意に、水や蒸気にさらされる潤滑油組成物の油−水分離を促進することができる抗乳化剤を含有することができる。任意の好適な抗乳化剤を潤滑油組成物に使用することができる。好適な抗乳化剤の制限的でない例としては、陰イオン界面活性剤(例えば、アルキルナフタレンスルホネート類、およびアルキルベンゼンスルホネート類等)、非イオン性アルコキシル化アルキルフェノール樹脂、アルキレンオキシドの重合体(例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、およびエチレンオキシドとプロピレンオキシドのブロック共重合体等)、油溶性酸のエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、およびそれらの組合せを挙げることができる。抗乳化剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。好適な抗乳化剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.190−193(1996年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0060】
開示する潤滑油組成物は任意に、油の泡を破壊することができる抑泡剤又は消泡剤を含有することができる。任意の好適な抑泡剤又は消泡剤を潤滑油組成物に使用することができる。好適な消泡剤の制限的でない例としては、シリコーン油又はポリジメチルシロキサン類、フルオロシリコーン類、アルコキシル化脂肪酸類、ポリエーテル類(例えば、ポリエチレングリコール類)、分枝ポリビニルエーテル類、アルキルアクリレート重合体、アルキルメタクリレート重合体、ポリアルコキシアミン類、およびそれらの組合せを挙げることができる。ある態様では消泡剤は、グリセロールモノステアレート、ポリグリコールパルミテート、モノチオリン酸トリアルキル、スルホン化リシノール酸のエステル、ベンゾイルアセトン、メチルサリチレート、グリセロールモノオレエート、またはグリセロールジオレエートを含んでいる。消泡剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約5質量%、約0.05質量%乃至約3質量%、又は約0.1質量%乃至約1質量%で変えることができる。好適な消泡剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.190−193(1996年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0061】
開示する潤滑油組成物は任意に、腐食を低減させることができる腐食防止剤を含有することができる。任意の好適な腐食防止剤を滑油組成物に使用することができる。好適な腐食防止剤の制限的でない例としては、ドデシルコハク酸の半エステル又はアミド類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、アルキルイミダゾリン類、サルコシン類、およびそれらの組合せを挙げることができる。腐食防止剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約5質量%、約0.05質量%乃至約3質量%、又は約0.1質量%乃至約1質量%で変えることができる。好適な腐食防止剤は、モーティア、外著、「潤滑剤の化学と技術」、第2版、ロンドン、スプリンガー、第6章、p.193−196(1996年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0062】
開示する潤滑油組成物は任意に、滑り金属面が極圧条件下で焼付くのを防ぐことができる極圧(EP)剤を含有することができる。任意の好適な極圧剤を潤滑油組成物に使用することができる。一般に極圧剤は、金属と化学的に結合して表面膜を形成することができる化合物であり、金属面が高荷重で相対したときにその表面膜が微小突起の融着を防ぐ。好適な極圧剤の制限的でない例としては、動物又は植物硫化油脂、動物又は植物硫化脂肪酸エステル類、三価又は五価リン酸の完全又は部分エステル化エステル類、硫化オレフィン類、二炭化水素ポリスルフィド類、硫化ディールス・アルダー付加物、硫化ジシクロペンタジエン、脂肪酸エステルと一不飽和オレフィンの硫化又は共硫化混合物、脂肪酸と脂肪酸エステルとアルファオレフィンの共硫化ブレンド、官能基置換二炭化水素ポリスルフィド類、チア−アルデヒド類、チア−ケトン類、エピチオ化合物、硫黄含有アセタール誘導体、テルペンと非環状オレフィンの共硫化ブレンド、およびポリスルフィドオレフィン生成物、リン酸エステル又はチオリン酸エステルのアミン塩類、およびそれらの組合せを挙げることができる。極圧剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約5質量%、約0.05質量%乃至約3質量%、又は約0.1質量%乃至約1質量%で変えることができる。好適な極圧剤は、レスリー・R.ルドニック著、「潤滑油添加剤:化学と用途」、ニューヨーク、マーセル・デッカー、第8章、p.223−258(2003年)に記載されていて、それも参照内容として本明細書の記載とする。
【0063】
開示する潤滑油組成物は任意に、鉄金属面の腐食を防ぐことができるさび止め添加剤を含有することができる。任意の好適なさび止め添加剤を潤滑油組成物に使用することができる。好適なさび止め添加剤の制限的でない例としては、油溶性のモノカルボン酸類(例えば、2−エチルヘキサン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、ベヘン酸、およびセロチン酸等)、油溶性のポリカルボン酸類(例えば、タル油脂肪酸、オレイン酸およびリノール酸等から生成したもの)、アルケニル基が炭素原子10個以上を含むアルケニルコハク酸類(例えば、テトラプロペニルコハク酸、テトラデセニルコハク酸、およびヘキサデセニルコハク酸等)、分子量が600乃至3000ダルトンの範囲にある長鎖アルファ、オメガ−ジカルボン酸類、およびそれらの組合せを挙げることができる。さび止め添加剤の量は、潤滑油組成物の全質量に基づき約0.01質量%乃至約10質量%、約0.05質量%乃至約5質量%、又は約0.1質量%乃至約3質量%で変えることができる。
【0064】
好適なさび止め添加剤の他の制限的でない例としては、非イオン性ポリオキシエチレン界面活性剤、例えばポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート、およびポリエチレングリコールモノオレエートを挙げることができる。好適なさび止め添加剤のそれ以上の制限的でない例としては、ステアリン酸及び他の脂肪酸類、ジカルボン酸類、金属石鹸、脂肪酸アミン塩類、重質スルホン酸の金属塩類、多価アルコールの部分カルボン酸エステル、およびリン酸エステルが挙げられる。
【0065】
ある態様では潤滑油組成物は、少なくとも一種の多機能添加剤を含有している。好適な多機能添加剤の制限的でない例としては、硫化オキシモリブデンジチオカルバメート、硫化オキシモリブデンオルガノホスホロジチオエート、オキシモリブデンモノグリセリド、オキシモリブデンジエチレートアミド、アミン−モリブデン錯化合物、および硫黄含有モリブデン錯化合物を挙げることができる。
【0066】
ある態様では潤滑油組成物は、少なくとも一種の粘度指数向上剤を含有している。好適な粘度指数向上剤の制限的でない例としては、ポリメタクリレート型重合体、エチレン・プロピレン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体、水和スチレン・イソプレン共重合体、ポリイソブチレン、および分散型粘度指数向上剤を挙げることができる。
【0067】
ある態様では潤滑油組成物は、少なくとも一種の金属不活性化剤を含有している。好適な金属不活性化剤の制限的でない例としては、ジサリチリデンプロピレンジアミン、トリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、およびメルカプトベンズイミダゾール類を挙げることができる。
【0068】
開示する添加剤は、一種より多く添加剤を有する添加剤濃縮物の形であってもよい。添加剤濃縮物は、好適な希釈剤、例えば好適な粘度の炭化水素油を含んでいてもよい。そのような希釈剤は、天然油(例えば、鉱油)、合成油およびそれらの組合せからなる群より選ぶことができる。鉱油の制限的でない例としては、パラフィン系油、ナフテン系油、アスファルト系油、およびそれらの組合せが挙げられる。合成基油の制限的でない例としては、ポリオレフィン油(特には、水素化アルファオレフィンオリゴマー類)、アルキル化芳香族、ポリアルキレンオキシド類、芳香族エーテル類、およびカルボン酸エステル類(特には、ジエステル油)、およびそれらの組合せが挙げられる。ある態様では希釈剤は、天然でも合成でもよい軽質炭化水素油である。ある態様では希釈油の粘度は、40℃で約13センチストークス乃至約35センチストークスであってよい。
【実施例】
【0069】
以下の実施例は、本発明の特定の態様として、またその利点を明らかにするために記す。実施例は、説明のために記載するのであって、決して明細書または後続の特許請求の範囲を限定しようとするものではない。
【0070】
[実施例1]
I種基油および種々の濃度の分散添加剤を含む12個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の有効性について、試験法の項に記載する黒色スラッジ堆積物(BSD)試験を用いて評価を行った。
【0071】
12個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々は、第2表に示すように、二種の異なるI種基油の混合物を含有した。I種基油#1はエクソンモービルCORE600であった。I種基油#2はエクソンモービルCORE2500であった。I種基油#3はエクソンモービルCORE150であった。
【0072】
組成物1は分散剤を含まなかった。残りの11個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物(「組成物2−12」)は、第2表に詳しく記すように、三種の異なる分散剤を異なる濃度で含有した。つまり、組成物2−4は、MW1000のPIBと重質ポリアミン/DETA(80/20質量/質量)から誘導したビスコハク酸イミド分散剤(「分散剤A」)を種々の濃度で含み、組成物5−7は、MW1300のPIBと重質ポリアミンから誘導したホウ酸化ビスコハク酸イミド分散剤(「分散剤B」)を種々の量で含み、そして組成物8−12は、MW2300のPIBと重質ポリアミンから誘導したエチレンカーボネート処理したビスコハク酸イミド分散剤(「分散剤C」)を種々の濃度で含んでいた。
【0073】
また、12個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々は、カルボキシレート含有清浄添加剤13.78質量%も含有していて、それは次の物質の混合物であった:(a)米国特許出願公開第2004/0235686号明細書の実施例1に記載の方法により製造した、多重界面活性な未硫化、非炭酸化カルボキシレート含有添加剤25.91質量%、(b)米国特許出願公開第2007/0027043号明細書の実施例1に記載の方法により製造した過塩基性カルシウムアルキルヒドロキシベンゾエート添加剤69.01質量%、および(c)第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の油濃縮物5.08質量%。
【0074】
12個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々の成分をブレンドして、粘度が40℃で約145cSt、TBNが約41、リン分が約0.05質量%、および亜鉛分が約0.058質量%とした。
【0075】
第1表に、12個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々のBSD試験の結果、並びに組成物1のBSD試験結果に対するトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々のBSD試験結果のパーセント比較を示す。第1表に示した質量パーセントは全て、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の全質量に基づいて計算している。
【0076】
【表1】

【0077】
第1表に示した結果から明らかなように、I種基油と約0.2乃至約0.6質量%の分散剤を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、実質的な分散効果を示し、そして驚くべきことには、分散剤を含まないトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物よりも、また0.6質量%より多く分散剤を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物よりも、黒色スラッジ生成が少なかった。
【0078】
[実施例2]
実施例1で評価した12個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々について、酸化に基づく粘度増加に対する安定度を、試験法に記載する改定英国石油協会48(「MIP48」)試験を用いて評価した。
【0079】
第2表に、12個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々のMIP48試験の結果、並びに組成物1のMIP48試験結果に対するトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々のMIP48試験結果のパーセント比較を示す。
【0080】
【表2】

【0081】
第2表に示した結果から明らかなように、I種基油と低濃度の分散剤を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は驚くべきことには、分散剤を含まない潤滑油組成物よりも酸化に基づく粘度増加に対して優れた安定性を示した。
【0082】
[実施例3(比較例)]
II種基油および実施例1で使用したのと同じ種々の濃度の分散剤油濃縮物を含む12個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の有効性について、試験法の項に記載するBSD試験を用いて評価を行った。
【0083】
12個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々は、第3表に示すように、およそ80質量%のII種基油を含有した。II種基油は、シェブロン・プロダクツ(株)(Chevron Products Co.、カリフォルニア州サンラモン)製のシェブロン(Chevron)600RII種基材油であった。
【0084】
組成物1は分散剤油濃縮物を含まなかった。残りの11個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物(「組成物2−12」)は、第3表に詳しく記すように、三種の異なる分散剤を異なる濃度で含有した。つまり、組成物2−4は、MW1000のPIBと重質ポリアミン/DETA(80/20質量/質量)から誘導したビスコハク酸イミド分散剤(「分散剤A」)を種々の濃度で含み、組成物5−7は、MW1300のPIBSAと重質ポリアミンから誘導したホウ酸化ビスコハク酸イミド分散剤(「分散剤B」)を種々の濃度で含み、そして組成物8−12は、MW2300のPIBSAと重質ポリアミンから誘導したエチレンカーボネート処理したビスコハク酸イミド分散剤(「分散剤C」)を種々の濃度で含んでいた。
【0085】
また、12個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々は、カルボキシレート含有清浄添加剤18.85−19.10質量%も含有していて、それは次の物質の混合物であった:(a)米国特許出願公開第2004/0235686号明細書の実施例1に記載の方法により製造した多重界面活性な未硫化、非炭酸化カルボキシレート含有添加剤64.7質量%、(b)米国特許出願公開第2007/0027043号明細書の実施例1に記載の方法により製造した過塩基性カルシウムアルキルヒドロキシベンゾエート添加剤31.7質量%、および(c)第二級ジアルキルジチオリン酸亜鉛の油濃縮物5.08質量%。さらに、全てのトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物のTBNは約40であった。
【0086】
粘度が40℃でそれぞれ165.6および193cStであった組成物11及び12を除いて、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々の成分の粘度は、40℃で132−153cStであった。
【0087】
全てのトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、完成油でTBNが約40、リン分が約0.05質量%、および亜鉛分が約0.058質量%であった。
【0088】
第3表に、12個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々のBSD試験の結果、並びに組成物1のBSD試験結果に対するトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々のBSD試験結果のパーセント比較を示す。第3表に示した質量パーセントは全て、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の全質量に基づいて計算している。
【0089】
【表3】

【0090】
実施例1とは違って、約0.2乃至約0.6質量%の分散剤と組み合わせてII種基油を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、分散剤を含まないトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物よりも少ない黒色スラッジ生成を示さない。
【0091】
[試験法]
(黒色スラッジ堆積物(BSD)試験)
試験油の試料を重油と混ぜ合わせて試験混合物とした。各試験混合物を規定時間ポンプで熱した試験板にかけた。試験板を冷却してすすいだ後、乾燥して計量した。各試験鋼板の重さを求め、そして試験鋼板に残留した堆積物の重さを、試験鋼板の重さの変化として測定して記録した。
【0092】
(改定英国石油協会48(MIP48)試験)
試験油の二つの試料を規定時間加熱した。試験試料の一方には窒素を通したが、もう一方には空気を通した。試料を冷却し、そして両試料の粘度を求めた。空気吹込み試料の100℃動粘度から窒素吹込み試料の100℃動粘度を引き算し、そして引き算の結果を窒素吹込み試料の100℃動粘度で割ることにより、12個のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の各々について、酸化に基づく粘度増加を算出した。
【0093】
この明細書に記した全ての公報及び特許出願明細書は、各々個々の公報又は特許出願明細書を参照内容として記載すると明確かつ別個に示唆したのと同じ程度にまで、参照内容として本明細書の記載とする。
【0094】
添付した特許請求の範囲の真意又は範囲から逸脱することなく、多くの変換や変更を提示する開示内容に成しうることは、当該分野の熟練者であれば明白であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物:
a)主要量の一種以上のI種基油、および
b)一種以上の分散添加剤、
ただし、本トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物中の一種以上の分散添加剤の濃度は、活性分に基づき約0.2−0.6質量%であり、そして該組成物の全塩基価は少なくとも約12である。
【請求項2】
組成物が、黒色スラッジを最小限に抑えるトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物である請求項1に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項3】
組成物が、分散剤を含まない潤滑油組成物に比べて、エンジン内の黒色スラッジ生成を少なくとも約5%低減させる請求項2に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項4】
組成物が、分散剤を活性分に基づき1質量%より多く含む潤滑油組成物に比べて、エンジン内の黒色スラッジ生成を少なくとも約5%低減させる請求項2に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項5】
組成物が、粘度の安定したトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物である請求項1に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項6】
組成物の酸化に基づく粘度増加が、分散剤を含まない潤滑油組成物に比べて少なくとも約5%低い請求項5に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項7】
トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物が、一種以上の清浄添加剤を含んでいる請求項1に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項8】
一種以上の清浄添加剤が過塩基性清浄添加剤を含んでいる請求項7に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項9】
一種以上の清浄添加剤が、アルキル置換ヒドロキシ安息香酸の塩を含んでいる請求項7に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項10】
一種以上の清浄添加剤が、基本的にアルキル置換ヒドロキシ安息香酸の過塩基性塩からなる請求項7に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項11】
一種以上の清浄添加剤が、基本的にアルキル置換ヒドロキシ安息香酸とアルキル置換フェノールとの混合物の非過塩基性塩からなる請求項7に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項12】
清浄添加剤のアルキル基の約95%より多くが、炭素原子数20以上の線状アルファオレフィンの残基である請求項9に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項13】
一種以上の清浄添加剤がアルカリ土類金属塩を含み、かつ該アルカリ土類金属が、カルシウム、マグネシウムおよびそれらの組合せ及び混合物からなる群より選ばれたものである請求項7に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項14】
一種以上の分散添加剤がポリアルキレンコハク酸イミドを含んでいる請求項1に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項15】
一種以上の分散添加剤がポリイソブテンコハク酸イミドを含んでいる請求項1に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項16】
トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物が更に、耐摩耗性添加剤を含んでいる請求項1に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項17】
耐摩耗性添加剤がジアルキルジチオリン酸亜鉛を含んでいる請求項16に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項18】
トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物の粘度が、100℃で約5.6−21.9cStである請求項1に記載のトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物。
【請求項19】
下記の成分を含む、黒色スラッジを最小限に抑えるトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物:
a)主要量の一種以上のI種基油、および
b)一種以上の分散添加剤、
ただし、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物中の一種以上の分散添加剤の濃度は、活性分に基づき約0.2−0.6質量%であり、該組成物の全塩基価は少なくとも約12であり、そしてトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物は、分散剤を含まない潤滑油組成物に比べて、エンジン内の黒色スラッジ生成を少なくとも約5%低減させる。
【請求項20】
下記の成分を含む、粘度の安定したトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物:
a)主要量の一種以上のI種基油、および
b)一種以上の分散添加剤、
ただし、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物中の一種以上の分散添加剤の濃度は、活性分に基づき約0.2−0.6質量%であり、該組成物の全塩基価は少なくとも約12であり、そして組成物の酸化に基づく粘度増加は、分散剤を含まない潤滑油組成物に比べて少なくとも約5%低い。
【請求項21】
トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物を製造する方法であって、下記の成分を混合することを含む方法:
a)主要量の一種以上のI種基油、および
b)一種以上の分散添加剤、
ただし、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物中の一種以上の分散添加剤の濃度は、活性分に基づき約0.2−0.6質量%であり、そして該組成物の全塩基価は少なくとも約12である。
【請求項22】
エンジン内の黒色スラッジ及び堆積物生成を低減させる方法であって、下記の成分を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物を用いて、エンジンを潤滑にすることを含む方法:
a)主要量の一種以上のI種基油、および
b)一種以上の分散添加剤、
ただし、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物中の一種以上の分散添加剤の濃度は、活性分に基づき約0.2−0.6質量%であり、そして該組成物の全塩基価は少なくとも約12である。
【請求項23】
トランクピストン・エンジンを作動させる方法であって、下記の成分を含むトランクピストン・エンジン用潤滑油組成物を用いて、トランクピストン・エンジンを潤滑にすることを含む方法:
a)一種以上のI種基油、および
b)一種以上の分散添加剤、
ただし、トランクピストン・エンジン用潤滑油組成物中の一種以上の分散添加剤の濃度は、活性分に基づき約0.2−0.6質量%であり、そして該組成物の全塩基価は少なくとも約12である。

【公開番号】特開2009−144153(P2009−144153A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−316205(P2008−316205)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(501381217)シェブロン・オロナイト・テクノロジー・ビー.ブイ. (11)
【Fターム(参考)】