説明

トランス測定法、評価設備、これを用いたトランス

【課題】
精度良くトランスの損失を測定するために、トランスの1次側巻線、2次側巻線に同時に電流を流して、1次巻線と2次巻線を含む合計の損失を簡便・迅速に測定したいという課題があった。従来では、トランスに加工が必要など、作業が多大で時間がかかった。
【解決手段】
トランスの2次側端子を短絡し、1次側から損失抵抗成分を測定することにより、1次巻線と2次巻線を含む合計の損失が測定可能となる。表皮効果や近接効果を実現した実条件で、簡便・迅速なので、評価設備や検査設備としても使え、カタログや仕様書に記載すれば、正確で簡便に比較可能なトランスが実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランス、特にスイッチング電源用のトランスに関する。
【背景技術】
【0002】
電子装置にはトランスが用いられることが多い。特に、スイッチング電源には高い周波数で動作するトランスが使用されることが多い。近年の電子回路の低電圧化・大電流化に対応するスイッチング電源では、その大電流のためにトランスの発熱が問題になる場合がある。ここで発熱の小さい良質なトランスを作成または選定したい場合がある。発熱は損失とも呼ばれ、トランスの損失を効果的に評価したい場合が生じる。ところが、トランスの発熱のメカニズムは複雑で、巻線損失は、表皮効果や近接効果が複雑に作用するので、発熱量あるいは巻線損失を求めるための種々の技術が考案されている。
【0003】
従来の技術の第1の例は、"New Measurement Methods to Characterize Transformer Core Loss and Copper Loss In High Frequency Switching Mode Power Supplies." に記載されており、トランスに補助巻線を追加して、実際の使用条件と同様な大電力のパルス波形をトランスに与えて、電圧と電流波形を測定し、損失を算出する方法である。この方法は、トランスの損失を正確に計ることができるが、トランスに加工が必要で時間がかかり、製品検査には適用できず、設備が大がかりであり、また計算処理が複雑であるという課題がある。
【0004】
従来の技術の第2の例は、"Electrical Terminal Representation of Conductor Loss in Transformers" に記載されており、入力端子と出力の端子からそれぞれインピーダンスを測定して、任意の周波数で、損失となる抵抗成分を測定する方法である。この方法は、測定は簡便で迅速に実施できるので便利である。
【0005】
図5に従来の技術の実施例を示す。トランス1が被測定対象で、1次巻線の端子11に、測定機2を接続している。この測定機2にはLCRメータなどを用いて、信号を与えて、損失抵抗を測定する。このとき2次巻線の端子12は何も接続せず、開放にしておく。こうして、1次巻線の損失抵抗を測定することができる。2次巻線とを入れ替えて同様の測定を行えば、2次巻線の損失抵抗を測定することができる。
【0006】
この方法は簡便で迅速に実施できるので便利であるが、1次側から損失を測るときには1次巻線だけに電流を流し、2次側から損失を測るときには2次巻線だけに電流を流すので、1次巻線と2次巻線の相互作用である近接効果などが排除されて、その分の誤差が生じるという課題がある。
【0007】
【非特許文献1】Y. Han, W. Eberle, Y. Liu, "New Measurement Methods to Characterize Transformer Core Loss and Copper Loss In High Frequency Switching Mode Power Supplies." IEEE Power Electronics Specialists Conference, 2004
【非特許文献2】James H.Spreen, "Electrical Terminal Representation of Conductor Loss in Transformers" IEEE trans. on Power Electronics, Vol.5, No.4, October 1990
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年のトランスの巻線構造は、旧来の線材を使った単純な構造ではなくなってきており、銅板やリング状の板を使うなど、表皮効果や近接効果、1次2次巻線の相互作用などが生じやすい構造になって来ているので、このような場合を含め、トランスの損失を工業的に十分正確に測定したい場合がある。すなわち、1次と2次の巻線に同時に電流を流しながら損失を測定したい場合がある。また、近年の短期開発に対応して、複雑・大がかりな設備を用意したり、トランスに補助巻線を追加するなどの追加加工をすることなしに、簡便に測定したい場合がある。簡便で正確な測定が可能となれば、異種のトランスの比較も簡便・正確になり、良質な電源の設計・生産が可能になり、また、評価や検査なども簡便・正確になる。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、十分正確な損失の測定を、簡便な方法で実現することにある。具体的には、1次と2次の巻線に同時に電流を流しながら行う損失の測定を、簡便な方法で実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1次巻線と2次巻線に同時に電流を流しながら損失を測定するために、2次(または1次)巻線の端子を短絡する手段を用意し、また、1次(または2次)巻線の端子から抵抗成分を測定する手段を用意する。こうすれば、トランスの性質により、1次巻線と2次巻線に同時に電流を流しながらの測定が実現される。その結果、1次巻線と2次巻線、それぞれ単独でなく、合計の損失を測定あるいは評価することが可能となる。また、必要に応じてコア損など他の損失も加味した、1次巻線と2次巻線を含む合計の損失を測定あるいは評価することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、1次巻線と2次巻線を含む合計の損失が測定・評価可能になる、という効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を、実施例を用いて、詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明の第1の実施例である。
【0014】
被測定対象のトランス1の2次巻線の端子12に短絡片3を接続している。1次巻線の端子11に、測定機2を接続し、この測定機2にはLCRメータなどを用いて、信号を与えて、損失抵抗を測定している。測定機2で与えられた信号は、1次巻線に電流を流し、また、2次巻線の端子が短絡されているので、トランスの性質により、2次巻線にも電流が流れる。こうして、1次巻線と2次巻線に同時に電流を流しながらの測定が実現する。従って、1次2次巻線間の近接効果他や容量などの相互作用が加わった状態で測定される。また、測定機2で測定される抵抗成分は、主に1次巻線と2次巻線の合計の損失である。
【0015】
以上のように、本発明の第1の実施例では、1次巻線と2次巻線を含む合計の損失が測定、評価できる。
【0016】
なお、損失は、電力、エネルギー量、抵抗値など、適宜ふさわしい形で表現すれば良い。LCRメータを用いると損失の抵抗値が直接測定できるが、損失の抵抗値は、電圧や電流に依存しない正規化された表現で、損失の便利な表現法のひとつである。
【0017】
また、1次、2次などの巻線の呼称は人為的なものであるから、番号を入れ替えてさしつかえない。2つを越える巻線がある場合も同様である。本発明では、測定器を接続した巻線の端子を1次側、他の巻線の端子を2次側と言う。
【0018】
なお、2つを越える巻線がある場合には、1次巻線以外を全て短絡する、あるいは所望の巻線を短絡するなどの方法を採ればよい。
【0019】
図2は本発明の第2の実施例である。
【0020】
図2で、図1との相違点は、トランス1の1次巻線と2次巻線を入れ替えた測定構成であることである。従って、トランス1の1次巻線の端子11に短絡片3を接続しており、2次巻線の端子12に測定機2を接続している。測定機2で測定される抵抗成分は、主に1次巻線と2次巻線の合計の損失である。測定値は2次巻線換算値となるので、必要であれば、トランスの1次巻線と2次巻線の巻数比を用いて、1次巻線換算値に換算することができる。
【0021】
この構成でも、第1の実施例と同様に、1次巻線と2次巻線を含む合計の損失が測定、評価できる。
【0022】
図1の構成と図2の構成は、トランスの形状や性質により、都合の良い方を選んで測定を行えば良い。
【0023】
なお、トランスのコアの損失を加味したい場合には、図3に示したように、トランス1の2次巻線を開放にし、1次巻線の端子11に信号源4を接続して、所望の信号を印加して、トランスのコアの損失を測ることができる。従って、上記した1次巻線と2次巻線の合計の損失に、コアの損失を加えて、新たに1次巻線と2次巻線の合計の損失と呼んでも良いし、トランスの合計損失、全損失などと呼んでも良い。コアの損失は巻線の損失に比べて小さい場合も多いので、省略して合計損失と呼んで差し支えない場合も多く、また、1次巻線と2次巻線の合計の損失を全損失と呼んでも良い。従って、本発明では、1次巻線と2次巻線の損失を含んでいれば、他の損失を含んでいるか否かにかかわらず、1次巻線と2次巻線を含む合計の損失と言う。
【0024】
また、上記の測定はいずれも任意の周波数で行うことができる。パルス波を入力すれば、任意の波形のパルス波形に対する抵抗あるいは損失を測定することができる。また、パルス波形は基本波成分と高調波成分を有するが、正弦波で損失を測定して、1から3程度の係数を乗ずれば、高調波成分を考慮したこととなって、パルス波に対する損失値を得ることができる。
【0025】
第3の実施例は、本発明になる評価設備であり、前述の本発明になる測定法を用いている。本発明の測定法は、被測定対象のトランスに加工を行わないので、評価設備に適している。評価設備は、検査にも使用でき、検査設備を含むことは明らかである。
【0026】
図4に本発明になる評価設備の構成を示す。トランス1は評価定対象である。評価設備は、測定機2、短絡機構31、脱着機構5、制御・判定機構6から構成されている。短絡機構31はトランス1の2次巻線の端子を短絡するものであり、測定機2は損失を測る。また、脱着機構5は評価対象のトランスを脱着するための機構であり、制御・判定機構6は測定機や脱着機構などを制御したり、評価結果を判定したり、測定値を記録したりするもので、いずれも必要に応じて具備したり除外したり、必要な機能を持たせたりすれば良く、評価設備の一部である。
【0027】
第3の実施例は、本発明の測定法により、1次巻線と2次巻線を含む合計の損失の評価や検査を実施することができる。
【0028】
第4の実施例は、図示しないが、1次巻線と2次巻線を含む合計の損失を明示したトランスである。上記の方法あるいは評価設備で測定した損失値が明示されていると、トランスの性能の比較が可能となる。1次巻線と2次巻線を含む合計の損失を明示する方法には様々な方法があるが、トランス自体に記載する方法、カタログに記載する方法、データシートに記載する方法、試験成績表などに記載する方法、購入仕様書などの各種仕様書に記載する方法、などがある。
【0029】
トランスの1次巻線と2次巻線の合計の損失が明示されていれば、トランスの性能比較が迅速に行えて有益である。特に、カタログやデータシートに明示されていれば机上検討、比較が可能となり、サンプルを入手し、評価する無駄をはぶけ、また、本発明になる測定法は正確なので、実際にスイッチング電源などを組み立ててトランスの損失の評価を行う無駄がはぶける。
【0030】
なお、記載にあたっての呼称は適宜選べば良く、1次巻線と2次巻線を含む合計の損失、1次巻線と2次巻線の合計の損失、合計損失、全損室、交流損失、高周波損失、パルス損失、他、があるが、1次巻線と2次巻線の損失を含んでいれば、1次巻線と2次巻線を含む合計の損失と言う。
【0031】
以上のように、本発明の第4の実施例では、1次巻線と2次巻線を含む合計の損失が簡便に評価できる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明になる測定法は、トランス、特にスイッチング電源用のトランスに広く一般に使用することができる。また、本発明になる評価設備は、トランスの評価や検査に広く一般に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1の実施例の図。
【図2】第2の実施例の図。
【図3】トランスのコアの損失の測定の図。
【図4】第3の実施例の図。
【図5】従来技術の実施例の図。
【符号の説明】
【0034】
1 トランス
11 1次巻線端子
12 2次巻線端子
2 測定機
3 短絡片
31 短絡機構
4 信号源
5 脱着機構
6 制御・判定機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスの損失の測定において、トランスの2次側端子を短絡し、トランスの1次側端子から損失を測定することを特徴とするトランス測定法。
【請求項2】
トランスの評価設備において、トランスの2次側端子を短絡する短絡手段とトランスの1次側端子から損失を測定する測定機を有することを特徴とするトランス評価設備。
【請求項3】
1次巻線と2次巻線を含む合計の損失を明示したことを特徴とするトランス。
【請求項4】
請求項第1項のトランス測定法を用いたことを特徴とするトランス。
【請求項5】
請求項第2項のトランス評価設備を用いたことを特徴とするトランス。
【請求項6】
前記トランスを脱着するための脱着機構を有することを特徴とする請求項2記載のトランス評価設備。
【請求項7】
前記測定機を制御し測定結果を判定する制御・判定機構を有することを特徴とする請求項2記載のトランス評価設備。
【請求項8】
前記損失にはトランスのコアの損失が含まれていることを特徴とする請求項3記載のトランス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−206006(P2007−206006A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27863(P2006−27863)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】