説明

トランスフォーミング増殖因子β1(TGF−β1)との結合能を有するペプチド

本発明は、トランスフォーミング増殖因子TGF−β1(TGF−β1)と結合することができ、かつ、サイトカインとの直接的結合によりTGF−β1の生物活性の強力な阻害剤となるペプチドに関する。本発明のペプチドは、TGF−β1の調節されない、または過剰な発現に基づく病的変化または疾病の処置に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【発明の分野】
【0001】
本発明は一般に、トランスフォーミング増殖因子β1(TGF−β1)と結合する能力を有するペプチド、およびそれらの適用に関する。特に、本発明は、TGF−β1との直接的結合の結果としてTGF−β1の生物活性を阻害するペプチド、および過剰な、または調節されないTGF−β1発現に基づく疾病または病的変化の処置におけるそれらの使用に関する。
【発明の背景】
【0002】
TGF−β1は、哺乳類において記載されている3つのイソ型(TGF−β1、2および3)の1つに含まれる構造的に関連のある調節タンパク質(サイトカイン)のスーパーファミリーに属す糖タンパク質である。最も存在量の多いイソ型がTGF−β1であり、ジスルフィド結合によって結びついた2つのサブユニットからなる25kDaのホモ二量体からなっている。ヒトTGF−β1のアミノ酸配列は、Derynck K et al., “Human transforming growth factor-beta complementary DNA sequence and expression in normal and transformed cells”. Nature 316 (6030), 701-705 (1985)などの著者が記載している。
【0003】
TGF−β1は、進化上、高度に保存された分子である。それは当初、ラット繊維芽細胞における増殖および形態変化に依存した接着を誘導するその能力により定義されたが、その後の研究で、TGF−β1が広範な細胞種の増殖の全般的な阻害剤であることが示されている。この分子は極めて多様な細胞種により、種々の細胞において、総ての細胞分化期で生産される。それは大きな一連の生物作用を有し、発達、生理および免疫応答に関して強力かつ多くの場合に反対の作用を生じる。肝臓の再生と分化、および肝臓繊維症におけるTGF−βの役割に関する情報、ならびに細胞外基質に対するその分子の作用に関する情報はスペイン特許出願ES2146552 A1に見出すことができる。
【0004】
TGF−β1の作用機序を探求する目的で、数十のタンパク質(膜受容体および細胞外基質タンパク質)が、このサイトカインと相互作用することが報告されている。
他方、多くの疾病または病的変化が過剰な、または調節されないTGF−β1の発現に関連しているので(例えば、器官もしくは組織の機能欠損、または外科術合併症もしくはエステティック合併症に関連する繊維症)、TGF−β1の生物活性を阻害し得る産物を探すことに関心が寄せられているが、これはそのような産物が、過剰な、または調節されないTGF−β1発現の病理学的結果を遮断するためにヒトまたは動物の治療に使用できる可能性があるためである。
【0005】
(i)特異的中和抗体;(ii)その発現を遮断するTGF−β1コードする遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチド配列;または抗体と同様の方法で働くTGF−β1に対する可溶性受容体の使用を含め、いくつかの戦略が、TGF−β1の生物活性を阻害するために使用されてきた。抗体の使用は、血中の外因性免疫グロブリンの存在と全身的なTGF−β1の遮断から誘導される作用の双方により特定の副作用が増強されるが、このサイトカイン(TGF−β1)の全面的かつ特異的な遮断をもたらす。さらに、免疫グロブリンは時間が経っても安定なので、このサイトカインの遮断活性の短時間制御ができない。アンチセンスオリゴヌクレオチド配列は、遺伝子発現レベルでTGF−β1を阻害するという事実は、このサイトカインが関与する総てのプロセスの重要な脱調節をもたらし得る。
【0006】
TGF−β1の生物活性を阻害するペプチドの使用に基づくもう1つの戦略が最近開発された。これに関して、スペイン特許出願ES2146552A1は、TGF−β1とその受容体の双方から、またはTGF−β1と結合し得るタンパク質から起源し、TGF−β1の生物活性の阻害剤として使用できるいくつかの合成ペプチドを記載している。
【発明の概要】
【0007】
本発明は一般に、TGF−β1の生物活性を阻害し得る新しい化合物を探すという課題に取り組むものである。
【0008】
本発明により提供される解決策は、本発明者らが、TGF−β1に結合できるだけでなく、TGF−β1との直接的結合によってTGF−β1の生物活性を阻害し得る一連のペプチドを確認したという事実に基づくものである。これらのペプチドのいくつかは、TGF−β1と高い親和性で結合し得る、典型的なサイズが6〜15アミノ酸の範囲のペプチドの同定を可能とするファージディスプレーペプチドライブラリーと関連する技術を用い、その後、in vitroおよびin vivoアッセイにより、TGF−β1の生物活性を阻害するそれらの能力を定量することで同定された。ファージライブラリーに関連するこの技術を用いてこれまでに同定されたペプチドの末端切断から得られたペプチドもある。
【0009】
TGF−β1と結合し得るペプチド、特に、TGF−β1との直接的結合によりTGF−β1の生物活性を阻害し得るものは、過剰な、または調節されないTGF−β1発現に関連する疾病および病的変化の処置に有用である可能性がある。同様に、TGF−β1に結合し得るペプチドは、TGF−β1の生物学的役割(種々の生体プロセスの調節の多くの領域で明らかにすべき側面)を研究するためのツールを提供する。
【0010】
よって、本発明の一態様は、TGF−β1と結合し得るペプチドに関する。特定の好ましい実施形態では、これらのペプチドはまた、TGF−β1の生物活性を阻害することもできる。
もう1つの態様において、本発明は、少なくとも一種の上記ペプチドを含んでなる医薬組成物に関する。
【0011】
もう1つの態様において、本発明は、過剰な、または調節されないTGF−β1発現に関連する疾病または病的変化の処置を目的とした医薬組成物の製造のための前記ペプチドの使用に関する。過剰な、または調節されないTGF−β1発現に関連するこのような疾病または病的変化の代表的な例としては、組織または器官の機能欠損に関連する繊維症、ならびに外科術合併症および/またはエステティック合併症が挙げられる。
もう1つの態様において、本発明は、前記ペプチドをコードするDNA配列に関する。
【0012】
もう1つの態様において、本発明は、本明細書により提供されるペプチドをコードするDNA配列を含んでなるDNA構築物に関する。
もう1つの態様において、本発明は、前記DNA配列またはDNA構築物を含んでなるベクターに関する。
【0013】
もう1つの態様において、本発明は、前記DNA構築物またはベクターを含んでなる、形質転換宿主細胞のような宿主細胞に関する。
もう1つの態様において、本発明は、本発明により提供されるペプチドを生産する方法であって、前記ペプチドの発現を可能とする条件下で前記宿主細胞を培養すること、および所望により得られたペプチドを回収することを含む方法に関する。
【0014】
もう1つの態様において、本発明は、過剰な、または調節されないTGF−β1に関連する疾病または病的変化の遺伝子療法技術による処置のためのベクターおよび細胞の製造における、前記DNA配列およびDNA構築物の使用に関する。
【発明の具体的説明】
【0015】
一態様において、本発明は、アミノ酸配列が配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21および配列番号22から選択されるアミノ酸配列の、3〜15個の間の連続するアミノ酸残基を含んでなるペプチド(以下、本発明のペプチドと呼ぶ)、ならびにそれらの医薬上許容される塩に関する。
【0016】
本発明のペプチドはTGF−β1と結合し得る。これらのペプチドのいくつかは、in vitroおよび/またはin vivoにおいてTGF−β1の生物活性を阻害し得る。
【0017】
本発明のペプチドの、TGF−β1と結合する能力は、例えば、TGF−β1を試験ペプチドと接触するよう、そのペプチドとTGF−β1の結合を可能とする条件下に置くこと、およびそのペプチドとTGF−β1の間の結合を評価することを含む親和性アッセイの手段によるなど、2分子間の結合の判定を可能とするいずれかの適当な方法により評価することができる。特定の実施形態では、この親和性アッセイは、ES2146552A1に記載されているように、放射性標識TGF−β1、例えば、ヒト125I−TGF−β1を用いて行うことができる。あるいは、この試験ペプチドは標識した成分であってもよい。一般に、この種の親和性アッセイは、TGF−β1(例えば、ストレプトアビジンでブロックしたプレート上に固定化されている)を、その親和性を判定する試験ペプチドと接触するように置き、適当なインキュベーション時間インキュベーションした後に、ペプチドとTGF−β1との結合を分析することを含む。TGF−β1に対して親和性の低いペプチドは洗浄によって除去されるが、親和性の高いペプチドはTGF−β1との結合を維持し、この2分子間の分子相互作用を破ることにより(例えば、pHを下げることにより)遊離させることができる。種々の濃度のTGF−β1に対してペプチドを試験すること、またはその逆により、TGF−β1に対する試験ペプチドの親和性に関する知見を得ることができる。本発明のペプチドの、in vitroにおいてTGF−β1の生物活性を阻害する能力は、増殖がTGF−β1により阻害されるミンク肺上皮由来の細胞系統であるMv−1−Lu細胞系統増殖阻害試験により評価、および所望により定量することができる(実施例2参照)。
【0018】
本発明のペプチドの、in vivoにおいてTGF−β1の生物活性を阻害する能力は、例えば、四塩化炭素(CCl)の投与により誘導される急性肝傷害の動物モデルにおいて試験することにより評価、および所望により定量することができる(実施例3参照)。知られているように、急性肝傷害は、TGF−β1レベルの上昇を含む一連の作用および生理反応を生じ、その後、(作用の中でも)I型コラーゲン遺伝子の発現を担う。
【0019】
本発明の範囲内には、本発明のペプチドの医薬上許容される塩がある。「医薬上許容される塩」としては、金属塩または酸付加塩を形成するのに慣例的に用いられるものが挙げられる。塩の性質は、医薬上許容されるものである限り、重要ではない。本発明のペプチドの医薬上許容される塩は、当業者に周知の常法に基づき、酸または塩基(有機または無機)から得ることができる。
【0020】
特定の実施形態において、本発明は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21および配列番号22から選択されるアミノ酸配列の、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14または15個の連続するアミノ酸残基を含んでなるペプチド、ならびにそれらの医薬上許容される塩を提供する。
【0021】
もう1つの特定の実施形態において、本発明は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21および配列番号22で識別されるペプチドからなる群から選択されるペプチド、ならびにそれらの医薬上許容される塩を提供する。
【0022】
もう1つの特定の実施形態において、本発明は、配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35および配列番号36で示されるペプチドからなる群から選択されるペプチド、ならびにそれらの医薬上許容される塩を提供する。これらのペプチドは、配列番号17で示されるペプチドのアミノ酸配列の9〜14個の間の連続するアミノ酸残基を含んでなり、前記ペプチドの末端切断により得られたものである(実施例4)。
【0023】
もう1つの特定の実施形態において、本発明は、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号6、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号18、配列番号33および配列番号34で示されるペプチドからなる群から選択されるペプチド、ならびにそれらの医薬上許容される塩を提供する。配列番号4、配列番号6、配列番号11,配列番号14および配列番号17で示されるペプチドは、in vitroおよびin vivoの双方でTGF−β1の生物活性の阻害能を示し;配列番号2で示されるペプチドは、in vivoにおいてのみTGF−β1の生物活性の阻害活性を示し;配列番号3および配列番号18で示されるペプチドは、in vitroにおいてのみTGF−β1の生物活性の阻害活性を示す。配列番号33および配列番号34で示されるペプチドは、in vitroにおいてTGF−β1の生物活性の阻害活性を示す。
【0024】
まず、TGF−β1に対して結合能を有するペプチドを同定するために、TGF−β1に対して親和性の高いペプチドを判定し、次に、TGF−β1の生物活性を阻害するそれらの能力をin vitroまたはin vivoで定量することを可能とするファージディスプレーペプチドライブラリーを含む技術を用いた。in vitroまたはin vivoにおいてTGF−β1の生物活性を阻害する、TGF−β1と結合する前記ペプチドの配列は、種々の「バイオパンニング」サイクル(一般には3回)の後に対応するDNA配列から推定することができる。特定の産物の阻害剤を同定するためのファージディスプレーペプチドライブラリーの使用は、例えば、Chirinos-Rojas C.L, et al,, in Immunology, 1999, Jan. 96(1): 109-113; McConnell S.J., et al,, in Gene 1994, Dec. 30, 151 (1-2): 115-118;またはSmith G.P., Science, 1985, Jun. 14, 228 (4705): 1315-1317により記載されている。
【0025】
よって、本発明は、TGF−β1に結合し得るペプチドを同定するための方法を提供し、その方法は、
(i)各ゲノムが、ファージエンベロープタンパク質をコードする遺伝子に連結されている異なるペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む(これにより、各ファージはファージエンベロープのタンパク質と遺伝的に融合された異なるペプチドを含む)、複数の糸状ファージを含んでなるファージディスプレーペプチドライブラリーを用いること;
(ii)親和性アッセイによって、TGF−β1と高い親和性で結合するペプチドを含むファージを選択すること;および
(iii)工程(ii)で選択されたファージに挿入され、TGF−β1と結合するペプチドをコードする対応するDNA配列に基づき、TGF−β1に結合するペプチドの配列を決定すること
を含む。
【0026】
特定の実施形態では、TGF−β1と高い親和性で結合することができ、記載のサイトカインの生物活性に対して結果的に阻害活性も有する15−aaペプチドを得るために、各々が、ファージエンベロープのタンパク質と遺伝的に融合した、この場合、エンベロープタンパク質PIIIのN末端と結合した、異なる15−aaペプチドを含む、複数の糸状バクテリオファージ(M13)を含んでなるファージディスプレーペプチドライブラリーを用いた。このようにすれば、ファージは、5つの表面タンパク質分子の各々において、表面に15−aaペプチドを提示するとともに、記載のペプチド配列をコードするDNAはそのファージ内に含まれる。このようなファージライブラリーでは、前記ペプチドをコードする配列は、15の位置の各々において20種類の天然アミノ酸によって縮重した配列に起源することから、異なるファージにおいて15のアミノ酸には1.1×1012通りの配列の提示が可能となる。バクテリオファージ内のペプチド配列とそれをコードするDNAの間の物理的比は1:1なので、TGF−β1と特異的に結合する配列の選択(広範な変異体の中から)を可能となる。このプロセスは親和性アッセイを介して行われる。
【0027】
特定の実施形態では、記載の親和性アッセイは、「バイオパンニング」として知られるin vitro選択プロトコールからなる。要するに、この技術は、ストレプトアビジンでブロックし、ビオチニル化TGF−β1を付加したプレート内で15−aaペプチド(この場合)の総ての変異体の実施に関して代表的なファージセットをインキュベーションすることを含む。従って、このビオチニル化TGF−β1はビオチン−ストレプトアビジン結合を介してプレートに固定されているので、TGF−β1とファージが保持しているペプチドの間のその相互作用に関して正確に提示される。インキュベーションの後、結合しなかったファージは洗浄によって除去され、次に、特異的に結合したファージは、TGF−β1とファージによって提示されるペプチドの間の分子相互作用を破る手段としてpHを下げることにより特異的に溶出される。次に、溶出したファージを細菌株における感染を介して増幅させる。この手順を3回繰り返し、TGF−β1と高い親和性で特異的に結合するファージの含量の富化を達成する。プレートのブロックに用いるビオチニル化TGF−β1の濃度は回を追うごとに、例えば2.5〜0.01、最終的には0.001μg/mlと、徐々に低くする。このように、プロセスの終了時には、TGF−β1に対するそれらの親和性によって選択されたファージを、プライマーを用いて配列決定する。これにより、これらのファージによって提示されるペプチドの配列を得ることができる。
【0028】
実施例1は、ファージライブラリー、「バイオパンニング」選択、およびTGF−β1と高い親和性で結合するペプチドの配列決定による、TGF−β1と結合するペプチドの選択を示している。
【0029】
本発明はまた、TGF−β1と結合し得るペプチドの末端切断を含んでなるTGF−β1と結合し得るペプチドを同定し、その後、これらの末端切断型ペプチドの、TGF−β1と結合する能力を試験するための方法も提供する。これら末端切断型ペプチドは、例えば、N末端またはC末端において末端切断されたペプチド型の化学合成(サイズの点で)のようないずれかの常法によって得ることができる。これらの末端切断型ペプチドの、TGF−β1と結合する能力は、例えば、TGF−β1を試験ペプチドと接触するよう、記載のペプチドとTGF−β1の結合を可能とする条件下に置くこと、および上記のようにそのペプチドとTGF−β1との結合を評価することを含む親和性アッセイなど、2分子間の結合を特徴付けるいずれかの適当な方法を用いて判定することができる。同様に、これらの末端切断型ペプチドの、in vitroおよび/またはin vivoにおいてTGF−β1の生物活性を阻害する能力を、本明細書に記載の方法のいずれかによって試験することができる。
【0030】
多くの生体プロセスにおいてTGF−β1によって果たされる役割のために、本発明のペプチドのTGF−β1阻害活性の結果は、過剰な、または調節されないTGF−β1発現に関連する疾病および病的変化の処置のための薬物系の開発の可能性を持つものでなければならず、それはこのようなペプチドがこのサイトカインの過剰な、または調節されない発現によって誘導される傷害を遮断できるからである。
【0031】
従って、本発明のペプチドは、(i)器官または組織の機能欠損に関連する繊維症、例えば、肺繊維症、肝臓繊維症(硬変)、腎臓繊維症、角膜繊維症など、および(ii)外科術合併症および/またはエステティック合併症、例えば、皮膚および腹膜外科術に関連する繊維症、火傷に関連する繊維症、骨関節繊維症またはケロイドなど、過剰な、または調節されないTGF−β発現に関連する疾病または病的変化の処置に使用できる。
【0032】
よって、もう1つの態様において、本発明は、治療上有効な量の本発明のペプチドを、少なくとも一種の医薬上許容される賦形剤とともに含んでなる医薬組成物に関する。本発明によって提供される医薬組成物は、本発明の一種委譲のペプチドを、所望により一種以上の別のTGF−β1阻害化合物と組み合わせて含み得る。この医薬組成物は、ヒトまたは動物身体(好ましくは、前者)に投与および/または適用するのに有利である。
【0033】
抗体またはアンチセンスオリゴヌクレオチド配列の代わりに本発明のもののようなペプチドを用いると、これらは分散能がより高く、半減期がより短い小分子であるので、多くの利点が得られる。これらのペプチドはTGF−β1に対して高い親和性を示し得るが、抗体よりも速く分解し、やはり、用量により副作用が制御できる。標的器官および組織へのペプチドの送達もまた、他種の化合物と比較が容易である。
【0034】
本発明のペプチドは、本発明のペプチドを、ヒトまたは動物身体内のその作用部位または標的と接触するように置く任意の手段によって、過剰な、または調節されないTGF−β1発現に関連する疾病および病的変化を処置するために投与できる。本発明により提供される医薬組成物中に存在し得るペプチド、誘導体または医薬上許容される塩の量は考慮可能な範囲で可変である。
【0035】
本発明のペプチドおよび/または医薬組成物を用いて、過剰な、または調節されないTGF−β1発現に関連する疾病または病的変化を処置するために指示される用量は、患者の齢、状態、背景にある疾病または病的変化の重篤後、および含まれる本発明のペプチドの投与経路および投与頻度をはじめとする多くの要因によって異なる。
【0036】
本発明のペプチドを含有する医薬組成物は、例えば固体または液体など、いずれの投与形態で処方してもよく、例えば、経口、非経口、直腸、または局所など、適当ないずれの経路によって投与してもよい。本作用のためには、例えば、軟膏(リポゲル、ヒドロゲルなど)、点眼薬、噴霧エアゾール、注射溶液、浸透圧ポンプ系など、所望の投与形の処方に必要な許容される医薬賦形剤を含まなければならない。この作用に必要な種々の薬物投与形および賦形剤に関する総説は、例えば、"Tratado de Farmacia Galenica”, C Fauli Trillo, 1993, Luzan 5, S.A. Ediciones, Madridに見出せる。
【0037】
記載の医薬組成物の製造における本発明のペプチドの使用は、本発明のさらなる態様をなす。よって、もう1つの態様において、本発明は、器官または組織の機能欠損に関連する繊維症、例えば、肺繊維症、肝臓繊維症(硬変)、腎臓繊維症、角膜繊維症など、および外科術合併症および/またはエステティック合併症、例えば、皮膚および腹膜外科術に関連する繊維症、火傷に関連する繊維症、骨関節繊維症またはケロイドなどのような、過剰な、または調節されないTGF−β1発現に関連する疾病または病的変化の処置のための医薬組成物の製造における本発明のペプチドの使用に関する。
【0038】
本発明のペプチドは、例えば固相化学合成によるなどの常法により得、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で精製し、所望により、例えば、配列決定法および質量分析、アミノ酸分析、核磁気共鳴法などのような常法により分析することができる。
【0039】
あるいは、本発明のペプチドは、組換えDNA技術によって得ることができる。よって、もう1つの態様では、本発明では、本発明のペプチドをコードするDNA配列が得られる。このDNA配列はそのペプチドのアミノ酸配列から容易に推定することができる。
【0040】
このDNA配列はDNA構築物が含み得るものである。よって、本発明では、本発明のペプチドをコードするDNAの配列を含んでなるDNA構築物が得られる。このDNA構築物は、本発明のペプチドをコードするDNA配列の発現のための調節配列を作動可能なように組み込むことができる。制御配列は、本発明のペプチドの転写、および適用可能であれば翻訳を制御および調節する配列であり、それらは、記載のDNA配列またはDNA構築物を含んでなる形質転換宿主細胞内で機能するプロモーターおよびターミネーター配列などを含む。特定の実施形態では、この制御発現配列は細菌内で機能する。有利には、このDNA構築物はまた、DNA構築物の手段により形質転換宿主細胞の選択を可能とするモチーフまたは表現型をコードするマーカーまたは遺伝子も含んでなる。本発明により提供されるDNA構築物は、当技術分野の現状で周知の方法により得ることができる[Sambrook et al., “Molecular loning, a Laboratory Manual”, 2nd ed,, Cold Spring Harbor Laboratory Press, N,Y,, 1989 Vol. 1-3]。
【0041】
本発明により提供されるDNA配列またはDNA構築物は、適当なベクターに挿入することができる。よって、もう1つの態様において、本発明は、記載のDNA配列またはDNA構築物を含んでなる、発現ベクターなどのベクターに関する。ベクターの選択肢は、次にそれが挿入される宿主細胞によって異なる。一例として、DNA配列が挿入されるベクターは、細胞に挿入された際にその細胞のゲノムに組み込まれても組み込まれなくてもよいが、プラスミドまたはベクターであり得る。ベクターは当業者に公知の常法により得ることができる[Sambrok et al., 1989, 前掲]。
【0042】
もう1つの態様において、本発明は、本発明により提供されるDNA配列またはDNA 構築物を含んでなる形質転換宿主細胞のような宿主細胞に関する。
【0043】
もう1つの態様において、本発明は、本発明のペプチドを生産する方法に関し、その方法は、宿主細胞を本発明により提供されるDNA配列またはDNA構築物とともに、記載の本発明のペプチドの生産を可能とする条件下で増殖させること、所望により、本発明のペプチドを回収することを含む。宿主細胞の培養を至適化するための条件は用いる宿主細胞の種類によって異なる。所望により、本発明のペプチドを生産するための方法は、ペプチドの単離および精製を含む。
【0044】
もう1つの態様において、本発明は、過剰な、または調節されないTGF−β1発現に関連する疾病および病的変化の遺伝子療法による処置のためのベクターおよび細胞の製造における、これらのDNA配列およびDNA構築物の使用に関する。本発明の本態様によれば、これらのDNA配列またはDNA構築物を遺伝子導入ベクター(例えば、ウイルスベクターまたは非ウイルスベクター)と接触するように置く。本発明の本態様を実施するための適当なウイルスベクターとしては、限定されるものではないが、以下のベクター:アデノウイルス由来ベクター、アデノ随伴ウイルス由来ベクター、レトロウイルス由来ベクター、レンチウイルス由来ベクター、アルファーウイルス由来ベクター、ヘルペスウイルス由来ベクター、コロナウイルス由来ベクターなどが挙げられる。本発明の本態様を実施するための適当な非ウイルスベクターとしては、限定されるものではないが、裸のDNA、リポソーム、ポリアミン、デンドリマー、陽イオングリコポリマー、リポソーム−ポリカチオン複合体、タンパク質、受容体媒介遺伝子導入系などが挙げられる。
以下、実施例により本発明を説明するが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0045】
実施例1
ファージディスプレーペプチドライブラリーを用いた、TGF−β1と結合するペプチドの選択
TGF−β1に高い親和性で結合し、かつ、このサイトカインの生物活性に可能性のある阻害活性を付与し得る15アミノ酸の配列を得るため、ファージディスプレーペプチドライブラリーから開発された技術に基づき、in vitro選択技術を用いた。これらのライブラリーは複数の糸状バクテリオファージ(M13)を含んでなり、その各々はウイルスエンベロープのタンパク質と遺伝的に融合した、この場合には、エンベロープタンパク質pIIIのN末端と結合したペプチドを含む(図1)。このようにすれば、ファージは、5コピーの表面タンパク質pIIIの各々の表面において15−aaペプチドを提示するとともに、そのペプチドをコードするDNA配列はそのファージ内に含まれる。このようなファージライブラリーでは、そのペプチドをコードする配列は、15の位置の各々において20種類の天然アミノ酸によって縮重した配列に起源することから、異なるファージにおいて15のアミノ酸には1.1×1012通りの配列の提示が可能となる。バクテリオファージ内のペプチド配列とそれをコードするDNAの間の物理的比は1:1なので、TGF−β1と特異的に結合する配列の選択(広範な変異体の中から)を可能となる。このプロセスは「バイオパンニング」として知られるin vitro選択プロトコールを介して行われる。
【0046】
この実施例に用いたファージディスプレーライブラリーは、T. Nishi, H. Tsuri and H. Saya [Exp, Med. (Japan) 11, 1759 (1993)]が記載し、George P. Smith.の研究室が供給した一次ライブラリーに2回目の増幅を行ったものに起源する。この技術に関してさらに詳しくは、以下のウェブサイトで見出せる:http://www.biosci.missouri.edu/smithgb/PhageDisplayWebsite/PhageDisplayWebsiteln dex.html。
【0047】
選択技術「バイオパンニング」
この技術は、ストレプトアビジン(0.1M NaHCO中10μg/ml、室温で2時間)でブロックし、ビオチニル化TGF−β1を付加したプレート内で15−aa変異体の総てに(実施上)代表的なファージセットをインキュベーションすることを含む。このビオチニル化TGF−β1はビオチン−ストレプトアビジンの相互作用を介してプレートに固定されていることから、ファージが保持しているペプチドとのその相互作用に関して正確な提示を維持している。TGF−β1は、ファージが保持しているペプチドと3×10ウイルス/mlの濃度で接触させる。約12時間のインキュベーション後、結合しなかったファージをPBS/Tween(リン酸緩衝生理食塩水/ソルビタン脂肪酸エステルのポリオキシアルキレン誘導体)で5回洗浄することで除去する。次に、結合したファージを、TGF−β1とファージによって提示されるペプチドの間の相互作用を破るpH低下(溶出バッファー)により溶出させる。次に、溶出したファージを細菌株(大腸菌)における感染により増幅させる。このプロセスを3回繰り返し、TGF−β1と高い親和性で特異的に結合するファージの含量の富化を達成する。プレートのブロックに用いるビオチニル化TGF−β1の濃度は回を追うごとに、例えば2.5〜0.01μg/ml、最終的には0.001μg/mlと、徐々に低くする。よって、各サイクルで選択されたファージはTGF−β1に対する親和性がますます高くなる。プロセスの終了時には、TGF−β1に対するそれらの親和性によって選択されたファージは、大腸菌細胞に感染させた後、遺伝的に改変されたファージのテトラサイクリン耐性によって単離した後、プライマーを用いて配列決定する。これにより、単離されたコロニーから得られたいくつかのクローンのファージにおいて提示されるペプチド配列を得ることができる。配列決定した全コロニーからの、各クローンが保持している15アミノ酸ペプチドに相当する配列の繰り返し回数は、TGF−β1に対する15アミノ酸配列の相対的な親和性程度の指標となる。
【0048】
ペプチドの配列
「バイオパンニング」から得られたクローンの選択は、細菌性抗生物質の存在下で、ファージに感染させた細菌のコロニーを選択することで行った。なお、この細菌の耐性は、ファージゲノムによってコードされているテトラサイクリン耐性遺伝子によって獲得されたものである。従って、バクテリオファージに感染したコロニーだけが増殖できる。これは、各コロニーが、その表面に提示されている1つのペプチドだけをコードする1つのファージだけのゲノムを含んでいることを意味する。
【0049】
「バイオパンニング」の最後の選択サイクルから総数108のファージ感染細菌コロニーが得られた。pIIIタンパク質中に存在する、ペプチドコード領域の配列決定は、配列番号23で示されるプライマーを用いて行った。これにより、表1に示すように、種々のペプチド配列が得られた。この表はまた、該配列を有するコロニー(クローン)の数も示している。
【0050】
【表1】

【0051】
各配列のクローン(コロニー)数は、TGF−β1に対するペプチドの親和性程度のおよその指標となり、すなわち、コロニー数が多いほど、結合親和性が高い。しかしながら、この親和性程度はTGF−β1の生物活性を遮断するペプチドの能力とは相関しない。実際、配列番号17で示される最も活性の高いペプチド(表2および3参照)は、3クローンと示されているが、配列番号3で示されるペプチドは41クローンとして示され、急性肝傷害アッセイでは活性がかなり低い(表3)。特定の理論に固執するものではないが、この所見は、最も活性の高いペプチドがおそらくTGF−β1のその受容体への結合を遮断するであろうという仮説により説明することができよう。
【0052】
ペプチド配列の比較
得られた配列を、CLUSTAL Wプログラム(1.81)を用いて分析した。このプログラムは、アミノ酸配列の類似性に基づき、複数の配列のグループ分けを行う。その結果、ペプチドは、ペプチドの配列類似性に基づいて種々の構造系列に分類される(図4)。これらの類似性に基づけば、異なるTGF−β1領域と結合するTGF−β1結合モチーフまたはペプチド群として提案される数が少なくなり得る。
【0053】
実施例2
Mv−1−Lu細胞増殖アッセイにおける、ペプチドを用いin vitro TGF−β1生物活性の阻害
細胞系統Mv−1−Lu(CCL−64, American Type Cell Culture, Virginia, USA)はミンク肺上皮に由来するものであり、これを単層として増殖させ、その増殖の低下によりTGF−β1の存在に応答する(図5)。よって、ペプチドにより媒介されるこのサイトカインの阻害は細胞増殖を回復させることができ、in vitroにおいてTGF−β1の生物活性を阻害する種々のペプチドの能力を反映する。供試ペプチドは、常法(Merrifield RB. J Am Chem Soc 1963; 85:2149-2154; Atherton E et al. J Chem Soc Perkin Trans 1981; 1:538-546)に従ってペプチド合成によって得たものである。
【0054】
このMv−1−Lu細胞を、37℃、5%CO下、162cmボトル(Costar Corporation, CA, USA)にて、完全培地[L−グルタミン、ピルビン酸ナトリウム、抗生物質および10%ウシ胎児血清(FBS)を添加したRPMI−1640]中で密集するまで培養した。トリプシン処理の後、これらの細胞を、37℃、5%CO下、96穴プレートにて200μlの完全培地中、初期密度5,000細胞/穴で、接着を確保するために6時間培養する。次に、種々の濃度の供試ペプチドを加え、最初は200μg/ml、その後、200pg/mlのTGF−β1(Roche)を加える。12時間のインキュベーション後、25μlの新鮮培地(RPMI−1640)中、各穴、1μCiのメチル−H−チミジン(Amersham Life Science, Buckinghamshire, United Kingdom)を加える。このプレートを12時間、同じ条件下でインキュベートする。最後に、細胞を採集し(Filtermate 196 Harvester, Packard)、DNA合成コースに組み込まれているトリチウム標識チミジンをプレート(UniFilter-96 GF/C(登録商標), Perkin Elmer)に移す。シンチレーション液を添加した後、シンチレーションカウンター(Top Count, Microplate Scintillation Counter, Packard)を用いて放射能を測定した。陽性および陰性対照として、それぞれTGF−β1の不在および存在下、トリチウム化チミジンを組み込んだものを用いた。この試験におけるTGF−β1活性の阻害は下式に基づいて算出した。
阻害率(%)=100×(ペプチドを含む場合のcpm−陰性対照のcpm)/
(陽性対照のcpm−陰性対照のcpm)
【0055】
陰性対照は、TGF−β1の存在下、ペプチドの不在下でのトリチウム標識チミジンの組み込みに相当し、陽性対照はTGF−β1およびペプチドの不在下でのトリチウム標識チミジンの組み込みをさす。よって、Mv−1−Lu細胞系統の増殖に対するサイトカインレプレッサーの作用を復帰させるペプチドの能力に応じて、それらのペプチドによるTGF−β1生物活性阻害のパーセンテージが測定できる(表2)。
【0056】
【表2】

【0057】
配列番号3、11、17および18で示されるペプチドは、in vitroにおいてTGF−β1の生物活性を、20%を上回る阻害率で阻害する。
【0058】
さらに、これまでに記載したようなMv−1−Lu細胞系統増殖に対するTGF−β1のサプレッサー作用を復帰させるペプチドの能力を評価するために、スペイン特許出願ES2146552A1のP144で示されるペプチドの活性を、配列番号17で示されるペプチドの活性と比較した。配列番号17で示されるペプチドは能力の向上を示した。
【0059】
実施例3
CClによって誘導される急性肝傷害モデルを用いた、ペプチドによるTGF−β1生物活性のin vivo阻害
急性肝傷害は、TGF−β1濃度の上昇を含む一連の作用および生理反応を生じる。この上昇はとりわけI型コラーゲン遺伝子の発現を担う。この急性肝傷害モデルでは、体重25〜30gの雌Balb/Cマウスに用量2μlのCCl(体重1g当たり)を同量のコーン油に溶解したもの(容量比1:1)を経口投与した。対照群には同量のコーン油だけを与え、処理群には(コーン油中CClを1回経口投与した後)24時間ごとにDMSO(ジメチルスルホキシド)中1%の生理食塩水500μl中、50μgのペプチドを与えた。72時間後、総ての動物を犠牲にし、肝臓サンプルを処理した。mRNAの発現を評価するため、肝臓組織を液体窒素中で凍結させ、さらなる使用まで−80℃で保存した。他の肝臓組織サンプルはOCT(登録商標)またはTissue−Tek(登録商標)(Sakura Finetek B.V.)中で保存し、mRNA研究に用いるサンプルとして同様に処理した。他の肝臓サンプルは10%緩衝ホルマリン溶液で固定し、パラフィンに包埋し、それらの組織学的評価のために処理した。総ての群において、I型コラーゲンをコードするmRNAの量を、定量的ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を用いて定量した。図6は誘導、サンプルの取得、および急性肝傷害アッセイの定量結果のフローチャートを示す。誘導されたI型コラーゲンmRNAのレベルを測定することにより評価した、急性傷害を遮断する供試ペプチドの能力をリアルタイムPCRにより定量した。表3は、ファージにより誘導されたペプチドによるI型コラーゲンmRNAの発現の阻害程度を示す。供試ペプチドは、通常の固相ペプチド合成法により得られたものである(Merrifield RB. J Am Chem Soc 1963; 85:2149-2154; Atherton E et al. J Chem Soc Perkin Trans 1981; 1:538-546)。
【0060】
【表3】

【0061】
配列番号2、4、6、11、14および17で示されるペプチドは、in vivoにおいてTGF−β1の生物活性を、35%を上回る阻害率で阻害する。
【0062】
さらに、これまでに記載したようなマウスにおける急性肝傷害モデルにおける、I型コラーゲンmRNA誘導を阻害するペプチドの能力を評価するために、スペイン特許出願ES2146552A1のP144で示されるペプチドの活性を、配列番号17で示されるペプチドの活性と比較した。この比較アッセイで、配列番号17で示されるペプチドは、I型コラーゲンmRNAの発現を、このアッセイで全く活性を示さないスペイン特許出願ES2146552A1のP144で示されるペプチドよりもずっと高い程度で阻害することが認められた。これらの比較試験によって得られた結果(実施例2および3)は、本発明のペプチドの代表的なペプチド(配列番号17で示されるペプチド)が、Mv−1−Lu細胞を用いた増殖試験および急性肝傷害モデルにおいて、スペイン特許出願ES2146552A1の代表的ペプチド(P144で示されるペプチド)よりも活性が高いことを示す。
【0063】
実施例4
Mv−l−Lu細胞を用いた増殖アッセイにおける配列番号17のペプチド由来の末端切断型ペプチドによるTGF−β1生物活性のin vitro阻害
本実施例は、そのアミノ酸配列が、本発明のアミノ酸配列の1つの3〜15の間の連続するアミノ酸残基を含んでなる、いくつかのペプチドの阻害活性を示す。
【0064】
Mv−1−Lu細胞系統の増殖に対するTGF−β1のサプレッサー作用を復帰させる能力に関して、末端切断型(配列番号17のペプチド配列に由来)と完全配列との活性の比較を行った。この作用のため、また、in vitroにおいてTGF−β1の生物活性を阻害し得る配列番号17のペプチドの最小配列を決定するため、このペプチドの末端切断型(N末端切断、C末端切断、および両末端切断を含む)を合成した。供試ペプチドは常法(Merrifield RB. J Am Chem Soc 1963; 85:2149-2154; Atherton E et al. J Chem Soc Perkin Trans 1981; 1:538-546)に従ったペプチド合成により得られたものである。実施例2に記載したものと同じ方法論に従い、Mv−1−Lu細胞系統の増殖アッセイに関して、配列番号17の末端切断型ペプチドと完全配列の活性を定量した。
【0065】
【表4】

【0066】
表4で示されるように、この比較アッセイでは、N末端からリシン(K)を除去すると、配列番号17のペプチドの活性が28.5%から9.4%まで低下する。これに対し、C末端から最大3個のアミノ酸を除去しても、ペプチドの活性は影響を受けない。また、芳香族アミノ酸チロシン(Y)およびトリプトファン(W)を除去すると、ペプチドの活性がなくなる。これにより、配列番号17の元のペプチドを、そのTGF−β1 in vitro 阻害活性に影響を及ぼさない12アミノ酸配列(KRIWFIPRSSWY)[配列番号34]まで減らすことができる。
【0067】
要約
記載のペプチドはトランスフォーミング増殖因子TGF−β1(TGF−β1)と結合する能力を有し、このサイトカインとの直接的結合を介したTGF−β1の生物活性の強力な阻害剤である。これらのペプチドは、過剰な、または調節されないTGF−β1発現に基づく疾病または病的変化の処置に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】糸状バクテリオファージM13の表面における、タンパク質pIIIと遺伝的に融合した15−アミノ酸(aa)ペプチドの位置を示す。
【図2】バクテリオファージM13のゲノムにおける、15−aaペプチドをコードする挿入配列の遺伝子の位置、およびタンパク質pIIIの配列におけるペプチドの位置を示す。
【図3】「バイオパンニング」技術に基づくペプチドの選択を模式的に示す。ビオチニル化TGF−β1がストレプトアビジンを含有するプレートに固定されている(ビオチン−ストレプトアビジン結合による)。そのライブラリーに由来するファージを、TGF−β1と、それらのファージにより提示されるペプチドとの相互作用に基づいて選択する。TGF−β1に対して親和性の低いファージを洗浄により排除する。プレートに保持されているファージはpHを下げることにより溶出する。TGF−β1に対して親和性の高いファージの富化を3回行った後、ファージを単離し、配列決定する(実施例1参照)[図3の凡例:「a」:15−aaペプチドを提示するファージのライブラリー;「b」:大腸菌(E. coli)(K91Kan)における感染(増幅);「c」:ファージの精製;「d」:TGF−β1の濃度を低下させつつインキュベーション;「e」:洗浄;「f」:結合したファージの溶出(↓pH);「g」:大腸菌株における感染;「h」:感染したコロニーの選択(テトラサイクリン);「i」:選択したファージの増幅;および「j」:3回の「バイオパンニング」の後、DNA(ペプチドに対応する)の配列決定]。
【図4】ファージディスプレーペプチドライブラリーの手段により同定された15−aaペプチドの配列類似樹を示す。
【図5】トリチウム化チミジンの取り込みとしてcounts per minute(c.p.m.)で表した、Mv−1−Lu細胞系統の増殖におけるTGF−β1濃度の作用を図示したものである。
【図6】急性肝傷害誘導プロトコールを図示したものである(実施例3参照)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列が配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19、配列番号20、配列番号21および配列番号22からなる群から選択されるトランスフォーミング増殖因子β1(TGF−β1)と結合するその能力により特徴付けられるペプチド、または3〜15個の間の連続するアミノ酸を含んでなる前記ペプチドの断片、ならびにそれらの医薬上許容される塩。
【請求項2】
配列番号24、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33、配列番号34、配列番号35および配列番号36で示されるペプチド、ならびにそれらの医薬上許容される塩の群から選択される、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
in vitroおよび/またはin vivoにおいてTGF−β1の生物活性を阻害する能力を有する、請求項1または2のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項4】
配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号6、配列番号11、配列番号14、配列番号17、配列番号18、配列番号33、配列番号34で示されるペプチド、およびそれらの医薬上許容される塩からなる群から選択される、請求項3に記載のペプチド。
【請求項5】
治療上有効な量の請求項1〜4のいずれか一項に記載のペプチドを、少なくとも一種の医薬上許容される賦形剤とともに含んでなる、医薬組成物。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の少なくとも一種のペプチドを、場合により一種以上の別のTGF−β1阻害化合物とともに含んでなる、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
過剰な、または調節されないTGF−β1発現に関連する疾病または病的変化の処置のための医薬組成物の製造における、請求項1〜4のいずれか一項に記載のペプチドの使用。
【請求項8】
過剰な、または調節されないTGF−β1発現に関連する疾病または病的変化が器官または組織の機能欠損、ならびに外科術合併症および/またはエステティック合併症に関連する繊維症を含んでなる、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
過剰な、または調節されないTGF−β1発現に関連する疾病または病的変化が肺繊維症、肝臓繊維症(硬変)、腎臓繊維症、角膜繊維症、皮膚および腹膜外科術に関連する繊維症、火傷に関連する繊維症、骨関節繊維症またはケロイドを含んでなる、請求項7または8に記載の使用。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のペプチドをコードするDNA配列。
【請求項11】
請求項10に記載のDNA配列を含んでなるDNA構築物。
【請求項12】
前記DNA配列の発現を調節する、作動可能なように連結された配列をさらに含んでなる、請求項11に記載のDNA構築物。
【請求項13】
請求項10に記載のDNA配列、または請求項11もしくは12のいずれか一項に記載のDNA構築物を含んでなるベクター。
【請求項14】
請求項10に記載のDNA配列、または請求項11もしくは12のいずれか一項に記載のDNA構築物、または請求項13に記載のベクターを含んでなる、宿主細胞。
【請求項15】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のペプチドを生産する方法であって、前記ペプチドの生産を可能とする条件下で請求項14に記載の宿主細胞を増殖させること、および所望により前記ペプチドを回収することを含む、方法。
【請求項16】
過剰な、または調節されないTGF−β1発現に関連する疾病または病的変化の遺伝子療法による処置のためのベクターおよび細胞の製造における、請求項10に記載のDNA配列の、または請求項11もしくは12のいずれか一項に記載のDNA構築物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−525204(P2007−525204A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−524375(P2006−524375)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【国際出願番号】PCT/ES2004/000320
【国際公開番号】WO2005/019244
【国際公開日】平成17年3月3日(2005.3.3)
【出願人】(506061716)プロイェクト、デ、ビオメディシナ、シーマ、ソシエダッド、リミターダ (34)
【氏名又は名称原語表記】PROYECTO DE BIOMEDICINA CIMA, S.L.
【Fターム(参考)】