説明

トランスジェニック鳥においてヒトイディオタイプを有する抗体を生産するための組成物及び方法

本発明は、非ヒト動物においてヒトイディオタイプを有する抗体を生産するための組成物及び方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年6月1日付米国特許仮出願第60/941,615号に基づく利益を請求する。この仮出願は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ヒトイディオタイプを有する抗体、及び、非ヒト動物において前記抗体を作製するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
抗体は、感染性疾患、癌、アレルギー性疾患、及び移植片対宿主疾患等の多様なヒト疾患及び症状の治療において、並びに移植拒絶反応の予防において成功裡に使用されてきた医薬製品の重要な一分類である。
【0004】
非ヒト免疫グロブリンの治療適用に伴う課題として、ヒト患者における潜在的な免疫原性が挙げられる。かかる製剤の免疫原性を減じさせるために、部分的にヒト(ヒト化)及び全ヒト抗体を生産するための様々な戦略が開発されてきた。
【0005】
非ヒト動物におけるヒトイディオタイプを有するトランスジェニック抗体の生産能は、イディオタイプ領域の内部に位置する抗原結合決定基として特に所望され、また、非ヒトイディオタイプは、現在の抗体治療の免疫原性に寄与すると考えられている。ポリクローナル抗体混合物によってより低濃度で送達される多様なイディオタイプとは対照的に、比較的高濃度で送達される単一のイディオタイプから成るモノクローナル抗体治療に関する限りでは、ヒトイディオタイプは特に重要な検討事項である。しかしながら鳥におけるヒトイディオタイプ抗体の生産は、遺伝子変換が原因で困難であることが証明されている。
【0006】
ヒト及びマウス等の動物において、重鎖遺伝子座にV、D及びJ遺伝子セグメントの複数のコピー、並びに軽鎖遺伝子座にV及びJ遺伝子セグメントの複数のコピーが存在する。これらの動物における抗体多様性は、主に遺伝子再構成、すなわち再構成された重鎖可変領域及び再構成された軽鎖可変領域由来の遺伝子セグメントの異なる組み合わせによって生み出される。しかしながら鳥における遺伝子再構成は、抗体多様性の産出において重要な役割を果たさない。例えばニワトリでは、1のV遺伝子セグメント(D領域に隣接する1つ、又は「3’近位V遺伝子セグメント」)、1のDセグメント及び1のJセグメントのみが重鎖再構成において用いられ、また1のV遺伝子セグメント(3’近位Vセグメント)及び1のJ遺伝子セグメントのみが軽鎖再構成において用いられる。したがってこれらの動物において、結合多様性によって生じる最初に再構成された可変領域配列の間に多様性は殆どない。
【0007】
ニワトリ等の鳥において再構成されたIg遺伝子のさらなる多様性は、遺伝子変換、上流のV遺伝子セグメント由来の短配列が、再構成されたIg遺伝子の中のV遺伝子セグメントの内部で短配列を置き換える方法によって達成される。したがって遺伝子変換動物における抗体は、2つ以上のV遺伝子セグメントのフラグメントによってコードされるイディオタイプを示す。その一方でヒト及びげっ歯類抗体のイディオタイプは、常に単一のV遺伝子セグメントによってコードされる。
【0008】
鳥におけるヒト化抗体を作製する従来法は、複数のV遺伝子セグメントを含んでなり、遺伝子変換及び抗体遺伝子多様性を与える人工免疫グロブリン遺伝子座を使用してきた。前述の組み換え遺伝子座は、典型的に単一のヒトV遺伝子セグメント及び複数の鳥類のV遺伝子セグメントをヒトV遺伝子セグメントの上流に導入してきた。遺伝子変換はこれらの鳥において抗体多様性を増加させると同時に、さらに部分的にニワトリV遺伝子配列及びヒト配列から由来するV領域配列を生成する遺伝子座を有する鳥のようなヒト抗体イディオタイプとは異なる抗体イディオタイプを生成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、V遺伝子変換を受ける能力がない単一のV遺伝子セグメントを含む人工Ig遺伝子座が、インビボ(in vivo)において十分に機能的であり、且つ迅速に再構成してトランスジェニック鳥における単一のV遺伝子セグメントから生み出される抗体の生産を生じさせることの発見に起因する。さらに単一のヒトV遺伝子セグメント、1以上のヒトJセグメント、及び重鎖遺伝子座の場合における1以上のヒト又は鳥類のD遺伝子セグメントは、かかる人工Ig遺伝子座の中で組み合わされて、トランスジェニック鳥においてヒトイディオタイプを有する抗体の産出を提供する機能的な遺伝子座を生み出し得る。さらにかかる人工Ig遺伝子座での超変異は、遺伝子座の中で単一のヒトV遺伝子セグメントによって維持されるヒトイディオタイプをコードする配列上で行われるように、ヒトでの親和性成熟に多少類似する方法において抗体多様性及び親和性域を増加させる。ヒトイディオタイプを有するかかるトランスジェニック鳥から由来する抗体は、抗体治療において高く所望される特徴を有する。
【0010】
さらに本発明者は、偶然にも、単一のV遺伝子セグメントを含むベクターが、複数のV遺伝子セグメントを含むベクターよりも、より簡単に誘導し得るとともに、より安定であり、これによってトランスジェニック鳥を極めて簡単且つ効率的に提供し得ることを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、1の観点によれば、本発明は、ヒトイディオタイプを有する免疫グロブリンを生産することができるトランスジェニック鳥の作製方法を提供する。一態様によれば、トランスジェニック鳥は、ヒト化免疫グロブリンを生産することができる。他の態様によれば、トランスジェニック鳥は、全ヒト免疫グロブリンを生産することができる。本方法は、本発明の人工重鎖及び/又は軽鎖遺伝子座を鳥ゲノムに導入することを含んでなり、前記人工遺伝子座は、それぞれ単一のV遺伝子セグメントを含んでなり、その単一のV遺伝子セグメントはヒトV遺伝子セグメントであり、前記人工Ig遺伝子座は機能的であるが、V遺伝子変換をすることができない。
【0012】
一態様によれば、本方法は、本発明の人工Ig遺伝子座の無作為な統合を含んでなる。
【0013】
一態様によれば、本方法は、本発明の人工Ig遺伝子座の標的化された統合を含んでなる。
【0014】
一態様によれば、標的化された統合は、メガヌクレアーゼの使用を伴う。
【0015】
一態様によれば、標的化された統合は、相同性組み換えを用いて行われる。
【0016】
一態様によれば、本方法は、鳥ゲノムの1以上の内因性Ig遺伝子座を不活性化することを伴う。一態様によれば、本方法は、内因性Ig軽鎖遺伝子座を不活性化することを伴う。一態様によれば、本方法は、内因性Ig重鎖遺伝子座を不活性化することを伴う。一態様によれば、本方法は、内因性Ig軽鎖遺伝子座及び内因性Ig重鎖遺伝子座を不活性化することを伴う。
【0017】
一態様によれば、かかる不活性化は、メガヌクレアーゼを用いて行われる。
【0018】
一態様によれば、かかる不活性化は、相同性組み換えを用いて行われる。
【0019】
一態様によれば、トランスジェニック鳥は、ニワトリ、シチメンチョウ、ガン、アヒル、ウズラ、及びキジから成る群から選定される。
【0020】
1の観点によれば、本発明は、本発明の方法によって生産されるトランスジェニック鳥を提供する。
【0021】
一態様によれば、本発明は、Ig遺伝子変換ができない機能的な人工Ig遺伝子座を含むトランスジェニック鳥を提供する。
【0022】
一態様によれば、本発明は、機能的な人工Ig遺伝子座を含むトランスジェニック鳥を提供し、その遺伝子座は単一のV遺伝子セグメントを含んでなり、その単一のV遺伝子セグメントはヒトV遺伝子セグメントである。一態様によれば、人工Ig遺伝子座は、Ig重鎖遺伝子座である。一態様によれば、人工Ig遺伝子座は、Ig軽鎖遺伝子座である。
【0023】
好適な態様によれば、トランスジェニック鳥は、機能的な内因性Ig軽鎖遺伝子座及び/又は機能的なIg重鎖遺伝子座を欠き、そしてそれ故に内因性免疫グロブリンを生産することができない。
【0024】
一態様によれば、本発明は、少なくとも1の本発明の人工重鎖Ig遺伝子座及び少なくとも1の本発明の人工軽鎖Ig遺伝子座を含むトランスジェニック鳥を提供し、その鳥はヒトイディオタイプを有する抗体を生産することができる。好適な態様によれば、鳥は、不活性化内因性重鎖Ig遺伝子座、不活性化内因性軽鎖遺伝子座、又は両方を有する。
【0025】
一態様によれば、本発明は、人工Ig重鎖遺伝子座を含んでなり、且つ機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠いているトランスジェニック鳥を提供する。かかるトランスジェニック鳥は、重鎖のみの抗体を生産することができる。
【0026】
一態様によれば、本発明は、少なくとも1の本発明の人工軽鎖Ig遺伝子座に加えて、2つ以上の本発明の人工重鎖Ig遺伝子座を含むトランスジェニック鳥を提供する。好適な態様によれば、トランスジェニック鳥の2つ以上の人工重鎖Ig遺伝子座は、種々のヒトV遺伝子セグメントを含んでなる。
【0027】
他の態様によれば、本発明は、少なくとも1の本発明の人工重鎖Ig遺伝子座に加えて、2つ以上の本発明の人工軽鎖Ig遺伝子座を含むトランスジェニック鳥を提供する。好適な態様によれば、トランスジェニック鳥の2つ以上の人工軽鎖Ig遺伝子座は、種々のヒトV遺伝子セグメントを含んでなる。
【0028】
一態様によれば、本発明は、ヒトイディオタイプ及び鳥由来Fc領域を有するキメラ抗体を生産することができるトランスジェニック鳥を提供する。
【0029】
一態様によれば、本発明は、ヒトイディオタイプ及びヒト由来Fc領域を有する抗体を生産することができるトランスジェニック鳥を提供する。
【0030】
1の観点によれば、本発明は、本発明のトランスジェニック鳥を生産するために有用なベクターを提供する。かかるベクターは、本発明の人工Ig遺伝子座を含んでなる。
【0031】
1の観点によれば、本発明は、人工Ig遺伝子座を提供する。本発明の人工Ig遺伝子座は、単一のV遺伝子セグメントを含んでなり、その単一のV遺伝子セグメントはヒトV遺伝子セグメントである。
【0032】
好適な態様によれば、V遺伝子セグメントは、生殖細胞系又は超変異ヒトV領域アミノ酸配列をコードする。
【0033】
一態様によれば、人工Ig遺伝子座は、重鎖遺伝子座である。好適な態様によれば、かかる人工Ig遺伝子座は、1以上のヒトJ遺伝子セグメント、1以上のD遺伝子セグメント、及び1以上の定常領域遺伝子を含んでなる。好適な態様によれば、1以上のD遺伝子セグメントは、ヒトD遺伝子セグメントである。好適な態様によれば、1以上の定常領域遺伝子は、ヒト定常領域遺伝子である。
【0034】
他の態様によれば、人工Ig遺伝子座は、軽鎖遺伝子座である。好適な態様によれば、かかる人工Ig遺伝子座は、1以上のヒトJ遺伝子セグメント及び1以上の定常領域遺伝子を含んでなる。好適な態様によれば、1以上の定常領域遺伝子は、ヒト定常領域遺伝子である。
【0035】
好適な態様によれば、本発明の人工Ig遺伝子座は、再構成されていない。
【0036】
他の態様によれば、本発明の人工Ig遺伝子座は、部分的に再構成されている。
【0037】
他の態様によれば、本発明の人工Ig遺伝子座は、完全に再構成されている。
【0038】
1の観点によれば、本発明は、本発明の人工Ig遺伝子座を含むベクターの作製方法を提供する。
【0039】
1の観点によれば、本発明は、トランスジェニック鳥においてヒトイディオタイプを有する抗体の組成物及び作製方法を提供する。本方法は、免疫原によりヒトイディオタイプを有する抗体を作ることができる本発明のトランスジェニック鳥に免疫性を与えて、ヒトイディオタイプを有する抗体を作り出すことを含んでなり、前記抗体は免疫原に特異的に結合する。
【0040】
一態様によれば、本発明は、ヒトイディオタイプを有する抗体を作ることができるトランスジェニック鳥におけるヒトイディオタイプを有する抗体の作製方法を提供する。ポリクローナル及びモノクローナル抗体の産出のために、好適には複数のかかるトランスジェニック鳥は免疫原により免疫性を与えられ、そして免疫原に特異的な抗体を生産する鳥が同定され、そしてポリクローナル抗血清の調製のために使用される。或いは免疫原に特異的な抗体を生産する鳥は、免疫原に特異的なモノクローナル抗体を作り出すために使用され得る。
【0041】
好適な態様によれば、本方法は、免疫原により本発明のトランスジェニック鳥に免疫性を与えることを含んでなり、前記トランスジェニック鳥は少なくとも1の人工重鎖Ig遺伝子座及び少なくとも1の人工軽鎖Ig遺伝子座を有し、それぞれの前記人工Ig遺伝子座は機能的であり、且つ単一のヒト可変(V)遺伝子セグメント、複数のJ遺伝子セグメント、重鎖遺伝子座の場合は1以上のD遺伝子セグメント、及び1以上の定常領域遺伝子セグメントを含む複数のIg遺伝子セグメントを含んでなり、それぞれの前記単一のV遺伝子セグメントは機能的であり、且つ遺伝子変換ではなく超変異によって多様化されることができ、それぞれの前記単一のV遺伝子セグメントは生殖細胞系又は超変異ヒトV領域アミノ酸配列をコードする。トランスジェニック鳥は、好適には内因性免疫グロブリンを生産することができない。好適な態様によれば、トランスジェニック鳥は、機能的な内因性Ig軽鎖及び/又は機能的な内因性Ig重鎖遺伝子座を欠いている。
【0042】
一態様によれば、本方法は、免疫原により本発明のトランスジェニック鳥に免疫性を与えることを含んでなり、前記トランスジェニック鳥は2つ以上の人工重鎖Ig遺伝子座を含んでなり、前記2つ以上の人工重鎖Ig遺伝子座は種々の単一のヒトV遺伝子セグメントを含んでなる。
【0043】
他の態様によれば、本方法は、免疫原により本発明の2以上のトランスジェニック鳥に免疫性を与えることを含んでなり、前記2以上のトランスジェニック鳥は人工重鎖Ig遺伝子座を含んでなり、その遺伝子座は種々の単一のヒトV遺伝子セグメントを含んでなる。
【0044】
一態様によれば、本方法は、免疫原により本発明の2以上のトランスジェニック鳥に免疫性を与えることを含んでなり、前記トランスジェニック鳥は2つ以上の人工軽鎖Ig遺伝子座を含んでなり、前記2以上の人工軽鎖Ig遺伝子座は種々の単一のヒトV遺伝子セグメントを含んでなる。
【0045】
他の態様によれば、本方法は、免疫原により本発明の2以上のトランスジェニック鳥に免疫性を与えることを含んでなり、前記2以上のトランスジェニック鳥は人工軽鎖Ig遺伝子座を含んでなり、その遺伝子座は種々の単一のヒトV遺伝子セグメントを含んでなる。
【0046】
一態様によれば、本発明は、重鎖のみの抗体の生産方法を提供する。本方法は免疫原により本発明のトランスジェニック鳥に免疫性を与えることを含んでなり、前記トランスジェニック鳥は人工Ig重鎖遺伝子座を含んでなり、且つ機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠いている。
【0047】
1の観点によれば、本発明は、本発明のトランスジェニック鳥から由来するポリクローナル抗体を提供する。
【0048】
一態様によれば、抗体は、ヒトイディオタイプを有するキメラ抗体である。
【0049】
一態様によれば、抗体は、ヒトイディオタイプ及びヒトFc領域を有する。
【0050】
一態様によれば、抗体は、重鎖のみの抗体である。
【0051】
1の観点によれば、本発明は、本発明のトランスジェニック鳥から由来するモノクローナル抗体を提供する。
【0052】
一態様によれば、モノクローナル抗体は、ヒトイディオタイプを有するキメラ抗体である。
【0053】
好適な態様によれば、モノクローナル抗体は、ヒトイディオタイプ及びヒトFc領域を有する。
【0054】
一態様によれば、モノクローナル抗体は、重鎖のみの抗体である。
【0055】
1の観点によれば、本発明は、本発明のトランスジェニック鳥から由来する細胞を提供する。
【0056】
好適な態様によれば、本発明は、本発明のトランスジェニック鳥の脾臓から由来する細胞を提供する。
【0057】
好適な態様によれば、本発明は、本発明のトランスジェニック鳥から由来するB細胞を提供し、そのB細胞はヒトイディオタイプを有する抗体を生産することができる。
【0058】
1の観点によれば、本発明は、ヒトイディオタイプを有する抗体を生産することができるハイブリドーマの作製方法を提供する。本方法は、本発明のトランスジェニック鳥から由来する細胞の使用を含んでなる。
【0059】
1の観点によれば、本発明は、そのようにして生産されたハイブリドーマを提供する。
【0060】
1の観点によれば、本発明は、ヒトイディオタイプを有する抗体を提供し、その抗体は、本発明のハイブリドーマによって生産される。
【0061】
1の観点によれば、本発明は、本発明のトランスジェニック鳥から由来する再構成された抗体遺伝子セグメントの使用を含んでなる、組み換え手段による全ヒトモノクローナル抗体の作製方法を提供し、その再構成された抗体遺伝子セグメントはヒトイディオタイプを有する抗体をコードする。
【0062】
1の観点によれば、本発明は、そのようにして生産された全ヒトモノクローナル抗体を提供する。
【0063】
1の観点によれば、本発明は、本発明のモノクローナル抗体を発現する細胞から単離されたモノクローナル抗体をコードする核酸を提供する。
【0064】
1の観点によれば、本発明は、本発明の全ヒトモノクローナル抗体をコードする核酸を提供する。
【0065】
1の観点によれば、本発明は、ヒト体内成分における抗原性構成要素の活性を中和又は調節するための方法を提供する。一態様によれば、本方法は、体内成分を本発明のポリクローナル抗血清組成物と接触させることを含んでなり、前記ポリクローナル抗血清組成物は、抗原性構成要素に特異的に結合し、そして抗原性構成要素の活性を中和又は調節する免疫グロブリン分子を含んでなる。
【0066】
一態様によれば、本方法は、体内成分を本発明のモノクローナル抗体と接触させることを含んでなり、前記モノクローナル抗体は抗原性構成要素に特異的に結合し、そして抗原性構成要素の活性を中和又は調節する。
【0067】
一態様によれば、モノクローナル抗体は、全ヒトモノクローナル抗体である。
【0068】
一態様によれば、抗原性構成要素は、感染性疾患を引き起こす有機体に由来する。
【0069】
一態様によれば、抗原性構成要素は、細胞表面分子である。
【0070】
一態様によれば、抗原性構成要素は、ヒトサイトカイン又はヒトケモカインである。
【0071】
一態様によれば、抗原性構成要素は、悪性癌細胞上の細胞表面分子である。
【0072】
1の観点によれば、本発明は、本発明の抗体を含む医薬組成物を提供し、その抗体はヒトイディオタイプを有する。
【0073】
1の観点によれば、本発明は、患者に治療有効量の本発明の医薬組成物を投与することを含んでなる、治療を必要とする患者を治療するための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】単一のヒトVH、ヒトDエレメント、単一のヒトJH及びCμ、Cα及びCγを含むニワトリ定常領域を含んでなる人工免疫グロブリン重鎖遺伝子座。VH、D及びJHの間のスペースはヒトであり、全ての他の配列はニワトリ由来である。
【発明を実施するための形態】
【0075】
「人工免疫グロブリン遺伝子座」とは、複数の免疫グロブリン遺伝子セグメントを含む、ヒト及び非ヒト免疫グロブリン遺伝子座のフラグメントを含む免疫グロブリン遺伝子座を意味し、単一のヒトV遺伝子セグメント、複数のヒトJ−遺伝子セグメント、重鎖遺伝子座の場合には1以上のD遺伝子セグメント、及び1以上の定常領域遺伝子を含んでなり、前記ヒトV遺伝子は生殖細胞系又は超変異ヒトV領域アミノ酸配列をコードし、また前記人工免疫グロブリン遺伝子座は機能的であり、且つ遺伝子変換ではなく超変異によって多様化した免疫グロブリンのレパートリーを生産することができ、また前記再構成された人工免疫グロブリン遺伝子座はヒトイディオタイプを有する重鎖又は軽鎖をコードする。本明細書において使用される人工Ig遺伝子座とは、再構成されていない遺伝子座、部分的に再構成された遺伝子座、及び再構成された遺伝子座について言及し得る。人工Ig遺伝子座は、人工Ig軽鎖遺伝子座及び人工Ig重鎖遺伝子座を含んでなる。一態様によれば、人工Ig遺伝子座は非ヒトC領域遺伝子を含んでなり、また非ヒトC領域を有するキメラ免疫グロブリンを含む免疫グロブリンのレパートリーを生産することができる。一態様によれば、人工Ig遺伝子座はヒトC領域遺伝子を含んでなり、またヒトC領域を有する免疫グロブリンを含む免疫グロブリンのレパートリーを生産することができる。一態様によれば、人工Ig遺伝子座は、ヒト及び非ヒト定常領域遺伝子から由来するヌクレオチド配列を含む定常領域遺伝子を意味する「人工定常領域遺伝子」を含んでなる。
【0076】
ある態様によれば、人工Ig鎖遺伝子座は、得られた免疫グロブリンが典型的な免疫グロブリン:シャペロン結合を回避することを可能にするCH1、又は同等な配列を欠いている。かかる人工遺伝子座は、機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠いているので機能的なIg軽鎖を発現しないトランスジェニック鳥において重鎖のみの抗体の生産を提供する。かかる人工Ig重鎖遺伝子座は、機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠き、且つ人工Ig重鎖遺伝子座を含むトランスジェニック鳥を生産するために本明細書における方法にて使用され、その動物は重鎖のみの抗体を生産することができる。或いは人工Ig遺伝子座を原位置(in situ)において操作し、CH1又は同等の領域を切断し、そして重鎖のみの抗体の生産を提供する人工Ig重鎖遺伝子座を生み出し得る。軽鎖欠失動物における重鎖のみの抗体の生産に関しては、例えばZou等、JEM, 204:3271-3283, 2007を参照。
【0077】
「機能的な免疫グロブリン遺伝子座」又は「機能的な人工免疫グロブリン遺伝子座」とは、遺伝子再構成を受けることによって多様化された免疫グロブリン分子のレパートリーを生産する能力を有するIg遺伝子座、又はそのようにして再構成され、且つ免疫グロブリン分子を生産することができる遺伝子座を意味する。さらに機能的なIg遺伝子座によって生み出された抗体も、「機能的な」抗体として本明細書において言及される。
【0078】
「ヒトイディオタイプ」とは、免疫グロブリンV遺伝子セグメントによってコードされたヒト抗体に存在するポリペプチド配列を意味する。本明細書において使用される用語「ヒトイディオタイプ」とは、ヒト抗体の天然配列、及びヒト抗体において見出されるポリペプチドと実質的に同一の合成配列の両方を含んでなる。「実質的に」とは、アミノ酸配列同一性の程度が少なくとも約85〜95%であることを意味する。好適にはアミノ酸配列同一性の程度は、90%を超え、より好適には95%を超える。
【0079】
「キメラ抗体」又は「キメラ免疫グロブリン」とは、少なくともヒト免疫グロブリンポリペプチド配列(又はヒトIg遺伝子セグメントによってコードされるポリペプチド配列)の一部を有する免疫グロブリン分子を意味する。本発明のキメラ免疫グロブリン分子は、好適には鳥由来のFc領域(Cμ又はCγ又はCε又はCα)及びヒトイディオタイプを有する免疫グロブリンである。かかる免疫グロブリンは、キメラ免疫グロブリン分子を生産するように操作されたトランスジェニック鳥から単離され得る。
【0080】
「人工Fc領域」とは、人工定常領域遺伝子によってコードされたFc領域を意味する。
【0081】
本明細書において使用される用語「Ig遺伝子セグメント」とは、非ヒト動物及びヒトの生殖細胞系において存在し、且つB細胞においてまとめられて再構成されたIg遺伝子を形成するIg分子の多様な部分をコードするDNAセグメントを言う。したがって本明細書において使用されるIg遺伝子セグメントは、V遺伝子セグメント、D遺伝子セグメント、J遺伝子セグメント及びC領域遺伝子セグメントを含んでなる。
【0082】
本明細書において使用される用語「ヒトIg遺伝子セグメント」とは、ヒトIg遺伝子セグメントの天然配列、ヒトIg遺伝子セグメントの天然配列の縮重形態、及びヒトIg遺伝子セグメントの天然配列によってコードされるポリペプチドと実質的に同一のポリペプチド配列をコードする合成配列を含んでなる。「実質的に」とは、アミノ酸配列同一性の程度が少なくとも約85〜95%であることを意味する。好適にはアミノ酸配列同一の程度は、90%を超え、より好適には95%を超える。
【0083】
「メガヌクレアーゼ」とは、DNAにおいて長い認識部位、好適には少なくとも12個、より好適には少なくとも13個、より好適には少なくとも14個、より好適には少なくとも15個、より好適には少なくとも16個、より好適には少なくとも17個、及び最適には少なくとも18個のヌクレオチド長を認識するエンドデオキシリボヌクレアーゼを意味する。メガヌクレアーゼは、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ、天然のホーミングエンドヌクレアーゼ、及び特注の操作された亜鉛フィンガーヌクレアーゼ及びホーミングヌクレアーゼを含んでなる。本発明における使用のために要求されるのは、誘導されたメガヌクレアーゼの働きによって、機能的な突然変異がIg遺伝子座に導入され得るように、メガヌクレアーゼが対象動物における内因性Ig遺伝子座の中又は近位に存在するメガヌクレアーゼ標的配列を認識することである。メガヌクレアーゼのさらなる検討は、例えば米国特許出願公開No.20060206949、20060153826、20040002092、20060078552、及び20050064474を参照。変化した特異性を有する亜鉛フィンガーヌクレアーゼは、個々の亜鉛フィンガーを種々のトリプレット標的と組み合わせることによって生み出され得る。天然のホーミングエンドヌクレアーゼの特異性は、構造に基づくタンパク質操作によって変化され得る。例えば、Proteus及びCarroll、nature biotechnology 23(8):967-97、2005を参照。
【0084】
「生殖細胞系不活性化Ig遺伝子座」、又は「生殖細胞系不活性化内因性Ig遺伝子座」、又は「内因性Ig遺伝子座における生殖細胞系突然変異」を有する動物は、全ての細胞、すなわち全ての体細胞及び生殖細胞中に不活性化内因性Ig遺伝子座を有する。本発明では生殖細胞系不活性化遺伝子座を有する動物は、結果物の動物又はその祖先を生じる生殖細胞においてメガヌクレアーゼの働きによってもたらされるような突然変異によって生産される。一態様によれば、完全な内因性Ig重鎖及び/又はIg軽鎖遺伝子座、或いはその大部分は、対象動物のゲノムから欠失している。さらにかかる動物は、不活性化されている内因性遺伝子座を含むように言及される。
【0085】
ヒトイディオタイプを有する抗体を生産するトランスジェニック鳥、及びその作製方法。
【0086】
本発明の1の観点によれば、ヒトイディオタイプを有する免疫グロブリンを生産することができるトランスジェニック鳥の作製方法を提供する。本方法は、1以上の人工重鎖Ig遺伝子座及び/又は1以上の人工軽鎖Ig遺伝子座の鳥のゲノムへの統合を伴う。重鎖のみの抗体が所望される場合は、人工Ig重鎖遺伝子座のみが使用される。さもなければ重鎖及び軽鎖の人工遺伝子座が使用される。染色体位置にかかわらず、本発明の人工Ig遺伝子座は、機能的な免疫グロブリン遺伝子座であり、且つ遺伝子再構成を受けることによって多様な免疫グロブリン分子のレパートリーを生産する能力を有する。
【0087】
一態様によれば、本発明の人工遺伝子座によってコードされる抗体は、単一の重鎖V遺伝子セグメント及び単一の軽鎖V遺伝子セグメントによってコードされるイディオタイプを有する。本発明の人工遺伝子座において再構成されたV遺伝子は、前記遺伝子が単一のV遺伝子セグメントを含むために遺伝子変換によって多様化され得ない。
【0088】
ヒトイディオタイプを有する免疫グロブリンを作ることができる本発明にかかるトランスジェニック鳥は、受容細胞又は鳥の細胞に人工Ig遺伝子座を運搬する1以上のトランスジェニックベクターを導入し、そして当前記遺伝的に修飾された受容細胞又は細胞から鳥を誘導することによって作製される。
【0089】
人工Ig遺伝子座を含むトランスジェニックベクターは、当前記受容細胞又は細胞中に導入され、そしてその後に無作為統合によって、又は標的統合によって当前記受容細胞又は細胞のゲノム中に統合される。
【0090】
無作為統合に関する人工Ig遺伝子座を含むトランスジェニックベクターは、標準のトランスジェニック技術によって動物受容細胞の中に導入され得る。例えばトランスジェニックベクターは、受精卵母細胞の前核に直接注入され得る。さらにトランスジェニックベクターは、卵母細胞の受精前に、トランスジェニックベクターを有する精子を共培養することによって導入され得る。トランスジェニック動物は、受精卵母細胞から発達し得る。トランスジェニックベクターを導入するための他の方法は、胚性幹細胞、始原生殖細胞又は他の多能性細胞をトランスフェクトし、そしてその後に発生中の胚の中へ遺伝子操作された細胞を注入することによる。或いはトランスジェニックベクター(裸又は促進剤との組み合わせにある)は、発達中の胚の中に直接注入され得る。最終的にキメラトランスジェニック動物は、トランスジェニック動物の少なくとも数個の体細胞のゲノムにおいて統合された人工Igトランス遺伝子を含む胚から生産される。他の態様によれば、トランスジェニックベクターは、ゲノム又は鳥細胞中に導入され、そして動物は、核移植クローニングによってトランスフェクトされた細胞から生じる。
【0091】
標的統合に関するトランスジェニックベクターは、胚性幹細胞又はすでに分化した体細胞等の適切な動物受容細胞中に導入され得る。後にトランス遺伝子が動物ゲノム中に統合され、且つ相同性組み換えにより対応の内因性Ig遺伝子座を置き換えた細胞は、標準方法によって選定され得る。その後に選定された細胞は、除核された核移植単位細胞、例えば卵母細胞又は胚性幹細胞、分化全能性であり且つ機能的な新生児を形成することができる細胞と融合され得る。融合は、定着した慣用技術に従い実行される。例えばCibelli等、Science(1998)280:1256を参照。卵母細胞の除核及び核移植は、注入ピペットを用いるマイクロサージェリーによっても実行され得る(例えばWakayama等、Nature(1998)394:369を参照)。その後に得られた細胞は適切な培地中で培養され、そしてトランスジェニック動物を生成するための同期化されたレシピエントに移される。或いは選定された遺伝子操作された細胞は、その後にキメラ動物へと成長する発達中の胚の中に注入され得る。
【0092】
標的統合の頻度は、部位特異的メガヌクレアーゼを用いる二重らせんDNA開裂によって増加され得る。内因性免疫グロブリン遺伝子座への統合に関しては、部位特異的メガヌクレアーゼが使用され得る。
【0093】
一態様によれば、トランスジェニック鳥は、Ig重鎖及び/又はIg軽鎖遺伝子座に対してヌル欠損(nullizygous)である。
【0094】
一態様によれば、人工Ig遺伝子座を含むトランス遺伝子は、不活性化内因性重鎖及び/又は軽鎖遺伝子座を有する鳥から由来し、そのために内因性の鳥免疫グロブリンを発現することができない受容細胞(受精卵母細胞又は発達中の胚等)のゲノム中に統合される。かかる鳥の使用は、人工トランスジェニックIg遺伝子座からヒトイディオタイプを有する抗体の優先的な発現を可能にする。或いは不活性化内因性Ig遺伝子座を有するトランスジェニック鳥との交配は、内因性Ig遺伝座に対してヌル欠損であり、且つ人工Ig遺伝子座を含む鳥を得ることを成し得る。
【0095】
内因性鳥免疫グロブリン遺伝子座の不活性化は、重鎖及び/又は軽鎖遺伝子座の中にある、又は近位の鳥免疫グロブリン配列に特異的なメガヌクレアーゼを用いることによって実行され得る。一態様によれば、二重らせん切断は、受精卵母細胞中へのメガヌクレアーゼの注入によって誘導され得る。或いはメガヌクレアーゼをコードしているRNA又は発現ベクターが注入され得る。一態様によれば、メガヌクレアーゼは、例えば精原幹細胞を含み得る生殖細胞において発現され、二重らせん切断を導く。本発明の好適な態様によれば、部位特異的メガヌクレアーゼをコードしているベクターは、鳥ゲノム中に統合される。生殖細胞においてメガヌクレアーゼをコードしているトランス遺伝子の発現は、内因性Ig遺伝子座において二重らせん切断をもたらし、そしてその後の制限部位の突然変異をもたらすだろう。かかるトランスジェニック動物の作製は、突然変異した/不活性化された免疫グロブリン遺伝子座を有する子孫をもたらす。特定のメガヌクレアーゼの発現に付随する細胞毒性の影響を最小限にするために、その発現は誘導プロモーター、例えば熱誘導プロモーター、放射線誘導プロモーター、テトラサイクリンオペロン、ホルモン誘導プロモーター、及び転写活性化因子の二量化によって誘導可能なプロモーター等を用いて制御され得る。例えばVilaboa等、Current Gene Therapy, 6:421-438, 2006を参照。
【0096】
或いは内因性鳥免疫グロブリン遺伝子座は、メガヌクレアーゼの有無を問わず相同性組み換えを用いて不活性化され得る。一態様によれば、人工Ig遺伝子座を含むトランス遺伝子は、内因性Ig遺伝子座の中に統合されることによって内因性Ig遺伝子座を不活性化する。
【0097】
一態様によれば、本発明は、人工Ig重鎖遺伝子座を含んでなり、且つ機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠いているトランスジェニック鳥を提供する。かかるトランスジェニック鳥は、重鎖のみの抗体の生産における用途を見出す。
【0098】
内因性Ig遺伝子座の不活性化
内因性Ig遺伝子座の不活性化は、対象動物に対して内因性である重鎖又は軽鎖遺伝子座における免疫グロブリン遺伝子フラグメントに特異的なメガヌクレアーゼを用いて成される。一態様によれば、二重らせん切断は、生殖細胞、受精卵母細胞、又は胚へのメガヌクレアーゼの注入によって誘導され得る。或いはメガヌクレアーゼをコードし、且つ生殖細胞、受精卵母細胞、又は胚において発現させることができる発現ベクター又は核酸は、前記生殖細胞、受精卵母細胞、又は胚に注入され得る。
【0099】
一態様によれば、本方法は、精原幹細胞等の前駆細胞を含み得る生殖細胞を、インビトロ(in vitro)又はインビボ(in vivo)において、核酸又は発現構築物をコードしているメガヌクレアーゼでトランスフェクトすることを伴う。例えばRyu等、J Androl, 28:353-360, 2007, Orwig等、Biol Report, 67:874-879, 2002を参照。
【0100】
好適な態様によれば、メガヌクレアーゼ発現構築物は、対象動物のゲノム中に統合される。生殖細胞においてメガヌクレアーゼをコードしているトランス遺伝子の発現は、内因性Ig遺伝子座における二重らせん切断、及びその後の制限部位の突然変異をもたらすだろう。かかるトランスジェニック動物の交配は、突然変異した/不活性化された免疫グロブリン遺伝子座を有する子孫をもたらす。
【0101】
本発明の特に好適な態様によれば、調節可能なメガヌクレアーゼ発現構築物は、対象動物のゲノム中に統合され、その調節可能な構築物は生殖細胞において誘導可能である。かかる構築物は、例えば熱誘導プロモーター、放射線誘導プロモーター、テトラサイクリンオペロン、ホルモン誘導プロモーター、及び転写活性化因子の二量化によって誘導可能なプロモーター等の誘導プロモーターを介する制御された発現を通して、特定のメガヌクレアーゼの発現に付随する細胞毒性の影響を最小化することを提供する。例えばVilaboa等、Current Gene Therapy, 6:421-438, 2006を参照。
【0102】
或いはメガヌクレアーゼ発現は、生殖細胞から由来する胚において誘導され得る。
【0103】
一態様によれば、単一のメガヌクレアーゼは、生殖細胞において発現され、前記メガヌクレアーゼは、対象動物の生殖細胞に対して内因性である免疫グロブリン遺伝子座の中又は近位で標的配列を認識する。好適な態様によれば、メガヌクレアーゼ標的配列は、J遺伝子セグメントの中又は近位にある。他の好適な態様によれば、メガヌクレアーゼ標的配列は、免疫グロブリン定常領域遺伝子の中又は近位にある。好適な態様によれば、免疫グロブリン定常領域遺伝子は、免疫グロブリンμをコードする。
【0104】
好適な態様によれば、注目すべき標的配列を有する少なくとも2つのメガヌクレアーゼが使用される。少なくとも2つのメガヌクレアーゼは、生殖細胞中で発現され、前記メガヌクレアーゼは、対象動物の生殖細胞に対して内因性である免疫グロブリン遺伝子座の中又は近位で注目すべき標的配列を認識する。
【0105】
好適な態様によれば、第一及び第2のメガヌクレアーゼは、J遺伝子セグメントを標的にする。一態様によれば、第一及び第2のメガヌクレアーゼ標的配列は、内因性Ig遺伝子座の中で1以上のJ遺伝子セグメントの上流及び下流でまとめられ、そして第一及び第2のコードされたメガヌクレアーゼによる開裂は、1以上のJ遺伝子セグメントを含むゲノムDNAセグメントの欠失を生成する。
【0106】
他の態様によれば、第一及び第2のメガヌクレアーゼは、定常領域遺伝子セグメントを標的にする。一態様によれば、第一及び第2のメガヌクレアーゼ標的配列は、1以上の免疫グロブリン定常領域遺伝子セグメントの上流及び下流でまとめられ、そして第一及び第2のコードされたメガヌクレアーゼによる開裂は、1以上の免疫グロブリン定常領域遺伝子セグメントを含むゲノムDNAセグメントの欠失を生成する。好適な態様によれば、定常領域遺伝子は、免疫グロブリンμをコードする。
【0107】
一態様によれば、少なくとも1のメガヌクレアーゼは、内因性Ig重鎖遺伝子座のCH1領域を中断するために使用され、無傷で且つ典型的な免疫グロブリン:シャペロン会合を回避するIg重鎖を生成することができる残余の遺伝子座を残す。好適にはこのCH1標的化は、機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠いている動物において成される。かかる動物におけるかかる標的化は、重鎖のみの抗体を生産するために有用である。
【0108】
一態様によれば、2つ以上のメガヌクレアーゼは、Ig重鎖遺伝子座の中で標的CH1に使用される。
【0109】
好適な態様によれば、使用される繁殖戦略は、内因性Ig軽鎖及び/又は内因性Ig重鎖にヌル欠損である動物を得るために計画される。
【0110】
人工免疫グロブリン遺伝子座、及び前記遺伝子座を含むベクター
本発明は、さらに新規の人工Ig遺伝子座、及びヒトイディオタイプを有する抗体を生産するトランスジェニック鳥の作製におけるそれらの使用に関する。人工Ig遺伝子座は、定常領域エレメント、1のヒトV遺伝子セグメント、重鎖遺伝子座の場合は1以上のD遺伝子セグメント、及び1以上のJ遺伝子セグメントを含んでなる。プロモーター、エンハンサー、スイッチ領域、組み換えシグナル等のような調節エレメントは、ヒト又は動物起源のものであってもよい。重鎖遺伝子座におけるヒト又は非ヒトD遺伝子セグメントは、人工Ig遺伝子座の中に含まれている。
【0111】
一態様によれば、本発明は、調節エレメント、1のヒトV遺伝子セグメントを有するV領域、1以上のD遺伝子セグメントを有するD−領域、1以上のヒトJ遺伝子セグメントを有するJ−領域、及び1以上の鳥及び/又はヒト定常領域遺伝子を有するC−領域を含む人工Ig重鎖遺伝子座を含むトランスジェニック構築物を提供する。かかる人工重鎖遺伝子座における遺伝子セグメントは、再構成されていない配置(又は“生殖細胞系配置”)において、或いは部分的に又は完全に再構成された配置において互いに対して並置される。再構成されていない人工重鎖遺伝子座は、鳥において遺伝子再構成を受ける能力を有することによって、ヒトイディオタイプを有する重鎖の多様なレパートリーを生成する。本発明の人工重鎖遺伝子座において再構成されたV遺伝子セグメントは、人工重鎖遺伝子座が単一のヒトV遺伝子を含むので、遺伝子変換によっては多様化され得ない。
【0112】
ヒトVHセグメントは、ヒトVH遺伝子セグメントの天然配列、ヒトVH遺伝子セグメントの天然配列の縮重形態、及びヒト重鎖Vドメインポリペプチドと実質的に(すなわち少なくとも約85%〜95%)同一のポリペプチド配列をコードする合成配列を包含する。
【0113】
他の態様によれば、本発明は、宿主動物において遺伝子再構成を受けることによって、ヒトイディオタイプを有する軽鎖の多様なレパートリーを生成することができる人工軽鎖遺伝子座を含むトランスジェニック構築物を提供する。本発明の人工重鎖遺伝子座において再構成されたV遺伝子セグメントは、人工軽鎖遺伝子座が単一のヒトV遺伝子を含むので、遺伝子変換によっては多様化され得ない。
【0114】
ヒト化軽鎖遺伝子座は、調節エレメント、単一のヒトV遺伝子セグメントを有するV領域、1以上のヒトJ遺伝子セグメントを有するJ−領域、及び1以上の鳥及び/又はヒト定常領域遺伝子セグメントを有するC−領域を含んでなる。ヒト化軽鎖遺伝子座における遺伝子セグメントは、再構成されていない配置(又は“生殖細胞系配置”)、又は完全に再構成された配置に並置される。
【0115】
ヒトVLセグメントは、ヒトVL遺伝子セグメントの天然配列、ヒトVL遺伝子セグメントの天然配列の縮重形態、及びヒト軽鎖Vドメインポリペプチドと実質的に(すなわち少なくとも約85%〜95%)同一のポリペプチド配列をコードする合成配列を包含する。
【0116】
本発明の他の観点は、人工Ig遺伝子座を含むトランスジェニックベクターの作製方法に関する。かかる方法は、Ig遺伝子座又はそのフラグメントを単離し、そしてそれを、ヒトV領域エレメントをコードしている配列を含む1つ又はいくつかのDNAフラグメントと組み合せることを伴う。Ig遺伝子セグメントは、鳥において効果的な遺伝子再構成を受ける遺伝子座の能力を保有するような方法において、ライゲーション又は相同性組み換えによって人工Ig遺伝子座又はその一部分の中に挿入される。
【0117】
好適には鳥由来のIg遺伝子座は、ラットのゲノムDNAから調製されるプラスミド、コスミド、YAC又はBAC等のライブラリーをスクリーニングすることによって単離される。YACクローンは、2メガ塩基までのDNAフラグメントを運搬できるので、完全な動物重鎖遺伝子座又はその大部分は、1のYACクローン中で単離され、又は1のYACクローンに含まれるように再構成され得る。BACクローンは、より小さい大きさ(約150〜250kb)のDNAフラグメントを運ぶ能力がある。しかしながらIg遺伝子座の重複フラグメントを含む複数のBACクローンは、独立して変えられ、そしてその後に動物受容細胞の中に一緒に注入され得る。前記重複フラグメントは、動物受容細胞の中に組み換えられ、連続的なIg遺伝子座を生成する。
【0118】
ヒトIg遺伝子セグメントは、DNAフラグメントのライゲーション、又は相同性組み換えによるDNAフラグメントの挿入を含む多様な方法によって、ベクター(例えばBACクローン)上でIg遺伝子座の中に統合され得る。ヒトIg遺伝子セグメントの統合は、ヒトIg遺伝子セグメントがトランス遺伝子において宿主動物配列に作用可能式に連結され、機能的な人工Ig遺伝子座を生成するような方法において成される。相同性組み換えは、高い頻度の相同性組み換え事象により、細菌、酵母及び他の細胞において行われ得る。操作されたYAC及びBACは、細胞から容易に単離され、且つトランスジェニック動物の作製において使用され得る。
【0119】
ヒトイディオタイプを有する抗体の調製
本発明の他の態様によれば、ヒトイディオタイプを有する抗体の調製を提供する。
【0120】
抗体は、人工軽鎖Ig遺伝子座を含むが人工重鎖遺伝子座を欠いているトランスジェニック鳥、及び人工重鎖遺伝子座を含むが人工軽鎖遺伝子座を欠いているトランスジェニック鳥から調製され得るが、完全なヒトイディオタイプを欠いている抗体を産出する好適な態様は少ない。好適なのは、ヒト重鎖及びヒト軽鎖イディオタイプを有する抗体を産出する、少なくとも1の人工重鎖遺伝子座及び少なくとも1の人工軽鎖遺伝子座を含むトランスジェニック鳥の使用である。
【0121】
「ヒトイディオタイプを有する抗体の調製」とは、本発明のトランスジェニック鳥(例えば前記動物の血清又は卵黄)から、又は本発明のトランスジェニック鳥から由来する細胞(例えばB−細胞又はハイブリドーマ細胞)から調製された、単離された抗体産物又は精製された抗体産物を意味する。
【0122】
抗体調製は、ポリクローナル又はモノクローナル抗体の調製であってもよい。
【0123】
ヒトイディオタイプを有する多様な抗体のレパートリーを生産することができるトランスジェニック鳥を一度作ったら、免疫原に対する抗体調製品は、免疫原により動物に免疫性を与えることによって容易に獲得され得る。抗体を生産するために、種々の人工免疫グロブリン遺伝子座を有する一群の鳥に免疫性を与える。これらの鳥における人工免疫グロブリン遺伝子座は、種々のV遺伝子セグメントを有する。したがって種々の人工免疫グロブリン遺伝子座を有する大集団の鳥に免疫性を与えることは、複数の種々のV遺伝子セグメントを用いる抗体生産を可能にする。或いは多くの種々の人工免疫グロブリン遺伝子座は、単一の鳥において繁殖によって組み合わされ得るので、免疫性を与えるために要求される種々の人工遺伝子座を有する動物の数を減らすことができる。免疫性を与えた後に、免疫原に特異的な抗体を産する動物は、貯留され得る抗血清を同定される。
【0124】
一態様によれば、本発明は、本発明のトランスジェニック鳥から得られる重鎖のみの抗体を提供し、そのトランスジェニック鳥は人工Ig重鎖遺伝子座を含んでなり、且つ機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠いている。
【0125】
多様な抗原は、トランスジェニック鳥に免疫性を与えるために使用され得る。かかる抗原は、生きている、弱毒化した又は死んでいる微生物、例えばウィルス及び単細胞生物(細菌及び真菌等)、微生物のフラグメント、或いは微生物から単離された抗原分子を含んでなる。
【0126】
動物に免疫性を与えるために使用される好適な細菌抗原は、莢膜多糖類タイプ5及び8等の黄色ブドウ球菌から由来する精製抗原、α−毒素等の毒性因子の組み換えベクター、接着結合タンパク質、コラーゲン結合タンパク質、及びフィブロネクチン結合タンパク質を含んでなる。さらに好適な細菌抗原は、弱毒化バージョンの黄色ブドウ球菌、緑膿菌、腸球菌、エンテロバクター、及び肺炎桿菌、又はこれらの細菌細胞由来の培養上清を含んでなる。免疫性を与えるために使用され得る他の細菌抗原は、精製リポ多糖類(LPS)、莢膜抗原、莢膜多糖類及び/又は組み換えバージョンの外膜タンパク質、フィブロネクチン結合タンパク質、内毒素、並びに緑膿菌、腸球菌、エンテロバクター、及び肺炎桿菌由来の外毒素を含んでなる。
【0127】
真菌に対する抗体の産出のために好適な抗原は、弱毒化バージョンの真菌又はその外膜タンパク質を含んでなり、この真菌としては、これに限定されるものではないが、カンジダ・アルビカンス、カンジダ・パラプシロシス、カンジダ・トロピカリス、及びクリプトコックス・ネオフォルマンスが挙げられる。
【0128】
ウィルスに対する抗体を生成するために、免疫性付与において使用するための好適な抗原は、エンベロープタンパク質、並びにこれに限定されるものではないが呼吸器の合胞体ウィルス(RSV)(特にF−タンパク質)、C型肝炎ウィルス(HCV)、B型肝炎ウィルス(HBV)、サイトメガロウィルス(CMV)、EBV、及びHSVを含むウィルスの弱毒化バージョンを含んでなる。
【0129】
癌に特異的な抗体は、単離された腫瘍細胞又は腫瘍細胞株;これに限定されるものではないが、Her−2−neu抗原(乳癌治療に有用な抗体に対する)、CD20、CD22及びCD53抗原(B細胞リンパ腫治療に有用な抗体に対する)、(3)前立腺特異的膜抗原(PMSA)(前立腺癌治療に有用な抗体に対する)、及び17−1A分子(結腸癌の治療に有用な抗体に対する)を含む腫瘍に関連した抗原によりトランスジェニックラットに免疫性を与えることによって生み出され得る。
【0130】
抗原は、アジュバントの有無を問わず、トランスジェニック鳥に任意の都合の良い方法において投与され得、また所定の予定通りに投与され得る。
【0131】
免疫性を与えられた後に、前記免疫性を与えられたトランスジェニック動物由来の血清又は乳汁は、抗原に特異的な医薬品グレードのポリクローナル抗体を精製するために分画され得る。さらに抗体は、卵黄を分画することによっても作製され得る。濃縮された精製免疫グロブリンフラクションは、クロマトグラフィー(親和性、イオン交換、ゲルろ過等)、硫酸アンモニウム等の塩、エタノール等の有機溶媒、又はポリエチレングリコール等のポリマーによる選択的沈殿によって獲得され得る。
【0132】
モノクローナル抗体を作製するために、免疫性を与えられたトランスジェニック動物から脾臓細胞が単離され、そしてハイブリドーマを生産するための形質転換細胞株との細胞融合において、又は標準の分子生物技術よってクローン化され、そしてトランスフェクト細胞において発現される抗体をコードしているcDNAのいずれかにおいて使用される。モノクローナル抗体の作製手順は、当業界において定着している。例えば参照によって本明細書に組み込まれる開示、WO97/16537(“Stable Chicken B-cell Line And Method of Use Thereof”)、及びEP0491057B1(“Hybridoma Which Produces Avian Specific Immunoglobulin G”)を参照。クローン化cDNA分子由来のモノクローナル抗体のインビトロにおける生産は、参照によって本明細書に組み込まれる開示、Andris-Widhopf等、“Methods for the generation of chicken monoclonal antibody fragments by phage display”、Immunol Methods 242:159(2000)、及びBurton, D.R、“Phage display”、lmmunotechnology 1:87(1995)によって発表されている。
【0133】
一度ヒトイディオタイプを有するキメラモノクローナル抗体が生み出されたならば、かかるキメラ抗体は、標準の分子生物学技術を用いて、全ヒト抗体に容易に変換され得る。全ヒトモノクローナル抗体はヒトにおいて免疫原性ではなく、そしてヒト対象の治療的処置において使用するために適している。
【0134】
重鎖のみの抗体を含む本発明の抗体
一態様によれば、機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠き、且つ人工重鎖遺伝子座を含むトランスジェニック動物は、抗原によって免疫性を与えられて、抗原に特異的に結合する重鎖のみの抗体を産する。
【0135】
一態様によれば、本発明は、かかる動物から由来する細胞、及びそこから由来する核酸を産するモノクローナル抗体を提供する。さらにそこから由来するハイブリドーマも提供される。さらにそこから由来する全ヒト重鎖のみの抗体、及びコード化核酸も提供する。
【0136】
重鎖のみの抗体における教示は、当業界において見出される。例えば、PCT公開WO02085944、WO02085945、WO2006008548、及びWO2007096779を参照。さらにUS5,840,526;US5,874,541;US6,005,079;US6,765,087;US5,800,988;EP1589107;WO9734103;及びUS6,015,695を参照。
【0137】
医薬組成物
本発明のさらなる態様では、精製されたモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体を霊長類、特にヒトにおける投与に適した適切な医薬担体と混合して、医薬組成物を提供する。
【0138】
本発明の医薬組成物において採用され得る医薬的に許容され得る担体は、任意の、及び全ての溶媒、分散媒、等張剤等であってもよい。任意の慣用の媒体、化学物質、希釈剤又は担体が、受容者又はその中に含まれる抗体の治療有効性に害を及ぼす場合を除き、本発明の医薬組成物におけるその使用は適切である。
【0139】
担体は、液体、半固体、例えばペースト、又は固体担体であってもよい。担体の例は、油、水、食塩水、アルコール、糖、ゲル、脂質、リポソーム、樹脂、多孔性マトリクス、結合剤、充填剤、コーティング、防腐剤等、又はその組み合わせを含んでなる。
【0140】
任意の上記方法によって生産されるトランスジェニック動物は、本発明の他の態様を形成する。トランスジェニック動物は、ゲノム中に少なくとも一つ、すなわち1以上のヒトイディオタイプを有する機能的な抗体のレパートリーを産する人工Ig遺伝座を有する。
【0141】
他の好適な態様によれば、本発明は、ゲノム中に1以上の人工Ig遺伝子座を有するトランスジェニック鳥を提供する。本発明のトランスジェニック鳥は、人工Ig遺伝子座を再構成し、且つヒトイディオタイプを有する機能的な抗体のレパートリーを発現することができる。
【0142】
さらに抗原に対して免疫性を与えられたトランスジェニック動物から樹立されたB細胞又は細胞株等の本発明のトランスジェニック動物から由来する細胞は、本発明の一部である。
【0143】
治療方法
本発明のさらなる観点では本方法は、ヒト対象を含む脊椎動物、好適には哺乳動物、好適には霊長類における疾患の治療を提供し、特に好適な態様は、かかる疾患を治療するために所望される本発明の精製抗体組成物を投与することによる。
【0144】
抗体組成物は、疾患を引き起こす又は疾患に寄与する、或いは所望されない又は異常な免疫応答を導き出すヒト体内組織における抗原性構成要素と結合し、そして中和し、又は調節するために使用され得る。本明細書における“抗原性構成要素”は、タンパク質を含む任意の溶解性又は細胞表面結合性分子、並びに少なくとも抗体と結合することができる、及び好適には免疫応答を刺激することもできる細胞又は感染性病原生物又は病原体を包含するように定義される。
【0145】
単独療法として、又は化学療法との組み合わせにおける感染性病原体に対する抗体組成物の投与は、感染粒子の排出をもたらす。抗体の単回投与は、通常10〜100倍、より一般には1000倍超の数の感染粒子を減少させる。同様に単独療法として、又は化学療法との組み合わせにおいて取り入れられる悪性疾患を有する患者における抗体治療は、通常10〜100倍、又は1000倍超の数の悪性細胞を減少させる。治療は、延長した時間をかけて反復し、感染粒子、悪性細胞等の完全な排出を確実にし得る。いくつかの場合では、抗体製剤による治療は、感染粒子又は所望されない細胞の検出可能な量の不存在下において延長した時間で継続されるだろう。
【0146】
同様に免疫応答を調節するための抗体治療の用途は、単回又は多数回の治療抗体の投与から成り得る。治療は、任意の疾患兆候の不存在下において延長した時間で継続され得る。
【0147】
対象治療は、感染性疾患又は悪性腫瘍を抑制するために十分な投与量で化学療法との結合において採用され得る。自己免疫性疾患患者又は移植レシピエントにおける抗体治療は、免疫反応を抑制するために十分な投与量で免疫抑制療法との結合において採用され得る。
【実施例】
【0148】
ヒトイディオタイプを有する抗体を発現するトランスジェニックニワトリの産出
始原生殖細胞(PGC)をvan de Lavoir等(Nature 441:766-769、2006)により発表されたように単離及び培養する。血液を14〜17期(H&H)の胚の血管から採取し、そして有糸分裂的に不活性化されたSTO細胞と共に96ウェルプレート中で培養する。細胞をBRL細胞により条件化したKO−DMEM(Invitrogen)において育成する。培地は、7.5%のFCS、2.5%のニワトリ血清、2mMのグルタミン、1mMのピルビン酸塩、1×ヌクレオシド、1×非必須アミノ酸及び0.1mMのβ−メルカプトエタノール、6ng/mlのSCF及び4ng/mlのヒト組み換えFGFを含んでなる。
【0149】
単一のヒトVHエレメント、ニワトリD−領域、ヒトJH領域、ニワトリイントロンエンハンサー、並びにニワトリCμ及びCy、並びにloxP部位の横に位置する選択マーカー遺伝子を含む人工重鎖免疫グロブリン遺伝子座によりPGCをトランスフェクトする。トランスフェクションのためのPGCをエレクトロポレーション緩衝剤(Speciality Media)の中に再懸濁する。線形化DNAの添加に続き、1の指数関数的に減少するパルス(200V、900〜100μFを有する)を与える。トランスフェクトされた細胞を数日間育成し、そしてトランスジェニック細胞を単離する。トランスジェニック細胞の選定は、抗生物質選択(例えばネオマイシン又はピューロマイシン)を用いて遂行する。
【0150】
その後に遺伝子操作された細胞を37μmの直径の針を用いて、13〜15期(H&H)の胚のサイナスターミナルの前方部分に注入する。注入された胚を孵化するまで培養するため第2のサロゲートシェルに移す。
【0151】
孵化したニワトリの体細胞キメラ現象をPCRによって評価する。生殖細胞系キメラ現象を体細胞キメラの交配によって決定する。生殖細胞系トランスミッションの比率は、<1〜80%に及ぶ。ヒトイディオタイプを有する人工免疫グロブリン重鎖を発現するトランスジェニックニワトリを、ヒトイディオタイプを有する人工免疫グロブリン軽鎖を発現するニワトリと交配させる。
【0152】
子孫は、ヒト重鎖及び軽鎖エレメントを含む免疫グロブリン分子の発現についてスクリーニングされる。
【0153】
全ての引例は、参照によってそれらの全体が明確に本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1の人工Ig遺伝子座を含んでなるトランスジェニック鳥であって、前記人工Ig遺伝子座が、単一のヒト可変(V)遺伝子セグメント、1以上のJ遺伝子セグメント、及び1以上の定常領域遺伝子セグメントを含む複数のIg遺伝子セグメントを含んでなり、前記人工Ig遺伝子座が機能的であり、前記単一のV遺伝子セグメントが機能的であり、且つ遺伝子変換ではなく超変異により多様化され得るとともに、前記単一のV遺伝子セグメントが生殖細胞系又は超変異ヒトV領域アミノ酸配列をコードする、トランスジェニック鳥。
【請求項2】
前記人工Ig遺伝子座が人工Ig重鎖遺伝子座である、請求項1に記載のトランスジェニック鳥。
【請求項3】
前記人工Ig遺伝子座が人工Ig軽鎖遺伝子座である、請求項1に記載のトランスジェニック鳥。
【請求項4】
第2の人工Ig遺伝子座をさらに含んでなり、前記第2の人工Ig遺伝子座が単一のヒト可変(V)遺伝子セグメント、1以上のJ遺伝子セグメント、及び1以上の定常領域遺伝子セグメントを含む複数のIg遺伝子セグメントを含んでなり、前記第2の人工Ig遺伝子座が機能的であり、前記単一のV遺伝子セグメントが機能的であり、且つ遺伝子変換ではなく超変異によって多様化され得るとともに、前記単一のV遺伝子セグメントが生殖細胞系又は超変異ヒトV領域アミノ酸配列をコードする、請求項1に記載のトランスジェニック鳥。
【請求項5】
前記トランスジェニック鳥のゲノムが機能的な人工Ig重鎖遺伝子座及び機能的な人工Ig軽鎖遺伝子座を含んでなり、前記機能的な人工Ig遺伝子座がそれぞれ単一の可変(V)遺伝子セグメントを含んでなり、前記V遺伝子セグメントが生殖細胞系又は超変異ヒトV遺伝子セグメントである、請求項4に記載のトランスジェニック鳥。
【請求項6】
前記トランスジェニック鳥がニワトリ、シチメンチョウ、ウズラ、アヒル、キジ又はガンである、請求項1に記載のトランスジェニック鳥。
【請求項7】
前記トランスジェニック鳥が不活性化内因性Ig遺伝子座を含む、請求項1に記載のトランスジェニック鳥。
【請求項8】
前記トランスジェニック鳥が機能的なIg軽鎖遺伝子座を欠く、請求項2に記載のトランスジェニック鳥。
【請求項9】
ヒトイディオタイプを有する抗体を生産する方法であって、請求項5に記載のトランスジェニック鳥に免疫原により免疫性を与えることを含んでなる方法。
【請求項10】
前記免疫原により第2のトランスジェニック鳥に免疫性を与えることをさらに含んでなり、前記第2のトランスジェニック鳥が第2の機能的な人工重鎖Ig遺伝子座を含んでなり、及び前記第2の機能的な人工重鎖Ig遺伝子座が第2の単一のV遺伝子セグメントを含んでなり、前記V遺伝子セグメントが第一のトランスジェニック鳥の機能的な人工重鎖Ig遺伝子座におけるV遺伝子セグメントとは相違する生殖細胞系又は超変異ヒトV遺伝子セグメントである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記免疫原により第2のトランスジェニック鳥に免疫性を与えることをさらに含んでなり、前記第2のトランスジェニック鳥が第2の機能的な人工軽鎖Ig遺伝子座を含んでなり、及び前記第2の機能的な人工軽鎖Ig遺伝子座が第2の単一のV遺伝子セグメントを含んでなり、前記V遺伝子セグメントが第一のトランスジェニック鳥の機能的な人工軽鎖Ig遺伝子座におけるV遺伝子セグメントとは相違する生殖細胞系又は超変異ヒトV遺伝子セグメントである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
請求項8に記載のトランスジェニック鳥に免疫原により免疫性を与えることを含んでなる、重鎖のみの抗体の生産方法。
【請求項13】
前記抗体がモノクローナル抗体である、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体がヒト化モノクローナル抗体である、請求項9に記載の方法。
【請求項15】
請求項9に記載の方法によって生産されるポリクローナル抗血清。
【請求項16】
請求項13に記載の方法によって生産されるモノクローナル抗体。
【請求項17】
請求項14に記載の方法によって生産されるヒト化モノクローナル抗体。
【請求項18】
請求項12に記載の方法によって生産される重鎖のみの抗体。
【請求項19】
ヒト体内成分における抗原性構成要素の中和方法であって、前記体内成分を請求項15に記載の抗血清組成物と接触させることによって、前記抗血清組成物中の前記免疫グロブリンタンパク質分子を前記抗原性構成要素と特異的に結合させ、前記抗原性構成要素を中和させることを含んでなる方法。
【請求項20】
ヒト体内成分における抗原性構成要素を中和するための方法であって、前記体内成分を請求項16又は17に記載のモノクローナル抗体と接触させることによって、前記モノクローナル抗体を前記抗原性構成要素と特異的に結合させ、前記抗原性構成要素を中和させることを含んでなる方法。
【請求項21】
請求項7に記載のトランスジェニック鳥の生産方法であって、生殖細胞、受精卵母細胞又は胚において少なくとも1のメガヌクレアーゼを発現させる工程、少なくとも1の不活性化内因性Ig遺伝子座を有する生存可能な生殖細胞を生成する工程であって、前記メガヌクレアーゼが、前記内因性Ig遺伝子座の中又は近位に存在するメガヌクレアーゼ標的配列を認識する工程、及び、少なくとも1の不活性化内因性Ig遺伝子座を有する前記生存可能な生殖細胞、又はその生殖細胞子孫からトランスジェニック鳥を誘導する工程を含んでなる方法。
【請求項22】
前記メガヌクレアーゼ標的配列が、前記少なくとも1の内因性Ig遺伝子座の内部のJ遺伝子セグメントの中又は近位に存在する、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記メガヌクレアーゼ標的配列が、免疫グロブリン定常領域遺伝子の中又は近位に存在する、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記生殖細胞、受精卵母細胞又は胚の中で第2のメガヌクレアーゼを発現することをさらに含んでなり、前記第2のメガヌクレアーゼが、前記内因性Ig遺伝子座の中又は近位に存在する第2のメガヌクレアーゼ標的配列を認識する、請求項21に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−528625(P2010−528625A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−510539(P2010−510539)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【国際出願番号】PCT/US2008/065424
【国際公開番号】WO2008/151085
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(509328205)ビューロウ リサーチ エンタープライザズ リミティド ライアビリティ カンパニー (1)
【Fターム(参考)】